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雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科24巻13号

1970年12月発行

雑誌目次

特集(増刊号の)3 小児の泌尿器疾患 Ⅰ.綜説

小児泌尿器疾患の症状と鑑別

著者: 大田黒和生

ページ範囲:P.7 - P.18

緒言
 小児泌尿器疾患の症状とその鑑別診断について詳説するには誌面上の余裕がないので,一般的な症候論などについては別紙にゆずり1〜4),従来,泌尿器科領域で見落されがちであつた事項を重点的に記すようにした。
 衆知のごとく,尿路系の症状のうち,下部尿路疾患に関するものは排尿異常が中心であり,上部尿路疾患では発熱,食欲不振などの全身症状が,尿量の異常,尿所見の異常とともに重要な要素となる。性器系の症状としては外陰形態の異常,陰嚢内容の欠損,腫脹である。しかし,数多くの尿路・性器疾患が無症状のまま経過し,みのがされている可能性も大きい。例えば,発熱発作,腹部腫脹が主訴の時,泌尿器科外来を初診してくることはないし,一方,その裏に重大な尿路疾患が隠されている可能性に気づかない小児内科,小児外科の医師達も少なくないからである。したがつて,当然,彼らの理解と協力なしには,また親達への啓蒙なしには小児泌尿器科学の進歩はありえないとさえいえるのである。また近年,小児内科,小児外科専門の医師達の間に小児泌尿器系疾患に対する関心が高まつてきており,彼らの相談に役立つだけの知識と経験を泌尿器医自身が充分にもつことが要望されている5)

半陰陽,その解釈と分類

著者: 落合京一郎

ページ範囲:P.19 - P.26

 Hermaphroditism(患者をさす場合には,herm-aphrodite)の語源は,理想的な男性像としてのHermesと理想的な女性像としてのAphroditeという神話上の人名を結合させてつくられたもので,日本語の半陰陽という語はちょうどこれに相当する。しかし,このhermaphroditism(半陰陽)という語は,医学的にかなりあいまいな表現になつている。
 後述するように,一般に男らしさ(maleness)あるいは女らしさ(femaleness)と表現されている男女という性別(sexuality)を医学的に定義することは,簡単のようであつて実際には大変にむずかしい。したがつて,異論のない性別という定義あるいは基準によつて,それが男でもないあるいは女でもない,または男でもあり女でもあるという意味の半陰陽を定義することもむずかしいからである。ことに,最近における内分泌学や細胞遺伝学(cytogenetics)の長足な進歩は,現在のところ性別とかこれに関連した半陰陽の解釈とか定義を一層複雑なものとしているともいえる。

下部尿路通過障害の臨床

著者: 辻一郎

ページ範囲:P.27 - P.38

A.総論
 下部尿路通過障害は小児泌尿器科の重要な分野を占めている(われわれの教室の外来小児患者の少なくとも6%,入院小児患者の12%に相当す)。
 その大部分は先天性病因によるものと思われるが,新生児・乳児期の下部尿路通過障害の症状は多彩でしかも尿路症状よりも発育栄養不良・発熱などの全身症状が前景に出るためしばしば他科疾患と誤診され,排尿異常の存在は看過されていることが多い。さらに幼児期に入つても排尿困難の自覚症状が少ないのが特徴的であり,また家人および相談をうけた医師も安易な姑息主義から専門的検査をうけさせずに長く放置していることも少なくなく,しかもこの間に慢性尿閉と高率に続発する尿感染,あるいは膀胱尿管逆流のため,腎・上部尿路は進行性障害をこうむり,時には高度の水腎水尿管と慢性腎盂腎炎が相まつて潜在的尿毒症状態となつていることもある。一方,通過障害除去術後の遠隔成績も,結局来院時の腎上部尿路障害の程度(非可逆性か否か)によるわけで,この意味で新生児・乳児期の排尿状態の注意深い観察と早期診断治療の重要性が強調される。

小児悪性腫瘍の臨床—泌尿器科的腫瘍を中心に

著者: 田口信行

ページ範囲:P.39 - P.48

 小児の悪性腫瘍が近年増加し,5歳以上の死因統計によると,本邦でも病死の第1位を占めている。小児の腫瘍はいくつかの点で成人のそれと異なつており,急性白血病,脳腫瘍,神経芽細胞腫,Wilms腫瘍などが多い。部位別では脳腫瘍を除く固型腫瘍では,後腹膜腔より発生する悪性腫瘍が多いことが特徴である。
 すなわち,泌尿器系,副腎および交感神経系由来の腫瘍は全小児腫瘍の14%1)〜20%2)を占めている。このうち,泌尿器系腫瘍の中で最も多いのはWilms腫瘍(Nephroblastoma)である。

Ⅱ.病因と治療

小児尿路感染症の原因と治療—小児科の立場から

著者: 堀誠 ,   森沢弘

ページ範囲:P.49 - P.60

緒言
 最近における小児の感染症を考える場合,急性尿路感染症は呼吸器感染症についで頻度が高いとされており1〜2),事実日常の臨床において不明の発熱を主訴とする小児の疾患に遭遇したとき,急性尿路感染症が主因であることがしばしば経験され,私たちも小児ことに乳児および幼弱小児の不明の発熱を診察した際,一応導尿により尿沈渣の検討,尿中の細菌の定量培養検査は,ルーチンの検査として実施している現状である。
 しかもその成因については近年尿路におけるなんらかの器質的ないしは機能的な通過障害が関与していることの多いことが指摘され諸家の報告をみるが3〜12),その多くは泌尿器科関係のもので,小児科領域からのそれはあまり多くはなかつた。そこで私たちはすでにこの点につき「小児科臨床」21(7);876(昭43)および「小児科」10(9);847(昭44)に国立小児病院泌尿器科(大田黒和生医長)との協同で,その研究成績の一部を報告したが,今回は従来の成績をも含めてその後の成果につきのべるとともに,小児の急性尿路感染症を小児科医の立場から検討を行なおうと思う。

小児尿路感染症の原因と治療—泌尿器科的立場から

著者: 川村猛

ページ範囲:P.61 - P.69

はじめに
 近年わが国でも小児泌尿器科疾患が注目されるようになり,それに伴つて小児の尿路感染症の重要性が認識されはじめているが,この領域についての観察は従来小児内科の観点からされたものが多く,小児泌尿器科的観点からの検討も少ない。これはわが国における小児泌尿器科学の発達が遅れたことと一般小児科診療と泌尿器科診療の緊密な連携体制の欠如などに起因するものと思われる。しかし,本症の小児泌尿器科疾患の占める頻度がきわめて高いこと1)2)3),種々の治療法の著しい進歩にもかかわらず,その治癒率は満足するに至つてないこと4),本症の診断の困難さも加わつて,長期にわたつて無症状に経過し,成人期に至つて高血圧,腎不全などに発展するおそれがあること5),それらの原因として本症では高率に尿路の障害,特に先天性奇形が基礎疾患として存在すること6)7)8)などから,われわれ泌尿器科医も小児尿路感染症に対する認識を新たにする必要があり,本症の診断,治療に当つては万全の策を講じて慎重に対処しなければならない。
 本症の発見,診断は患者が小児であることの理由から成人の場合と異なり,主として他覚的異常所見から行なわなければならないために,非常に困難で,診断自体にも山積する問題が含まれるが,本稿ではその病因と治療方針に焦点をしぼり,筆者が観察した臨床統計を述べるとともに文献的考察を加え,併せて私見を述べて見たいと思う。

夜尿症の心理学的・精神医学的諸問題

著者: 平井信義

ページ範囲:P.71 - P.79

はじめに
 夜尿症は,今日の科学的接近からすれば,いまだに本態のはつきりしていない症状の一つである。実に多くの子どもが,そしてその母親や保育者が,夜尿症で悩んでいるにもかかわらず,原因が明らかにされていないし,治療法も確立されていないのである。したがつて,医師もまた,夜尿症の患者に訪問されると,あれこれと治療をしてはみるが,決して確信に基づいてはいない。その間にあつて,劇的な治療効果のあがつた例を経験するから,また妙である。そのような経験は,一時的に,医師の気持を鼓舞し,しばらくの間その効果を挙げた治療法に固執し,その理論的展開を試みる。そのようにして発表された論文の数は非常に多く,治療剤の数に至つては数百種類に及んでいる。しかし,それらは決定的・永続的な効果をあげず,次第に無効例が多くなるにつれて,その治療法は次第に用いられなくなつている。以上の状態がくり返されてきた中で,各種の民間療法が行なわれ,その効果が宣伝されるという状況にある。
 夜尿症の治療に当つた医師の多くが,劇的な治療効果をあげたという経験を持つていることは,非常に興味深いことである。その点をもつと追究してみなければならないが,そのような経験が一般化されず,夜尿症に対する決定的な治療法にまで発展しないことは,夜尿症の複雑さを物語つている。夜尿症で悩む者は依然として多く,相談に来る人々も跡を絶たないのが現状である。

夜尿症の治療

著者: 百瀬剛一 ,   遠藤博志

ページ範囲:P.81 - P.88

はじめに
 夜尿症は小児泌尿器疾患としてはきわめてありふれたものの一つでありながら,思春期を過ぎる頃には治癒するものも多いためか,ややもすると軽視され,また母親は毎日夜尿のあと仕末に苦労しながらもいつかは治ることを期待しそのまま放置したり,民間薬に頼つたりしていることが多く,病院を訪れるものはごく一部で,これらは種々の治療で容易に治癒し難いような難治例が多い。
 従来より本症は医学的にもあまり重視されず,その病態は小児科,泌尿器科,精神科などと関連しているにもかかわらず,各科が独自の立場で研究している状況で,現状のままでは夜尿症の全貌を正確に把握することはきわめて困難のように思われる。

Meningomyelocele術後の排尿異常—排尿生理学的問題

著者: 宍戸仙太郎 ,   今林健一

ページ範囲:P.89 - P.97

Ⅰ.脊髄髄膜瘤(Meningomyelocele)の発生病理1)
 胎生期に椎骨原基と背部筋原基の相互誘導関係がなんらかの破綻をきたすと,椎体からの椎骨管腔形成が異常となり髄縁の融合が妨げられていわゆる脊椎披裂が生ずる。このような骨形成不全奇型の発生は前述のような過程の関与から頸部または腰仙関節部に多発しやすいが2),頸胸部に発生したものでは神経損傷のもたらす影響が大きいため生児出産の可能性はかなり低い。これに対して腰仙部をみられる脊椎披裂はこのようなことが少ないため先天性奇形児として生存しうる。
 一方,脊椎披裂を有する場合,大多数の例でその部の脊髄または脊髄神経根の損傷がみられる。すなわち脊椎披裂は開放性披裂Spina bifida apertaと嚢状披裂Spina bifida cysticaとに分けられるが,前者の場合には椎骨後部に脊髄表面の髄質血管層を露出するし,また後者の場合には第1図で示すごとく椎骨後方に脊髄実質または脊髄神経根を伴つた脊髄膜がヘルニア状に脱出するので,周囲組織の圧迫,神経組織の牽引,変形などにより種々の程度に神経組織は破壊される。したがつて臨床的にも運動障害,知覚障害などの体性神経障害および排尿障害などの自律神経障害がその支配領域にみられ,また嚢状披裂で脊髄管腔との交通が良く圧縮性の大きいものでは種々の脳圧迫症状も出現する。

Meningomyelocele術後の神経因性膀胱の治療

著者: 黒田一秀 ,   藤村誠 ,   伊達智徳 ,   今村巌

ページ範囲:P.99 - P.107

はじめに
 与えられた標題は「Meningomyelocele(以下M-M-Cと略す)術後の治療」であるが,あまり限定せずに先天性神経因性膀胱の治療について,自験例をまじえながら一般的に述べさせて頂きたい。M-M-Cなどに基因する膀胱機能障害は,小児の慢性先天性排尿障害のなかで,膀胱頸部疾患とか尿道弁形成など下部尿路の器質的障害とともに二つの重要な疾患になつている。中枢神経系の奇形は人種によつて差があり日本人には比較的少ないようであるが,筆者が北大および福島医大泌尿器科教室で経験した脊椎奇形に伴う神経因性膀胱は15年間30例であつた。わが国では器質的機能的を併せて小児の慢性下部尿路通過障害は,小児泌尿器科入院患者の9-26%を占めている(辻)。
 M-M-Cは約80%にhydrocephalusを合併している由である。hydrocephalusには自然消退もあるようであるが,この10年間にhydrocephalusや脊椎披裂の手術的治療法が改良されかつ新生児期に行なわれるようになつて,死亡率が半減している。それでM-M-Cの小児では尿路合併症が一層重大な問題となつてきたのである。自験30例中受診時すでに脊椎あるいは脊髄の手術をうけていたのは過半数16例であつた。

Meningomyelocele手術と後遺症

著者: 池田彬

ページ範囲:P.109 - P.116

 Meningomyelocele髄膜脊髄瘤は脊髄の先天性奇形中,最も重篤かつ頻発する疾患で,欧米の報告では1,000例の出産に対して2〜3例の発生をみるとされる。本症罹患児は両麻痺,知覚障害,尿・便失禁,中枢神経系の感染,水頭症なと多彩な問題を有し,その治療には小児科医,脳神経外科医,泌尿器科医,整形外科医などのチームが緊密な連絡のもとに対処することが必要である。近年,抗生物質療法の発達,超早期手術の開発により,本症の死亡率は着実に減少の途を辿つており,生存者の増加に伴いその後遺症に遭遇,解決を要請される機会が多い。
 Meningomyeloceleの病因,病態,手術,後遺症などについて,その輪郭を概説する(第1図)。

Ⅲ.検査法

小児泌尿器科におけるIVP,RP,PRP

著者: 黒田恭一

ページ範囲:P.117 - P.123

まえがき
 小児の上部尿路疾患は少なくないが,膀胱鏡検査や尿管カテーテル法の実施が制約される関係上,レントゲン検査法に頼る傾向が大きい,,また小児においては主訴や臨床症状の適確な把握が困難なために,尿路疾患を見つけだす手段として,上部尿路撮影がスクリーニング的意義を有する。かような理由により,小児に対する静脈注射腎盂撮影法(IVP)は,泌尿器科領域においてはもちろん,小児科や小児外科領域においても重要視され,最近は点滴静注腎盂撮影法(DIP)も普及しつつある。またこれらにより異常所見が得られた場合には,腎盂腎杯形態の細部の観察の目的で逆行性腎盂撮影法(RP),腎形態の観察の目的で気体後腹膜法(プノイモレトロペリトネウム,PRP)が行なわれる。なお2種以上の組合せ撮影法も用いられる。

小児泌尿器科における動脈撮影

著者: 福谷恵子

ページ範囲:P.125 - P.132

 脳および心臓血管撮影は,小児に対してもすでに一般的検査法として普及されている。しかし腹部大動脈撮影・腎動脈撮影は,小児泌尿器科領域では一般に応用されていない。その理由は①血管が細く技術的に困難で危険を伴いやすい。②麻酔を必要として煩雑である。③動脈撮影を行なわなければ診断のつかない疾患が比較的少ない。④動脈撮影が補助的診断法として最も役立つ腹部腫瘍が速やかな外科的摘除を要し,検査のためいたずらに手術を延ばせないなどである。
 しかし最近では,小児の動脈撮影法にも種々の改良がなされ,またその診断的応用にも新しい意義が報告されてきている。

小児泌尿器疾患のRI診断

著者: 千野一郎

ページ範囲:P.133 - P.137

はじめに
 Radioisotope(以下RIと略す)は医学的な面においても,検査法の研究,測定装置の開発などによつて広く臨床面に応用されるようになつてきた。
 泌尿器科領域においては主として分腎機能検査法に応用されている。従来のレ線学的診断法に更にRI診断法を加味することにより詳細な検討が加えられる。腎機能検査には種々な検査法があるが大別して総腎機能検査法と分腎機能検査法に分けられる。泌尿器科で扱う腎疾患は総腎機能検査とともに分腎機能検査も極めて重要な検査法である。しかし小児では成人と同様な検査法が必ずしも容易に行なえない場合がある。このようなときRI検査法は更に価値ある検査法となる。

小児の尿検査—代謝異常のスクリーニングを中心として

著者: 鬼沢仁一 ,   中村了正 ,   李延彦 ,   水野悌一

ページ範囲:P.139 - P.148

緒言
 尿は腎尿路系の機能的および解剖学的な障害を忠実に反映し,前腎性の代謝をよく反映する。臨床的応用価値が高いので尿の検査法については既に多くの成書による詳しい記載があり,小児科領域とて例外ではない。小児の尿検査を特色づける2つの理由は,1つは,小児の動的な発達過程が背景にあることであり,他の1つは先天性遺伝性の特殊な代謝性疾患が多いということであろう。
 小児では尿量1つをとりあげてみても,第1表に示すように発育に伴つた変化があり,尿糖,尿アミノ酸など尿構成成分の1つ1つに代謝酵素の発達過程という背景がある。成人や年長児で異常とみられるものが,新生児や乳児では未熟なるがための生理的ということも多い。小児でみられやすいケトージスも糖代謝がlabileなためであろうし,また特にそのような体質性疾患もある。腎の濃縮能でも乳児には未熟なるがための限界があり,これをこえれば高滲透圧症候群がみられる。

Ⅳ.麻酔と管理

乳幼児麻酔のコツ

著者: 岩井誠三

ページ範囲:P.149 - P.156

はじめに
 最近における本邦・小児外科の発達は誠に著しく,年齢および疾患の上からみた手術適応の拡大と手術成績の向上は誠に刮目に価するものがある。この著しい発達の要因としては小児期全般にわたる生理学的特異性の理解が深まり,その基礎にたつて各年齢層における術前より術後にわたる患者管理法の実際面における知識の普及はもちろんであるが,小児麻酔の発達と安全性の向上によるところがすこぶる大きい。
 小児における泌尿生殖器系の外科的疾患の頻度はかなり高く,欧米においては全小児外科症例の20%にもおよぶものといわれているが1),わが国においては従来,小児とくに乳幼児期に取り扱われる泌尿生殖器系の外科症例は陰嚢水腫などを除けば比較的少なかつたように考えられる。その大きな原因の1つとして,協調性の得がたい学齢期前の小児においては泌尿器科領域において必要とする各種の検査に全身麻酔を必要とすることが多く,麻酔の安全性にたいする危惧と患者管理に馴れていないための繁雑さから積極的な動きがみられなかつたのではないかと想像される。

小児の術前術後管理

著者: 高田準三

ページ範囲:P.157 - P.164

Ⅰ.外科的処置のまえに
 母体内にある時の依存的存在から,出産と同時に一個の独立した総合器官としての機能を営む新生児。この時期の生理的特徴は,すべての器官,機能の未熟さである。未熟な器官によつて内部の生理的変化に対応することはもちろん,外部環境にも順応すべき努力がなされている。
 新生児期以後,解剖学的にも,生理学的にも徐々に成人のそれに近づき,生体予備力も次第に増加してくる。しかし年齢が長ずるにしたがい,精神感情の発育が盛んとなる。ここで患児に加えられる診断,治療行為のすべてが小児に与える精神的影響を常に考慮に入れる必要が生ずる。生後2年より学齢期までの患児ではとくに精神衛生への考慮が重要である。医師はもちろん,特に看護にあたる人によつて,デリケートな子供の心に目に見えない精神的傷跡を残すことがある。したがつて看護婦の役割が極めて重要となつてくる。

Ⅴ.形成手術

停留睾丸—睾丸固定手術の術式とその適応

著者: 駒瀬元治

ページ範囲:P.165 - P.171

Ⅰ.停留睾丸に対する睾丸固定術の適応
 停留睾丸は泌尿器科領域ではしばしば見られる先天異常であつて,それほどめずらしい疾患ではなく,診断も比較的容易ではあるが,治療法に関してはかなり対立した意見が見られ,なお今後の研究にまたなくてはならない多くの問題が残されている。
 ただ停留睾丸といつても,その病変の程度にはいろいろなものがあり,これは治療の問題とも密接な関係をもつているものである。

駒瀬論文を読んで,他

著者: 植田隆 ,   石田正統 ,   生駒文彦 ,   大田黒和生 ,   坂本公孝 ,   駒瀬元治

ページ範囲:P.171 - P.174

 私は,小児疾患専門施設におるから,あらゆる疾患を若年齢層で診る機会が多い。しかし,さすがに停留睾丸というようなものは,新生児や乳児期に診察を乞われることは稀である。たまたま他のもつと重要な疾患に合併して遭遇することはしばしばであるが,停留睾丸のみを主訴とする患児は,ようやく2歳くらいから増加する。
 私は,4〜5歳(幼稚園期)まで本症は手術しない方針なので,その時期までの間待期させておくと(なにも処置をせずに,あるいはホルモン療法をして),患児はどのような経過をたどるかを記してみよう。

尿道下裂—形成手術の手技と適応

著者: 生駒文彦 ,   高羽津

ページ範囲:P.175 - P.186

 尿道下裂はしばしばみられるもので,手術療法を必要とする尿道の奇形である。外尿道口が亀頭先端になくて,陰茎腹面,陰嚢あるいは会陰近くに開口し,性行為および立ち小便が不可能であり,患児のみならず家族の精神的苦悩のもとともなる。高度の尿道下裂の場合には,出産時に性別の判定を誤ることもまれではない。
 一般に男子にみられる疾患であり,女子にも起こり得るが極めてまれである。女子の場合には外尿道口は高位の腟壁に開口する。発生学的には男子のものとは別個のものである(Eckstein 1968)。ここでは男子尿道下裂について述べる。

先天性水腎症と水尿管症(90症例の観察)—形成手術の手技と適応

著者: 大田黒和生

ページ範囲:P.189 - P.201

緒言
 先天性水腎症,水尿管症の直接的な成因は尿管の器質的,ないし機能的通過障害である。器質的な通過障害の大部分は尿管の部分的な狭窄であり,尿管腎盂移行部,尿管膀胱移行部,あるいは尿管のいずれの部分にも生じうる。同時に複数個所に狭窄を有していることもまれではない。尿管瘤,あるいは膀胱頸部,尿道(下部尿路)通過障害にもとづくこともある。機能的通過障害としては尿管の部分的蠕動運動の欠如,あるいは尿管下端部,膀胱支配神経の機能不全などがある。これらの原因によつて生じる先天性水腎,水尿管症の治療法は狭窄の部位,程度,両側性,片側性,感染症合併,水腎症,尿管蛇行延長,機能障害の程度と範囲などによつてそれぞれ異なつてくる。一般に,器質的な原因による場合にはその狭窄部位の形成が治療手段の基本となつている。もちろん,治療の最終目標は通過障害によつて生じている腎機能不全の回復,正常化にあり,あくまでも腎保存が大原則である。
 腎盂形成術,尿管形成術,尿管膀胱新吻合術には沢山の術式と適応があり,そのすべてをここに論述することはできない。われわれは昭和40年10月以来,4年10カ月の間にすでに先天性水腎症,水尿管症(結石,結核などの後天的原因によるものを除く)を90例経験しており,そのうち61例に各種の手術的処置を加え,経過観察中である(第1表)。

膀胱尿管逆流—形成手術の適応と手技

著者: 坂本公孝 ,   熊沢浄一 ,   妹尾康平 ,   大島一寛

ページ範囲:P.205 - P.212

はじめに
 幼小児では尿管膀胱接合部の構造,機能上の未熟性のために,膀胱尿管逆流(以下VURと略)が発生しやすく,小児泌尿器科の分野では軽視できない問題の1つである。近時頓にこれに関する注目が集まり,1970年7月東京で開催された第15回国際泌尿器科学会でもメインテーマにとりあげられたことは周知のとおりである。
 しかしながら膀胱尿管逆流の病因機序はもちろんのこと,実地診療面における取り扱い方でも諸家の見解はまちまちで,治療方針を決める基準が統一されておらず,また手術が必要と思われても術式の選択に迷うことが少なくない。

Ⅵ.最新の研究

AGS(Adrenogenital Syndrome)に関する最近の知見

著者: 大沢仲昭

ページ範囲:P.215 - P.220

 副腎性器症候群(adrenogenital syndrome, AGS)とは副腎皮質からのステロイドホルモンの過剰ないし異常分泌により性の異常が惹起される場合を称するが,一般には男性ホルモンの過剰分泌の症例が多いため女子の男性化あるいは男子の性早熟という病像をとることが多いのは衆知のとおりである。この際,副腎の病変としては副腎皮質腫瘍(ことに腺腫)あるいは先天性副腎皮質過形成があり,特に後者の方が多くみられる。多くの症例がなんらかの男性化を示すが,性および年齢に関係のあるホルモンの異常であるためにその臨床像は患者の性および発病年齢により非常に異なるのは当然である(第1表)。
 ところで副腎腫瘍の場合には,腫瘍そのものによる副腎性男性ホルモン,まれに女性ホルモンの過剰分泌であるために,他の種類の副腎皮質ホルモンすなわちglucocorticoidおよびmineralocorti-coidの異常はほとんどみられず,したがつてその発生病理も簡単に理解できるが,先天性副腎過形成の場合には,各種の副腎皮質ステロイドホルモン合成系の酵素の先天的欠乏の結果発症することが明らかにされており,その病態生理も複雑である。

シスチン結石—Cystinuria

著者: 田苗綾子

ページ範囲:P.221 - P.228

 シスチン結石はcystineが尿中に過飽和状態にまで排泄された結果沈澱し,cystineが難溶性であるため結石を形成して生ずるものである。ほとんどがシスチン尿症患者にみられるものであり,大部分は小児にみられる。成人腎結石ではわずかに2%を占めるに過ぎない1)
 シスチン尿症に関しては,その生化学的概念および遺伝学的概念の究明が最近の研究の焦点となつてきた。その結果,遺伝性アミノ酸代謝異常にもとずく疾患であり,その遺伝形式は完全または不完全な単純劣性遺伝を示すことが明らかにされている2)

染色体異常症例における尿路性器奇形の合併について—37症例の観察

著者: 大田黒和生 ,   鶴賀信篤

ページ範囲:P.229 - P.235

緒言
 長らく人類の染色体数について議論があり,理論的には染色体異常にもとずく奇形の存在が信じられていたが,その具体的証明には困難な技術上の壁が立らふさがつていた。しかし,1950年代に至り,末梢血内単球,小リンパ球の分裂促進作用のあるphytohemagglutininが開発され,一方,細胞分裂を中期に止めさせるコルヒチン処理法,染色体をうまく散らばらせ固定するのに低張液処理,押しつぶし法が考案され,末梢血培養法の普及以来,急速に染色体の実態が明らかにされてきた。ことに,1956年,Tjio & Levan1)が人類の染色体数が46であることを立証,Denver (1960)2),およびLondon (1963)3)で開催された国際委員会でその分類法が決定され,染色体の各種の異常を記号で表示するようにさえなつている。
 泌尿器科領域においては人類の染色体数が解明された当初より,ことに性染色体異常とインターセックスとの関連性から染色体の問題に興味をもつ多くの研究者が出現していた。

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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75巻10号(2021年9月発行)

特集 今こそ知りたい! ロボット時代の腹腔鏡手術トレーニング―腹腔鏡技術認定を目指す泌尿器科医のために〈特別付録Web動画〉

75巻9号(2021年8月発行)

特集 ED診療のフロントライン―この一冊で丸わかり!

75巻8号(2021年7月発行)

特集 油断大敵! 透析医療―泌尿器科医が知っておくべき危機管理からトラブル対処法まで

75巻7号(2021年6月発行)

特集 前立腺肥大症(BPH)薬物治療のニューノーマル―“とりあえず”ではなくベストな処方を目指して

75巻6号(2021年5月発行)

特集 躍動するオフィスウロロジー―その多様性に迫る!

75巻5号(2021年4月発行)

特集 前立腺癌のバイオロジーと最新の治療―いま起こりつつあるパラダイムシフト

75巻4号(2021年4月発行)

増刊号特集 泌尿器科当直医マニュアル

75巻3号(2021年3月発行)

特集 斜に構えて尿路結石を切る!―必ず遭遇するイレギュラーケースにどう対処するか?

75巻2号(2021年2月発行)

特集 複合免疫療法とは何か? 腎細胞癌の最新治療から学ぶ

75巻1号(2021年1月発行)

特集 朝まで待てない! 夜間頻尿完全マスター

74巻13号(2020年12月発行)

特集 コロナ時代の泌尿器科領域における感染制御

74巻12号(2020年11月発行)

特集 泌尿器科医のためのクリニカル・パール―いま伝えたい箴言・格言・アフォリズム〈下部尿路機能障害/小児・女性・アンドロロジー/結石・感染症/腎不全編〉

74巻11号(2020年10月発行)

特集 泌尿器科医のためのクリニカル・パール―いま伝えたい箴言・格言・アフォリズム〈腫瘍/処置・救急・当直編〉

74巻10号(2020年9月発行)

特集 令和最新版! 泌尿器がん薬物療法―手元に置きたい心強い一冊

74巻9号(2020年8月発行)

特集 泌尿器腫瘍の機能温存手術―知っておくべき適応と限界

74巻8号(2020年7月発行)

特集 これが最新版! 過活動膀胱のトリセツ〈特別付録Web動画〉

74巻7号(2020年6月発行)

特集 小児泌尿器科オープンサージャリー―見て学ぶプロフェッショナルの技〈特別付録Web動画〉

74巻6号(2020年5月発行)

特集 高齢患者の泌尿器疾患を診る―転ばぬ先の薬と手術

74巻5号(2020年4月発行)

特集 ここが変わった! 膀胱癌診療―新ガイドラインを読み解く

74巻4号(2020年4月発行)

増刊号特集 泌尿器科診療の最新スタンダード―平成の常識は令和の非常識

74巻3号(2020年3月発行)

特集 泌尿器科手術に潜むトラブル―エキスパートはこう切り抜ける!

74巻2号(2020年2月発行)

特集 いま話題の低活動膀胱―これを読めば丸わかり!

74巻1号(2020年1月発行)

特集 地域で診る・看取る緩和ケア―泌尿器科医として知っておくべきこと

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