ケースレポート
地域医療構想と病院・58
地域医療構想策定における地区診断の必要性—釧路医療圏を事例として
著者:
松田晋哉
ページ範囲:P.333 - P.337
■はじめに
現在,厚生労働省においては,2040年を見据えた新しい地域医療構想の検討が始まっている1).現在の地域医療構想で示されている機能別病床数の推計値に対しては,財務省や財界からはその進捗状況が芳しくないことが批判されている2).他方,医療業界からは,高度急性期,急性期,回復期という区分設定そのものに無理があること,一般病床に限れば,ほぼ推計結果に近い病床数になっていることが指摘されている.また,いまだに点数で単純に機能を区分したという誤解があり,より精緻な推計を行うべきだという意見もある.筆者はこの推計を行った当事者であるが,あくまで点数を参考に地域別に傷病別,性年齢階級別の有病率を求めたのであって,単純な計算をしたわけではない.この点については拙著で説明しているので参照していただければと思う3).
さて,地域医療構想であるが,この検討に当たっては研究班が作成した,個々の地域の傷病構造の変化を可視化し,またシミュレーションができるツールが都道府県に配布されていた.その意図は,このツールを用いて地区診断をしてもらい,その結果を踏まえて,各医療構想区域で,関係する医療機関が自施設の将来の役割を検討してもらうためであった.しかし,残念ながら,このような取り組みが行われた地域はほとんどない.また,ツールの更新も行われていない.地区診断なしで,機能別の病床数の議論をしても,意味のある方針は得られないだろう.加えて,今後の高齢化の進展と医療介護の複合化の進展を考えれば,議論すべき重要課題は慢性期の医療介護提供体制を,高齢者救急への対応も含めて具体的に考えることだろう.しかし,医療関係者だけでなく,介護関係者も含めて地域包括ケア体制の在り方を検討している地域は,筆者の知る限り岡山県4)など少数にとどまる.
新しい地域医療構想においては,地区診断を地域の関係者全体で行い,その結果を踏まえて,地域全体として目指すべき改革の方向性と,それに対応した自施設の機能の在り方を具体的に考える体制づくりが必要である.拙著でも紹介しているように3),そのためのデータは十分にある.
そこで,今回は前回紹介した釧路医療圏について5),SWOT分析の枠組みを使って,同地区の地区診断と今後の対策について考えてみた結果を紹介してみたい.なお,この地区診断の内容は筆者の視点で考えたもので,釧路医療圏の関係者の意見ではない.地域の実情を詳細に把握していない一研究者の見解であり,的外れな内容もあると思う.したがって,本稿の内容に関する一切の責は筆者に帰するものであることを最初にお断りしておく.