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雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科40巻6号

1986年06月発行

雑誌目次

綜説

多臓器障害

著者: 相川直樹 ,   若林剛 ,   阿部令彦

ページ範囲:P.433 - P.444

はじめに
 多臓器障害とは,心,肺,肝,腎,消化管などの重要臓器または系の2つ以上に,同時あるいは経時的に機能障害を起こした重篤な症候群であり,英語ではmultiple organ failure (以下MOF),日本語では多臓器不全,複合臓器障害,複合臓器不全などともいわれる。MOFは長時間にわたる侵襲の大きな手術後や,重症外傷,広範囲熱傷,ショック,重症感染症に合併して起こることが多く,ひとたびMOFとなると死亡率はきわめて高くなる。MOFが集中治療・重症管理医学の分野で一つの症候群として注目されるようになつたのは1950年代後半であり,米国において主に重症の外科患者の新しい死因として取り上げられた。わが国においてもMOFに対する関心は1980年頃より急激に高まり,集中治療室や救命センターの医師の間のみならず,他科の医師の間でも注目される重篤な症候群の一つとなつている1)
 本稿ではMOFについて,発生機序を中心に概要を述べるとともに,その臨床的意義について解説したい。

文献抄録

前立腺癌症例に対する根治的体外照射による内分泌的影響

ページ範囲:P.444 - P.444

 著者らは,1975年から1977年の間に119例の前立腺癌患者に根治的体外照射療法を施行したが,そのうち59例については照射の前後について血清中のホルモンの動態について計測して報告している。
 前立腺癌のstageはJewett法で示すと,A21名,B 21名,C 35名,D1 2名で,全例とも以前にホルモン治療や外科的治療はまつたくうけていない症例である。放射線照射法は20〜35Kのlinear acceleratorを用いて,stage Bでは15×15cm,stage Cでは15×18cmの広さで2門の骨盤内照射を行つて,全線量4,500cGyを25分割照射した。また前立腺とその周囲組織へ,2,000〜2,500cGyの追加を27度の回転照射で行つた。この照射法による陰嚢内の照射線量は5〜8%が照射されているので,睾丸の被爆線量は,7〜8週間で450〜600cGyであると考えられる。血清中の測定ホルモンはfollicle stimulating hormone(FSH),luteinizing hormone(LH),testosterone(TS)とdihydrotesto-sterone(DTS)の4種で,照射前と照射終了後と3,6,9,12,18,24ヵ月目にそれぞれ測定した。ホルモン測定はすべてradioimmunoassay法によつた。

手術手技

横行結腸導管造設術

著者: 熊本悦明 ,   塚本泰司 ,   広瀬崇興

ページ範囲:P.445 - P.449

はじめに
 これまで,腸管を利用した尿路変更術としては,回腸導管造設術が多くの場合選択されてきた。しかし,回腸導管造設例での種々の合併症が報告され,尿路変更術として結腸導管を採用している報告もみられる1〜6)。本邦では横行結腸を導管として用いた報告は少ないが,われわれは,5年前よりこの術式を尿路変更術として施行してきた。今回はこの結果を術式とともに報告する。

講座 新しい栄養療法

VI.術前術後の栄養管理

著者: 小山眞

ページ範囲:P.451 - P.456

はじめに
 近年,外科領域においては,以前は考えられなかつたほどの大手術が容易に,しかも安全に行われるようになつてきたが,その理由の一つに外科代謝・栄養学の進歩があげられている。すなわち,1)栄養評価法nutritional assessment,2)侵襲に伴う代謝変動,3)栄養と免疫の関連性,などが明らかにされた結果,術前・術後の栄養管理法が発達し,術後の合併症の発生を予防し,ひいては手術による死亡を著しく減ずることができるようになつたものである。簡単に言えば,完全静脈栄養法(TPNまたはIVH)や経腸成分栄養法(ED投与)などによる高カロリー栄養hyperali-mentationの導入に伴い,大手術患者や重篤な術後合併症を生じた患者と言えども簡単に死なせなくなつたということである。このような事情を背景に手術前後の栄養管理について著者らの経験を述べてみたい。

座談会

よりよい手術をするために—腎の手術(3)

著者: 堀内誠三 ,   有吉朝美 ,   一條貞敏 ,   小川秋実

ページ範囲:P.457 - P.464

 腎洞がうまく拡がらない。小さな腎結石がどうしても取れない。拡大した腎盂はどれだけ切除すべきか。手術ではこのように困つたり迷つたりする。それらを含めて話し合つていただいた。

Urological Letter・411

前立腺炎の効果的診断法

ページ範囲:P.464 - P.464

 前立腺炎様症状のある患者にすべての泌尿器科的な検査を行うと,すなわち病歴の聴取,一般的身体的診察,尿の一般検査や培養,前立腺液の培養と細菌の感受性試験,排泄性尿路撮影,全内視鏡検査,尿流量計検査,さらに特別な場合には他の検査,たとえば細胞学的検査,CTスキャン,神経学的検査などを行うことになり,その費用は莫大なものになることが考えられる。これら一連の検査の大部分は不必要であろうから,ほとんどの読者にとつては,ばかげたことだと思われるに違いない。これら一連の検査では確かに費用も嵩むし,静脈内に造影剤を注入するといやな副作用が出ることもある。尿路に器械を入れることで人為的感染を起こしたり,他の副作用が出たりして,患者は検査前よりもなお悪くなることもある。実際に,前立腺炎の診断は比較的単純で,あまり高価でないようにすべきである。
 一般病歴と身体的診察はもちろん欠くことのできないものである。今回と同様な症状が初めて起こつたのは何日か,尿道炎の経験がある例にはその日時を,その他関連のある症状のすべてを聞き出すことは極めて重要である。

原著

経皮的腎尿管結石摘出術の合併症

著者: 田代和也 ,   清田浩 ,   鈴木正泰 ,   和田鉄郎 ,   後藤博一 ,   望月篤 ,   大石幸彦 ,   町田豊平

ページ範囲:P.469 - P.473

 1984年4月より18カ月に経験した経皮的腎尿管結石摘出術(PNL)の初期50例の治療成績を合併症を中心に報告する。対象は腎結石40例,上部尿管結石10例の計50例であつた。成績は結石を完全に摘出できたのが23例であつたが,砂状残石5例と自然排石可能な残石13例を含めた41例(82%)が臨床的に成功であつた。結石摘出に伴う合併症は,大出血と灌流液の大量な溢流をみた穿孔で開放性の手術を施行したものが1例ずつあつた。他の合併症は,輸血を要した出血が3例に,小さな穿孔が5例に,尿路感染症が7例にみられた。PNLで残石と合併症を少なくするには,腎瘻作製を慎重に行い,結石を超音波砕石器でこまめに砕石,吸引摘出することが重要と考えられた。

経皮的腎尿管切石術後の尿路感染症

著者: 清田浩 ,   町田豊平 ,   田代和也 ,   鈴木正泰 ,   和田鉄郎 ,   後藤博一

ページ範囲:P.475 - P.478

 経皮的腎尿管切石術を行つた46例の尿路感染症について検討した。全例に抗菌剤の予防投与を行つたが,術後尿路感染症はサンゴ状結石あるいは腎杯結石に高率に認め,手術回数と残石率に相関した。その起炎菌は腸内細菌群をはじめとするグラム陰性菌が多くを占め,術前に尿路感染症のある症例では全例にその存続あるいは菌交代を認めた。
 以上より経皮的腎尿管切石術後の尿路感染症予防対策としては少ない手術回数で結石を完全に摘出すること,また抗菌剤の予防投与はグラム陰性菌に照準を合わせて行い,尿路感染症出現時にはその起炎菌に抗菌力のある抗菌剤をその消失まで投与することが必要であると考えられた。

各種前立腺組織抗原の検討

著者: 星宣次 ,   小野久仁夫 ,   高橋薫 ,   沼田功 ,   栃木達夫 ,   吉川和行 ,   折笠精一 ,   能勢眞人 ,   山泉文明

ページ範囲:P.479 - P.483

 γ-Seminoprotein(γ-Sm),Prostate specific antigen (PSA)およびProstatic acid phos-phatase(PAP)は前立腺組織抗原として知られている。これらに加えて著者らは人のNK細胞,K細胞に特異的に反応することが知られているLeu-7(HNK-1)が前立腺組織に発現することを見出した。これらの抗体を用いて免疫組織化学による検討を行つたところ,低分化前立腺癌組織においてこれらの抗原の発現は減少する傾向にあつた。一方前立腺癌のリンパ節転移組織がγ-Sm,PSA,Leu-7により染色された。血清学的検討では本治療の前立腺癌例においてγ-Smでは76.5%,PAPでは58.5%が高値を示した。またγ-SmとPAPの相関は低かつた。

尿失禁に対するテフロンペースト注入療法

著者: 内田豊昭 ,   岩村正嗣 ,   村山雅一 ,   西村清志 ,   葛西勲 ,   泉博一 ,   久保星一 ,   池田滋 ,   小柴健

ページ範囲:P.485 - P.489

 経尿道的前立腺切除術後,尿失禁の持続する11例に対してテフロンペースト(Polytetrafluoroethylene paste)を経会陰的に高圧注射器を用いて注入し,5例に完全治癒,5例に著明改善の効果が得られた。本療法は,尿失禁に対する治療法の一つとして有効と思われる。

症例

嚢胞形態を示した腎盂腫瘍の1例

著者: 石塚修 ,   竹崎徹 ,   市川碩夫

ページ範囲:P.495 - P.497

 血尿を主訴とする78歳の男性が,DIP,CT,血管撮影で,左腎上部に直径約16cmの不整な壁を持つ嚢胞腫瘤を示した。根治的腎摘除術を施行したが,移行上皮で被われた嚢胞内壁の一部に移行上皮癌が存在し,嚢胞に接する腎杯にも移行上皮癌が認められた。移行上皮癌が腎杯狭部に発生し嚢胞状水腎杯を形成したと考えた。

尿管カテーテル法により治癒した傍腎性仮性嚢胞の1例

著者: 富樫正樹 ,   竹内一郎 ,   三橋裕行 ,   野々村克也 ,   小柳知彦

ページ範囲:P.499 - P.501

 9歳女児の腎外傷後に発生した尿性傍腎性仮性嚢胞に対し経皮的ドレナージおよび尿管カテーテル留置という侵襲の少ない治療方法で腎保存が可能であつた症例を報告した。
 本症の外科治療は腎摘を余儀なくされる場合も多く,腎保存を考慮し経皮的ドレナージ,尿管カテーテル法が試みられるべきと思われた。

後腹膜脂肪腫の1例

著者: 峰矢隆彦 ,   川添和久 ,   小林正喜 ,   布施卓郎 ,   権秉震 ,   滝本至得

ページ範囲:P.503 - P.505

 53歳女性,主訴は左側腹部痛。左季肋下から臍下におよぶ小児頭大,可動性に乏しい腫瘤を触知した。IVP,エコー,CT,血管造影により,後腹膜脂肪腫と診断,摘出術を行つた。腫瘍は被膜におおわれ,21×10×8cm,1kgと大きなものであつた。組織学的には,純粋な脂肪腫で,悪性像はみられなかつた。後腹膜脂肪腫は,自験例を含めて57例の報告をみるのみであり,それらについて文献的考察を加えた。

交見室

胸腹部連続正中切開法について,他

著者: 岡田清己

ページ範囲:P.506 - P.507

 本誌40巻4号,井口先生らの「胸腹部連続正中切開法の経験」を拝読いたしました。癌に対する手術は,機器の開発,全身状態に関する管理,麻酔法および手術手技そのものの進歩に伴い年々aggressiveになつてきていることは事実です。これに対する反論もあるでしようが,完治を求める意味では拡大手術になることは当然のことと言えると思われます。したがつて,井口先生らは根治性を求めるため,また手術を安全に行うため,今回胸腹部連続正中切開法を試み,成功をおさめていることに敬意を表します。先生の論文によりますと,本法は,1)広い視野がえられ,胸腔内腫瘍も後腹膜腫瘍と共に摘出可能であること,2)特に後膜腹腫瘍の摘出は安全に施行できること,3)両腎の手術を一期的に行うことができること,などが利点であると考えます。
 残念ながら,われわれは本切開法はまつたく経験なく,またここまで拡大手術を行わなければならない症例にも遭遇しておりません。また,あまりにも大きな切開なので戸惑いを感じます。今後,このようなアプローチも必要となつてくるかもしれませんが,両側開胸に対する処置のみでなく,心嚢を開いたときの処置などは未経験なため胸部外科医の助けをかりなければならないと思われます。

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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