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雑誌目次

雑誌文献

病院82巻5号

2023年05月発行

雑誌目次

特集 生き残りをかけた病院の事業連携・統合—多様化する手法 総論

病院における事業連携・統合の戦略上の位置づけ

著者: 田中滋

ページ範囲:P.390 - P.392

■はじめに
 医療人に対する不変の期待は「命を救い,治し,支え,癒すために診療を施すこと」である.一方,医療を取り巻く人口の年齢構成・科学技術・政治経済などの時代環境は変化し続ける.
 環境変化の影響のうち,(次節で述べるような)入院患者像の変容は,スピードの違いはあれ,ほとんどの病院に共通と考えられる.それに対し,患者数は日本各地で一律に減少傾向が見られるわけではない.地域ごと,および(後述するような)医療提供形態ごとに異なり,まだ10年以上も増加予想が見込まれる地域も存在する.従って,戦略構築の視野を2025年に置くか,2040年を目標年とするかなどによって,患者数の動向に関する捉え方と対応策は多様でありうる.
 他方,職員不足は病院だけが直面する課題ではない.こちらはすでに介護,保育,運輸,建設,飲食・宿泊をはじめとする対人サービス業など,少なからぬ分野において病院よりも深刻な課題となっている.小学校教員についても教員試験応募倍率の低下傾向が懸念されている.従って,急速に減っていく20〜65歳人口を産業間で取り合う方策,例えば「分野の魅力を高める」といった相対レベルの策は—必要条件とはいえ—根本的な戦略とは言い難い.人員不足に悩む全ての業界が一斉に今よりも分野の魅力を高めることができたとしても,相対的には「大きな変化なし」にとどまるかもしれないからである.
 こうした環境変化を踏まえ,生き残り策に限らず,経営者の覚悟に基づく選択が求められる.本稿の後半では,覚悟に至る過程を順を追って説明する.

医療法人の法人・事業連携—基本的な手法の概要とメリットなどを中心に

著者: 田川洋平

ページ範囲:P.393 - P.396

 2025年以降,高齢者人口の伸びは落ち着くものの,現役世代が急減すると推計されており,2040年にピークを迎える医療需要をより少ない人材で支えていく必要がある.2040年を見据えた医療・福祉サービス改革において,組織マネジメント改革や経営の大規模化・協働化が課題の一つになっている.
 また,医療法人の開設者が年々高齢化しており円滑な事業承継も課題となっている.近年は後継者がいない医療法人の事業承継のための合併や,経営が財務的に逼迫したための救済的な統合などを背景として,合併や事業譲渡等のM&A注1が一定程度進んでいる.

事業連携・統合事例

公立病院の統合—公的病院との統合事例と民間企業立病院との統合事例

著者: 大西祥男

ページ範囲:P.398 - P.402

■はじめに
 公立病院は地域医療に重要な役割を果たしているが,医師不足による診療制限から経営悪化を来たし,医療提供の継続が厳しい状況におかれている病院も少なくない.筆者は2009(平成21)年,兵庫県丹波市にある県立柏原病院に院長として赴任し,地域医療の再建に関わり,2011(平成23)年からは兵庫県加古川市で公立病院と民間企業病院の統合から新統合病院開院に携わってきた.この2つのケースにつき紹介する.

小規模病院が事業譲受によって獲得した経営安定性の向上

著者: 志田知之

ページ範囲:P.403 - P.406

■はじめに
 医療法人天心堂志田病院(以下,当院)は2017年末まで48床であったが,病床が少ない中,回復期リハビリテーション機能とともに在宅療養支援病院としての機能を担っていた.28床と20床の2病棟体制であったため,病床の効率的な利用は非常に困難であった.当院は病床過剰地域にあるため長年増床が叶わず,病床種別の小変更を繰り返しつつ,グループホームなどの小規模介護保険施設を併設するなど,苦肉の策で対応していたが,根本的な解決とはなり得なかった.そんな中,近隣にあった当院と同じ規模の病院の事業譲渡を受け,2019年に念願の増床が実現した.そのことにより,地域の中で当院が果たすべき役割をこれまで以上に担うことが可能となった.

医療・介護の連携拠点を担う病院再編—民間病院の合併の一例

著者: 西澤寬俊

ページ範囲:P.407 - P.410

 わが国の医療体制は,歴史的に民間医療機関がその発展を支えてきた.なかでも地域医療において,中小の民間病院が果たしてきた役割は,歴史的経緯を見ても疑う余地はない.
 しかし,度重なる医療法改正ならびに診療報酬改定,少子高齢化社会の到来に伴う労働人口の減少,そして地域の過疎化など,中小の民間病院を取り巻く環境は厳しさを増すばかりである.とりわけ,老朽化した施設を抱えた内科系中小病院は,後継者ならびに資金確保に大きな課題を抱えているケースが多く見られる.

病院の事業譲渡の留意点—地域医療構想調整会議における制度内容の認否

著者: 有島尚亮

ページ範囲:P.412 - P.417

■はじめに
 2020(令和2)年10月メインバンクより同一医療圏の病院(以下,S病院;急性期60床)の事業譲渡について公益財団法人慈愛会(以下,当法人)へ相談が持ち掛けられた.相談内容はS病院の急性期機能を廃止し無床診療所へ転換したいので,病床廃止部分の60床を引き受けてもらえないかというものであった.
 当法人はS病院との統合を進めていく中で,「病床削減支援給付金(以下,削減支援給付金)」と「医療機関統合支援給付金(以下,統合支援給付金)」の存在を知った.両給付金は,医療機関の病床削減や統合・再編への支援を目的とした国の施策である.
 当法人では対応窓口である県くらし保健福祉部(以下,県保健福祉部)や厚生労働省(以下,厚労省)とも協議をしながら,病床削減および統合に関する上記給付金の申請手続きを進めていった.しかしながら,本事例は全体スキームとして制度内容に合致しながらも,地域医療構想調整会議(以下,調整会議)でその一部しか認められなかった事例である.
 本稿では本事例の経緯や結果および補助金申請の留意点を報告する.

病院のブランド力を基盤としたヘルスケアグループの取り組み

著者: 相良吉昭

ページ範囲:P.418 - P.420

 鹿児島県にある社会医療法人博愛会相良病院(以下,相良病院)は筆者の祖父である相良吉夫が1946年に外科病院として開業,父の相良吉勝が1973年に乳腺X線装置を導入してから乳腺外科の専門病院としての診療を開始した.現在は「さがらウィメンズヘルスケアグループ」の中心的医療機関として複数の乳がん専門病院を運営支援しており,2021年のグループ全体の乳がん手術数は1,568件(うち相良病院は755件)である.
 人口減少と少子高齢化,そしてコロナにより急速に萎縮していく日本において,夢のある医療活動は描けるのか.スケールメリットや経済成長が望めない状況において,「価値の創造」こそが未来へ夢を描く手段と考える.われわれはアジアNo. 1の乳がん医療を専門としたヘルスケアグループを創るという夢を実現するために,以下に挙げる3つのオープンイノベーションによって「価値の創造」を行っている.

連携推進法人

地域医療連携推進法人制度の概要と見直しの方向性

著者: 和田昌弘

ページ範囲:P.422 - P.425

■地域医療連携推進法人制度の概要
 地域医療連携推進法人制度は,2017(平成29)年4月に,地域医療構想を達成するための一つの選択肢として,地域の医療機関相互間の機能の分担・連携を促進し,質の高い医療を効率的に提供するための制度として創設された.その仕組みのポイントは二つあると考えている.
 一つ目は,地域医療連携推進法人(以下,連携法人)が一般社団法人であるという点だ.一般社団法人である連携法人に,病院や診療所,介護事業等に係る施設を開設する法人が参加法人(社員)として参画する.社員である参加法人は,連携法人の策定した医療連携推進方針に従い,機能分担や業務連携を推進していくことで「競争よりも協調」を進めるとともに,ヒト・モノ・カネ・情報を有効活用する.これにより,地域における良質かつ適切な医療の提供を目指す仕組みである.

地域医療連携推進法人による信頼関係の構築と制度の未来

著者: 濱名仁美

ページ範囲:P.426 - P.429

■はじめに
 地域医療連携推進法人制度は,地域の医療機関等が独立性を保持したまま相互に連携し,一体的な経営を行うことで地域医療構想や地域包括ケアの実現を目指す制度である.医療機関が政策目標に見合った形で変化するよう,非営利性を徹底した上で公益性を持たせようとした政策の一つと言える.
 本稿では,地域医療連携推進法人制度が創設される前の議論を参照しつつ,現在の運営実態を示し,昨年12月に社会保障審議会の医療部会が提案して2023年2月に閣議決定された制度改革についても検討する.

—【地域医療連携推進法人の事例】—少子高齢化,人口減少時代における地域医療・介護・福祉サービスの方向性—価値観のパラダイムシフト「所有から共有へ」「競争から協調へ」

著者: 亀田信介

ページ範囲:P.430 - P.433

■はじめに
 日本の総人口は,第二次世界大戦で一時的に減少した時代はあったものの,明治維新以降,急激な増加を続けてきた.一方,戦後の人口増加は,平均寿命の急激な伸長に伴う見かけ上の人口増加と言える.いわゆる「団塊世代」と言われる終戦直後の合計特殊出生率は4.0を超えていた.その後,1975年には,合計特殊出生率は人口維持に必要とされる値(2.06〜2.07)を割込む2.0以下となり,さらに2005年には1.26と過去最低を記録した.近年は1.3台で推移しているが,2022年は新型コロナ感染症の影響もあり,合計特殊出生数が全国で80万人(出生率1.27)を切ることとなった.中長期的な視点では,これらは明らかに人口(生産人口)の減少となり,国の将来に大きな影響を与えることになる.人口減少と相反し,平均寿命は男性が81.47歳,女性が87.57歳(2021年)で過去最高を更新した.戦後の平均寿命が50歳台であったことを考慮すると飛躍的な伸びである.つまり,事実上の人口(生産者人口)の減少を寿命の延長がマスキングしてきたことになる.これらの推移の結果,日本の人口は2008年に約1億2800万人のピークを迎えて以降,減少に転じており,その時点における高齢化率は22.1%であった.現在は,人口約1億2500万人,高齢化率は29.1%となっている.
 また,都道府県別の人口移動数注1を見ると,2021年および2022年においては,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響に伴い,リモートワークといった勤務形態の変化,または地方への移住などが要因となり,東京都への転入数が転出数を下回る状況となった.一方,神奈川県,埼玉県,千葉県,茨城県,栃木県,群馬県,山梨県といった首都圏においては,転入数が超過となっている.さらには,東京都の人口移動が限定的な要因であることを鑑みても,依然として首都圏一極集中が進んでいることが分かる.
 つまりは,多くの地域では少子高齢化・人口減少が進み,人・物・金の首都圏への一極集中が進んでいる.このような日本において,社会基盤(インフラストラクチャー)の一つである医療・介護・福祉サービスに対する今後の取り組みや方向性を考察する.

—【社会福祉連携推進法人の事例】—全ての壁を超える

著者: 山田尋志

ページ範囲:P.434 - P.437

■社会福祉連携推進法人制度の創設と意義
 2000年前後に社会福祉基礎構造改革が行われ,それまでの措置制度下における困窮者支援から,誰もが福祉サービスを享受できるサービスの普遍化の流れに移行した.具体的にはサービス理念の転換,多様な経営主体の参入などが推進され,社会福祉法人にも「経営」が求められる契機となった(社会福祉法第2条第1項).その結果,2017年度における介護・障害分野における社会福祉法人のシェアは20%台まで低下している.一方,2016年の社会福祉法改正では社会福祉法人の「地域における公益的な取組」が記載され「公益的・公共的」な責務が明文化された(社会福祉法第24条第2項).
 現在約2万1,000の社会福祉法人が存在するが,収益3億円未満が54%,5億円未満が71%,10億円未満が88%と小規模法人が多数を占めている.このような社会福祉法人を取り巻く環境が変化する中で,地域社会のインフラとして欠かせない存在である社会福祉法人が一定の経営の大規模化を推進することによる効果を期待して2020年6月に社会福祉連携推進法人制度が創設された.社会福祉連携推進法人制度は2022年4月に施行されたが,その認可要件として6つの業務のいずれかを行うことなどいくつかの要件が定められている(図1).

対談

個別の限界を超えて地域医療の持続性を図る

著者: 栗谷義樹 ,   川原丈貴

ページ範囲:P.375 - P.381

地域医療連携推進法人の先駆けである日本海ヘルスケアネットを牽引し,地域医療情報ネットワークの構築や地域フォーミュラリなど新しい試みを繰り出す栗谷氏に,これまでの歩みと今後の展望を伺う.

連載 アーキテクチャー×マネジメント・100

藤田医科大学岡崎医療センター

著者: 河合慎介

ページ範囲:P.382 - P.387

 藤田医科大学岡崎医療センターは2020年に新たに開設された大学附属の病院である.開院直前に,船内でCOVID-19が感染拡大したクルーズ船から無症状病原体保有者と濃厚接触者128人を病院まるごと対応にて受け入れたことが脚光を浴びた1).本稿では藤田医科大学岡崎医療センター(以下,岡崎医療センター)の現在に着目したい.

医療機関で起きる法的トラブルへの対処法・25

—医療費債権回収(1)—請求の手段

著者: 高坂佳郁子 ,   増田拓也

ページ範囲:P.440 - P.443

 医療機関の未収金の問題は,厚生労働省の「医療機関の未収金問題に関する検討会報告書」(平成20年7月10日)や,各年度の病院経営管理指標及び医療施設における未収金の実態に関する調査研究事業等において繰り返し指摘されてきました.令和3年度の同調査研究事業の報告書★2によれば,ある月単体で実患者数に対する未収金発生患者数の割合が10%以上であった医療機関も存在するようです.実務上,特に少額の債権については,回収の手間,可能性などを考慮して,ついつい対応を後回しにしてしまう病院も少なくないと思いますが,「支払いを踏み倒せる病院」との風評がたってしまうと問題ですので,普段から毅然とした対応を心掛けるべきでしょう.
 本稿では,医療費債権(未収金)を回収するための請求手段について概観します.

事例と財務から読み解く 地域に根差した中小病院の経営・39

医療法人社団誠療会 成尾整形外科病院—他院との情報共有で経営を管理し,評価とクレドで人財を成す

著者: 髙橋佑輔

ページ範囲:P.446 - P.450

 医療法人社団誠療会が熊本市に開設する成尾整形外科病院(以下,同院)は,開院以来,脊椎外科を主体とした整形外科専門病院として,地域に根差した医療を提供してきた.同院のある中央区は,最も面積が小さい行政区だが,人口密度が高く,整形外科を標榜する病院の約4割,診療所の約3割が集る競合エリアである.そのなかでも,同院は介護分野への参入,他の診療科へ手を広げることなく,専門病院としての歴史を重ねてきた.103床の規模ではあるものの,高い専門性と豊富な経験・技術により,2021(令和3)年度の年間手術件数は1,000件を超えるなど,その存在感を示す.
 先代が築き上げてきた高い医療の質と技術,それらによって得てきた地域や患者からの信頼と評価を礎としつつ,昨今求められるチーム医療,地域連携などにも対応し,コロナ禍でも成長し続ける同院の取り組みを見ていく.

地域と医療の未来を創る中小病院のあり方・2

中小病院の生き残り戦略としてのコミュニティ・ホスピタル

著者: 大石佳能子

ページ範囲:P.451 - P.453

■中小病院に求められる機能と役割の変化
 現在,日本の病院の約7割が200床未満の中小病院である.最大のセグメントが100〜199床(34%),その次に50〜99床(25%),50床未満(11%)と続く.ほとんどが民間病院で,多くは赤字である.
 株式会社メディヴァ(以下,当社)は創業以来多くの中小病院へのコンサルティングや再生に当たってきた.その経験から言うと,赤字の原因は,経営能力が欠如している場合も見られるが,そもそも国が求める役割や地域のニーズに合わなくなってしまっているためと感じている.

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目次

ページ範囲:P.388 - P.389

Book Review 《ジェネラリストBOOKS》高齢者診療の極意

著者: 松村真司

ページ範囲:P.439 - P.439

Book Review 標準組織学 総論/各論 第6版

著者: 内山安男

ページ範囲:P.445 - P.445

Book Review —外来・病棟・地域をつなぐ—ケア移行実践ガイド

著者: 角田直枝

ページ範囲:P.455 - P.455

Back Number

ページ範囲:P.457 - P.457

次号予告

ページ範囲:P.460 - P.460

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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