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雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科40巻9号

1986年09月発行

雑誌目次

綜説

癌温熱療法

著者: 松田忠義

ページ範囲:P.689 - P.698

はじめに
 癌細胞が高温度に弱いことを明らかにし,癌患者の治療に応用した歴史は古い。しかし,有効な加温方法が見出されないまま長い間中断されていた。1960年代後半から系統的な研究が進められ,とくに10年ほど前から温熱療法の生物学および理工学の基礎研究がアメリカを中心に活発に行われ,癌治療における温熱療法の有用性の理論的根拠を明らかにしている。一方,わが国の温熱療法の研究は欧米よりも一歩遅れて始まつたが,ここ4〜5年基礎と臨床の研究が活発であり,国際的水準を凌ぐ成果をあげている1)。本稿では癌の新しい治療法として注目を集めている温熱療法の臨床応用とその背景となる理論的根拠について述べる。

Urological Letter

男性機能不全の興味ある2症例/腎摘後の代償性肥大は高齢者には起こらない

ページ範囲:P.698 - P.698

 第1例は29歳の黒人男性で,主訴は13歳の時両側睾丸が感染症に罹患し,それ以来萎縮してきたという。この患者は結婚しており,性的能力はあつた。彼が言うには射精が少ないし,1年前から性欲が減退してきたと。ひげを剃つたことがないとも言つた。身体を検査してみるとペニスは正常だつたが睾丸はえんどう豆ぐらいであつた。恥毛の生え具合も正常だつた。臀部には女性のような脂肪がついていたし,女性乳房があつた。FSHは195(正常値4〜25)に,LHは41(正常値20まで)に上昇していたが,テストステロンは少なく40(正常値300〜1,000)であつた。睾丸を生検してみると完全に繊維化しており,機能的な睾丸組織は少しも存在しなかつた。彼の染色体は46XYであつた。

手術手技

経胸式副腎摘出術

著者: 赤阪雄一郎

ページ範囲:P.699 - P.703

 副腎は身体の深部に位置する臓器であるため,従来よりよく用いられている経腹式,経腰式では手術創に比較して得られる視野は必ずしも大きくなく,経背式では体位の関係から麻酔上の困難性が問題となる。いずれの術式も一長一短があるが,術前に局在診断の確定している副腎手術にたいして,われわれは経胸,経横隔膜,腹膜外到達法(以下経胸式)を行つて,好結果を得ているので,ここでこの術式について述べる。

文献抄録

細胞診で確認された腎癌肺転移巣の自然消失した1例と文献的考察

ページ範囲:P.703 - P.703

 腎癌症例は,その診断確定時点で約1/3の症例に転移が発見されている。転移部位で最も多いのは肺で,次にリンパ節,骨,肝などである。
 著者の症例は71歳の女性で,体重減少,嘔気,動悸などを主訴にして受診した。血沈の亢進と軽度の貧血を認めたが,尿路の症状はまつたくなく血液の生化学的検査は正常であつた。胸部X線撮影で右肺下葉に2個の結節陰影があり,さらにCTスキャンで4個の非石灰化結節像がみられた。

講座 臨床研究のための統計学

Ⅲ.クロス表の検定

著者: 高木廣文

ページ範囲:P.705 - P.710

1.一般のクロス表の検定
例題3・1
 第1表は,2種の薬剤A,Bを慢性前立腺患者に無作為に投与し,その効果を調べたものである。これは,連載1回目の例題1.4(順位和検定)と同一の例であるが,ここではカイ2乗検定により,薬効の差を検定しよう。

シンポジウム 21世紀の泌尿器科医の育成

司会のことば,他

著者: 岡本重禮 ,   実川正道 ,   Joseph C. ,   Paul C. ,   Michael J. ,   横山英二 ,   小磯謙吉 ,   熊本悦明

ページ範囲:P.711 - P.726

 近年,めざましい医学の進歩の中で,医療もまた大きな変遷をとげてきました。疾患志向から,患者志向の医療が重視されるようになり,更に保健志向へと変換しつつ,やがて15年後には21世紀を迎えようとしています。この医療を支える原動力の一つは医師であり,その医師を育成するための医学教育は当然医療のニーズに対応するものでなければなりません。
 しかしながら,歴史的に観て,わが国の医学教育,特に卒後教育は医療とは一線を画された中で行われてきました。

原著

硬膜外麻酔用カテーテルを用いた排尿時膀胱内圧・尿流同時測定法の検討

著者: 宮川征男 ,   平川真治 ,   嶋本司 ,   井上明道 ,   渡部信之

ページ範囲:P.731 - P.734

 直径1mmの持続硬膜外カテーテルを経尿道的に留置して排尿時膀胱内圧・尿流同時測定を行う場合,このカテーテルが内圧や尿流におよぼす影響を検討した。カテーテル存在下での最大尿流(y)はない場合の最大尿流(x)ときわめてよく相関し(y=1.0x+0.74),排尿時膀胱内圧はカテーテルがない場合に比べ0〜3mmHg (0〜5%)増加したに過ぎなかつた。
 得られた排尿時膀胱内圧と尿道抵抗(排尿時膀胱内圧/最大尿流2)について正常男性と下部尿路通過障害男性で比較した。排尿時膀胱内圧については両者に有意差(t検定,p<0.001)がみられたが,尿道抵抗については有意差を認めなかつた。

症例

兄弟にみられた先天性水腎症例

著者: 入澤千晶 ,   渡辺博幸 ,   平野順二 ,   川村俊三 ,   水戸部勝幸 ,   西尾彰

ページ範囲:P.735 - P.737

 兄弟に発生した先天性水腎症例につき報告した。症例1は4カ月,男性。右腹部腫瘤を主訴として来院。諸検査により両側,特に右側に著明な水腎症を認めた。症例2は2カ月,男性,症例1の弟である。腹部膨隆を主訴とし当科受診。両側腎とも著しい水腎を呈していた。両症例ともにAnderson-Hynes法による腎盂形成術を施行した。本症の遺伝形式,HLA typingにつき,若干の文献的考察を加えた。

高血圧を合併した幼児片側性水腎症の1例

著者: 仲田浄治郎 ,   町田豊平 ,   増田富士男 ,   鈴木正泰

ページ範囲:P.739 - P.741

 症例は1歳6カ月の男児。尿路感染の精査を主訴に受診。諸検査より高血圧を併発した片側性水腎症の診断で,腎盂形成術を施行し血圧の改善しえた症例を報告。血圧の改善の機序は,術前の水・Na負荷およびレニン分泌異常の両者が関与したものと思われる。

腹膜透析患者に発生した腎癌の1例

著者: 大場修司 ,   原暢助 ,   徳江章彦 ,   米瀬泰行 ,   山木万里郎 ,   広田紀男

ページ範囲:P.743 - P.745

 長期透析者の腎臓に多発生嚢胞さらに腎癌が合併する率が高いことが注目されている。37歳の男性で腎不全のため連続携帯的腹膜灌流療法(CAPD)を継続し,開始後2年目に偶然両側多発性腎嚢胞を伴つた右腎癌を認め,左腎に吸引細胞診を行い悪性変化がないと判断した後,腰部斜切開による右腎摘出術を行つた。第4病日から再びCAPDを開始し,術後6カ月経過した現在良好に日常生活を営んでいる症例を報告する。

腎に浸潤した膵癌の1例

著者: 北見一夫 ,   川崎千尋 ,   福田百邦 ,   窪田吉信 ,   穂坂正彦 ,   竹林茂生

ページ範囲:P.747 - P.749

 症例は65歳の男性。無症候性血尿を主訴に1984年9月初診。膀胱鏡にて左腎性血尿,IVPで左無機能腎,CTスキャンで左腎上極から後腹膜腔に連続する腫瘤を認めた。手術では左腎上極を中心に膵,脾への浸潤が強く摘出不能,生検の結果膵尾部原発の腺癌で左腎への浸潤と診断された。化学療法を行つたが効なく3カ月後死亡。若干の文献的考察とともに報告する。

異所性褐色細胞腫の1例

著者: 下稲葉耕生 ,   川原和也 ,   中條政敬

ページ範囲:P.751 - P.753

 症例は34歳の女性。頭痛を主訴として当科を受診した。血圧は200/110mmHgであつた。ホルモン学的検査,CTスキャン,下大静脈造影,ならびに131I-MIBGシンチなどの検査の結果,腹部大動静脈間に発生した異所性褐色細胞腫と診断された。腫瘍は経腹的に摘出した。摘出した腫瘍は,大きさ9.5×7×6cm,重量310gであつた。

神経芽細胞腫を合併したWilms腫瘍の1例

著者: 足立祐二 ,   大橋伸生 ,   斯波光生 ,   山田智二 ,   三橋裕行

ページ範囲:P.755 - P.758

 今回われわれは,交感神経母細胞腫を合併したWilms腫瘍の1例を経験したので報告する。患者は左側腹部腫瘤を主訴とした6歳の男子。IVPと腎CTで左Wilms腫瘍と診断し,尿中ドーパミンとノルアドレナリンの異常高値の原因が不明のまま,左腎の摘出とリンパ節郭清を行つた。腎茎部下方の傍大動脈のリンパ節と思われた腫瘤は,病理学的に交感神経母細胞腫であり,術後尿中カテコーラミンも正常化し,放射線療法と化学療法(actinomycin-D, vincristine)を行い,4年後の現在,再発もなく順調に経過している。

骨盤脂肪腫症の1例

著者: 渡辺学 ,   坂田安之輔 ,   小松原秀一 ,   阿部礼男

ページ範囲:P.759 - P.761

 会陰部の結核性膿瘍を契機に発見された骨盤脂肪腫症の1例を報告した。症例は49歳,男性,会陰部の腫脹と疼痛を主訴として1986年3月31日入院。17歳時,恥骨部骨結核で治療。腫脹は手術および菌培養で結核性膿瘍と診断できたが,IVP,尿道造影で膀胱底の挙上,下部尿管の中枢側偏位,膀胱の涙滴様変形を認め,CTスキャンで骨盤脂肪腫症の合併が発見された。骨盤脂肪腫症については無症状のため治療は行わず経過観察中である。本症例は本邦第3例目と思われる。

交見室

尿失禁に対するテフロンペースト注入療法について

著者: 石堂哲郎

ページ範囲:P.762 - P.762

 本誌40巻6号内田豊昭先生らの論文「尿失禁に対するテフロンペースト注入療法」を興味深く拝読しました。うまくいかなかつた臨床例を論文として発表された勇気と臨床医学に対する真摯な態度に最大の敬意を表します。また,このような論文が私達一般の泌尿器科医にとつて勇気と自信を持たせてくれるものと思います。
 内容について二,三お尋ねします。エラスター針の刺入方法ですが,以下のように理解してよろしいのでしようか。"会陰部から(第1図の針はpenoscrotalから刺入されているのは間違い?)針を刺入,内視鏡で観察しながら尿道球部で尿道内腔に出した針先をそのまま膀胱内にすすめる。ここで高圧注入器と接続し,針先を再び尿道内腔にもどし,内視鏡で確認しながら尿道粘膜側から目的とする括約筋部の粘膜下に針を刺入し,テフロンを注入する。"また,合併症として尿道憩室がみられたとのことですが,発生部位はどこだつたのでしようか。そして,これに対してどのように対処したのでしようか。

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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