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雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科50巻13号

1996年12月発行

雑誌目次

特集 排尿障害を診る—検査と治療

排尿障害と疾患

著者: 森田隆

ページ範囲:P.993 - P.1000

 急速な高齢化社会の進行に伴い,quality of life(QOL)を保つことを目指した医療が叫ばれるなか,排尿障害の治療に課せられる重みが増している。しかし,排尿障害は老人特有の病態ではなく,幼児の夜間遺尿症など様々な疾患によって様々な年齢層で発生する。排尿障害は加齢によっても増加し,例えば更年期の女性の多くは頻尿を訴える。本稿では,加齢による排尿障害も含めて様々な疾患における排尿障害の症状について概説した。

排尿障害患者の診察と診断

著者: 福井準之助

ページ範囲:P.1003 - P.1009

 排尿障害を蓄尿障害と排出障害に分け,検査の侵襲度から第1選択肢と第2選択肢とに分けた。病歴聴取では排尿日誌と前立腺症状スコア,身体所見では膣内診と直腸診の重要性を強調した。蓄尿障害検査では失禁ストレス検査,失禁パッドテスト,Bonney test,Q-tip test,種々の尿流動態検査,鎖尿道膀胱造影,排出障害検査では前立腺特異抗原,超音波検査,各種尿流動態検査,各種画像検査などの選択法について検討した。

内科的排尿障害—特に高齢者の問題を中心として

著者: 遠藤英俊 ,   下方弘史 ,   安藤富士子 ,   井口昭久

ページ範囲:P.1011 - P.1014

 高齢者の排尿障害は尿失禁,尿閉,頻尿などのほか,種々の加齢による病態が作用している。ADL障害による排尿障害,排便障害による失禁,薬物による排尿障害,脳血管障害による失禁,老人性痴呆による失禁などである。痴呆性には大きく分けて脳血管性痴呆とアルツハイマー型痴呆があるが,近年,後者の比率が大である。痴呆による尿失禁は主に知能低下や見当識障害からくる機能性尿失禁である。一部の周辺症状は脳代謝改善剤,脳循環改善剤が有効であることがある。また,高齢者の排尿障害において在宅医療も重要なテーマである。

膀胱・尿道疾患と排尿障害

著者: 宮田昌伸

ページ範囲:P.1017 - P.1022

 膀胱・尿道疾患は泌尿器科臨床においてきわめて一般的で多彩であり,またその多くが排尿の症状を有している。排尿障害には大きく分けて蓄尿の障害と排出の障害があり,時には両者が混在する。排尿の症状と原因となる疾患の性質にはある程度の関係がある。神経因性膀胱は神経疾患の部分症状ではあるが,泌尿器科的には重要な下部尿路疾患である。これら膀胱・尿道疾患と排尿障害の症状との関係を中心に解説した。

前立腺肥大症の診断と治療

著者: 石郷岡学 ,   中田瑛浩

ページ範囲:P.1025 - P.1032

 前立腺肥大症患者の評価は,国際前立腺症候スコアの一般化,内圧尿流検査の普及とともに多角的に評価し得るものとなってきたが,反面これらの評価基準と従来の検査所見との間に,直接の相関はないことも明らかとなっている。また,内服療法,手術療法などにも近年新しい展開がある。本稿では,主として組織学的見地からの内服治療に関する考察を中心として,本疾患の管理,治療について概説する。

女性の排尿障害

著者: 吉川羊子 ,   後藤百万 ,   近藤厚哉

ページ範囲:P.1035 - P.1040

 女性においても排尿困難,残尿,尿閉は稀な病態ではないが,しばしば患者自身が自覚せず診断の遅れる症例も少なくない。泌尿器科一般の理学的検査,画像検査でも排出障害の存在を示唆する情報を得ることができるため,常に念頭に置くべき病態である。排出障害を疑えば,積極的に尿流動態検査を行う。治療は,症状の軽減とともに残尿の減少,合併症の予防を目的として行われる。残尿の増加を伴う高度の排尿障害に対しては間欠導尿が有用であるが,正しく適切に行えているかを定期的に評価することが重要である。カテーテル,尿器,導尿場所の整備は今後の解決課題である。女性の排尿困難については,明らかな基礎疾患のないものなど病態の不明な症例も多く,今後の検討が必要である。

手術手技 日帰り手術・12

尿道脱の手術

著者: 井口正典

ページ範囲:P.1043 - P.1045

 尿道脱は尿道カルンケルほど頻度の高い疾患ではないが,20歳以下や閉経後の女性にみられることが多い。手術適応になる高度の尿道脱はさらに少なく,そのためか尿道脱の術式を紹介した成書は非常に少ない。本稿では,筆者が行っている高度の尿道脱に対する分割法による環状切開法を紹介するが,原則的には尿道脱根治手術は入院下に行う手術であると考えている。

原著

自動縫合器を用いる膀胱・前立腺摘除術

著者: 村石修 ,   山下俊郎 ,   西澤秀治

ページ範囲:P.1047 - P.1053

 膀胱全摘除術および前立腺全摘除術における膀胱ならびに前立腺摘除過程での自動縫合器利用を試みた。男性37症例のサントリーニ静脈叢処理にMultifire Endo TAを使用したところ,短時間にほぼ完壁な止血処理が可能であった。このうちの18症例では,膀胱側方靱帯と前立腺側方靱帯の止血・切離もMultifire Endo GlAを用いて行ったところ,短時間に出血を認めない側方靱帯の処理が可能であった。女性症例の膀胱全摘除術では膣壁と膀胱側方靱帯の切離に自動縫合器を使用した。
 自動縫合器利用による膀胱・前立腺摘除術は,従来にない泌尿器科開放手術手技の1つになり得ると考える。

症例

表面コイルMRIによる診断が有用であった尿膜管膿瘍

著者: 松田久雄 ,   永野哲郎 ,   門脇照雄 ,   宮崎隆夫 ,   大西卓也

ページ範囲:P.1057 - P.1060

 患者は44歳,女性。1995年6月初めより下腹部痛が出現した。腹部超音波検査にて臍下正中部の腹直筋と腹膜との間に最大径1.7cmの低輝度の腫瘤を認め,膀胱頂部付近まで連続していた。表面コイルMRIを使用したMRI像では,腹直筋直下の腹膜外に縦走する腫瘤陰影を認め,T1強調画像で筋肉とほぼ同じ信号強度を呈し,上方で一部腫脹していた。同部のT2強調像では膿瘍部分は高輝度を呈していた。

ヒト絨毛性ゴナドトロピン産生膀胱癌の1例

著者: 町野倫太郎 ,   三橋公美 ,   鈴木信 ,   飛岡弘敏 ,   服部淳夫

ページ範囲:P.1061 - P.1064

 患者は39歳,女性。主訴は肉眼的血尿で,8年前に膣絨毛癌の既往があった。膀胱鏡にて左側壁に腫瘍を認め,血清HCG291mIU/ml,血清β-HCG4.2ng/mlと高値であった。経尿道的腫瘍生検にてTCC>SCC,G3を認め,免疫組織化学染色にてHCG陽性の腫瘍細胞が認められた。遠隔転移は認められず,1996年3月14日に前方骨盤内臓器全摘術およびマインツパウチ造設術を施行した。病理組織はTCC>SCC,G3,pT3b,pN0で,膣および子宮に腫瘍性病変を認めなかった。術後化学療法としてMVAC療法3コース施行した。治療の過程とともに血清HCGおよびβ-HCGは低下したが正常域までには至らず,その後強化MEC療法を施行中である。本症例は本邦16例目のヒト絨毛性ゴナドトロピン(HCG)産生膀胱癌であり,膣絨毛癌再発との鑑別には免疫組織化学染色が,治療効果の判定には血清HCGおよびβ-HCG測定が有用であった。

後腹膜脂肪腫の1例

著者: 小島祥敬 ,   田中創始 ,   渡辺泰江 ,   安井孝周 ,   安積秀和 ,   安藤裕

ページ範囲:P.1065 - P.1067

 症例は68歳,男性。近医で尿潜血陽性を指摘され当科を受診した。腹部触診上,右側腹部に表面平滑な大きな可動性腫瘤を触知した。超音波検査,CT,MRIで右後腹膜脂肪肉腫を疑い,後腹膜腫瘍摘出術を施行した。大きさは24×12×8cm,重量は1,180gで,病理組織診断は脂肪腫であった。

小さな工夫

包茎手術—縫合しない背面切開術

著者: 宮川征男 ,   池田哲大

ページ範囲:P.1069 - P.1069

 小児包茎手術としての背面切開術は,手術がきわめて簡単という大きな長所があるにもかかわらず,術後の外観が受け入れ難いという理由で中止されている場合も多い1)。かといって,直ちに環状切開術を選択すればよいという訳にはいかない。なぜなら,一般的に小児は仮性包茎の状態であり,亀頭の露出しているものは少なく,環状切除術後の外観は一般小児とは異なるからである。やはり,術後の外観が一般小児の陰茎に近い仮性包茎となることが大切であり,これを目指した手術法の報告が続いている。
 筆者らが数年来行っている背面切開術はきわめて簡単で,手術後の外観もいわゆる仮性包茎で,十分満足のいくものである。術式のポイントは,(1)包皮の切開は外板を短く(3〜4mm),内板を長くする(8〜10mm),(2)縫合しない,の2点である。

泌尿器科の先達を訪ねて・7

川井 博先生

著者: 小川秋實 ,   川井博

ページ範囲:P.1071 - P.1074

 ── きょうは本当にお忙しいなかお出でいただきまして,誠にありがとうございます。先生に,日本の泌尿器科の先達としていろいろとお話を伺いたいと思います。

交見室

ベリニ管癌の診断について,他

著者: 魚住二郎

ページ範囲:P.1076 - P.1077

 筆者の施設では,最近,ベリニ管癌と思われる症例を2例経験した1)。1例は下大静脈に腫瘍塞栓を有した症例,もう1例は上行結腸に浸潤した症例で,2例とも浸潤傾向の強い増殖様式を呈した症例であった。この2例は,いずれも組織学的には乳頭状の発育を示し.免疫染色によりPNA(peanut agglutinin),DBA(dolichos biflorus aggltitinin),SBA(soybean agglu-tinin)などの遠位尿細管系のマーカーが陽性を示したことなどからベリニ管癌と診断した。しかしながら,ベリニ管癌の診断にあたっては絶対的な診断の決め手がないことから,いつも頭を悩まされる。その点から,本誌50巻10号の「腎外傷を契機に発見されたベリニ管癌の1例」を興味深く読ませていただいた。
 最近は,ベリニ管癌の症例報告を目にする機会が増えてきたような印象がある。これは,ベリニ管癌自体が増えてきたわけではなく,ベリニ管癌を意識した病理診断がなされるようになったからであろう。現在のベリニ管癌の定義には,「遠位尿細管が腎盂に開口する部分のいわゆるベリニ管から発生する癌」という狭義のものから,「遠位尿細管ないし集合管から発生する癌」という広義のものまで解釈に幅がある。また診断根拠に関しても,周辺の正常腎組織も含めての形態学的な診断だけではなく,各種のレクチンを用いた免疫組織学的な検索を加味した診断2)が提唱されているが,確立された診断法がないのが現状である。

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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