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雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科46巻11号

1992年10月発行

雑誌目次

増刊号特集 泌尿器科医のための臨床超音波マニュアル

著者: 町田豊平

ページ範囲:P.4 - P.5

 臨床医学における超音波診断法の発展と普及は,多くの画像診断法の登場の中でも格段に目を見張るものがある。
 1942年にオーストラリアのDussikが初めて超音波を医学に応用する論文を発表して以来,今年は丁度半世紀になる。その間,第二次世界大戦などがあったと考えると,今日に至る超音波技術の技術革新と臨床への応用は,夢のような出来事と思えるほどである。

1 超音波の原理

著者: 近藤祐司

ページ範囲:P.7 - P.16

1 超音波とは
 超音波とは一般的には人間の耳に聞くことのできない音をさす。と言っても,音の強弱の問題ではなく音程の違いによるものである。つまり極めて音程の高い音あるいは極めて音程の低い音は人間の耳では聞くことができない。しかし聞こえる聞こえないということには個人差があり,超音波の厳密な定義はできないのが実状である。そこで,実用上の定義としては,聞くことを目的としない音とされている。さて,超音波といっても音である限りは通常の音の性質と変わりはない。日常我々が聞いている音とは,空気の振動が鼓膜を刺激したものであり,この場合音の伝達をするもの即ち空気のことを媒質と呼ぶ。媒質は必ずしも空気である必要はなく,水や固体でもかまわない。つまり水や固体の中でも音は伝わる訳である。プールの中でも音は聞こえるし,壁に耳をあてれば固体中を音が伝わることも分かるであろう。
 超音波診断装置では,人間の身体を媒質として音を伝える。つまり,超音波画像とは身体を振動させ身体の中を通る音の変化を映像化したものであると言える。ちなみに,CTは身体の中を通る放射線量の変化を映像化したものであり,MRIでは磁界の変化を映像化したものといえる。放射線被曝は当然人体に悪影響を与えるし,強い磁界が人体に与える影響はいまだはっきりとは解明されていない。

2 腎・副腎 A 診断の基本

著者: 岡薫

ページ範囲:P.17 - P.26

1 超音波診断に必要な解剖学的知識
 1)腎は後腹膜腔にある一対の臓器で,右腎上方は腹膜を介して肝と,左腎上方はやはり腹膜越しに脾と接している。後外側面は横隔膜腰椎部および腰方形筋に,内側は大腰筋に接している。
 2)腎の周囲には脂肪組織があり,上極前内側には副腎が含まれている。

2 腎・副腎 B 鑑別のための読影のポイント

著者: 大江宏

ページ範囲:P.27 - P.42

1 先天性疾患・嚢胞性疾患
 a.奇形
 超音波診断上しばしば遭遇する奇形として,重複腎盂尿管,馬蹄腎がある。
 腫瘤との鑑別のうえで,ベルタン柱の過形成にはしばしば注意を要する。

3 膀胱 A 診断の基本

著者: 山下俊郎

ページ範囲:P.43 - P.55

 医療機関を訪れる患者は誰しも不安を持っている。疾患に対する不安はもちろんだが,「痛いことはされないだろうか?」という検査や治療に伴う疼痛に関する不安がかなり大きい。泌尿器科外来診療でしばしば行われる導尿や膀胱内視鏡検査はその最たるもので,疼痛に加えて羞恥心も患者を苦しめる。従来,膀胱疾患の診断にはこれらの逆行性操作はつきものであったが,本稿で述べる経腹的超音波検査を膀胱疾患の診療に有効に用いれば,受診者の負担軽滅に必ず役立つと思う。

3 膀胱 B 鑑別のための診断のポイント

著者: 中村昌平

ページ範囲:P.56 - P.67

1 膀胱の壁構造
 膀胱壁は,筋層と薄い粘膜層から構成される。正常の粘膜層は,薄いため超音波で描出されないと考えられる。粘膜層は浮腫で厚くなると見えてくる。
 膀胱は,蓄尿と排尿の機能をもつ,きわめて単純な臓器であるが,膀胱三角部や,尿管の膀胱壁貫通,前立腺の突出など,留意すべきいくつかの特殊構造がある。最近超音波断層像の分解能の向上により,従来では問題にならなかったこのような構造の解釈が問題になることがある。膀胱三角部の像が,腫瘍や,粘膜浮腫とまぎらわしい印象を与えることは少なくない。

4 前立腺・精嚢 A 診断の基本

著者: 杉山義樹

ページ範囲:P.69 - P.77

1 検査法のポイント(表1,図1)
 前立腺・精嚢を描出する方法(到達方法)には,経腹的,経直腸的,経会陰的,経尿道的到達法の四種類がある。四者に共通して重要なことは「膀胱内に尿を充満しておくこと」である。また超音波検査全般に共通する重要なポイントは「探触子を動かしながら連続した断層像を観察する」ことである。静止画像は単なる記録であり,一枚の静止画像のみから診断することは時として危険である。(実は,客観性,再現性のある良質な静止画像を得られるか否かが,超音波検査の最大のポイントである。)

4 前立腺・精嚢 B 鑑別のための読影のポイント

著者: 原田一哉

ページ範囲:P.79 - P.87

1 前立腺肥大症
 尿道周囲腺(内腺)が良性に増殖したものである前立腺肥大には,その発育のしかたで左右の腺腫が大きくなる両葉肥大,中葉のみが大きくなる中葉肥大,両葉および中葉ともに大きくなる三葉肥大とがある。前立腺が大きくなるのは肥大だけではなく癌はもちろん,炎症である可能性もあるので,あくまで内腺の増大をもって肥大と診断することが大切である。
 両葉肥大の場合,腺腫は尿道の左右で遠心性に大きくなり,前立腺横断面は三日月形→そら豆形→半円形→円形または楕円形に変化する。また外腺は内腺の増大ともに後外方や下方に押しやられ,最終的にはみかんの皮のような,いわゆる「外科的被膜」となる。

5 陰嚢内容 A 診断の基本

著者: 澤村良勝

ページ範囲:P.89 - P.94

 陰嚢内臓器の超音波診断は,超音波断層法と超音波ドプラ法が行われている。断層法により描出された陰嚢内の異常に対し,ドプラ法を併用し精索部や精巣部の動脈血流を測定しその病変が虚血性変化か炎症性変化かの鑑別を行うことができる。さらに,ドプラ法は精索部の静脈血流動態の検索にも応用され静脈瘤の診断には必須の検査となっている。最近では,従来の断層像の上に血管が赤または青色で標示され同時に血流速の測定も可能なカラードプラ法が普及しつつあり,上記2つの診断法が一段と簡便化されてきた。

5 陰嚢内容 B 鑑別のための読影のポイント

著者: 澤村良勝

ページ範囲:P.95 - P.103

1 精巣腫瘍
 精巣内に発生する腫瘍は,そのほとんどが悪性腫瘍で良性腫瘍は非常にまれである。その発生母地により胚細胞腫瘍germ cell tumor,性索/間質腫瘍nongerm cell tumor,転移性腫瘍secondary tumorに大きく分けられるが,臨床的にみられる精巣腫瘍は大多数が胚細胞腫瘍と転移性腫瘍で占められている。

6 上皮小体 診断の基本と鑑別のための読影のポイント

著者: 植野映 ,   角田博子 ,   森島勇 ,   田中秀行 ,   東野英利子 ,   川上康

ページ範囲:P.105 - P.113

1 超音波解剖
 a.上下の逆転
 上皮小体は5対の鰓嚢の第3および第4鰓嚢から発生する。第4鰓嚢から発生する上皮小体は甲状腺傍濾胞細胞の原基となる鰓嚢腺に接するので甲状腺の上中部背側にとどまり上上皮小体となる。第3鰓嚢は胸腺とともに前方で折り返るようにして尾側へと下降し,下上皮小体となる。上上皮小体は下上皮小体より尾側に存在していた鰓嚢より発生していることになる(図1)。発生時の上上皮小体の移動は少ないが下上皮小体の移動範囲は広いので下上皮小体の方が異所性に発生する頻度は高くなる。成人では上上皮小体は下甲状腺動脈と反回神経との交点より頭側1cmの点を中心に半径1cmの範囲内にある。下上皮小体の95%は甲状腺下極を中心に2cmの範囲内にあり,2%のみが縦隔内にある(図2)。ゆえに大部分の症例では上皮小体は頸部内に存在するので上皮小体機能亢進症の術前の局在化には超音波検査が最適な手段となっている。

7 救急疾患とエコー

著者: 西村泰司

ページ範囲:P.115 - P.126

 超音波診断の有用性については,他の項で述べられているので,ここでは外来および入院で扱う救急疾患における超音波診断の有用性について述べる。但し他の項で述べられている疾患については,詳細は省き有用な理由を述べるにとどめる。

8 超音波穿刺術(超音波の介在的応用)のテクニックとコツ

著者: 棚橋善克

ページ範囲:P.127 - P.150

 超音波による画像の描出そのものを目的とするのではなく,超音波を利用して生体に針を刺したり・穴を開けたりして(超音波穿刺術),他の画像診断を行いやすくしたり,治療を行う方法を,超音波の介在的応用(interventional ultrasound)と呼ぶ。

9 超音波結石探査方式の体外衝撃波結石破砕法の実際

著者: 田代和也

ページ範囲:P.151 - P.162

 体外衝撃波結石破砕法(Extracorporal Shockwave Lithotripsy:以下ESWL)は1982年にドイツで実用化されて1)以来,急速な勢いで世界的に普及した。わが国でも1988年に健康保険の適応がなされてから広く上部尿路結石治療の第1選択の治療法として一般化してきている。また,治療装置はドルニエ社のHM−3が最初に登場してから現在までに10種類を越える種々のものが開発されている。このESWLの装置は,衝撃波の発生法として電気水圧方式,圧電方式,電磁音響方式などがあり,また結石の探査,照準合わせには放射線方式と超音波方式の2つがある。機種により衝撃波の発生法と照準合わせの組み合わせが種々ある。
 照準合わせが超音波断層診断方式のESWL装置としては,EDAP LT−01,テクノメッドSonolith 3000,ドルニエMPL 9000,ウルフPiezolith 2000などの機種が使用されている。今回は著者が経験した装置のEDAP LT−01を中心に超音波による結石探査のコツや問題点について述べる。

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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