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雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科49巻4号

1995年03月発行

雑誌目次

増刊号特集 泌尿器科病棟マニュアル—ベッドサイドの検査と処置・私はこうしている

Editorial—病棟業務はこの1冊から

著者: 郡健二郎

ページ範囲:P.5 - P.6

□病棟マニュアルの嚆矢として
 こんなに医学書が氾濫しているのに,泌尿器科の病棟業務を目的とした指南書が皆無であることには驚いた。
 このたび,「臨床泌尿器科」の毎年恒例となった増刊号のテーマとして「泌尿器科病棟マニュアル」が取り上げられ,その編集に携わり始めて気づいたことである。

泌尿器科診療とインフォームド・コンセント

著者: 小松秀樹

ページ範囲:P.7 - P.11

1 インフォームド・コンセントの意味
 インフォームド・コンセントは現代の医療における医師と患者の関係を表わすキーワードである.近年,マスコミでもっとも頻繁に用いられる用語の一つである。医師は患者に病気について十分な報告を提供する。医師はあくまでも専門知識を有する助言者である。治療方針などについては,可能ならば,いくつかのメニューを提示し,場合によりそのうちの一つを推薦する。最終的に,その中から一つの方針を選択するのはあくまで患者本人である。
 これは,政治家と官僚の関係に多少似ている面もある。政治家が決定の主体であろうとしても,持っている情報量に圧倒的な差があり,一見,政治家が決定しているように見えても,実体は異なる場合が多い。あるいは政治家が決定しているのだが,決定した政治家が自分が決定したという意識を持てないことがある。患者と医師の関係でも同様で,基本的に双方の考えの食い違いが生じ易い構造になっている。食い違いがあると,治療の結果が思わしくない場合,医療過誤がなくても,患者と医師双方にとって不毛な紛争が発生しやすい。したがって,侵襲を加えることの多いわれわれ外科医がこの問題を考える際には,倫理的に正しい患者と医師の関係を考えること以上に,同意を得るための技術的側面が重要となる。

ベッドサイド検査の実際

尿検査の実際

著者: 橋本博

ページ範囲:P.13 - P.17

 尿にはさまざまな成分が含まれ,その異常の有無の検討は泌尿器科疾患の診断に際し,きわめて有用な情報を提供してくれるものである。また尿という検体は通常患者に全く負担をかけることなく,大量に,しかも繰り返し採取できるということからも臨床検査としてきわめて有用性が高いと言える。そのような点から,尿検査は日常の検査として最も頻回に,ある意味で気軽に行われていると思われるが,採尿法など留意すべき点は少なくなく,誤った検査手順は誤った結果を招く可能性がある。日常私達泌尿器科医が最も慣れ親しんでいる検査であるがゆえに,陥り易いピットフォールも存在する可能性があると思われる。本稿では以上のような点に留意しつつ,ベッドサイドにおける尿検査の実際を述べてみたい。
 図1,2には以下に述べる新鮮尿検査.24時間尿検査の手順をそれぞれまとめて示した。

内分泌検査の実際

著者: 北村雅哉 ,   松宮清美 ,   並木幹夫

ページ範囲:P.19 - P.23

 生体内での内分泌機構は一般に図1のようにnegative feedbackによって制御されている。内分泌検査はその意味するところを十分に理解することが肝要で,図2にその一般的概念を示した。すなわち,上位器官の不全では上位,下位のホルモンとも低値を取るが,下位器官の不全では下位ホルモンは低値となるが上位ホルモンはnegative feedbackにより高値となる。癌などで自律性分泌が上位器官に生じた場合は上位,下位ホルモンとも高値となるが,下位器官に自律性分泌が生じた場合は上位ホルモンはnegative feedbackにより低値をとる。ただし,実際の生体の内分泌環境はこれほど単純ではなく,特に負荷試験の正確な評価は内分泌専門医と相談したうえでなされることが望ましい。
 本稿では視床下部,下垂体,副腎,精巣,副甲状腺の内分泌学的環境とその検査法について概説するが,実際の診療で良く用いられる検査を主に解説し,特殊な負荷試験等の詳細は成書を参照されたい。なお,正常値は成人男性の参考値であるので各施設での正常値を参照されたい。

腎機能検査の実際

著者: 魚住二郎

ページ範囲:P.25 - P.31

 腎機能検査は,両腎の機能を総合的に評価する総腎機能検査と左右の腎機能を個別に評価する分腎機能検査に分けられる。また各種の機能検査を腎の機能的最小単位であるネフロンの部位別に分類することができる(表1)。これらの腎機能検査のうち,日常行われる代表的な検査について概説する。腎盂造影,CT,血管造影などのX線学的検査については他の項に譲る。

腎生検の実際

著者: 内田睦

ページ範囲:P.32 - P.35

 腎生検は,従来より経皮的腎生検と開放性腎生検が行われ,その組織採取率と合併症とから優劣が議論されてきた。
 当教室では,1978年にリアルタイム装置を用いた超音波穿刺術専用装置を開発し,種々の穿刺術に役立て発展させてきた。そのなかのひとつに経皮的腎生検への応用がある。この装置を用いれば,狙った部位を選択的に生検することができるので,この方法をとくに選択的腎生検と呼び,現在ではこの方法が腎生検のなかで最も普及していると思われる。

膀胱生検の実際

著者: 後藤修一

ページ範囲:P.36 - P.37

1 膀胱生検の目的
 大きく膀胱粘膜を対象にして行う場合と,腫瘍に対して行う場合とに分けられる。実際的には,以下のような場面が想定される。

前立腺生検の実際

著者: 鷺山和幸

ページ範囲:P.38 - P.41

 前立腺生検の方法としては吸引生検(細胞診)と針生検(組織診)があるが,今回は針生検について述べる。吸引生検については他の文献1)を参照されたい。

精巣生検の実際

著者: 原勲

ページ範囲:P.42 - P.44

 男性不妊の診断,治療方針の決定および予後判定を行うに際し,精巣生検は主要検査のひとつであり現在も広く行われている。しかしその適応や所見の解釈については注意すべきいくつかの点が挙げられる。同一精巣内においても種々の精細管像を認めること1,2),は生検部位の少しの違いによりその所見が大幅に変わりうることを示している。すなわち一部の精巣組織像のみから全体の精巣機能を絶対的なものとして診断することは危険であり,精巣容積をはじめ,患者の病歴,現症,理学的所見,内分泌学的検査などを含め,広い視野から精巣機能を判定してゆくべきである。

KUB X線造影の実際

著者: 最上徹

ページ範囲:P.45 - P.48

 各検査の(1)目的,(2)手順,(3)手技上のポイント,(4)ピットフォールにわけて述べる。

超音波検査法の実際

著者: 山下俊郎

ページ範囲:P.49 - P.53

 超音波検査はその簡便性・非侵襲性・情報量の多さから泌尿器科の日常診療には欠かせないものになっている。入院患者に超音波検査を行うことも少なくないが,その場合も原則として遮光などの検査環境に配慮がなされ,かつ,その施設の最高の検査機器が設置してある超音波検査室で行うべきであろう。しかし,患者が手術後や重症の場合は,どうしてもベッドサイドで検査しなければならないことも稀ではない。本稿では,ベッドサイドでの超音波検査のポイントを解説する。

経皮的腎盂造影の実際

著者: 滝川浩 ,   小島圭二

ページ範囲:P.54 - P.55

 経皮的に穿刺した経路より順行性に造影剤を尿路に注入し,腎杯・腎盂・尿管の画像を得る方法である。
 超音波診断装置とそれに付属した穿刺装置の発達により,確実にかつ安全に行えるようになった。

精管・精嚢造影の実際

著者: 中村薫

ページ範囲:P.57 - P.60

1精管精嚢造影の目的
 精管精嚢造影は,
1)精嚢の形態,病的変化を明らかにすること

排尿時膀胱尿道造影の実際

著者: 星長清隆

ページ範囲:P.61 - P.63

 排尿時膀胱尿道造影(Voiding Cystourethrography;以下VCU)は,下部尿路の非侵襲的検査法としてしばしば用いられ,その有用性は成人のみならず小児例においても広く認められている。本稿ではわれわれが行っているVCUの手技と読影上のポイントを中心に述べさせて頂く。

逆行性尿道造影の実際

著者: 菊池孝治

ページ範囲:P.64 - P.65

 逆行性尿道造影(retrograde urethrography,RUGまたはUG)は泌尿器科領域における造影検査の中でもIVP(intravenous pyelography)に次いで最も頻繁に行われる基本的検査法である。

鎖使用膀胱・尿道造影の実際

著者: 執印太郎

ページ範囲:P.66 - P.67

1 鎖使用膀胱・尿道造影の目的
 鎖使用膀胱・尿道造影(chain cystogram)は女性の腹圧性尿失禁の際に,補助的な画像診断法として用いられる。この検査によって膀胱尿道移行部,特に後部尿道膀胱角(posterior urethrovesical angle, P.U.V.angle)を測定して膀胱及び尿道が,形態上でも腹圧性尿失禁の原因となっているかを確認する。しかしながら腹圧性尿失禁の診断は尿流動態検査(urodynamic study)や尿禁制定量テスト(pad-weighing test)を併用して,総合的に判断を行う必要がある。

ウロダイナミックスの実際

著者: 加藤久美子 ,   村瀬達良 ,   近藤厚生

ページ範囲:P.69 - P.75

 近年高齢化社会の本格化により,蓄尿障害(頻尿,尿失禁),排出障害(排尿困難,尿閉)に悩み受診する人の数は増加し,尿流動態検査の機器がより一般的に設備されるようになった。しかしながら尿流動態検査は通り一遍に行っては得られる情報は乏しく,面倒くさいだけと敬遠することになりかねない。尿流動態学(urodynamics)の書籍は議論が多く1),時に学問的に過ぎるので,本稿は尿流測定,膀胱内圧測定の初心者へのポイントにしぼることにする。

ベッドサイド処理の実際

ベットサイド処置とインフォームド・コンセント

著者: 近田龍一郎

ページ範囲:P.76 - P.77

 インフォームド・コンセント(以下IC)は,医療側の「説明」をする義務と,患者側の医療行為に対し「同意(または拒否)」をする権利,の2つの柱を基本にしている。すなわち,
 説明:患者に疾患や必要と思われる検査,処置,治療法を説明,さらに,医療行為を行わない場合の転帰,医療行為に伴う合併症や副作用について詳細に説明することを原則とする。

膀胱穿刺のテクニック(膀胱瘻造設も含む)

著者: 大島直

ページ範囲:P.78 - P.80

1 膀胱穿刺の目的
 導尿が何らかの障害でできない尿閉時に,腹壁より穿刺し尿を膀胱外に排液させることを目的とする。急性の尿閉や高度の膀胱機能障害で施行する。一時的(temporary)膀胱瘻:急性尿閉時でかつ導尿ができない場合に行う。前立腺肥大症,前立腺癌,尿道狭窄,尿道異物,尿道外傷など緊急の場合が多い。恒久的(parmanent)膀胱瘻:脊椎損傷,神経因性膀胱などで膀胱機能障害が高度で今後自然排尿が期待できない際に行う。

腎穿刺のテクニック(腎瘻造設術)

著者: 長谷川潤

ページ範囲:P.81 - P.84

1 処置の目的
 水腎症に対する尿流確保のための緊急処置として行うことも多いが,上部尿路に対する順行性造影,上部尿路への薬物注入,経皮的腎切石術などの内視鏡手術におけるルート確保の目的で行うこともある。

尿管ステント逆行性留置・抜去のテクニック

著者: 羽間稔

ページ範囲:P.86 - P.89

 尿管ステントは種々の尿流障害をきたす疾患に対して腎臓から膀胱までの尿流を確保するために19世紀から使われてきた。しかしステントが目的の位置から移動するmigrationと有機物や結晶成分が付着して閉塞するencrustationという大きな問題を抱えていた。1970年代後半になってステントの腎盂側と膀胱側をJあるいはピッグテイル型にしたダブルJ(ダブルピッグテイル)ステントが開発され,ステントの固定という点で大きな進歩がみられた。

陰嚢穿刺のテクニック

著者: 三浦猛

ページ範囲:P.90 - P.91

1 穿刺の目的
 陰嚢穿刺の目的は,陰嚢水腫の確定診断と治療が目的である。しかし陰嚢穿刺だけでは,一時的な陰嚢腫大の改善のみで根治療法でないことをよく説明して行う必要がある。原則的に外来での処置であり,手技による感染及び出血の合併症を極力避ける努力をする必要がある。特に小児の陰嚢水腫と成人の陰嚢水腫とでは,治療法を区別する必要がある。

ESWLの術前・術後管理

著者: 中川裕之助 ,   原徹

ページ範囲:P.92 - P.94

尿路結石症に対するESWL療法は,既に10年以上の歴史を持つが適応,治療効果が使用装置に左右され,そのため治療方針が施設ごとに異なっている。以下に当施設での治療指針を挙げるが,たいせつなことは
 ①適応に関して十分な配慮を行うこと。

洗浄法の実際

著者: 鳶巣賢一

ページ範囲:P.95 - P.97

1 尿道の洗浄
目的
 最も頻回に実施される尿道洗浄は,膀胱全摘出術後の温存尿道に対するものである。尿道を洗浄すると同時に,移行上皮癌が発生していないかどうかを細胞診検査で確認することが目的である。

尿道ブジーのテクニック

著者: 富永登志

ページ範囲:P.98 - P.100

 泌尿器科内視鏡の進歩につれて,尿道狭窄の治療法も若干変化がみられる様になり,内尿道切開刀による狭窄の解除,尿道バルーンダイレーターによる拡張が新しい治療法として施行される様になった。しかし,金属または硬質ゴムによる尿道ブジーが多用されていることに変化はない。
 尿道ブジーは,触覚をたよりに,鈍的に尿道を拡張する操作なので,経験や器用さが要求される手技であり,泌尿器科医の腕のみせ所でもある。

尿管鏡・腎盂鏡のテクニック

著者: 坂本亘 ,   岸本武利

ページ範囲:P.101 - P.105

 下部尿路内に留まっていた泌尿器科内視鏡も,近年のMEの進歩に伴い上部尿路へと適応が拡大された。その操作内容も各種疾患に対する診断や治療に応用され,急速に普及しつつある。もはや上部尿路に対しても,内視鏡なくしては語れないのが現状である。

創傷・褥創の消毒と処置

著者: 田中正利 ,   久保周太

ページ範囲:P.106 - P.108

1 創傷の消毒と処置
1.創傷の種類
 創とは皮膚・粘膜等の開放性損傷であり,傷とは非開放性の組織離断である。創傷には①機械的創傷②物理的創傷③化学的創傷があるがここでは,機械的創傷の消毒と処置について説明する。

自己導尿指導とストーマケア

著者: 井川靖彦

ページ範囲:P.109 - P.111

1 自己導尿指導
 われわれが自己導尿の指導の際に最も重点を置くことは,開始したら決めた時間に必ず導尿することを徹底させることである。そのためには,患者が簡単にいつでもどこででも導尿がし易いように導尿手技の清潔度は厳密に要求しないことが重要である。

ベッドサイドトラブル対処法—こんなサインを見逃すな

発熱

著者: 布施秀樹

ページ範囲:P.113 - P.117

 発熱はそれ自体一症候にすぎないので,発熱を呈した患者を診察するに際しては常にその原因診断を念頭において診察をすすめることが大切なことは論を待たない。診察をするに際して発熱の程度(微熱37.0〜37.9℃,中等度発熱38.0〜38.9℃,高熱39.0℃以上),発熱の持続期間,熱型(稽留熱,弛張熱,間歇熱,波状熱)などは原因疾患の鑑別にある程度役立つ。さらに発熱に随伴する症状や身体的所見,すなわち発疹等の皮膚症状,呼吸器症状,消化器症状,神経症状,尿路系症状,リンパ節腫脹などを見逃ぬよう注意深く,問診,診察するのが肝要である。その場合固定概念に捉われない柔軟な姿勢で診察に臨むことが望ましい。
 表1に発熱の原因となる疾患を列記したが,泌尿器科入院患者においても,まずこれらの疾患を念頭において先入観に捉われず診断を行うことが必要である。ここでは紙面の都合上泌尿器科病棟で発熱原因として比較的遭遇することの多い泌尿器科疾患に限定して述べることとする。

泌尿器科手術術後イレウス

著者: 柳川眞

ページ範囲:P.120 - P.121

 手術後の排ガス不良はわれわれ泌尿器科医にとって頭を悩ます術後合併症のひとつである。特に最近は尿路変更術など腸管を使った手術が増加し,手術翌日の腹部単純X線写真にてガスで拡張した小腸を見て肝を冷やすこともある。その術後イレウスの診断上の問題点は,イレウスが機能的(麻痺性)なものか機械的なものかである。また,術後機能的なイレウスと判断し治療するうえにおいても,他に腹膜炎,腹腔内膿瘍,機械的イレウスなどの他疾患の存在の有無について常に念頭において実施すべきである。

タンポナーデ

著者: 池田龍介

ページ範囲:P.122 - P.124

 心タンポナーデに代表されるようにタンポナーデという病態は浸出液などが管腔臓器の被膜内や管腔内に貯留し臓器そのもの本来の働きが障害される病態をいう。泌尿器科的にタンポナーデといえば膀胱内に多量の凝血塊が貯留し尿閉状態をもたらす膀胱タンポナーデと考えてよい(図1)。本症は血尿の経過中にみられ患者は高度の苦痛を訴える。このため,ベッドサイドでの迅速な処置が要求されることとなる。

尿漏

著者: 大園誠一郎

ページ範囲:P.125 - P.128

 尿漏とは,尿路のいずれかの部分より尿が周囲に漏出した状態であり,その原因として感染,尿の通過障害,外傷,手術(検査)時の損傷,術後合併症(縫合不全),悪性腫瘍の壊死崩壊などが挙げられる。これらのうち,ベッドサイドにおけるトラブルとしてもっとも重要なものは,手術にともなう医原性のものであり,まず泌尿器科手術にともなう尿漏について述べたうえで,その他の尿漏についても言及する。

肺塞栓

著者: 長谷川道彦 ,   藤岡知昭

ページ範囲:P.129 - P.131

 肺塞栓症(pulmonary Embolism)は,院内突然死のうち最も見逃されやすい疾患の一つである。その発生は,米国において年間63万人とされており,本邦でも近年増加傾向にある。本症が発症した場合,その11%は,1時間以内に死亡,また本症による死亡患者の50〜70%は剖検後に初めて肺塞栓と診断されていることより,突然の発生を認めた場合,早期診断,治療が要求される。胸痛,呼吸困難,血痰が古典的三徴とされているが,それ以外にも症状は多彩である。術後呼吸困難が生じた場合,特に深部血栓症の既往を有する症例や危険因子を有する患者では本症を想起する必要があり,肺塞栓を疑った場合,早期に酸素吸入およびヘパリン投与を開始した上で確定診断,血栓溶解療法との段階を踏んだ対処により救命できるものと考える。

静脈炎

著者: 大原裕彦

ページ範囲:P.133 - P.135

 輸液療法は投与経路により末梢静脈から行う場合と中心静脈から行う場合とに大別される。末梢静脈からの輸液法における合併症のうち輸液時静脈炎は最も頻度の高いものである。静脈炎は輸液をうける患者に苦痛を与えるばかりでなく,一度静脈炎を起こすとその静脈の修復は不可能であり臨床上看過ごすことのできない合併症である。ここでは輸液時静脈炎の発生機序,原因,その対処法,予防法について述べることとする。

泌尿器科における腹膜炎

著者: 高本均

ページ範囲:P.136 - P.137

 腹膜炎は泌尿器疾患に由来することは稀である。しかし泌尿器科においても手術後腹膜炎,腹腔内への尿漏出による尿性腹膜炎に遭遇することがあるのでそれらについて述べる。

腸管出血

著者: 那須保友

ページ範囲:P.139 - P.141

 高齢者を対象とすることの多い泌尿器科において,腸管出血は,その対処を誤ると致命的となることがある。未然に防ぐ努力また早期にそのサインに気づくことが肝要ではあるが,通常,いったん起こってしまってからあわてて処置を行うことが多い。そういった症例を振り返ってみれば,未然に防げなくとも,早目に処置できた症例はあり,反省させられることが往々にしてある。本稿では腸管出血,主には術後合併症として生じる吐血,下血に対するわれわれの考え方,対処法を述べたい。

リンパ漏・リンパ嚢腫

著者: 辻祐治

ページ範囲:P.142 - P.143

 リンパ漏lymphorrheaは外科手術などにより損傷を受けたリンパ管からリンパ液が漏れることをいい,それが嚢胞状に貯留した状態がリンパ嚢腫lymphoceleである。リンパ液は腹膜表面から吸収されるため,漏出したリンパ液が腹腔内に流れ込む膀胱全摘術や後腹膜リンパ節郭清術のような経腹膜的手術の後に発生することは少ない。実際には腹膜外的に行われたリンパ節郭清術(多くは根治的前立腺全摘術に先だって行われた骨盤リンパ節郭清術)や腎移植術の後の骨盤腔に発生することがほとんどである。

チューブ自然抜去時の対処法

著者: 戸塚一彦

ページ範囲:P.145 - P.147

1 ドレーン
 ドレーンが皮膚に針糸で確実に固定されていれば,自然に抜けることはほとんどない。しかし,ドレーンを段階的に引き抜くために固定糸を抜き取ると,自然抜去が起こりやすくなる。この場合,術後早期を除けば,比較的しっかりした瘻孔が形成されており,通常,ドレーンの再挿入は容易である。
 瘻孔部の消毒後,キシロカインゼリーを付けた外科用ゾンデを瘻孔に挿入する。瘻孔は多少なりとも屈曲しているので,ゾンデが抵抗なく進む角度を探しながら挿入する必要がある。ゾンデが適切な部位まで挿入されると,ゾンデ周囲から排液を認めることが多い。瘻孔の深さは,1本目と同じ長さの2本目のゾンデを利用すれば容易に知ることができる。2本目のゾンデに瘻孔の深さより1cmほど長いチューブを通しておき,1本目のゾンデを抜いてから2本目のゾンデを再度挿入する(図1)。続いて,このゾンデをガイドにしてチューブを瘻孔内に送り込む。

術前・術後1週間の患者管理

腎摘出術,腎部分切除術

著者: 坪井成美

ページ範囲:P.148 - P.149

 腎摘出術や腎部分切除術においては術前に残腎機能がどのくらいあるかの確認が必要である。24時間クレアチニンクリアランス,レノグラムなどにより腎機能の現状と,代償性肥大が起こればどのくらいまで回復可能かを予測することは術後管理の面でも重要である。残腎機能の低下している患者では,一時的な血液透析療法が必要となる場合も想定し,術後の血圧,輸液管理もより厳重なものが要求される。

腎移植術

著者: 松浦治 ,   大島伸一

ページ範囲:P.151 - P.156

 腎移植の術前管理の重要な点は,適正な透析を十分行っておくこと,合併症があれば,十分に治療を行っておくことである。
 術中・術直後の管理で最も重要な点は,輸液の管理である。

副腎摘出術

著者: 古川利有

ページ範囲:P.157 - P.159

 われわれ泌尿器科医が取り扱う疾患の主なものは原発性アルドステロン症,クッシング症候群,褐色細胞腫,無症候性副腎皮質腺腫,副腎癌などである。これら疾患の術後管理は表1のごとく一般的手術と大差はないが,その難しさは種々のホルモン過剰状態から,術後急激にそのホルモンの欠乏状態になり,その結果様々な変化が急激におこることにある。そこでわれわれは,可能な限り正常に近い状態にした上で手術に臨んでいる。すなわち,原発性アルドステロン症ではスピロノラクトン,K剤の投与で血清K値および血圧の正常化を図り,褐色細胞腫ではα,βブロッカーの投与を行い血圧を正常化し,かつ循環血液量を増加させている。ここでは,原発性アルドステロン症,クッシング症候群,褐色細胞腫について,われわれが愛用している第11肋骨切除による経腰的後腹膜式副腎摘除を行った場合の術前術後の管理について,ベッドサイドの検査,処置など具体的に要点を述べる。

新膀胱形成術

著者: 村石修

ページ範囲:P.160 - P.164

 新膀胱形成術に含まれる腸管の操作には,回腸あるいは結腸の部分的腸管遊離,腸管再建のための腸吻合,遊離腸管の切開(脱管腔化)そして代用膀胱作製のための縫合が含まれる。術後に可能性のある重篤な合併症としては,侵襲が大きな手術に共通する呼吸循環系の合併症と,腸管の切開縫合に関連する遷延性腸管麻痺,イレウス,縫合不全などがある。一般に新膀胱形成術を受ける患者は腸管に疾患が無いことが前提であるため,腸の悪性疾患で腸切除を受ける症例と比較すると術前の全身状態,栄養状態は良好であり腸管の縫合不全の危険は少ない。しかし,術野でかなり長い腸管を切開(脱管腔化)する操作は消化器外科領域では少なく,術野が汚染され易い点は危険因子とも言える。「消化管縫合不全は消化器外科医につきまとう宿命的合併症で,それを皆無にすることは外科医の夢である」という言葉は,腸管を利用する泌尿器科医のものでもある。泌尿器科手術における腸管縫合不全の頻度は低いが,「腸管縫合不全のための死亡例を1例だけ経験した」というような先輩の話を聞いたことがある方は多いと思う。

尿路変向術

著者: 佐々木昌一 ,   林祐太郎 ,   山田泰之

ページ範囲:P.165 - P.169

 尿路変向術は,もっとも泌尿器科らしい手術のひとつである。ひとくちに尿路変向といっても,尿管皮膚瘻術,回腸・結腸導管術のように,失禁型のストマを造設されるものや,コックパウチ,マインツパウチ法のように非失禁型のストマをもつもの,消化管を用いて代用膀胱を作り,尿道に吻合し自排尿可能にするもの,あるいは経皮的腎瘻術のような開腹を必要としない手術まで含め,様々なものがある。本稿は術前術後の患者管理を目的とするので,回腸(結腸)導管術を中心に述べる。

腹圧性尿失禁に対する膀胱頸部挙上術

著者: 横山英二

ページ範囲:P.171 - P.173

 ここで取り上げる膀胱頸部挙上術とは,女性の真性腹圧性尿失禁に対する手術法の中で,経腹的手術(Marshall-Marchetti-Krantz法,Burch法)や経腟的手術(Stamey法,Raz法,Gittes法)のことであり,AMS−800人工尿道括約筋や膀胱拡大術,特殊な場合に行われる膀胱頸部再建術などの腹圧性尿失禁に対する手術については触れない。
 膀胱頸部挙上術を成功させる最大のポイントは 1)適切なf術適応 2)患者とのコミュニケーション(インフォー   ムド・コンセント) 3)手術手技そのもの の3点であり,術前.術後の管理は二義的なものである。しかし,不適切な管理は時にスムースであるべき術後経過を妨げ,不要な合併症を誘発したり入院期間を遷延化させることもあるので,決してなおざりにしてはならない。

骨盤内手術(膀胱全摘除術・前立腺全摘除術)

著者: 藤岡知昭

ページ範囲:P.174 - P.177

 膀胱全摘除術および前立腺全摘除術(恥骨後式)の骨盤内手術において,前立腺尖部の解剖の解明やサントリーニ静脈叢に対するbunching techniqueの導入により,従来,時として困難を極めた恥骨後面および骨盤底よりの止血操作が比較的容易に行われるようになってきている。しかし,未だ多量の出血をきたす症例も少なくなく,精嚢および前立腺はデノビエ筋膜を間にして直腸に接することより術中の剥離操作において直腸損傷の可能性もあり,骨盤内手術は比較的侵襲の大きいものとされている。また,膀胱全摘除術では,何らかの尿路変更術または膀胱再建術を同時に施行することによる手術時間の延長が,腹膜外の手術操作である前立腺全摘除術においては膀胱頸部と尿道の吻合不全および尿道カテーテルの自然抜去の危険性が加わる。よって注意すべき術後合併症は,手術直後では,1)出血および出血性貧血,2)腎不全,3)肺合併症,術後2〜4日目では,1)骨盤内死腔の感染,2)尿路感染症,3)直腸穿孔または修復部の縫合不全,さらに術後5日以降では1)創部感染症,2)リンパ漏および尿漏,3)膀胱尿道縫合不全が加わる。さらに,全時期を通し尿道留置カテーテルの問題,肺塞栓の危険性もある。なお,本稿では,尿路変更術,膀胱再建術について言及しない。

経尿道的内視鏡手術(主にTUR)

著者: 山西友典

ページ範囲:P.179 - P.182

 近年,開腹手術にかわり,より侵襲の少ない手術方法として種々の内視鏡的手術が行われるようになった。そのうち経尿道的に行われている内視鏡的手術を挙げると表1のようになる。これらの経尿道的内視鏡的手術のうち,transurethral resection(TUR)は,内視鏡的手術の代表的なもので,最も多く行われている手術である。TURには,前立腺(または膀胱頸部)を切除するTUR-P(またはTUR-Bn)と,膀胱腫瘍を切除するTUR-Bt)がある。今回はTURを中心に,経尿道的内視鏡的手術の術前・術後1週間の患者管理につき述べる。

腹腔鏡手術

著者: 松田公志 ,   三上修

ページ範囲:P.183 - P.186

 より侵襲の少ない手術を目指して開発された腹腔鏡手術は,気腹,鉗子操作,鏡視下手術など,従来の開腹手術とは異なる点が多い。その術前術後管理では,腹腔内に十分なスペースを得るための術前腸管準備,手術室での適切な患者体位と保護,術後に起こりうる合併症の早期発見と早期離床が大切である。

陰茎プロステーシスまたは人工尿路括約筋の設置手術

著者: 藤野淡人 ,   岡本重禮

ページ範囲:P.187 - P.189

1 術前のポイント
1.インフォームドコンセント
a)当然のことであるが,まず手術の適応,意義,必要条件などにつき説明する。次いで陰茎プロステーシス,ノンインフレータブル(NIPP)主たはインフレータブル(IPP;図1),あるいは人工尿路括約筋(図2)の構造,原理,操作法を説明する。メーカーが分かり易いパンフレットや実物モデルを提供してくれるので,それらを用いるとよい。
b)手術そのものに伴う各種リスクは他の手術と同様である。それに加えて術後合併症,特にプロステーシス感染,穿孔,侵蝕,水腎症や反復性腎盂腎炎(人工括約筋),そして,人工臓器そのものの故障(product failure)などについて説明し,理解を得ておく。

腎盂形成術

著者: 蓮井良浩

ページ範囲:P.190 - P.193

 腎盂形成術は腎盂尿管移行部狭窄による先天性水腎症の患者に施行される。その術式は開放性腎盂形成術と内視鏡的腎盂形成術があり,開放性には腎盂と尿管の連続性を保ったまた形成するY-V plasty法に代表されるnon dismembered法と,腎盂と尿管を離断して形成吻合をするAnderson-Hynes法に代表されるdismembered法がある。
 本稿では,これらの手術を施行するにあたり,術前および術後の患者管理をどうすべきかにつき筆者の主観も含めて述べたい。

VUR防止術

著者: 朴英哲

ページ範囲:P.194 - P.196

 VUR防止術は数多く報告されているが,基本的な手術手技から,開放手術による膀胱尿管新吻合術(Politano-Leadbetter法,Gil-Vernet法)など)と,内視鏡的逆流防止術(Teflon paste注入法,GAX collagen注入法など)に大別できる。われわれは内視鏡的テフロンペースト注入術と,開腹による経膀胱的膀胱尿管新吻合術(Politano-Leadbetter法,Cohen法など)を行っている。術前には患者本人ないし家族に対し,両術式の特長(麻酔法,手術法,術後入院期間,手術成績,術後合併症の可能性)について十分に説明したうえで,いずれの手術法をとるか選択し,合意を得る必要がある。特に内視鏡手術については手術操作が簡単なことや,入院期間が短いといった利点ばかりでなく,
 1)注入物の安全性については厚生省未認可であること,2) 1回の手術によるVUR消失率は約75%で,開放手術の95%に比べて低いこと,3)5年以ヒの長期的成績は確認されていないこと, を含めて説明する必要がある。

小児尿道下裂の尿道形成術

著者: 林祐太郎 ,   小島美保子 ,   佐々木昌一

ページ範囲:P.197 - P.200

 尿道下裂に対する修復術には索切除術と尿道形成術を二段階に分けて行う二期的手術と同時に行う一期的手術がある。いずれにせよ尿道形成の術後の管理に若干の工夫が必要と思われる。
 全身管理は特殊な症例を除けば一般小児手術に準じるが,安静度や抗生剤の投与に注意が必要である。

(付)部位別ドレーン抜去時期,尿道バルーン抜去時期

著者: 藤野淡人 ,   永田幹夫 ,   福井準之助

ページ範囲:P.202 - P.203

 手術部ドレーンあるいは尿道バルーンの抜去時期に適切な時期はあるが,絶対的な時期はない。各泌尿器科医あるいは医局の考え方によってさまざまである。しかし,唯一共通しているべき根拠は安全性であり,特に術後感染症に対する配慮にウエートがおかれる。ここでは,尿路手術に限定して,ドレーンあるいは尿道バルーンの抜去時期を著者らの経験にもとずき示した。
 長期留置を要する症例では,院内感染症の魔の手から逃れるべく,可能であれば早期に退院させ外来で抜去するのも良策である。

Coffee break

北海道はいい(?)

著者: 橋本博

ページ範囲:P.17 - P.17

 今年も雪の季節がやって来ました。「除雪がたいへんなので,今年はあまり降らないでほしい。」と思う私の傍らで,息子は「どんどん降って早くスキーができるようになればいい。」などと親不孝なことを言っております。
 昨シーズンは記録的な大雪で,私の住んでおります旭川ではシーズン通算積雪量が確か9メートルを超えたはずです。ほとんど毎日のように除雪に追われ,おかげで腰痛が再発してしまいました。しかし夏になってこの大雪に感謝することになったのです。

癌告知雑感

著者: 魚住二郎

ページ範囲:P.31 - P.31

 医療現場で癌告知の問題が話題にのぼるようになって久しい。健康な患者は「もし癌だったらはっきり言って下さい」と告知を望み,良心的な医者もまた苦しい言い訳をしながら一時を糊塗するよりも,告知をした方が適切な治療が円滑に行えるという告知のプラス面を十分認識している。しかしながら,行政改革や規制緩和の問題と同様で,総論賛成,各論反対というのが現実である。治癒切除例に癌告知を行うことは比較的気楽な仕事ではあるが,その患者が2〜3年後に再発という確率の小さなくじを引き当てて戻ってきた時の対応は容易ではない。ましてや,手術不能例での告知はまさに死の宣告になってしまう。治癒切除が可能と判断し,手術を渋る患者を説明する意味での告知を行ったものの,術前精査で切除不能の転移巣が見つかった例や,進歩的な考えの若い主治医が積極的に告知を行ったが,その主治医は転勤になりあとには癌に苦しむ患者と嘘のつけない気の弱い後任の主治医が残されてしまった例もある。

新聞記事から思ったこと

著者: 内田睦

ページ範囲:P.35 - P.35

 先日の新聞で,米国が何故日本の真珠湾攻撃を予測できなかったのかについて,CIAの資料で解説してあるのを興味深く読んだ。そのなかに,日本人は集団行動が得意で,個人技術に頼る飛行機の開発・操縦は苦手であるとの認識があり,日本が飛行機で攻撃してくるとは思わなかったとあった。
 現在,医療のなかで使用されている新しい機器には,欧米製品が確かに多い気がする。本稿のなかで紹介している自動穿刺装置もしかりである。しかしながら,元来日本は,半導体超徴細加工技術などの世界を制覇する先端技術を有する国で,各種機器を開発する能力は十分あるはずです。

本当のムンテラ

著者: 原勲

ページ範囲:P.44 - P.44

 最近,医師の不祥事が続いているせいか,世間の医師に対する風当たりが強いような気がするのは私だけであろうか?たとえ一部の人間によって引き起こされたことであれ非難が全体に及ぶのは世の常である。世間が医師に対し技術や知識だけでなくある一定以上の倫理を求めるのは当然のことである。しかし残念ながら現行の法律では医師になるのに倫理観の試験はない。というよりも倫理観自体を客観的に判定できない現在いたしかたないのかも知れない。
 話は変わるが最近インフォームドコンセントに対する関心がたかまっている。先日見たニュースによると患者の医師に対する不満度は過去最高に達しており,その一番の理由として医師が十分納得の行く説明をしてくれないということであった。インフォームドコンセントが重要であることは今更強調することでもない。ただ一つ感じる点は医療訴訟の絡みもあると思うのだが患者さんへの説明が医師の言い訳のようになってはいないかということである。これは特に臨床治験の際に強く感じる。治験の際には必ず患者さんの同意書が必要なのだがこれを読むと「私は自分の意思で治験に参加したのだから後で何かが起こっても文句は言いません」と書かせているような気がしてならない。

BPHと「プラシーボ」効果

著者: 中村薫

ページ範囲:P.60 - P.60

 最近,「こころと治癒力:Healing and Mind」(ビル・モイヤーズ著,小野善邦訳,草思社)を読んだ。「今日の技術社会,とくに都会では,治療の効果を高めるような,医師と患者の関係を重視した医療行為を行う時間もなければ環境もない」という巻頭の言葉の厳しさ,「治癒は心くばりから始まる」という平易な指摘など,ふだんの診療を通じて漠然とは感じている患者との対話の大切さ,あるいは難しさ,そして言葉の持つ力について考えさせられる本である。
 さてこのような本からは,癌の末期患者のQOLの問題などを思い起こしがちであるが,私が読みながら思い当たったことの一つは前立腺肥大症治療のプラシーボ効果である。

迅速かつ正確

著者: 星長清隆

ページ範囲:P.63 - P.63

 脳死下の臓器提供が未だに受け入れられず,しかも年間の献腎移植数が200例を僅かに越えるようなわが国の現状では,欧米諸国では使用されないような.極めて悪条件下で摘出された死体腎でも移植に用いることは少なくない。当施設は脳外科医の理解と協力のもと,過去10年以上にわたって年間10例から18例の心停止ドナーから死体腎の提供が有るという本邦では稀な施設である。ところが御多分に洩れず、当施設でも最近,MRSA院内感染が増加し,MRSAによる気道あるいは尿路感染の頻度が増えつつある。また,多くの脳死患者は既に何らかの脳外科的治療を受けていることもあり,心停止に陥る直前まで,発熱や未梢白血球の上昇,CRPの上昇などが認められることが多く,重症感染症との鑑別が困難であることも少なくない。もし,移植腎と共にMRSAが免疫抑制下にあるレシピエントに持ち込まれた場合,生命予後にも係わる重篤な感染症を引き起こす可能性がある。したがって,腎摘出から移植までの限られた時間内に,術前に喀痰や尿から検出されていたMRSAが,血液,あるいは腎保存液中に存在しないという確証が死体腎移植には必須条件である。ただ,従来からの培養法では,菌の同定までに24時間以上を要し,あまり現実的とは言えない。

時代小説の面白さ

著者: 富永登志

ページ範囲:P.100 - P.100

 私は,書くのは大変苦手なのですが,読書は大好きで,乱読です。昔から,時代小説は好きでしたが,この3〜4年は藤沢周平,白石一郎,津本 陽,隆慶一郎の作品を主に読んでおります。藤沢周平の作品はNHKで三屋清左衛門残日録が,放送されていますので,御存知の方も多いと思います。武士や町人の生き方がいきいき描かれていて,人生の機微に触れる作品が多く,考えさせられる場面が結構あります。柔術の強い獄医の捕物帖などの,ほのぼのとした雰囲気の作品もあります。白石一郎は九州を題材とした作品と,海の時代小説を主に,今まで題材としてとり上げられなかった領域の一連の作品があり,目につく限り読んでおります。最近は古地図を買い込んで主人公の動きを地図上で追って,悦に入ったりしております。津本 陽,隆慶一郎の作品もほとんど読んだつもりです。他の時代小説は上記4氏に比して,おもしろ味に欠ける様に感じ,新しい時代小説の書き手が現われないかなあと思っております。司馬遼太郎を読み直す方がいいのかな?。

どんどん細くなる内視鏡細径から超細径へ

著者: 坂本亘

ページ範囲:P.105 - P.105

 従来の軟性内視鏡の技術では,画像用のファイバーのみで2mm前後の直径があり,内視鏡として構成すると,どうしても直径5mm以上の太さにならざるをえなかった。しかし,近年開発され実用化が進んでいる石英系ガラス画像用ファイバーは,大幅な細径化を実現可能とし,超細径内視鏡への道が大きく開かれた。すでに血管内視鏡として冠状動脈の観察が実用化されている。超細径内視鏡システムは内視鏡,撮影装置,照明光源から構成される。泌尿器科用として市販されているのは,汎用超細径内視鏡(0.75mm,タカイ医科201—T075W)と内視鏡装置(タカイ医科MHL−160/TC−5000A)がある。通常,逆行性に膀胱鏡下にあらかじめ挿入された尿管カテーテルを通しての尿路内の観察や,エコーガイド下に18Gの穿刺針の外筒を通して嚢胞内の観察が可能である。しかし,いかんともしがたいのは,画像が網目状で色調に乏しく鮮明さに欠ける点である。良質な画像に慣れた泌尿器科医にとって,超細径内視鏡の画像は明らかに見劣りがする。この画像の悪さが,泌尿器科領域への超細径内視鏡の普及を妨げている。

親しき仲の遠慮と過ち

著者: 大園誠一郎

ページ範囲:P.128 - P.128

 友人の内科開業医から久し振りの電話を受けた。温厚で人懐っこい性格が幸いしてか,多くの外来患者に囲まれた超多忙の生活を送っているとの由。しばらく旧交を暖める会話の後,彼は1人の患者を一度診て欲しいと切り出した。
 聞くと,その患者は友人の親戚にあたる63歳の男性である。2年来の排尿困難があるとのことで相談を受けたため,前立腺肥大症だと考え,Chlormadinone acetateを投与したらしい。2〜3か月の服用で,排尿困難が消失したため,患者も親戚の医師という気安さから勝手に薬を止めたとのことである。その後は,排尿困難を感じた時だけ受診し,そのつど同一薬剤を投与されていた。また,受診といっても,本人が来ることは少なく,家人が薬だけもらって帰ることが多かったらしい。友人の電話の目的は,手術適応についての判断の依頼であった。

腎摘除術と自己血輸血

著者: 長谷川道彦

ページ範囲:P.131 - P.131

 近年,同種血輸血を回避する手段として自己血輸血の導入が注目されている。しかし悪性腫瘍患者を対象としたその導入は未だ限られたものであり,その原因として,1)悪性腫瘍患者は術前に貧血の状態が多い,2)待機手術といえども可及的速やかに手術を行う必要があり貯血期間に制限がある,3)採血の際,悪性細胞混入の可能性がある等が考えられる。私どもは,腎癌患者は,1)貧血を呈する症例が約20%と少ない,2)その予後に宿主免疫能の関与を受け易い悪性腫瘍である,3)補助療法の主役はBRMである等により,根治的腎摘除を自己血輸血の良い適応と考え手術を予定した腎細胞癌患者32例に自己血輸血を施行した。なお,仮に採血の際に癌細胞が混入したとしても1週間以上冷蔵保存することによりその細胞の生存は不可能と考えた。EPOを使用せず「もどし採血法」により,症例の約80%で600ml以上術前貯血が,その貯血量で約90%の症例が自己血輸血のみの根治的腎摘除術が施行された。よって,自己血輸血を導入することで根治的腎摘除術を予定した全症例の50%以上で同種血輸血の回避が可能であることになる。

石について

著者: 大原裕彦

ページ範囲:P.135 - P.135

 結石症の患者さんの中には疼痛の苦しみから「どうして自分はよりによってこんなやっかいな病気になってしまったのか。」とやり場のない,いかり,やるせなさを抱いておられる方がいると思う。私もその1人であった。
 結石=stone,caluculusについて手もとの医学辞典を開いてみた。組成や形態的なもの泌尿器科的なものを除いても意外に多く,列挙するとstoneの項では,dental-,ear-,fecal-,gall-,lung-,pulp-,tear-,vein-,womb-などがあった。fecal stoneはあまり美しくないがtear stoneはなかなか詩的な感じがする。caluculusでひいてみた。blood-,cardiac-,cerebral-,intestinal-,mammary-,nasal-,ovarian-,pancreatic-,salivary-などである。blood calculusは想像もつかないし,cardiac calculusやcerebral calculusのように何だかぶっそうなものもある。私の石はsalivary calculusであった。

学会スライド作成の今昔(いまむかし)

著者: 那須保友

ページ範囲:P.141 - P.141

 学術発表の良否はその内容で決まるものであり,もちろんスライドの良否によって左右されるべきものではない。しかし,昨今の状況をみるといちがいにもそうとはいえず,スライドの出来栄えも発表に対する評価の対象の一つとなっているようである。
 小生が入局した頃はスライドと言えば白黒スライド,もしくはブルースライドであり,しかも普通は手書き原稿であり,達筆な同僚を羨ましく思ったものである。写植による原稿は高額の費用を要する為めったに用いることがなかった。昭和55年頃,パソコンの登場によりワープロを用いた原稿を使用するようになった。乱筆の小生としてはすぐに飛びついたが,初期の頃はプリンターのドット数が少なく,映写すると文字のアウトラインのデコボコが目立ちワープロに批判的な上司より嫌味を言われたものである。しばらく経つとパソコン全盛時代となり手書きのスライドは消滅した。しかしこれもせいぜい字の大きさ,アンダーラインなどで表現方法に変化を付けるのみで,表現力と言う点で制限があった。ところがこの頃すでに米国ではパソコンを用いたカラースライドが普及していた。Machintosh等を使用したグラフィックソフトを用いてカラースライドを作成していたのである。achintoshが低価格となり一般に普及するにつれて国内の学会でもカラースライドを見かけるようになったのがここ2,3年のことである。

忘れ得ぬ患者

著者: 辻祐治

ページ範囲:P.143 - P.143

 週末の夕刻にTVを観ていると,米国で日本人青年が銃撃され脳死状態に陥っているというニュースが報道された。その名前に記憶があったため調べてみたところ,やはりあの患者に間違いない。父親に腹部を蹴られ,腎外傷として入院してきた10歳の男の子は先天性水腎症であることが分かった。教授に指導してもらい,研修医が終わってすぐの私が腎盂と尿管を縫合させてもらったが,術後の腎盂・尿管吻合部の通過性が悪く,なかなか腎瘻が抜けず大変に苦労した。忘れ得ぬ患者の一人である。まず「あんなに苦労して治療した患者が,なぜこんなことで命を落とさねばならんのか」という怒りと無力感が混じった感情が込み上げてきたが,次に考えたのは「臓器提供となった場合,手術した腎臓も移植出来るだろうか」ということであった。脳死患者からの臓器提供が社会的にも認められるよう切望されるが,そうなればわれわれが困惑させられる機会がまた増えるのであろう。

治療法に関するインフォームド

著者: 大島伸一

ページ範囲:P.156 - P.156

 今時,インフォームド・コンセントって何だ,などと言おうものなら,白い目で見られることは確実であろう。今では,インフォームド・コンセントを得ないで医療を行うことなど出来ないような風潮である。ところで何をインフォームするのか。診断に至るまでの検査については,まあそれ程,どこでも違いはなかろう。病院によっては重装備の診断機器のあるなしによって診断に至るまでの検査内容や手順に違いがでてくるかもしれない。しかし,例外はあるにしても,許容範囲と考えてよかろう。診断については,どの泌尿器科医もそれ程違いはなさそうである。さて,治療である。ある疾患に対する治療はそれぞれの施設ではどのように行われているのだろうか。どの泌尿器科医に聞いても,そこそこ同じ答えが返ってくるのだろうか。膀胱炎のようなものから,前立腺肥大症,難しいものでは進行した膀胱癌や前立腺癌のようなものまで,だいたい同じような治療が,同じ疾患をもった患者になされていると考えて良いのだろうか。実は私は大いに疑問を持っている。どの様な疾患に対しても,その時代における最良の治療があるはずだ。技術や薬は常に進歩するからすでに確立されたかのようにみえた治療法が,さらに良いものに変わることがある。

八方美人とストレス

著者: 村石修

ページ範囲:P.164 - P.164

 先日,約100Kmほど離れた病院へ診療の応援に行く途中で朝の交通渋滞に巻き込まれてしまい何気なくラジオのスイッチを入れると諸外国の話題のような番組を放送中で,イギリスで行われた癌予防の研究の話をしていました。
 精神科医が,比較的精神的ストレスが強いと思われる集団に対してストレスを軽減する精神療法を長期間行ったところ,その集団の癌発生率が著しく低下し50%以上の人で癌発生予防に効果があると判定された,と言うような内容だったと思います。ここまでは聞き流していたので数字などは正確でありません。私が,「おや?」と思い聞き耳を立てたのは,その研究で対象とされた人々のことでした。

尿路変向とQOL

著者: 佐々木昌一

ページ範囲:P.169 - P.169

 最近,患者のQOLを考慮し,膀胱全摘後には回腸や結腸を用いた代用膀胱を作成することが多くなってきた。たしかにストマを持つことに比べれば,多少排尿が上手く行かなくても,導尿が必要になろうとも,自排尿可能な代用膀胱の方が喜ばれるに決まっているが…。
 ゴルフ仲間のA氏とB氏,仲良く膀胱癌になって膀胱全摘術をうけた。A氏は回腸を用いた代用膀胱造設術を,別の病院でB氏は回腸導管による尿路変向術を施行された。2人とも元気になってまた一緒にゴルフを楽しめるようになった。はじめのうち,みんなとお風呂に入れないB氏は,A氏のことを羨ましく思った。しかしA氏は時々ゴルフ中に尿失禁をきたし,気になってなかなかスコアがまとまらない。また排尿時間が長く,ときにCICを行わなくてはならないため,パーティの仲間をティーグランドで待たせたり,キャディーさんにせかされたりして,昔のようにゴルフを楽しめない。A氏は手術の前に主治医から聞いた「ストマをもつ回腸導管より,自排尿可能な代用膀胱のほうが日常生活でずっと便利ですよ。」という言葉を信じたことが間違いだったと考えるようになり,B氏のことを羨んだ。

"たかが尿失禁,されど尿失禁"

著者: 横山英二

ページ範囲:P.173 - P.173

 私は昭和60年頃までは,女性の腹圧性尿失禁に興味はなかった。時にはMMK法も行ったが,多くは"いんちきKegel法"を簡単に説明しただけでお茶を濁していた。その後,高名なN大学のK先生,別のK先生,C協会のN女史たちに触発されて,尿失禁全般,特に腹圧性尿失禁に取り組むようになった。K-K先生にはStamey法も教えて戴いた。また多くの患者さんからもたくさんのことを学んだ。
 "尿失禁は結局,心(精神)の問題に帰結する"ということもそのうちの1つであった。相手は神経障害でも,結石でも,癌でもない。ただ膀胱頸部が数cm下がっただけのたかが尿失禁である。しかし,彼女たちの悩みは大きい。たとえ,3人に1人は自分も同じと知らされても,「あーよかった」とはならない。困るから,不便だから,不愉快だから,そして恥ずかしいからである。尿失禁のために自殺を企てた数人にも出会った。幸い死ねずに(?)来院したが,人によってはQOLなどという言葉では計り知れない深刻な問題なのである。

deep venous plexusのbunching

著者: 藤岡知昭

ページ範囲:P.177 - P.177

 骨盤内手術において,恥骨後面すなわちdeep venous plexusの的確な止血操作は,術中出血量を左右するとともに前立腺尖部および尿道を明瞭に露出するために重要であり,種々の特殊な鉗子や陰茎根部の結紮,恥骨切除を初めとする術式が考案されている。これらの中で,1988年,Myersにより提唱されたdeep venous plexusのbunching techniqueは特記すべきart of Urologyである。この術式の要点は以下のごとくである。下腹部正中切開後,レチウス腔を十分展開する。両側内骨盤筋膜をハの字状に切開,肛門挙筋を鈍的に骨盤壁に向かい押しやることにより前立腺側面を明瞭とする。恥骨前立腺靱帯をできるだけ恥骨より鋭的に切断し,deep venous plexusの処理に移る。前立腺前面は薄い筋膜およびvenous plexusに覆われているので,この筋膜をbunching(集束結紮)することにより前立腺前面および側面が明瞭に露出されることになる。このbunching techniqueの特徴は,1)bunchingを針糸により施行する,2)初めに膀胱頸部で三角形をしたvenous plexusを中央に寄せる様にbunchingし,これが完成した時点で前立腺尖部でのbunchingを施行する。

前立腺肥大症とQuality of Life

著者: 山西友典

ページ範囲:P.182 - P.182

 近年,良性,悪性疾患をとわず,治療において患者さんのQuality of Life(QOL)が重視されるようになった。筆者も医師は疾患を治す者ではなく,患者を治すべき者であるという立場から,この考えに大賛成である。
 従来の前立腺肥大症の治療方針の考え方としては,排尿症状を刺激症状(頻尿,夜間頻尿,尿意切迫,尿失禁)と閉塞症状(排尿開始遅延,排尿時間延長,尿線細小,間欠的排尿)にわけ,他覚的に尿流測定および残尿測定の結果を合わせて重症度を決定し,手術適応を決めていた。しかし,排尿症状がどの項目も他覚所見と相関するものはなく,いったいどの症状が患者さんのQOLにもっとも関わっているのかはっきりしなかった。

再び泌尿器腹腔鏡手術について思うこと

著者: 松田公志

ページ範囲:P.186 - P.186

 骨盤リンパ節郭清術で華々しく開幕した泌尿器腹腔鏡手術は,いま,少し曲がり角にきているように感じる。静脈瘤,腎摘,副腎などさまざまな術式が開発されたが,従来の開放手術と比べて真の意味でminimally invasive surgeryと言えるかどうか,必ずしも明らかではない。St.Louisで開催された第12回世界Endourology・ESWL学会において会長のClayman教授は,手術時間,Cost,合併症などをすべて含めて考慮すれば,開放手術に対して‘Clear Winner’といえるのは,現時点では,触知不能精巣の診断とリンパ嚢腫開放術の2つにすぎないと述べていた。わが国では副腎摘除術もwinnerの有望な候補と考える人が多いが,手術時間がいまだ開放手術より長く,術式の普及状態からみても,clear winnerにはなりきれていないようである。腹腔鏡手術が泌尿器科手術をより大きくかえるimpactを持つためには,例えば腎癌など,より頻度の高い疾患に対して,現在よりはるかに容易な手術手技が開発される必要があろう。

禁煙の嵐

著者: 蓮井良浩

ページ範囲:P.193 - P.193

 タバコはアルコールとともに二大嗜好品のひとつですが,アルコールに対しては日本人は寛大に受け入れるようです。しかし,タバコは"百害あって一利なし"といわれ,さらに喫煙者が自ら吸い込む煙を主流煙,火のついたタバコから出る煙を副流煙と言い,副流煙の方により多くの有害物質が含まれていて,そのため周囲の人々への害が取り沙汰されています。また喫煙の方法も二つに分かれ,タバコの煙を肺の奥まで吸い込むのが肺喫煙で,口の中だけですぐ煙を出すのが口腔喫煙と言い,口腔喫煙の方が周囲に害を多く与えるようです。私の勤務する泌尿器科は7階にあり,耳鼻科および皮膚科も同じ階にあるのですが,教授会での話し合いで,まず外来での喫煙所が廃止され,次いで今年になって入院患者用の喫煙所も廃止されました。病院内の喫煙所は4か所あり,ここで全科の外来および入院患者達が喫煙するため,ラッシュになります。このことで入院患者より不平不満が,病棟医長である私にぶつけられますが,私は教授の教えに従い,「この際に禁煙されてはいかがですか」と,ヤニ臭い息を吐きながら勧めています。私にとって一番の禁煙に関する問題は,医局の宴会は一次会が禁煙であることです。教授が4年前より禁煙したため,喫煙者に対する風当たりは相当のものがあり,上記の結果となっております。

昨日の患者

ガーゼ遺残?

著者: 山下俊郎

ページ範囲:P.53 - P.53

 大学病院の当直をしていたある日,中年の男性が搬送された。かなり遠方からの出稼ぎの方で,建設現場で作業中に,建設資材が外陰部に当たったという。両陰嚢は小児頭大に真っ赤に腫れ上がっていた。緊急手術を行ったところ,幸いに睾丸は正常であったが,陰嚢の皮下血管から出血したらしく,大量の凝血塊を認めた。止血およびドレナージ手術で事なきを得,患者さんも感謝して退院して行かれた。
 それから5年後,たまたま小生の外来にその方が再診された。また出稼ぎにきておられ,元気に働いているが,最近陰嚢内の有痛性の腫瘤を触れるという。以前事故で世話になったことを思い出して,来院されたという。拝見すると,確かに陰嚢ほぼ中央に鶏卵大の腫瘤がある。この時真っ先に頭に浮かんだのは,5年前の緊急手術の際のガーゼ遺残である。大量の凝血塊を排出し,皮下の出血点を止血した手術であったので,ガーゼ遺残は大いにあり得る。陰嚢手術に用いるガーゼにはX線非透過性のマークは入れていなかったので,X線検査をしても仕方がない。早速,手術を行った。出て来たものは何と,白色の充実性の腫瘤であり,周囲に浸潤しており,きれいに摘出できる代物ではなく,生検に終わった。病理組織診断は移行上皮癌。早速超音波検査を行ったところ,左腎盂内に大きな腫瘤を認め,後腹膜のリンパ節も累々としており,進行腎盂癌と判明した。患者さんに聞くと,そういえば最近尿の色がおかしかったとのこと。その後,希望により郷里の病院に転院されたが,暫くして亡くなられた。

透析患者の血尿

著者: 池田龍介

ページ範囲:P.124 - P.124

 最近,透析歴3年の男性が慢性前立腺炎,慢性膀胱炎として紹介入院となった。1日尿量は100ml以下であるが廃用性萎縮膀胱により1回排尿量10ml前後で頻尿の状態であった。さらに,必ず排尿ごとに尿道痛を訴え1日1〜2回ボルタレン坐薬(50mg)を必要としていた。当科入院後,外来にて仙骨麻酔下に膀胱鏡検査および膀胱粘膜生検を施行し,出血のないことを十分に確認し検査を終了した。
 検査施行の翌日より血尿と排尿痛,頻尿が高度となり膀胱タンポナーデを疑いベッドサイドにてロブネルカテーテルによる膀胱洗浄を施行するも数回の洗浄にて血尿は消失し洗浄も抵抗なく可能であった。その後,透析時に尿意切迫,排尿痛あり膀胱洗浄を行うもスムーズに洗浄可能で少量の血塊がみられるのみであった。

ヒステリー性対麻痺

著者: 戸塚一彦

ページ範囲:P.147 - P.147

 4年前のことですが,中学生の頃から車椅子で生活している20代の女性が,尿路変更を勧められて当院を受診しました。紹介状によれば,脊髄損傷,慢性関節リウマチの診断で半年前に尿道留置カテーテルの管理を依頼されたが,高度な肥満のため間歇的自己導尿は困難であり,頻回に腎盂腎炎を起こすので,尿路変更の適応があるのではないかとのことでした。
 この女性は,もちろん身障者手帳を交付されていますが,母親が死去してからは父親,妹とは付合いがなく,一人暮らしのためか尿路変更には積極的でした。回腸導管を造設しましたが,術後にてんかん発作が頻発したため神経学的な精査を依頼したところ,ヒステリー性対麻痺であることが判明しました。

性機能,妊孕力が回復した2症例

著者: 藤野淡人

ページ範囲:P.189 - P.189

 人工尿路括約筋の設置患者には若年者も含まれるわけであり,その場合,性機能あるいは妊孕力が問題となる。特にカフを尿道に設置した場合,性交そして射精が可能なものなのか,誰もがいだく疑問であろう。この疑問に見事に答えてくれた2症例を紹介する。
 1例は16歳時に交通事故で脊髄損傷,神経因性膀胱,溢流性尿失禁などを来たし,18歳時に尿道球部にAMS800を設置した。間欠的自己導尿は要するが,尿の禁制は保たれた(Gerontology6:171-177,1994)。

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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