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交見室
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日米通商交渉や学会の討論などでは丁丁発止の渡り合いをするアメリカ人も日常の付き合いの中で間違いを鋭く指摘することは少ないようである。それは彼らの(とくにアングロサクソン系の人たちの)生活の知恵のような気もする。何十年も昔のことになるが,アメリカでの留学生活の初めの頃,読み書きはとも角,英会話に自信のなかった私は少し親しくなると,医者仲問にもその他の人たちにも私の英語の間違いを遠慮なく直して欲しいと頼んだものである。それでも"Your English is very good."などと言って仲々本音を教えてくれない。ところがただ一度だけはっきりと誤りを指摘されたことがあった。それは私が"その疾患はpopularである。"と言った時であった。"Renaltuberculosis was popular in Japan."とか言った時でなかったかと思う。友人のドクターはこの時ばかりははっきりと私の間違いを指摘して日く"Popularという言葉はpopular songとかpopular writerなどと言うように,人々から歓迎されるもの,人気のあるもの,好ましいものを言う場合に使われる単語であって,病気のように忌み嫌われるもの,不人気なものにpopu-larは決して使われないのだ。
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