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雑誌目次

雑誌文献

病院82巻3号

2023年03月発行

雑誌目次

特集 これからの重症度,医療・看護必要度 重症度,医療・看護必要度の考え方

「看護必要度」の開発過程と展望—変容する疾病に対するマネジメントツールとして

著者: 筒井孝子

ページ範囲:P.200 - P.205

■はじめに:「看護必要度」と「重症度,医療・看護必要度」
 看護必要度は,患者へ提供されるべき看護量の推定と,提供されている看護サービスの量的・質的評価との連動を目指し,1996(平成8)年から研究が開始された.
 一方,看護必要度が診療報酬の算定要件として利用された際の呼称は,「一般病棟用の重症度・看護必要度」「特定集中治療室用の重症度」「ハイケアユニット用の重症度・看護必要度」,回復期リハビリテーション病棟入院料1では「重症度・看護必要度」,回復期リハビリテーション病棟入院料2および3では「日常生活機能評価」注1であった.
 このように看護必要度が20年近く,患者の重症度を評価し,看護要員数を規定する役割を担ってきたことは,歴史的事実として重要と考える.また,「看護必要度」の考え方を基盤とした評価や,算定における基準は,日本の臨床データの分析結果をエビデンスとして用いていることは,大きな特徴と言える.
 なお,本稿における「看護必要度」は,狭義には,筆者が1997年から研究し,開発してきた看護必要度を指すが,広義には,開発された看護必要度の項目を利用した「重症度基準」「重症度,看護必要度基準」「一般病棟用の重症度・看護必要度」も含むものとする.
 昨今の診療報酬改定の度に話題となり,項目や評価方法が2年ごとに変更されている「重症度,医療・看護必要度」は,前述した「重症度,看護必要度」という呼称に「医療」がついたものとして,2014(平成26)年度に導入され,さらに2016(平成28)年度に侵襲性の高い治療を評価するものとしてC項目が新設され追加された.
 これらのC項目は,手術,検査等を評価する項目であるが,各医療系学会や団体が意見を出し,厚生労働省(厚労省)が意見をとりまとめた評価項目群であり,臨床における看護量や医療サービス量との関連性についての検証はなされていない.
 このことは,「重症度,医療・看護必要度」と看護必要度とが,出自は同じであるが,似て非なるものであることを示している.
 本稿では,前述した広義の看護必要度の開発研究の概略とその背景を説明し,次に,変容してきた患者の疾病やその病態によって,断続化されている医療システムに看護必要度がいかなる役割を果たせるかについて述べることとした.

重症度,医療・看護必要度の制度的枠組み—看護必要度の診療報酬制度における位置づけと概要

著者: 習田由美子

ページ範囲:P.206 - P.209

■はじめに
 看護必要度は,1996(平成8)年から研究が開始され,2002(平成14)年に,特定集中治療室管理料の重症患者等の入院割合に応じた評価の見直しを行った際に,その判定基準として初めて「重症度」が診療報酬の算定要件として採用された.その後,特定集中治療室と一般病棟の看護職員配置の差を埋めるために,ハイケアユニットが創設され,その算定要件に「重症度・看護必要度」が導入された.さらに,2008(平成20)年に7対1入院基本料の算定要件として「一般病棟用の重症度・看護必要度の基準」が導入され,多くの医療機関で看護必要度が評価されることになった.開発当初は,「入院患者に提供されるべき看護の必要量」として開発された指標であったが,現在では,「重症度,医療・看護必要度」と名称も変わり,急性期入院医療において医療や看護の必要性が高い患者を把握できるよう項目が見直され,その役割も大きく変わってきた.
 本稿では,診療報酬制度において,看護必要度が活用されてきた変遷について,過去,看護担当の診療報酬改定作業に携わった経験者の一人として概説する.

重症度,医療・看護必要度に期待すること

著者: 秋山智弥

ページ範囲:P.210 - P.213

 重症度,医療・看護必要度の課題と期待については,3年前に本誌の特集に掲載した論考「『看護必要度』活用の課題」1)から何ら変わるものではないが,その後の2022(令和4)年度診療報酬改定を振り返りながら,令和6年度改定に向けて病院管理者,特に看護を預かる看護管理者が押さえておきたいポイントを解説する.

現場での活用方法と課題

重症度,医療・看護必要度を用いた病棟マネジメントの実際と課題

著者: 谷口孝江

ページ範囲:P.214 - P.219

■はじめに
 「重症度,医療・看護必要度」は,患者の状態や医療内容の状況を評価することにより,看護の業務量を推計できるしくみとして開発された.また,看護労働量と看護師の適正な配置を予測できるシステムであることから,患者に必要な看護を提供できる状況であるかを審査して,看護サービスを評価することができる1)
 入院医療の評価の基本的な考え方としては,個々の患者の状態に応じて,適切に医療が投入され,より効果的・効率的に質の高い入院医療が提供されることが望ましいとされる.
 図1の横軸は医療資源投入量を,縦軸に医療ニーズを示しており,本来,右肩上がりに内容が推移する.そうでない場合は医療ニーズが高い患者に必要な医療資源が投入されない「粗診粗療」となる恐れがある.また,医療ニーズが低い患者に多くの医療資源を投入してしまう「非効率な医療」となる恐れが生じる.医療ニーズに反映されるのは患者の状態であることから,看護必要度をモニタリングすることは,適切な入院医療・ケアの評価につながることを意味する.
 2016年10月から重症度,医療・看護必要度データは,Hファイルとして提出されている.この頃から,看護必要度データは,それぞれの施設などをベンチマークすることも可能となり,看護を考える大きなデータベースとなった.実際に看護管理者によって,表1に示す活用が実践されている.

ICUと一般病棟で重症度,医療・看護必要度を評価して直面した課題

著者: 今泉和子

ページ範囲:P.220 - P.224

 筆者が看護師として働き始めたのは2002年度で配属部署はICUだった.その後2020年度までICUに在籍,異動しHCUに1年在籍,2022年度に転職し,急性期一般病棟兼コロナ病棟の師長となった.いずれの所属部署においてもCOVID-19患者の受け入れを行っていた.その間に,重症度,医療・看護必要度を評価・活用してきた実際と,課題について考えたことを書きたい.ただ,ICUに在籍していたのは2年前のことで現状とは必ずしも一致しないこと,筆者の立場は管理者ではなかったこと,管理者としての経験は8カ月であること,それぞれ施設の特性があることを考慮していただき,全ての病院・施設に通じることではないことをご理解の上,お読みいただけると幸いである.

重症度,医療・看護必要度を用いた回復期リハビリテーション病棟マネジメントの実際と課題—重症者の増加にどう対応するか

著者: 橋本茂樹

ページ範囲:P.225 - P.230

■はじめに
 今後,さらに高齢化が進むと同時に,地域医療構想の下で回復期リハビリテーション病棟(以下,回復期リハ病棟)はさらに増える状況にある.すでに回復期リハ病棟の入棟患者は高齢化してきており,それによって認知症患者の増加,多疾患を合併症としてもつ患者の入棟が増えている.そこに加えて回復期リハ病棟の2022年の診療報酬で重症患者の入院比率がさらに上がり40%になった.重症患者の増加にて病棟運営は混乱し,スタッフは疲弊してしまう状況にある.この状況下でどのように,回復期リハ病棟を運営していくか,ここで議論したい.

地域包括ケア病棟での重症度,医療・看護必要度の活用の実際

著者: 石川賀代 ,   田渕典子

ページ範囲:P.231 - P.234

■はじめに
 2014年に創設された地域包括ケア病棟(以下,地ケア病棟)は,急激に進む社会の高齢化の中で,地域の患者像の変化に対応し,地域包括ケアシステムを支える,①急性期からの受け入れ(ポストアキュート:PA),②緊急時の受け入れ(サブアキュート:SA),③在宅・生活復帰支援という3つの役割を有している.この3年間,COVID-19の感染拡大により,地ケア病棟のあり方が大きく変化しつつある中での,2022年度の診療報酬改定は,その3つの機能のバランスが重要であることが示された改定となった.
 HITO病院(以下,当院)は,地ケア病棟入院料2を届け出ており,53床を運用する急性期ケアミックス型である.2022年度の診療報酬改定により,自院のPA受け入れが6割未満の制限もあり,患者の状態に応じた病棟の選択を重視し運用している.また,重症度,医療・看護必要度を多職種の退院支援に活用できるツールとして実践してきた.
 本稿では,その実際を紹介する.

療養病床における重症度,医療・看護必要度の活用可能性—「慢性期治療病床」への転換に向けて

著者: 橋本康子

ページ範囲:P.235 - P.237

 療養病床における重症度,医療・看護必要度とは,「医療区分」と「ADL区分」のこととなろう.これらの区分を3段階に分けた組み合わせにより療養病棟入院料1および2のそれぞれにおいて,9つの療養病棟入院料が決められている(表1は療養病棟入院料1).療養病棟では,これら9つのどれかに該当する入院料(投薬,注射,検査,病理診断などが包括)に,処置や手術,画像診断などの出来高を加えて算定している.急性期DPCや地域包括ケア病棟,回復期リハビリテーション病棟など包括となる入院料部分に出来高を加える仕組みと同様である.そのため,療養病床における重症度,医療・看護必要度,つまり医療区分,ADL区分は,病院が得られる診療報酬を決めるものではあるが,それと同時に医療の質などを検討するツールとして活用できれば,より有益な指標とすることができるはずである.
 そこで,本稿では,特に現状の医療区分について,日本慢性期医療協会(以下,日慢協)が考えている課題を提示し,医療の質を高める指標としての方向性を提示したい.

病院経営者が考える看護必要度の問題点と提言

著者: 太田圭洋

ページ範囲:P.238 - P.241

■はじめに
 2022年度診療報酬改定(以下,改定)において重症度,医療・看護必要度は大幅な見直しが行われた.A項目から「心電図モニター」が外されるとともに,「点滴ライン同時3本以上の管理」が「注射薬剤3種類以上の管理」に変更された.現在は新型コロナ対応としてコロナ特例と呼ばれる診療報酬上の臨時的取り扱いが行われており,多くの病院の経営には大きな影響は出ていない.しかし,中医協(中央社会保険医療協議会)総会で議論された時の資料では,約25%の病院が急性期一般入院料1の算定が困難になる可能性がある変更であった.
 近年,重症度,医療・看護必要度は,病院の機能分化を進める指標としての役割が大きくなってきており,病院経営者にとって,病院の管理指標の中でも最重要の資料の一つとなっている.
 診療報酬制度は支払い制度であり,入院医療を支えるコストが適切に評価される必要がある.しかし,度重なる修正を受けた現在の重症度,医療・看護必要度が,入院医療提供コストを担保できているか疑問に感じている病院経営者も多い.
 本稿では,病院経営者の立場から見た現在の重症度,医療・看護必要度に関しての問題点と今後のあるべき姿に関して述べる.

さらなる可能性

重症度,医療・看護必要度を用いた医療・介護機能評価の試み

著者: 林田賢史

ページ範囲:P.242 - P.245

■はじめに
 「重症度,医療・看護必要度」(以下,看護必要度)は,個々の患者の疾患や病態の違いで生じる看護サービス提供量を予測するための指標として開発された.しかし,その過程で,診療報酬(特に急性期の入院基本料)算定の基準などの役割も担うようになってきた.そのため,急性期入院医療における患者の状態に応じた医療および看護の提供量の必要性を適切に把握するための指標としても開発されてきた1)
 看護必要度では,患者の状態とそれに対する看護ケアの実施の有無を評価する.そのため,この指標を用いることで,医療や介護サービスを提供している医療機関や介護施設の機能(どのような状態の患者や利用者に対してどのようなサービスを提供しているのか)の評価が可能と考えられる.そこで,それぞれのサービス主体ごとの機能評価において,看護必要度を活用することが可能かどうかの検証を試みた2,3)ので,本稿では,その内容を紹介したい.

重症度,医療・看護必要度を用いた臨床研究の可能性

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.246 - P.250

■はじめに
 看護必要度の開発の目的は,病棟における看護業務の状況に合わせた看護職員の配置を合理的に行うマネジメントツールの開発であった1).その後,看護業務の負荷を評価する機能が診療報酬上で評価され,入院基本料のベースを決める「重症度,医療・看護必要度」(以下,看護必要度)として活用されるに至っている.しかし,この間,入院基本料を決めるという側面が重視されるあまり,医療政策や介護政策を決める公的委員会では,本来の看護管理への活用という視点が弱くなっているように思う.
 多くの臨床研究が医療の質の改善を目的として行われるように,看護必要度も看護の質を改善するための「臨床研究」のツールとして活用されることが必要である.特に,開発者の筒井孝子氏の設計により患者の状態像を評価するB項目が設定されていることは重要である.介護保険における認定調査票を開発したのが筒井氏であることを踏まえれば当然のことではあるが,B項目の内容は医療と介護とで共通のものになっている.社会の高齢化が進み医療と介護との複合ニーズが増大している今日,急性期医療と回復期・慢性期医療,そして医療と介護との連携を促進するために,B項目で測定される患者状態を評価することが重要になっている.具体的には,「どのような状態であれば,急性期病棟から退院できるのか,退院できる場合,状態像から考えて退院先はどこが適切なのか,そして各環境で受け入れる場合,ADLケアにおいて何に注意しなければならないのか」が明らかにできるのである.
 DPC調査においては医学的視点での退院サマリである様式1,入院中に行われた医療行為の詳細とその出来高換算コストが記録されているEFファイル,そして看護必要度を記録したHファイルが作成されている.これらのデータを用いることで,急性期入院だけでなく,退院後のケアも視野に入れた連携のための評価を行うことが可能であり,そのための臨床研究が求められている.そこで,本稿では筆者が所属している厚生労働省の研究班のDPCデータを用いて,看護必要度を用いた臨床研究の事例について報告する.

対談

重症度,医療・看護必要度のこれから

著者: 筒井孝子 ,   松田晋哉

ページ範囲:P.185 - P.191

科学的な研究を経て開発された看護必要度.
重症度,医療・看護必要度という名称で診療報酬で評価されてからの変化とは.
看護必要度の開発者である筒井氏から,本質的かつ先進的な活用方法をご紹介いただき,今後の方向性について展望する.

特別記事

病院に求められる性的指向と性自認の多様性への取り組み—LGBTQ+である患者の受診を想定して

著者: 日高庸晴 ,   野田洋子 ,   今中秀光

ページ範囲:P.252 - P.257

■なぜ病院が性的指向と性自認の多様性に対応しなければいけないか
 LGBTQ+注1について耳にする機会がマスメディアや政治の場面でかつてより圧倒的に多くなっていると思われ,医療や福祉領域の専門職養成課程や病院の医療現場においてもそれは例外ではない.個々の患者には多様な背景があることを認識するとともに,基本的人権の一つとして性的指向・性自認の多様性があることや,これらのニーズが尊重された上で医療を提供することの重要性が認識されるようになりつつある.しかし,これまでにも,そして現在もLGBTQ+のいずれかに当てはまる患者やその家族は医療機関に受診していたにもかかわらず,その存在認識と個別の背景に応じた対応が十分にできていなかった病院現場が圧倒的ではないだろうか.
 対応する際に留意が求められることは,医療従事者の多くは治療上必要な情報の職員間の共有は行って当然という認識を持っているが1),性的指向と性自認は極めて機微な個人情報の一つであり,結果として意図しない暴露(アウティング)にもなりかねず,患者本人の意向を確認することである.

連載 アーキテクチャー×マネジメント・98

くまもと県北病院

著者: 小菅瑠香

ページ範囲:P.192 - P.197

■はじめに
 熊本県北部に位置する玉名市(図1)の歴史は,日本書紀でも玉杵名邑として描写されるほど古く,今でも多くの遺跡が出土する.九州新幹線の新玉名駅を降りると,見渡す限り一面に広がった田園の向こうに病院が見えた.足元は周囲の自然に溶け込む外観であるため,遠目には白い箱が2本,宙に浮いているようでもある(図2).
 多くの地域で病院が再編統合を求められる現代においても,くまもと県北病院のような公立病院と医師会立病院の統合事例は珍しい.302床を持っていた公立玉名中央病院と,玉名郡市医師会立の開放型病院であった150床の玉名地域保健医療センターが統合し,2021年3月1日にくまもと県北病院として許可病床数402床で開院した(図3).
 これに先立ち,2017年10月に玉名市および玉東町が設立団体となって「地方独立行政法人くまもと県北病院機構」を開設し,2018年4月に両病院が経営統合を行った.病院が地方独立行政法人化したのは,熊本県では初であった.

医療機関で起きる法的トラブルへの対処法・23

院内で発生した刑事事件の捜査に対して,どのように対応するべきか

著者: 久保田萌花 ,   小林京子

ページ範囲:P.259 - P.263

 院内で傷害や盗難など刑事罰の対象となる事件が発生した場合,被害届や告訴・告発によって警察による捜査が開始され,その後事件が検察庁に送致されると,検察による捜査により,起訴・不起訴の判断が行われます.本稿では,捜査の流れと,病院が協力を依頼された場合に検討すべき事項について説明します.

事例と財務から読み解く 地域に根差した中小病院の経営・38

特定医療法人扇翔会 南ヶ丘病院—地域ニーズに応じて病床機能転換・医療提供体制強化に取り組む病院

著者: 髙橋佑輔

ページ範囲:P.266 - P.271

 石川県野々市市(以下,同市)は,県のほぼ中央に位置し,北東部は金沢市,南西部は白山市にそれぞれ接している.面積13.56km2と小規模ながら,金沢市のベッドタウンであるため,人口が増加しており,人口密度が高い.東洋経済「都市データパック」の「住みよさランキング」において2020・2021年と2年連続で全国1位に選出されている.
 特定医療法人扇翔会(以下,同会)が同市に開設する南ヶ丘病院(以下,同院)は,120床と小規模ながら,一般病棟,回復期リハビリテーション病棟および地域包括ケア病棟を有しており,整形外科・形成外科を中心に小児科から透析まで幅広い診療を担っている.

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目次

ページ範囲:P.198 - P.199

Book Review トラブルを未然に防ぐカルテの書き方

著者: 金倉譲

ページ範囲:P.265 - P.265

Book Review 問題解決型救急初期診療 第3版

著者: 藤井達也

ページ範囲:P.273 - P.273

Back Number

ページ範囲:P.275 - P.275

次号予告

ページ範囲:P.278 - P.278

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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