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文献詳細

雑誌文献

病院82巻9号

2023年09月発行

文献概要

特集 —ある日突然,電カルが止まった—どうする,病院のサイバーセキュリティ

サイバー攻撃の現状とその対策—昨今の病院に対するサイバー攻撃を鑑みて:ランサムウェアが本質ではない!

著者: 森井昌克12

所属機関: 1神戸大学大学院工学研究科 2国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)

ページ範囲:P.774 - P.778

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■はじめに
 医療関連機関に対するサイバー攻撃が激化している.2021年10月の徳島県つるぎ町立半田病院,その翌年10月の大阪急性期・総合医療センターの被害が象徴的ではあるものの,その病院だけが攻撃され,被害を受けただけではないのである.サイバー攻撃によって被害を受けた医療機関が必ずしも警察に届けるわけではなく,また所管する厚生労働省でもその実数を発表していないことから相当な数の医療機関が被害を受けているものと推察される.2022年警察庁への届け出があったランサムウェア被害は(図1)にあるように,230件であったが,表題にあるように警察庁に届けられた件数であって,専門家らは一律にその何十倍,そして悲観的には100倍以上とその実被害件数を推定している.なお,この230件のうち,福祉関係を含む医療機関は製造業,サービス業に次いで多く,20件という数字が公表されている.
 ここで強く主張したいことは,警察庁に届けられた件数であるということ以外に,ランサムウェアだけの被害であって,不正アクセス全体ではないことと,さらに重要なことは被害を認識した件数であるということである.2019年,筆者らは大阪商工会議所とともに,大阪市内での多業種にわたる中小企業30社について,実際にネットワークを流れる通信を約4カ月間詳細に分析し,サイバー攻撃の有無を詳細に調査した.その結果,30社全てにサイバー攻撃が認められ,その半数近い会社が何らかの被害を受けていることが判明した.驚くべきことに,1社として被害を受けている事実を認識していなかったのである1)
 本稿ではランサムウェアを含むサイバー攻撃の現実と,その本質,主として予防としての対策について記述する.近年では,被害を受けることを想定した被害最小化,つまりサイバーレジリエントなシステム構成,対策に移りつつある.バックアップは特にランサムウェア対策として重要視されているが,バックアップを取ることと,そのバックアップに基づいて復旧することは別物である.BCP(事業継続計画)に基づく早期完全復旧を見据えたレジリエントなシステム作りを心掛け,サイバー攻撃に備える必要がある.サイバーセキュリティ対策はできるできないの二択ではなく,その組織で可能な対策は必ず存在する.

参考文献

1)森井昌克:中小企業へのサイバー攻撃の現状とその被害調査結果に関して—IPAおよび大阪商工会議所の調査結果から見えること—.商工金融 2019年10月号:42-59,2019 https://www.shokosoken.or.jp/shokokinyuu/2019/10/201910_5.pdf
2)徳島県つるぎ町立半田病院:コンピュータウイルス感染事案有識者会議調査報告書について.2022 https://www.handa-hospital.jp/topics/2022/0616/index.html
3)森井昌克:半田病院ランサムウェア事件の経緯と教訓-ランサムウェアが本質ではない!? 情報処理63:654-658,2022 https://note.com/ipsj/n/n184258249f0d
4)須藤泰史:ランサムウェアの脅威に対応した二ヵ月の軌跡.病院81:795-798,2022
5)厚生労働省:医療機関等におけるサイバーセキュリティ対策の強化について(注意喚起).2022 https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001079508.pdf

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1383

印刷版ISSN:0385-2377

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