icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

病院83巻8号

2024年08月発行

雑誌目次

Interview

病院職員のメンタル疾患からの復職支援

著者: 吉川徹 ,   中村康彦

ページ範囲:P.593 - P.601

超少子高齢化が進む日本では,医療が必要な高齢者が増える一方で,医療従事者の確保が困難となりつつあり,医療現場を離れた有資格者の活用やメンタル疾患による休職者の復職支援も重要な課題となる.
労働安全衛生総合研究所で産業保健の研究に取り組む吉川徹氏に,メンタル疾患からの復職支援において重要なことや職場環境改善に当たって押さえておくべきポイントを聞く.

特集 潜在医療資格者をいかに活用するか

扉/本特集の論旨が分かるPoint一覧<潜在医療資格者をいかに活用するか>

著者: 中村康彦

ページ範囲:P.610 - P.611

 厚生労働省によると,1人の女性が生涯に産む子供の数を示す合計特殊出生率が2022年度は1.26であった.政府も少子化対策に乗り出しているが効果がみられない状況にある.少子化が進むことで労働人口が減少する反面,医療・介護サービスを必要とする高齢者の割合は増加している.
 今後,医療従事者が不足する未来が想定されているが,それでもわれわれは適切な医療を提供し続けなければならない.そのためにも医療分野から離れてしまった有資格者を少しでも多く復職させることが重要だ.本特集では医療従事者数や潜在医療資格者の現状を知り,復職支援などの取り組みとその効果を紹介いただくとともに,医療分野からの離職理由を知ることによって,医療分野への復職・定着につなげたい.

医師確保の取組について—厚生労働省の視点から

著者: 佐々木康輔

ページ範囲:P.612 - P.615

Point
地域における医師の確保については,これまで地域枠を中心とした医学部定員の増員をはじめ,医師養成過程を通じた対策や,各都道府県における医師確保計画を通じた取組など,さまざまな対策が行われてきた.若手医師を中心としてその偏在是正の効果が表れていると考えられるが,今後医師の需給が均衡する中で,さらなる取組の検討や推進が重要である.

看護師等確保の取組について—厚生労働省の視点から

著者: 櫻井公彦

ページ範囲:P.616 - P.619

Point
今後,就業者数全体が減少し,どの職種も人手不足の中,医療人材だけ増やすということは難しいと思われ,生産性の向上等に取り組む必要がある.志望者確保,訪問看護の推進,処遇改善,特定行為研修などによる資質向上,ナースセンターの機能強化,プラチナナースの就業継続などについて,「看護師等の確保を促進するための措置に関する基本的な指針」に基づく取組を進めるとともに,2025年以降の需給推計に関する検討などを行っていく.

埼玉県ナースセンターが行う潜在看護師の復職支援

著者: 禰屋文恵

ページ範囲:P.620 - P.625

Point
埼玉県ナースセンターは,看護職の確保・定着を目指した看護師などの無料職業紹介事業を運営し,潜在看護師の復職を支援している.相談体制は,看護職としての実務経験がある相談員を5人配置し,復職を希望する看護職の相談に対応している.相談員は,求職者の研修受講中から終了後も伴走者として,復職に向けた看護職の主体的な活動を支援する役割を担っている.

女性医師の復職・キャリア支援—岡山県女性医師キャリアセンター運営事業MUSCATプロジェクト

著者: 藤井智香子

ページ範囲:P.626 - P.631

Point
岡山大学病院では岡山県などの支援を受け,女性医師の視点から離職防止・復職支援・キャリア支援を行うMUSCATプロジェクトを実施している.「キャリア支援制度」では自らの将来的なキャリア構築のビジョンを持ってもらえるようにすることで,大学病院での勤務を通してスキルアップをし,地域の医療機関に復職するという地域貢献の流れができている.

医師が離職する理由/定着のために医療機関ができること—転職支援コンサルタントの視点から

著者: 松本剛 ,   久保田千皓 ,   川畑美佳

ページ範囲:P.632 - P.635

Point
医師が離職する際,抱えている課題について,職場に一度も相談しないまま転職を決意するケースは多い.課題を抱えた初期段階で,職場に相談しやすい環境があるかどうかは離職の大きな分岐点になる.また医師の定着においては,採用活動段階で,医師が入職後にネガティブなギャップを感じないよう配慮することが重要である.

転職市場に見る看護師の離職の理由と防止策

著者: 酒井貴文

ページ範囲:P.636 - P.641

Point
「マイナビ看護師」の登録者から得られたデータでは,退職理由が「条件軸」と「精神軸」に二分した.しかし,こうした情報は正確に病院に伝わらない傾向にある.看護師の世代ごとの違いや,コロナ禍の影響なども加味しながら,正しく離職理由を捉えて効果的な対策を打つ必要がある.

美容業界に向かう看護師,その後の選択

著者: 松﨑智

ページ範囲:P.642 - P.647

Point
少子高齢化が進み,病院における看護師不足は危機的な状況にある.看護師の病院退職理由の1つとして美容業界への転職が注目されているが,美容クリニックへの転職後に医療へ復職した事例を通して,なぜ医療から美容へ転職するのか現状を把握するとともに,美容業界からの復職を含めた潜在看護師の病院への復職・定着には何が必要かを考えたい.

特別記事

患者・市民の視点から見た診療情報の利活用とオプトアウト—制度上の要件と対応への懸念

著者: 亀山純子 ,   井上悠輔

ページ範囲:P.648 - P.654

■はじめに
 本稿では,倫理的課題の観点から,医療AIの研究開発に関わる「オプトアウト」の在り方に注目して,患者・市民の反応を検討する.近年,改正個人情報保護法(正式名称:個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律)1)ならびに倫理指針2),改正次世代医療基盤法(正式名称:医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報及び仮名加工医療情報に関する法律)3)において,診療情報の第三者提供をしようとする際の「オプトアウト」の在り方に改めて注目が集まっている.特に研究開発目的での情報アクセスは,国の施策の下に近年緩和される方向での議論がなされているが,具体的な手続きには医療機関側の取り組みも重要となる.
 オプトアウトは,研究にかかる概要を含め文書などによる説明にて1人ずつ同意を得る代わりに,必要な情報を通知または公開し,研究利用が実施または継続されることについて,患者が拒否できる機会を保障する.例えば,国際医学団体協議会(Council for international organizations of medical sciences:CIOMS)のガイドラインによれば,「試料の由来するところの個人の明示的な拒否がない限り,その試料が将来の研究のために保存され,利用されるというものである」とされている4).研究利用では,自身の情報の活用に賛成しない個人は,自分から研究不参加を表明する形である.この手法は,個別同意を得ることが困難なケースについての労力を削減し,また説明を受ける患者の負担も軽減できる.ただし,患者がその存在を十分な情報提供の元に認識する必要があり4),オプトアウトそのものに関する人々の理解がないと成立しない機能でもある.しかし,この取り組みについて,対象者,すなわち患者・市民の反応を踏まえた評価はこれまで行われてきていない.
 本稿では,医療AIの研究開発を目的とした,企業による診療情報へのアクセスを想定して検討してみる.今日,質の高い医療AIの研究開発のためには,機械学習のデータとして多くの診療情報が必要となっている.以下に示すように,医療AI研究開発を目的とする企業への情報提供を想定した,診療記録の利活用に係るオプトアウトについて,患者・市民を対象にフォーカス・グループ・インタビュー(以下,調査)を実施した.その結果,診療情報の研究利用に対する認識とオプトアウトに対する認識が明確に分かれていることが確認されたので共有する.

連載 アーキテクチャー×マネジメント・115

医療福祉建築賞2023

著者: 岡本和彦

ページ範囲:P.602 - P.607

今回は特別編として一般社団法人日本医療福祉建築協会が主催する医療福祉建築賞2023を紹介します.

医療機関で起きる法的トラブルへの対処法・40

診療ガイドラインと異なる診療を行ったとき

著者: 堀田克明

ページ範囲:P.655 - P.659

■1 はじめに
 『Minds診療ガイドライン作成マニュアル2020 ver.3.0』によりますと,診療ガイドラインとは,「健康に関する重要な課題について,医療利用者と提供者の意思決定を支援するために,システマティックレビューによりエビデンス総体を評価し,益と害のバランスを勘案して,最適と考えられる推奨を提示する文書」と定義されています★1.近年,さまざまな診療ガイドラインが作成されており,臨床現場においてその果たす役割は重大なものとなっています.
 診療ガイドラインは司法の場で用いられることを目的に作成されているものではありませんが,実際,裁判では証拠として提出されることが多いです.今回は診療ガイドラインが裁判でどのように利用されるかについてみていきます.

ケースレポート 地域医療構想と病院・60

道東勤医協釧路協立病院

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.660 - P.665

■はじめに
 人口構造の変化は,当該地域の医療機関に機能の見直しを求める.しかし,2年ごとに繰り返される診療報酬改定に対応することが病院経営にとって重要であることから,個々の医療機関は中期的な展望が持ちにくいのが現状である.また,診療報酬の改定では,ボリュームの大きい都市部の議論が中心になりがちである.その結果,人口構造の変化がより進んでいる地方の場合,気が付いたときには自院の機能が地域で必要とされているものと大きく乖離してしまっていることがしばしば起こる.この際,それまで急性期を担ってきた病院の対応は2つに分かれる.閉院や診療所への転換により病院機能をやめてしまうか,あるいは新しい機能を再定義し,その整備を進めるかである.
 筆者は高齢化が進む地域社会において,病院は住民の安心を支える社会的インフラであると考えている.従って,上記のような場合,まず考えるべきは地区診断と自施設のポジショニングによる,機能の再定義である.その結果としての,閉院や診療所への転換であるなら合理的であると考えるが,地域のニーズがある状況でそれに応えないという選択肢はでき得る限り避けるべきだろう.
 しかし,機能転換は組織内に大きな軋轢を生むことが少なくない.こうした事態を避けるためには,データに基づきながら,院内の関係者が忌憚のない意見を交換し,納得して機能転換を進めることである.そして,この議論の際,中心に置くべきは,地域住民のニーズである.こうした難しい機能転換を見事にやり遂げ,結果として地域住民の安心を直接的に支えるだけでなく,他の医療機関や介護施設を支援する地域のハブ的な病院になったのが,道東勤医協釧路協立病院(以下,釧路協立病院)である.本稿では訪問調査で黒川聰則理事長と谷口和基事務長をインタビューした内容と,谷口氏の論文1)などを基に,同病院の機能転換の過程について紹介し,新しい地域医療構想の在り方について論考してみたい.なお,釧路医療圏の概況については,すでに紹介しているので,この地域の地区診断の詳細については前報を参照されたい2,3)

臨床医が病院長になった日・8

新米院長として「医療の谷間に灯をともし続ける」

著者: 足立誠司

ページ範囲:P.666 - P.667

■義務年限内派遣医師として勤務した病院へ四半世紀ぶりに院長として着任
 前任は鳥取市立病院で総合診療科として,診療局長,地域医療総合支援センター長を務めていました.智頭病院は中山間地の小規模自治体病院で,常勤医の高齢化,院長不在,中間管理職不在,内科系指導医不在等問題が顕在化し,鳥取県,鳥取市,智頭町が協議した結果,2022年10月より藤田好雄院長代行の後任として鳥取市(鳥取市立病院)から出向となり智頭病院院長を拝命しました.
 1995年に自治医科大学を卒業し,義務年限内派遣医師として,卒後2年目,4年目に智頭病院に内科医として勤務しました.当時は総合病院として内科以外に外科,整形外科,産婦人科,小児科,眼科の常勤医がおられ,若輩の内科医としてはいろいろ助けていただいた思い出があります.その後,総合診療および緩和ケアに関心があり,総合内科専門医,緩和医療専門医,総合診療専門医を取得しました.2002年のWHO(世界保健機関)による緩和ケアの定義が一般的に知られていますが,その後定義が変遷し,2018年WHOは“Integrating palliative care and symptom relief into primary health care”という概念を提唱しました.その理念に賛同し活動をしてまいりました.

--------------------

目次

ページ範囲:P.608 - P.609

Back Number

ページ範囲:P.669 - P.669

次号予告

ページ範囲:P.672 - P.672

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?