臨床泌尿器科48巻4号

1994年03月発行

増刊号特集 小児泌尿器科診療

小児泌尿器科の最前線

小児泌尿器癌のがん遺伝子—Wilms腫瘍を中心に

著者： 秦順一¹ 菊地春人² 米山浩志³ 黒沢祥浩³ 赤坂喜清⁴

所属機関： ¹慶應義塾大学医学部病理学教室 ²慶應義塾大学病院中央検査部 ³慶應義塾大学医学部小児科学教室 ⁴東邦大学医学部病理学教室

ページ範囲：P.51 - P.56

文献概要

　小児泌尿器癌の大部分は腎原発の腫瘍であり，その96％以上がWilms腫瘍（腎芽腫）およびその関連腫瘍である。Wilms腫瘍は正常の腎形成（nephrogenesis）を遂げる比較的初期の後腎組織由来の細胞を発生母地としている。発生頻度は人種によって異なり，わが国の小児悪性腫瘍登録では，4〜5％と記録されているが欧米では8％を下らないといわれている。好発年齢のピークは0歳から3歳まで，発生母地，年齢から典型的な胎児性腫瘍の一つとされている。さらに，家族内発生や染色体異常，奇形を伴うことが特徴的で，腫瘍発生に遺伝的要因が強く関連していることが想定されてきた。最近，後述するように本腫瘍からがん抑制遺伝子の一つであるWTI遺伝子が単離されWilms腫瘍の発生ばかりでなく腎の正常器官形成に対する機能が注目されている。