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綜説
癌の免疫療法
著者: 西條長宏1
所属機関: 1国立がんセンター内科
ページ範囲:P.303 - P.314
文献購入ページに移動免疫療法の目的は正常細胞にみられない腫瘍特異抗原,あるいは腫瘍関連抗原に対する免疫応答を増強することによつて腫瘍細胞のみを選択的に破壊することにある。したがつて,1)腫瘍細胞は正常細胞にはない腫瘍特異抗原,あるいは腫瘍関連抗原をもつていて,この抗原は宿主に対し免疫原として作用すること,および2)宿主は腫瘍を免疫学的に排除しうる腫瘍特異的拒絶応答機構をもつていること,が癌免疫療法の基本である。実験腫瘍においては,大半の同系移植癌や化学誘発癌の場合,腫瘍抗原の存在と,それに対する宿主の特異的免疫応答が証明されている。しかし,自然発生腫瘍の多くは,免疫原性もなく生体の免疫学的拒絶応答機構に対する感受性ももたない。また人の腫瘍特異抗原は血清学的手法により検出される場合もあるが,腫瘍抗原に対する特異的細胞免疫反応の証明は不十分である。腫瘍抗原を特異的に認識し腫瘍細胞を破壊に導くと期待される宿主側のeffector細胞はkiller T細胞である。killer T細胞の誘導は,実験腫瘍の系ではin vivo,in vitroにおいて証明されているものの,人の腫瘍への実用化には程遠い現状といえる。すなわち癌免疫療法のための二つの基盤の証明は人の腫瘍の場合いずれも不確実である。
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