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患者・市民の視点から見た診療情報の利活用とオプトアウト—制度上の要件と対応への懸念
著者: 亀山純子1 井上悠輔1
所属機関: 1京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻医療倫理学分野
ページ範囲:P.648 - P.654
文献購入ページに移動本稿では,倫理的課題の観点から,医療AIの研究開発に関わる「オプトアウト」の在り方に注目して,患者・市民の反応を検討する.近年,改正個人情報保護法(正式名称:個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律)1)ならびに倫理指針2),改正次世代医療基盤法(正式名称:医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報及び仮名加工医療情報に関する法律)3)において,診療情報の第三者提供をしようとする際の「オプトアウト」の在り方に改めて注目が集まっている.特に研究開発目的での情報アクセスは,国の施策の下に近年緩和される方向での議論がなされているが,具体的な手続きには医療機関側の取り組みも重要となる.
オプトアウトは,研究にかかる概要を含め文書などによる説明にて1人ずつ同意を得る代わりに,必要な情報を通知または公開し,研究利用が実施または継続されることについて,患者が拒否できる機会を保障する.例えば,国際医学団体協議会(Council for international organizations of medical sciences:CIOMS)のガイドラインによれば,「試料の由来するところの個人の明示的な拒否がない限り,その試料が将来の研究のために保存され,利用されるというものである」とされている4).研究利用では,自身の情報の活用に賛成しない個人は,自分から研究不参加を表明する形である.この手法は,個別同意を得ることが困難なケースについての労力を削減し,また説明を受ける患者の負担も軽減できる.ただし,患者がその存在を十分な情報提供の元に認識する必要があり4),オプトアウトそのものに関する人々の理解がないと成立しない機能でもある.しかし,この取り組みについて,対象者,すなわち患者・市民の反応を踏まえた評価はこれまで行われてきていない.
本稿では,医療AIの研究開発を目的とした,企業による診療情報へのアクセスを想定して検討してみる.今日,質の高い医療AIの研究開発のためには,機械学習のデータとして多くの診療情報が必要となっている.以下に示すように,医療AI研究開発を目的とする企業への情報提供を想定した,診療記録の利活用に係るオプトアウトについて,患者・市民を対象にフォーカス・グループ・インタビュー(以下,調査)を実施した.その結果,診療情報の研究利用に対する認識とオプトアウトに対する認識が明確に分かれていることが確認されたので共有する.
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