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雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科34巻4号

1980年04月発行

雑誌目次

綜説

腎移植の現状—米国死体腎移植の現況を中心に

著者: 合屋忠信 ,   児玉好史 ,   松元輝夫

ページ範囲:P.307 - P.318

Ⅰ.米国腎移植の背景と成績
 1.米国腎移植の背景
 近代腎移植の歴史は,1950年代初頭に死体腎および一卵性双生児間の移植を試みた米国ボストンのPeter Bent Brigham病院に始まる1)。しかし,本格的に同種腎移植が末期腎不全の臨床に応用されるようになるのは,6MP,イムラン(アザシオプリン),ステロイドなどが免疫抑制剤として開発された1960年代初頭以降である。その後も米国の腎移植は,HLA系を組織適合性検査に臨床応用したTerasaki,抗リンパ球血清を初めて臨床に使用したStarzl,腎灌流保存法を開発したBelzerらの努力によつて常に世界をリードして今日に至つている。症例数も1967年には1,800例であつたものが,1972年には2,602例,1977年には4,048例と年々増加の一途をたどり2),1982年には新しく1年間に発生する10,000名の末期腎不全患者に対し,5,000名に腎移植を行なうのが目標となつている。このような腎移植の普及は,患者の要求に応えるだけの治療成績の向上に裏打ちされたものであるが,死体腎の利用や医療費補助に関する国家的支援体制に負うところも大である。

文献抄録

膀胱癌患者治療における粘膜多生検の意義

ページ範囲:P.318 - P.318

 膀胱癌にて摘出された膀胱について,一見内視鏡的には正常と思われる粘膜にいろいろな程度の組織学的変化が見られることは種々報告されている。そこで著者は154例の膀胱癌患者について,内視鏡的に腫瘍の見られない粘膜部位の多生検を行なつて,その組織所見を述べると共に,この所見をもとに治療経験について言及している。一般に膀胱癌患者の粘膜にはしばしば発赤が見られたり,これに顆粒状変化,浮腫,カビ様外観を伴う所見があり,carci-noma in situの所見として癌の進展している状態と説明されることが多い。しかし,膀胱癌を以前にTURあるいは放射線照射で治療された症例では感染,壊死巣などの所見も,ca.in situと類似して両者の判別は困難である。この点について著者らは多数症例について検討を加えている。
 症例は154例で,未治療の移行上皮癌56例,TUR後の再発例46例,放射線治療後の再発例52例である。生検部位は原則として天上,正中後壁,両側尿管口の上方1cmの4ヵ所とした。内視鏡所見は正常,発赤と血管増生および顆粒状,浮腫,赤色カビ状糊膜の3種類に分け,組織所見としては正常,粘膜増生,粘膜細胞の異形化1度,2度,癌(ca. in situ)の5型に分けて対比した.

手術手技 外来小手術のコツ

女子尿道憩室切除術

著者: 藤田民夫

ページ範囲:P.323 - P.325

はじめに
 女子尿道憩室は比較的稀な疾患である。その外科的治療法として,経膣的憩室切除術か,経尿道的憩室口切開術が行なわれることが多いが,前者がより根治的と思われる。ここにわれわれが行なつている経膣的憩室切除術の方法を述べ若干の考察を行なう。

女子尿道憩室切除術

著者: 大原孝

ページ範囲:P.327 - P.329

はじめに
 女子尿道憩室は従来比較的稀な疾患と考えられていたが,最近では本疾患に対する認識と診断技術の発達から数多くの報告例があり,かなりの治療成果が得られている。本疾患は尿道の一部,特に下壁に発生し尿道と交通する嚢状腔形成を称しており,前部尿道下壁に発生する場合と後部尿道下壁に発生する場合とがある。前者では視診と触診とで十分診断がつき,治療も比較的簡単な外尿道切開による憩室切除がなされている。しかし,後者の場合では腟内触診,尿道造影および尿道鏡検査などの所見によつて始めて診断が得られるものだけに治療も複雑である。
 その治療とは,憩室嚢切除と尿道切除口を縫合閉鎖することから成る。その方法は経尿道的憩室口切開術,経腟的憩室切除術,経庭式憩室切除術,後恥骨式憩室切除術等々がある。なお,本手術には術後の尿道狭窄,尿道腟瘻,尿失禁の3つの合併症を来す危険は避け難く,これら合併症を防止すべき努力が本手術のポイントとも考えられる。われわれは経腟的憩室切除術を用いて治療をしているが,その手順と操作に当り特に留意している点とを述べることとする。

講座

腫瘍と免疫(4)—細胞性免疫,その成立と発現

著者: 漆崎一朗

ページ範囲:P.331 - P.337

はじめに
 生体の免疫反応としては血清中のγ-globulinに依存する体液性免疫と生きた感作リンパ球系細胞に依存する細胞性免疫の2つがあり,前者はB-cellに後者はT-cellに担われているとされている。現在,細胞性免疫として位置づけられる免疫反応には,遅延型過敏症,同種移植免疫反応,感染防御反応がある。これら3つの型の細胞性免疫は発現形態からすればそれぞれに異なつているが,宿主細胞が直接に反応に関与していること,いずれの反応も体液性成分で他の個体に同じ型の免疫反応を導入できないが,細胞成分でのみそれが可能なことである。細胞性免疫の発現,その成立機序について考察してみたい。

Urological Letter

前立腺の針生検にロウスレイの牽引器の利用,他

ページ範囲:P.337 - P.337

 前立腺癌の治療に際して,針生検は依然として重要な手順である。経直腸方式の方が経会陰式よりも欲する部位からの組織採取率がよい,という理由で,多くの人は経直腸方式を好んで行なつている。
 しかし,発熱したり,膿尿になつたり,敗血症を起こす率は経会陰式よりも多い,という欠点がある。

パネル・ディスカッション

尿路変更術の諸問題

著者: 辻一郎 ,   佐藤昭太郎 ,   滝本至得 ,   田崎寛 ,   上野精 ,   宮崎一興 ,   折笠精一 ,   松本恵一 ,   町田豊平 ,   川村猛

ページ範囲:P.341 - P.359

(このパネル・ディスカッションは1979年10月第44回日本泌尿器科学会東部連合総会で行なわれたものである)
司会のことば
 辻 尿路変更術は1951年以来度々の日泌総会および各地区連合部会においてとりあげられてきた。特に佐藤教授の総会宿題講演(1971)に示された各術式の適応と長所短所は今日も基本的にはまつたく変わつていない。
 しかしながら,洋の東西をとわず現在最良の術式とされている回腸ないし結腸導管法は,近年の優れたdeviceを用いてもやはり常時集尿袋をつけねばならぬという根本的難点があるうえ,手術侵襲が大きくしかも術後早期の重篤な続発合併症のみならず長年経過後のlate complicationも案外に高率である。

原著

慢性透析における1-αVitamin D3の効果について

著者: 三橋慎一 ,   日景高志 ,   熊谷章 ,   平岡真 ,   須原茂 ,   小川俊夫

ページ範囲:P.365 - P.371

緒言
 血液透析の一般化に伴い,慢性腎不全症例のCa代謝異常が大きく注目を集めるようになつた。そしてこれと共にイオン化Ca(以下Ca++と略)や,副甲状腺ホルモン(以下PTHと略)の臨床レベルでの測定も可能となり,後者ではN末端,C末端の分離測定も行なわれるようになつた。またVitamin D3(以下D3と略)の各種誘導体も測定し得るに及び,この面の知識も急速に豊富になつて来た。その上,治療的にもD3の誘導体の投与が可能となつた。今回われわれもD3誘導体の一つである1-α Hydroxycholecalciferol(以下1-αD3と略)の投与を行ない,二,三の知見を得たのでその結果を報告する。

症例

血管造影にて発見された小さな腎癌の1例

著者: 藤田潤 ,   本多靖明 ,   垣添忠生 ,   村瀬達良 ,   松本恵一

ページ範囲:P.373 - P.375

 3cm以下の腎腫瘍は剖検時に偶然認められることが多く1),無症状のうちに術前に診断されることは珍しい。われわれは血管造影で発見された小さな腎癌の1例を経験したので報告し,早期診断について述べる。

腎癌(腎摘6年後)の膀胱転移症例

著者: 三橋公美 ,   山田智二

ページ範囲:P.377 - P.380

緒言
 腎癌は臨床的にさほど稀なものではなく,また肺,肝,骨を始め全身各部に遠隔転移巣を来すことはしばしばであるが,膀胱や尿道などの下部尿路に転移することはきわめて稀であるとされている。また腎癌では時に術後長年を経過し始めて遠隔転移が発現すること(いわゆる潜在性遠隔転移)が特徴の1つとされている。今回われわれは腎癌手術6年後に膀胱転移を来した症例を経験したので報告する。

腎嚢胞に合併せる腎腫瘍の1例

著者: 脇坂正美 ,   宮内武彦 ,   長山忠雄 ,   長尾孝一

ページ範囲:P.381 - P.384

緒言
 腎嚢胞に腎腫瘍が合併することは稀であり,また術前に腎嚢胞と腎腫瘍の共存例を診断することは極めて困難である。最近われわれは術前に診断し得た腎嚢胞に合併せる腎腫瘍の1例を経験したので,文献的考察を加え報告する。

Case Study

左鎖骨上窩腫瘤の症例

著者: 河合恒雄 ,   武田尚

ページ範囲:P.385 - P.388

 59歳,男子。特記すべき家族歴,既往歴はない。1974年9月中旬,左鎖骨上窩に無痛性の腫瘤を触れた。徐々に大きくなるので10月21日外科を訪れた。当時腫瘤は5×5cmで,なお腹部中央にも手拳大の腫瘤を触れた。鎖骨上窩腫瘤の生検ではcarcinoidと診断され,腸管か睾丸が原発ではないかと示唆された。消化管も睾丸も異常なく,肝,膵シンチグラムも正常であつた。原発巣検索のため12月10日当科にもまわされた。

交見室

「膀胱内圧,腹腔内圧測定用カテーテル」について,他

著者: 小柳知彦

ページ範囲:P.390 - P.391

 「膀胱内圧,腹腔内圧測定用カテーテル」(臨泌34巻1号,近藤ら)への意見を求められたので若干の私見を述べてみたい。
 まずtwo channelカテーテルに関してであるが,イリゲーターの静止水圧の影響を受けずかつ検査時間を短縮できる方法を開発された近藤博士に敬意を表したい。本法は私自身使用した経験がなく批判する資格がないと思えるので,私達が行なつているone chan-nel法についてのみ述べることとする。この場合,静止水圧の影響を除外するためには成人では16Fサイズのカテーテルを使用しかつ灌流液の点滴速度は最大1cc/secを越えないようにすることが大切と思われる。小児,殊に2,3歳の男児などの場合には8Fサイズの小児用栄養チューブを尿道カテーテルの代用とし灌流液速度は成人の1/3すなわち0.3cc/秒を越えないよう注意し,中間の年齢層ではカテーテルサイズ,灌流液速度を成人と小児の中間とするよう適宜調節すればまず臨床上静止水圧の影響が問題となることは少ないと私達は考えている。

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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