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雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科48巻4号

1994年03月発行

雑誌目次

増刊号特集 小児泌尿器科診療 巻頭言

小児泌尿器科診療の基本姿勢

著者: 小柳知彦

ページ範囲:P.5 - P.6

はじめに
 本来それ自体で専門性の強い泌尿器科学にあってさらに専門の細分化subspecializationの動向は近年の特徴であるが,小児泌尿器科学も例外ではなくその進展は先陣の米国ですら未だ達せられていない独立した学会を2年程前に設立するまでに発達してきた。ここではこうした現状を踏まえながら小児泌尿器科学診療の基本姿勢について概説する。

小児泌尿器科の最前線

泌尿器科系出生前診断と治療の進歩

著者: 吉沢浩志

ページ範囲:P.7 - P.14

はじめに
 周産期医療では胎児・新生児の一貫した管理を徹底し,母児双方にとってできるかぎりよい分娩を計画することと新生児集中治療室(NICU:Neonatal Intensive Care Unit)での懸命な努力によって超未熟児(出生体重1,000g未満)であっても,その多くを後遺症なく救命(無欠陥成育intact survival)できるようになった。1991年に北九州市で出生した妊娠21週,398gの女児(最少妊娠週数例),1992年には福岡市で妊娠26週,368g女児(最小出生体重例)の生存例(ともに新間報道から)が誕生した。
 このような進歩を理由に早産の定義が妊娠22週(従来は24週)から36週までと改定(日本産科婦人科学会会告1993年7月)されるに至った。世界最小出生体重生存例はシカゴの妊娠26週日,280gの女児1)であるが,成育限界(胎外で正常に成長することのできる限界)が倫理的な問題も含めて論議されている。

Wilms腫瘍,膀胱横紋筋肉腫診療の進歩

著者: 横森欣司

ページ範囲:P.15 - P.26

ウイルムス腫瘍診療の進歩
 1978年のBeckwithら1)により提唱されたunfavorable histologyの概念の導入以後,組織像別の集学的治療によりウイルムス腫瘍(以下WT)を中心とした小児腎悪性腫瘍の治療成績は著しく向上した。さらに近年,同グループによりWTの前駆病変nephrogenic restの臨床的意義が明らかにされ,新しい治療アプローチが提言された2)。本稿ではWT診療におけるこれらの新しい流れについて概説する。

小児悪性腫瘍に対する化学寮法

著者: 中畑龍俊 ,   石井栄三郎

ページ範囲:P.27 - P.34

はじめに
 癌治療の第一歩は,正確な診断と病態把握であり,それを基にして,最も適切で,効果的な治療を行うことが大切である。
 腫瘍マーカー,染色体異常,癌遺伝子,癌抑制遺伝子などの解明により,腫瘍の生物学的特徴が明らかにされてきており,これらの検索によって腫瘍の悪性度を判断することが可能となってきている。また,種々の集学的治療の解析から,腫瘍の病期分類による治療層別化も確立されてきている。

小児腎移植の現況

著者: 川村猛 ,   宍戸清一郎

ページ範囲:P.36 - P.44

はじめに
 なんらかの内科的・泌尿器科的疾患によって腎機能が荒廃して,未期腎不全に陥る小児は人口100万人に年間2〜3人といわれ1),その発生率は必ずしも高くはない。小児の末期腎不全の治療法のうち,予後の惨澹たる状態であった往時の透析治療も,持続腹膜灌流(CAPD)などの積極的導入により著しい進歩と実績をあげつつあるとはいえ,予後の観点と肉体的・精神的に成長過程にある小児にあって最も重要なquality of lifeへの治療のもたらす影響の観点から,小児腎移植がその最終治療法であることは依然として論を待たない。
 URSDS(United States Renal Data System)の1993年次報告2)を見ると,1989年導入された治療法別2年患者生存率は,生体・死体腎移植をうけた患者のそれが全般に透析治療を受けた患者のそれを凌駕しており,その傾向は若年児に著しい(図1)。

Y染色体の分子生物学

著者: 中堀豊

ページ範囲:P.45 - P.49

はじめに
 Y染色体はヒトの染色体の中では最も小さいほうのG群に属する染色体である。もう一方の性染色体であるX染色体はC群に属する中型の染色体で伴性遺伝病として知られる疾患に代表される多くの遺伝子をもつ。女性は性染色体構成がXXでありY染色体をもたないが生きていく上でなんら問題はないから,Y染色体は男性を決める以外,重要な遺伝子を持っていないだろうというのが大方の見方であった。ところがY染色体のゲノム解析が進むようになって状況が変わってきた。現在までに,13の遺伝子および偽遺伝子がY染色体からクローン化されている。それ以外にも身長を伸ばす遺伝子,ターナー症候群の遺伝子,ターナー症候群の性腺腫瘍化に関与する遺伝子などの存在が推定されている。本稿ではまずY染色体の構造について概観し,次に臨床に関連すると思われる遺伝子・事項について述べる。

小児泌尿器癌のがん遺伝子—Wilms腫瘍を中心に

著者: 秦順一 ,   菊地春人 ,   米山浩志 ,   黒沢祥浩 ,   赤坂喜清

ページ範囲:P.51 - P.56

 小児泌尿器癌の大部分は腎原発の腫瘍であり,その96%以上がWilms腫瘍(腎芽腫)およびその関連腫瘍である。Wilms腫瘍は正常の腎形成(nephrogenesis)を遂げる比較的初期の後腎組織由来の細胞を発生母地としている。発生頻度は人種によって異なり,わが国の小児悪性腫瘍登録では,4〜5%と記録されているが欧米では8%を下らないといわれている。好発年齢のピークは0歳から3歳まで,発生母地,年齢から典型的な胎児性腫瘍の一つとされている。さらに,家族内発生や染色体異常,奇形を伴うことが特徴的で,腫瘍発生に遺伝的要因が強く関連していることが想定されてきた。最近,後述するように本腫瘍からがん抑制遺伝子の一つであるWTI遺伝子が単離されWilms腫瘍の発生ばかりでなく腎の正常器官形成に対する機能が注目されている。

インターセックス—最新の知見

著者: 島博基 ,   生駒文彦

ページ範囲:P.57 - P.64

はじめに
 インターセックスに関する最新の知見は大きく分けて精巣決定因子,男性化誘導ホルモン,5α—リダクターゼ(還元酵素),アンドロゲンリセプター,ミューラー管退縮物質,先天性副腎過形成の六つの領域に得られている。まず順序として内外性(生殖)器の分化の概略を述べつつ,これらの領域に関する最新の知見を紹介し,治療法の基本的な考え方も述べる。

検査法の適応と評価

X線造影検査

著者: 藤岡睦久

ページ範囲:P.65 - P.70

はじめに
 成人において泌尿器科のX線造影検査と言えば,静脈性腎盂造影(intravenous pyelography:IVP)がその基本的検査法とされ,特にわが国においては点滴法を用いた点滴腎盂造影法(drip infusion pyelography:DIP)が広く行われているようである。小児の泌尿器疾患では,その対象とする疾患が成人のものとは大きく異なることから,むしろ造影検査としては逆行性排尿性尿道造影(retrograde voiding cystourethrography:VCG)のほうが主であり,超音波検査装置の進歩や核医学検査法の開発およびX線CTやMRIの普及により,古典的なIVPは特に小児においてはもはや基本的検査とは考えられなくなってきている。そうした歴史的な事情も踏まえて小児における造影検査について解説する。

超音波検査

著者: 桑島成子 ,   藤岡睦久

ページ範囲:P.71 - P.77

はじめに
 腎,尿路系における超音波検査は簡便かつ非侵襲的であり,小児においては単純写真とともに第一選択となる検査法である。被曝がないため繰り返し検査ができ,鎮静剤の投与もほとんどの場合必要がなく,腎と尿路系のみを対象とした場合には食事制限もいらない。対象となる疾患は幅広く,超音波検査で診断可能なものはすべて含まれる。
 また,経皮的腎生検,経皮的腎瘻造設の手段としても活用できる。

RI検査—腎機能およびVUR検査における有用性

著者: 野々村克也 ,   山下哲史 ,   小柳知彦 ,   伊藤和夫

ページ範囲:P.78 - P.84

 最近の核医学の分野における進歩として,ガンマーカメラの発達,経時的なRI-uptakeをコンピューター解析することでより詳細な情報が得られるようになってきたこと,新しいスキャン用製剤の登場があげられる。これらの進歩は小児泌尿器科の分野においても,分腎機能の定量化・腎瘢痕の有無などについて非侵襲的かつ詳細な情報を提供し,欠かすことのできない検査法の一つとなっている。本項の主題である腎の評価については,筆者らが日常使用している99mTc-DTPA(Technetium—99m—diethylenetriamine pentaacetic acid),99mTc-DMSA(dimercaptosuccinic acid)以外に,131I-OIH(orthodiodohippurate)や99mTc-MAG3(mercaptoacetyletriglycine)などの新しいスキャン用製剤が相次いで実用化されつつある。131I-OIHは腎血漿流量を反映して高度な腎機能障害を有する例でも評価可能とされ,すでに市販されている。99mTc-MAG3は131I-OIHよりも腎クリアランスは劣るものの同様に腎血漿流量を反映し,画像が良好であり使いやすいとのことから期待され,欧米ではすでに普及しつつあるが本邦ではphase IIIの治験段階である。

CT,MRI検査

著者: 津ケ谷正行 ,   林祐太郎 ,   佐々木昌一

ページ範囲:P.85 - P.90

はじめに
 小児泌尿器科診療の中でIVU(排泄性尿路造影)は基本的なX線検査であり,X線を生体に照射し,吸収されなかったX線によって感光された写真を日常的に診ている。X線CTスキャン(以下CT)はコンピュータで処理した横断像ではあるが,KUB, IVPと基本的には同じ原理のため,比較的馴染みやすい。ところがMRIでは原理が難しく,わかりやすく解説された書物でも専門外の者にとって難解である。また,T1強調画像,T2強調画像,スピン密度強調画像(プロトンデンシティー強調画像),Gd-DTPAによる造影画像,それに色々な断面を撮影した写真を並べると,どれがどれなのかパズルをしているようで,放射線科医のレポートを頼りに患者さんへ説明しようとしてもこのパズルの正解が得られないと,とんでもない間違いをしてしまう。このように写真を見てもわかりにくいため,より疎遠になるように思われる。筆者は泌尿器科医であり,MRIの原理については正直なところ余りよくわかっていない。MRIに興味を持った頃,しばしばMRI検査室に通って熱心な技師の方々から尿路性器はどのように描出されるのか教えていただいた。臨床医としては原理や理論よりその検査法がどのように使えるかといった応用面が重要となる。MRIの原理や技法などの詳細は成書に譲り,症例提示の中で筆者の経験とCTやMRIの活用を中心に述べる。

小児における下部尿路機能評価法—ウロダイナミクス検査を中心に

著者: 中井秀郎 ,   宮里実 ,   樋口彰宏 ,   我喜屋宗久 ,   宍戸清一郎 ,   川村猛

ページ範囲:P.91 - P.96

はじめに
 小児の下部尿路機能を正確に評価する手段として,従来よりウロダイナミクス検査の重要性が指摘されているが,一般泌尿器科医には,小児に対するこの検査が必要以上に敬遠されているのが現状である。その理由として,対象患者の検査協力が得られにくいという点が最大のものと考えられる。しかしながら,若干の工夫により信頼度の高い検査結果が得られること,その結果打ち出された合理的治療方針により,患児の受ける恩恵は非常に大きいこと,を熟慮すれば今後ますますわれわれ泌尿器科医が積極的に取り組むべき検査領域と考えられる。本稿では,下部尿路ウロダイナミクス検査を中心に小児下部尿路機能評価方法を概説する。

内分泌機能検査

著者: 田苗綾子

ページ範囲:P.97 - P.105

はじめに
 小児の泌尿器疾患の中で内分泌機能検査を要する疾患は,性分化異常に基づくものが大部分で,先天性の場合と副腎腫瘍などの後天性のものがある。性別不明外性器ambiguous genitaliaの患者の診断にはこの検査が必要である。Ambiguous genitaliaの主因は先天性の解剖学的過誤,女性仮性半陰陽,男性半陰陽,インターセックスなどである。診断をより正確に迅速に行うには,内分泌学的検査の他に,家族歴,妊娠歴,分娩・新生児歴を十分調べ,性染色体分析を第一選択とする。精巣,卵巣の有無には画像診断,DNA診断などを同時に進行させることが重要である。

小児臨床麻酔の実際と管理

小児麻酔の特徴

著者: 大畑淳

ページ範囲:P.106 - P.109

はじめに
 小児麻酔の特徴の一つとして,痛みを取り除くための局所麻酔や区域麻酔だけで手術ができる場合は少なく,簡単な検査でも小手術でも全身麻酔が必要となることが多い。気管内挿管を必要としない小手術の麻酔は,マスクによる気道確保のうえに吸入麻酔法が好んで用いられている。また,全身麻酔に局所麻酔や区域麻酔の併用も行われている。
 小児麻酔は体重が500gの未熟児,新生児から大人に近い年齢までを含んでおり,各患者の精神面や解剖,生理,病態を理解し,対処し麻酔管理を考えなければならない(表1)。

小児の術前・術後管理

著者: 谷口富美子 ,   土田嘉昭

ページ範囲:P.111 - P.113

■術前管理
 1.全身状態の把握
 入院時にまず主訴,現病歴,既往歴,家族歴を聴取する。既往歴では喘息やアレルギー疾患の有無,家族歴では悪性高熱など手術,麻酔に関する疾患についても聞いておく。ついで患児の皮膚の状態,四肢の運動,啼泣力,呼吸の状態,腹部の状態などを観察する。たとえば鼠径ヘルニアの手術であっても鼠径部だけを観察するのでなく必ず全身を診察する。身長・体重測定は必須であり,特に体重は術後の水分出納や栄養状態の把握のために重要である。

治療の実際

無症候性血尿および無症候性蛋白尿

著者: 石原幸宏 ,   伊藤拓

ページ範囲:P.115 - P.121

はじめに
 無症候性血尿,蛋白尿とは,本来,尿所見以外腎尿路系疾患に伴う浮腫,乏尿,腹痛その他の臨床症状や,低蛋白血症,腎機能低下などの検査所見の異常が認められないものを呼ぶ臨床診断名である。日常診療では,これらの異常所見に気付かれずに,学校検尿などで偶然に尿所見異常を発見されて来院するものが少なくない。したがって本稿では,このような偶然に尿所見異常を発見されるものを広義の無症候性血尿,蛋白尿として,その診断のすすめかた,治療について述べることにする。

尿路感染症(抗菌薬療法)

著者: 松本哲朗 ,   久保周太

ページ範囲:P.122 - P.126

はじめに
 小児においては,尿路感染症(UTI)の頻度はかなり高い。しかしながら,症状が多様で,所見を正確に把握することも困難なため,正確な診断が出来なかったり,遅れたりすることも多い。また,膀胱尿管逆流症(VUR)や先天性水腎症を含んだ尿路奇形が基礎疾患となり,再発を繰り返したり,腎機能障害,腎瘢痕化,腎不全へと進行する場合もある。このため小児におけるUTIに対しては,早期診断,迅速な治療および長期にわたるfollow upが必要となる。UTIの治療には各種抗菌剤が用いられるが,小児においては安全性を十分考慮して薬剤選択を行う必要がある。本稿では小児のUTI治療の原則について整理してみたい。

夜尿症

著者: 多田実 ,   赤司俊二 ,   滝本至得

ページ範囲:P.127 - P.131

 遺尿症とは排尿調節可能の年齢に達しても無意識的排尿が起こる状態をいい,夜間就寝中に生ずるのが夜尿症である。夜尿症は原因別に大きく,明らかな基礎疾患を有する器質的夜尿(遺尿)症と明らかな基礎疾患を有さない機能的夜尿症に分けられる(表1)。器質的疾患に対しては適切な治療法を行うのは当然であり,これらを除外診断することなしには機能的夜尿症の治療へは結びついていかない。
 本稿では筆者らが過去10年間に経験した夜尿症児の中から,夜尿(遺尿)を主訴に当院を受診した器質的夜尿症の2症例を紹介し,次に機能的夜尿症の病型分類,病因そして治療法について,最近の知見を述べたい。

包茎・亀頭包皮炎

著者: 高橋剛

ページ範囲:P.132 - P.136

はじめに
 乳幼児の両親がわが子を観察するとき,まず注目する部位は顔であろうが,次に男児ならば陰茎(ペニス)を見るのではないだろうか。この部位に対する親の関心は高く,日常外来での受診頻度も非常に高い。一方それに応じる医師側の対応や説明はまちまちなことが多く,ときには初診医の偏った説明が若い親を混乱させていることもある。もちろん本症に対する考え方はケースバイケースの面が多くあり,明瞭な線引きが出来るわけではない。しかし小児泌尿器科領域で最も多い疾患であり,最も数多い手術であることを考えると本症に対して十分な知識を踏まえて判断する必要がある。また包茎手術は立派な形成手術であり,安易な気持ちで行うべきものではないことを認識しておくことも必要である。

急性陰嚢症

著者: 臼田和正

ページ範囲:P.137 - P.142

 急性陰嚢症(acute scrotum)1〜7)は急激な有痛性陰嚢腫脹をきたす疾患群で,精巣内容の捻転症(精巣捻転,精巣付属器捻転)と陰嚢内容の炎症(精巣上体炎,精巣炎)などがその主な疾患である。本症は急性腹症と同様に緊急手術を念頭において速やかな診断と加療が必要であるが,さまざまな原因から精巣温存のできなくなる例も少なくない。小児における急性陰嚢症の特徴とその診断方法,および治療方針について述べる。

無痛性陰嚢腫大

著者: 池本庸

ページ範囲:P.143 - P.147

 小児にみられる無痛性の陰嚢腫大としては鼠径ヘルニア,精巣水瘤,精索水瘤,精索静脈瘤,そして頻度は少ないものの小児精巣腫瘍があげられる。このうち精巣腫瘍については別稿で述べられる予定などで,ここでは日常遭遇する機会も多く,診断,治療について今日も論議の多い鼠径ヘルニア,精巣水瘤,精索水瘤,精索静脈瘤の4疾患についてとりあげる。最初に鼠径ヘルニア,精巣水瘤,精索水瘤の3疾患については,その病態発生が胎生期,出生後の精巣下降と密接に関連するので,まずこれについて触れ,その後各疾患別にその診療の実際について述べたい。

神経因性膀胱

著者: 石堂哲郎

ページ範囲:P.148 - P.152

はじめに
 小児神経因性膀胱の原因疾患としては,まず先天性の脳・脊髄疾患(二分脊椎,潜在性二分脊椎,仙骨欠損(形成不全),脊髄係留症候群など)が考えられる。これら先天性の疾患の場合,尿路の問題だけでなく,知能(水頭症),移動能力(下肢麻痺の問題),上肢の巧緻性の問題などあわせ持っていることが多く,これらが尿路の問題解決に大きな障害になることがあるので,先天性の疾患の尿路管理を非常に複雑なものにしている。その他,最近では交通事故などによる外傷性の神経因性膀胱(脊髄損傷)もみられるようになっている。
 このような患児については泌尿器科(排尿の問題)だけではなく,整形外科,リハビリテーション医学科,小児科,脳神経外科など臨床各科やケースワーカー,臨床心理などコ・メディカル部門とも連携して管理していかなければならない。さらに患児についての問題以上に,患児の家族(特に両親)に対する教育,授助,相談なども重要である。このような患児の治療にとっては両親,家族,教育機関などの長期にわたる協力が必要であることは言うまでもない。

小児の水腎症—今日的問題点を中心に

著者: 妹尾康平 ,   田中誠

ページ範囲:P.153 - P.161

はじめに
 先天性水腎症の臨床は1940年代後半Ander-son&Hynes1)によるdismembered pyeloplastyが高い評価を受けて以来,今日では最も多く行われ2),その治療成績も安定し,手術手技に関する問題はほぼ解決をみたかに思われていた。
 その一方で,最近とみに発展著しい画像診断手技,ことに超音波診断法(USG)の胎児診断への応用は尿路の先天異常,なかでも水腎など尿流障害や嚢胞性疾患の出生前診断を可能にした。

Endopyelotomy

著者: 小野佳成 ,   大島伸一

ページ範囲:P.162 - P.167

はじめに
 腎盂尿管移行部狭窄症や上部尿管狭窄症による水腎症に対しては従来開腹手術による腎盂形成術が行われてきた。腎盂形成術には病変部を切除するAnderson-Hyness法,拡張した腎盂の一部をflap状にして病変部の拡張を図るY-V形成法やCulp法,また,狭窄部を切開,開放し適当な太さのステントを留置し,切開部でステントの周囲に粘膜,筋層—尿管壁の増殖を図り,狭窄部の拡張をするDavis法がある。手術成績は術式により多少異なるが,85〜90%と報告されている。小児においても同様の成績が報告されている。
 本稿で述べるendopyelotomy,endopyeloureterotomyは,経皮的に作製した腎瘻から腎盂へ挿入した内視鏡により,腎盂尿管移行部から上部尿管の狭窄部を切開し,ステントを留置して切開部に尿管壁の増生を図る方法である。基本的には開腹手術のDavis法と同じ方法であり,経皮的腎盂切開術,経皮的腎盂尿管切開術といわれる。本手術は1980年代前半からイギリスのWickmanら1),ドイツのKorthら2)によって開始され,アメリカ合衆国のSmithら3),Claymanら,本邦では田島ら5),筆者ら6)によってなされている。

巨大尿管に対する治療方針と手術方法

著者: 寺島和光 ,   佐野克行

ページ範囲:P.168 - P.176

はじめに
 巨大尿管(megaureter)は小児泌尿器科領域ではしばしば遭遇する異常である。その原因となる疾患は少なくないが,治療方針や方法が原疾患や尿管の病態によって異なるということを知る必要がある。
 筆者らはこれまでに種々のタイプの巨大尿管61例に対して尿管形成術を併用した手術を行っているので,この経験に基づいて本症に対する手術療法について述べるが,これに関連して分類,診断治療方針などについても言及したい。

異所性尿管・尿管瘤に対する手術

著者: 徳中荘平

ページ範囲:P.177 - P.182

■異所性尿管に対する手術
 異所性尿管は膀胱以外の部位に開口する尿管すべてを指すが,部位別に手術法が異なるので部位ごとに分けて筆者の行っている手術法を説明する。

膀胱尿管逆流症

著者: 島田憲次 ,   細川尚三 ,   坂上和弘 ,   貴島洋子

ページ範囲:P.183 - P.189

■膀胱尿管逆流(vesicoureteral reflux;VUR)とは
 VURは膀胱尿管接合部の先天性形成不全に基づく機能異常により生ずるもので,ヒトでは新生児期でもVURが存在すれば病的とみなされる。健康な小児におけるVURの頻度は0.2〜1%であるが,一度でも尿路感染症を起こしたことのある小児では30〜60%の高率で証明される1)
 VURの主訴として最も多いのは尿路感染症(UTI)の症状と所見,つまり高熱,膀胱炎症状,尿混濁などであるが,遺尿症や蛋白尿などの精査により本症が発見されることも珍しくはない。直接の臨床症状として現れることは少ないが,VURによる腎障害,つまり腎実質の瘢痕形成と腎の成長障害,そしてそれらによって引き起こされる腎機能障害と高血圧が重視されている。そのため,VURに対する治療の目的は尿路感染の発症と腎の瘢痕形成を防ぎ,腎成長を正常に保つことであり,また腎実質障害の進行をくい止め,高血圧と腎機能障害を防止することにある。

逆流性腎症

著者: 近田龍一郎 ,   坂井清英 ,   折笠精一

ページ範囲:P.190 - P.196

 逆流性腎症という言葉を最初に用いたのはBailey(1973年)1)である。しかし,彼は必ずしも膀胱尿管逆流症(VUR)に伴う腎障害に対して幅広くこの様な呼び方をしたのではなく,IVP上腎杯の棍棒状変形や腎実質の菲薄化といったいわゆる腎瘢痕を伴うVUR症例に対し命名したものであった。このため,その後腎瘢痕と同義語のように用いられることが多かった。1980年前後2〜4)には,VUR・腎瘢痕・腎機能障害を伴った例では高率に糸球体硬化を伴うことが注目され,逆流性腎症=糸球体硬化といった考えが出てきた。このような例のほとんどが高度の蛋白尿を伴っていたため,逆流性腎症を把握するのに尿蛋白がよい指標となるとされた。しかし,こうした報告の多くは,血清クレアチニン(Cr)がすでに上昇した高度腎機能障害例を対象としていた。しかし,最近の流れとしては,VURに伴う腎障害を幅広く逆流性腎症と呼び,しかも早期に腎障害を捉える方向にある。
 さて,腎不全患者の5〜30%にVURが認められており,特に若年の腎不全患者ではその占める割合が高くなるとされている5)。このように逆流性腎症は,非常に重要な疾患であるにもかかわらず,その発生機序や進展機序についてはまだ不明の点が多い。

一期的尿道下裂修復術

著者: 谷風三郎 ,   上岡克彦 ,   杉多良文

ページ範囲:P.197 - P.202

はじめに
 かつて,尿道下裂に対する修復術はもっとも手術成績の悪いもののひとつとされ,長い間泌尿器科医を悩ませてきた手術である。しかし,近年小児泌尿器科学が確立され,その進歩に伴う手術手技の改善と縫合材料や縫合器具の開発により,手術成績は飛躍的に向上し,かつて一般的であったDenis-Browne法に代表される多期手術よりも今や一期的手術が主流となりつつある。また,この手術の最終ゴールは単に排尿が立位でできるということだけではなく,いかに正常の外観を形成するかという点に置かれるようになってきている。本稿では筆者らの施設で行ってきた一期的尿道下裂修復術の手技を詳細に述べ,その間題点と対策についても述べる。

女児外陰部形成術(腟形成術も含めて)

著者: 後藤隆文 ,   青山興司

ページ範囲:P.203 - P.209

 陰核形成術の適応が認められる症例のほとんどは小児科経由でやってくる。というのも,生直後に外陰部異常が認められると,まず新生児科あるいは一般小児科に相談が入り,次いでわれわれ外科サイドに紹介がされるのが現状だからである。したがって,周産期センター・母子センター・小児センターなどに勤務していない限り,一般泌尿器科医が生直後より患者に関与することはないと言って過言ではない。しかし,稀ではあるが,外陰部の状態によっては染色体・内性器とは無関係に患児の性を女性にせざるを得ないこともあるし,産科・小児科(新生児科)で誤った性の決定がなされたまま『高度女性仮性半陰陽』『男性仮性半陰陽」「高度尿道下裂』などとして紹介されることもあり,われわれのところで性の変更をすることもある。このような時には,紹介元の医師と密接なコンタクトをとりながら,単に医学的立場からというのではなく,患児・家族の精神面・社会的側面を十分に配慮しながらの対応が要求される。そのうえ,術後のフォローやカウンセリングにも気を配らねばならない。基礎疾患によっては性腺が高率に悪性化することもあり,手術時期を考慮しながら性腺摘出術を行うこともある。陰核形成にあずかるわれわれ外科医は,単に陰核形成の手技を習得するだけではなく,陰核形成を行わねばならないような各種疾患に対しての十分な知識とともに,患児・家族の精神面に配慮した対応も要求されている。

膀胱外翻症,総排泄腔外翻症に対する手術

著者: 上岡克彦 ,   谷風三郎

ページ範囲:P.210 - P.215

はじめに
 膀胱外翻症,総排泄腔外翻症は小児泌尿器科医にとって現在でも治療に困難を伴う代表的な疾患である。しかし特に膀胱外翻症では適切な多段階手術を行うことにより,機能さらには外観も正常に近い状態とすることが出来る例が多くあるといわれており,最もchallengingな疾患でもある。Exstrophy-epispadias complexに対する手術には,膀胱のprimary closure,尿道上裂修復術,膀胱頸部形成術,そして手術不成功症例に対するsalvage surgeryなど多くの手術がある。本論文では,より良い膀胱機能を得るために欠かすことの出来ない膀胱のprimary closureに重点をおいて記述した後に出来るだけ他の手術について言及する方針とした。

直腸肛門奇形(鎖肛)手術に伴う泌尿器科的合併症

著者: 島田憲次 ,   細川尚三

ページ範囲:P.216 - P.220

はじめに
 直腸肛門奇形(鎖肛)は小児外科領域では比較的頻度の高い疾患であるが,一般の泌尿器科医にとっては日常の診療で遭遇することはむしろ稀であり,小児外科や小児科医からの問い合わせを受けたときに困惑する場面も多いと考えられる。直腸肛門奇形患児が私たち泌尿器科医と関わるのは①尿路性器の先天異常,②脊髄脊椎奇形に随伴する排尿機能障害,③根治術(肛門形成術)前の合併症,そして,④根治術中の手術操作による尿路・性路の損傷,のいずれかの場合である。今回はこれらのうち,とくに根治術前・後の時期に泌尿器科的管理が必要となる問題に焦点を合わせ解説する。

尿路変更術

著者: 渡辺健二 ,   小川秋實

ページ範囲:P.221 - P.226

 小児における尿路変更術は,さまざまな病態に対してさまざまな方法が行われている。腎機能が悪く,蠕動の弱い巨大尿管に対しては,一時的尿路変更術としてループ式尿管皮膚瘻あるいは終末尿管皮膚瘻が行われる。経尿道的弁切開術ができない後部尿道弁や,腎機能が悪く排尿障害を伴うプルン・ベリー症候群,あるいは新生児期に水腎や持続的膀胱拡張のみられる神経因性膀胱には,一時的尿路変更術として膀胱皮膚瘻(cutaneous vesicostomy)が行われる。後部尿道弁で,弁切開術後も排尿状態が悪く水腎水尿管がみられる症例や,低コンプライアンス膀胱による水腎あるいは尿失禁があり,尿道よりカテーテルを挿入することを嫌がる男児あるいは行動に車椅子を必要とする女児には永久的尿路変更術として虫垂利用膀胱瘻(appendicovesicostomy)が行われる。失禁型尿道上裂に対して膀胱頸部形成術を行う際,術後自排尿不能でしかも尿道カテーテル操作が困難なことも起こり得るので,補助的手術として虫垂利用膀胱瘻を追加することもある。膀胱摘除後あるいは膀胱を利用できない場合の永久的尿路変更術としては,尿管S状結腸吻合術,回腸導管,あるいは成人に対して行われてきたさまざまな禁性尿路変更術が,小児に対しても行われる。
 小児においては,一つの病態に対していくつもの治療法があり,以上の手術はすべてオプションとして存在する。その選択に当っては家族とよく相談のうえ,決定しなければならない。

停留精巣に対する精巣固定術

著者: 谷風三郎 ,   杉多良文 ,   上岡克彦

ページ範囲:P.227 - P.230

はじめに
 停留精巣は正常出生男児の3%にみられ,症例により出生後6か月以内に自然降下し,1歳時で0.7〜0.8%にみられるとされ,小児泌尿器科診療でもっとも頻繁にみられる疾患の代表である1)。停留精巣に対して一般的には手術治療の適応となり,精巣固定術が選択される。一部には内分泌療法も試みられているが,わが国ではあまり一般的とは言えない。診断上,遊走精巣とまぎらわしいが,遊走精巣に対する治療方針は異なり,慎重に診断すべきである。本稿では精巣固定術の手技の詳細を中心に本症の診断,治療を述べる。

小児尿路結石の治療

著者: 竹内秀雄

ページ範囲:P.231 - P.235

はじめに
 小児の尿路結石は成分や成因,基礎疾患など成人の尿路結石とはずいぶん異なり,また診断や治療も成人の場合と異なる。そして小児の中でも乳幼児,学童児と年齢により治療法もさまざまで,年齢に応じた処置がとられる。ここでは小児尿路結石の概略,診断治療の実際について述べる。

小児泌尿器科腹腔鏡手術

著者: 松田公志 ,   内田潤二 ,   六車光英 ,   小松洋輔

ページ範囲:P.237 - P.242

はじめに
 小児泌尿器科領域での腹腔鏡の歴史は古く,1978年に停留精巣の部位診断が報告されている1)。近年の手術手技と器具の進歩は腹腔鏡下の手術操作を可能とし,腹腔鏡下胆嚢摘除術の開発普及以来,より侵襲の少ない手術を目指して,各科領域でさまざまな腹腔鏡手術が開発されてきた。小児外科領域では,乳児期の先天性幽門狭窄症に対して腹腔鏡手術が行われている2)。停留精巣に対する腹腔鏡手術も,単なる部位診断にとどまらず,腹腔内精巣の摘除3),二期的Fowler-Stephens手術の一期手術4),さらには,腹腔内精巣の一期的固定術も報告されるに至った5)。おもに停留精巣に対する腹腔鏡手術を中心に,われわれの経験とともに最近の報告を紹介する。

尿路外傷

著者: 柿澤至恕

ページ範囲:P.243 - P.247

 小児の尿路外傷は一般に考えられているほど少ないものではない。特に最近では交通事故によるものが増加してきているが,成人にくらべれば少ないので,筆者のような小児専門病院の泌尿器科医より一般泌尿器科医のほうが尿路外傷を扱った経験は多いと思われる。いっぽうで,小児では尿路に先天異常にともなう場合,容易に尿路外傷をうけやすいことを忘れてはならない。この観点から本稿を参考にされるなら幸いである。

Coffee Break

術前の説明について

著者: 島博基

ページ範囲:P.64 - P.64

 現在では外科的手術を含めた治療にあたってはinformed consentに表わされるように合併症についても多岐に渡る説明が要求されている。しかし,米国と日本では宗教的・社会的背景も異なっているので,米国方式をそのまま日本に適用するのは決して適切でないことがある。事実を客観的に述べることは重要であるが,その事実が患者あるいは患者の家族にとってどの程度の心理的負荷を与えるかを知らねばならない。釈尊は人をみて法を説いたと言われているが,医師の場合も患者によって説明の仕方を若干変えなければならないことが多い。特に患者が小児の場合,術前説明を受ける母親はお腹を痛めた子供の手術という危機にあたって母性愛の緊張が極度に高まっている。このような時には詳細な手術説明も大事であるが,それよりも望ましい結果をもたらすために全力を尽くすことを強調するほうがよい。この点では医師としてだけでなく,東洋的な表現であるが人間としての深さが大切ではないかと思う。

放射線診断医のたわごと

著者: 藤岡睦久

ページ範囲:P.77 - P.77

 10年間の米国生活を終えて帰国してから13年になる。小児の放射線診断を専門にしている関係上,随分といろいろなところで講演したり,総説のようなものを頼まれていろいろな雑誌に書いたりしてきたものである。
 この13年間一貫して言い続けてきたのは,「画像診断は放射線科医にまかせて下さい」と言うことである。画像診断を主治医が自分で行っているのが世界的には異常な状態であるということは意外と知られていない。確かにレントゲンが発見されてから造影剤を用いて逆行性の腎盂造影(RP)を始めたのは泌尿器科医であるし,静脈性造影剤を開発したのも泌尿器科医である。それが欧米ではいつの間にか泌尿器科医から放射線科医へとその任務分担が変わってきてしまっている。uroradiologyと呼ばれる分野の教科書を開いて見ていただければ良くわかると思う。その著者は全てradiologistのはずである。なぜこうなってしまったのであろうか。

待ちの治療

著者: 寺島和光

ページ範囲:P.176 - P.176

 小児の泌尿器科疾患の大部分は先天性である。このため自然治癒などということはありえないということで,いったん治療が必要と判断されたら早期に手術などを行っていた時代があった。現在はもちろん違う。水腎症(特に胎児期,新生児期)や水尿管症(巨大尿管)は自然治癒・改善が稀ではない。多嚢腎multicystic kidneyも経過とともに自然退縮する例が多く,摘除することはごく稀となった。プルンベリー症候群にみられる上部尿路拡張に対しても,手術をすることは今や少ない。いっぽう尿道下裂などは,以前だったら無視されていたようなごく軽度の症例でも今日では積極的に手術するようになり,手術時期もずいぶん早くなった。VURも逆流腎症の概念が導入されてからは手術適応が拡がったようである。
 このように同じ先天性疾患といっても治療方針や時期は千差万別であり,このことは小児泌尿器疾患を扱う上で非常に重要であり,医師は十分認識しなければならない。これに関連して昔のことを思い出した。かつてアメリカでレジデントとして働いていた時の話である。関連病院の一つ(V.A.Hospital)の泌尿器科のチーフはレジデント達にむかって常々,「おれは君達から患者を守る(protect)ためにいるんだ」と言っていたものである。何しろアメリカのレジデントときたらやる気まんまんの連中が多く,ほんの少しでも手術適応があればすかさず手術をやってしまっていたのである。

"i Viva Andalucía!"

著者: 徳中荘平

ページ範囲:P.182 - P.182

 今年は,国際泌尿器科学会が開かれる年ですが,前回のSIUはスペインのSevillaであり,私も行ってきました。私は,学生時代から細々とスペイン語を勉強してきました。きっかけは当時,札幌のYMCAでスペイン語を教えていたEI Salvador出身の先生が美人だったという少々不純な動機でした。それはさておき,前回SIUで日本の某社が企画したCórdobaツアーで,Caballo rojo(カバジョローホ)(赤馬亭)というレストランに入ったときのことです。日本に輸入されているスペインワインは,Rioja(リオハ)地方のものがほとんどですが,各地の村々にいい醸造元があります。"i Traigame vino tipico de aqui!"(トライガメヴィノティピコデアキ),(地ワインをもってきてください)という私の得意文句を乱発して同じテーブルについた先生達とMontilla(モンティジャ)村のワインをはじめ10数本のワインを楽しみました。2時間後に赤馬亭を出るときには皆千鳥足で,その後の観光がどうなったかはご想像におまかせします。ちなみに,白ワインはblanco(ブランコ),赤ワインはrojo(ローホ)…ではなく,tinto(ティント)です。ドライワインはvino seco(ヴィノセコ),スイートワインはvino dulce(ヴィノドゥルセ),発泡ワインはcava(カーヴァ)です。つぎの機会にご活用ください。コーヒーブレークではなくワインブレークになってしまい失礼しました。

オチンチンのはなし

著者: 谷風三郎

ページ範囲:P.202 - P.202

 包茎を主訴として小児泌尿器科を受診する患者さんは少なくない。注意深く診察するとほとんどが手術適応はなく,たんに包皮が過剰であったり,包皮と亀頭部が癒着していたりという状態のことが多い。入浴時に包皮を翻転してみたら完全に亀頭部が露出しなかったとして受診することもあるが,よく見ると包皮輪が多少狭窄気味で完全には翻転しないものの亀頭の先端部は十分に露出するというのも多い。これも手術適応はまったくない。こういう場合ご両親に「これは異常ではないので,手術の必要はありません。」と説明するがなかなか納得していただけない。何回か説明をくりかえし,あげくに「心の傷になるといけないので小さいうちに手術をしておいてあげたい。」とおっしゃる。そこでわれわれは「小さいうちに手術をすると全身麻酔が必要で,これは多少の危険を伴いますよ。」と説明する。すると「おとなになると麻酔は必要ないのですか?」と逆襲される。そこで最後に「手術をして完全に亀頭を露出すると他の子供さんとは違う外観になるから,子供さんでは包皮輪を広くするだけの手術をするので,おとなになると結局もう一度手術をするはめになりますよ。」と説明する。ここまでくるとしぶしぶ納得される。

「チンチン医者のつぶやき」

著者: 後藤隆文

ページ範囲:P.209 - P.209

 最近のテレビには,医学ものがいくつか登場している。古くは脳外科医『ベン・ケーシー』が有名であり,あのナレーションは今でも鮮明に思い出すことが出来る。最近のテレビでは,名取裕子の法医学助教授(同じ番組に小児外科を挫折した南果歩もいた)があったし,三田佳子の『外科医有森冴子』も大変評判だった。これには若い研修医(?)として高島政宏,内科医として岩城晃一も出演していた。織田裕二・石黒賢の外科医・内科医のコンビ,片岡鶴太郎の麻酔科医なども最近のテレビで評判であったし,田宮二郎の外科医も印象深かった。現在まで,多数の俳優さんが医者を演じているのだが,どういうわけか泌尿器科医を演じた俳優さんを記憶していない。これは偶然にウロ医者の役柄が無かっただけなのだろうか,あるいは特別な理由でもあってのことだろうか…。疑い深い性格なので次のようなことを考えてしまった。つまり,心臓外科や脳外科などは格好いい高尚な『科』だから二枚目の役者さん,内科や外科はメジャーな『科』であり主役級の役者さん,精神科は頭が良く少しニヒルな感じの役者さん,それに対して,泌尿器科は格好も悪く上品な感じもしないからテレビ出演すらおこがましいとディレクターは感じているのだろうか,と疑ったのである。当直をしながら一晩中考えたが,やはりこれは本当のところだろう。そういえば,『ご専門は?』と聞かれて,『小児泌尿器科です』と答えたことがあった。

泌尿器腹腔鏡手術について思うこと

著者: 松田公志

ページ範囲:P.242 - P.242

 さまざまな泌尿器科腹腔鏡下手術が開発されたが,minimally invasive surgery:MISとして,誰もが納得できる最もよい適応は副腎摘除術であろう。これまでの開放手術に比べて,術後回復の早さは目を見張るものがあるし,とにかく腫瘍だけをとれば確実に治癒する疾患としての単純明快さがよい。他の手術術式もMISとしては意義があるが,骨盤リンパ節郭清術では前立腺全摘術になれば同じ術野を開放するのが釈然としないし,腎癌に対する腎摘除術ではリンパ節郭清や組織の取り出し方など,広く普及するには残された問題が多い。
 副腎摘除術の何よりの問題点は患者数が少ないことであろう。1年に数例の副腎腫瘍のためだけに腹腔鏡器具を揃えたり手術手技を修得するのは割に合わないし,かなり高度な技術を維持するのも困難である。胆嚢摘除術のような,症例数も多いし技術的にも中程度の手術がみあたらないことが,泌尿器科での腹腔鏡手術の普及を妨げている。

昨日の患者

子供の人格

著者: 中井秀郎

ページ範囲:P.96 - P.96

 小児患者とはいえ,小学校高学年ともなれば,自分の病気に対する理解は十分に持つことが出来る。6年生のY君は,乳児期から幼児期にかけて,膀胱外反症,尿道上裂の手術を受け,以後も尿失禁に悩んできた。昨年,膀胱拡大術と頸部形成術(YDL法)を受けた直後からは,間欠的自己導尿のカテ挿入困難に苦しんだ。3度にわたるTUR尿道修復と,チーマン型セルフカテーテルの採用で,幸い現在は,家庭での1日5回の導尿で昼夜完全に尿失禁制が保たれているが,カテーテル挿入困難で退院が3か月も延びに延びていた当時は,本人のみならず,主治医(小生)にも暗黒の日々だった。ふだんは,凜しい少年でも,導尿練習の苦痛に涙をためるY君。表面だけは,強気で自信ありげの主治医。3度のTURの後だったか,主治医自らセルフカテーテルを持ち挿入すると,また痛みを訴える。またダメなのか?という不安感と無力感が主治医の脳裏をよぎった瞬間,つい不覚にも目がうるんだ。Y君に悟られまいと,下を向きながら指導していると,その辺は敏感な小学6年生。小生の様子からしっかりと,自分と自分をとり巻く状況を瞬間的・客観的に把握してしまったらしい。小生の顔をのぞき込むや,「先生,チョッと痛いけど,もう少しやって大丈夫だよ」。それまで痛みのため,何度も体をよじらせて,度重なる導尿練習を拒んでいた子が豹変した。…Y君の成長のお陰で,何とかスムーズな導尿方法が修得された。

ある日,"母"を見た……菩薩か夜叉か

著者: 渡辺健二

ページ範囲:P.226 - P.226

 昨日といっても15年程前になる。8歳のLesch-Nyhan症候群の男児を受け持った。精神緊張時の舞踏病様アテトーゼ運動・首を激しく反る発作性運動・自咬症を特徴とするこの症候群は伴性劣性遺伝疾患である。泌尿器科には腎結石除去の目的で入院してきた。家庭は円満で,母親が付添ってきた。入院中に母親の妊娠が判明した。当時,当院はこの妊娠月での性別診断ができず,他院に紹介したい旨を母親に打診した。2〜3日して,他院への紹介は必要ないとの返事をいただいた。この症候群は知能障害も有し,はた目にも患児の悲惨さは目に余るものがあった。しかし,母親は産むという。宗教上の理由とは考えられず,確率1/2に賭けるといった不謹慎なものでもなく,ただ,この子がかわいい,2人目のかわいい子が欲しいという気持だったのではないかと推測する。退院後,人づてに,男児を出産したと聞いた。その後,患児は同症候群を発病した。母親は明るく2人の患児を小児神経疾患外来に連れてきているという。

真夜中のreservoir

著者: 上岡克彦

ページ範囲:P.230 - P.230

 「何とかしてやって下さい。」患者の父親は頭を下げた。完全尿失禁,人工肛門の状態は一生変わらない,単腎だから腎不全になるかもしれないと言われたという。膀胱外翻症に鎖肛を伴った4歳の女児だった。初回手術後に多発性の膀胱皮膚瘻が形成され,その後は治療が行われていなかった。
 Work upを行うと機能する肛門括約筋は存在した。問題は尿路および性器の再建だった。膀胱は線維化が著明で萎縮し,通常の再建術では尿禁制が得られる可能性はなかった。そこでgastric reservoir+Mitrofanoff principleによるcontinent diversion,膀胱を利用した膣造設を行うことにした。

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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