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雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科34巻6号

1980年06月発行

雑誌目次

綜説

新しい放射線治療

著者: 恒元博

ページ範囲:P.507 - P.517

緒言
 放射線治療成績は高エネルギーX線,γ線の導入によつて著しく進歩したが,それには治療技術の改善などに代表されるように,放射線物理学の寄与が非常に大きかつた。しかし,放射線治療をさらに進歩させ,今後の癌罹患数の増加と内容の変化に対応するためには放射線生物学をはじめあらゆる癌治療に関係する分野との協力を密にすることが必要である。
 現在,放射線治療が当面し,解決を迫られている課題を中心に放射線治療の現況と将来について検討する。

手術手技 外来小手術のコツ

膀胱瘻の造設術

著者: 大沼徹太郎

ページ範囲:P.521 - P.524

はじめに
 膀胱尿の導尿法としては,経尿道カテーテル法,膀胱穿刺法,および膀胱瘻の3つの方法があるが,膀胱瘻は経尿道カテーテル法に比べて膀胱刺激症状の少ない点,前立腺炎,尿道炎の合併がない点,および患者の日常生活が比較的妨げられない点で優れている。
 膀胱瘻の設置は,各種の原因による排尿困難症に対して行なわれるが,特に高度の尿道狭窄や尿道外傷でカテーテルの挿入が不可能の場合はよい適応となり,その他尿道炎や尿道周囲膿瘍を伴う症例にも行なわれる。

膀胱瘻の造設術

著者: 西村泰司

ページ範囲:P.525 - P.526

 膀胱瘻の適応となるほとんどの症例において,膀胱はトラカール穿刺が可能なほど十分に拡張しているか,または拡張させることができ,また最近は簡便で性能のよい種々のディスポーザブル・トラカールが開発されているので,手術的に膀胱瘻をおくまでもなくトラカールでことたりる場合がほとんどであると思われる。さらに非常用に常備されているトラカールすら,尿道操作の進歩とその普及のため使用されることは極めて稀であるのが現状であろう。手術的膀胱瘻の適応となる症例も,膀胱瘻をおくより理想的には骨盤内腫瘍に対してはむしろ尿管皮膚瘻などの尿路変更を,また尿道外傷に対しては,諸家によつて意見が異なるが,いわゆるprimary repairを行なうというように,まさに手術的膀胱痩の適応となる症例は極めて少ないのではないかと考える。
 以前の手術などにより変形をきたしたり,周囲組織との癒着のある膀胱でトラカールの適応とならない症例は,外来での小手術というより,むしろ本格的な手術室での手術の適応となるであろう。

講座

腫瘍と免疫(6)—癌患者の免疫機能

著者: 漆崎一朗

ページ範囲:P.527 - P.532

はじめに
 癌患者の免疫機能は癌細胞に特異的な応答性をみる特異的免疫能と,癌に限らずに個体の免疫応答能をみる非特異的免疫能にわけて考えられている。さらにそれぞれの免疫機能は細胞性および体液性の2つの免疫能に分けて測定されている。抗腫瘍性という立場からはその主役を演じているのが細胞性免疫能であり,とくに癌特異抗原に対応した免疫力,生体のリンパ系細胞による腫瘍細胞傷害が中心となつている。しかし,人癌を対象とする限りでは,癌特異抗原の実証もすべての癌に十分ではなく,また用いられる細胞性免疫の特異的検索法も限界があり必ずしも満足できるものではない。したがつて多くの場合には非特異的な方法が用いられている。しかし,非特異的な免疫能が果してどれだけ抗腫瘍性免疫と関係しているかの点については疑問が多い。癌が中年以降に発生しやすいことは老化,加齢に伴う免疫能の異常と無関係ではない。また癌化学療法,放射線療法は宿主に医原性要因による免疫抑制を促進させるであろうし,癌患者が担癌により悪液質におちいることも知られている。これら二次的免疫抑制が加算され,非特異的免疫不全状態をまねき,これが癌の特異的免疫能にも関与するといえるわけである。現在,癌患者の免疫能の測定に用いられている方法は要約すると第1表のごとくである。

文献抄録

睾丸悪性奇形腫のリンパ節清掃の意義

ページ範囲:P.532 - P.532

 悪性奇形腫に対して旁大動脈リンパ節清掃を行なうべきか否かについては欧米の泌尿器科医の間で必ずしも意見は一致していない。英国においては著者らは初期(stage Ⅰ, ⅡA)のものでは,たとえ旁大動脈に転移が考えられても,これが小型(5cm径以下)であれば化学療法と放射線照射(6 MeVリニアック,4,500rads,4〜5週にて)でよいとしている。最近は睾丸腫瘍の化学療法が進んで,悪性奇形腫の広範全身転移症例でも予後が大変良くなつた成績が報告されている(Stoter,1979)。著者らのRoyal Morsden Hospitalでは1976年1月より78年3月までに28例の初期(stage Ⅰ, ⅡA)の奇形腫に対して,旁大動脈節へ放射線照射のみを行なつて全例1年から3年健康に生活している経験から上記の治療方針を支持している。
 この論文では33例の悪性奇形腫を治療法に応じて3群に分けて結果を検討した。第1群13症例は旁大動脈節に放射線照射を主体としたが,6例には抗癌剤も投与した。第2群は13症例で,まず化学療法(ビングラスチン,ブレオマイシン,シスプラチン)を2〜6クール施行,4週間おいて放射線を旁大動脈節に照射,更に4週後に残存腫瘤があればこれを摘出した。

シンポジウム

脊髄損傷に基因する尿路障害に対する手術療法の適応と限界

著者: 辻一郎 ,   緒方二郎 ,   宮崎一興 ,   小柳知彦 ,   大沼徹太郎 ,   中新井邦夫 ,   岩坪暎二

ページ範囲:P.537 - P.550

 本論文は,1979年10月別府市で中村裕氏を会長として開催された第14回日本パラプレジア医学会のシンポジウム「尿路障害に対する手術療法の適応と限界」の要旨である。
 外傷性か非外傷性かを問わず脊髄障害患者の社会復帰のkey pointが,脊損神経因性膀胱とその続発腎・尿路病変の対策いかんにあることはいうまでもない。脊髄病変が固定期に入つて各種保存的療法にかかわらず効率のよい自排尿能力がえられず続発尿路病変も進行性の場合の対策として,従来いろいろな泌尿器科的あるいは神経外科的手術療法が提唱されているが,各術式の適応と成績評価については諸家の意見にかなりの違いがみられる。この問題はパラプレジア医学会の主要テーマとして既にたびたびとりあげられているが,最近数年間に下部尿路の機能・構造に関する新知見(特に従来看過されていた交感神経系の重大な役割)が次々と明らかにされそれに基づく新たな薬物療法が開発され,また一方神経因性膀胱に対する間歇的自己導尿法が広く普及してきた現在,脊損尿路障害に対する手術療法の適応と評価も新たな観点から再検討されねばならないわけであり,今回のシンポジウムもこの意味で時機をえたものと思われる。

Urological Letter

Ⅰ.尿失禁に対するマーシャル・マーシェッティークランツ法の合併症,他

ページ範囲:P.550 - P.550

 尿失禁に対して,尿道・膀胱の釣り上げ法は,合併症も少なく,成功率も良いし,手術も容易なので,最も普通に行なわれているわけである。
 ところが,最近めずらしい合併症が3例に見られたので報告する。

原著

腎手術の臨床的検討—第Ⅲ報 in situ hypothermia下での腎結石手術

著者: 秋元成太 ,   坪井成美 ,   由井康雄 ,   中島均 ,   戸塚一彦 ,   奥村哲 ,   金森幸男 ,   大場修司 ,   吉田和弘 ,   西村泰司 ,   富田勝 ,   川井博

ページ範囲:P.555 - P.561

はじめに
 腎結石に対する腎保存手術の意義についてはあらためてのべる必要はないであろう。
 腎盂切石術が可能であれば,腎機能に与える影響がもつともすくない点からみても好ましい手術であるが,すべての結石症例に適応があるとはかぎらない。その点で,現在まで腎切石術や腎部分切除術が行なわれてきているのが実状であり,その際には多くの症例で腎茎部遮断による血流停止が要求され,出血減少と視野確保という利点はあるものの腎実質に与える影響を常に考慮に入れる必要がある。

糖尿病患者の回腸導管症例の検討

著者: 新村研二 ,   木村茂三 ,   藤岡俊夫 ,   早川正道

ページ範囲:P.563 - P.567

緒言
 高齢者に対し手術を行なう機会の多い泌尿器科領域では原疾患のほかに種々な合併症を有した患者に出会うことが多い。今回著者らは合併症として糖尿病を伴つた膀胱腫瘍の2例と原発性女子尿道癌の1例に膀胱全摘除,膀胱尿道全摘除と尿路変更として回腸導管を造設し,術後の非経口摂取期間を含め,糖尿病患者の術前術後の管理につき検討したので若干の文献的考察を加え報告する。

症例

Mayer-Rokitansky-Küster-Hauser症候群を合併した下大静脈後尿管の1例

著者: 兼田達夫 ,   網野勇 ,   土門洋哉 ,   小柴隆蔵

ページ範囲:P.569 - P.572

緒言
 下大静脈後尿管はpostcardinal veinが残存し下大静脈になることに起因する血管系の発生奇形である。結果として水腎症を呈するなど泌尿器科疾患となり,1979年12月末現在本邦報告例は182例におよんでいる。われわれはMayer-Rokitansky‐Küster-Hauser症候群を伴つた例にComputedTomography(以下CTと略す)を施行し本症と確定診断できたので報告する。

高度の血尿を呈したDICの1例

著者: 吉澤一彦 ,   宮崎亮

ページ範囲:P.573 - P.576

緒言
 播種性血管内凝固症候群(Disseminated Intra-vascular Coagulation,以下DICと略す)は,近年決して珍しいものではなく,各科領域でしばしばみられる重要な症候群である。
 にもかかわらず本邦においては,泌尿器科疾患に合併したDICの報告は少ない。最近われわれは,高度の血尿を呈し臨床的に前立腺腫瘍の存在を疑われたDICの1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。

椎間板ヘルニアによる神経因性膀胱の1例

著者: 近藤厚生

ページ範囲:P.577 - P.579

緒言
 外傷性脊髄神経損傷による神経因性膀胱はその病因が明確なため,本疾患の発生機序,臨床経過,治療法などを研究する上で極めて貴重な情報を与えてくれる1)。今回は腰椎椎間板ヘルニアに基づく排尿障害で,典型的経過をとつた1例について,その尿流動態に焦点をあてつつ報告する。

精嚢嚢胞の2例

著者: 田近栄司 ,   白井千博

ページ範囲:P.581 - P.583

緒言
 血精液を主訴として来科する患者は日常外来診療においてそれほど珍しくないが,その原因を確診できることは比較的少ないようである。今回われわれは,血精液症の精査中発見した精嚢嚢胞の2例を経験したので報告する。

陰茎部尿道上裂の1例

著者: 米山威久 ,   和食正久 ,   内山俊介 ,   小川秋実

ページ範囲:P.585 - P.587

緒言
 尿道上裂は,尿道が陰茎背面に開口する比較的稀な先天性疾患であるが,最近われわれは尿失禁を伴わない,陰茎部尿道上裂の1例を経験したので報告する。

Case Study

主徴とするsilent kidneyが診断を迷わせた高血圧症例

著者: 高木健太郎 ,   福井巌

ページ範囲:P.591 - P.594

 39歳,主婦。
 30歳の時,発作性の頭痛があり,高血圧を指摘されたことがあるが放置していた。30歳頃より肥満の傾向が出現。36歳頃からは頭痛,血圧上昇(150〜180/120mmHg)のため降圧剤の投与をうけ,血圧は150/80mmHg前後に維持されていた。38歳,すなわち当科初診5ヵ月前,妊娠2ヵ月および子宮筋腫の診断で子宮単純摘除術を受けた。その後血圧は180/120 mmHg前後に固定化するようになつた。そして上記手術2ヵ月後,頭痛,嘔気を伴つて発作性に血圧が240/120 mmHgまで上昇した。そのため近医で検査を受けたところ,排泄性腎盂撮影で左腎が描出されないとのことで当科を紹介され受診した。
 家族歴:2児あり,下の子供は11歳。既往歴:腎炎,妊娠中毒症の既往はない。

交見室

Proteus感染による腎結石とHydro-xyurea,他

著者: 竹内秀雄

ページ範囲:P.596 - P.597

 本誌34巻3号の高崎先生の論文「Proteus感染による腎結石とHydroxyurea」を興味深く読ませていただきました。
 尿路結石のうちで約4分の1を占めるリン酸マグネシウムアンモニウム結石はProteusなどのウレアーゼ産生菌の感染により形成されますが,その予防および治療にはこれといつた有効な薬剤もなく臨床上重要な問題となつています。

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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