icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科40巻10号

1986年10月発行

雑誌目次

綜説

逆流性腎症

著者: 生駒文彦 ,   有馬正明 ,   島田憲次

ページ範囲:P.773 - P.789

 逆流性腎症(Reflux Nephropathy)とは,VUR(Vesicoureteral Reflux:膀胱尿管逆流現象)による,あるいはVURに随伴する腎実質の瘢痕・萎縮,すなわち腎杯の鈍化・棍棒状化とそれに対応する腎実質のひ薄・陥凹(chronic atrophic,focalor diffuse,pyelonephritic scarring)の存在を意味し,Bailey(1973)によつてはじめて提唱された病名である。この病名は病因と病態の両者を同時に示すものであるが,とくにVURがこの病態の本質的病因であることを強調しているものである。
 VURによつて尿,とくに細菌尿が腎杯乳頭部,集合管,遠位尿細管,さらには髄質間質内に侵入すると腎盂腎炎が発生するが,この腎盂腎炎が新生児・乳児の時期に発症したり,VURが長く存続すると腎盂腎炎は慢性化して,炎症が髄質のみならず,さらに,皮質にも及び,皮質の瘢痕・萎縮が発生する。これが逆流性腎症である(第1図)。

手術手技

神経保存前立腺全摘術

著者: 岡田清己 ,   清滝修二 ,   北島清彰

ページ範囲:P.791 - P.795

はじめに
 Walsh1)により始められた神経保存恥骨後式根治的前立腺全摘術はあらためて骨盤内の解剖2〜4)および前立腺全摘術をみなおす機会をあたえてくれたといつてよい。本術式は逆行性に操作する方法である。すなわち,最初にSantorini静脈叢,膜様部尿道の処置を行つた後,尿道膀胱吻合を行つている。しかし,これを実際に行つてみると神経血管束がどこにあるのか判断に迷うことが多い。また,中心静脈の処置は決して容易ではない。われわれは以前より前立腺全摘術に際して順行性によるCampbell's procedure5)で行つているが6),神経保存手術も順行性で試みた。神経保存術を行うには骨盤内の正確な解剖学的知識が必要である。まず,骨盤内解剖について述べ,われわれの行つている術式,およびその結果につき述べてみたい。

講座 臨床研究のための統計学

IV.特殊な形式のデータの検定

著者: 高木廣文

ページ範囲:P.797 - P.801

1.対応のあるデータからなる2標本の比較
例題4・1
 高尿酸血症患者に対して,無作為に9例にA薬を,8例にB薬をそれぞれ投与した。投与前と投与1週間後の尿酸値を調べたところ第1表のようなデータが得られた。これから,両薬間に効果の差があるといえるだろうか。

座談会

よりよい手術をするために—尿管の手術(1)

著者: 北川龍一 ,   尾本徹男 ,   板谷宏彬 ,   小川秋実

ページ範囲:P.803 - P.812

 結石が非観血的に摘出される時代になつたが,それでも尿管の手術がなくなることはない。尿管への到達は簡単なようで難しいことがある。このような基本的なことを中心に話し合つていただいた。

原著

超音波スクリーニングによる腎癌の早期発見

著者: 山下俊郎 ,   藤本博 ,   田中正敏

ページ範囲:P.817 - P.819

 超音波スクリーニングにより無症状の比較的早期と思われる腎細胞癌5例を発見した。超音波スクリーニングは腎細胞癌の早期発見に有用と思われる。

経胸,腹膜外式副腎摘出術の経験

著者: 赤阪雄一郎 ,   望月篤 ,   清田浩 ,   倉内洋文 ,   大石幸彦 ,   町田豊平

ページ範囲:P.821 - P.823

 1981年以降6例の副腎腫瘍(クッシング症候群3例,原発性アルドステロン症2例,副腎嚢腫1例)に対し,経胸,経横隔膜,腹膜外式副腎摘出術を行つた。本法は片側副腎に対して,従来の術式に比較して小さい皮膚切開で,到達が容易で視野の中央に病変副腎が存在するために手術操作は容易であると思われた。一方欠点としては,両側副腎の観察が不可能であること,開胸に伴う合併症が予測されることが挙げられる。しかし,前者に関しては各種画像診断法の発達により局在診断率が向上していることで,後者については合併症の少ないことから,本術式も優れた方法と思われる。

二次性副甲状腺機能亢進症に対する副甲状腺全摘除術および自家移植術の検討

著者: 日台英雄 ,   千葉哲男 ,   ヨーゲントラチャン ,   金信和 ,   井出研 ,   松浦謙一 ,   塩崎洋 ,   井上武夫 ,   竹林茂生

ページ範囲:P.825 - P.830

 保存的治療に反応しない慢性腎不全35例に対して副甲状腺手術を行つた。35例中30例に対しては副甲状腺全摘したのち,一部副甲状腺を前腕筋内に自家移植した。全摘例では腎性骨異栄養症に基づく症状は術後全例で消失または改善した。なお一部例では経皮的筋内自家移植術と同一創より行う鎖骨生検法を考案し施行した。重大な合併症はみられなかつた。副甲状腺の局在診断法としては,超音波診断,CTスキャン,RIスキャンの組合わせがよい。手術適応を誤まらなければ副甲状腺全摘と自家移植術はすぐれた治療成績をあげることができる。透析患者には免疫不全のため甲状腺や副甲状腺に悪性腫瘍を生じていることがある点にも注意すべきである。

浸潤膀胱癌に対する根治的膀胱全摘除術後の補助化学療法について—Doxorubicin hydrochlorideとCarboquoneの併用

著者: 中村章 ,   大沢哲雄

ページ範囲:P.831 - P.834

 1982年から1985年の間で,骨盤内リンパ郭清を含む根治的膀胱全摘除術を行つた浸潤膀胱癌(PT3およびPT4)12例に対して, doxorubicin hydrochloride とcarboquoneによる術後の補助化学療法を行つた。男性8例および女性4例で,年齢は57歳から75歳(平均66.6歳)であつた。郭清リンパ節に転移のなかつた6例は,すべて癌再発なく術後25ないし40カ月(平均33.3カ月)で生存していた。郭清リンパ節に転移のあつた6例では,5例に癌再発がみられ,このうち4例は術後11ないし26カ月で癌死した。リンパ節転移例の転帰は極めて悪く,より有効な補助療法が必要とされるものであつた。

小さな工夫

造影剤注入器

著者: 佐藤伸一 ,   山田泰

ページ範囲:P.820 - P.820

 PNLの普及に伴い医師のX線被爆の機会も増加しつつある。この造影剤注入器は通常の腎瘻造影時とほぼ同程度の注入圧を触知しつつ,(透視室外からのコントロールにより)術者のX線被爆を回避できる点で有用である。

Urological Letter・418

腎手術後の二次的大出血の治療法

ページ範囲:P.834 - P.834

 単腎者の腎手術後の二次的大量出血の治療には特別な困難さがある。筆者らは1984年以来そのような4例に二重管による灌注(Double-Tube Irrigation)によつて止血に成功している。
 それらのうちの1例は,先天性単腎者で高位尿管と腎盂尿管移行部狭窄があり,高度の水腎症を伴つた患者だつた。腎盂尿管狭窄の形成術のあと第4日目に二次的大出血が起こり,出血性ショックに陥つた。腎盂内に凝血塊がつまり尿の排出も阻害されたので,患者の一般状態は非常に危険だつた。患者は元来単腎者だつたからもちろん腎摘はできない。凝血塊を除去し尿の流出をよくするために再び創を開かないわけにはいかなかつた。約100mlの血塊を腎盂から除去し,20Fr.シリコンラバーチューブを2本腎盂内に入れた。1本は抗生物質の入つた液を持続的に注入するために,もう1本はドレナージ用である。出血は24時間の治療後に完全に止まり,一般状態も速やかに改善したし,腎機能もまたよくなつた。

症例

後腹膜海綿状血管腫の1例

著者: 清水信明 ,   熊坂文成 ,   佐藤仁 ,   杉原志朗

ページ範囲:P.839 - P.841

 70歳,女性。1985年2月左季肋部痛,食欲減退,食後悪心を主訴として当院内科に入院し精査中,後腹膜腫瘍を指摘された。逆行性腎盂造影で左腎が下方に押しさげられ腎盂腎杯の圧排変形が見られた。CTでは横隔膜下,左後腹膜腔に大きな腫瘍を認めた。摘出重量1,800g,大きさ14×15×15cmで,組織学的には海綿状血管腫であつた。これは本邦13例目にあたる。

膀胱印環細胞癌の1例

著者: 小谷俊一 ,   斉藤政彦 ,   近藤厚生

ページ範囲:P.843 - P.845

 尿失禁を主訴として受診した膀胱原発印環細胞癌の1例を報告した。症例は56歳,女性で,20年以上前に臍尿瘻との診断で3回骨盤内手術の既往がある。萎縮膀胱と診断し,膀胱全摘,回腸導管施行したが,病理診断は印環細胞癌であつた。膀胱原発印環細胞癌はわれわれの知る限り既に32例の報告があり,その予後は極めて不良であつた。

成人女性にみられた膀胱臍尿瘻の1例

著者: 田野口仁 ,   井澤明

ページ範囲:P.847 - P.849

 症例は50歳,女性で生後一時臍より尿様液体の漏出を認めたが,その後自然治癒していた。卵巣嚢腫増大によると思われる膀胱内圧上昇のため,尿様液体の漏出が再発。膀胱造影にて膀胱臍尿瘻が疑われ,卵巣嚢腫手術時に根治術を施行した。切除標本は膀胱頂部より臍直下断端まで組織学的に膀胱様構築を示し,尿膜管は認められず,尿膜管発生異常による膀胱臍尿瘻と思われた。

停留睾丸に合併した副睾丸垂捻転症の1例

著者: 高橋康之 ,   西沢理 ,   西本正 ,   阿部良悦 ,   和田郁生 ,   加藤哲郎

ページ範囲:P.850 - P.851

 症例は22歳,男性。生来,左睾丸の欠如に気づいていた。1985年5月19日より,左鼠径部に間歇的な痛みを覚えるようになつた。2日後疼痛が増強し持続性となつたため,左停留睾丸に合併した睾丸回転症を疑い,緊急手術を施行した。その結果副睾丸垂捻転症とわかり,副睾丸垂を切除し,睾丸固定術を施行した。停留睾丸に合併した副睾丸垂捻転症の報告例は,自験例を含めて本邦で2例,世界でも4例であり稀なものであつた。

文献抄録

根治的前立腺全摘除後の放射線体外照射治療

ページ範囲:P.841 - P.841

 限局性前立腺癌の治療は,根治的前立腺全摘除と骨盤リンパ節の郭清術が主流であるが,臨床的に初期癌と診断された症例でも術後の病理学的検索によると20〜50%の症例が前立腺被膜をこえて浸潤(stage C)しているか骨盤内リンパ節に顕微鏡的転移(stage D1a)が認められている。このような症例に対して,局所再発や遠隔転移防止のために著者らは補助療法として体外照射法を施行して,その成績を報告している。
 症例は1977年5月から1983年6月の間に臨床的にstage A,B1,B2と診断して根治的手術およびリンパ節郭清を実施した147例の中から術後の体外照射を補助療法として採用した45例についてのfollow upである。根治手術の留意点としては,術後の下肢浮腫発生防止のため旁外総腸骨節は摘出せず,また摘出前立腺縁の尿道と膀胱頸部の組織については凍結切片で癌浸潤の有無を検索した。

交見室

尿失禁に対するテフロンペースト注入療法について/「21世紀の泌尿器科医の育成」を読んで

著者: 内田豊昭 ,   片山喬

ページ範囲:P.852 - P.853

 TUR resectionistを志ざす泌尿器科医であれば,術後の一時的あるいは永続的尿失禁を少なからず経験されると思います。その治療法の一つとしてわれわれの少ない経験を報告させて頂きました。
 さて石堂先生のご質問(臨泌,40巻9号,交見室)の件ですが,先生御指摘のごとく最初は会陰部から刺入していましたが,針の動きが陰嚢により制限されるため,最近の症例は図のごとくpenoscrotal,大体penis根部から刺入しております。

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

76巻13号(2022年12月発行)

特集 これだけは知っておきたい! 泌尿器科診療でも活きる腎臓内科の必須知識

76巻12号(2022年11月発行)

特集 ブレずに安心! 尿もれのミカタ

76巻11号(2022年10月発行)

特集 限局性前立腺癌診療バイブル―このへんでキッチリと前立腺癌診療の“あたりまえ”を整理しよう!

76巻10号(2022年9月発行)

特集 男性不妊診療のニューフロンティア―保険適用で変わる近未来像

76巻9号(2022年8月発行)

特集 前立腺肥大症(BPH)の手術療法―臨床現場の本心

76巻8号(2022年7月発行)

特集 泌尿器腫瘍における放射線治療―変革期を迎えた令和のトレンド

76巻7号(2022年6月発行)

特集 トラブルゼロを目指した泌尿器縫合術―今さら聞けない! 開放手術のテクニック

76巻6号(2022年5月発行)

特集 ここまで来た! 腎盂・尿管癌診療―エキスパートが語る臨床の最前線

76巻5号(2022年4月発行)

特集 実践! エビデンスに基づいた「神経因性膀胱」の治療法

76巻4号(2022年4月発行)

増刊号特集 専門性と多様性を両立させる! 泌尿器科外来ベストNAVI

76巻3号(2022年3月発行)

特集 Female Urologyの蘊奥―積み重ねられた知恵と技術の活かし方

76巻2号(2022年2月発行)

特集 尿路性器感染症の治療薬はこう使う!―避けては通れないAMRアクションプラン

76巻1号(2022年1月発行)

特集 尿道狭窄に対する尿道形成術の極意―〈特別付録Web動画〉

75巻13号(2021年12月発行)

特集 困った時に使える! 泌尿器科診療に寄り添う漢方

75巻12号(2021年11月発行)

特集 THEロボット支援手術―ロボット支援腎部分切除術(RAPN)/ロボット支援膀胱全摘除術(RARC)/新たな術式の徹底理解〈特別付録Web動画〉

75巻11号(2021年10月発行)

特集 THEロボット支援手術―現状と展望/ロボット支援前立腺全摘除術(RARP)の徹底理解〈特別付録Web動画〉

75巻10号(2021年9月発行)

特集 今こそ知りたい! ロボット時代の腹腔鏡手術トレーニング―腹腔鏡技術認定を目指す泌尿器科医のために〈特別付録Web動画〉

75巻9号(2021年8月発行)

特集 ED診療のフロントライン―この一冊で丸わかり!

75巻8号(2021年7月発行)

特集 油断大敵! 透析医療―泌尿器科医が知っておくべき危機管理からトラブル対処法まで

75巻7号(2021年6月発行)

特集 前立腺肥大症(BPH)薬物治療のニューノーマル―“とりあえず”ではなくベストな処方を目指して

75巻6号(2021年5月発行)

特集 躍動するオフィスウロロジー―その多様性に迫る!

75巻5号(2021年4月発行)

特集 前立腺癌のバイオロジーと最新の治療―いま起こりつつあるパラダイムシフト

75巻4号(2021年4月発行)

増刊号特集 泌尿器科当直医マニュアル

75巻3号(2021年3月発行)

特集 斜に構えて尿路結石を切る!―必ず遭遇するイレギュラーケースにどう対処するか?

75巻2号(2021年2月発行)

特集 複合免疫療法とは何か? 腎細胞癌の最新治療から学ぶ

75巻1号(2021年1月発行)

特集 朝まで待てない! 夜間頻尿完全マスター

74巻13号(2020年12月発行)

特集 コロナ時代の泌尿器科領域における感染制御

74巻12号(2020年11月発行)

特集 泌尿器科医のためのクリニカル・パール―いま伝えたい箴言・格言・アフォリズム〈下部尿路機能障害/小児・女性・アンドロロジー/結石・感染症/腎不全編〉

74巻11号(2020年10月発行)

特集 泌尿器科医のためのクリニカル・パール―いま伝えたい箴言・格言・アフォリズム〈腫瘍/処置・救急・当直編〉

74巻10号(2020年9月発行)

特集 令和最新版! 泌尿器がん薬物療法―手元に置きたい心強い一冊

74巻9号(2020年8月発行)

特集 泌尿器腫瘍の機能温存手術―知っておくべき適応と限界

74巻8号(2020年7月発行)

特集 これが最新版! 過活動膀胱のトリセツ〈特別付録Web動画〉

74巻7号(2020年6月発行)

特集 小児泌尿器科オープンサージャリー―見て学ぶプロフェッショナルの技〈特別付録Web動画〉

74巻6号(2020年5月発行)

特集 高齢患者の泌尿器疾患を診る―転ばぬ先の薬と手術

74巻5号(2020年4月発行)

特集 ここが変わった! 膀胱癌診療―新ガイドラインを読み解く

74巻4号(2020年4月発行)

増刊号特集 泌尿器科診療の最新スタンダード―平成の常識は令和の非常識

74巻3号(2020年3月発行)

特集 泌尿器科手術に潜むトラブル―エキスパートはこう切り抜ける!

74巻2号(2020年2月発行)

特集 いま話題の低活動膀胱―これを読めば丸わかり!

74巻1号(2020年1月発行)

特集 地域で診る・看取る緩和ケア―泌尿器科医として知っておくべきこと

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら