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雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科30巻4号

1976年04月発行

雑誌目次

手術手技

再生を利用した膀胱拡大術

著者: 田口裕功

ページ範囲:P.279 - P.287

緒言
 1970年より膀胱自体の再生力を利用した膀胱拡大術を実施している。これらの症例は1975年までに国立相模原病院に入院したものである。これらは結核による種々なる病状を呈した13例の萎縮膀胱患者と一定の手術適応にもとついた膀胱腫瘍患者の8例で,一時期のみ薄い和紙を核とした合成樹脂の人工材料を膀胱の補填材料に使用するための手術を実施したものである。いずれの症例も満1年以上の観察を行なつたもので,1症例を除いてこの手術の目的である自然の排尿を可能とすることができた。しかし,再生の点からみて萎縮膀胱の症例中で自然排尿が不可能であつた1症例を含めて2症例のみは満足な膀胱再生ではなかつたが,この原因も明らかにすることができた。良好な成績を示した症例中には常識では自然の排尿など考えられない病的な状態のものも含まれていた。ここでは独自の手術体系で実施している再生を利用した萎縮膀胱に対する拡大術について述べることにする。

文献抄録

膀胱癌患者とCarcinoembryonic Antigen

ページ範囲:P.287 - P.287

 GoldとFreedman(1965)によつて見出されたCarcinoembryonic an-tigen(CEA)は,初めは結腸癌患者血清中に特異的に見出される抗原と考えられたが,その後の検索で生体の各種の悪性腫瘍患者の血清中に見られることがわかり,またHausen(1974)らはheavey smokerの血清CEA値の高いことを報告している。膀胱癌患者の尿中にもCEA様抗原が見出されて,血清中のCEAと同一のものとされた。著者らは膀胱癌患者の24時間尿と血清のCEAについて検討報告している。61名の膀胱癌患者で男性44名,女性17名で,年齢は23歳より80歳に及んでいる。癌患老を6群に分け,第1群は膀胱癌治療後再発をみないもの,第2群は経尿道的治療後小腫瘍のみ残存するもの,第3群は浸潤度O〜Aの表在癌,第4群は浸潤度B〜Cの浸潤癌,第5群は転移巣のあるD1〜D2群,第6群は膀胱全摘,回腸導管形成群とした。対照として健康成人44名と悪性疾患のない泌尿器患者14名を選んだ。検査成績についてみると,対照の44名では尿中CEA値は98%が2.5ng/ml(正常0〜2.5ng/ml)以下で,悪性腫瘍のない泌尿器患者14名では4名が正常以上の値を示したが,この4名は結石2名,尿路感染2名であつた。

原著

膀胱腟瘻の根治手術

著者: 廣瀬欽次郎 ,   今尾貞夫 ,   小川秋実

ページ範囲:P.291 - P.294

緒言
 産婦人科手術ならびに分娩後の合併症としての膀胱腟瘻は,泌尿器科医の対象となる以前に産婦人科医によつて経腟到達法で手術を受けていることが多い。経腟到達法が困難な症例や経腟到達法で不成功に終わつた症例が泌尿器科医の対象となり,その多くは経腹腔的,経膀胱的到達法をもつて手術されている。われわれは経腟到達法が困難と思われる後三角部の示指頭を通ずる大きさまでの5例の膀胱腟瘻症例に対し,瘻孔切除断面の膀胱壁の血流が縫合後も確保されることが治癒の第一義的因子と考え,O'Cornor1),Moir2),Akkilie3),更に本邦では,舟生4)らにより行なわれている恥骨上式膀胱腟瘻閉鎖術を簡素化して,経腹腔,経膀胱的に瘻孔閉鎖術を行ない,3年から7年6カ月の予後観察で良好な結果を得たので,その術式ならびに遠隔成績を報告し,若干の考察をのべる。

簡易尿中細菌感受性試験について

著者: 岩間注美 ,   三橋慎一

ページ範囲:P.295 - P.299

はじめに
 尿路感染症の診断には尿中細菌定量培養は不可欠であり,またその治療には培養生育細菌の各種薬剤に対する感受性試験は不可欠である。しかし,定量培養の標準法はかなり繁雑な操作を要し,しかもその感受性判明までにはやや長時間を要するという欠点があつた。この前段階の問題の簡便法として,いくつかの方法が紹介され,著者らの一人三橋1)はDip Slide法を検討,その日常臨床上の有用性を報告した。この方法は従来の他の方法と異なり,培地を用いるので菌の同定が可能である点が最大の長所と見なされた。したがつて今回はこの方法を用いて直接法による感受性試験が臨床応用上可能であるか否かを検討したので,以下これについて報告する。

症例

解離性大動脈瘤による腎血管性高血圧症の1例

著者: 塩谷尚 ,   山口修 ,   宮川征男 ,   桑原正明 ,   斉藤元

ページ範囲:P.301 - P.305

はじめに
 解離性大動脈瘤は比較的稀な疾患であり,予後も極めて悪く,積極的に外科的処置を施した報告は少ない。われわれは解離性大動脈瘤による腎血管性高血圧症に腎摘除術を施行し,一時的に降圧効果を認めた症例を経験したので報告する。

精神障害を呈した慢性透析症例

著者: 大川光央 ,   川口正一 ,   打林忠雄 ,   岡所明 ,   江尻進 ,   越野好文

ページ範囲:P.307 - P.312

緒言
 近年,本邦における透析療法の普及は目ざましいものがある1,2)。これに伴う慢性透析患者の増加および長期化は精神医学的諸問題を提起してきた。今回われわれは慢性透析療法開始後3年にして透析拒否を主症状とする精神障害を呈した1症例を経験したので,本症例を紹介するとともに透析患者の精神問題について考えてみたい。

チスチン尿症の2例

著者: 鈴木信行 ,   長根裕 ,   逢坂宇一 ,   岩動孝 ,   久保隆

ページ範囲:P.317 - P.321

 最近われわれは,上部尿路結石を再発し,そのつど外科的治療をうけてきたチスチン尿症の2症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

高Ca血発症を起こした腎盂膀胱癌の1例

著者: 平石攻治 ,   山下利幸 ,   海部泰夫 ,   斎藤史郎

ページ範囲:P.323 - P.328

はじめに
 悪性腫瘍に高Ca血症を合併することは決して稀ではなく,Myersは10〜20%という頻度を報告している。しかし,悪性腫瘍の種類によりこの頻度には差があり,尿路系の悪性腫瘍では少ないとされている。最近われわれは,膀胱腫瘍術後高Ca血発症をきたし,剖検にて右腎盂腫瘍と確認された1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する。

閉鎖神経鞘に発生した後腹膜腔神経鞘腫の1例

著者: 赤座英之 ,   福谷恵子 ,   西村洋司

ページ範囲:P.329 - P.333

緒言
 われわれは閉鎖神経鞘より発生した良性神経鞘腫の1例を経験した。本邦では現在までに41例の後腹膜腔内神経鞘腫が報告されているが,われわれが調べ得た限りでは,閉鎖神経鞘より発生した例はみあたらない。ここに若干の考察を加えて自験例を報告する。

両側同時発生尿管腫瘍の1例

著者: 徳中荘平 ,   本村勝昭 ,   折笠精一 ,   古田桂二

ページ範囲:P.335 - P.338

 尿管腫瘍は決して稀な疾患ではないが,両側尿管に同時に腫瘍発生をみることは極めて稀であり,かつこの際の治療方針は当然一般尿管腫瘍のそれとは異なつてくる。以下,われわれが最近経験した1症例を報告する。

小児膀胱移行上皮癌の1例

著者: 熊本悦明 ,   塚本泰司 ,   坂丈敏 ,   生垣舜二 ,   西尾彰 ,   川村芳弘 ,   室谷光三 ,   成松英明

ページ範囲:P.341 - P.346

はじめに
 小児期に発生する膀胱腫瘍はまれであり,本邦の"小児悪性新生物全国登録1)"でこれらに該当する"その他の泌尿器系悪性新生物"の項をみても,年間に0〜2例前後である。しかも,これらの大部分は非上皮性腫瘍例であり,上皮性膀胱腫瘍(特に移行上皮性腫瘍)の例はさらに少ない。最近,われわれは6歳頃より肉眼的血尿が出現し,15歳時に膀胱移行上皮癌と診断の確定した1例を経験したので,若干の文献的考察とあわせて報告する。

Caverno-spongiosum shuntを施行した特発性持続勃起症の1例

著者: 田中正敏 ,   本間昭雄

ページ範囲:P.347 - P.350

緒言
 priapismは今日ではまれな疾患ではないが,治療法には種々の方法が試みられている。
 最近われわれは,特発性と考えられるpriapismにcaverno-spongiosum shuntを施行し,priapismの改善,勃起のほぼ正常化という治療成績を得たので報告する。

Urological Letter・183

婦人科的損傷時の仮の膀胱閉鎖と尿管カテーテリスムス

ページ範囲:P.312 - P.312

 婦人科の仲間が腟式子宮摘出術の際中に間違つて膀胱を開いてしまつた時には,われわれ泌尿器科医が呼ばれる。婦人科医はしばしば膀胱の損傷部位の修復を行なうが,膀胱を閉じる際に1側または両側の尿管を傷つけることがある。尿管が傷つけられたことは手術後ただちにではなくて通常24時間ないし72時間後に初めて明らかになる。泌尿器科医が呼ばれた頃には患者の一般状態は通常かなり悪くなつている。三角部に浮腫が現われると尿管口を見つけるのも尿管カテーテルを入れるのも難しくなる。
 このような2つの症例で苦労したあとで近所の婦人科医が子宮摘出術に際してあやまつて膀胱を傷つけ,あわてて膀胱を閉じもしないで泌尿器科的コンサルテーションを求めてきた。

随想

泌尿器科手術の想い出

著者: 宍戸仙太郎

ページ範囲:P.351 - P.351

 わが国における泌尿器科学発展の歴史をみると,戦前はドイツ医学に根ざした皮膚泌尿器科学が,また戦後はアメリカ医学に新生した泌尿器外科学が主としてその母体になつていたということができる。
 私は昭和10年に大学を卒業してただちに外科学教室に入局し,その後昭和34年に東北大学泌尿器科学教室の初代教授として着任するまでの約24年間は一般外科学を専攻していた。そのためか泌尿器科に転向してからも泌尿・性器疾患に対する手術療法の研究に強い関心を寄せるようになつた訳である。

交見室

田利論文を読んで,他

著者: 増田富士男

ページ範囲:P.352 - P.352

 本年の臨泌1月号に掲載された田利氏の「経大腿動脈カテーテルによる腎動脈拡張で軽快した腎血管性高血圧症の1例」について,私の考えをのべてみます。
 本論文は腎血管性高血圧症のなかに,血管拡張により軽快する例のあることを始めて示唆したものであり,治療後4年6ヵ月の経過をみた上で発表された慎重な態度には賛意を表したい。しかし,腎血管性高血圧症に対して血行再建術を行なつた場合でも,その効果について3年以上の観察が必要であると考えており,保存的治療の場合さらに長期間の観察を希望したい。また尿路の拡張では,2回の短時間の拡張のみでは持続的な効果を期待できないことが多いが,血管の場合は永久的なものなのであろうか。この点IVPだけでなく,腎動脈撮影での長期間に亘る追跡がほしいし,少なくとも4年6ヵ月の時点での動脈像の検討がないのは残念である。

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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