文献詳細
セミナー 臨床医のための生物統計学抄説・7
分散分析
著者: 樋之津史郎1 大橋靖雄2
所属機関: 1東京大学医学部薬剤疫学教室 2東京大学医学部 健康科学・看護学科疫学・生物統計学教室
ページ範囲:P.541 - P.547
文献概要
外来で患者さんに尿検査の結果を説明しているときに,「尿に糖は混じっていませんか?」と聞かれることが時々ある。「糖尿病」という言葉は,一般に広く知られるようになったが,その文字から「尿に糖が混じること」が疾患の本質であると誤解してなされる質問である。しかしながら,「糖尿病」は糖代謝の異常であり,血中のグルコース濃度によって診断されるのである。そのことを患者さんに説明し,ある程度理解してもらうのには少し時間がかかってしまうのも事実である。
このように,名前と本質が必ずしも一致しないものの1つに統計手法の「分散分析」がある。分散分析は,本質的には平均値の差を分散を用いて解析しているのであって,必ずしも得られたデータの分散そのものを解析しているわけではない。分散の大きさ自身が因子によってどう変わるか分析する方法は,別に「分散成分の解析」と呼ばれている。統計手法の中には,人の名前がついているだけで,その意味するところをまったく想像することができないものもあれば,分散分析のように,一見内容を表わしているかのようにみえて,実は微妙に異なるものもあり,これが統計を近づきにくくしている1つの要因かもしれない。
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