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雑誌目次

雑誌文献

病院82巻11号

2023年11月発行

雑誌目次

特集 医療法人の徹底活用 総論

医療法人制度の目的と変遷

著者: 川原丈貴

ページ範囲:P.948 - P.951

 日本の医療提供体制は民間医療機関が中心となっており,その中でも医療法人の占める割合が大きい.医療法人制度は1950(昭和25)年の創設から70年以上が経過しており,幾時の改正を経ているものの,創設時の医業経営の実態や経営環境は大きく変わっている.
 医療法人が地域・患者のニーズに臨機応変に対応できるようにするためにはどうしたらよいか次稿以降で論じられるに当たり,本稿では医療法人制度の目的とこれまでの変遷を概観する.

第五次医療法改正を振り返って

著者: 山下護

ページ範囲:P.952 - P.955

■はじめに
 筆者は,2004(平成16)年4月から2006(平成18)年夏まで厚生労働省医政局指導課の課長補佐として,第五次医療法改正の医療法人制度改革を担当した.さまざまな方々の支援を得て,持分あり医療法人の見直し,そして,社会医療法人制度の創設に携わった.当時から20年近く経過したことや,社会医療法人制度が始まって15年経った中,今でもよく尋ねられることへの回答を通じて,当時の状況を振り返り,医療法人制度に携わる方々,また,社会医療法人の経営者として地域医療をリードしている皆様へ,医療法人制度改革に込められた思いをお伝えしたい.

医療法人の事業展開

医療法人のあるべき姿とその活用—歴史を振り返り新たな医療法人制度を考える

著者: 伊藤伸一

ページ範囲:P.956 - P.960

■はじめに
 医療法人制度は1950(昭和25)年の改正医療法によって創設され73年間の長い歴史の中でそれぞれの時代に合わせて大きな変貌を遂げてきた.特に医療法人の非営利性に関しては制度の始まりからそれぞれ関係者の思惑に違いがあったため長きにわたり医療法人の税制上の重要課題として議論が繰り返されてきた.この問題は最終的に第5次医療法改正において医療法人は出資持分なしが原則と規定され,一旦の結論を得たが持分を有する医療法人を経過措置型医療法人と位置付けたことで既存の持分あり医療法人の永続性に不安の声が上がりいまだその解決には至っていない.
 その後,1964(昭和39)年に創設された特定医療法人制度や2007(平成19)年の社会医療法人制度は医療機関の公益性を担保とした持分放棄の効果的な解決法であったが,認定要件の厳しさから適応されるものが限定的であったために出資持分の問題はいまだに不透明の状態が続いている.また近年は一般社団法人を母体とする医療機関の設立が増加しており医療法人立の医療機関と運営取り扱いの違いに大きな課題が生じている.医療法人制度が創設された1950年から見ると制度を取り巻く環境があまりに大きく変貌したため改めて制度そのものを見直す時期に来ている.今回は医療法人制度の歴史と税制上の取り扱い,さらには今後のあるべき姿について述べてみる.

医療法人の経営状況

著者: 濵谷真之

ページ範囲:P.961 - P.964

■はじめに
 1950(昭和25)年8月に医療法の一部を改正する法律が施行され,医療法人制度が発足してから73年が経過した.制度発足時の厚生事務次官通知1)には,医療法人制度を創設する趣旨として,次のような記載がされている.
 「本法制定の趣旨は,私人による病院経営の経済的困難を,医療事業の経営主体に対し,法人格取得の途を拓き,資金集積の方途を容易に講ぜしめること等により,緩和せんとするものであること」
 この創設趣旨を厚生労働白書などの記載を基に要約すると,「医業の非営利性を損なうことなく,個人が法人格を取得することを可能とし,資金集めを容易にすることで経済的困難を緩和し,医業の永続性を確保する」ということのようだ.果たして,現下の医療法人の経営状況は,この創設趣旨を踏まえてみた場合,どのように位置づけることができるだろうか.
 本稿では,福祉医療機構(以下,当機構)の貸付先のうち,法人格が医療法人である決算データを用いて,経年比較や設立経過年数別などの視点で経営状況を確認することとしたい.
 なお,文中における見解に関する部分については,個人的所見であり,当機構の組織としての見解ではないことを申し添える.

まちづくりへの参画が求められる医療法人—新たなソーシャルビジネスの担い手へ

著者: 鈴木邦彦

ページ範囲:P.965 - P.971

■超高齢社会における病院の役割
 コロナ禍を経て,当初2025年を目指してわが国が超高齢社会を乗り切る体制を確立するために進められてきた改革は,次の目標である2040年に向けて,地域包括ケアシステムの構築と地域医療構想の実現に,かかりつけ医機能の充実・強化を加えた三位一体の取り組みへとさらなる発展が求められている.
 このうち,病院については,高度急性期と重症急性期の入院医療に特化した高度急性期大病院の計画的整備による集約化(人口50万〜100万人に1カ所)と地域包括ケアを支える地域密着型中小病院の分散化(人口2万〜4万人に1カ所)が2つの軸になると考えている1).筆者は,前者としては医師数200人以上,ICUなど高機能病床10%以上の病院を想定しており,後者としては在宅療養支援病院(以下,在支病)がふさわしいとして,2022年3月に四病院団体協議会の支援を得て「一般社団法人日本在宅療養支援病院連絡協議会(以下,在病協)」を設立した1).2023年7月末で会員数は165である.在病協が2023年3〜4月に行ったアンケート調査によると,在支病の65%は訪問看護ステーションを設置しており,79%が居宅介護支援事業所を併設し,40%が地域包括支援センターを受託していた.また61%が介護予防に取り組んでおり,すでに多くの在支病が医療だけでなく介護も実践していることが明らかになった(図1).

医療法人を巡る諸制度

医療法人で可能な事業

著者: 岸部宏一

ページ範囲:P.972 - P.976

■はじめに
 医療法人に限らず,全ての法人は「法令の規定に従い,定款その他の基本約款で定められた目的の範囲内において,権利を有し,義務を負う.(民法第三十四条)」とされ,医療法人社団では定款,医療法人財団では寄附行為の定める範囲でのみ活動が認められることとなる.またその範囲は「本来業務」「附帯業務」「収益業務(社会医療法人のみ)」「附随業務」のいずれかに分類されることになり,本稿ではその4つの業務につき個々に検証していきたい.
 なお本稿では,医療法人のうち99%以上〔58,005法人中57,643法人/2023(令和5)年3月末日〕1)が社団形式をとっていることから,定款または寄附行為については,一括して定款と表記することにつきご容赦願いたい.

医療法人を巡る許認可の実際と課題

著者: 木村武男

ページ範囲:P.977 - P.980

■許可と認可の違い
 医療法人は,設立時から毎年の運営そして解散時までさまざまな許認可や届出が必要となる.はじめに認可,許可,届出の定義を明確にする.
 認可とは,行政庁が第三者の行為を補充してその法律上の効力を完成させる行政行為をいう.要件を満たしていれば,主務官庁は必ず認めなければならない.

医療法人を巡る税制

著者: 青木惠一

ページ範囲:P.981 - P.985

■法人税の課税所得の範囲と税率
 形態別に医療法人を一覧にすると表1のように整理できる.
 一般の医療法人には,経過措置医療法人・基金拠出型医療法人・一般の持分の定めのない社団法人及び財団法人などが該当するが,これらは,法人税法上,株式会社などと同じ「普通法人」に位置付けられる.医療法人は医療法で配当が禁止されているため非営利法人といわれるが,法人税法では収益性が高いこともあり普通法人とされる.そのため「全所得課税」といって全ての所得(=儲け)が課税対象とされる.法人税率も基本的に株式会社と同様の税率が採られる.出資額限度法人は定款に社員退社の場合の払い戻し額が出資額を限度とする旨書かれている点が特徴であるが,一般の医療法人の一形態であり全所得課税で,かつ,税率も同様である.

認定医療法人の活用

著者: 髙橋雷太

ページ範囲:P.986 - P.989

■はじめに
 1950年に医療法人制度が創設されて70年余りが経過し,その成熟の証として医療法人には多額の剰余金が蓄積されてきているが,その一方で医療法人経営者の平均年齢も年々上昇しており,多くの医療法人が事業承継の時期を迎えている.
 2006年の医療法改正以前に設立された医療法人の多くは出資持分の定めのある経過措置医療法人(いわゆる持分のある医療法人)であり,出資持分の権利である財産権の評価が高くなることで,医療法人の事業の継続性に影響を及ぼす懸念もでてきている.また,医療法の改正により非営利性の徹底された出資持分の定めのない医療法人(いわゆる持分のない医療法人)が原則とされたことで経過措置医療法人への対応も必要となっている.
 このような課題に対応するため,2014年の医療法改正において認定医療法人制度が3年間の時限措置として制定され,数度の延長を経て現在に至っている.
 本稿では医療法人の社員の権利から,認定医療法人制度の概要,活用に当たっての留意点を述べる.

医療法人を巡る規制

医療法人の運営規制について

著者: 石井孝宜

ページ範囲:P.990 - P.996

 誕生から70年以上を経過し,人でいえば古希を超えた医療法人制度は,大きな時代の変化の中でさまざまな視点からその役割・機能について再評価を受けようとしている.
 2023年5月12日に成立した全世代社会保障法案において創設された医療法人の経営情報のデータベース化と開示制度もその一つの表れであると考えられるが,制度改革が常に必ず適正・適切であるかどうかは時代の評価を待つことになる.

医業経営への企業参入—営利企業による医療法人の出資持分取得に伴う懸念事項

著者: 坂口一樹

ページ範囲:P.997 - P.1000

■はじめに
 ここ数年来,日本医師会総合政策研究機構(日医総研)では,民間の中小病院・診療所の事業承継(医業承継)の問題に焦点を当て,継続的に調査研究を進めてきた.背景にあるのは,特に地方における後継者不在の問題である.この問題は,“黒字廃業”という言葉の流布が象徴するように,医療機関のみならず,日本の中小規模の事業者全般に共通している今日的課題1)である注1.特に,医療機関の後継者不在による廃業は,地域医療の持続可能性に直結するという意味において,さらに深刻度が高い課題2)と言える注2.かかる政策課題に対し,これまで関連する統計データを整理したうえで承継をサポートする士業の専門家や仲介業者にインタビューを行い3),医療機関経営者を対象に全国調査を実施し4),医療現場向けに承継実務の手引書の編纂5)などを行ってきた.
 一連の調査研究の過程でしばしば耳にしたのが,「医業承継問題をきっかけにして,株式会社などの営利企業が持分あり医療法人の出資持分を取得し,その経営を実効支配するケースが増えているのではないか」との懸念を示す現場の声であった.ただ,それらはあくまで噂や憶測ベースの情報であり,関連する政府統計や民間の調査データなどがあるわけではない.そこで承継問題のスピンオフ研究として,まずは情報の信ぴょう性の確認と背景事情の探索を目的とし,医業経営支援を生業とする経験豊富な専門家(税理士・公認会計士)複数名を対象にインタビュー調査を実施,日医総研リサーチレポートとして公表した6).本稿では,これらの調査研究から得られた知見をベースに,営利企業が医療法人の出資持分を取得するなどの方法で医業経営に参入しようとしている実情について詳細を述べると共に,医業の非営利性を重視する立場から,医療法人制度への懸念事項について論じてみたい.

対談

医療法人が地域医療を支える

著者: 加納繁照 ,   川原丈貴

ページ範囲:P.933 - P.938

時代に合わせて変貌を遂げてきた医療法人制度.
コロナ禍を経て,地域医療構想や働き方改革が進むいま,医療法人の経営者にはどのようなスタンスが求められるのか.
医療法人制度を活用するための課題と方策について,日本医療法人協会会長である加納繁照氏に聞く.

連載 アーキテクチャー×マネジメント・106

市立秋田総合病院

著者: 須田眞史

ページ範囲:P.940 - P.945

■はじめに
 地域の中核医療機関である市立秋田総合病院が2022年10月1日に新病院として開院した(図1).新病院は公的医療機関として地域で必要とされる医療を継続的に提供しながら,既存敷地内で建て替えられた.しかし,既存敷地は敷地内建て替えには狭く,さらに敷地内には大きな高低差があるため,建て替え計画は簡単なものではなかった.本稿では,既存敷地内建て替えと新病院の建築的特徴について解説していく.

医療機関で起きる法的トラブルへの対処法・31

病院に対するサイバー攻撃とベンダの責任

著者: 増田拓也 ,   黒瀧海詩

ページ範囲:P.1002 - P.1005

■1 病院に対するサイバー攻撃の現状
 近年,病院に対するサイバー攻撃が増加しています.特にランサムウェア★1攻撃の増加が顕著★2であり,2021年10月には徳島県のつるぎ町立半田病院★3が,2022年6月には徳島県の医療法人久仁会鳴門山上病院★4が被害を受けました.2022年10月には,地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪急性期・総合医療センターがランサムウェア攻撃の標的となり,電子カルテに関連する全てのネットワークの遮断と利用停止を行う事態となりました.公表された報告書★5によれば,この事例では,部門システムを含めた全体の診療システム復旧までに73日を要し,調査・復旧費用は数億円,診療制限に伴う逸失利益としては十数億円以上が見込まれています.
 病院がサイバー攻撃を受けた直後には,被害状況の把握,代替運用手段への切換,証拠・証跡の保全,被害拡大の防止,原因の究明,復旧計画の策定,所管官庁への連絡★6,法令に基づく対応(個人情報保護委員会への漏えい等の報告★7など),本連載第16回★8で解説した身代金要求に関する検討など,さまざまな対応が必要となります.しかしながら,これらの対応を適切に行い,システムの完全復旧に至ったとしても,それで解決というわけではありません.病院がサイバー攻撃を受けた場合,甚大な損害が発生することが少なくないところ,この損害を誰が負担するかという問題が残ります.サイバー攻撃による損害は,本来,攻撃を実行した犯人が賠償すべきですが,通常,外国に所在するであろう犯人を特定し,賠償を受けることは困難です★9.そこで,ベンダの責任を検討することになります.

事例と財務から読み解く 地域に根差した中小病院の経営・42

医療法人社団高裕会 深川立川病院—救急と在宅医療で地域を支える

著者: 佐藤夏海

ページ範囲:P.1006 - P.1010

 深川立川病院(以下,同院)は,東京都臨海部の豊洲等の開発によって,近年急激に人口が増加している江東区に位置する.若年層の流入が多い地域ではあるが,高齢者数も着実に増えているエリアだ(図1).
 この地において,同院は救急医療を中心に,在宅医療も担いながら地域医療を支え続けてきた.また,2021年の建て替えに際して地域包括ケア病棟を新設するなど,在宅復帰機能の強化を図っている.地域住民が住み慣れた地域で暮らし続けられるよう,充実した医療の提供に力を注ぐ同院の取り組みを紹介したい.

地域と医療の未来を創る中小病院のあり方・8

コミュニティホスピタルの好事例—総合診療医を軸とした頴田病院の立ち上げと運営

著者: 本田宜久

ページ範囲:P.1012 - P.1015

■はじめに:コミュニティホスピタルの始まり
 頴田病院をコミュニティホスピタルと定義したのは2012年8月20日付の週刊医学界新聞寄稿文1)が初めである.
 「外来での疾病予防からレスパイトを含めた入院診療,退院後の往診まで引き受ける病院機能を構築できたことで,より包括的に,より継続的に医療とケアを提供するcommunity hospitalとしての魅力を,中小病院に創り出すことに成功したのである」1)
 本稿では,頴田病院の立ち上げの経緯,運営の特徴について概要を説明し,コミュニティホスピタルの歩みと未来の一端を説明する.

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目次

ページ範囲:P.946 - P.947

Book Review がん化学療法レジメン管理マニュアル 第4版

著者: 佐藤温

ページ範囲:P.1001 - P.1001

Back Number

ページ範囲:P.1017 - P.1017

次号予告

ページ範囲:P.1020 - P.1020

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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