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文献詳細

雑誌文献

病院82巻12号

2023年12月発行

文献概要

特集 人を活かす病院経営—地域で病院の存在意義を発揮するために 人を活かす組織文化を育てる

Safety-Ⅱ実践のための病院組織のマネジメント

著者: 小松原明哲1

所属機関: 1早稲田大学理工学術院創造理工学部経営システム工学科人間生活工学研究室

ページ範囲:P.1056 - P.1060

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■はじめに
 近年,ヒューマンファクターズ(人間工学)の国際的権威であるHollnagelが提案したSafety-Ⅰ,Safety-Ⅱという二つの安全へのアプローチが注目されてきている.
 Safety-Ⅰ,Safety-Ⅱは表1のように説明されている1).スタンスについていえば,Safety-Ⅰはトラブルや不都合なことが起こらないことを目指すが,Safety-Ⅱでは,より望ましい結果(アウトカム)が得られることを目指す.患者説明であれば,重要事項の伝達をし忘れないことがSafety-Ⅰの目標であるが,より良い納得を得るということがSafety-Ⅱの目標ということになる.
 アプローチの仕方も異なり,前者は標準化を進めることで安全を求め,後者は,状況が変化する中で人の柔軟な(レジリエント:resilientな)行動により,安全注1を求める.
 試験を考えてみれば分かりやすい.Safety-Ⅰであれば,出題者側が出題範囲を限定し,出題する問題は標準化し,正解を徹底的に教え込んでおけば,全員合格が達成できる.不合格者をゼロにすることが目標である.自動車運転免許試験はこのパターンかもしれない.
 一方,入学試験はそうはいかない.応用問題が出題される.そして試験のまさにその場にならなければ問題内容は分からない.限られた合格枠に入るべく,自分の能力を総動員して解決を図るしかない.能力が十分にあれば,難度の高い応用問題も楽勝で解けるが,そうでなければ不合格である.つまり,安全は能力ということである.これがSafety-Ⅱのアプローチであり,その実現を図る対応のことをレジリエンスといっている.
 医療ではどうだろうか.Safety-Ⅰ,Safety-Ⅱの双方が必要になるのではないだろうか.
 医療機器の使用方法,会計手続きなどは,Safety-Ⅰである.正解があり,それ以外のことはヒューマンエラー(ミス)である.一方で,患者対応はどうだろう.患者の標準化はできないし,状態も時々刻々変化する.患者の状況,状態に適した対応をスタッフが講じなくては,よりよい患者満足は得られない.つまり,この場合,Safety-Ⅱが基本となる.
 本稿では,Safety-Ⅰ,Safety-Ⅱの特徴についてさらに説明する.特にSafety-Ⅱについては,管理者はどのような点に注意する必要があるのか,そのマネジメントのポイントを説明する.

参考文献

1)Hollnagel E(著),北村正晴・小松原明哲(監訳):Safety-I & Safety-II-安全マネジメントの過去と未来,海文堂,2015
2)Hollnagel E,Paries J,Woods DD,他(著),北村正晴・小松原明哲(監訳):実践レジリエンスエンジニアリング-社会・技術システムおよび重安全システムへの実装の手引き,日科技連出版社,2014
3)Komatsubara A : Development of Resilience Engineering on Worksites, (in Advancing Resiliet Performance, ed by Nemth CP and Hollnalgel E), Springer, 2021
4)小松原明哲:安全人間工学の理論と技術-ヒューマンエラー防止と現場力の向上,丸善出版,2016
5)日本航空Webサイト:安全管理の実施 https://www.jal.com/ja/safety/content/

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1383

印刷版ISSN:0385-2377

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