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雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科34巻9号

1980年09月発行

雑誌目次

綜説

プロスタグランディンと腎疾患

著者: 多胡紀一郎 ,   森忠三 ,   奴田原紀久雄 ,   東原英二

ページ範囲:P.819 - P.829

はじめに
 プロスタグランディン(Prostaglandin,以下PG)は生体に広汎に存在する不飽和の脂肪酸である。第1図に示すProstanoic acidを基本とした構造を有する。本稿では,腎PGの総説のうち,1)合成と分解,2)水と電解質代謝に及ぼす役割について簡単に要約し(これらについては文献1,2を参照されたい),主として腎に関連した疾患とPGについての総説を試みた。

手術手技

回盲部導管造設術

著者: 折笠精一

ページ範囲:P.833 - P.836

 永久的尿路変更法として今日もつとも広く用いられている回腸導管造設術は,長期の観察成績が明らかになるにつれて,重大な晩期合併症である腎機能障害が成人で約20%,小児で30〜68%の高率にみられている1〜3)。ストーマの狭窄,尿管吻合部の狭窄およびそれらに起因する腎結石,腎感染がその原因として以前より考えられていたが,最近回腸尿管逆流の問題がクローズアップされてきた4,5)
 先の長期観察の成績でも,10〜20%に腎盂腎炎の発症がみられているのに反し,逆流防止術を行なつた結腸導管造設術では腎盂腎炎が非常に少ない6)。動物実験の成績でも,逆流のある回腸導管で83%,逆流防止を行なつた結腸導管で7%の腎に組織学的に腎盂腎炎がみられている7)。これらのことから,回腸導管といえどもやはり逆流防止に留意すべきとして,いくつかの尿管逆流防止術が試みられたが,必ずしも満足なものでなく,結腸に比べると技術的にも難しい8〜10)

講座

腫瘍と免疫(9)—悪性腫瘍の免疫療法

著者: 漆崎一朗

ページ範囲:P.837 - P.842

はじめに
 すでにのべてきたことから,癌細胞には特異抗原があり担癌生体はこれに何らかの免疫応答を示していることは確かであるといえる。しかし,すべての癌細胞に特異抗原が証明されているわけではなく,またすべての担癌生体に免疫応答が発見されているわけではない。したがつて,ある腫瘍に特異抗原が存在しないとするならば,このような腫瘍に本来の意味での免疫療法はありえないのである。副作用がすくない,とくに白血球の減少が防止されるという報告があるが,それが免疫学的機序によるものでない限りは,免疫療法の効果として論ずることはできない。

文献抄録

睾丸の両側性germinal tumorについて

ページ範囲:P.842 - P.842

 睾丸腫瘍の患者では,対側の睾丸に腫瘍の発生する頻度は正常睾丸に比較して極めて高いことは古くより知られている。
 著者らは,1952年より1976年までの間に760例の睾丸腫瘍を治療して,21例に両側に腫瘍の発生を認めており,この21症例について種々の検索を行なつた結果について報告している.著者らの睾丸腫瘍の組織分類はseminoma, malignant teratoma in-termediate(MTI),malignant te-ratoma undifferentiated (MTU)の三つとし,stageはⅠ〜Ⅳとしている。治療としては,stage Ⅰ,Ⅱでは除睾術と後腹膜放射線照射とし,進行性のstage Ⅱ,Ⅲでは抗癌剤,放射線,外科的治療をそれぞれ症例に応じて施行し,stage Ⅳの肺転移では全肺野照射も行なつた。

原著

Coagulum Pyelolithotomyの経験

著者: 久住治男 ,   西野昭夫 ,   三崎俊光 ,   黒田恭一

ページ範囲:P.849 - P.853

緒言
 腎結石手術後の結石再発率がかなり大で,その大部分が結石残存に基づく仮性再発であることは周知の事実である。その対策の1つとして,1943年,Dees1)はfibrinogen溶液とthrombin溶液を腎盂内に注入し,形成されたcoagulum内に小結紺石を捕獲し,一塊として摘除するcoagulum pye-lolithotomyを発表した。その後本法に関する散発的報告が見られたが2〜5),最近に至るまでfibrino-gen製剤の入手困難や,coagulum作製の技術的な面から広く用いられるに至らなかつた。筆者の一人久住は,約18年前他の研究目的で牛fibrinogenを塩析法にて精製する機会があり,約1%fibri-nogen溶液を用いてcoagulum pyelolithotomyを試みたが,得られたcoagulumの強度が低く,当時のわれわれのfibrinogen製品の質的限界からその後の実施を中止した経験を有する。最近fibrino-genが市販され,入手が容易となつたが,Patel(1973)6)はfibrinogen製剤を用い,かつ注入方法にも改良を加え,多数例に本法を実施したことからこの種の報告が再び散見されるようになつた。

尿管結石の自然排出に要する期間についての一考察

著者: 木村行雄 ,   西沢理 ,   松尾重樹 ,   西本正 ,   能登宏光

ページ範囲:P.855 - P.860

はじめに
 尿管結石症ではかなりの比率で自然排石を期待し得るが,観血的摘出を余儀なくされるものも少なくない。しかし,尿路結石症の60〜85%が生涯のうち再発をみるとの報告1,2)もあり,また再発防止のきめ手となる方法がない現在,観血的摘出はできるだけ避けたいところである。
 今回,われわれが過去4年間に経験した尿管結石症のうち,自然排石した症例の排出に要した日数を調べ,尿管結石の自然排石を得るためにはどの程度の期間待つのがよいか検討した成績を報告し,併せて本稿でtrihydroxypropiophenone (以下THPPと略す)の効果も検討した。

女子反復性膀胱炎について—第3報 長期化学療法の効果

著者: 村上信乃 ,   藤田道夫 ,   香村衡一

ページ範囲:P.861 - P.865

 われわれは数年来,女子反復性膀胱炎に対して尿中および外陰部菌群の面より検討を加えて来た。その結果,膀胱炎治癒後も外陰部に棲息する病原菌が膀胱炎反復の原因の1つであり,それらの外陰部菌群増殖を外用薬剤使用で抑えることにより,膀胱炎反復をある程度予防できたことについては既に発表した1)。しかし,その後のfollow-upで,外用薬剤を局所に塗布することは意外にも面倒な操作であり,内服薬を希望する患者の少なくないことが判明した。そこで今度はStameyら2)により外陰部菌群に有効であると報告されているST合剤の長期内服に変更したところ,やはり外用薬剤使用と同程度の効果が認められたので,その概要につき報告する。

症例

先天性偏側性多嚢腎の1例

著者: 垣本滋 ,   田崎享 ,   松永尚文 ,   天本祐平 ,   伊藤瑞子 ,   今村甲 ,   関根一郎 ,   高尾隆三郎

ページ範囲:P.871 - P.874

緒言
 腹部腫瘤を主訴とする小児疾患のうち腎由来のものは稀なものではない。しかしながら,従来泌尿器科領域で行なわれていた腎機能検査,すなわち,DIP,逆行性腎盂撮影,レノグラム,大動脈造影,選択的腎動脈造影,下大静脈造影,腎シンチグラムなどの諸検査を施行しても,術前,腎由来の腹部腫瘤の診断は困難な場合が稀ではなかつた。今回われわれはComputed Tomography (以下CTと略)を施行し,術前先天性偏側性多嚢腎と診断しえた症例を経験したので報告する。

MMC-マイクロカプセルの術前動脈内注入法が奏効した下大静脈浸潤性腎腺癌の2例

著者: 森久 ,   根本良介 ,   石塚源造 ,   岩田克夫 ,   加藤哲郎 ,   石田晃二 ,   阿部忠昭 ,   高橋睦正 ,   玉川芳春

ページ範囲:P.875 - P.879

緒言
 腎腺癌は下大静脈内腫瘍栓子の形成,あるいは下大静脈壁への直接浸潤を伴うことも稀ではない。このような浸潤性腎腺癌の治療は泌尿器外科療法にとつて大きな課題であるが,手術手技の向上だけでなく,術前補助療法についても考慮する必要がある。著者らはマイトマイシンCマイクロカプセル(以下,MMC-m.c.と略す)の選択的動脈内注入が強力な抗腫瘍効果を発揮することを報告してきた1〜3)。最近,下大静脈浸潤を伴つた右腎腺癌2例に対してMMC-m.c.の動脈内注入法を試みた結果,腫瘍の著明な縮小をきたし,容易に根治的腎全摘出術を施行することができたので報告する。

術後に起こつた腎結腸瘻の1例

著者: 香村衡一 ,   村上信乃 ,   藤田道夫

ページ範囲:P.881 - P.885

緒言
 腎結腸瘻は,本邦において10例の報告が見られるが,その成因として,手術侵襲が注目されてきている1,2)。今回,われわれは腎摘出術を中断したために左腎下行結腸瘻を形成した苦い症例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する。

保存的治療を行なつたPyeloureteritis Cysticaの1例

著者: 工藤達也 ,   遠藤衛 ,   足木淳男 ,   冨樫繁也 ,   成瀬克邦 ,   鈴木唯司 ,   得居淳 ,   楠美康夫

ページ範囲:P.887 - P.891

はじめに
 Pyeloureteritis Cysticaは比較的稀な疾患であり,腎盂尿管腫瘍との鑑別が困難なことが多いとされている。今回Pyeloureteritis Cysticaと診断し,保存的治療にて改善し得た1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

超選択的膀胱動脈造影が診断に有用であつた尿膜管腫瘍の1例

著者: 石川博通 ,   秦野直 ,   田崎寛 ,   成松芳明 ,   平松京一

ページ範囲:P.895 - P.898

緒言
 尿膜管腫瘍は本邦ですでに150例の報告があり,もはやまれな疾患とは言い難い。しかし,早期診断が困難なため,根治手術の適応にならない症例が多い。著者らは膀胱鏡検査にて尿膜管腫瘍を疑い,超選択的膀胱動脈造影により術前に診断を確定し根治手術を行ない順調に経過している症例を経験したので報告する。

小児にみられた外傷性腹膜内膀胱破裂の1例

著者: 中島均 ,   川村直樹 ,   秋元成太 ,   川井博 ,   松岡千佳子 ,   岡田一芳

ページ範囲:P.899 - P.903

緒言
 今回われわれは,2歳幼児に見られた外傷性腹膜内膀胱破裂症例に対し,比較的遅い時期に治療を行なつたにもかかわらず,幸い良好な経過をたどつた経験を得たので若干の文献的考察を加えて報告する。

Urological Letter

Ⅰ.手術後の直腸・腟瘻,他

ページ範囲:P.879 - P.879

 放射線治療後の膀胱全摘や子宮全摘の手術に際しては,腟や子宮を直腸から剥離することが容易ではない。したがつて直腸損傷がまれならず起こる。
 直腸を損傷した時には2層縫合で閉鎖するが,必ずしも常に成功するとは限らない。それは腸蠕動が活発であるためと,直腸内圧が高いためである。

Case Study

発熱,背部痛を伴う腎のspace occupying lesion

著者: 実川正道 ,   丸茂健 ,   田崎寛

ページ範囲:P.905 - P.908

 50歳,主婦。
 高熱と背部痛を訴え慢性腎盂腎炎として某病院に受診。長期の化学療法を受けるも症状は改善しない。IVPを行なつて左腎の上極に腫瘤が疑われ,エコーグラムで一部に異常所見を認め,血管造影を行なつた。その結果,腎嚢胞の一部にhypovascularであるが異常血管豫を認めた。

交見室

In situ hypothermia下での腎結石手術について,他

著者: 増田富士男

ページ範囲:P.910 - P.911

 本誌34巻9号に掲載された秋元成太氏らによる腎手術の臨床的検討の第Ⅲ報「in situ hypothermia下での腎結石の手術」を興味深く拝読しました。秋元氏らの冷却法は原則的にわれわれと同じ方法であり,術中の腎の温度や術後のLDHの変動などもわれわれの成績と同様であることがわかりました。腎結石とくに多発性珊瑚状結石の手術で大切なことは,結石を残さないことですが,内外の文献をみますと,その残存率は10〜30%以上です。この点,秋元氏らの症例はいずれも残存結石がみられず,すぐれた手術成績といえます。その一因としては,腎の低温により,結石を完全にとり除くのに必要な阻血時間が十分に得られることが考えられ,この点からも秋元氏らの方法はすぐれているといえます。
 さらに2〜3,論文を拝読し,われわれの経験も加えて感じていることをのべますと,われわれもicedsaline slushを使用していますが,生理食塩水よりもマルトースを用いた方が,より細かいslushをつくるのが容易のようです。

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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