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雑誌目次

雑誌文献

病院9巻4号

1953年10月発行

雑誌目次

特集 伝票制度の研究

社会保障と医療費

著者: 末高信

ページ範囲:P.2 - P.4

 社会保障制度は広狭種々に解せられているが,これを極めて狭く解釈しても,公的扶助制度と社会保険制度の二部門をその内容として居る。そして多くの国においては,その公的扶助制度においても医療扶助が行われ,社会保険制度のうちにおいても疾病保険又は健康保険の名を以て医療保険が存在して居るのが普通である。わたくしの知る限りにおいて,このことの例外をなすものはアメリカである。即ち1935年に樹立され,その後幾度か拡張されて現在行われて居るところの社会保障のプログラムのうちで,公的扶助は従来,老令者盲人及び他人に扶養されて居る児童に対してのみ与えられて居たのであるが1950年の改正で,その扶助対象を医療費による困窮者(Medical Indigent)に拡張したのであつた。ところが社会保険制度については,今日なお老年及び遺族保険(Old Age and Survivorship Insurance)と失業保険(Unemployment Insurance)の2種に限定し,社会保障としての医療保険を欠いて居る。
 ところがイギリスでも,フランスでも,ドイツでも,わが国でも,その公的扶助制度において扶助対象の一として医療が挙げられて居るうえ,社会保険制度の重要な一環として健康保険乃至疾病保険が行われて居る。この事実は,国民の生活を脅かす原因のうち疾病従つて医療の費用というものが如何に重大であるか,それによる悩みが如何に深刻であるかをもの語るものである。 アメリカでこのような医療についての保険制度を欠いて居ることは,同国には任意加入の医療保険制度が民聞に自然発生的に広く行われ,その加入者の総数は今や60,000,000人を超えると一いラ状態で,社会保障としての医療保障を或る程度代行して居るからであると見られるが,そのアメリカでさえもAFLやCIOを中心とする労働組合は,社会保障としての医療保険制度の樹立促進のために運動して居る。このことはアメリカのような生産力が強大で,一般民衆の生活水準の高い国においてさえも,医療費については,国が責任を負うところの社会保障として行うのでなければ,国民の大部分(特に労働階級に圏するもの)はその負担に堪えないという現実の姿を示すものである。

国立東京第一病院に施行中の傳票制度

著者: 守屋博 ,   染谷恭次郞 ,   三沢仁

ページ範囲:P.5 - P.21

 現在,病院会計の合理化は,伝票制度を用いる事以外に方法はないと考えられている。我々は昭和27年4月から研究を始めたのであるが,経費,定員の関係からやつと本年4月から軌道に乗る事になつた。現在一病棟,一病棟と順次改革して,本年9月に完成する予定である。今約半分の病棟に行われているが,その結果は予想通り仲々好調である。今後の問題は外来伝票をいかにするかと云う所にあるであろう。この成果はいずれ稿を改めて報告する積りである。本研究は厚生科学研究費によつて行われたものであることを附記する。

企業会計組織に於ける伝票制度の一例

著者: 落合勝一郞

ページ範囲:P.23 - P.30

まえがき
 病院管理論は注目すべき速度で発展して居る様であります。特に診療部面での改革は全く隔世的なものがあると云われますが,この反面,経営面に於る改善は必ずしも軌道にのつて居ないのが現実の様に見受けられます。特に病院会計,資材管理の面に於て著しい後進性が目立ちます。
 米国に於ては「病院の第一の機能はpatient-careであり,同時に病院はBusinessである」と一般に云われて居りますが,診療と経営とは病院の有機的な2つの要素であることは間違いありません。日本に於ける病院の在り方を見ますと,診療面の改革が進んでいる反面,経営面に至つては近代企業の尺度を以てすれば全く手の付けられない様な保守硬直を示して居る所が多いのではないでしようか。原因に就いては従来色々と批判され,分析されて居りますが,要はデパート式に集成膨脹した病院企業は医師の片手間では最早手に負えない位に複雑多岐に亘る内容に変ぼうして仕舞つたこと。又,事務担当者が唯古い経験の集積だけで腰だめ運営が出来る程,生易しいものではなくなつて来て居ること等にあると思います。

病院会計帳票について—山村氏の論文に答えて

著者: 尾口平吉

ページ範囲:P.31 - P.39

1.病院移管の近代化と企業会計
 病院経営は最近にいたるまで極めて非科学的非合理的であり,産業革命前の工業界のようにその規模も小さく——ベツト数は多い病院でも業務は単純であつた——家内工業的経営方法がとられていた。近時病院管理の研究とその改善は急速度に全国に普及されているが「病院が傷病者に科学的で適正な診療をなすために」その組織と運営は益益複雑となり経費も医療内容と向上と相まちいちじるしく昂騰してきた。この経費を賄う財源については,そのことの善惡は別として一応固定以外の殆どの病院が診療取入に依存せざるを得ない状況にある。診療収入を支配権社会保険診療報酬の低額据置は勿論不当であるにしても,国民の医療費負担能力の限界をも考えるとき,病院経営についても最小の費用で最高の効率をおさめると言う経済原則を適用せざるを得ない。
 この原則を適用し複雑化した組織を有機的に高能率的に運営,管理するためには,経営の科学化近代化を行わなければならない。このことは,好むと否とにかかわらず病院経営に企業の経営技術を大巾に導入しこの力を利用することとなる。

日報の一私案

著者: 原田重朗 ,   中島弘 ,   松本克己

ページ範囲:P.41 - P.45

 院長が病院の日々の動態を如何にして把握するかは,病院管理上絶対不可欠の問題であつて,病院としてそれぞれ苦心をしておられる事と思います。『院長室の整備』と題して守屋氏は院長の業務を詳細に述べてをられる(病院:第1巻第2号)が,その中で守屋氏は病院の日々の動態を示すに足る数字を,要領よく集計して院長に報告する必要性を張調しておられます。
 私達の病院でもこの報告を如何なる方法で作るかを研究し,3年前から以下に述べる様な病院日報を作り,一応其の目的を達してをります。勿論最初から今日の様な日報を作つたのではなく,初めは極く簡単なものから始めて次々と工夫改良して今日に到つたのであり,今日の日報も決して満足なものではなく,今後も順次改良して,簡にして要を得た日報を作りたいと念じていることは申す迄もありません。

病院長プロフイル・5

国立療養所浩風園長長井盛至氏—天成の療養所長

著者: 砂原茂一

ページ範囲:P.22 - P.22

 療養所長というのは全く変な商売である。学者であるというだけでは決してうまくいかないし,お役人的熟練だけでもひつくりかえる。聖人君子でないとつとまらないが,聖人君子というだけでも,つとまらない。だから私達の仲間は誰も彼も何となく片附かない顔をしてウロウロしているのである。
 しかし中には天成の療養所長といつていいような幾人かがいる。長井さんはその随一である。

インターンの頁

諸外国におけるインターン制度の概要

著者:

ページ範囲:P.47 - P.50

 昭和23年10月新医師法の施行によつて,わが国において始めて実地修練制度がひかれてからすでに5ヵ年の歳月を経た。その間めぐるましい政治社会経済等の情勢の変動と相俟つて,この制度に対する世論も又いろいろと変化して来た。とくに昨年来一部学生の本制度撤廃運動に端を発して最近では国会や政府部内をはじめ医界教育界等においても種々の論議を生んでいる。このときにあたつて,偶々世界保健機構第4回総会における議事録によつて,同会議において討議された各国の医師養成制度の内容を知る機会を得,更らに同機構発行のINTERNATIONAL DIGEST OF HEALTH LEGISLATIONの各号から各国医師に関する法規を知ることができたので,以下にこれらのうちインターンに関する事項についてその概略をのべて各位の参考に供したいと思う。

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病院関係人事消息

ページ範囲:P.46 - P.46

◇津田 誠次氏( 岡大外科教授)任期満了で辞任した岡大附属病院長根岸博氏(皮膚泌尿器科教授)の後任につき,先般の教授会に於て選挙の結果,氏がその後任院長に当選。氏は鹿児島の人,大正6年東大卒,佐藤,都築外科にて研究,同14年東大で学位を授与,昭和14年岡大医院長となつたことがある。明治26年3月生れの本年60歳。
◇佐々 貫之氏 (関東逓信病院長)今回日本医師会に設置された医療内容改善委員会の委員長に推さる。

病院事務管理(2)

著者: 三沢仁

ページ範囲:P.51 - P.53

組織のはなし(1)
ある試験問題
 まだ覚えておられる方もあると思うが,3年前,人事院という役所が,課長以上の役人の試験,いわゆる高級公務員試験というのをやつたコトがある。この問題は,そのときに出されたモノのヒトツである。ちよつと考えていただきたい。
 問 ある役所の機構を調べてみたところ,一人の課長のモトに14の係が属しており,各係のシゴトの性質,事務の取扱方は類似性をもつているが,対象が非常に異なつているコトを知つた。これでは課長が課全体を適切に指揮監督していくコトが困難である。

Dr. Moriya's Recordtape

著者: 守屋博

ページ範囲:P.54 - P.56

(30)病院経営管理と,経営單位
 凡ての経営は数字によつて把握され,数字によつて計劃されるものである。よい経営者は数字によつて事業全体の動きを見なければならぬが,その為には数字が事業の動きを正直に示す事が必要である。
 多くの病院では色々の数字の表を作つている。その多くは,外に対する報告である。殊に経営者が病院外にある国立病院や,県立病院では其の感が強い。数字の要求者はそれぞれの立場で計劃するから,それもやむを得ぬのであるが,外に出す報告書だけでは病院の実体はつかめぬのが普通である。病院の事務員の数は制限されているから,病院自身の必要によつて,数字をつかみたいと思つても,事務員が外に対する報告で疲労困憊して内の統計を作る余力がないのが普通である。経営統計の進歩しなかつた原因はこんな所にあるのではあるまいか。

あとがき

著者: 小西

ページ範囲:P.56 - P.56

○今年の夏は稀に見る天候異変続きで,いろいろなことがあつたが,自然の力に対する人間の力の限界を思い知らされた。
この影響に今後も各方面にあらわれて来ると思うが,秋の收穫減が予想されているのは厄介なことである。病院に対する影響も少くあるまい。先ず,折角伸びかけた病院給食に又一つ問題がおきて来ることが憂慮される。又物価が上向の気配にあるというのも病院経営者にとつては頭痛のタネである。それは,物価の上昇を追つかけてベース改訂が考えられるのが常であり,そのベース改訂を追つかけるのが医療費であるので,この後手後手が病院経営のバランスシートを脅かす。

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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