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雑誌目次

雑誌文献

病院82巻2号

2023年02月発行

雑誌目次

特集 コロナパンデミック後の病院スタッフのメンタルヘルスケア 総論:病院スタッフのメンタルヘルスケアを考える

産業保健の視点から考える病院スタッフのメンタルヘルスケア

著者: 小川真規

ページ範囲:P.104 - P.107

■はじめに
 メンタルヘルスは,近年ほとんど全ての業界において問題となっており,医療現場も例外ではない.
 医療の現場は,医療機関や部署によって差も大きいが,医療の特性上,総じて緊張感が高い職場が多く,当直や夜勤があるため不規則な勤務形態であり,長時間労働も少なくない.さらに,自己研鑽や講演会,勉強会など,医療そのものの勤務以外にも時間を割くことが多々ある.医療の高度化に伴い,業務の要求水準も高度化している.また,医療従事者間の人間関係のみならず,不安を抱える患者やその家族との関係も構築していく必要があるし,残念ながら職員間・患者からのハラスメントが生じることもある.その他,時として新型コロナウイルス感染症(以下,新型コロナ)のような未知の感染症への対応や針刺し,血液汚染,病原微生物などの生物的要因,抗がん剤,消毒薬,有機溶剤などの化学的要因,重量物,放射線などの物理的要因といったストレッサーも存在する.
 このように医療従事者は,さまざまな健康を脅かす要因に囲まれて働いている.どの仕事も有害要因がゼロという業種はないが,医療現場の有害要因は多いと言える.このような勤務環境の中,ストレスを抱え,ストレスからくる身体の不調やメンタル不調を来す人が少なからずいる.

医療スタッフを襲うコロナ・トラウマとそのケア—クラスター発生に焦点を当てて

著者: 前田正治

ページ範囲:P.109 - P.113

■はじめに
 われわれを襲う災害には数多くの種類がある.例えば台風や津波,地震といった自然災害や,大規模事故などの人為災害などがある.そして2019年から現在まで,世界中の人々にとって大いに脅威となった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックは,その規模,影響の広さを考えてもまさに災害の一つであるといえる(Chemical, Biological, Radiological, Nuclear and Explosive disaster:CBRNE災害と呼ばれることもある).もともと感染症大流行は,自然災害とともに歴史上極めて大きな災厄であって,それに絶えずわれわれは脅かされてきたのである.19世紀の産業革命以降,科学技術災害が非常に増加した一方で,医療技術は発展し,確かにこうした感染症による災厄は減少していた.しかしながら今次のCOVID-19パンデミックは,スペインインフルエンザ以来となる大規模な流行,感染症災害となったのである.そしてCOVID-19パンデミックは,他の大規模災害の例にもれず,住民のみならず,あるいは住民以上に,その矢面に立たされた支援者,レスポンダーに重大なトラウマをもたらした.
 本稿では,COVID-19パンデミック下にあって苦しむことになった,こうした支援者,とりわけ対応を余儀なくされる医療従事者に焦点を当てて,メンタルヘルス上の問題とそのケアについてまとめてみたい.とりわけクラスター発生時には,職員を襲うストレスは極限化し,そのトラウマもまさしく災害時におけるそれとなる.従って本稿では,特にクラスター発生時のトラウマやメンタルヘルス問題に焦点を当ててみたい.

組織心理学の視点から考える病院スタッフのメンタルヘルスケア

著者: 前田一寿

ページ範囲:P.114 - P.120

■はじめに
 企業や組織では2022年になり持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)を今後の企業や組織運営の根幹に置こうとする動きが強まっている.17のゴール,169のターゲットとさまざまな方法があるが,まずはこれらを包括して「社会貢献につながる価値創造」「企業・組織が存続するための利益創出」「社員一人一人の幸福度向上」と,相反する可能性もある3つがいかに同時実現できるかがポイントとなっている.これは,後述する「全体最適」「部分最適」「個人最適」といった最適化の視座をどう持つかである.
 医療機関では,公共財として医療分野を通じて社会に貢献できる価値を生み出している.利益追求が最優先ではないものの,医療に従事するスタッフへの報酬や,設備などの投資も必要であり,継続的に活動していくには,その原資となる利益は不可欠である.また,仕事を通じてスタッフの幸福度が高まらなければ,スタッフは働きがいややりがいが持てなくなり,心身の状態もマイナスの方向に向かう.それは組織にも派生し,新陳代謝も進まなくなる.これらを考えると前述のSDGsに関する3つの概念は医療機関にも当てはまることが分かる.そこで本稿では,Withコロナ下,コロナ後の医療機関の運営をどう考えていくか組織心理学の観点から検討していきたい.
 職場風土の改善は,心身の状態の改善にも大きくつながる.ストレスチェックを活用してその状況を客観的に分析することで,価値を生み出せる新たな組織への脱皮も考えられる.まずはストレスおよびストレスチェックの説明から始める.

病院スタッフのメンタルヘルスケアの具体策

コロナ禍での病院スタッフのメンタルサポートの実際

著者: 淺香えみ子

ページ範囲:P.122 - P.128

■はじめに
 東京医科歯科大学では2020年より,多くの新型コロナウイルス感染症(以下,コロナ感染症)の患者を受け入れている.特定機能病院であると同時に,難病の専門診療や都内有数の救急搬入数の救急診療を行っており,当初は,この機能を維持できる範囲でのコロナ感染症対応をする計画であった.しかし,諸外国からの類を見ない感染拡大の情報から,地域医療を確保するための体制に180度の方針転換がされた.
 方針に沿った運営は,病院のみならず東京医科歯科大学の全学のものとなり,病院・大学教職員および学生らを含む,大規模なものとなった.そして,関わる全東京医科歯科大学関係者に影響を及ぼすことになった.
 本稿では,東京医科歯科大学病院注1の中でも職員数が多く,コロナ感染症対応で最も多くの職員が最前線で対応した看護職のメンタルヘルスケアの実際について取り上げる.併せて,全学職員と同時に行った対策を解説する中で,病院職員のメンタルヘルスケアについても解説する.
 当院のコロナ感染症対応の組織を図1に,対応初期の病院内の動きについて表1に示す.

精神科認定看護師によるクラスター発生施設でのメンタルヘルス支援

著者: 今村健次 ,   加藤和広

ページ範囲:P.130 - P.134

■はじめに
 新型コロナウイルス感染症が2019年に確認され,全世界で急速に感染拡大し,いまだ収束に至っていない(図1).当初,新型コロナウイルス感染症は,未知の感染症として対策をとりつつも,感染に対する不安や恐怖,差別や偏見,生活の行動制限はストレスとなっていた.特に新型コロナウイルス感染症について医療提供を続ける医療従事者のストレスは癒えることなく,職場や生活場面でのストレスの蓄積による影響は大きかった.
 2020年9月に厚生労働省により行われた「新型コロナウイルス感染症に係るメンタルヘルスに関する調査」2)では,半数以上が何らかの不安等を感じ,そのうち6割以上が「自分や家族の感染への不安」を感じていた.また,医療,福祉の従事者は「自分や家族が感染するかもしれない」「自分や家族が感染したら,人から批判や差別,嫌がらせを受けるかもしれない」といった不安を抱えていることが報告されている.
 さらに,医療機関や施設でクラスターが発生した場合,患者や利用者へ感染させてしまったことや不安にさせたこと,周りのスタッフや知人に感染の不安を感じさせたことで従事者は自責の念に駆られ,さらに続く感染への不安,偏見や差別によってストレスの高い状況となる.日常であれば,しっかりと休息をとることや家族や友人,職場の仲間と語り合いを通して乗り越えるなど,各々にストレス対処してきたことも,感染禍において難しい状況となる.
 本稿では,クラスターが発生した病院・施設での精神科認定看護師によるメンタルヘルス支援を振り返り,コロナ禍の医療・福祉現場で働く従事者のメンタルヘルスの状況と今後のメンタルヘルス支援についての検討を報告する.

—[病院スタッフのためのメンタルヘルス・セルフケアの手法]—認知行動療法

著者: 浅野憲一 ,   清水栄司

ページ範囲:P.136 - P.138

 パンデミック下における医療従事者のストレスはその過酷さが世界各国で報告されている1).認知行動療法は種々のストレスに対処するための心理支援として頻繁に用いられている.それらの中には医療従事者のセルフケアを目的としたものも数多く含まれており,パンデミック下においても同様である2,3)
 本稿では認知行動療法を用いたセルフケアの方法を紹介し,パンデミック下にある医療従事者が少しでもメンタルヘルスを改善するための一助となることを目指したい.

—[病院スタッフのためのメンタルヘルス・セルフケアの手法]—マインドフルネスとセルフ・コンパッション

著者: 岸本早苗

ページ範囲:P.140 - P.145

■はじめに
 医療従事者が抱えるストレスは職業性ストレスであり,そのストレスが積み重なることが身体的・心理的ウェルビーイングに影響し,ひいてはそれが患者安全にも影響をもたらす.職業上のストレスに対して,個人の取り組みのみならず,組織的なシステムアプローチが重要である1).全米医学アカデミー(National Academy of Medicine)は2019年にこのように警鐘を鳴らした.すでに1990年代〜2000年代には,臨床スタッフがストレスを抱えることによる問題に関する研究はさかんに報告されており,データが蓄積されている.上述の警鐘から遡ること20年,同アカデミー(当時の米国医学研究所;IOM)は医療におけるエラーは個人を責めるのではなくシステム全体を改善する必要があるとして「To Err Is Human:人は誰でも間違える」2)を発信している.
 筆者は,国内の産婦人科での心理臨床や,米国系経営コンサルティングファームでの病院経営改革の仕事を経て,ハーバード大学/マサチューセッツ総合病院(MGH)産婦人科の医療の質管理ディレクターとして,質安全の仕組みづくりに従事し,クオリティアシュアランスの一環として,ストレスフルな部門で働く医療従事者へのマインドフルネスの導入支援や,患者にとっても医療者にとっても思いやりのある安全な組織文化醸成の推進に関わってきた.
 わが国の医療の質はOECD全体でもトップに位置し,かつアクセスの良さも卓越している.個人的に感じるのは,日本の医療機関で働くスタッフの責任感,細やかな配慮や誠実さ,思いやりの深さである.しかしながら,医療機関で働く一人一人の努力のみでは継続しがたく,新型コロナウイルス禍で露呈したものの,メンタルヘルスの課題は,他国同様に日本においても長く続いてきたことだと考える.
 帰国後,筆者は医療の質・安全に資するものとしてのマインドフルネスやセルフ・コンパッションを,多職種にわたる医療従事者や,臨床研修指導医,後期研修医,看護管理者,病院長,経営管理層などに提供している.
 病院スタッフの心の健やかさには,複合的な要因が絡むことを念頭に置きつつも,本稿では,心の在り方,とりわけ私たちの心に内的な資源(リソース),資産として育むことが可能なマインドフルネスやセルフ・コンパッションを紹介する.

事例

河北総合病院における職員メンタルヘルスケア—日頃の活動の上にあるCOVID-19のメンタルケア

著者: 鎌田健太郎 ,   河北恵美 ,   杉村洋一

ページ範囲:P.146 - P.148

■はじめに
 河北総合病院(以下,当院)は,1928年5月に「河北病院」として創立した.当初は病床数30床,内科・小児科の個人病院だったが,1950年医療法人制度ができた時に医療法人財団となり,1957年に総合病院の認可を取得し,1965年には「特定医療法人 河北総合病院」として幅広い診療科を持つ総合病院になった.1978年50周年の節目に「医療法人財団 河北総合病院」に改称.1988年,現理事長の河北博文が5代目の理事長に就任し,同年臨床研修病院の指定を受けた.その後,「社会医療法人 河北医療財団」として,健診・透析・地域包括支援ケアセンター・リハビリテーション病院・介護老人保健施設などと次々に新たな施設や病院を新設し,幅広く地域医療・健康増進事業などを展開.2006年には家庭医療学センターを開設し,また地域医療支援病院の承認を受け,現在では杉並区内で最大のベッド数407床・標榜科目52科(分院含む)を持ち,職員数約3,000人(非常勤含む)が働いている.
 当院では,「医療」の定義も「患者の立場に立って“健康を支援すること”」であるという考えの下,「身体的,精神的,社会的に調和の取れた状態」を「健康」と定義している.身体的な診療に加えて一層人に寄り添った心のケアを充実させるため,受容・傾聴・共感(心をこめて聴き,受け止め,寄り添うこと)が財団の組織全体の雰囲気となることを目指している.

おもと会における職員メンタルヘルスケア—一人で抱え込まない仕組み作り

著者: 石井民子

ページ範囲:P.149 - P.152

■はじめに:おもと会グループ概要
 おもと会グループ(理事長:石井和博)は,医療法人・社会福祉法人・学校法人の3法人によって組織され,2019年には創立60周年を迎えた.沖縄県那覇市の大浜第一病院を中心に,15施設において,医療・保健・福祉・教育の総合一体化を実現し,56事業を展開している.
 おもと会グループでは,介護職599人,看護師552人,コメディカル487人,事務職177人,医師84人,教員50人,その他職員数38人,合計1,987人の職員数を抱え,その他,学生が814人いる(2022年度).
 そのうち大浜第一病院(那覇市)は,急性期病棟(170床),回復期リハビリテーション病棟(41床),診療科22科,職員数762人.大浜第二病院(豊見城市)は,回復期リハビリテーション病棟(60床),特殊疾患病棟(59床),医療療養病棟(58床),診療科2科,職員数272人である.

小倉第一病院における職員メンタルヘルスケア—コロナ禍を乗り切る組織のコミュニケーション力

著者: 中村秀敏

ページ範囲:P.153 - P.155

■はじめに
 透析患者の死因は特徴的で第2位が感染症(21.5%)である1).一般人口での死因第1位の悪性腫瘍の割合の約2倍であり,それだけ腎不全では免疫力が低下していることになる.新型コロナウイルス感染症(以下,コロナ)に対するワクチンが接種できる前,2021年2月時点で報告された透析患者のコロナ死亡率は1割を超えており,われわれ透析医療従事者は震撼させられた.だからこそ,感染管理にはより一層の注意が必要であり,職員のメンタルヘルスも窮地に陥っていた.

対談

病院スタッフのメンタルヘルスケアを組織的に取り入れる

著者: 熊野宏昭 ,   今村英仁

ページ範囲:P.89 - P.95

頑張りすぎてしまう病院スタッフにも,クリエイティビティが必要な病院経営者にも役立つ!
メンタルヘルスのセルフケアを病院組織として日常的に取り入れるにはどうしたらよいか.
自分自身にも患者に対しても心身のケアを長年実践してきた熊野宏昭氏に,具体的な手法も含めて聞く.

実践報告

新型コロナ対応を踏まえた医療計画(地域医療構想)策定に向けて—愛知県での取り組み

著者: 廣澤友也 ,   伊藤健一 ,   浦田士郎

ページ範囲:P.157 - P.161

要旨
 2021(令和3)年5月に医療法が改正され,新興感染症感染拡大時における医療提供体制の確保について,第8次医療計画より記載することとなった.各二次医療圏では医療関係者や行政関係者の間であらかじめ議論し,必要な準備を行うことが求められている.愛知県では毎年,「地域医療構想の進め方に関する研修会」を行っており,令和3年度は新型コロナウイルス感染症(以下,新型コロナ)への対応の経験を踏まえ,各二次医療圏を代表する医師会長や病院長などの医療関係者と,保健所長や感染症担当職員などの行政関係者が一つのテーブルを囲んで議論する場を設けた.
 本稿では,主に,研修会の実施方法と議論された内容の一部を報告する.新型コロナ対応の最前線で現場を取り仕切っている人々のリアルな叡智が集まっており,第8次医療計画策定に向けた貴重な覚え書きとなっていると考えられる.

連載 アーキテクチャー×マネジメント・97

医療法人真鶴会 小倉第一病院

著者: 江文菁

ページ範囲:P.96 - P.101

 1972年,小倉第一病院の前身である北九州クリニックが透析専門クリニックとして福岡県北九州市小倉北区真鶴に開業した.当時,透析医療は黎明期にあり,週3日,1日8時間の治療を要し,多くの患者が職を失わざるを得ない状況で,死亡率もかなり高かった.そのような中,「透析患者の完全社会復帰」を設立理念として掲げた夜間透析可能な透析クリニックとして開業し,1985年に病院となった(旧病院).
 49年を迎えた建物は老朽化し,また運用面でも長く不便が続いていたことを背景として2021年11月,隣町に新病院を移転オープンした.本稿では,小倉第一病院(図1)の新しい透析環境づくりを紹介したい.

医療機関で起きる法的トラブルへの対処法・22

医療機関の不祥事と第三者委員会の設置

著者: 増田拓也

ページ範囲:P.162 - P.167

■1 第三者委員会とは何か
 組織において不祥事が発生した場合,その組織が,いわゆる調査委員会を設けて不祥事の調査を依頼することがあります.日本弁護士連合会のガイドライン★1
は,このような委員会のうち,その組織から独立した委員のみをもって構成され,徹底した調査を実施した上で,専門家としての知見と経験に基づいて原因を分析し,必要に応じて具体的な再発防止策などを提言するタイプの委員会を,第三者委員会というものとしています★2
 組織が第三者委員会を設置する目的は,ステークホルダーに対する説明責任を果たし,不祥事により失われた信頼と持続可能性の回復を図ることにあります.組織内の調査のみで不祥事対応を終了すれば,ステークホルダーに対し,徹底した対応がとられていないという印象を与え,信頼をさらに低下させるおそれがあります.そのため,第三者による徹底した調査が有益となるのです.

ケースレポート 地域医療構想と病院・51

医療介護情報共有の先進事例—道南MedIkaプロジェクト(北海道函館市)

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.170 - P.177

■はじめに
 現在,厚生労働省ではわが国の医療情報の活用を促進することを目的に,医療情報ネットワークの基盤に関するワーキンググループが組織され,医療情報ネットワークの基盤の在り方(主体,費用,オンライン資格確認等システムや政府共通基盤との関係,運用開始時期など)および技術的な要件について調査検討が進められている(図1)1).ここではまず3文書(診療情報提供書,退院時サマリー,健診結果報告書),6情報〔傷病名,アレルギー,感染症,薬剤禁忌,検査(救急,生活習慣病),処方〕について,標準仕様を定め,それをHL7FHIRで記述することで,医療機関相互の情報交換を可能にすることが予定されている.図1の右下の部分は既存の仕組みで,オンライン確認システムでマイナンバーを介して支払基金などに集積されているレセプト情報,特定健診・特定保健指導が紐づけられることになる.これによりPHR(Personal Health Record)の実装も一体的に進むことになると考えられる.
 厚生労働省のこのプロジェクトにおいては,「医療DXも踏まえた電子カルテ情報を共有できる仕組みの実装方法」を検討することが目指されているが,この背景には創薬など新しい産業創成への活用に関する期待がある.この目的のためには臨床系の各学会が行っている症例登録と同レベルかそれ以上の情報をサマリーとして作成し,データベース化することが必要となる.仮に各学会の検討を基に検討項目が決められ,それが全ての医療機関に要求されるとすると,その作成作業の負荷が大きくなりすぎ,情報作成は進まないだろう.これはHER-SYSで多くの医療機関が経験したことである.同じ轍を踏まないために,すでに作成されている情報を利用する形で整備を進めることが実際的であると筆者は考えている.
 また,構築される医療情報基盤は,各医療機関の業務の効率化に資するものでなければ,その活用は進まないだろう.それは地域医療再生基金によって鳴り物入りで導入が試みられた地域共通電子カルテのほとんどが,現在稼働していないことからも明らかである.参加する医療機関にそれを使うことのメリットが実感されなければ,その活用は進むことはない.
 さらに高齢化の進展に伴い,医療と介護の複合ニーズを持った患者が増加していることを考えれば,構築される情報基盤は介護にも対応したものでなければならない.介護領域に関しては用語の標準化が進んでおらず,いわゆる業務記録システムである「介護電子カルテ」に記載された内容をHL7FHIRで交換することは,現時点では相当程度の困難が伴う.
 このような問題をクリアするためには,現在こうした情報の利活用を実際に行っている仕組みを参考にすることが有用である.筆者の知る限り,地域レベルで他施設が医療と介護の情報共有を実働させている仕組みとしては,特定非営利活動法人 道南地域医療連携協議会(道南MedIka:以下,MedIka)が最も優れている注1.そこで本稿ではその中心的役割を担っている社会医療法人 高橋病院と市立函館病院のインタビュー結果を基に,その概要と将来の発展性について論考してみたい.

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目次

ページ範囲:P.102 - P.103

Book Review トラブルを未然に防ぐカルテの書き方

著者: 川崎誠治

ページ範囲:P.169 - P.169

Book Review 問題解決型救急初期診療 第3版

著者: 増井伸高

ページ範囲:P.179 - P.179

Back Number

ページ範囲:P.181 - P.181

次号予告

ページ範囲:P.184 - P.184

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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