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雑誌目次

雑誌文献

病院82巻6号

2023年06月発行

雑誌目次

特集 急増する高齢者救急—医療提供体制の見直しと自院の役割 総論

急増する高齢者救急への対応と第8次医療計画・地域医療構想

著者: 鷲見学

ページ範囲:P.476 - P.480

■はじめに
 はじめに,2023年3月上旬に本原稿を書いていることから,この原稿が掲載されるタイミングにおいて状況が異なることにご留意いただきたい.
けた取組が進められているところである(図1).
 2024年度から開始する第8次医療計画の策定に向け,厚生労働省は,医療計画に関する検討会やワーキンググループ(WG)を計50回以上開催したところであり,2022年度中にその基本方針やガイドライン等を発出する予定である.一方,第8次医療計画から新たに6事業目として追加された「新興感染症」については,2022年12月に感染症法等が改正されたところであり,追って基本方針等を発出することとなる.
 医療計画の検討会やWGでは,高齢者数がピークとなり生産年齢人口が減少する2040年頃を見据えて議論がなされた.また新型コロナウイルス感染症の対応では,複合ニーズを有する高齢者救急における課題が明らかになった.本稿では第8次医療計画,地域医療構想での大きな課題となる,高齢者救急への対応について述べる.

高齢者救急の急増と医療機能の集約化・分散化

著者: 村上正泰

ページ範囲:P.481 - P.485

■はじめに
 地域医療構想では,高度急性期,急性期,回復期,慢性期という4つの機能ごとに2025年時点の必要病床数が示されている.慢性期を除き,診療報酬点数で評価した医療資源投入量に基づいて地域の機能別患者数を推計しているが,臨床の実態と必ずしも合致していない.しかも,必要病床数だけでは,「それぞれが等しくダウンサイジングや,急性期から回復期への機能の転換に取り組む」ので良いのか,それとも「急性期機能をどこかの病院に集約化する」とか「複数の病院を再編・統合する」ことが必要なのか,といった方向性も明確ではない.
 今後の医療提供体制を考える上では,医療資源を多く必要とする専門的な医療は,広域的に拠点となる基幹病院への集約化が必要になる.他方で,日常的で頻度の高い医療ニーズに対応する診療機能まで基幹病院に集約化されると,本来的にそれらの病院で果たすべき機能と乖離が生じてしまう.そうした診療機能は,ある程度の身近な地域で確保する必要がある.
 少子高齢化・人口減少に伴って変化する医療ニーズに対応するには,地域の患者数や医療資源の状況にも応じながら,「集約」すべき機能と,ある程度は「分散」すべき機能のバランスを考えることが重要である.本稿では,いくつかのデータや事例を紹介しながら,その点を検討する.

各論:高齢者救急に対する医療提供体制の在り方を考える

急増する高齢者救急の特徴から考えた医療提供体制の在り方

著者: 加納繁照

ページ範囲:P.486 - P.491

■はじめに
 戦後日本の出生数は1973(昭和48)年の約209万人,合計特殊出生率2.14をピークに年々低下し,2016(平成28)年には100万人を割り込み,2020(令和2)年には約84万人で合計特殊出生率は1.33まで低下した.当然総人口が減少する中で,高齢者の人口,その中でも75歳以上の後期高齢者人口が突出して増加するわけだが,急激に高齢化が進行する地域もあれば,高齢化がピークを越える地域もあるなど,人口構成の変化や医療および介護需要の動向は地域ごとに大きく異なる.急性期医療を担う医療提供体制から紐解きながら,高齢者救急について考察する.

急増する高齢者救急を支える地域包括ケア病棟の役割—multimorbidity患者の入院の実態も踏まえて

著者: 仲井培雄

ページ範囲:P.492 - P.496

■はじめに
 コロナの出口戦略は本年(2023年)3月13日のマスク着用の個人判断に始まり,5月8日の2類相当から5類感染症への変更に伴うさまざまな変更が実施された.2023年度はコロナ中心の医療が,高齢虚弱の“multimorbidity(多疾患併存)1)患者”中心の医療・介護へと混在・移行するように感じている.“multimorbidity”の定義は確立されてはいないが,一般的に「複数の慢性疾患が一個人に併存している状態であり,中心となる疾患を特定できない状態」とされる.
 実際にわれわれが日常臨床でみる割合が増えている患者像は,コロナの有無にかかわらず複数疾患を有し,高齢でADLと栄養状態,認知機能が低下し,ポリファーマシーになりやすく,入院前から継続して入院中も包括的な生活支援や意思決定支援を必要とする患者である.リハビリテーション(以下,リハ)は,社会復帰を目指す脳卒中モデルよりも,生活復帰を目指す廃用症候群・認知症モデルが主となり,アドバンス・ケア・プランニング(ACP)や多職種協働カンファレンスによる意思決定支援や合意形成は必須となる.
 地域包括ケア病棟は,急性期後の患者の受け入れ(ポストアキュート)と在宅療養中の患者などの受け入れ(いわゆるサブアキュート),在宅復帰支援の3つの機能2)を活かして,このような患者を受け入れ,地域包括ケアシステムを支える.

地域包括ケア病棟のみの病院でどこまで高齢者救急に対応可能か

著者: 鈴木学

ページ範囲:P.498 - P.501

■はじめに
 2022年度診療報酬改定で,地域包括ケア病棟において救急医療の取り組みが要件の一つとされた.筆者は,全床(128床)を地域包括ケア病棟として運営している医療法人笠寺病院(以下,当院:名古屋市南区)の事務長として勤務している.本稿では,今後,増え続ける都市部の高齢者救急に関して,当院がどこまで対応可能であるか,どのように地域で連携を進めていくべきと考えているか,を述べていく.

急増する高齢者救急に対応する救急体制の構築を—病院再編が地域医療に与える影響と自院の役割

著者: 吉田純一

ページ範囲:P.502 - P.504

 2000年ごろからの急激な高齢化の進行により65歳以上人口は現在3500万人を超えており高齢化率もほぼ30%となった.そして団塊の世代が75歳以上となる2025年が目前に迫り,75歳以上の人口が1,860万人で総人口の14.7%となった.今後さらに高齢化社会は進み,超高齢化社会へと進んでいく日本においてさまざまな医療問題が生じてくる.なかでも急増する高齢者救急もその中の重要な問題点である.
 全国の救急搬送件数は,2010年頃から増加の一途をたどっており,この2年間はコロナ禍の影響でやや減少したとはいえ今後もさらに増加すると考えられる.この救急搬送件数の増加の原因は高齢者人口の増加による高齢者救急の増加が原因であり,救急搬送数の年齢区分をみると2001年に38.5%であった高齢者割合は,2021年には61.9%と,20%以上もの大幅な増加となっている(総務省消防庁「令和4年版 救急・救助の現況」,本特集p488,加納論文図1参照).

救急現場の現状と問題点から急増する高齢者救急の在り方を考える

著者: 寺田康 ,   高橋泰

ページ範囲:P.506 - P.511

■はじめに
 人口減少,高齢化が進み,冬期間は「地吹雪」で有名な厳しい自然の東北地方日本海側にある山形県庄内地方で,二次救急医療を担当する医療法人徳洲会庄内余目病院(以下,当院)の,高齢者救急医療の現状を検討する機会を得た.
 その結果,予想を超える壮絶な医療現場を再認識したのでここに報告する.

急増する高齢者救急に対応する医療提供体制の構築—厚生労働省の救急・災害医療提供体制等に関するWGと東京都の地域医療構想調整会議の議論を踏まえて

著者: 猪口正孝

ページ範囲:P.512 - P.516

■はじめに
 日本では2025年に後期高齢者人口のピークを迎えるが,65歳以上の高齢者人口は2042年まで増え続けるとされている.東京都の高齢者人口は2045年まで増え続け,同時に高齢者救急も引き続き増加し続けると予想されている.私の経営する平成立石病院では近年85歳以上の高齢者の割合が増加している(図1).
 厚生労働省(厚労省)の救急・災害医療提供体制等に関するワーキンググループ(以下,救災WG)における意見のとりまとめが2022年10月25日に公表された.また,東京都では2022年度地域医療構想調整会議が開催され,高齢者救急の問題点について13圏域ごとに話し合われた.本稿では両会議の結果を踏まえて高齢者救急について検討する.三次救急については救災WGでも論じられたので,今後の三次救急についても加えておく.

超高齢社会における在宅療養支援病院の必要性—地域密着型中小病院として高齢者救急を含めた病院機能の確立を目指す

著者: 鈴木邦彦

ページ範囲:P.518 - P.523

■地域包括ケアを支える地域密着型中小病院としての在宅療養支援病院(在支病)
 現在,2025年を目指して,わが国が超高齢社会を乗り切る体制を確立するための改革が進行中であるが,その2つの大きな柱が地域包括ケアシステムの構築と地域医療構想の実現である.両者は車の両輪であるが,筆者はさらにかかりつけ医機能の充実・強化を加えた三位一体の取り組みが必要と考えており,コロナ禍を経て,その必要性はさらに高まっている(図1).
 このうち病院については,高度急性期と重症急性期の入院医療に特化した高度急性期大病院の計画的整備による集約化(人口50〜100万人に1カ所)と地域包括ケアを支える地域密着型中小病院の分散化(人口2〜4万人に1カ所)が2つの軸となり,それにかかりつけ医機能のさらなる充実・強化を加えた3点が地域共生社会を実現するための医療3条件と考えている1)

在宅医療と高齢者救急

著者: 佐々木淳

ページ範囲:P.524 - P.527

■在宅医療とは
 在宅医療は通院が困難かつ継続的な医学管理が必要な患者に対して提供される医療である.その多くは,治らない病気や障害とともに,自宅や施設で生活を継続している.終末期がんや神経難病などの基礎疾患を持つ若年患者もいるが,主たる対象は要介護高齢者である.
 在宅医療では,患者の継続的・計画的な医学管理を行うが,患者の多くは治らない病気や障害とともに人生の最終段階に近いところを生きている人も少なくない.在宅医療は,患者の病気や障害に対し,エビデンスに基づく医療を提供するにとどまらず,患者のナラティブ,患者の個別性に対応した総合的・包括的な支援を行う.

対談

急増する高齢者救急にどう備えるか

著者: 山本修一 ,   太田圭洋

ページ範囲:P.461 - P.467

今後,医療従事者も患者数も減少していくが,高齢者の医療需要だけは急増している.
地域医療構想により医療機能の再編が進むなか,急増する高齢者救急へどう対応するか.
大学病院長を経てJCHOの理事長に就任し病院団体のトップも務める山本修一氏に聞く.

連載 アーキテクチャー×マネジメント・101

鴨川市立国保病院

著者: 山下哲郎

ページ範囲:P.468 - P.473

■はじめに
 当時,無医村だった長狭地域(千葉県鴨川市)に,1949(昭和24)年2月8日に設立された国保診療所が,70年後の2021(令和3)年5月から新しい建物での診療をスタートした(図1).敷地内には別棟で,以前リハビリテーション棟だった建物を改修した地域包括ケアセンター棟(訪問/介護/居宅介護支援事業所など)も改修して残され,併設されている.本体部分には手術部門など,急性期医療に対応する診療機能はなく(歯科や救急の機能は備えている),近年の建設費高騰の状況とは勿論比較にならないが,建設費は相当に安く,また,およそ73m2/床(新築部分のみ)という規模の建物である(図2,3).
 病院の医療活動は,開設当時から続く在宅診療に力を入れており,その活動は,隣接する君津市や富津市,南房総市までをも含む,安房地域に住む100人以上の患者へと拡がり,文字通り地域に根ざした「かかりつけ医療機関」となっている.発足以来の伝統だった地域包括ケアを継承・発展させるべく,地域包括ケア病床52床,療養病床18床(医療療養病床10床,介護療養病床8床)の計70床,2フロア2看護単位構成の小規模病院である.同時に,同じ安房地域にある亀田総合病院が三次・高度急性期医療を支えているのに対し,そのアウトリーチを主体とする病院とも位置付けられる.まだ記憶に新しいコロナ禍の状況では,圏域での役割分担ができていて,富山国保病院(南房総市立)が病院全体でコロナ患者を受け入れ,鴨川市立国保病院はポストコロナを受け入れるという体制で,その対応も行ってきた.
 入院患者の平均年齢は85歳を超えて,外来患者の平均年齢も70歳代という具合である.昔はミニ総合病院を目指していたそうだが,現在は病院での総合診療,在宅での訪問診療にウエイトが移っており,実際の医師配置からもそのことがうかがえる.歯科(常勤2人)とリハビリテーション科・整形外科(常勤2人)の医師は多い.一方で,総合診療科は4人の医師で,在宅診療をはじめ,入院・外来診療や地域保健活動などに幅広く携わっており,外来の一部や当直は非常勤の医師に負うところが大きい.1日平均外来患者数は,コロナ禍以降,少し増えてきたそうで,2023年3月現在は100人程度になっている.

医療機関で起きる法的トラブルへの対処法・26

—医療費債権回収(2)—患者が死亡したときの対応

著者: 森恵一 ,   久保田萌花

ページ範囲:P.530 - P.533

■1 患者・連帯保証人が死亡した場合の相続人への請求
 医療費を未払いの患者やその連帯保証人が死亡したという場合,医療機関としては,当該患者や当該連帯保証人★5の相続人に医療費を請求することとなります.患者や連帯保証人の負っていた債務は,相続により,相続人に引き継がれます(民法896条).

ケースレポート 地域医療構想と病院・53

高齢社会の医療介護連携を支える医師会立回復期リハビリテーション病棟の役割—群馬リハビリテーション病院

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.534 - P.538

■病院の概要
 群馬県医師会 群馬リハビリテーション病院は表1に示したように,1962年群馬県医師会温泉研究所付属の沢渡病院(許可病床46床)として開設された.その後,リハビリテーション医療のニーズの増加,そしてその技術の進歩に合わせて提供体制を増強し,現在は回復期リハビリテーション病棟(回復期リハビリテーション病棟入院料1;156床)と療養病床(療養病棟入院料2;33床)から構成される189床のケアミックス病院として,主に群馬県医師会会員および地域の他病院からの紹介患者に対して温泉療法を含めたリハビリテーション医療を提供している1)
 同病院は吾妻郡中之条町という中山間地域にあるが,入院患者の約60%は吾妻郡以外から来院している2).病態別にみると約40%が脳血管障害,約20%がリウマチ以外の筋骨格系結合組織疾患,約30%が骨折等の損傷である2).入院患者の年齢構成は高齢者が主体で65歳以上が約75%で,85歳以上が40%となっている2).関連施設としては隣接する敷地に老人保健施設「ゆうあい荘」がある.これは1992年に中之条町から運営を受託したもので,同病院はその協力病院となっている.

地域と医療の未来を創る中小病院のあり方・3

コミュニティホスピタルを支える総合診療医と教育

著者: 大杉泰弘

ページ範囲:P.540 - P.542

■はじめに:総合診療医に魅力的なコミュニティホスピタル
 2018年から日本においても総合診療専門研修プログラムが始まった.従来の総合診療医の働き場所は,総合内科の流れをくむ急性期病院,家庭医療の流れをくむ診療所と大きく2つがあった.従来,200床未満の中小病院は総合診療の研修先や働き場所としてあまり注目されていなかったが,コミュニティホスピタル化することでその魅力は総合診療医にとって大きくなってきている.つまり2018年にスタートした総合診療専門研修によって,研修先またその後の働き場所としてコミュニティホスピタルは最適な医療機関の一つとなった.
 病院組織をマネジメントするためには,若手医師を戦略的にリクルートし,中長期的なビジョンを持ち,次世代のリーダー育成を見据えたビジネスモデルを構築することが重要であるが,今まで中小病院はその独自の魅力で若手の医師を集めることが難しかった.そのため医局からの医師派遣(医局派遣)やエージェントなどに頼って領域別専門医を集め病院を運営してきたのだが,それによって小さな病院にもかかわらず縦割りの医療になったり,在宅医療など新たな分野に踏み出すことができなかったりなど,デメリットが生じていた.
 コミュニティホスピタルへと変革するためには,病棟・外来・在宅医療など多岐にわたる診療の場や,さらに地域活動などを実践する医師が必要であり,それには総合診療医が最もふさわしい存在である.
 したがって,地域医療の担い手として医療ニーズに応えるためには複数人の総合診療医が働く病院にしていくことが必要であり,そのためには総合診療専攻医のリクルート体制を作ることが必須であるといえ,教育体制の整備が最重要である.

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目次

ページ範囲:P.474 - P.475

Book Review 《ジェネラリストBOOKS》高齢者診療の極意

著者: 江口幸士郎

ページ範囲:P.529 - P.529

Book Review がん診療レジデントマニュアル 第9版

著者: 石岡千加史

ページ範囲:P.544 - P.544

Back Number

ページ範囲:P.545 - P.545

次号予告

ページ範囲:P.548 - P.548

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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