文献詳細
綜説
文献概要
緒言
人体の癌が外部からのある物質に原因するのではないかという考え方の代表的なものに約200年前Pott(1775)1)によつて報告された煙突掃除夫の陰嚢癌がある。Pottの報告は,その原因として"すす"という物質を考えたことは確かに重要な発見ではあるが"すす"の中のなにがすなわちその原因となる物質の化学構造は判明し得なかつたのである。ところが,1895年ドイツのRehn2)により染料であるfuchsinの生産に従事する人々に膀胱癌の発生がみられるという報告において,Rehnはfuchsinの原料であるanilineが癌発生の原因ではないかと考えたのである。Rehnの報告はanilineという一種の芳香族アミンを,すなわちはじめて発癌を化学構造式の判明した物質との関係において研究する端緒となつた点,非常に偉大な発見といえるのである。そしてこのRehnの報告は職業性膀胱癌,実験的膀胱癌および自然発生性膀胱癌の生化学的研究を促進する結果となつたのである。それゆえ,膀胱癌の発生原因はひとの他の部位の癌よりも詳細に研究されているため泌尿器科医のみならず,癌疫学者,生化学者にとつても興味ある癌であるといえよう。
人体の癌が外部からのある物質に原因するのではないかという考え方の代表的なものに約200年前Pott(1775)1)によつて報告された煙突掃除夫の陰嚢癌がある。Pottの報告は,その原因として"すす"という物質を考えたことは確かに重要な発見ではあるが"すす"の中のなにがすなわちその原因となる物質の化学構造は判明し得なかつたのである。ところが,1895年ドイツのRehn2)により染料であるfuchsinの生産に従事する人々に膀胱癌の発生がみられるという報告において,Rehnはfuchsinの原料であるanilineが癌発生の原因ではないかと考えたのである。Rehnの報告はanilineという一種の芳香族アミンを,すなわちはじめて発癌を化学構造式の判明した物質との関係において研究する端緒となつた点,非常に偉大な発見といえるのである。そしてこのRehnの報告は職業性膀胱癌,実験的膀胱癌および自然発生性膀胱癌の生化学的研究を促進する結果となつたのである。それゆえ,膀胱癌の発生原因はひとの他の部位の癌よりも詳細に研究されているため泌尿器科医のみならず,癌疫学者,生化学者にとつても興味ある癌であるといえよう。
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