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雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科32巻12号

1978年12月発行

雑誌目次

綜説

癌温熱療法最近の進歩

著者: 水野左敏

ページ範囲:P.1101 - P.1111

はじめに
 癌温熱療法の歴史は放射線や化学療法による癌治療のそれより古い。1866年Buschは丹毒にかかり40°C以上発熱した患者の肉腫が完全に消失した例を報告し,またBrunsは1884年多発性メラノーマの末期患者がやはり丹毒にかかつた後その腫瘍が完全に退縮あるいは縮小したことを報告した。これに基づいてColeyは1893年溶連菌の培養瀘液(Coley's toxin)を癌患者に投与し発熱させることにより腫瘍を治療する臨床例を報告し,癌温熱療法の先がけとなつた。しかし,このColey'stoxinは常に一定の生物学的活性を有する製剤として開発されず,また副作用の問題などから広く臨床的に用いられるまでに発展しなかつた。このようにその歴史の古さにもかかわらず癌治療法として,大きく発展しなかつたようである。しかし,近年高温処理(hyperthermia)の細胞に対する影響の生物学的研究の進歩および癌放射線療法や化学療法の進歩により,癌温熱療法は単独にあるいは放射線および化学療法との併用として臨床応用の可能性が再び関心をもたれてきている。すなわち高温による細胞不活化効果は適当な条件下で腫瘍細胞に対し選択的である。

手術手技

被膜下腎摘除術

著者: 川井博

ページ範囲:P.1115 - P.1118

はじめに
 被膜下腎摘除術については既に1880年にLeForteにより試みられているが,記録としては1900年にFranceを訪れたWilliam Mayoが,Tuffinerの被膜下腎摘除術を見学して報告したのが初めであり,この報告をきつかけにして,米国においても次第に被膜下摘除が普及するようになつたと言われている。今世紀初頭のTuffinerの方法は肥厚した腎被嚢を実質から剥離して被嚢を反転し,腎茎部に2本の腎鉗子をかけて腎茎部を切断するが,腎茎部の結紮は行なわずに鉗子はそのままとしてガーゼにて覆い5〜6日後に鉗子をとり自然止血を期待した。当時としても腎茎部の結紮処理は当然考慮されていたが,膿腎症の症例に行なわれるために腎茎部結紮糸に感染が残る問題があり,術後腎茎部結紮を行なつたために敗血症になつた例などが報告されている。
 その後1914年にはFederoffにより反転被嚢を切除して腎茎部血管周囲をできるだけ剥離し腎茎部を集束結紮する今日の方法が確立されて,本法の安全度が高くなつたと言われる。今日ではこのFederoffの術式が基本となっており,術者によりそれぞれ多少の工夫変法がなされているが,麻酔法,外科技術,化学療法剤の進歩で被膜下摘除術もまったく危険がなくなつたと言える。

被膜下腎摘除術

著者: 小川秋実

ページ範囲:P.1119 - P.1121

 被膜下腎摘除術は,腎周囲の癒着が高度の場合に,癒着した隣接臓器を損傷することなく腎を摘出するための術式である。この手術手技の要点は腎茎の処理にある。従来は腎被膜内で腎茎の結紮切断が行なわれることが多かつたが,著者は腎茎周囲の腎被膜にラケット状切開をおき,腎動静脈と腎盂を被膜外で剥離しているので,通常の腎摘除術と同様に腎茎の結紮切断ができ,また任意の位置まで尿管の切除が可能である。この方法は,腎茎を被膜内で処理する方法よりも優れていると思われる。

講座

臨床統計入門(12)—相関関係

著者: 杉田暉道

ページ範囲:P.1123 - P.1126

1.相関
 一般に親が頭がよいときには,その子供も頭がよいといわれている。いま50名の父親について,中学1年のときの国語の成績を調べ,それぞれの親の子供について同じく中学1年のときの国語の成績を調べて,親の成績と子供の成績との間にある関係が見いだされたときには,親と子供の成績の間には相関または相関関係があるという。
 これをもう少し厳密にいうと,1組の変わる値があって,一方の値が変わるにつれて,他方の値も変わるという場合,たとえば身長が1.1倍,1.2倍,1.3倍……と変われば,体重も1.1倍,1.2倍,1.3倍……と変わるというような関係があれば,この1組の変わる値の間に相関または相関関係があるといい,これをグラフ用紙の横軸に身長,他方の縦軸に体重をとつて,図を描けば第1図(a)のように直線になる。

原著

回腸導管とstoma造設の工夫

著者: シータンウン ,   斉藤豊一 ,   宗本忠典 ,   小野由雄

ページ範囲:P.1131 - P.1136

緒言
 Bricker1)が1950年に回腸導管造設術の検討を発表して以来,この術式は膀胱癌に対する膀胱全摘後の尿路変更術としてよく知られている。日本においても,特にここ数年この術式が広く行なわれるようになつた。術式の変化も多く報告されたが,膀胱全摘,回腸導管造設の手術については術中出血量が多く,術後の尿管回腸吻合部の狭窄,回腸導管のstomaの腹壁内への陥没と狭窄などの問題がまだ残されているといえよう。これらの諸問題を配慮しながら,われわれは1977年より約1年間に20例の手術症例を経験したので,この術式の改良と手術成績を報告したい。

文献抄録

膀胱癌による膀胱全摘時の尿道の処置

ページ範囲:P.1136 - P.1136

 膀胱癌による膀胱全摘の適応基準については文献的にも統一的見解があるが,残存尿道の処置に関してはなお意見の一致をみていない。
 ある人は膀胱全摘時には癌再発の予防のために男性では尿道も摘出すべきであるとしているが,ある人は膀胱頸部,尿道前立腺部に癌を認める場合に限つた方がよいとしている。しかし,大多数の人の意見では,術後の経過中に細胞診や内視鏡的に癌再発を認めた時に施行すべきであるとの考えである。また最近では膀胱全摘後の性交不能に対する陰茎成形法の問題もからんで,尿道摘出法もいろいろ問題を提起している,そこで著者らは最近20年間に経験した247例の膀胱全摘患者中,尿道摘出を行なつた32例の男性摘出尿道について病理学的検索を行なつて尿道摘出の意義について述べている。

症例

Candida albicansによる膿腎症の1治験例

著者: 青木清一 ,   村上泰秀 ,   河村信夫 ,   大越正秋

ページ範囲:P.1137 - P.1140

緒言
 尿路カンジダ症は,比較的稀な疾患であつたが,近年,抗生物質,ステロイド剤,免疫抑制剤,抗腫瘍剤などの使用が盛んになるにつれて,その発症も増加しつつある。すなわち,Candidaはヒトの口腔,気道,腸管,腟などに常在する非病原性真菌であるが,菌交代現象などにより病原性を有してくる場合が多い。
 われわれは,最近,糖尿病を伴う前立腺癌患者治療中,尿管結石嵌頓による尿流通過障害に合併したCandida albicansによる膿腎症を尿管切石術のみで治癒せしめた1症例を経験したので報告する。

多発性尿管憩室の1例

著者: 三浦猛 ,   里見佳昭 ,   中橋満

ページ範囲:P.1141 - P.1144

 多発性尿管憩室(multiple ureteral diverticula)は極めて稀な疾患で,1957年Hollyら1)の報告以来,1977年青山ら2)の本邦第1例目の報告を含め31例にすぎず,われわれの症例は本邦第2例目と思われる。

副腎嚢胞の1例

著者: 内藤克輔 ,   勝見哲郎 ,   久住治男 ,   黒田恭一 ,   杉岡五郎 ,   北川正信

ページ範囲:P.1145 - P.1149

 副腎嚢胞は稀な疾患であり,また特徴的な臨床症状がないことより他疾患の精査中に偶然発見されることが多い。われわれも左上腹部腫瘤,食思不振を主訴として内科入院精査中に発見された副腎嚢胞の1例を経験したので報告する。

後腹膜腫瘍の2例

著者: 進藤和彦 ,   阿部治美 ,   下山孝俊 ,   北里精司

ページ範囲:P.1155 - P.1158

はじめに
 最近,後腹膜の良性神経鞘腫と良性リンパ管嚢腫を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。

巨大な後腹膜漿液性嚢腫の1例

著者: 森山信男 ,   伊藤一元 ,   額賀優 ,   福田正則

ページ範囲:P.1159 - P.1163

緒言
 後腹膜嚢腫は,本邦では約150例報告されており,このうち漿液性嚢腫はわれわれがさがし得た範囲では21例と非常にまれである1〜21)
 われわれも右700ml,左5,300mlの2房性の巨大な後腹膜漿液性嚢腫を経験したので,ここに報告するとともに,本邦例について若干の検討を行なつた。

小児膀胱横紋筋肉腫の1例—特にその光顕および電顕像について

著者: 関根英明 ,   吉田謙一郎 ,   横川正之 ,   青木望 ,   川原穣 ,   宮本博泰

ページ範囲:P.1165 - P.1168

緒言
 われわれは最近,小児膀胱のいわゆるブドウ状肉腫を経験した。摘出腫瘍の病理組織学的検索において,光顕像では,胎児型横紋筋肉腫を思わせるものの,広汎な検索にもかかわらず横紋を認め得なかつた。しかし,電顕像により,横紋筋肉腫と同定するにたる筋原性細糸を認めて組織学的診断を確認したので,臨床経過とともにこれらの所見について報告する。

刺杭創による膀胱直腸瘻の1例

著者: 足立望太郎 ,   森下直由 ,   岩崎昌太郎 ,   草場泰之 ,   原種利 ,   進藤和彦

ページ範囲:P.1169 - P.1172

緒言
 刺杭創による膀胱直腸瘻は比較的稀な疾患であり,自験例を含め本邦では23例しか報告されていない。われわれは本症の治療法について反省させられる点があつたため,本症例の治療経過とともにその治療法について述べてみたい。

Urological Letter

原発性尿道アミロイド症/尿道アミロイド症

ページ範囲:P.1144 - P.1144

 尿道の原発性アミロイド症は稀である。この患者を初めて診たのは1974年9月だつたが,当時彼は1971年に急性の特殊な尿道炎に罹つたことがあるが,薬物療法できれいに治つたということを申し出ていた。1972年に尿線が側方に曲り始めたという。外尿道口は外反しており,小さな隆起物ができていた。外尿道口から中枢側に約2cmの硬いものもあつた。外尿道口の部分を切除し,尿道内の硬いところの生検を行なつた。病理検査の結果,アミロイド症の存在が確認された。
 1974年から1977年にかけて外尿道口に近いところの硬い部分が尿道に添つて会陰部の中頃まで拡がつた。患者は尿線の勢いも太さも減少しつつあることに気づき初めたし,だんだんに残尿が残るようになつた。

交見室

腎出血とIgA腎症/S状結腸癌による膀胱への影響について

著者: 仁藤博

ページ範囲:P.1174 - P.1174

 本誌「肉眼的血尿を主訴としたIgA腎炎の1例」(32巻6号,北村ら)を興味深く読ませて頂き,このような例が泌尿器科外来を訪れる患者にあることを改めて認識させられました。私も,腎生検をしていませんがIgA腎症ではなかろうかと思われる患者を現在5名follow upしています。このうち学校検診により紹介されて来たいわゆるchance hematuriaが3名いますが,〔①IgA腎症の唯一の診断根拠は腎組織の螢光抗体法所見〕でありますから,良性(少なくとも現時点までですが)で反復性の腎出血患者のうち血清IgA値の比較的高値のもの(IgA腎症でこれが必ずしも高い必要はありませんが)で,C3,C4も共に正常のものを,腎生検していませんが一応そう考えている次第です。東大例とやや違うのは,私の患者では蛋白尿がごく軽微かまつたくみられないもののみでありまして,〔②蛋白尿の程度のつよいもの(成人で1日およそ1gくらいあるもの)は,予後のわるい可能性がある〕ので,高血圧を伴うものと同じ扱いで腎内科にconsultしております。

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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