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雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科50巻7号

1996年06月発行

雑誌目次

特集 男性不妊症

精子形成と遺伝子

著者: 松宮清美 ,   北村雅哉 ,   並木幹夫 ,   奥山明彦

ページ範囲:P.454 - P.458

 男性不妊症に対する分子生物学的研究について,当科で行ってきたことを中心に述べた。精子形成にかかわる精巣特異発現遺伝子の追究と機能解析,Y染色体上に存在するAzoospermia Factor(AZF)の追究,男性不妊症患者での精子上のMembrane CofactorProtein(CD46;MCP)の発現,新しいホルモン受容体の関与の可能性について,その概略を解説した。

精子形成と自己免疫

著者: 田中啓幹 ,   徳永葉

ページ範囲:P.459 - P.463

 男性不妊症の約90%は精子形成障害であり,そのうち特発性障害が約60%を占め,病因のひとつに自己免疫の関与があげられている。解剖学的に精細管は血液—精巣関門が形成されており,思春期になって形成される精細胞は隔絶抗原の代表であり,実験動物モデルでも実験的自己免疫性精巣炎(EAO)として知られる。近年,サイトカインを始めとして種々の精巣内免疫調節因子が発見され,精巣の免疫調節機構も徐々に解明されつつある。

精子形成障害の評価法

著者: 伊藤直樹

ページ範囲:P.464 - P.470

 男子不妊症例に対して精巣生検を行い精子形成障害を評価する適応は,risk and benefitを考慮すると閉塞性無精子症例に限定されるのが現状である。方法としては後期精子細胞を定量的に評価する。精子形成が正常と考えられるのは1精細管あたりの後期精子細胞数が20個,対Sertoli細胞比で1.7〜2.0程度がひとつの目安となる。また精巣容積,血中卵胞刺激ホルモン値も精子形成障害を予測する上である程度の情報を与えてくれる。

精索静脈瘤の診断と治療

著者: 奥野博 ,   七里泰正 ,   吉田修

ページ範囲:P.471 - P.477

 精索静脈瘤の診断は,逆行性静脈造影が最も適切な"gold standard"診断法と考えられているが,一般には視診・触診にて診断されているのが現状である。しかし近年超音波カラードプラ法などによる客観的かつ非侵襲的な診断法が開発され,subclinical var-icoceleの診断を含め精索静脈瘤の診断に関しては今後再検討が必要であると考えられる。精索静脈瘤の治療では従来後腹膜到達法による内精索静脈高位結紮術が広く行われてきたが,近年,より侵襲の少ない治療法として,顕微鏡下低位結紮術,経皮的塞栓術,腹腔鏡下手術が開発されてきている。患者背景から,早期の社会復帰が可能で再発率の少ない手術術式の選択が求められる。

閉塞性無精子症

著者: 松田公志 ,   日浦義仁

ページ範囲:P.479 - P.484

 閉塞性無精子症は,射精管,精管,精巣上体の閉塞により生じるが,その診断,すなわち閉塞部位の鑑別診断には,精液量,精漿中フルクトース量既往歴,経直腸的超音波断層法などが有用であり,精管精嚢造影の意義は減少している。閉塞性無精子症の治療には,経尿道的射精管開放術,顕微鏡下精路吻合術が行われ,良好な手術成績を得ている。体外受精,顕微授精との適切な連携により,閉塞性無精子症患者の治療成績の向上が期待される。

精巣内精子の臨床応用

著者: 山本雅憲 ,   日比初紀 ,   浅田義正 ,   菅沼信彦 ,   友田豊

ページ範囲:P.485 - P.489

 従来,人の精巣内精子は未熟であり,運動能力も授精能力もないと考えられてきた。しかし,体外受精を中心とした生殖操作技術の進歩により,直接,卵細胞内へ精子を顕微鏡下に注入する,いわゆるICSI(Intra Cytoplasmic Sperm Injection)法により,Schoysmanらが,精巣から抽出した精子による同法で妊娠に成功して以来,精巣内精子による出産例は,世界で相次いで報告されており,新治療法として注目されている。

男性不妊のAssited Reproduction Technology

著者: 兼子智

ページ範囲:P.490 - P.496

 男性不妊におけるARTとは,1.用手的に得られた精液をAIH,IVF-ETなど各種授精法に適合した状態に調製し,媒精に供すること,2.射精障害,精路閉塞などにおいて人工的に精液(精子)を回収することが挙げられる。今後は運動,先体反応などの精子機能の賦活も重要となってくると考えられる。本稿ではわれわれの行っている方法を中心に男性不妊のARTの現況を紹介したい。

手術手技 日帰り手術・6

包茎環状切開術

著者: 林祐太郎 ,   田貫浩之 ,   最上徹

ページ範囲:P.499 - P.502

 包茎の手術は,泌尿器科医にとってはじめに習得すべき手術のひとつである。切開,剥離,切除 縫合の手技をすべて含む手術であり,包茎の手術手技を習得することは一般の手術の基本手技の勉強に大いに役立つと考えられる。背面切開と環状切開とがあるが,たとえ小児であっても環状切開を行うのが望ましいと思われるため,ここではその手技と術後管理について述べる。

セミナー 性感染症—最近の話題・5

全身性のSTD—エイズを中心に

著者: 岡慎一

ページ範囲:P.503 - P.507

 全身性のSTDは,非常に多彩であるが,世界的に最も問題になっているのがHIV感染である。すでに世界的にはSTDとしてのHIV感染者の数は2,000万人を越えているといわれており,現在も増え続けている。本邦での今後の動向には注意を要する。すべてのSTDは,HIV感染症に併発して起こり得るが,全身性のSTDとしては,B型肝炎,赤痢アメーバー性肝膿瘍 カポジ肉腫などがある。

原著

漢方薬による慢性非細菌性前立腺炎の治療

著者: 劉智明

ページ範囲:P.509 - P.512

 抗生剤などによる治療が無効であった慢性非細菌性前立腺炎の患者91例に漢方薬の6種類の基本処方に加え,症例毎に前立腺炎の諸症状に応じて数種類の生薬を適宜追加し,2〜3週間投与した。効果は自覚症状の改善,前立腺触診上の所見,および前立腺圧出液中の白血球数から判定し有効率は82%で,再発率は8%であった。漢方薬は歴史的な経験に裏付けられ,患者の「証」と呼ばれる具体的な情報に応じて処方薬の内容を加減する総合的な治療方法であり,副作用も少なく,通常薬無効の慢性前立腺炎にはきわめて有効である。

症例

小さな腎偶発腫瘍3例に対する腎部分切除術

著者: 住友誠 ,   宮嶋哲 ,   林暁 ,   上野宗久 ,   中島淳 ,   実川正道

ページ範囲:P.513 - P.515

 術前診断が困難であった小さな腎偶発腫瘍3症例に対し腎部分切除術を施行した。病理組織学的には3例とも腎細胞癌であった。術前の血管造影では3症例いずれもが乏血管像を呈していた。
 腎部分切除術は,組織学的診断と治療の両面から,術前診断が困難な小さい腎腫瘍に対する選択のひとつであると考える。

血栓溶解療法を施行した腎動脈塞栓症

著者: 千葉琢哉 ,   石井泰憲 ,   金子昌司 ,   古屋徹 ,   関達夫 ,   松原桃子

ページ範囲:P.516 - P.518

 58歳,男性。発作性心房細動による頻脈発作の翌日,左側腹部激痛が出現。血液検査で乳酸脱水素酵素高値,CTで左腎は造影不良であり,腎動脈塞栓症と診断。発症より22時間後に腎動脈造影を施行し,腎動脈内の血栓を確認し,ウロキナーゼの腎動脈内迅速大量投与および低容量持続動注療法を施行した。24時間の持続動注療法後には血栓は完全に溶解した。治療後のCTでは下極背側の梗塞巣以外にはほぼ正常に造影効果が認められるようになった。

酢酸クロルマジノン投与中止後に骨転移巣が消失した前立腺癌

著者: 勝岡洋治 ,   増田愛一郎 ,   星野英章 ,   刀祢真理子

ページ範囲:P.519 - P.522

 65歳の前立腺癌患者において,ステロイド性抗アンドロゲン剤である酢酸クロルマジノン投与中止後に,PSA値の正常化と骨転移巣の消失をみた。抗アンドロゲン剤除去症候群は非ステロイド性抗アンドロゲン剤にのみに特有な現象ではないことが証明された。全アンドロゲンブロック療法中に再燃がみられた症例には,second lineの治療を開始する前に,まず抗アンドロゲン剤の中止を考慮すべきと思われる。

内尿道口部に発生した尿道平滑筋腫

著者: 安士正裕 ,   鈴木一正 ,   木暮輝明

ページ範囲:P.523 - P.525

 65歳,女性。主訴は尿閉.尿線中絶。外陰部に異常所見なく,膀胱内視鏡検査で,内尿道口右側より膀胱側に向かってポリープ状に発育する球状の腫瘤が認められた。尿道腫瘍と診断し,膀胱高位切開にて腫瘍摘出術を施行した。病理組織学的診断は平滑筋腫であった。

画像診断

副腎腫瘍との鑑別が困難であった副腎血腫

著者: 北村寛 ,   三宅正文 ,   梅原次男

ページ範囲:P.529 - P.531

 症例 63歳男性。
 主訴 特になし。
 既往歴 53歳時脳出血。
 家族歴 特記すべきことなし。
 現病歴 1995年4月,脳出血後遺症のリハビリテーション目的で入院中の病院で行われた腹部単純X線撮影にて,左副腎部の腫瘤を指摘された。触診上腫瘤は触れず,特記すべき症状はなかった。腹部CTにて左副腎腫瘍と診断され,同年5月15日当科に入院となった。
 入院時現症 血液一般,血液生化学,尿検査にて特記すべき異常はなく,副腎皮質および髄質ホルモンは血中,尿中ともすべて正常範囲内の値であった。またACTH-Zテストにおいても正常の反応を示した。
 手術所見 1995年6月6日,左副腎腫瘍の診断にて,経腰的アプローチにて左副腎摘除術を施行した。摘出時の血圧の変動はなく,周囲組織との癒着はなかった。摘出物は320g,80×70×65mmの暗赤色,充実性で,病理診断にて副腎血腫と診断された。過形成部および原因となる血管病変は認められなかった。

病院めぐり

日本赤十字社和歌山医療センター泌尿器科

著者: 岩村博史

ページ範囲:P.537 - P.537

 日本赤十字社和歌山医療センターは全国赤十字病院の中でも歴史が古く,4番目の赤十字病院として明治38年4月に現在の和歌山市役所の位置に設立された。開設当初は内科と外科の50床より開始し,明治43年には現在の小松原に新築移転し,病床数も100床に増床された。戦時中には陸軍病院としての任務を果たしたが,不幸にも昭和20年の和歌山大空襲で焼失した。その後先人たちの努力により復興,発展してゆき、平成7年6月には新病棟の完成とともに病床数も800床から850床に増床され,また国際貢献も評価され,和歌山赤十字病院より日本赤十字社和歌山医療センターと拝命された。
 泌尿器科は昭和21年皮膚泌尿器科として開設され,初代医長には三国友吉先生が就任した。その後昭和48年に皮膚科との独立を契機に部長に昇任,昭和58年まで36年間在任された。後任には京都大学より桐山啻夫先生が着任,泌尿器科の発展に尽力され,平成7年5月に退職された。その後林正副部長が三代目部長として昇格して現在に至っている。スタッフは林部長以下,岩村,前田,中野の三人の医師及び高見研修医の計五人で日常の業務をこなしている(1996年3月現在)。泌尿器科病棟は新病棟のの12階に50床を有しているが常に満床の状態にあり,緊急入院の場合13階の特別室に入院してもらう事もしばしばである。

交見室

インターネットで広がる世界,他

著者: 藤田公生

ページ範囲:P.538 - P.539

 マスメディアを見ていると,インターネットがなければ夜も日も明けない世の中になりましたが,泌尿器科の先生はこの世界を十分に利用しているでしょうか。
 コンピュータに関してごく普通のレベルと考えている私の経験からいいますと,まず第一にオンラインの文献検索が非常に役に立ちました。必要なときに,自分の部屋にいて,ただちに検索結果が分かるというのは,すこし以前までは夢のような話でした。これを無料で利用できるように予算措置してくださった文部省に,私は本当に感謝しています。Current contentsのように標題だけでもよいから,最新号がすぐにこのようなデータベースで利用でき,また日本語の論文に関しても同様なデータベースが出来ることがさらなる夢です。

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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