icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

病院82巻8号

2023年08月発行

雑誌目次

特集 病院経営から考える医薬分業 医薬分業のあるべき姿

医薬分業の変遷,その先にある薬剤師の将来像

著者: 太田美紀

ページ範囲:P.652 - P.657

■はじめに
 平成の時代において,医薬分業が急速に進展し,それに伴い薬剤師がより一層の専門性を発揮することが期待されている.厚生労働省は,医薬分業が真に患者の薬物療法の質の向上につながるよう,またその効果を広く実感してもらえるように,さまざまな検討を進めてきた.その主なものとして挙げられるのが「患者のための薬局ビジョン」1)である.
 本稿では,当該ビジョンの進捗状況について,さらには,コロナ禍が収束に向かい,医療DXが進む中で,これからの医薬分業の目指す将来像について,述べたい.
 なお,本稿のうち意見にわたる部分は,筆者の個人的な見解であり,筆者が所属する組織の見解ではないことを申し添える.

医薬分業の在り方について—主計局次長と主査とのある日の議論

著者: 中村英正 ,   樫野壮一郎

ページ範囲:P.658 - P.661

 2023年5月某日.財務省主計局次長室において.

統計データから見た医薬分業の問題点

著者: 坂巻弘之

ページ範囲:P.662 - P.667

■はじめに
 2012年1月に刊行された『医薬分業の歴史—証言で綴る日本の医薬分業史』1)は,わが国の医薬分業の歴史を学ぶうえで欠かすことのできない書であり,重要な資料集ともいえる.本書によれば,1974(昭和49)年の処方せん料引き上げをきっかけとして,その後,医薬分業が進展したことから,この年を「分業元年」とする考え方が主流とされる(1974年より前は処方箋料交付1回につき6点だったものが50点に,調剤報酬も処方箋受付1回につき80円が200円にそれぞれ引き上げられた).
 その後も,伸び悩む分業率に対して関係者のさまざまな努力があった.その一方で,いまだ医薬分業に対する批判的な意見は多い.2015年3月の規制改革会議で医薬分業の在り方が議論され,医薬分業が二度手間になる一方で便益が享受できていないなどの指摘があった.こうした批判的意見もあり,厚生労働省は,同年10月に「患者のための薬局ビジョン」を公表し,「かかりつけ薬剤師としての役割の発揮に向けて,対物業務から対人業務へ」のシフトを今後の方向性として掲げた.同ビジョン公表後8年経つが,例えば,2023年の財政制度分科会での指摘2)にもあるように,当初の医薬分業の目標や対人業務へのシフトも十分には達成できているとは言えない.
 本稿では,改めて,薬局数や調剤医療費などの統計データを見ながら,医薬分業の課題について考察してみたい.

医薬分業の背景と現況についての考察

著者: 佐藤敏信

ページ範囲:P.668 - P.675

 本号で筆者に与えられたテーマは「医薬分業の現在の姿は,制度設計時の理想の姿に近づいているか」ということだが,実はその評価は簡単ではない.まずは,設計時の理想が簡単にまとめてある2015年3月12日の厚生労働省「医薬分業の考え方と薬局の独立性確保」1)の最初のページで復習してみる(図1).
 このスライドからさえ8年も経っているので,その評価はどうかと,今はやりの(ChatGPTをエンジンに組み込んだ)BingAIに「医薬分業が進んだことで,これまでにどういう好ましい効果や影響がありましたか? これを定量的に評価することはできますか?」と尋ねてみた.その答えをそのまま書くことはしないが,要は「ほとんど見当たらない」というものだった.そこで,一歩踏み込んで「例えば医療費の削減に効果があったというような報告や研究はありますか?」と聞いたところ,一つだけ見つけてくれた2).私もBingAIの結果を,そのまま鵜呑みにするほどナイーブではないが,それにしても誰もがすぐに知る,実感できるほどには報告されていない注1ということだろう.

病院経営の視点から考える医薬分業の現状と課題への対応

著者: 加納繁照

ページ範囲:P.676 - P.680

■はじめに
 医薬分業は,医師が患者に処方箋を交付し,薬剤師がその処方箋に基づき調剤を行い,医師と薬剤師がそれぞれの専門性で業務を分担することによって,医療の質の向上を図ることを目指す,すなわち医師と薬剤師が相互に専門性を発揮する効果を期待されて実施されたものであるが,果たして現状はどのようになっているのか.病院経営者としての視点から,医薬分業の現状と課題について考え,あるべき姿に導くにはどのようなことが考えられるかについて考察する.

医療DXの医薬分業に与えるインパクト

著者: 長島公之

ページ範囲:P.681 - P.685

■はじめに
 日本で急速に進み始めた医療DXにおいて,薬剤関連の分野は重要な位置を占めており,情報連携,効率化,患者本人の主体的参加などの進展により,医療機関と薬局の役割に変化が生じるなど,医薬分業に大きなインパクトを与える可能性がある.そこで,本稿では,医療DXの全体像と薬剤関連の取り組みについて概要を紹介し,その医療現場への影響と注意点について考察する.

薬剤師から見た医薬分業のあるべき姿

社会的・歴史的背景を踏まえた医薬分業の望ましい姿—日本薬剤師会

著者: 山本信夫

ページ範囲:P.686 - P.688

◆薬剤師・薬局制度の導入
 わが国に薬剤師・薬局制度が導入されたのは,およそ150年前.1874(明治7)年に明治政府により示された医制の21条において「医師たるものは自ら薬をひさぐことを禁ず,医師は処方書を病家に附与し相当の診察料を受くべし……」と記載されたことに始まり,1889(明治22)年に交付された薬律(薬品営業並薬品取扱規則)の第1条において「薬剤師トハ薬局ヲ開設シ医師ノ処方箋ニヨリ薬剤ヲ調合スル者ヲ云フ」と記載され,制度的には確立されている.しかしながら,当時の医療人材環境はその数において,医師に対して薬剤師の数が少なく,必ずしも時の政府が期待したようにはならなかった.欧米並みにわが国の医療制度を変えてゆく方針を充足するには「十分ではない」との強い意見に押され,法律はできたものの,「医師と薬剤師」の職能の分離,いわゆる「医薬分業」は法制度上の定義にとどまり,それまで同様「医師が自ら投薬する」状態が継続されることとなる.今日でも「Dispensing Doctor」と呼ばれているこうした状況は,世界薬剤師・薬学連合(FIP)などでも,グローバルな視点から改善すべき重要な課題とされている.
 また,1889(明治22)年当時,政府が欧州から導入した薬剤師・薬局制度の趣旨を,必ずしも正確に理解していたとも言い難い.今日,医薬分業を定義する際に誰しもが,薬剤師ですら,「医師が処方箋を発行し,薬剤師がその処方箋に基づき調剤をすること」と答える.誤りではないが,かといって正しい定義ではないと筆者は考えている.

医薬分業と今後求められる地域医療の連携に向けて—日本病院薬剤師会

著者: 武田泰生

ページ範囲:P.689 - P.691

■医薬分業の変遷
 日本における医薬分業の歴史は明治に始まったと考えられている.その経緯は表に示すとおり,近代的な医事衛生制度を導入すべく1874(明治7)年に制定された医制(ただし,衛生行政の方針を示した訓令のようなもの)に端を発する.すなわち,調薬(調剤)は薬舗主(薬剤師)等に限定され,医師が自ら薬をひさぐ(売る,商いをする)ことを禁じられた制度であった.
 その後,1889年の「薬品営業並薬品取扱規則」(薬律)の制定により,薬剤師は薬局を開設して医師の処方箋により調剤を行うことと規定された.つまり,医薬分業は明治の法令整備によって進められてきたものである.しかしながら当時は,特例として,医師が調剤および薬の販売を行うことを認められていたことから,医薬分業が不徹底に至ったとも言われている.

保険薬局の役割と病院との連携

スギ薬局グループの取り組む地域社会への貢献—ポリファーマシー対策・病院との相互研修・訪問調剤など

著者: 杉浦伸哉

ページ範囲:P.692 - P.694

■スギ薬局の目指す姿
 創業以来,医薬品,健康食品,化粧品,日用品の販売および処方箋調剤を通して地域社会への貢献を目指してきたスギ薬局グループは,ドラッグストアチェーンとして,グループ約1,500店舗,社員約35,000人の組織となった現在でも変わることなく「薬局」であることを誇りに,さらなる企業価値の向上と地域社会の持続可能な成長に取り組んでいる.
 2026年までの中期経営計画において,ヘルスケア領域の深耕,DXによる顧客体験の変革,協働・共創の拡大に取り組み,創業以来変わることのない理念である「地域社会への貢献」の実現を図っていく.生涯を「セルフケア領域」「医療・服薬領域」「介護・生活支援領域」の大きく3つのステージに分け,お客様・患者様がどのような健康状態であっても接点を持つ.それぞれの健康ステージで個々の状態に合わせ,リアルとデジタルを融合させた最適な商品・サービスを提供する戦略を展開する.これらの戦略により予防・未病から治療,介護・終末期の領域まで,全ての領域でお客様・患者様一人一人の健康ステージに応じたサポートを提供し,一生のお付き合いを通じて信頼関係を築くことで,健康で豊かな生活と地域医療を支えていく未来を描いている.

薬局機能分化の現状と専門医療機関連携薬局の役割

著者: 月岡良太

ページ範囲:P.695 - P.698

■はじめに
 2019年12月に改正法として公布された「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下,薬機法)」に伴い,2021年8月より「地域連携薬局」と「専門医療機関連携薬局(以下,専門薬局)」の2種類の薬局を認定する制度1)が施行された.法律下において保険薬局の専門性を外向けに標榜(図1)できる制度は本邦初となる.
 本制度は,利用者が自身に適した薬局を主体的に選択するために薬局を類型化したものであり,今後の薬局機能や質を評価するための指標の一つとなり得る.改正薬機法の施行後2年が経過する今,全国の保険薬局61,791施設2)のうち,2023年5月末時点の厚生労働省の公開情報では,地域連携薬局は3,777施設,専門薬局は152施設が認定を受けており3),そのうち当社の全薬局1,215施設では,地域連携薬局は457施設,専門薬局は25施設(うち両方の連携薬局の認定は20施設)が認定を受けている.
 各都道府県知事により認定を受ける本制度は,認定のための施設要件として多岐に渡る細かな規定が設けられており,日頃から薬局機能を網羅的かつ先進的にしっかりと果たしていなければ,認定を受けることができないといっても過言ではない.
 本稿では,がん等の専門的な対応が求められている専門薬局について,これまでの当社の取り組みも含めて紹介したい.

事例

日本海ヘルスケアネットの地域フォーミュラリ

著者: 佐藤義朗

ページ範囲:P.699 - P.702

■概要
 山形県酒田市では,わが国で最初の地域フォーミュラリを実施している.実施主体は「地域医療連携推進法人日本海ヘルスケアネット」である.
 「地域フォーミュラリ」とは「患者に対して有効性,安全性,経済性などの観点から選択されるべき医薬品集および使用指針」である.

病院敷地内薬局が地域連携薬局・がん専門医療機関連携薬局の認定を受ける意義

著者: 木村雅彦

ページ範囲:P.703 - P.706

■はじめに
 あけぼの薬局は1996年4月に茨城県西部,常総市に一店舗目を開局し,今年28年目を迎えた.現在は隣接する3市に9店舗の薬局を構えて業務にあたっている.開局当初より地域医療に積極的に関わっていきたいという思いで,在宅医療(在宅患者訪問薬剤管理指導業務)をいち早く開始した.現在は全ての店舗で,寝たきり高齢者はもとより,小児在宅医療,がん緩和医療,看取りの患者まで関わっている.
 薬局の特徴としては,がん緩和医療での疼痛緩和には欠かすことのできない麻薬も全ての店舗に数多く備蓄し,麻薬の経口が困難になった患者に対しては,常備しているシリンジポンプを医療機関に貸し出し,医師と共に投与設計をして,注射用麻薬持続皮下注の調製とその管理を行っている.また4店舗には早い時期からクリーンルーム,クリーンベンチを設置しHPN(在宅中心静脈栄養法)の無菌調製も手掛け,調製した高カロリー輸液を患者宅に届け,服薬管理指導等も行っている.
 2022年1年間のあけぼの薬局グループ9店舗の在宅業務実績は,在宅患者数664人で,404人(60.8%)が居宅(個人宅)訪問であった.がん患者は344人(51.8%)であり,そのうちの240人(69.8%)の患者が麻薬を使用した.麻薬の内服が困難になった患者やパッチ製剤で疼痛コントロールがつかず注射用麻薬持続皮下注投与を必要とした患者は68人である.がん患者の在宅訪問終了は,再入院か,死亡に分けられるが,居宅での死亡(いわゆる看取り)までに至った患者は,在宅訪問の終了した患者275人のうち238人で86.5%にのぼる.
 また,注射用持続皮下注の調製とは別に,クリーンルームクリーンベンチを使用して高カロリー輸液を無菌調製し在宅訪問した患者は47人である(表1).

産業医科大学病院と保険薬局との連携の現状

著者: 植木哲也

ページ範囲:P.707 - P.710

■産業医科大学病院の概要
 産業医科大学病院(以下,当院)は,1979年に開院した病床数678床の福岡県北九州医療圏で唯一の大学病院・特定機能病院である.

小児科を中心に院内処方に対応し続ける病院として

著者: 渡辺美保子

ページ範囲:P.711 - P.714

■病院史と病院機能
 1925(大正14)年3月に福島県の県中地域に位置する郡山駅前に星医院を創設し,間もなく100年を迎える.創始者である初代理事長には「『夜往診した患者さんが昼間は他の病院に行っているとしても,夜だけでも助けになれば』と夜中でも鞄ひとつ自転車に載せて,7km先まで往診に出かけて行った」というエピソードがあり,『おらが病院』として地域から必要とされる存在であり続けるために,総合病院や精神科病院,保健師看護師教育を担う学校等を創設した2代目理事長,そして,認知症や在宅医療,子ども事業や感染対策事業など社会情勢を先見し事業開発を行ってきた現理事長に至るまで,途切れることなく法人の事業目的である地域貢献の実現に奮闘し続ける組織である.
 公益財団法人のうち星総合病院(以下,当院)は,県中地域の基幹病院として急性期および高度医療を担い,かかりつけ医等と連携し地域医療の充実を図る430床,33診療科を有する地域医療支援病院である.また,地域に必要とされる人材育成分野として,基幹型臨床研修教育機関,看護師特定行為研修指定研修機関,感染管理認定看護師教育課程機関等を運営している.

対談

医薬協業の未来へ

著者: 狭間研至 ,   今村英仁

ページ範囲:P.637 - P.643

今の医薬分業はどこに問題があるのか.
課題解決の方策は何か.
調剤報酬や薬学教育の課題から,オンライン処方箋やリフィル処方箋の影響まで,薬局経営者であり,病院経営の現場にも立つ狭間研至氏に聞く.

特別記事

日本ホスピタルアライアンス(NHA)による「働き方改革調査」実施の目的と成果

著者: 一般社団法人 日本ホスピタルアライアンス 経営層委員会 ,   一般社団法人 日本ホスピタルアライアンス 病院運営管理委員会

ページ範囲:P.716 - P.720

 2024年に「時間外労働の上限規制」を中心とした「医師の働き方改革」が適用となる.働き方改革は,医師のみが関わる課題ではなく,病院経営を支える経営,事務部門の課題でもある.
 2022年,日本ホスピタルアライアンス(NHA)加盟病院に対し,働き方改革に係る監督機関への手続きや各種対策の先進事例の情報提供等を目的とし,働き方改革調査1)を実施した.その結果の集計・分析に基づき,各病院の課題や取組のフィードバックを行った.

連載 アーキテクチャー×マネジメント・103

医療福祉建築賞2022

著者: 岡本和彦

ページ範囲:P.644 - P.649

 1991年に創設された本賞は31回目を迎える.応募対象は過去3年間に竣工した施設であるが,コロナ禍により2020年度の募集を中止した影響で,今回は2017〜2020年度の4年間に竣工した作品を対象とした.コロナ禍の2020年度に竣工したものも応募対象となったため応募の増減が心配されたが,応募作品の総数は31作品(うち病院20作品,診療所3作品,保健・福祉施設など8作品)とそれほど変化はなかった.病院,診療所,保健・福祉施設などの比率も大きくは変わらなかった.近年は設計技術の向上により総合病院や単一機能の福祉施設は設計のセオリーや最適解が生まれ,建築賞に相当する新しい建築像を提案しにくくなったと言われながら,今回も5つの施設に賞が与えられた.国立循環器病研究センターと山梨県子どものこころサポートプラザは複合施設ゆえの相乗効果が期待できるような構成で,最近の医療福祉政策に求められる複合化(=合理化)にとどまらない点が評価された.残りの3作品は小規模かつ単一機能の施設であり,建築の持つ力そのものが施設の運営や在り方に影響を及ぼしたことが評価されたと言え,設計者は運営者の意図を汲み取りながらまだまだ新しい建築像を生み出す力を持つことを見せつけられた.
 近年は大規模施設の整備において,デザインビルドやPPP(官民連携)など資金調達段階から多くの組織が一体となって事業に取り組む事例が増えている.今回の応募作品の中にも都市型再開発の一区画をなす施設もあり,医療福祉施設がまちづくりや地域整備の中心として大きな役割を期待されていることもうかがえ,新しい潮流を感じることもできた.選考委員は今年から,秋山正子(マギーズ東京),河合慎介(京都府立大学),小松本悟(足利赤十字病院),鳥山亜紀(清水建設),南部谷真(神経研究所),山口健太郎(近畿大学),筆者の7名の新体制となった.最終的に以下に示す5作品について建築賞の授与を決定し,うち2作品を準賞とした.

医療機関で起きる法的トラブルへの対処法・28

暴力・暴言を伴わない患者の迷惑行為に対する診療拒否

著者: 小林京子 ,   黒瀧海詩

ページ範囲:P.721 - P.725

■1 安全配慮義務と応招義務のジレンマ
 患者による迷惑行為は,病院経営において非常に悩ましい問題の一つです.漫然と放置すれば,迷惑行為を嫌がる他の患者が他の医療機関に流れかねないほか,他の急患への対応が遅延して,容体が悪化したような場合には,病院に損害賠償責任★1が生じる恐れがあります.また,迷惑行為は,対応する医師,看護師や事務職員の多大な負担となり,離職の原因となりかねない上,対応に疲弊してうつ病などを発症した場合には,やはり病院の安全配慮義務★2違反となる可能性があります.他方で,医師個人は応招義務★3を負っており,病院も,患者からの診療の求めに応じて,必要にして十分な治療を行うことが求められ,正当な理由なく診療を拒んではならないとされていますので★4,軽々に診療を拒否するべきではありません.主治医などから迷惑患者への対応に関する相談を受けた際には,このようなジレンマを意識して,慎重に対応していく必要があります.
 迷惑患者への対応に関しては,一般論としては,本連載第2回★5で解説したとおり,警察への通報★6や仮処分命令の申立てなども考えられますが,本稿では,設例のケースのような暴力・暴言を伴わない患者の迷惑行為を念頭に,診療拒否に至るまでのプロセスおよび診療拒否の判断のポイントについて解説します.

ケースレポート 地域医療構想と病院・54

地方都市における地域包括ケアシステムのモデル事例—一般社団法人慈恵会(青森市)

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.726 - P.732

■法人の概要
 今回取り上げる一般社団法人慈恵会は青森県青森市を中心に病院・老人保健施設,介護事業所などの医療・介護・ヘルスケア事業を幅広く展開している1).図1は慈恵会とその関連組織を示したものである.慈恵会の中核施設は青森慈恵会病院で,一般病床84床,回復期リハビリテーション病棟96床,地域包括ケア病棟48床,緩和ケア病棟22床,認知症病棟82床のケアミックス病院である.
 同病院の急性期機能の中核は整形外科で,院長である丹野雅彦氏のリーダーシップのもと,青森県下で最多の股関節骨折の手術を行っている.2020年の整形外科領域の診療実績を表1に示した2).整形外科領域の術後患者や脳血管障害,心不全等でリハビリテーションが必要な患者は回復期リハビリテーション病棟(病棟基準1)で対応し,その後通所や在宅での介護,あるいは施設介護が必要な患者についても法人および関連の組織で継続的なサービスが提供できる体系となっている.ただし,法人内に利用者を囲い込むのではなく,地域の他の医療機関や介護事業者との連携にも力を入れており,法人の地域連携室の職員は精力的に地域の関係者を訪問し,連携関係の強化に努めている.

地域と医療の未来を創る中小病院のあり方・5

大病院と在宅の間をつなぎ,積極的にまちを作る—人口減少・超高齢時代の中小病院の役割

著者: 辻哲夫 ,   大石佳能子

ページ範囲:P.733 - P.736

生産年齢人口が減少し85歳以上の要介護高齢者が急増するなか,地域においてこれからの中小病院が果たすべき役割は何か? 医療者にとって大切なことは何か.元・厚生労働事務次官,東京大学高齢社会総合研究機構の辻哲夫氏に聞く.

--------------------

目次

ページ範囲:P.650 - P.651

Back Number

ページ範囲:P.737 - P.737

次号予告

ページ範囲:P.740 - P.740

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?