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雑誌目次

雑誌文献

病院82巻9号

2023年09月発行

雑誌目次

特集 —ある日突然,電カルが止まった—どうする,病院のサイバーセキュリティ

医療機関におけるサイバーセキュリティ対策をめぐる動向

著者: 森田朗

ページ範囲:P.756 - P.759

■医療DXと医療機関のサイバーセキュリティ対策
 2022年10月31日,地方独立行政法人大阪府立病院機構「大阪急性期・総合医療センター」に,ランサムウェアを用いたサイバー攻撃があり,電子カルテが使用不能となる事案が発生した.その結果,長期にわたって,新規外来患者の受入停止など,提供する医療への大きな影響が出た1)
 この事案の発生を機に,厚生労働省から医療機関に対してサイバーセキュリティ対策が発せられ,医療機関における対応が強く求められた.そして,本年5月に,従来のガイドラインを大幅に見直した「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第6.0版」2)が公表された.このガイドラインは,大部ではあるが,本文を,概説編,経営管理編,企画管理編およびシステム運用編に分け,各編で想定する読者に求められる遵守事項およびその考え方を示すとともに,Q&Aなどにおいて現状で選択可能な具体的な技術にも言及している.

「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」に基づく情報セキュリティ—サイバーセキュリティの視点から

著者: 島井健一郎

ページ範囲:P.760 - P.764

 医療情報システムの安全管理や,民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律(平成16年法律第149号:以下,e-文書法)等の法令等への適切な対応を行うため,技術的および運用管理上の観点から所要の対策を示すものとして,「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」(以下,ガイドライン)の初版が2005(平成17)年3月に策定された(図1).
 以降,技術の進展および制度改定等に対応する観点から,改定が行われ,2022(令和4)年3月には,近年のサイバー攻撃の手法の多様化・巧妙化,情報セキュリティに関するガイドラインの整備,地域医療連携や医療介護連携等の推進,クラウドサービス等の普及等に伴い,医療機関等を対象とするセキュリティリスクが顕在化していることへの対応として,情報セキュリティの観点から医療機関等が遵守すべき事項等の規定を設ける等所要の改定が行われ,第5.2版が策定された.

医療機関におけるサイバーセキュリティ対策

著者: 松山征嗣

ページ範囲:P.766 - P.769

■医療機関におけるサイバー攻撃とセキュリティ対策の変遷
 昨今,医療機関を襲うサイバー攻撃が大きなニュースとなっているが,実は今に始まったものではない.医療業界は,過去に経験した多くのインシデントを経て,その時々で基本的な対策の考え方をアップデートしながら現在のシステム運用に至っている.
 1999(平成11)年4月,厚生省通知「診療録等の電子媒体による保存について」および「法令に保存義務が規定されている診療録及び診療諸記録の電子媒体による保存に関するガイドライン」の発出により電子カルテシステムが解禁され,規模の大きな施設から導入が進んでいくこととなる.医療業界におけるICT活用の黎明期ともいえる2000年代には,医療システムは,一般的な情報システム同様にインターネット接続可能なLAN環境でクライアント,サーバーシステムが稼働し,電子カルテの端末でWebアクセスやメールアクセスができる状況であった.しかし,医療システムにおける情報セキュリティリスクやサイバー攻撃に対する認識が十分ではなかった当時,セキュリティ対策ソフトを導入していたもののアップデートが実施されないことも多く,メール閲覧やWebアクセスからマルウェアに感染するような事案が発生し,大学病院でシステム全体に影響する障害の発生も報道されている1)

サイバー攻撃に伴う経営リスクとリスクマネジメント

著者: 米澤祥子

ページ範囲:P.770 - P.773

■はじめに
 近年,経営主体や規模に関係なく,医療機関におけるサイバー攻撃による被害が数多く報じられている(表1).特に,徳島県つるぎ町立半田病院や大阪急性期・総合医療センターへのサイバー攻撃は記憶に新しく,サイバー攻撃が医療機関経営に甚大な影響を与えるリスクであることを示すものとなった.サイバーセキュリティ対策の必要性が高まる中,厚生労働省も法制度の面から医療機関に対してさらなる対策を求めており注1,この点からもサイバーリスクへの対応は経営課題として取り組むべき状況であるといえる.サイバーセキュリティ対策を怠った結果,サイバーリスクが顕在化し,医療サービスの停止につながることは既知の事実である.経営者は,サイバーリスクを想定して日々の経営管理を心がけておかなければならない.本稿では,経営課題としてのサイバーリスクにどのように取り組んでいくべきか,リスクマネジメントの視点から解説する.

サイバー攻撃の現状とその対策—昨今の病院に対するサイバー攻撃を鑑みて:ランサムウェアが本質ではない!

著者: 森井昌克

ページ範囲:P.774 - P.778

■はじめに
 医療関連機関に対するサイバー攻撃が激化している.2021年10月の徳島県つるぎ町立半田病院,その翌年10月の大阪急性期・総合医療センターの被害が象徴的ではあるものの,その病院だけが攻撃され,被害を受けただけではないのである.サイバー攻撃によって被害を受けた医療機関が必ずしも警察に届けるわけではなく,また所管する厚生労働省でもその実数を発表していないことから相当な数の医療機関が被害を受けているものと推察される.2022年警察庁への届け出があったランサムウェア被害は(図1)にあるように,230件であったが,表題にあるように警察庁に届けられた件数であって,専門家らは一律にその何十倍,そして悲観的には100倍以上とその実被害件数を推定している.なお,この230件のうち,福祉関係を含む医療機関は製造業,サービス業に次いで多く,20件という数字が公表されている.
 ここで強く主張したいことは,警察庁に届けられた件数であるということ以外に,ランサムウェアだけの被害であって,不正アクセス全体ではないことと,さらに重要なことは被害を認識した件数であるということである.2019年,筆者らは大阪商工会議所とともに,大阪市内での多業種にわたる中小企業30社について,実際にネットワークを流れる通信を約4カ月間詳細に分析し,サイバー攻撃の有無を詳細に調査した.その結果,30社全てにサイバー攻撃が認められ,その半数近い会社が何らかの被害を受けていることが判明した.驚くべきことに,1社として被害を受けている事実を認識していなかったのである1)
 本稿ではランサムウェアを含むサイバー攻撃の現実と,その本質,主として予防としての対策について記述する.近年では,被害を受けることを想定した被害最小化,つまりサイバーレジリエントなシステム構成,対策に移りつつある.バックアップは特にランサムウェア対策として重要視されているが,バックアップを取ることと,そのバックアップに基づいて復旧することは別物である.BCP(事業継続計画)に基づく早期完全復旧を見据えたレジリエントなシステム作りを心掛け,サイバー攻撃に備える必要がある.サイバーセキュリティ対策はできるできないの二択ではなく,その組織で可能な対策は必ず存在する.

大阪急性期・総合医療センターにおけるサイバー事案から学ぶべきプラス・セキュリティ

著者: 猪俣敦夫

ページ範囲:P.780 - P.784

■はじめに
 ハッカーという言葉,既にメディアなどでよく耳にされているのではないだろうか.残念なことに一般的にこの言葉を誤用されて用いられることが多い.ハッカーと言えばインターネットなどのサイバー空間で悪事を働く人たちを指す意味で使われているのをよく目にされているかもしれない.この言葉はもともと優れた技術やコードを生み出している人たちを指し,筆者からすれば尊敬すべき人を指す.もちろんいかなる技術も最終的には利用者の意識の違いによって,結果それが不法にシステムへ侵入を企てるなど悪意を持った人がいることもまた事実であるが,本稿では悪事から我々を守る正義の味方らも実はハッカーである,ということをまず述べておきたい.

サイバーセキュリティは難しくない!知っておくべきサイバーの119番通報—インシデントやアクシデントの大半は連携や設定の不足から起きる

著者: 萩原健太

ページ範囲:P.785 - P.789

 2021年10月31日徳島県南西部で,くしくもその翌年の2022年10月31日は大阪市南部で,ランサムウェアによるアクシデント注1が発生した.皆さんも記憶に新しい「つるぎ町立半田病院(以下,半田病院)」と「大阪急性期・総合医療センター(以下,大阪急性期C)」のアクシデントである.
 このアクシデントによって,電子カルテシステム(以下,電カル),部門システムはランサムウェアに感染しシステムが使用不能になった.通常診療や救急受け入れの停止,紙カルテ運用の開始など,どちらの医療機関も大きく混乱した.

医療現場のBCPとしてのサイバーセキュリティ対策

著者: 鳥飼幸太

ページ範囲:P.790 - P.793

■はじめに
 事業継続計画(Business Continuing Plan:以下,BCP)は,究極的には「いかなる環境変化に対しても社会的に宣言した事業活動を継続させる」ことを目的として策定される,実行可能な計画書である.医療機関の場合,「社会的に宣言した事業活動」は,高度急性期,回復期の別や,総合病院,単科病院の別,救急医療拠点,災害医療拠点など医療全体から見れば分担する範囲が異なるため,策定されるBCPも異なる.従って,「サイバーセキュリティ」という概念にあまり馴染みがない場合であっても,各医療機関の管理者ならびに医療スタッフが,「サイバー攻撃を受けても,社会的に宣言した自施設の事業が継続できる」と確信を持った備えや訓練を行い,これを明瞭に記述した計画を立案できれば,備えはできていることになる.ここから,各医療機関の特徴に応じて,備えるべきサイバーセキュリティ対策の手法や順序に違いが生じることが理解される.本稿では,各医療機関が自施設の事情に即してサイバーセキュリティを導入し,BCPの強化に繋げるための手順について,群馬大学医学部附属病院での事例を適宜参照しながら解説する.

サイバー救急の経験から語る初動対応の心得

著者: 納富彩歌

ページ範囲:P.794 - P.797

■はじめに
 一人でも多くの命を救うために診療行為を止めてはならないのは当たり前である.しかし,災害のように診療行為が継続不可能となる脅威は残念ながら存在する.さらに近年は,サイバー攻撃も診療行為の継続を妨げる脅威のひとつとなっている.
 もしサイバー攻撃を受けてしまったとき,病院は何をすべきか,どのような心構えで対応すべきか.ここではこれらの疑問に対してサイバーセキュリティ対策やサイバー事故救済サービスを提供するラックのサイバー救急センターでの経験を交えて解説する.

日本の電子カルテシステムにおける海外との差異とこれからへの期待

著者: 藤井圭介

ページ範囲:P.798 - P.801

■要旨
 IT化が進む現在,世界中で電子カルテシステムは普及している.このような状況の中で日本の電子カルテシステムは,他の国々と比較してどのように異なっているのか,という疑問が多く寄せられる.本稿では,米国を中心とする世界の病院情報システムの現状との比較,日本でも課題が顕在化し始めたサイバー攻撃への対策,そして今後の日本の電子カルテシステムに求められる要素に関して述べていく.

電子カルテシステムベンダーから見た,病院のサイバーセキュリティ

著者: 法邑昇

ページ範囲:P.802 - P.807

■医療機関におけるサイバーセキュリティの現状
 昨今,サイバー攻撃の手法は日々巧妙化し,医療分野でも電子カルテの停止など事業継続性を脅かす事案が発生している.その最たる要因としては,悪意ある第三者による医療機関を標的にしたサイバー攻撃が増加していることにある.ひとたびセキュリティ事故が起きると,医療機関は感染拡大や情報漏洩を防ぐためにやむなくシステムを停止せざるをえない状況となり,医療の提供に多大な影響を与えることとなる.最悪のケースではバックアップからデータ復旧ができず,電子カルテデータの消失,システムの再構築といった事案も発生している.
 近年では悪意ある第三者がインターネット経由でリモート保守用ネットワークのVPNルータの脆弱性を突いて攻撃するという事例が多発している.情報システム部門にて管理しきれていないVPNルータなどが医療機関内に存在し,意図しない内にインターネットからの攻撃脅威に晒されている状況になっている.そのため,医療機関内ネットワーク全体の外部接続設備を把握し適切に管理することが必須となっている.

対談

医療の安心・安全を守るICTシステムの課題と対策

著者: 長島公之 ,   太田圭洋

ページ範囲:P.741 - P.747

近年,医療機関においてサイバー攻撃による被害が増加しつつある.
本問題に造詣の深い日本医師会常任理事の長島公之氏に現在の医療機関のICTシステムの問題点や対策を行う上で重要な視点などを聞く.

研究

がん患者に対する苦痛のスクリーニングの現状—がん診療拠点病院等の指定要件に関する調査より

著者: 坂根純奈 ,   伊藤ゆり ,   太田将仁 ,   上田育子 ,   力武諒子 ,   渡邊ともね ,   山元遥子 ,   市瀬雄一 ,   新野真理子 ,   松木明 ,   東尚弘 ,   若尾文彦

ページ範囲:P.808 - P.815

要旨
【目的】がん診療連携拠点病院等(以下,拠点病院)の指定要件に「がん患者の身体的苦痛や精神心理的苦痛,社会的な問題などのスクリーニングを診断時から外来及び病棟にて行うこと」が義務付けられている.しかし,明確なスクリーニング手法は定まっておらず,その質の施設間格差が指摘されている.拠点病院の指定要件に関する調査から,各施設のスクリーニングの手法やタイミングについての現状把握を行う.
【方法】全国の拠点病院を対象に実施した実態調査の中の患者の身体的・精神心理的苦痛や社会的問題のスクリーニングについて分析を行った.
結果:スクリーニングは多くの拠点病院で,入院時点までの早期に行われていた.一方,スタッフの人員不足や,特に外来での全がん患者の把握が困難といった問題点も明らかとなった.
【結論】スクリーニングの手法の妥当性評価や教育の充実など,さらなる改善が必要である.

連載 アーキテクチャー×マネジメント・104

東京慈恵会医科大学附属病院

著者: 筧淳夫

ページ範囲:P.748 - P.753

■再整備のスタートから竣工まで
 東京慈恵会医科大学附属病院は,日本で最も歴史のある私学の病院として東京都内の西新橋に位置している.長い歴史を経て,一つのキャンパス内に10棟ほどの建物が近接して建てられており,老朽化が著しい建物から比較的新しい建物までが混在した状態となっていた.こうした状況の中で,2000年に,主として病棟部門となる中央棟を竣工させており,主要な病棟部門の再整備はこの段階で終わらせている.そして次なる課題はかなり老朽化が進んでいた外来棟の整備となったそうである.系列の病院の施設整備を先行させたために,実際に外来棟の再整備計画がスタートしたのは2012年からとなった.西新橋再整備準備室が2012年に構想をスタートさせており,8年間の歳月をかけて2020年に竣工となった.
 2012年にスタートを切るきっかけとなったのは,再整備の開始が遅くなって旧外来棟の老朽化がより厳しくなったことに加えて,耐震上の課題,そして新たに水害対策も課題となっていたことである.また,そもそも外来患者数は2,800〜3,300人/日であり,旧外来棟では患者のニーズに応えることができなくなっていたので,患者サービスを向上させる必要もあった.こうしてようやく外来棟が完成することとなったが,竣工した2020年1月はまさにCOVID-19によるパンデミックが世界中の医療に多大な影響を与え始めた時期であり,この外来棟もさまざまな困難を抱えての船出となった.なお,現在の新しい外来棟においてはCOVID-19によるパンデミック以前の患者数に戻ってきているとのことである.

医療機関で起きる法的トラブルへの対処法・29

医療用医薬品の入札談合に病院は損害賠償請求を行えるか

著者: 小林京子 ,   加古洋輔

ページ範囲:P.816 - P.821

■1 入札談合とは
 冒頭の設例のように,医薬品卸業者であるX・Y・Zが受注予定者や入札価格を決定すれば,X・Y・Z間における競争は制限され,Aは,公正かつ自由な競争が行われた場合に比べて高値で医薬品を購入せざるを得ない可能性があります.
 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下,独占禁止法)は,このような行為を禁止して,公正かつ自由な競争を促進し,もって,消費者の利益を確保し,国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とする法律です(独占禁止法1条).

事例と財務から読み解く 地域に根差した中小病院の経営・41

特定医療法人光晴会 光晴会病院—地域に寄り添う急性期病院

著者: 佐藤夏海

ページ範囲:P.822 - P.826

 特定医療法人光晴会(以下,同法人)が運営する光晴会病院(以下,同院)は,長崎県長崎市にある179床の急性期病院である.昨年秋に開業した西九州新幹線の終点,JR長崎駅のある中心部から路線バスで北に20分ほどの国道沿いに位置し,最寄りバス停から徒歩1分,JR道ノ尾駅からは徒歩2分と,アクセス良好な立地だ.
 長崎医療圏は長崎市と隣接する3市町で構成されており,人口約40万人と,長崎県全体のおよそ3分の1の人口を占める.また,高齢化率は32.4%と,全国平均の28.9%を大きく上回っており,今後も高齢者人口は増加が見込まれるため,医療需要のピークは2035年と予測注1されている.

地域と医療の未来を創る中小病院のあり方・6

人口減少地域における地域医療とまちづくり—安房地域医療センターと房総メディカルアライアンスの取り組み

著者: 亀田省吾 ,   大石佳能子

ページ範囲:P.827 - P.831

人口減少地域で,現存する医療資源をできるだけ活用し,低コストで,より高い質と効率化を実現する医療介護提供システムモデルを構築し,各地の人口減少地域に横展開していきたい.——千葉県の医療連携推進法人房総メディカルアライアンスでモデルづくりを進める亀田省吾氏に聞く.

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目次

ページ範囲:P.754 - P.755

Information

ページ範囲:P.832 - P.832

Back Number

ページ範囲:P.833 - P.833

次号予告

ページ範囲:P.836 - P.836

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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