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雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科23巻13号

1969年12月発行

雑誌目次

特集(増刊号の)2 腎不全 Ⅰ.腎不全の概念

腎不全の概念

著者: 楢原憲章 ,   阮豊慶

ページ範囲:P.7 - P.12

はじめに
 腎不全という言葉は広く用いられているが,意味する病態は案外漠然としておつて,時代により,人により,また同一人でも場合によりその意味するところを異にしていて,しかも類義語として腎機能不全,窒素血症,尿毒症などの言葉も広く使用され,あまつさえそれらの用語概念も必ずしも明確ではなく,混乱している。このことは外国においても同様であつて,たとえばドイツ語ではNiereninsuffizienz, Nierenversagen, Nierenfunkti-onsstörung, Dekompensation, Azotämie, Präurä-mie, Urämieなど,英語ではrenal insufficiency,renal failure, impairment of renal function, di-minished renal reserve, azotemia, uremiaなど種々の用語が混用されており,各用語の概念も人によつて広狭区々で一定していない。
 腎不全という邦語がいつ頃から使用されたかは詳かでないが,ドイツ医学を範とした戦前にNie-reninsuffizienzの邦訳として生れたことは間違いないと考えられる。

Ⅱ.急性腎不全

急性腎不全の原因と成立機転

著者: 葛西洋一 ,   檀上泰

ページ範囲:P.13 - P.19

はじめに
 腎臓は血液より尿を生成することによって終末代謝物質の排除,水分電解質の調整,酸塩基平衡の保持などにより生体内のHomeostasisを調節する重要な臓器である。
 この臓器の障害は重篤で致命的経過をたどることが多い点で,従来より各領域で最もおそれられてきた疾患である。

急性腎不全の血液化学の示標

著者: 稲生綱政 ,   水野克己

ページ範囲:P.21 - P.26

はじめに
 急性腎不全をもたらす原因には,外傷・手術侵襲・大出血・火傷,あるいは急性糸球体腎炎・急性腎盂腎炎・子癇の重症例・更には慢性腎疾患の急性増悪をも含めて考えても良い。この際,腎機能検査所見,血清・尿検査所見,臨床症状にいろいろの変化が見られるが,最初に異常が認められるのは尿量の減少である。その後種々の症状が発現するが,これらの病変は一般に適切な処置がとられれば可逆性で完全に治癒し得るものである。その病理組織学的変化は主として下部ネフロンにあり,いわゆるlower nephron nephrosisと総称されるものが多い。しかし,循環障害によるものなどでは必ずしも下部ネフロンのみに変化は限局されず上部ネフロンにも及ぶなど,必ずしも同一の変化より成るものではない。
 急性腎不全による乏尿・無尿が持続すれば,血中には窒素化合物などの老廃物の蓄積・酸塩基平衡の破綻・水分電解質の不均衡などの結果,浮腫・高血圧・高K血症・アチドーシスなどをもたらし遂には死亡するに至る。しかし,腎の病変は前述のように可逆性のものが多いのであるから,体液の平衡に努め更に要すれば透析療法を積極的に行ない救命に努力すべきであろう。ここではこの際の血液化学の示標を中心に,診断的症候を含めて述べる。

手術と急性腎不全の実際

著者: 稲生綱政 ,   水野克己

ページ範囲:P.27 - P.32

はじめに
 手術侵襲に関係して腎機能が少なくとも一過性の影響を受けることは古くから知られた事実である。この原因としては,生体反応の一環としての抗利尿物質分泌亢進の他に,術前よりの脱水状態等による腎機能低下,術中の大量出血等に基づく循環血液量の減少,腎の血行障害,異型輸血,輸液療法の過誤,腎毒性薬剤の大量投与,感染による有毒物質の吸収など枚挙に限りがない。
 従つて,術後の急性腎不全を防止するためには,保護的な麻酔法の下に必要最少限の侵襲に止まる確実な手術を施行するのが第1の要因であるが,更にこれとともに,充分な術前準備と適切な術後療法が大切なことは論をまたない。しかし,これらの療法がかなり進歩した現在でも,心臓大血管手術後や肝機能障害の高度な患者などでは腎不全が進行し遂には無尿に陥り,人工腎臓や腹膜潅流による透析療法が必要となる患者が必ずしも稀とはいい切れない現状である。従つて,これらの患者の実際を中心として手術後の腎不全について述べよう。

急性腎不全の応急対策

著者: 前川正信

ページ範囲:P.33 - P.37

緒言
 慢性腎不全が腎病変そのもの,すなわち,慢性腎炎,腎盂腎炎,のう胞腎などにより発症するのに対し,急性腎不全はその原因の如何を問わず,2次的に招来される高度の腎機能障碍である。従つて急性腎不全では,厳密な意味では腎病変そのものは可逆性であるべきで,対策よろしきを得れば,その多くは救命し得るはずである。
 従来は急性腎不全の治療方針として,1)体内水分の調整2)電解質の調節3)蛋白崩壊の抑制4)感染防止5)貯溜産物の除去の5原則があげられ,このうち,1)〜4)の待機療法を主とし,5)の積極的療法を従とする方法がとられてきた。

圧挫症候群性腎不全

著者: 檀上泰 ,   宮川清彦 ,   越野勇 ,   田中信義 ,   佐藤知義 ,   福本徹

ページ範囲:P.39 - P.45

はじめに
 近年,交通外傷の激増と産業災害の頻発,更に手術侵襲の拡大は乏尿無尿を惹起する急性腎不全の併発と尿毒症への進展のため死亡する症例も時折みられる昨今であり,その治療に難渋するのが第一線の診療に従事する医師の共通課題となつている。
 従来,急性腎不全の死亡率は90%にもおよび,充分な治療対策が確立されていなかつたが,最近の透析療法の普及により,これらの致命的疾患に大きな光明を与えつつある。しかしながら,急性腎不全の治療が遅延したものでは,その救命率はなお50%内外であるのが現状である。したがつて,急性腎不全の発生機序とその予防的処置に対する基本的な認識が強調されるわけであるが,ここでは特にcrush injuriesによる体組織の挫滅という侵襲が体内に如何なる変動を起こし,急性腎不全という腎障害の誘因となるかを考察するとともに,その予防的処置と治療対策についても言及する。

Ⅲ.慢性腎不全

慢性腎不全の原因と形態病理的解釈

著者: 竹内正

ページ範囲:P.47 - P.54

まえがき
 慢性腎不全の病理形態学を論ずるとき,限られた紙面でまとめるとすれば幾つかの前提をおく必要がある。第1に病理学的記述を腎に限定すること。腎不全時における全身諸臓器の変化は今回記述の外におくこと。第2に腎不全の原因のすべてを羅列する余裕はないので本稿ではいわゆる閉鎖性慢性糸球体腎炎,糖尿病性腎症および慢性腎盂腎炎の3つの代表的疾患に限定する。第3には腎不全の成立がネフロン全体の総合的機能不全であることは生理学的にはほとんど自明の事実であるにもかかわらず病理形態学的解析はまだ充分にこれの裏附を与えていない。すなわち糸球体の変化はかなりの解明が進んでいるにもかかわらず尿細管系の整理が充分でない現状である。第4に変化の経時的解析が不充分である。腎不全は固定した概念ではない。この状態に漸次陥る一つの動的経過として理解されているのに経過の変遷と組織関係の対比が充分に示されているとはいい難い。このような現状を卒直に認めた上で記載をすすめてゆくことにする。

慢性腎不全の血液化学と症候診断の要点

著者: 加藤暎一 ,   阿部信一

ページ範囲:P.55 - P.62

はじめに
 慢性腎不全は,つい10年程前までは内科的な保存的療法によってわずかな延命効果を期待するのみで,積極的治療法のない予後の悪い疾患とされていたが,腹膜潅流,人工腎臓による長期透析療法の進歩や,腎移植成功例が数多く報告されて社会復帰も決して稀ではなくなりつつある。この際homeostasisと関連の深い血液化学的なデータの解釈につき理解を深めておくことは,今後の腎不全対策をより有効に行なう上に必要と思われる。

泌尿器科領域における慢性腎不全の臨床

著者: 安藤弘

ページ範囲:P.63 - P.70

はじめに
 尿毒症死亡患者の疫学的,統計的観察についての詳細な報告は,臨床医にとつて重要な事項であるにもかかわらず,この点に関する文献は意外と少なく,本邦においてもほとんどみるべきものはない。著者はまず,総論的に尿毒症を将来するに到つた主要原因は何であるかを,Wallach1)(1956)らおよび,Keuhnelian2)(1964)らの尿毒症による剖検例の分析報告から検討し,特に泌尿器科領域における疾患が尿毒症に対してどの程度の役割を演じているかに言及し,ついで,各論的に泌尿器科的主要疾患における,慢性腎機能不全,主として,その発生頻度について述べる予定である。

産婦人科領域における慢性腎不全の臨床

著者: 大川公康

ページ範囲:P.71 - P.75

はじめに
 腎の生理および病理についての研究の進歩によつて従来から慢性腎炎,良性腎硬化症と考えられていたものの中からいろいろの症病が分類され鑑別されてきた。尿毒症といえば慢性糸球体腎炎によるものと考えられていたが,現在では腎盂腎炎がかなりの割合に占める統計が出てきたといわれ,産婦人科領域でも重要な位置を占めるものである。すなわち妊娠中における無症状性細菌尿,妊娠,産褥中の腎盂炎は妊娠中毒症に関係を有するとされるようになつた。また婦人科領域の疾患と尿管,膀胱底や尿道の機能的または解剖学的変化による排尿障碍は慢性腎盂腎炎と密接な関係を有するものとして注意が向けられてきた。
 慢性腎盂腎炎は最近10〜20年間に高血圧症を伴う腎不全を惹起する最も多い疾患として認められその研究も盛んである。これは尿路感染を繰り返したものから後年になつて高血圧症と腎不全を発生し易いことが認められた。しかし腎盂腎炎と考えた例に必ずしも細菌感染の明らかな証拠がないことがあるが,これは急性の細菌感染の静まつた後に,ある障害のあとの変化が進行性の腎疾患をおこしてくるとWeiss, S.等は考えた。これが拡大解釈されて細菌感染のないものも腎盂腎炎と診断されることがある。しかしこの診断には充分吟味されねばならない。

内科領域における慢性腎不全の臨床

著者: 木下康民

ページ範囲:P.77 - P.82

はじめに
 内科領域において慢性腎不全を引き起こす基礎疾患は糸球体腎炎のみならず,頻度の大きなものをみてもネフローゼ型腎炎,腎盂腎炎,腎硬化症などいくつかのものがある。これらの疾患の終末の,またはこれに近い機能的病像として慢性腎不全が存在し,この時期は病理学的には萎縮腎に該当する。慢性腎不全の基礎疾患によつて,個々の所見に若干の相違のみられることがある。以下,主として慢性腎炎による慢性腎不全について述べる。

小児科領域における慢性腎不全の臨床

著者: 村上勝美 ,   山本博章 ,   山田隆義 ,   羽鳥雅之 ,   本多和智 ,   芦田光則 ,   松岡和彦

ページ範囲:P.83 - P.88

まえがき
 小児の腎疾患はその多くは急性糸球体腎炎であり,そのほとんどがほぼ定型的な症候と経過を示し,予後も良いことは小児科医の常識となつている。ことに中でもpoststreptococcal (臨床的にASLO値上昇を示す)のものはその代表的なものとしてかなりはつきりしたclinical entityとなつている。
 最近,いわゆる流行性腎炎の消退につれて小児期の腎炎も原因的,症候的に多彩となり,全経過も3〜6ヵ月から1年ないし1年半を要するもの(急性遷延型1))もあり,予後の上から病理学者のいう慢性腎炎と区別される症例が見られるようになつた。同時にまた小児においても成人に見られる慢性腎炎が増加し,今まであまり多く経験しなかつた慢性腎不全にも遭遇するようになつた。この現象が出てきた背景についてはここでは措くとしても,小児における慢性腎不全に実際に対処する心がまえを持たなければならないと思われるので,主として臨床面から述べ,あわせて小児の成人と異なつた面についても触れたいと思う。

眼科からみた腎不全

著者: 松井瑞夫

ページ範囲:P.89 - P.95

まえがき
 腎疾患と眼所見との関係は,systemic ophthal-mologyの中でも,比較的古くから研究されてきた課題の1つである。腎不全については,ことに眼底所見との関係に注目が払われてきたが,このことは腎炎性網膜炎あるいは蛋白尿性網膜炎という古い病名からも理解できると思う。
 本稿では,まず腎疾患の際にみられる眼底病変について簡単に解説を行ない,ついで腎不全と関係ある眼所見について,いくつかの項目にわけて解説を行なつてみたいと思う。

慢性腎不全患者の手術時麻酔の注意

著者: 青地修

ページ範囲:P.97 - P.102

いとぐち
 慢性腎不全の患者に麻酔を施行することなどは麻酔医にとって余り考える必要のない時代がつい最近まで続いていた。なぜならこれは麻酔の禁忌であり,かかる患者にどうしても手術の必要な場合は単に予後不良を宣告して,あとは運を天にまかせるのが多くの麻酔医のつねであつた。しかるに今やこれらの患者の麻酔管理を論ずべき時代が来たのである。といってもわれわれに慢性腎不全を完全にコントロールし得る方法があるわけではない。ただ慢性腎不全に基づく各臓器の機能異常症候に対して一つ一つ保存的に対処するにすぎない。ではかかる麻酔の絶対的適応となるものは何か。それは腎移植あるのみである。比較的適応となるものは慢性腎不全患者に合併した外科的疾患であるが,実際には極めて少ないと考えてよい。
 そこでまず慢性腎不全とは何かから始めねばならない。実際に成書を見ても,慢性腎不全と,これを惹起する原疾患群との関係および尿毒症の定義との間に明瞭な関連を具体的に説明がつくされていないのが現状である。そのため第1表から説明したいと思う。

慢性腎不全の食餌および日常生活指導

著者: 柵木智男

ページ範囲:P.103 - P.109

はじめに
 腎不全の概念,定義について諸学者間に若干見解の相異がみられるが,この論文においては腎不全を「腎機能が正常の約半分以下に低下し,腎の重要な作用である老廃物の排泄と体液の平衡調節に異常がみられる状態」になつた場合として考察をすすめたい。このような状態の慢性腎不全を著者らは,単に腎機能の低下をしめす潜在性腎不全に対し,臨床的顕性腎不全と呼称している1)
 慢性腎不全はBright病をはじめとして種々の腎疾患によつて発生し,その進行速度は必ずしも一様ではなく,基礎疾患の性格やその拡がりにかかわると考えられる。しかし症例によつては合併症や生活管理の不適切などが加わつて,その進行が促進される場合が少なくない。かかる可逆性因子が誘因となつて腎不全ないし尿毒症の発生する場合がおよそ15〜25%もあるといわれている2,3)

Ⅳ.腎不全の対策 1.総論

腎不全の対策

著者: 天本太平 ,   近藤厚

ページ範囲:P.111 - P.116

はじめに
 めざましい発展を遂げている医学分野の中でも,ここ数年間における腎不全の治療の進歩と変貌程著るしいものはない。それは慢性腎不全患者に人工透析が適応され得るようになつたことと,腎移植が臨床実験的段階の域を脱し,慢性腎不全の根治的な治療法として疑う余地がなくなつたことである。従来,厳重な食餌制限,安静,輸液等の保存的治療法の最善を尽しても,慢性腎不全患者の延命効果はせいぜい1ヵ年が限度であつたが,最進の人工腎臓装置と卓越した透析技術によつていわゆる周期的血液透析療法を行なえば,10年以上の延命と,しかもかなりの程度の社会復帰を可能ならしめることが実証された。更にかかる透析装置および透析技術の進歩は腎移植術を容易にし,組織適合性検査や免疫抑制療法の進歩と相まつて,腎移植の成績は年毎に向上し,慢性腎不全はもはや絶望的な病ではなくなつたのである。
 わが国においても1967年春以来,Kiil型人工腎臓が着々と普及しており,また透析センターといえるものも一部では整備されつつあり,ようやく本格的な長期人工透析療法が緒についたようである。また一方腎移植の面でも技術的には一応米国の水準に達しており,今後は屍体腎移植が主流となつてくると思うが,それらに伴つて当事者は医学的問題の他に社会的,経済的あるいは倫理的な問題に直面してくるであろう。

2.腹膜潅流

腹膜潅流の実際

著者: 佐藤昭太郎

ページ範囲:P.117 - P.124

はじめに
 人工透析は,今日,腎不全の治療に不可欠の手段となつた。そして人工腎臓と腹膜潅流が広く用いられている。効率からいえば,人工腎臓が勝っているが,これには特別の装置,設備あるいは特にトレーニングのなされた人員を必要とし,費用もかなり高い。他方,腹膜潅流は生体の一部を透析膜とするので,特別の装置の必要なく,技術的にも比較的容易だが,効率はそんなに優れていない。しかし逆に透析能が緩徐であるためにdisequilibrium syndromeの発展を見ることがほとんどないといえる。このような事情から,両者の長短を勘案し,患者および病院の実情に応じて,両者が使いわけられている現況である。ここでは腹膜潅流に関して主として実際的な事項について述べてゆく。

腎不全に対する腹膜潅流の治療的限界

著者: 上野精

ページ範囲:P.125 - P.132

はじめに
 慢性腎不全に対する積極的な治療法としては,腹膜潅流や人工腎などの人工透析療法と腎移植が現在最も有力である。これらの方法がすでに実用段階にあることはいうまでもないが,医学的には必ずしも満足なものでなく,将来大幅に改良さるべき性質のものである。例えば腎移植における免疫反応の問題,人工腎における小型化の問題などが挙げられる。
 腹膜潅流の歴史は他に較べて古いが,間歇的潅流法による慢性透析の開始は,人工腎の場合と同じく1960年代になつてからである。腹膜潅流は特別高価な装置を必要とせず,容易に施行でき,安全であるため広く使用されている。しかしその治療成績は人工腎に較べて劣つており,長期生存例も人工腎に較べ極めてわずかである。この原因として効率の低い点がまず挙げられるが,このため頻回の長時間にわたる透析がよぎなくされ,蛋白,アミノ酸などの喪失や感染などの合併症を起こし易い。次の問題は腹腔を如何に長期間にわたつて確保するかということである。腸管の穿孔や腹膜炎,それによる腹膜の癒着などで潅流不能となることが少なくない。

急性腎不全に対する腹膜潅流の経験

著者: 斎藤豊一 ,   渡辺国郎 ,   増子宣男 ,   園田仁志

ページ範囲:P.133 - P.139

はしがき
 私にあたえられたテーマが急性腎不全に対する腹膜潅流の経験である。腎不全に対する解説,治療等の一般的事項,腹膜潅流の理論その他については,それぞれ別の人がのべることになつているので,最近5年間に経験した急性腎不全の腹膜潅流の経験症例を主にのべることにとどめる。全部で6例あり,1例は外傷により惹起されたものであるが,5例は手術につづいておこつたものである。
 それでもこれらをまとめているうちに気がついたことを簡単に記してみたい。

3.人工腎臓

人工腎の種類とその長短

著者: 稲田俊雄 ,   岡田耕市 ,   大和田文雄 ,   横川正之 ,   竹内弘幸 ,   高木健太郎 ,   越川昭三 ,   吉川康行 ,   中川成之輔

ページ範囲:P.141 - P.149

はじめに
 現在すでに市販され,それぞれに立派な治療成績をあげている人工腎の機種は恐らく100機種以上におよぶものと推定される。それに現段階では試作の域にあるものを含めると大変な数にのぼる。しかもそれらが次々と製品化され市場に出てくるわけで,これら全てにわたつて,その機械の構造,特徴を述べることは不可能である。
 従つて本編においては,現状として最も広く普及している機種につき,特に著者が実際に使用した機械の使用経験をもとにして,一般的な印象を中心に,機械の構造上の特徴,機能,その長所短所について述べる。

血液透析法の一般的適応

著者: 小高通夫

ページ範囲:P.151 - P.158

はじめに
 昭和42年の全国死亡統計をみると,腎炎およびネフローゼによる死亡数は9,791名にのぼつている。腎不全による死亡は非常に統計のとりづらい疾患の1つであり,死亡原因が高血圧あるいは脳卒中の中にも腎不全よりきたものが含まれる可能性はあり,腎不全により死亡する実数は年間1万人を越えると考えられる。しかも各5才年令区分の死亡順位をみると,5〜9才,10〜14才では事故死,悪性腫瘍,肺炎につぐ第4位,15〜19才,20〜24才および25〜29才では,事故死,悪性腫瘍,心疾患および自殺につぐ第5位,30〜34才では第6位,35〜39才では8位,40〜44才,45〜49才および50〜54才では9位と,学童より青年期,壮年期にわたる広い年令層において高い死亡率を示しており,この疾患に対する治療は,患者個人の問題ばかりではなく,社会的な意義を有しているものである。
 人工腎臓はKolffおよびBerk1)により1944年急性腎不全の治療法として導入され,1960年Quin-ton, DillardおよびScribner2)による,silastic-tefloncannulaのpermanent shuntの開発以来,腎不全の治療法として確立されたものとなり,我が国においても目ざましい普及がなされつつある。

急性腎不全に対する透析法のABCと注意点

著者: 大沢炯

ページ範囲:P.159 - P.168

緒言
 血液透析療法が腎不全に対し,すでに有力なる対策として確立したことは周知の事実である。特に急性腎不全においてはこれの90%を超える死亡率を半減することのできる唯一の手段であることは繰り返して想起されるべき当療法の成果の一つであつて,何例かの急性腎不全の治療に当るうちに誰しもが実感と体験を通じて銘記する事実でもある。
 急性腎不全による尿毒症の成立は慢性の場合に較べ跛行的に現われることが多く,早期のBUN上昇,2,3日ずれたクレアチニンの上昇,速やかな血清Kの上昇による生命の危険,ショックや出血,外傷または手術後のカタボリズム,感染の危険等どれをとつても難物の条件が重複していることが多い。これがその死亡率の高い理由でもあるが,輸血,抗生物質,水,電解質,カロリーの補給,カリウム用イオン交換樹脂等を活用してもなお残るのは尿毒症そのものであり,そこにこれら患者の全身状態を生理的Homeostasisの状態に近く保ち利尿期まで生命を維持するもの,すなわち注意深くコントロールされた血液透析が必要不可欠な療法として必要となつてくる。

血液透析の手技と事故対策

著者: 大沢炯

ページ範囲:P.169 - P.180

緒言
 写真,図を中心として上掲の題で短文を作せよという編集の先生方の御意見とのことで筆者にとっては身にあまる光栄ではあると感激すると同時に,簡潔にして要を得ることの難かしさから一般の期待からは程遠いものとなる恐れをひしひしと感じる。さて筆者が初めて人工腎臓の話を聞き自分でやりたいと思つたのは1962年頃のことで本格的に修業することができたのは1963年秋からで当時長期透析にとり組み始めて間もないカナダ中部ウィニペッグのマニトバ大学内科ICUのResidentとして勤務した時に始まる。当時Killを中心にした3〜4名の社会復帰患者を6ヵ月間担当して何とか3名を生き長らえさせ,その間Kelffにて4例程の急性症を扱って,うち3名の回復を見,長期腹膜潅流患者のmanagement等をも行なううちにすつかりこの道に病みついたのが始まりで,その興味と経験は移植などとともに今日に及んでいる。従つて本稿では,数多い関係文献の渉猟は読者の意のままに委ね,なるべく実地に基づいた記述に終始する心算である。

カニューレーション

著者: 千野一郎

ページ範囲:P.181 - P.186

はじめに
 慢性腎不全の治療法として,血液透析が今日のように盛んに利用されるようになつたのは,1)透析機械および透析方法の進歩,改良。2) Scri-bner, Quintonなどによつて開発されたsilastic-teflon bypass cannulasの普及があげられる。特に後者のcannulaは1960年,Scribneri1,2)などによつて開発され,その後Quinton3)(1962)により改良され現在に至つている。この間Winged line-shunt4)などの発表がみられるが,大きな改良は認められない。われわれも現在ではQuinton sila-stic-teflon cannulaを用いている。
 最近ではcannulasを挿入するいわゆるexte-rnal shuntに対して,Brescia5)などの動静脈吻合によるinternal shuntが多く用いられる傾向にある。これからは外来通院,社会復帰が多くなるにつれて,shuutの管理,入浴などの面からinternalshuntは増加するものと思う。

長期間の透析法と患者の指導

著者: 猪野毛健男 ,   広田紀昭 ,   大橋伸生 ,   須藤進 ,   高村孝夫

ページ範囲:P.187 - P.194

はじめに
 1960年Scribner等の長期間の血液透析が発表されて以来,多くの報告がなされてきたが,我国においても社会復帰を目的とした透析が試みられるようになつた。我々も長期透析患者6名を経験しているので,これを中心として具体的な長期間血液透析法につき記述する。

日本の実情に即した長期透析法とその実際

著者: 沢西謙次 ,   川村寿一 ,   上山秀麿 ,   山下奣世 ,   三宅ヨシマル ,   岡部達士郎 ,   土屋正孝 ,   原晃 ,   加藤篤二

ページ範囲:P.195 - P.201

はじめに
 日本の実情に即した長期透析法と,その実際というテーマであるが,1,2の例外を除いてほとんどが欧米の機械,装置を購入,設置して血液透析を行なつている状態であるため,日本の実情に即した独特の透析法があるわけではない。そこで我国の現時点における長期透析患者の適応条件,装置,設備およびその運営方法の現状と,透析手技上における若干の改良点について述べる。
 我国における人工腎臓による血液透析療法も,既に10数年の歴史をもつ。この間東大D-L型人工腎臓や,慈恵大電気透析法等の,独自の人工腎臓が開発され,臨床的にも使用されたが手技の繁雑さ,および効率の上での問題点等あり,今日一般に使用されているのは,Kolffのtwin coil型とKiil型人工腎臓の2つの型のものが大部分であり,一部例外的にDia-lungやMera型がある。そして近年慢性腎不全に対する長期透析は,やつと軌道にのり出した時期とでもいうべきであろう。慢性腎不全に対する長期血液透析療法はいうに易く行なうに難しい諸々の問題点がある。すなわち医学的問題だけでは片付かない社会,経済問題がそれである。現在我国で毎年腎不全で死亡する患者は,約5,000人はあるといわれているが,第3回人工透析研究会で発表した沢西の調査では,昭和44年4月現在,約80の機関病院で398人の長期透析患者がいるにすぎない。これらの患者は如何なる理由で,長期透析患者として選ばれたか?

透析と腎移植の関連性

著者: 栗田孝 ,   高羽津 ,   永野俊介 ,   高橋香司 ,   園田孝夫

ページ範囲:P.203 - P.213

はじめに
 腎移植は慢性腎不全の治療として既に本邦でも数多くの臨床例が報告され人工腎臓とともに今後益々発展していくと考えられている。しかしながら腎移植術には現在でも種々の制約を受けることは否めない。
 すなわち社会的な因子を除外して考えても,移植を必要とする症例は全からく末期腎不全患者であつて,その身体条件は尿毒症と称せられる高度の酸血尿,高カリウム血症,貧血,低蛋白血症,意識障害等々を有し,その他循環器系や消化器系にも重篤な合併症を併発している場合が少なくない。これらの症例が直に腎移植の適応にならないことは自明の理であるが,この改善の手段として用いられるものでは人工腎臓による血液透析が最も効果的である。すなわち本来慢性腎不全を対象とした場合,血液透析そのものにも適応に関しては,患者選択の基準あるいは時期,手段等種々論議されている所であるが,腎移植は血液透析によつて医学的にも一定水準以上に改善され維持されることが不可欠であり,いいかえれば人工腎臓によつてスクリーニングされて初めて安全に施行できるものである。特に世界的なすう勢として腎移植の絶対条件である腎提供を屍体腎に求めている現在では,人工腎臓による長期透析はその重要性が益々増大するのである。

透析センターの必要性と問題点

著者: 三木信男

ページ範囲:P.215 - P.221

はじめに
 不可逆的な慢性腎不全の治療は長い間,絶望的なものとみなされてきたが,最近の人工透析法および腎移植術の急速な進歩により,積極的な治療への道が開かれてきた。しかし腎移植の成功率はわが国ではまだ低率である。
 これには技術上の問題もさることながら,適当の腎提供者を得がたいことや,屍体腎の利用になお多くの難点があることのほかに,人工腎臓の普及が遅れ,とくに欧米のような完備された透析センターの少ないことがその原因の1つになつている。人工腎臓ははなやかな腎移植の陰にあつてこれをがつしりと支えるものである。同時に腎移植の普及するまでの間,死に直面する多くの患者に対し,延命と社会復帰の機会を与えるものでもある。人工腎臓による長期透析には,高額な設備と透析費用のほかに熟練した技術をも必要とする。したがつて1〜2台の装置を備えるよりも,透析センターとして計画的に透析する方がそのメリットははるかに大きい。また透析センターの問題点は,長期透析そのものの問題点にもなるので,以下透析センターの必要性,患者の選択,構成と費用,将来の展望等についてのべる。

4.腎移植

本邦における腎移植の成績—特に泌尿器科領域における臨床例の集計

著者: 北川龍一

ページ範囲:P.223 - P.231

はじめに
 腎不全の治療のためにJaboulay1)がはじめてヤギおよびブタの腎を人に移植して以来すでに半世紀が過ぎた。更にBostonのMurray2)らが1963年より世界の腎移植例を集計しはじめてから,1968年までに1741例が登録され,その詳細な分析がなされている。
 一方,本邦においては,1956年楠,井上ら3),が急性腎不全患者の大腿部に特発性腎出血患者から摘出した腎を移植したのを嚆矢とし,その後,1964年木本誠二教授4)が慢性腎不全患者に,患者の妻の腎を移植して以来,内外の情勢につれてにわかにこの方面の研究がすすみ,外科および泌尿器科系領域において次々と臨床例が報告されるに至つた。

アメリカ合衆国における腎移植の現況

著者: 中村宏

ページ範囲:P.233 - P.239

緒言
 昭和43年9月現在,アメリカ合衆国で腎移植を行なつている病院は42ヵ所にのぼるが,そのうちの代表的な病院を8ヵ所(第1表)同年5〜9月の間に訪問して得られた見聞と,9月にニューヨーク市で開かれた第2回国際移植学会で発表された内容をまとめて,合衆国における腎移植の現況とした。ほかにごく一部ではあるがMount SinaiHospital, New York(MSH)とTulane UniversitySchool of Medicine(TUSM)で見聞したことも含まれている。紙面の関係で,ことに重要な点を除き,病院名を挙げずに,全体の傾向をまとめて述べることにする。なおTUSMを除き情報はすべて各病院の腎移植のチーフから直接得られたものである。各病院の特徴を簡単に述べると,UC-MCはALSを中心として質量ともに優れ,CCは屍体腎移植に特徴を有し,MCVは多くの立派な基礎的研究を残したほか,患者中心主義をとり,腎移植の成績では合衆国でもつとも優れている。UCLAはTerasaki(日系2世)のいる所で組織適合性検査の中心で他の病院と協同研究を行なつており,PBBHは腎移植のメッカだが,MGHと同様に臨床より研究に重きを置いている感じで,そのため腎移植の成績は有名なわりには良くない。

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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