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雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科33巻12号

1979年12月発行

雑誌目次

綜説

腎とカルシウム

著者: 白木正孝 ,   高橋龍太郎 ,   折茂肇

ページ範囲:P.1151 - P.1162

はじめに
 ヒトの血中カルシウム(Ca)濃度は,他の電解質に比べ,比較的狭い範囲にコントロールされている。この血中Ca濃度のコントロールには,副甲状腺ホルモン(PTH),カルシトニン(CT),およびビタミンD(Vit.D)が関与しているが,これらcalcium regulating hormonesは,腎をその標的器官としている。
 したがつて,腎機能障害を来す種々の病態においては,これらcalcium regulating hormonesの代謝異常を惹起し,このため更に血清Ca,P異常,骨病変および軟部組織石灰化などの病態を呈するにいたる。特に近年慢性腎不全例の透析療法が進歩した結果,これら患者の長期生存が可能となつてきたため腎不全例のCa代謝異常症は,その出現頻度も飛躍的にまし,かつ患者の予後を決定する程の重要性を有するに至つている。しかし,この分野における最近の知識の集積量は膨大なものがあり,これらの知見を基にして,慢性腎不全例のCa代謝異常症の治療手段もまたつぎつぎと開発されつつある。

文献抄録

腎盂癌の予後に関する検討

ページ範囲:P.1162 - P.1162

 腎盂癌の5年生存率は大変低く,30〜50%と言われている。Latham(1974)の文献的統計によつても51%であつた。著者らの腎盂癌死亡例の剖検結果によると,その43%に摘出腎床に癌の再発を認めている。
 そこで著者らは腎細胞癌の場合と同様に腎盂癌に対しても,従来広く行なわれている腎・尿管の単純全摘出術ではなく,経腹膜的に腎動静脈を結紮後に腎脂肪被膜を含めた腎・尿管全摘出と患側の副腎摘出,そして後腹膜腔のリンパ節清掃術を施行して,その予後に対する結果を検討した。

手術手技 外来小手術のコツ

尿道脱の手術

著者: 小平潔 ,   柳沢温

ページ範囲:P.1165 - P.1166

 尿道脱とは女子尿道粘膜が外尿道口より反転脱出した状態で,粘膜が全周にわたり脱出した完全(輪状)尿道脱と部分的尿道脱に区別される。いずれも外尿道口にイチゴ状の軟らかい赤色の腫瘤として認められる。時間の経過とともにうつ血,浮腫を来し腫瘤は増大するが,いずれの場合でも膀胱内にカテーテルの挿入可能なことにより診断は容易である。治療として,a)保存的整復術,b) Fritsch氏結紮法,c)切除術,の3方法がある。整復術についてはBalloon catheterを用いて還納整復させる方法が好結果を得ている報告1)があるが,一般には再発しやすく,またFritsch氏結紮法を推奨する報告2)も見られるが,最も普通に行なわれているのは切除術である。

尿道脱の手術

著者: 上村計夫

ページ範囲:P.1167 - P.1168

緒言
 尿道脱は尿道粘膜が外尿道口より飜転脱出する疾患で比較的稀である。尿道脱には,その粘膜が尿道全周にわたつて基底部より脱出する輪状脱出(Ring formiger prolapsus)と,主として尿道後壁の一部粘膜の脱出する部分的脱出(Partieller pro-lapsus)とがある。輪状脱と部分脱との比はSau-ferlinによると137例中,輪状尿道脱98例,部分尿道脱38例,落合は46例中,45:1といずれも輪状尿道脱が大部分である。輪状尿道脱は少女および老婦人に多くみられる。発生年齢は女児および高齢者に多く,落合は小児例は80%,住吉らは70%であつたと報告している。

尿道脱の手術

著者: 岡田敬司

ページ範囲:P.1169 - P.1170

はじめに
 尿道脱は女子に起こるものであり,比較的まれなものである。好発年齢は18歳以下と閉経期後に最も多くみられ,外国文献1)では18歳以下が47〜60%,日本の文献では宮里2)が72%とのべている。
 尿道脱は尿道粘膜と粘膜下組織が外尿道口から反転し,脱出したもので,粘膜が全周にわたつて脱出した完全(輪状)尿道脱と不完全(部分)尿道脱にわけられている。完全(輪状)尿道脱は一目瞭然であるが,不完全尿道脱はほとんどが尿道後壁の脱出であるため,尿道小阜と誤られることが多いが両者は別のものである。

講座

泌尿器科領域の細胞診(6)—前立腺・睾丸の剥離細胞像とその臨床病理学的背景

著者: 山田喬

ページ範囲:P.1171 - P.1178

はじめに
 前立腺,睾丸の細胞診のためには大部分の例において穿刺吸引によりその細胞が採取されている。かつては会陰部のマッサージにより精液を採取してその細胞診が行なわれていたが,癌細胞の採取率は必ずしも高くなく,またそれよりも精液内に粘液成分が多いため細胞を判定しづらいので最近はあまり行なわれていない1)。前立腺癌のために細胞吸引採取器具の改良は種々行なわれているが,その原法はFranzenら2)により創始されたものである。
 本編ではこの穿刺吸引された細胞についての形態を記載する。

原著

子宮全摘後の神経因性膀胱の尿失禁—臨床像と治療法

著者: 斉藤博 ,   仲山実 ,   平賀聖悟 ,   水尾敏之 ,   牛山武久 ,   立花裕一

ページ範囲:P.1183 - P.1188

はじめに
 子宮癌に対する広範性子宮全摘後の神経因性膀胱については,すでに婦人科領域で多数報告されているが(三谷,1956,19701);小林,1962,19772)),泌尿器科受診例は陳旧例,重症例,尿管膣瘻合併例などが比較的多く含まれているためか,症状も婦人科領域の報告とは若干異なるようである。
 また,報告の主題もほとんど排尿困難についてであり,尿失禁についてはあまりふれられておらず,比較的放置された分野といえそうである(遠藤,19743);河村,19754);新川,19765))。

膀胱結石52症例の検討および電気水圧式砕石術の経験

著者: 野口和美 ,   仙賀裕 ,   村山鉄郎 ,   高井修道

ページ範囲:P.1189 - P.1193

緒言
 膀胱結石は尿路結石症の中でも比較的頻度が低く,当科における過去10年間の統計においても,全尿路結石症のうちで4.4%をしめるにすぎない。今回われわれは1964年1月から1979年4月までに当科に入院して治療を行なつた膀胱結石患者52例の臨床統計を行なうとともに,最近われわれが好んで行なつている電気水圧式砕石術の有用性について報告する。

症例

結石性膿腎自然破裂の1例

著者: 吉本純 ,   大北健逸

ページ範囲:P.1197 - P.1200

緒言
 腎自然破裂は極めて珍しい疾患である。最近,われわれは完全重複腎盂尿管を伴う結石性膿腎の自然破裂により膿胸を併発した1症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

Myeloma Kidneyに対する血液透析例

著者: 宮形滋 ,   根本良介 ,   西沢理 ,   原田忠 ,   熊谷郁太郎 ,   浜中純子 ,   高津洋 ,   福田光之 ,   秋浜哲雄

ページ範囲:P.1201 - P.1204

緒言
 多発性骨髄腫は比較的まれな腫瘍疾患であるが,高頻度に腎障害を合併し尿毒症を呈する例が多い。Myeloma kidneyに対する血液透析の報告例は数少ない。われわれも最近IgD型のmyelomakidneyに対して血液透析を施行する機会を得たので報告する。

Computed Tomographyが診断に有用であつた腎および膀胱X線陰性結石について

著者: 木下英親 ,   秦野直 ,   大澤炯 ,   田崎寛 ,   久直史 ,   成松芳明 ,   平松京一

ページ範囲:P.1205 - P.1208

緒言
 泌尿器科領域におけるコンピューター断層撮影Computed Tomography (以下CTと略す)の臨床的応用とその有用性についての報告は数多くなされている1〜6)。われわれはX線陰性結石の診断に対してもCTが極めて有用であることを示す症例を経験したので若干の検討とともに報告する。

尿管扁平上皮化生の1例—本邦14例の統計的観察

著者: 石塚榮一 ,   岩崎晧 ,   中尾日出男 ,   原田昌興

ページ範囲:P.1209 - P.1213

緒言
 われわれは,発病より14年もの長い経過をとり,その間に樹皮様の組織片(角化物)(第1図)の排泄をくり返していた尿管のみに限局した扁平上皮化生(白板症)の1例を経験したので報告し,われわれが集め得た本邦14例の統計的観察を試みる(第1表)。

術前に動脈塞栓術を施行した後腹膜腫瘍の2例

著者: 内田豊昭 ,   横山英二 ,   鮫島正継 ,   小林剛 ,   石橋晃 ,   桜井健司 ,   小柴健

ページ範囲:P.1215 - P.1218

 原発性後腹膜腫瘍は1761年Morgagniによつて記載された脂肪腫が最初の報告であり比較的稀な疾患である。原発性後腹膜腫瘍における腫瘍摘除率は必ずしも多くなく,試験開腹術に終わる場合が比較的多い疾患である。Smithら1)は手術不能例と思われた後腹膜原発のHemangiopericytomaに対して術前にgelformによる支配動脈塞栓術を施行し,摘除可能となつた症例を報告している。今回われわれは,原発性後腹膜腫瘍の2例に対して術前に動脈塞栓術+抗癌剤動注療法を施行し,腫瘍摘出術に際し有効性を認めたので報告する。

Case Study

難治性の昼夜尿失禁を訴えて来院した症例

著者: 福井準之助

ページ範囲:P.1221 - P.1224

 10歳,女児。生来,昼夜間の尿失禁がある。便失禁はない。排尿状態は,正常の排尿もあり,尿線も太く勢いもよい。尿意を感じるとすぐ便所に行かないと失禁状態となることが6歳頃まで続いたが,現在はない。月に2〜3回ほど,半日位パンツを汚さないこともあるという。また排尿後腹圧を加えると,尿の漏出があるという。頻尿はない。小さい頃に比べ現在では,1日2〜3回位パンツの交換を行なわなければならない程,尿失禁の量が増えてきた。4歳頃より某病院で向神経薬剤や抗コリン剤の投与を受けていたが,ほとんど効果なく,最近では,服用したりしなかつたりしている。学校の旅行が近づいたので,母親が心配して本院を一緒に受診した。既往歴,家族歴には,特記すべきことはない。

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交見室

著者: 村上信乃 ,   早川正道

ページ範囲:P.1225 - P.1225

いわゆる特発性腎出血について
 私達の論文「いわゆる特発性腎出血について」に対する三軒久義先生の御質問(33巻10号交見室)にお答えします。
 私達の"特発性腎出血"の診断基準は確かに御指摘の通り甘いものと考えます。しかし,それは本論文の主旨である「従来,一般に行なわれている程度の診断基準では,糸球体病変を見落とす危険性がある」という点をはつきりさせるため,あえて一般に行なわれている甘い基準を採つたものです。今回の対象36例は論文中でも述べている通り,頑固な血尿が続いた例で,全例一度は肉眼的血尿の時期を有しており,半数以上は膀胱鏡的に出血側を確認しています。出血側を確認できた例とできなかつた例との間に腎生検所見で差を認めておりません。また内科的腎疾患の可能性を除外するため,外来検査にて尿蛋白の多いものや,血液学的,あるいは血清学的に異常のあるものは内科に転科させており,本対象に含まれておりません。したがつて,御質問のIgA値の高かつたものは本対象に1例も含まれておりません。なおIgA腎症では血清IgA値が必ずしも高いとは限らないと報告されているようですが,私達の成績でも,正常なIgA値のものにあのように多数のIgA腎症が存在したことは,その事実を裏づけるものと考えます。

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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