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雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科26巻13号

1972年12月発行

雑誌目次

特集(増刊号の)5 尿路・性器疾患の化学療法(感染症と腫瘍) Ⅰ.尿路感染症の化学療法

尿路感染菌の薬剤耐性

著者: 三橋進 ,   伊予部志津子

ページ範囲:P.7 - P.13

はじめに
 従来,グラム陰性桿菌による感染症としては,法定伝染病の起因菌による赤痢菌およびサルモネラ菌感染症が重要視されていたが,現在はこれらの病気に加えて,大腸菌,緑膿菌,クレブシェラ,変形菌などによる感染症が問題になつている。これらグラム陰性桿菌による感染症としては,耳鼻科領域における感染症,胆道感染症,産褥子宮内感染症および尿路感染症があげられる。いずれの場合もその起炎菌は,従来は病原性の弱い菌として重要視されていなかつたものが,これまでの病原菌に代わつて感染症の主役をなすに至つたものである。
 現在起炎菌として分離される多くが長期にわたつて化学療法剤の治療を受けた慢性患者から由来したものであり,多くの化学療法剤に対して耐性化しているという事実は,これら起炎菌が化学療法剤に対して自然耐性であるか,もしくは耐性を獲得し易い性質をもつているために,化学療法という淘汰に対して生き残つた菌であることを示している。

臨床面よりみた尿路感染菌とその薬剤感受性

著者: 名出頼男

ページ範囲:P.15 - P.22

はじめに
 尿路感染菌とその薬剤感受性(もしくは耐性)を臨床面から眺めるといくつかの問題が出て来る。以下6つの頃に分けて述べることとする。

腎盂腎炎の臨床

腎盂腎炎の免疫について

著者: 工藤健一 ,   池内広邦 ,   楠信男

ページ範囲:P.23 - P.30

はじめに
 腎盂腎炎は,一般に腎および腎盂腎杯系の細菌感染症と定義される。したがつて細菌感染に附随するいろいろの免疫現象があるわけであるが,本稿ではこれらのうち主要な問題として,菌体抗原(somatic antigen)に対する抗体いわゆる0抗体と腸内細菌共通抗原(common antigen)に対する抗体とをとりあげ,腎盂腎炎における抗体の態度,その測定の臨床的意義,本症の進展との関係,治療による影響などについて教室の成績を含めて文献的に考察する。

患者尿の細菌学的検査

著者: 黒坂公生

ページ範囲:P.31 - P.37

 医学の進歩に伴い,医療業務も細分化されて,臨床医自らが細菌検査をする機会はきわめて少なくなつた。しかし,その概要を知つておくことは,尿路感染症を理解する上にも,また治療の面からも必要なことと思われる。以下に患者尿の細菌学的検査について,一般細菌と結核菌,ならびに未だ多くの問題を含んでいるが,嫌気性菌についての検査法を中心として,その概要を述べてみたい。

尿路感染症患者の採尿と検尿上の問題点

著者: 仁平寛巳 ,   石部知行 ,   碓井亜 ,   広本宜彦

ページ範囲:P.38 - P.46

はじめに
 尿路感染症の確実な診断は尿培養における細菌学的検査によつて決定されるが,尿沈渣の顕微鏡的検査は簡単に行なえてその結果が即刻に判明することから,尿路感染症の存在を推定するための最初の検査であることは否定できない。また尿所見は感染に対する尿路の反応を示すものとして,臨床経過の観察と治療効果の判定に最も重要な目標と考えられている。このようにスクリーニングから診断および治療経過追求のために必要な検査資料である尿は,不注意な取り扱いによつては思わぬ誤りをきたすことも起こり得る。そこで尿路感染症患者の採尿と尿検査に関して,著者らの検討とともに最近の文献から問題点を取り上げてみたいと思う。

上部尿路感染症の細菌と宿主側の問題

著者: 熊沢浄一

ページ範囲:P.47 - P.53

はじめに
 腎,尿管,膀胱,尿道,近接性器は,それらが独立して感染症に罹患すると考えるより,尿という媒体で相通じているのであるから,尿路すべてが感染し,時により各部分の症状が強く現われると考えた方が妥当であろう36)。しかし尿管膀胱移行部により一応尿の逆流が防止されていることを考慮するとそこを境として上部,下部と分けることはあながち無謀なことではないし治療の面より考えると便利なこともある。
 寄生体側,宿主側を問わず,尿路感染症の問題の中で上部尿路に関与したもので,かつ最近私が関心を抱いている問題を列挙してみることとする。私見が多いことと,問題提起にすぎないものが含まれていることをお許し願いたい。

腎盂腎炎の化学療法の実際

著者: 新島端夫

ページ範囲:P.54 - P.60

はじめに
 腎盂腎炎の治療の原則は,原因菌に対する適確な化学療法と,尿路全長におけるスムーズな生理的尿流の確保にある。
 しかし,基礎疾患として尿路結石,水腎症などの腎疾患があり,これに併発する形で発症した合併性の腎盂腎炎では,その腎疾患への治療が先決となり,まして腎摘などの適応があれば,腎盂腎炎としての治療対象にならなくなる。

小児の腎盂腎炎

小児の腎盂・腎炎—宿主側の問題点

著者: 宮崎一興

ページ範囲:P.61 - P.70

はじめに
 腎盂・腎炎を腎盂腎杯および腎実質における細菌性非特異的感染と定義するならば,寄生主である細菌と,宿主である生体との間に様々の問題が提起される。本稿では主として宿主側の問題点に限局し,無菌の尿路に何故細菌が侵入し,増殖し,腎盂・腎杯,腎実質にまで到達し,感染を発症させるかという問題について考察してみたい。ここではいわゆる感染経路と,腎盂・腎炎の発症基因および誘因が重要な因子となる。

小児尿路感染症と白血球機能,殊にNBTテストについて

著者: 大田黒和生 ,   鈴江美都 ,   近藤賢

ページ範囲:P.71 - P.75

はじめに
 尿路感染症に関する臨床上の問題は,①起炎菌自体に関する事項,②炎症の成立に関与する尿路の状況,③内的条件としての自然自己防禦機構の問題の3点に大別される。①については尿中細菌の同定,定量培養,耐性テスト等が日常ルーチンとして検査される一方,菌交代現象などが追究されている。②については頑固な反復性尿路感染症に対し,静脈性腎盂撮影を中心にした尿路撮影,内視鏡的検査などを行なうことが不可欠であるとの認識はすでに衆知の事実となつている。しかし,③に関しては抗体価,網内系機能,あるいは白血球機能の追究があるが,いずれも検査法自体に問題があり,信頼されるデータがえられ難いので,一般化されていない。尿路感染症の臨床的研究に際し,起炎菌や,尿路状況の追究のみでは片手落ちであり,同時にもうひとつの要因である内的条件としての自己防禦機構の解明が必要であることはすでに古くより指摘されてきた所である。ただ,その解明にどのようなアプローチをしていつたらよいのか,具体的な方法がまだ確立されていないのが現状である。

小児期腎盂腎炎の起炎菌と化学療法の問題点

著者: 川村猛

ページ範囲:P.77 - P.84

はじめに
 小児の腎盂腎炎は局所症状に乏しく,発熱など非特異的な一般全身症状を訴えるにすぎないため上気道感染などと間違えられやすく,安易な化学療法剤や抗生物質の使用によつて一般症状が緩解するために看過されやすい。しかし本疾患の小児期疾患に占める頻度は実際には非常に高く1〜3),しかも成人期に至つての腎盂腎炎の再発,慢性腎不全,高血圧などの潜在的可能性をもつていることを認識しなければならない。
 小児腎盂腎炎の化学療法は単にその起炎菌と薬剤との関係だけでなく,まず小児期における本疾患の特徴を十分把握した上で論ぜられるべきである。その最大の特微は宿主側にあつて,本症における基礎疾患,とくに先天性尿路疾患の存在率がきわめて高いということである4)

細菌性膀胱炎の臨床

細菌性膀胱炎の臨床—細菌性膀胱炎の起炎菌と薬剤耐性について

著者: 石神襄次

ページ範囲:P.85 - P.90

はじめに
 細菌性膀胱炎はわれわれ泌尿器科医が日常しばしば遭遇する疾患であり,通常,起炎菌を同定するまでもなく,化学療法を施行し,しかもその大半がそれによつて治癒せしめている。したがつて,その診断,治療にさいし,ともすればなおざりになり,起炎菌の同定,およびその薬剤感受性についての検索も上部尿路感染症におけるほどは実施されていないのが現状である。しかし,抗生剤の濫用によつてその起炎菌も年とともに大きな変化が認められており,治療にさいしてもこの点の考慮をないがしろにできない症例が増加しつつある。とくに,尿路の通過障害や,膀胱機能の障害を併う基礎的疾患の存在するばあいには,いわゆる複雑な難治性の膀胱炎となつて,再発をくりかえし,起炎菌も薬剤の投与のたびに目まぐるしく変化し,かつそれぞれの起炎菌の性格にいちじるしい差の認められるような症例が増加していることも注目すべき事実である。反対に,自然排尿より分離された細菌を一義的に起炎菌と断定し,患者の主訴のみより難治性膀胱炎としてあまり意味のない化学療法をくりかえし施行されている症例も少なくない。
 今回は,われわれの経験した細菌性膀胱炎について,統計的観察をのべると共に,とくにその起炎菌の薬剤感受性を中心とした特徴,他科領域の分離菌との比較などに言及し,さらに耐性菌感染による本症治療の対策についても附言したい。

最近の細菌性膀胱炎の化学療法

著者: 西浦常雄

ページ範囲:P.91 - P.98

はじめに
 細菌性膀胱炎という概念を厳密に定義すると,結核菌,淋菌,大腸菌やブドウ球菌などの化膿菌によつて起こされた膀胱粘膜および粘膜下組織の炎症で,すなわち原発性細菌性膀胱炎である。これに対してある原因によつて膀胱炎が必然的に発生するような状態にあり,これに前述の細菌が膀胱炎を発生せしめたもの,あるいは,ある原因によつて膀胱の炎症が発生しており,これに細菌が寄生的に感染したもの,すなわち続発性膀胱炎と呼ばれるものでは,その細菌が膀胱炎の発生に関与した役割はまちまちで,さらに生体に対する病原的役割もまたいろいろであるが,生体側からみれば一般にこれらの細菌の駆逐が望まれる。したがつて続発性膀胱炎も細菌性膀胱炎に含めて考えるべきであろうと思われる。すなわち膀胱炎で尿中に有意の数の細菌が認められる場合を細菌性膀胱炎と考えることにする。

女子尿路感染症(下部尿路)の原因と治療上の問題点

著者: 梅津隆子

ページ範囲:P.99 - P.109

はじめに
 編集室より与えられたテーマは女子尿路感染症と尿路全般にわたるものであつたが,ここでは下部尿路に限定したことをお断りする。
 女子尿路とくに下部尿路感染症は解剖学的,生理学的,発生学的要因から男子に比べて圧倒的に多い。とくに発生学的に同じ生殖洞に発生する腔,尿道,頚部や三角部は年齢的要素をも含めて複雑な様相を加える。

尿道炎の臨床

最近の感染性尿道炎

著者: 大熊博雄 ,   水間圭祐

ページ範囲:P.111 - P.118

はしがき
 近年感染症に対する各種抗生物質の開発は目ざましいものがあり,その臨床効果報告例は枚挙にいとまないほど多くの発表がある。泌尿器科領域でも尿道炎に対する各種抗生物質の新しい治験例が数多く報告されているが,それらの抗生物質の普及につれ,これら新しく開発された抗生物質や抗菌性薬剤がたとえ試験管内で有効性の成績がえられても,臨床的に応用して常に必ずしも奏効するとは限らなかつたり,また逆に試験管内では病原菌の感受性が低くて有効とは思えないような薬剤が臨床効果を示すこともあり,また病原体側の耐性化が進展して多剤耐性菌の増加となり,その耐性パターンも複雑化して変つた臨床症状を呈し,臨床家を困惑させる症例が現われてきた。今回は最近の感染性尿道炎の臨床を内外の文献より展望し,宿主—寄生体,微生物—薬剤の関係から述べてみたいと思う。

最近の腎結核の化学療法

最近の臨床面よりみた腎結核の傾向と問題点

著者: 柿崎勉

ページ範囲:P.119 - P.126

はじめに
 結核化学療法の出現以来20余年を経過した。この間結核症の疫学的様相や臨床諸像に化学療法出現以前には見られなかつた様々の変化が起こり,早い速度で進展して来た。これらの変化は直接・間接に結核化学療法に密に関連しているものと考えられる。変化は現在も尚継続しており,それらがいつ恒常性のものに落付くか予測しがたい状態である。結核症は極めて長く且緩慢な経過をとるのが一般であるから,今後のなりゆきを予想することは時期尚早のこともあろうが,化学療法20年を経た今日,変化のあるものは限界に達し,恒常性のものにならうとしているようにも思われる。以上のような事情は結核症の部分現象である尿路結核においても全く同じであつて,化学療法によつてまき起こされた波乱の総決算をすべき時期は近いように考えられる。
 この20年間に尿路結核に起こつた変化で,ことに最近注目されている主なものは,前記の疫学的様相の変化と臨床諸像の変化のほか,尿路結核に特有ともいうべき,化学療法に基づく二次的病変群の発生とその対策の問題である。以下これらの点について簡単な展望を試みたい。

腎結核の化学療法

著者: 岡元健一郎 ,   大井好忠 ,   池村紘一郎

ページ範囲:P.127 - P.133

はしがき
 肺結核の減少とともに本邦における腎結核も減少しつつあることは幸である。これは生活水準の向上,化学療法の進歩と結核予防法などの社会的防圧体制によるもので文化社会における社会病撲滅の一つのモデルとなりうるものであろう。しかし後述するように現在でも腎結核の発生は大学泌尿器科外来で1%程度に存在している。そしてその治療のためのcriteria,とくに化学療法の規準は完成されたものといえない点があるのは残念である。著者らは本稿において教室における成績をもととして腎結核の頻度,腎結核の治療法として化療が占める地位,化療単独による治療効果,偏腎結核摘除後の残腎発病防止のための化療の実際などについて述べる。もちろん自らの経験は少ないし独断におちいる点もあると思うが参考になれば幸である。腎結核は尿路結核の原発巣として尿管結核,膀胱結核を伴うので随伴症状としての尿管狭窄,萎縮膀胱の問題もあるが本稿ではふれないことにする。

Ⅱ.副性器感染症の化学療法

前立腺炎の診断と治療—化学療法を含めて

著者: 生亀芳雄

ページ範囲:P.135 - P.141

まえがき
 前立腺炎の診断と治療について述べるが,その前に男子の非特異性の感染症,炎症のうち前立腺炎がしめる割合を1963年から68年までの東大泌尿器科の疾患統計を例にとつてみると,第1表に示したように1273例のうち162例が前立腺炎で,その頻度は12.6%である。
 なおこの162例についての年齢別頻度は第2表のようで20歳から30歳までが全体の60%をしめている。

副睾丸炎の診断と治療

著者: 江藤耕作

ページ範囲:P.143 - P.147

はじめに
 副睾丸炎は各学者によつて異なつた分類がなされているが,一般に非特異性副睾丸炎(急性,亜急性,慢性),特異性副睾丸炎(結核性,梅毒性),淋菌性副睾丸炎,外傷性副睾丸炎に分類されている。

結核性副性器炎の治療

著者: 近藤厚

ページ範囲:P.149 - P.155

はじめに
 性器結核の発生頻度は,第2次大戦の前には泌尿器科外来患者の約3.5%であつたが,1945年頃から急激に増加して,1949年には最高(6.6%)に達した。その後Streptomycin (SM)をはじめとする抗結核化学療法が導入されるとともに次第に減少して5%台となり,1959年頃から急に下降線をたどり,1960年頃には約半数の2.3%となつた。その後引続き徐々に減少して,1970年12月末におけるわれわれの全国的調査1)の結果では0.5%となつている。

Ⅲ.尿路・性器悪性腫瘍の化学療法

尿路悪性腫瘍の化学療法の適応

著者: 加藤篤二 ,   吉田修 ,   原田卓 ,   町田修三

ページ範囲:P.157 - P.162

はじめに
 現在,悪性腫瘍の治療の主体は手術的治療にあるが,手術のみによつて根治性が得られない場合が多く,放射線治療,抗がん剤による化学療法が補助的療法(adjuvant therapy)として重要なものとなつている。また手術的治療法,放射線療法が局所的であるのに反し,がん化学療法は全身的に作用する点が特徴の一つであり,その対象は担がん生体にある腫瘍細胞の全部であると考えてよい。悪性腫瘍を完治することができるようになるためには,その治療は局所的であつてはならず,対象は担がん生体の全腫瘍細胞でなければならない。この見地よりすると,がん化学療法には大きな可能性があると考えられる。
 しかし,現時点におけるがん化学療法には一般に未解決の問題が多く,尿路悪性腫瘍の化学療法においても,その効果が確認されているものは少ない。各種抗がん剤の特微,投与方法,副作用等について十分知識をもち,さらにがんの進行度,患者の一般症状等慎重に検討した上で化学療法の適応は決められるべきである。

性器・副性器悪性腫瘍の化学療法の適応

著者: 黒田恭一

ページ範囲:P.163 - P.170

まえがき
 男子性器および副性器の悪性腫瘍の化学療法については,内外の成書にほとんど記載が見られないように,普及の域に達していない。悪性腫瘍に対する治療の根本原則は手術療法であり,しかも早期根治手術が基本となつていることは,古今東西において不変である。しかしその適応範囲や遠隔成績は,各臓器によりかなりの差異が見られる。また補助療法にも各種のものがあり,その併用形式や組合せ法においても臓器による差異がいちじるしい。
 補助療法を性器および副性器の悪性腫瘍についてみると,睾丸悪性腫瘍特に精上皮腫には照射療法が有効であり,前立腺癌の大多数例には抗男性ホルモン療法が有効で次善的地位を占めており,陰茎癌では新しい抗癌剤のBleomycinが脚光を浴びている。しかし陰茎癌の早期症例に対するBleomycinの著効性を除いては,化学療法の第1選択的適応は見当たらず,原発巣に対する治療法としての化学療法の地位は,他種療法との併用の線にしぼられている。

泌尿器癌転移巣の酵素化学的診断

著者: 高安久雄 ,   小磯謙吉

ページ範囲:P.171 - P.179

はじめに
 今世紀に入り酵素学の基礎的な進歩につれて,これの臨床医学への診断的応用が行なわれてきている。とくにWohlgemuthが膵疾患,ことに膵炎で血中,尿中Amylaseが特異的に上昇することを報告して以来,疾患と酵素との関係が注目され始めたのである1)
 一方,悪性腫瘍研究の中心として酵素が注目されてきていた。1943年Warburg,Christianらは癌組織では正常組織に比して解糖過程の速度が速いことに気付き,その原因を追求する目的で解糖系の酵素をJensen・sarcoma移植シロネズミの血清で測定したところ,Aldolase,Triose isomeraseが上昇していることを発見した2)。ここに担癌生体,癌患者と血清酵素との関係が存在することが明らかになつた。ここに癌の臨床診断として血清酵素,尿中酵素が利用できる可能性が生れて来た。この可能性に向かつて,現在まで数多くの研究が行なわれてきているにもかかわらず,癌の診断としての酵素の臨床的意義は若干の酵素を除いてはきわめて低いといわざるをえないのが現状である3)

膀胱癌の転移に対する化学療法の問題点

著者: 宍戸仙太郎 ,   鈴木騏一 ,   杉田篤生

ページ範囲:P.181 - P.188

緒言
 今日までに種々なる抗癌剤の開発がなされてきたが,その効果は動物実験により確かめられるとともに,臨床的にも投与が行なわれ,種々検討がなされている。しかし実際に臨床的に投与する場合に,常に問題となるのは副作用の存在である。したがつてこれらの抗癌剤をいかに投与すれば副作用がなく最大の制癌効果が挙げられるかの研究,いい換えると投与法の検討に関する報告がほとんどであり,またその多くは可移植性腫瘍を腹腔内あるいは皮下に移植して後,同一局所に抗癌剤を投与し,その延命効果あるいは腫瘍の大きさの変化などにより判定しているもので1〜5),遠隔転移に対する抗癌剤の影響を検討した報告はきわめて少ない。また同時に膀胱癌の転移巣に対する化学療法の効果を検討した報告は殆んだ見当らない状態である。よつて今回私共は教室で行なつた移植膀胱腫瘍に関する実験成績と,手術療法に併用した化学療法の効果をもとにして,膀胱癌の転移巣に対する化学療法の問題点を述べてみたいと思う。

腎癌の化学療法

著者: 高井修道

ページ範囲:P.189 - P.192

まえおき
 悪性腫瘍に対しては早期診断と根治的全摘除術がもつとも良い成績をあげている。このことは泌尿器系の悪性腫瘍についてもいえるが,腎癌は初期の根治可能の時期には自覚症状がなく,初発症状である肉眼的血尿の現われるころには腫瘍は相当大きくなり腎周囲に進展し始めていることが多く,したがつて腎癌においては血尿は"clinically early, but pathologically late"とまでいわれている。それゆえ腎癌における手術療法の予後は他の部の悪性腫瘍のそれと比較して決して良好とはいえない。手術療法の成績を向上するためには手術術式そのものの改良,たとえば支配血管をまず結紮切断して腫瘍細胞の血行性播種を防ぐとか,術創に腫瘍細胞を散布しないようにするとか,その他種々の工夫がなされているが,このほかに術前後における放射線療法,化学療法を併用することにより局所,全身転移を減少し予後の向上を計ることが試みられている。

腎癌の抗癌剤動注療法

著者: 増田富士男

ページ範囲:P.193 - P.201

緒言
 最近における癌の化学療法の発展はいちじるしく,新しい抗癌剤の開発,投与方法,手術あるいは放射線治療との併用などについて,多くの業績が発表されている。
 しかし今日の抗癌剤は,一般にその効果にくらべて副作用が強い。したがつて薬剤の抗腫瘍効果を高めると同時に,全身性障害を出来るだけ軽減するための1つの方法として,腫瘍へ入る栄養動脈にカテーテルを挿入し,局所に高濃度の抗癌剤を注入することが考えられる。

ウィルムス腫の化学療法

著者: 渡邊至

ページ範囲:P.203 - P.212

緒言
 小児の悪性腫瘍で白血病,脳腫瘍を除いたもの,すなわち小児外科でとり扱う悪性腫瘍としてウィルムス腫は神経芽腫,悪性リンパ腫に次いで発症頻度の高いものである。昭和45年の全国集計をみると1),15歳以下の小児に発生した悪性腫瘍971例のうち,白血病467例,悪性リンパ腫56例,脳腫瘍99例,神経芽腫94例,ウィルムス腫53例,網膜芽細胞腫46例……となつており,ウィルムス腫は全体の5.5%を占めている。
 乳幼児腹部の悪性腫瘍に限ると,ウィルムス腫は32〜44%2)を占め,神経芽腫,小児肝癌と並んできわめて重要な小児外科疾患である。

膀胱腫瘍の化学療法

著者: 小川秀弥

ページ範囲:P.213 - P.220

はじめに
 "癌を薬剤で治癒させる"ということが癌化学癌法の理想であることはいうまでもない。
 近年,感染症に対する化学療法はめざましい発展をとげたが,癌に対する化学療法も1964年にNitrogen Mustardの有効性が報告されて以来1),今日に到るまで種々の抗腫瘍剤が開発され,改善されて徐々にではあるが進歩しつつある。しかしながら現在用いられている抗腫瘍剤はいずれも副作用が強く,その有効量を系統的に投与することは不可能である。したがつて現段階では,化学療法のみで腫瘍を根治させることははなはだ困難なことであり,手術や放射線療法との併用治療が行なわれている。

ブレオマイシンによる陰茎腫瘍の治療

著者: 広川勲

ページ範囲:P.221 - P.228

 ブレオマイシン(以下ブレオと略記する)は梅沢等1)が発見した抗腫瘍性抗生物質で,最初の臨床的研究が1965年10月以降市川院長の指導のもとに国立東京第一病院泌尿器科で行なわれた。最初膀胱癌(移行上皮癌),前立腺癌(腺癌),腎癌および睾丸腫瘍(ゼミノーム)に対して試みられたが何れも著効は得られなかつたが,たまたま陰茎癌に使用する機会がありその有効性が確認された。即ちブレオは陰茎癌に対して最初にその有効性が確認された制癌剤である。
 従来陰茎癌の治療は初期症例には放射線治療で治癒せしめることも出来るが,多くの場合進行した状態で来院するために,手術的治療を必要とする場合が多く所属リンパ腺の廓清を含めた陰茎切断術が行なわれるため,患者の受ける肉体的精神的打撃は極めて大であつた。ブレオの出現はこうした患者の苦悩を救うものであつて,陰茎癌の治療には画期的な治療法となつた訳である。

睾丸悪性腫瘍の化学療法

著者: 辻一郎 ,   折笠精一

ページ範囲:P.229 - P.236

はじめに
 睾丸腫瘍の97%を占めるgerminal tumorの治療方針はその病理組織型によりかなり異なる。放射線感受性の高いセミノーマには高位除睾術後,放射線療法を追加するだけで根治的後腹膜リンパ清掃術は普通行なわない。放射線感受性の低い胎児性癌およびteratocarcinoma(未分化奇形腫)では,除睾術後原則として後腹膜リンパ清掃術を行ない,さらに必要あれば放射線療法を追加する。ただし小児,ことに乳児期の睾丸腫瘍(胎児性癌と未分化ないし分化型奇形腫)は一般に成人例に比して予後良好であり,乳児睾丸腫瘍で後腹膜清掃あるいは放射線療法が真に必要であるか否かについては現在意見が分かれている。絨毛上皮腫構造を示す睾丸腫瘍はきわめて悪性で早期より広汎な血行性転移を来すため,如何なる治療を行なつても予後不良である。

前立腺癌のホルモン療法—特にその作用機序について

著者: 志田圭三 ,   島崎淳 ,   伊藤善一 ,   山中英寿

ページ範囲:P.237 - P.242

はじめに
 Huggins博士により提唱された前立腺癌抗アンドロゲン療法は,癌に対する薬物療法開発の先鞭をつけた輝かしい業績をもつものであるが,最近に至り,長年月にわたる予後調査の結果,批判の声もうまれてきている。その最たるものは1970年Cancer誌上に発表されたVeterans Administrationグループの成果である。非進行症例ではフラセボー投与は少なくとも延命効果においてdiethylstil-bestrol投与にまさつており,進行症例においてのみdiethylstilbestrolが有意の延命効果をもたらしているにすぎない。長期間にわたるエストロゲン投与が脂質代謝をみだし,心血管系障碍をきたす事が上記現象の一因とも考えられている。本稿では,抗アンドロゲン療法の根拠とされている前立腺癌アンドロゲン依存性の問題,抗アンドロゲン作用のメカニズム等について,記載をすすめる事にしたい。

末期前立腺癌に対する下垂体組織内照射法の効果

著者: 片山喬 ,   百瀬剛一

ページ範囲:P.243 - P.250

緒言
 前立腺癌に対するホルモン療法の価値については良く知られており,われわれも通常除睾術とEstrogenの併用によつて極めて大きい効果をあげ,また最近はEstrogenの代りにProgestinを使用してもEstrogenと同様な効果のえられることが報告されている。しかし,前立腺癌患者についての統計の示すところでは,前立腺癌のため悪液質におちいり,又尿路感染症や腎不全のため死亡するものも決して少なくなく,ホルモン療法中の本症患者の管理の困難さに尚多くの問題点のあることを痛感させられる。更に末期の本症患者についての問題として,疼痛に対する対策があげられる。周知のごとく,本症における骨転移は,時として尿路症状より先に発生することさえあり,このための疼痛ないし,それによる歩行障害等のため苦しむ症例が多いことも事実である。

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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特集 尿路性器感染症の治療薬はこう使う!―避けては通れないAMRアクションプラン

76巻1号(2022年1月発行)

特集 尿道狭窄に対する尿道形成術の極意―〈特別付録Web動画〉

75巻13号(2021年12月発行)

特集 困った時に使える! 泌尿器科診療に寄り添う漢方

75巻12号(2021年11月発行)

特集 THEロボット支援手術―ロボット支援腎部分切除術(RAPN)/ロボット支援膀胱全摘除術(RARC)/新たな術式の徹底理解〈特別付録Web動画〉

75巻11号(2021年10月発行)

特集 THEロボット支援手術―現状と展望/ロボット支援前立腺全摘除術(RARP)の徹底理解〈特別付録Web動画〉

75巻10号(2021年9月発行)

特集 今こそ知りたい! ロボット時代の腹腔鏡手術トレーニング―腹腔鏡技術認定を目指す泌尿器科医のために〈特別付録Web動画〉

75巻9号(2021年8月発行)

特集 ED診療のフロントライン―この一冊で丸わかり!

75巻8号(2021年7月発行)

特集 油断大敵! 透析医療―泌尿器科医が知っておくべき危機管理からトラブル対処法まで

75巻7号(2021年6月発行)

特集 前立腺肥大症(BPH)薬物治療のニューノーマル―“とりあえず”ではなくベストな処方を目指して

75巻6号(2021年5月発行)

特集 躍動するオフィスウロロジー―その多様性に迫る!

75巻5号(2021年4月発行)

特集 前立腺癌のバイオロジーと最新の治療―いま起こりつつあるパラダイムシフト

75巻4号(2021年4月発行)

増刊号特集 泌尿器科当直医マニュアル

75巻3号(2021年3月発行)

特集 斜に構えて尿路結石を切る!―必ず遭遇するイレギュラーケースにどう対処するか?

75巻2号(2021年2月発行)

特集 複合免疫療法とは何か? 腎細胞癌の最新治療から学ぶ

75巻1号(2021年1月発行)

特集 朝まで待てない! 夜間頻尿完全マスター

74巻13号(2020年12月発行)

特集 コロナ時代の泌尿器科領域における感染制御

74巻12号(2020年11月発行)

特集 泌尿器科医のためのクリニカル・パール―いま伝えたい箴言・格言・アフォリズム〈下部尿路機能障害/小児・女性・アンドロロジー/結石・感染症/腎不全編〉

74巻11号(2020年10月発行)

特集 泌尿器科医のためのクリニカル・パール―いま伝えたい箴言・格言・アフォリズム〈腫瘍/処置・救急・当直編〉

74巻10号(2020年9月発行)

特集 令和最新版! 泌尿器がん薬物療法―手元に置きたい心強い一冊

74巻9号(2020年8月発行)

特集 泌尿器腫瘍の機能温存手術―知っておくべき適応と限界

74巻8号(2020年7月発行)

特集 これが最新版! 過活動膀胱のトリセツ〈特別付録Web動画〉

74巻7号(2020年6月発行)

特集 小児泌尿器科オープンサージャリー―見て学ぶプロフェッショナルの技〈特別付録Web動画〉

74巻6号(2020年5月発行)

特集 高齢患者の泌尿器疾患を診る―転ばぬ先の薬と手術

74巻5号(2020年4月発行)

特集 ここが変わった! 膀胱癌診療―新ガイドラインを読み解く

74巻4号(2020年4月発行)

増刊号特集 泌尿器科診療の最新スタンダード―平成の常識は令和の非常識

74巻3号(2020年3月発行)

特集 泌尿器科手術に潜むトラブル―エキスパートはこう切り抜ける!

74巻2号(2020年2月発行)

特集 いま話題の低活動膀胱―これを読めば丸わかり!

74巻1号(2020年1月発行)

特集 地域で診る・看取る緩和ケア―泌尿器科医として知っておくべきこと

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