icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科53巻4号

1999年03月発行

雑誌目次

増刊号特集 泌尿器科画像診断

企画・編集にあたって

著者: 郡健二郎

ページ範囲:P.7 - P.7

 毎年,日泌総会の開催に合わせて「臨床泌尿器科」の増刊号が発刊されている。日常診療の主要なテーマを取り上げ,雑誌と参考書の両方の性格をもった内容であるためか,毎年,売れ行きは好調で,また毎月の雑誌とは異なり病棟や外来に長く置かれているとのことである。
 今年は,泌尿器科診療において最も身近で大切な「画像診断」をテーマとした。企画・編集にあたっては,私が長年愛用していたEmmett編の"Urological Urography"を念頭に,次の特徴をもつように心掛けた。

Ⅰ.画像診断の基礎知識

画像診断に必要な解剖発生学

著者: 島博基

ページ範囲:P.9 - P.21

1 はじめに
 画像診断に必要な解剖発生の知識の概念の確立には,解剖発生の正確な知識だけでなく炎症,退行性変性,腫瘍の増殖・転移などについて基本的な医学知識が必要であるが,本章では紙数の関係で主として画像診断に必要な尿路生殖器系の発生と解剖を述べる。

画像診断に必要な腎生理学

著者: 川村寿一

ページ範囲:P.23 - P.30

1 はじめに
 本来,画像診断の目的は対象とする臓器・組織の形態的,機能的変化を把握することにある。腎については,画像診断による機能評価を行うにあたって,腎生理の立場から腎画像の描出のしくみを理解することが求められる。例えば,造影剤を使って腎画像検査を行うときや,数種の異なる性質のラジオアイソトープ(RI)を用いた腎臓核医学検査を行うときに,画像描出に用いる外因性物質の腎内代謝動態を知ることが,得られる画像を理解するうえで大切な要件となってくる。
 以下,日常臨床でよく用いられる腎尿路の造影剤と各種RIでラベルされた腎スキャン剤の腎処理態度(renal handling)について述べる。

画像診断に必要な尿流動態学

著者: 山口脩 ,   橋本樹

ページ範囲:P.32 - P.37

1 はじめに
 近年,画像検査法の進歩はめざましく,その画像も従来の静止イメージに加え動的イメージも登場し,種々の疾患の診断に役立っている。しかし,疾患によっては,その臓器の正常機能や病態生理に関する知識が必要とされる場合がある。このような疾患には,水腎症,前立腺肥大症,神経因性膀胱,腹圧性尿失禁などのように,尿流動態の障害をともなったものが多い。
 本稿では,代表的疾患を例にとり,ウロダイナミクスの立場から機能障害と画像診断の関係を解説した。

造影剤の種類と副作用

著者: 久保田洋子

ページ範囲:P.38 - P.42

1 X線造影剤の種類
 今日,X線診断に使用されている主要な造影剤を図1に示す。本稿では,泌尿器科領域で頻用される水溶性ヨード造影剤につき解説する。
 現在市販されている水溶性ヨード造影剤(以下,造影剤)はすべてベンゼン環の六画のうち3か所にヨード原子を結合させ,残る3か所に側鎖を導入し,トリヨードベンゼンの性質を多様に変化させたものである(図2)。1分子中のヨード含有量を高める目的で,トリヨードベンゼン環を2個連結させたものをダイマーと呼び,1個からなるものをモノマーと呼んでいる(図2)。イオン性造影剤は,ヨード原子以外の一部位に酸基であるカルボキシル基を結合させたもので,アルカリ性溶液中でイオン化して溶解しやすい。非イオン性造影剤はカルボキシル基の替わりに水酸基を多く含む側鎖を結合させ,これらによりイオン化することなく水溶性としたものである。

検査法別にみた適応と禁忌

著者: 那須保友 ,   公文裕巳

ページ範囲:P.43 - P.47

1 はじめに
 医用工学の進歩により種々の診断機器が開発,導入され,泌尿器科画像診断の精度は目覚ましく向上した。
 各検査法の適応を考慮して合理的に検査を進めるためには,まずそれぞれの画像診断法の基本的な原理ならびに特徴をよく理解しておく必要がある(表1)。また個々の症例において画像検査を計画する場合,症状や一般検査の所見に基づいて最も疑わしい病変を想定し,その存在診断,拡がりの診断,正常の診断に合わせて,適切な画像診断の組み合わせを考えなくてはならない。以下に,各検査法の一般的な適応とその禁忌を概説する。

Ⅱ.基本的な検査—手技と診断のポイント

腹部単純撮影

著者: 小川由英 ,   秦野直

ページ範囲:P.49 - P.54

1 はじめに
 尿路疾患の診断にはIVPがなくては語れない時代にわれわれは泌尿器科に入局し,KUBが読めなくては診断できないことが多かった。放射線診断学の著しい進歩のお蔭で,KUB,IVPなど読めなくても放射線科医がCT,MRIなどで診断してくれる時代となってしまった。腹痛で外来へ来るとKUBを撮り,検尿をするのが常識と考えていたが,最近では救急センターにてCTを最初に撮り診断する施設もみかける1)。IVPよりはKUB+超音波検査のほうが多くの情報が得られるとされ,超音波検査に置き換わりつつある2,3)。いかなる症例でもまずはIVPを撮ってから診断が始まる時代とは異なり,造影剤も進歩し,IVPが安全に撮れるようになったが,IVPを撮る症例は減少している。ここで,KUBの価値を現時点で見直してみたい。

静脈性腎盂造影

著者: 五十嵐辰男 ,   伊藤晴夫

ページ範囲:P.55 - P.59

1 はじめに
 静脈性腎盂造影(intravenous pyelography:IVP)は泌尿器科領域で汎用される検査法であり,腎盂,腎杯から膀胱までの尿路全体を描出できる。得られる情報量が多く,比較的低侵襲性なので,各種画像診断法が普及した現在においても有用な方法である。

逆行性腎盂造影

著者: 中原満

ページ範囲:P.60 - P.66

1 はじめに
 RPは逆行性操作による検査のために尿路感染症,カテーテルによる尿路損傷,造影剤の尿路外溢流の危険性を伴うことから適応を慎重に決定し,目的の所見が得られるように注意深く検査する必要がある。禁忌でなければ,RPの前にIVPを施行すべきである。

順行性腎盂造影

著者: 横山雅好 ,   西尾俊治

ページ範囲:P.67 - P.71

1 はじめに
 APは,それ以前から行われていた腎嚢胞穿刺術からの派生技術として,1954年にWickbomによって初めて行われた1)。その後の造影剤の進歩と,CTや他の侵襲の少ない画像診断方法の進歩により,診断方法としてのAPの必要性は少なくなってきている。しかしながら,経皮的な腎内視鏡的手術の適応疾患の拡大とともに,治療的診断方法としてのAPの重要性はむしろ増加してきているといえる2)

膀胱造影

著者: 椎名浩昭 ,   井川幹夫

ページ範囲:P.73 - P.76

1 はじめに
 画像による膀胱の評価には,膀胱腔内に造影剤を注入する(膀胱造影),経腹的あるいは経尿道的超音波検査,IVP,CT,およびMRI検査が一般的に用いられる。一方,膀胱の形態と機能を評価するため膀胱腔内に造影剤を注入した後,排尿を促しウロビデオシステム併用のもとで排尿状態の観察を行う方法や1),同時に膀胱機能検査を行う方法がある。

排尿時膀胱尿道造影

著者: 佐賀祐司 ,   金子茂男

ページ範囲:P.77 - P.81

1 はじめに
 排尿時膀胱尿道造影(voiding cystourethrogra-phy:以下,VCU)は下部尿路の機能的,器質的異常の有無や,膀胱尿管逆流(以下,VUR)の有無を調べる目的で多用されている検査法である。IVPの際に膀胱内に造影剤が貯留していれば,これを利用してVCUを行うことも可能であるが,VURの診断には不向きであるため,本稿では割愛した。

逆行性尿道造影

著者: 斉藤雅人 ,   本郷文弥 ,   中河裕治 ,   温井雅紀 ,   寺崎豊博 ,   今出陽一郎 ,   高田仁 ,   北森伴人 ,   大江宏

ページ範囲:P.83 - P.87

1 はじめに
 逆行性尿道造影(以下,尿道造影)は,名前のとおり尿道の状態を調べるのに適した検査法である。しかし,従来から前立腺疾患の診断法として主要な役割を果たしてきた。筆者が医師になりたての頃(20数年前),前立腺の画像診断と呼べる検査法はなく,尿道造影が前立腺疾患の診断の中心的な検査法であった。その後,経直腸的超音波断層法が渡辺ら1)によって実用化され,前立腺疾患の画像診断としてはじめて前立腺そのものが描出できるようになり,前立腺疾患の診断については次第に尿道造影に取って代わることになった。さらに,CTやMRIといった画像診断も前立腺疾患の診断に加わり,ますます尿道造影の役割は少なくなっている。
 極論すれば,前立腺疾患の診断には尿道造影は不要であるといってもよいと思われる。なぜなら,尿道造影はX線被曝があったり(これは被検者,検者双方とも),被検者に苦痛を与えるにもかかわらず,診断のための情報が少ないからである。ただし,尿道狭窄の診断には,尿道造影は依然としてgold standardである。

精管・精嚢造影

著者: 長谷川徹 ,   田近栄司 ,   近藤宣幸 ,   並木幹夫

ページ範囲:P.88 - P.91

1 はじめに
 精管内に造影剤を注入し,生体における精嚢のX線描出に成功したのは,1913年,Belfieldの報告が最初である1)。この検査の特徴として,尿路系の他のX線撮影に比し,観血的な手技であり,熟練した技術を要することや,健常人にもかなり個人差が認められ,評価が比較的困難であることが挙げられる。また,画像技術の進歩に伴って,適応も変化してきた。しかし,泌尿器科医にとって重要な検査手技であることに変わりはない。

超音波検査

著者: 服部智任 ,   木村剛 ,   秋元成太

ページ範囲:P.93 - P.99

1 はじめに
 超音波検査(US)の歴史は,1942年にDussikによって試みられたのが始まりである。USはわれわれ泌尿器科医にとっても,今や欠かせない検査の1つであることはいうまでもない。しかし,USの特徴をしっかりとつかんでおかなければ,検査そのものに意味がなくなってしまう。ここでは,USの特徴,対象とすべき臓器と疾患,有用性と限界について述べることとする。

核医学検査

著者: 大石幸彦

ページ範囲:P.101 - P.109

1 はじめに
 泌尿器科疾患で利用される核医学検査法には,泌尿・生殖器,炎症,腫瘍,副腎シンチグラフィが行われる。核医学検査は,その非侵襲性に加えて臓器機能の評価が可能で,有用性は高い。

CT検査

著者: 小池博之 ,   藤岡知昭

ページ範囲:P.110 - P.118

1 はじめに
 CTは他の領域と同様に泌尿器科的画像診断においても重要な役割を担っており,特に占拠性病変に対しては,欠くことのできない検査である。そして現在では,KUB,IVP,USなどにより形態的異常が認められれば,当然のように単純CT,造影CTの順で検査が進められる。このように,CTはすでに確立した検査法として広く応用されている。したがって,ここでは単純CTと造影CTについての一般的な検査法や診断のポイントを実際の画像を示して解説する。また,ダイナミックCTは泌尿器科領域では主に腎について施行されており,これについても触れることにする。

MRI検査

著者: 津ケ谷正行 ,   伊藤尊一郎 ,   永田大介 ,   梅本幸裕

ページ範囲:P.119 - P.125

1 はじめに
 MRIの診断上の臓器別有用性が1993年に論議されたとき,極めて有用な部位,非常に有用な部位,有用な部位,有用性が高くない部位の4段階に分類され,診断に極めて有用な部位は脳や脊髄であった。一方,副腎,腎,膀胱,前立腺などの泌尿器科領域ではいずれも3番目の有用な部位に判定された1)。その後,MRウログラフィーの登場やMRアンギオグラフィー(MRA)が腎動脈や骨盤動脈へ応用されるようになったことから,MRIが得意としていない臓器に対しても飛躍的に発展している。
 本稿では,泌尿器科領域におけるMRIの基本的事項について述べる。

血管造影

著者: 中島淳 ,   成松芳明 ,   村井勝

ページ範囲:P.126 - P.133

1 はじめに
 現在行われている経皮カテーテル法はSeldingerが1953年に発表し,それまで行われていた外科的血管露出法やdos Santos法に比べ出血などの危険を減らし,大動脈分枝の選択的造影を可能にした。Seldinger法は一般的に汎用されている手技であるが,安全に施行するためにはその基本手技に熟知せねばならない。

Ⅲ.疾患別画像診断 1.腫瘍 (1)腎腫瘍

腎細胞癌

著者: 平尾佳彦

ページ範囲:P.135 - P.140

1 はじめに
 腎細胞癌は断層画像を中心とした画像診断により,小さい腎細胞癌を中心に新たに診断される症例が増加し,腎細胞癌の治療体系は大きく変貌しつつある。画像診断の発展と普及は,腎細胞癌のように腫瘍マーカーが未だ確立していない深在性の癌腫の診断に大きく貢献している。
 本稿では,腎細胞癌の診断における種々の断層画像診断について最近の知見を中心に記述する。

ウィルムス腫瘍

著者: 金川公夫 ,   谷風三郎

ページ範囲:P.141 - P.143

1 はじめに
 本症は神経芽腫に次いで多い小児固形悪性腹部腫瘍であり,1〜5歳に約80%が認められ,1歳未満の発症は稀である。初発症状のほとんどは腹部腫瘤の触知であり(75〜95%),血尿は25%以下と少ない。初診時に約12%で転移を認め,好発部位は肺,肝,腹部リンパ節である。また,多くの先天性異常を合併することが知られており,頻度の高いものは停留精巣,尿道下裂,半身肥大,無虹彩症などである。散在性無虹彩症の約1/3にウィルムス腫瘍が合併するといわれており,本疾患の患児では注意が必要である。また,Beckwith—Wiedemann syndromeにウィルムス腫瘍を伴うこともある。
 ウィルムス腫瘍の5〜7%が両側性に発生する。石灰化は少なく,5〜9%に認められるのみである。鑑別診断の項で述べるclear cell sarcoma of the kidney(以下,CCSK),malignant rhabdoid tumor of the kidney(以下,MRTK)と本症はその予後により2つに分けられており,ウィルムス腫瘍のうちanaplasiaを認めないものをfavorable histology,ウィルムス腫瘍のうちanaplasiaを認めるもの(4〜10%),CCSK,MRTKをunfavorable histologyと呼ぶ。

腎血管筋脂肪腫

著者: 伊藤直樹 ,   堀田裕 ,   塚本泰司

ページ範囲:P.144 - P.146

1 はじめに
 腎血管筋脂肪腫は良性の腎腫瘍であり,腎腫瘤性病変の約3%を占める。他臓器精査中に偶然発見されるか,腹部腫瘤あるいは腫瘍内出血に伴う突然の疼痛や血圧低下などを契機として発見されることもある。結節性硬化症に合併することも知られている。
 腫瘍中の脂肪成分はCT,MRI,USでいずれも特徴的な所見を呈するため術前診断が可能となり,保存的に経過観察可能な疾患である。手術適応としては有症状例,腫瘍径4cm以上の例とされるが,選択的腎動脈塞栓術,腎部分切除術といった腎保存的治療が望まれる。また,経過観察の場合は1年に1回,CTあるいはUSにより腫瘍の増大の有無を確認することが推奨される1)

腎オンコサイトーマ

著者: 岡田崇 ,   荒井陽一

ページ範囲:P.147 - P.150

1 はじめに
 本症は60〜70歳代の男性に多く(男女比2:1),腎腫瘍全体の3〜5%を占める。ほとんどが無症候性でUSやCTで偶然発見されることが多く,肉眼的血尿,腹痛,側腹部腫瘤,顕微鏡的血尿などの症状は稀である。6%の症例では両側性にみられ,さらに多発性のものには家族性のものが含まれる。200以上の小さな腎オンコサイトーマが両側性にみられた症例も報告されている(オンコサイトーマトーシス)。
 大きさは径1cm以下から巨大なものまで様々である。肉眼的には濃褐色(mahogany color)の充実性腫瘍で,発達した被膜を有しており,多くの腎細胞癌の外観が黄橙色であるのと対照的である。大きい腫瘍では中心壊死を呈し,嚢胞状の部分がみられることや,出血や石灰化を伴うこともある。組織学的には充実性の構造で時に腺腔形成を認め,間質には線維性結合組織がみられる。細胞異型,分裂像はなく,小型円形の均一な核と好酸性,顆粒状の大きな胞体とをもつ細胞から成る。この細胞は集合管の介在細胞由来といわれている。電子顕微鏡では細胞質に豊富な大型のミトコンドリアを認める。腫瘍細胞の染色体異常として第1染色体(または第1染色体短腕)の欠失あるいはY染色体の欠失のほか,現在までに多くの知見が得られている。

(2)尿管腫瘍

尿管腫瘍

著者: 赤尾利弥 ,   加藤哲郎

ページ範囲:P.151 - P.154

1 はじめに
 尿管に発生する腫瘍のほとんどは尿路上皮由来の上皮性腫瘍であり,その組織発生病理は膀胱腫瘍に準じて考えられる。膀胱,腎盂,尿管における尿路上皮癌の発生頻度の比率は30〜50:2〜5:1と尿管腫瘍が最も少ない。また,尿路上皮腫瘍の特徴として多中心性の発生が挙げられ,腎盂を含めた上部尿路腫瘍の23〜57%が膀胱を含めた尿路内の多発性腫瘍である。尿管内での好発部位は尿管下部1/3に多く,58〜74%である。患側別発生頻度において左右差はなく,両側性の発生は少ない(10%以下)。病理組織学的には90%以上が移行上皮癌で,扁平上皮癌,腺癌,未分化癌はそれぞれ数%にすぎない。
 臨床症状としては,血尿が75〜90%,側腹部痛が24〜62%,また膀胱腫瘍の併発がみられるときには,頻尿や排尿痛といった膀胱刺激症状がみられることがある。

(3)膀胱腫瘍

膀胱癌

著者: 中川修一 ,   野本剛史 ,   三木恒治 ,   伊藤博敏

ページ範囲:P.155 - P.158

1 はじめに
 膀胱癌は50歳以上の男性に好発し(男女比3:1),前立腺癌に次いで死亡率の高い尿路悪性腫瘍である。初発症状としては血尿が多く,その8割に無症候性肉眼的血尿を認める。頻尿・排尿時痛などの膀胱刺激症状を伴うものもある。膀胱鏡を行えば容易に診断できる。腫瘍の形状・数・発生部位・大きさ・拡がりなどを詳細に観察し,直視下に生検を行い組織学的に診断を確定する。しかし膀胱癌では,癌の膀胱壁内および壁外への浸潤度は,癌の膀胱内腔面の形態などから推測するほかない。
 画像診断は,治療方針を決定するための浸潤度判定に必須である。さらに,血尿をきたす患者に対するスクリーニング検査として,経腹的超音波断層法(TAUS)が広く用いられている。

尿膜管腫瘍

著者: 中川修一 ,   野本剛史 ,   三木恒治 ,   伊藤博敏

ページ範囲:P.160 - P.161

1 はじめに
 尿膜管癌は尿膜管上皮由来の悪性腫瘍で,膀胱癌全体の0.3%程度と比較的稀な疾患とされている1)。男女比は2〜3:1と男子に多く,好発年齢は40歳台から60歳台が全体の65%を占める2)。病理学的には腺癌,特にムチン産生型のものが圧倒的に多い。
 諸家により多少の違いはあるが,尿膜管癌の診断基準をまとめると,(1)膀胱の頂部に存在すること,(2)膀胱の他の部分に腺性膀胱炎や濾胞性膀胱炎が共存しない,(3)腫瘍は正常な膀胱粘膜と境されており,深部への浸潤傾向が強い,(4)尿膜管の遺残が認められる,(5)他臓器に原発性腺癌がない,ことの5項目になる。しかし,これらの条件をすべて満たすとは限らず,原発性膀胱腺癌との鑑別は困難なことが少なくない。臨床症状としては血尿が最も多く,ついで膀胱刺激症状,疼痛などを認める。

(4)精巣腫瘍

精巣腫瘍

著者: 香川征 ,   高橋正幸

ページ範囲:P.162 - P.167

1 はじめに
 精巣腫瘍の画像診断として重要なものは転移巣の同定である。すなわち,後腹膜リンパ節転移の特徴を理解している必要がある(図1)1)
 sentinel nodeは,左側ではL1〜L2レベルの腎茎部付近で,右側は腎動静脈(L1〜L3)以下の傍下大静脈である。

2.尿路・性器感染症

腎盂腎炎

著者: 山田陽司 ,   松本哲朗

ページ範囲:P.169 - P.173

1 はじめに
 腎盂腎炎は腎盂・腎杯および腎実質に炎症が生じた尿路感染症であり,重篤な場合は敗血症に至ることで臨床的に重要な疾患である。その分類としては,尿路に器質的疾患のない単純性腎盂腎炎と,基礎疾患を有する複雑性腎盂腎炎に分けられる(表1)。
 一般に単純性腎盂腎炎では急性の経過をとり,性的活動期の女性に多く,尿中分離菌は大腸菌がほとんどで,各種抗菌薬に反応しやすく,予後良好といわれている。しかし,時として1回の罹患によって重篤な腎実質障害をきたすことがあり,注意を要する。一方,複雑性腎盂腎炎では,小児や高齢者に多く(表2),一般に慢性の経過をとる。しかし,急性増悪をきたし,急性腎盂腎炎様症状で医療機関を受診することがある。また,治療に反応し,いったん治癒したようにみえても再発・再燃することが多く,治療においては起炎菌の多様性(図1)や薬剤耐性菌の出現に注意する。さらに,診断時すでに不可逆的な腎機能障害に陥っている場合もみられる。

腎膿瘍

著者: 山田陽司 ,   松本哲朗

ページ範囲:P.174 - P.175

1 はじめに
 腎膿瘍は腎実質に膿瘍形成を生じた状態を指すが,その原因の多くが腎盂腎炎からの上行性感染によるものであり,血行性経路のものは少ない。つまり,腎盂腎炎から腎実質感染症,acute bac-terial nephritis(ABN)がまず引き起こされ1),形成されたlow density area周囲に線維化による被膜形成を伴うことが本症の病態と考えられる。また,膿瘍腔の自壊により,腎周囲膿瘍や腸腰筋膿瘍に発展することもある2)。患者の基礎疾患には糖尿病が多く,臨床症状は一般に腎盂腎炎と類似する場合が多いが,膿瘍が完全に被膜化され,尿所見に異常がない場合や,全身倦怠感などの不定愁訴の全身検索が行われた後にはじめて本症を疑う場合には,悪性腫瘍との鑑別が重要となることもある。治療はまず保存的抗菌療法であるが,反応しない場合には経皮的あるいは開腹手術によるドレナージ術,腎部分切除術,または腎摘除術が行われる。

腎・膀胱結核

著者: 名出頼男

ページ範囲:P.176 - P.178

1 はじめに
 腎膀胱結核の新鮮例を見ることは最近は稀になっている。しかし,結核症の減少率が最近低くなってきていることはしばしば強調されることである。また,結核に対する免疫の保持率もやはり低下していて,過去に結核に罹患したりBCG接種により免疫を獲得(長期に十分な免疫能が保持されることは困難)している人もやはり少なくなっていることが最近問題とされている。BCGの有用性には疑問があり,近年先進国では本邦を除いてはほとんど行われていないが,発展途上国のように多数の結核患者がみられるところでは,BCG接種が必要とされている。また,本邦でもジャーナリズムを賑わせるように,結核症集団発生,特に薬剤耐性菌(この比率は地域差が強いようで,一概にどの地域でも増加しているとはいい切れない)感染による死亡例がみられている。また,今後増加するであろう免疫不全状態(エイズ感染,臓器移植,抗癌化学療法などによる)で結核症に罹患すると,全身感染の形をとりやすかったり,耐性菌発生率が増加することなどに注意が必要となる(この状況では獲得免疫が有効に働かず,長期に菌が残存し,長期投薬中に耐性菌選択が起きるか,耐性菌による再感染もみられる)。
 尿路結核症は必ずしも増加しているようにはみられないが,一定の患者数は統計的にはみられているようなので,難治感染をみた場合に常に結核症が留意される必要性は,現在でも変わってはいない。

3.尿路結石・腎石灰化症

腎尿管結石

著者: 冨安克郎 ,   野田進士

ページ範囲:P.179 - P.183

1 はじめに
 本症は,生涯罹患率が約5%1)と泌尿器科疾患の中でもポピュラーな疾患である。臨床症状は,血尿と疼痛がほとんどであるが,近年,検診の腹部USで発見される無症状に経過した症例も増加している。
 画像診断の目的は,結石の部位と大きさ,そして結石による腎機能障害の程度にまで及ぶ。これにより治療方針の決定がなされる。方法は,従来のX線学的検査法(KUB,IVP)が現在でも中心であることは間違いない。近年,USは画質の向上,価格の低下による急速な普及により,その安全性,簡便性も含めてスクリーニング的に用いられるようになってきた。また,X線陰性結石の場合でもUSでは診断可能であり,確定診断としても用いられる。KUB,IVPは,従来より尿路結石の診断に関しては必要不可欠とされており,語り尽くされた感もあるため,本稿では最近最も進歩したUSによる尿路結石の診断を中心に稿を進めたい。

膀胱結石

著者: 鈴木孝治

ページ範囲:P.185 - P.187

1 はじめに
 本症は高年齢層に多く(表1),男性では尿路通過障害,女性では尿路感染症に起因して発症するとされている。膀胱結石の一部は上部尿路結石由来であるが,膀胱内で形成されるものもあり,成分も上部尿路結石と異なる。当科で分析した尿路結石3,000個のうち,膀胱結石は約1割を占める。男性では蓚酸カルシウム(CaOx),燐酸カルシウム(CaP),燐酸マグネシウムアンモニウム(MAP),尿酸(塩)(UA,Urate)などが主成分である。女性ではMAPが最も多い(表2)。前立腺肥大症や神経因性膀胱など下部尿路通過障害があると,尿管を通過したものの,結晶および小結石は体外に排出されずに停滞が長期化し,臨床的結石へと成長する。また,基礎疾患として慢性膀胱炎などの尿路感染症が存在すると主に感染性結石が形成される。長期に留置したバルーンカテーテルや膀胱内異物,手術時の縫合糸などを核にして発生することもある。
 症状としては,鈍痛や排尿終末時痛,血尿,頻尿のほかに内尿道口を閉塞すると排尿中絶がみられる。診断は画像も有効であるが,内視鏡にて容易に診断が可能で,小結石の場合にはただちに摘出が可能なこともある。1cmを超える結石の場合には異物鉗子,砕石用内視鏡,体外衝撃波結石破砕治療(ESWL)や電気水圧,ホルミウム・ヤグレーザー,リトクラストなどにより砕石してから摘出する。

尿道・前立腺結石

著者: 鈴木孝治

ページ範囲:P.188 - P.189

1 はじめに
 尿道結石の多くは上部尿路および膀胱結石が尿道内に嵌頓したものである。前立腺部尿道に多く,前部尿道,特に外尿道口付近に嵌頓し,尿閉や会陰部痛,尿道痛,異物感を呈する。稀にTUR-P後の遊離切片を核にして結石が形成されることもある。当科における3,000個の尿路結石分析では,25個が蓚酸カルシウム(CaOx)と燐酸マグネシウムアンモニウム(MAP)であった。男性ではCaOx結石が多く,女性ではMAP,CaOxであった(表)。すべて5mm以上の結石であった。中には巨大なMAP結石を女性患者で自排した例があった(図1)。多くの症例で急性尿閉や会陰部の激痛を訴えるため,緊急に対処しなければならない。内視鏡的に結石を順行性に摘出できることは少なく,尿道鏡で直視下に結石を確認しながら膀胱まで押し戻し,砕石したうえで摘出することが多い。前立腺肥大症や尿道狭窄を基礎疾患に持つことがあり,尿道鏡操作は慎重に実施することが肝要である。
 前立腺結石は50歳以上の男性で観察される。尿路には直接的な影響を与えないため,臨床的には重要視されていない。澱粉様小体に感染などが加わり,無機塩が沈着して形成されるとされている。成分の判明している結石50個のほとんどはMAPと燐酸カルシウムを含有していた。大きさはさまざまで,1mmくらいのものから数cmのものまである。通常は複数個あり,TUR時に確認できるものでは数十個以上存在する(図2)。

上皮小体機能亢進症

著者: 小出卓生 ,   吉岡俊昭

ページ範囲:P.191 - P.195

1 はじめに
 上皮小体機能亢進症には原発性と腎不全に続発する続発性(または二次性)の2者があるが,続発性上皮小体機能亢進症では画像診断の成果にかかわらず4腺腫大があるという前提で手術に臨まねばならないので,本稿では原発性上皮小体機能亢進症に的を絞って,主に上皮小体腺腫症例における画像診断方法とその成果について述べる。
 原発性上皮小体機能亢進症は,上皮小体の腺腫・過形成・癌腫により上皮小体ホルモンが過剰に分泌されるために生じる様々な表現様式を示す内分泌異常である。泌尿器科領域では尿路結石症の原因疾患の1つであり,原発性上皮小体機能亢進症の尿路結石合併率が高いことから,泌尿器科で治療されることの多い内分泌異常疾患である。原因の多くは腺腫であり,一部に過形成によるものを認めるが癌腫は稀である。

4.先天異常 (1)腎臓

嚢胞腎

著者: 吉井将人 ,   東原英二

ページ範囲:P.196 - P.199

1 はじめに
 嚢胞腎(多発性嚢胞腎)は両側腎の嚢胞以外に肝臓,膵臓など各種臓器に嚢胞が多発する疾患であり,常染色体優性嚢胞腎(autosomal dominant polycystic kidney disease:ADPKD)と常染色体劣性嚢胞腎(autosomal recessive polycystic kid-ney disease:ARPKD)に分類される。従来,前者が成人型,後者が幼児型と分類されていたが,小児にも成人型(常染色体優性)嚢胞腎の発症が認められることや,幼児型(常染色体劣性)嚢胞腎でも稀に成人まで成長する症例があるため,この分類は不適切である。また,常染色体優性嚢胞腎は,遺伝子の異常部位によりPKD1,PKD2に分類される。筆者らの解析では,本邦の約80%がPKD1であった1,2)
 常染色体優性嚢胞腎は嚢胞腎の中で頻度が高く,発症頻度は500〜1,000人に1人とされている。高血圧,頭蓋内動脈瘤などの合併が多く,約50%の症例が終末期腎不全に進行する。なお,本邦の透析患者の約3.5%が常染色体優性嚢胞腎である。

単純性腎嚢胞

著者: 野田治久 ,   東原英二

ページ範囲:P.200 - P.201

1 はじめに
 単純性腎嚢胞はUSやCTの普及により日常よく経験する疾患である。本症は全年齢層でみられ,加齢により発生頻度が増加する(表)。嚢胞は1個〜数個孤立して存在し,その大きさは様々で,片側性にも両側性にも生じ得る。
 通常は無症状で,診断が確定すれば経過観察するが,圧迫症状や尿路閉塞,高血圧といった症状を呈することもあり,USガイド下の嚢胞穿刺術および硬化剤注入療法や,腹腔鏡下胞開窓術を行うこともある。嚢胞を呈するほかの疾患や悪性腫瘍との鑑別が重要である。

海綿腎

著者: 野々村克也 ,   篠原信雄 ,   小柳知彦

ページ範囲:P.203 - P.205

1 はじめに
 本症は集合管遠位部の拡張をその本体とし,その部はしばしば嚢状・憩室状拡張となったり結石を生じる。病理学的にも腎乳頭内の集合管の拡張や小さな髄質部嚢胞がみられ,通常これらは集合管と交通している。また,その拡張部や嚢胞部の壁はしばしば集合管上皮の脱落やカルシウム沈着により殻化状を呈す。
 疾患自体の存在は1908年にBeitZkeによって指摘され,1939年にはLenarduzziによってX線画像上の特徴が著わされた。1949年にCacchi R,Ricci Vによって病理組織学的検討がなされたことから,Cacchi-Ricci病とも呼ばれる1)。本症の一定数は無症候であり,発生頻度は不明であるが,文献によると5,000〜20,000人に1人と推定されている。

融合腎

著者: 川村猛

ページ範囲:P.206 - P.208

1 はじめに
 骨盤部からの移動過程で腎は臍動脈と交錯するが,この際,臍動脈の位置異常があると分化の過程上にある腎原器が融合する。正中線での融合は馬蹄「鉄」腎を招来し,頭側移動の過程で一方の腎がやや先行するとその腎下極は他方腎の上極を連結した形となり,前者のさらなる頭側移動によって交差性融合腎が発生する。これら腎塊の融合は胎生早期に起こり,全例で多少の差こそあれ,回転異常がある。
 融合はあらゆる腎の形態異常を招来するが,誌数の制約から本稿ではその代表である馬蹄「鉄」腎と交差性融合腎について述べる。

変位腎

著者: 川村猛

ページ範囲:P.210 - P.212

1 はじめに
 変位腎とは,腎が正常腰背部の腎窩(renal fossa)に存在しないものと定義される。骨盤腔で分化した腎は胎生9週までに回転しながら躯幹を頭側へ移動する。この間,腎は,当初は仙骨中心動脈,腸骨動脈,最後に大動脈から血流の供給を受ける。したがって,この血管異常や様々な上方移動阻害因子によってこの異常が発生する。左腎にやや多く,10%が両側性である1)

回転異常腎

著者: 田村麻子 ,   真下節夫

ページ範囲:P.213 - P.215

1 はじめに
 腎は発生学的に胎生第4〜5週に総排泄腔に近い部の中腎管より出芽する尿管芽より発生する。そのため,腎ははじめ下位腰部から仙骨部に位置する。当初,腎盂は前方に向いているが,成長に伴って頭側に移動するとともに胎生第8週には90度回転し,胎生第12週頃には後腹膜腔に到達する(図1)。
 正常の腎の回転は,尾側からみて左腎では時計回り,右腎では反時計回りで,腎門部が内方になる位置に固定する(図2)。腎の回転異常は骨盤腎・融合腎・馬蹄鉄腎に合併することが多いが,回転異常腎では腎の融合はなく回転の異常のみをもち,位置の異常を伴わないものをいう。片側性のことが多いが,両側性のこともある。回転異常のタイプとしては回転が不十分なもの,過剰回転,逆回転がある(図3)。

腎杯憩室

著者: 入江啓 ,   真下節夫

ページ範囲:P.216 - P.219

1 はじめに
 本疾患は小腎杯から細い交通路により連続した嚢胞状の空洞であり,移行上皮により覆われている。男女差や左右差はなく,1,000例の尿路造影に対して小児では3.3例,成人では4.5例の割合で観察されると報告されている1)。上腎杯での発生頻度が高いとされるが,いずれの腎杯でも観察される。これらの多くは腎杯に交通しており,Type Ⅰに分類される。一方,より大きくまた腎盂に直接開口したものはType Ⅱに分類され,より臨床症状を伴いやすい。憩室形成の原因として,先天性と続発性の両者が考えられている。先天性の病因として,胎生5mmの時期に3,4次尿管が消失せずに残存し,さらに尿の逆流圧による拡張で憩室が発現するとされる。小児と成人で発生率が同様であることからこの病因は支持されている。続発性の憩室形成の病因としては,限局性の実質内膿瘍の排泄,腎杯内の結石や炎症,腎杯頸部狭窄,外傷などが考えられている。一般に,小さい腎杯憩室それ自体は無症候性で偶発的に発見されることが多い。しかし,特に尿の腎杯への通過障害をきたした場合は,結石形成,milk of cal—ciumあるいは尿路感染症の発症頻度が増大し,疼痛,血尿などの症状をともなうことが多くなる。Timmonsら1)は72例の腎杯憩室症例を集計し,結石形成および反復性尿路感染症をそれぞれ39%に認めたと報告している。

(2)尿管

重複腎盂尿管

著者: 長野正史 ,   蓮井良浩 ,   長田幸夫

ページ範囲:P.220 - P.224

1 はじめに
 重複腎盂尿管とは,1個の腎に腎盂,尿管が重複して存在している奇形である。重複尿管には,上下両腎盂からの2本の尿管が全長にわたり2本に分かれて別々の尿管口を有する完全重複腎盂尿管と,2本の尿管が途中で吻合して1本となる不完全重複腎盂尿管とがある。
 発生学的には,中腎管から尿管芽が発生する際に,尿管芽が2個発生したために生じる完全重複型(Weigert-Meyer's principle)と,尿管芽の発生は1個で発育途中で2個に分岐する不完全重複型に分かれる(図1)1)

下大静脈後尿管

著者: 内藤克輔 ,   内山浩一 ,   馬場良和

ページ範囲:P.225 - P.227

1 はじめに
 本症は尿管が下大静脈後方を迂回して走行するために泌尿器科学的には解剖学的位置関係より下大静脈後尿管と呼ばれ,尿管の発生異常が原因のように考えられがちであるが,本来は下大静脈の胎生期での発生異常に基づくものである(図1)1)。胎生期における後基本静脈(posterior cardinal vein)および上基本静脈(supracardinal vein)は尿管より後方に,下基本静脈(subcardinal vein)は前方に位置する。下大静脈の腎より下部の部分は尿管の後方にある上基本静脈より発達する。通常,左上基本静脈および右後基本静脈の腰部部分は退縮し,下基本静脈は内精静脈となる。右側に位置する下大静脈は右上基本静脈より形成される。もし,右下基本静脈の腰部部分が退縮しないで下大静脈に発達すると,右尿管は下大静脈の後方を横断した後,下大静脈の前面に達し,その後,膀胱に到達することになる。
 本症は臨床的に2つの型に分類される2)

腎盂尿管移行部狭窄

著者: 並木一典 ,   三木誠

ページ範囲:P.228 - P.232

1 はじめに
 腎盂尿管移行部(ureteropelvic junction:UPJ)狭窄は,多くが先天性である。本疾患による水腎症は,先天性の上部尿路通過障害のうちでは最も頻度が高い1)。古くは,腹部腫瘤,腹痛,発熱など水腎症による併発症状で発見されることが多かった。しかし,近年では胎児期を含めスクリーニング検査などにより,無症状のうちに発見される例が増加している。
 先天性腎盂尿管移行部狭窄の原因のほとんどは,UPJの組織学的形成異常である。ほかに良性ポリープによる閉塞,異常血管や線維束による圧迫,尿管の屈曲,癒着,あるいは尿管高位付着(high insertion)などがある。しかし,これらは腎盂の拡張に伴う二次的な変化であり,組織学的な異常を伴っていることが多いとの考えもある。

巨大尿管症

著者: 近田龍一郎 ,   坂井清英 ,   折笠精一

ページ範囲:P.233 - P.236

1 はじめに
 尿管が正常に比較し拡張した状態にあるものを総じて巨大尿管(megaureter)1,2)と呼ぶが,そのはっきりした判定基準は設けられていない。しかし,尿管瘤や尿管異所開口に伴う拡張尿管は巨大尿管とはいわない。巨大尿管は拡張の原因によって,(1)逆流性,(2)閉塞性,(3)閉塞性および逆流性,(4)非閉塞性・非逆流性の4つに分類され,それぞれ原発性と続発性によるものがある(図1)。

膀胱尿管逆流

著者: 近田龍一郎 ,   坂井清英 ,   千葉裕 ,   折笠精一

ページ範囲:P.238 - P.243

1 はじめに
 膀胱尿管逆流(vesicoureteral reflux:VUR)とは,尿管から膀胱へと一方通行であるはずの尿が,逆に膀胱から尿管・腎へ逆流する現象をいう1〜3)。乳幼児期に尿路感染を契機に発見されることが多く,急性腎盂腎炎に罹患した小児の22〜70%に逆流が発見され,1歳以下ではその頻度が高い。最近では,在胎や新生児・3か月検診でのUSで発見される例が増加している。3歳以上では,頻尿や切迫尿失禁,夜尿といった排尿異常を主訴に発見される例が約40%ある。
 男女比は,小児全体ではほぼ同等であるが,1歳以下に限ると男児に多い。成人では,ほとんどが女性であり,主として尿路感染の再発を契機に発見される。男性の場合は,尿蛋白や腎機能障害の精査の過程で偶然発見されることが多く,高度の腎障害を伴っていることがほとんどである。

尿管異所開口

著者: 大島一寛 ,   松岡弘文 ,   田丸俊三 ,   中原王寿

ページ範囲:P.244 - P.247

1 はじめに
 尿管異所(膀胱外)開口は,尿管が中腎管(Wolff管/精管・精嚢腺の発生原基)より発生することに原因がある。尿管芽より遠位の中腎管は尿生殖洞に吸収され,尿管は中腎管を離れて尿生殖洞に交通し,やがて上方(膀胱)へ移動して正常の位置に開口する。もし尿管芽が中腎管の近位に遠くはずれて発生すると,発生学的タイミングが遅れて膀胱の定位置への移動が不完全,あるいは中腎管と遊離されないままになり,後部尿道(55%),Wolff管由来の精管系(45%)へ開口することになる。女子のWolff管は退化する運命にあるが,Gartner管(痕跡的)としてMuller管由来臓器と接して走行しており,何らかの原因によってこれと交通が生じると推定されている(尿道35%,腟前庭35%,腟・子宮30%)(図1)。稀には直腸に開口することも知られている。女子での頻度発生が高く(男子の5〜6倍),80%は完全重複尿管を合併する。一方,男子では単一尿管にみられることが多い。病変が片側か両側か,尿管が単一か重複かで分類され,本邦ではⅠ型,Ⅲ型が多いとされている(図1)。男女とも尿路感染(急性腎盂腎炎),上部尿路の拡張が診断の契機になることが多いが,女児ではオムツが取れた後の持続的な尿管性尿失禁が特徴的で,診断の契機になることがある。外尿道括約筋より近位に開口する男子では尿失禁はなく,後部尿道炎,前立腺・精嚢腺炎症状を呈する。

尿管瘤

著者: 大島一寛 ,   松岡弘文 ,   田丸俊三 ,   東恩納貴文 ,   足立知太郎

ページ範囲:P.248 - P.250

1 はじめに
 尿管瘤とは尿管下端が嚢状に拡張した状態をいう。原因は,発生学的レベルでの尿管下端の狭窄や筋層の異常,尿生殖洞・膀胱への開口,移動過程での過剰な伸展・拡張などが指摘されており,尿管口は狭窄とは限らない。尿管瘤は従来種々の分類が試みられているが,臨床的には瘤口(尿管口)および瘤壁が膀胱内にあるか,膀胱頸部を超えて尿道に拡がっているかがポイントで,前者を単純性,後者を異所性と理解しておけばよい。
 単純性では,一般に膀胱三角部を中心に存在して瘤は小さく,瘤口も狭い。成人にも多く発見されることから,成人型,正所性尿管瘤という呼称もある。

(3)膀胱

膀胱憩室

著者: 柴田隆 ,   小柳知彦

ページ範囲:P.251 - P.253

1 はじめに
 膀胱憩室は,膀胱充満時に膀胱粘膜の一部が膀胱平滑筋筋層の欠損部あるいは脆弱部から外方へ突出する病態である。通常,成人にみられる膀胱憩室は,前立腺肥大症などの下部尿路閉塞疾患に伴う高圧排尿に由来すると考えられるもので,当然ながら高齢者に多くみられる。小児にみられる憩室は,先天性膀胱憩室として報告されている比較的稀で大きな憩室と,いわゆるHutchの憩室と呼ばれる傍尿管口憩室に分けられる。先天性膀胱憩室は神経因性膀胱や器質的通過障害などを持たない正常排尿例に認められる憩室と定義されるが,その報告の多くは発生部位が尿管口近傍であり,傍尿管口憩室と完全に区別できるものではないと考えられている。傍尿管口憩室は,膀胱尿管逆流症を伴うことも多く(図1),臨床経過上,自然消失が得られにくいため手術治療の適応となることも多い。
 成人,小児のいずれの病態も,憩室が大きければ排尿効率の低下(残尿および二段排尿)や尿路感染の原因となり得る。特に小児では,憩室の位置と大きさによっては,充満した膀胱憩室が膀胱頸部を圧迫して,排尿困難や尿閉をきたす症例も報告されているので注意が必要である。

膀胱外反症

著者: 柿崎秀宏 ,   野々村克也 ,   小柳知彦

ページ範囲:P.255 - P.257

1 はじめに
 膀胱外反症bladder exstrophyは先天性に下腹壁・膀胱前壁が欠損し,膀胱内面が翻転・露出したものである。総排泄腔と腹壁の発生異常が原因で尿管口が露出し,同時に恥骨結合の解離や尿道上裂を伴う典型例から,膀胱上部の粘膜だけが外反露出するもの,あるいは尿道上裂のみのものまで種々のバリアントが存在する。本症の発生異常がさらに高度になったものが総排泄腔外反症であり,正中での下部消化管の外反や膀胱の左右への分離を伴う。これらの疾患群(外反症—尿道上裂症候群exstrophy-epispadias syndrome)は,一連のスペクトラムとして捉えるべきである。膀胱外反症の発生は欧米では1〜5万回の出産に1回の割合と報告されているが,本邦における発生頻度は欧米よりさらに少ない。
 診断は視診により明らかである(図1)。腎,尿管,性器,消化管,脊椎・脊髄など様々な奇形を合併することが多いので,全身の検索が必要である。

(4)尿道

尿道下裂

著者: 島田憲次 ,   細川尚三 ,   東田章 ,   森本康裕

ページ範囲:P.258 - P.259

1 はじめに
 尿道下裂は外尿道口が本来の亀頭部先端ではなく,それより近位の陰茎あるいは陰嚢,会陰部に開口する先天性尿道形成不全である(図1)。
 男子外陰部の異常としては頻度が高く,男子出生150〜300人に1人の割合で発生する。多くの場合は陰茎の腹側への屈曲を伴い,勃起すると屈曲はより著明となる。このため,外観上の問題だけでなく立位排尿や腟内射精,あるいは性行為そのものも不可能となる。

重複尿道

著者: 細川尚三 ,   島田憲次 ,   東田章 ,   森本康裕

ページ範囲:P.260 - P.263

1 はじめに
 重複尿道および副尿道は稀な先天性奇形である。重複尿道には様々な形態が含まれ,その病因は単一では説明できず,排泄腔膜,生殖結節や尿生殖洞の発生過程での異常や,鎖肛や会陰部脂肪腫など骨盤臓器の異常など様々な原因が推定される。例えば,背面に重複尿道を形成するものは陰茎の背側索や恥骨離開をともなう症例が多く,膀胱外反尿道上裂複合との関連が示唆されるし,尿道が前額面で重複する症例では会陰部脂肪腫や鎖肛など骨盤内臓器異常との関連が深い。
 重複尿道のすべての型を網羅した分類は未だない。通常,尿道が盲端に終わっている場合を副尿道,正常尿道あるいは膀胱と交通がある場合を重複尿道と大別している。さらに重複尿道は,複数の尿道が膀胱に起始部をもつ完全重複尿道と,途中で分岐する不完全重複尿道に分けられる。重複する尿道の位置関係からは,矢状面での重複と前額面での重複に分けられる(図1a,1b)。重複尿道の多くは矢状面での重複であり,一般的に腹側尿道が正常な発生過程を経た尿道であり,残る1本の尿道は形成不全尿道であることが多い。最も多くの矢状面重複尿道を網羅した分類を図2に示した1)

尿道弁

著者: 島田憲次 ,   細川尚三 ,   東田章 ,   森本康裕

ページ範囲:P.264 - P.266

1 はじめに
 後部尿道あるいは前部尿道に代成された先天性尿道弁は,さまざまな程度の下部尿路通過障害を引き起こす。なかでも先天性後部尿道弁はその大多数を占めており,通過障害が高度なものほど出生後早期に症状が出現する。
 新生児期・乳児期早期に発見される症例の臨床症状としては,拡張した膀胱による腹部膨隆や尿閉,尿路感染が多くみられる。また,1か月健診の際に体重増加不良や貧血などの腎不全症状で病態が発見されることもある。通過障害の程度が軽い症例では,学齢期まで続く昼間遺尿の精査で,はじめて発見されることもある。一方,産科領域の超音波診断法の普及にともない,出生前に発見される症例も散見されるようになり,これらに対する周産期管理の方法についても話題になっている1)

先天性尿道憩室

著者: 川村猛

ページ範囲:P.267 - P.269

1 はじめに
 1.男児における先天性尿道憩室 男児前部尿道に発生する先天性異常であり,腹側の尿道海綿体が部分的に欠損し,そこから袋状のsacculeを形成して,排尿時に拡張saccule自体またはその振り子状運動による近接尿道の圧迫によって排尿困難を招来する疾患である。球部尿道から振子部尿道の腹側に発生する。後部尿道弁などと比較して,実際の臨床例遭遇頻度は低く,筆者が25年間に経験した下部尿路器質的閉塞疾患268例中7例にすぎない。筆者の経験によると,前部尿道弁を含めた尿道弁疾患に比較すると,その頻度は1/10強であり,またその閉塞機転は一般に軽微であり,上部尿路への影響はVURを含めて弁疾患より明らかに低い1)
 Williamsは本症を4種類に分類しているが,慣習的にはsaccular typeとglobular typeの2型に分類する2)(図1)。前者では前部尿道弁の二次的病態と理解する立場もあるが,前部尿道弁様の構造は本来の憩室が排尿による拡張によって,その即遠位側尿道の下に入り込むため,その腹側に二次的に形成されたものとの考え方もある。

5.外傷

腎外傷

著者: 西村泰司 ,   阿部裕行

ページ範囲:P.271 - P.275

1 はじめに
 腎挫傷や腎茎部血管損傷のように,保存的治療か開腹手術かをまったく迷わない症例は別として,いずれの治療を行うべきかの判断に迷うような症例においては,いまだに損傷程度を画像診断で知ることは難しい。腎外傷の新しい分類法もみられるが1),裂傷,断裂の鑑別の難しさは変わりない。

膀胱外傷

著者: 村上信乃 ,   梅原功 ,   磯貝純

ページ範囲:P.277 - P.281

1 はじめに
 膀胱は骨盤内深く,外方は骨盤骨,下方は泌尿生殖器隔膜,後方は直腸によって保護されているので,他の臓器に比べると外傷は受け難いが,膀胱充満時に強い外力が加わると損傷の危険性が生ずる。本症は,損傷部が腹膜に及び尿が腹腔内に広がる腹腔内破裂と,尿が膀胱周囲に漏出する腹腔外破裂に分類される。膀胱充満時に受傷すると腹腔内破裂となり,腹腔外破裂は膀胱が空虚で骨盤骨折に伴う例が多いとされている1)
 各種事故による腹部打撲の膀胱への衝撃を原因とするものが多いが,そのほか銃創や刺創による開放性損傷や,医療従事者の経尿道操作の失敗による医原性の例もある。最近の自動車事故の増加に伴い本症は増加の傾向にあるが,腹腔内多臓器損傷や骨盤骨折の合併が多いので重篤例が多く,そのうえ見落とされやすい。

尿道外傷

著者: 力石辰也 ,   岩本晃明

ページ範囲:P.282 - P.284

1 はじめに
 尿道外傷は交通事故などでみられる骨盤骨折をともなうものから,尿道のみの損傷で比較的軽症のものまで程度はさまざまで,ほとんどの場合男性にみられる。受傷後排尿ができない,尿道留置カテーテルが挿入できない,あるいは尿道からの出血が止まらないとして泌尿器科に相談される。
 まずは尿道造影を行い,損傷の部位・程度を確認したのち,尿道留置カテーテルの挿入を試みるが,挿入できない場合に盲目的に無理な操作をしてはならない。外尿道口より尿道留置カテーテルが挿入できないときには,膀胱瘻を作製する(図1a)。膀胱瘻から軟性鏡を順行性に後部尿道まで挿入し,その先端からgentleにガイドワイヤーを出すと,損傷部位を超えて外尿道口側に誘導されることがあり,これにかぶせて尿道留置カテーテルを挿入できる場合もある(図1b)。このときも決して無理をせず,仮性尿道をつくらないように注意しなければならない。

6.異物

異物

著者: 高本均

ページ範囲:P.285 - P.288

1 はじめに
 尿路異物には非常に様々な種類があるが,X線陽性とX線陰性に分類できる。X線陽性のものはKUBで診断は比較的容易であるが,X線陰性のものはDIP,RP,US,CT,MRIなどの検査を要する。尿路異物で最も多い部位は膀胱・尿道であり,腎・尿管は少ない。
 異物が尿路に到達する経路としては,(1)体外から経皮的に刺入,(2)腸管からの迷入,(3)経尿道的操作,(4)治療行為によるもの,がある。特にこの10数年,治療行為によるものは,endo-urology,laparoscopy,interventional radiologyなどの発展によりさまざまな器具,カテーテル,ステントあるいは注入物などが使用されるようになり,異物の種類が増加し,複雑さを増している。

7.腎移植

腎移植

著者: 徳本直彦 ,   田邉一成 ,   東間紘

ページ範囲:P.289 - P.296

1 はじめに
 腎移植は慢性腎不全の根治的治療であり,QOLの面からも透析療法より優れている。しかし,免疫抑制剤は腎移植が生着しているあいだ生涯服用しなければならず,その維持量になるまでの数か月は拒絶反応の抑制と治療,合併症や薬剤の副作用の予防が特に大切となる。これら拒絶反応や合併症をいかに早期に発見し予防することができるかによって患者の予後が決まってしまうといっても過言ではない。よって,腎移植後の画像診断の重要性は拒絶反応や合併症を早期に的確に発見することにある。
 腎移植後の主な合併症としては,感染症,外科および泌尿器科的合併症,高血圧,高脂血症,肝障害,糖尿病,消化管出血,白内障および大腿骨頭壊死などが挙げられるが,本稿では拒絶反応,肺炎,泌尿器科合併症,血管系合併症,その他の合併症について各病態ごとの画像診断について述べる。

8.腎性高血圧・腎血管疾患

腎動脈狭窄

著者: 仲谷達也 ,   岸本武利 ,   中村健治

ページ範囲:P.297 - P.301

1 はじめに
 二次性高血圧症の中で腎血管性高血圧は腎実質性高血圧とともに頻度が高く,腎血管性高血圧の原因疾患として腎動脈狭窄症は重要である。本症では狭窄部より遠位部の腎血流減少に起因したレニン分泌刺激に基づき血圧が上昇し,灌流圧低下により腎機能が障害される。腎動脈狭窄は,成因にて(1)線維筋性異形成,(2)粥状硬化症,(3)大動脈炎症候群,(4)解離性動脈瘤・その他,に分類され特に(1)〜(3)の頻度が高い。
 線維筋性異形成は若年の女性の多く,腎動脈本幹遠位部に好発する(図1a)。遺伝的な素因や解剖学的な影響による血管の過伸展や血管壁の血流障害が誘因と考えられ,血管壁の全層に起こりうるが中膜の線維筋性増殖が最も多い。粥状硬化症は全身の動脈硬化の一部分症であり,脂質代謝異常と関連し,比較的高齢の男性に多く,両側性で腎動脈では起始部に好発する(図2a)。大動脈炎症候群は,原因は不明であるが欧米に比してわが国で多く,胸・腹部大動脈とその分枝の狭窄ないしは閉塞(図3a)による多彩な症状を呈する。病理学的には,中膜一外膜の増殖性の炎症に起因した血管壁の肥厚を認める。若年女性に多く,腎動脈では起始部に好発し(図3b),両側性に発生することも多い。

腎動脈瘤

著者: 後藤百万 ,   小野佳成 ,   大島伸一

ページ範囲:P.302 - P.304

1 はじめに
 腎動脈瘤の多くは無症状で経過し,他疾患におけるCT,MRI,血管造影検査などで,偶然に発見されることが多い。また,腹部での血管雑音や腎部の拍動性腫瘤の触知が精査のきっかけとなることもある。時に高血圧がみられることがあり,腎動脈瘤が原因か否かが問題となることがあるが,実際に腎動脈瘤切除により血圧が正常化する例がみられる。
 先天性と後天性のものがあり,後天性の病因としては炎症,外傷,動脈硬化が挙げられ,また種々の原因にもとづく腎動脈狭窄に合併することがある。また,腎生検や経皮的内視鏡下腎手術に合併して発生することもある。形態的にはsaccu—lar type,fusiform type,dissecting typeがあるがほとんどがsaccular typeであり,腎動脈瘤の93%を占める1)

腎梗塞

著者: 山口秋人

ページ範囲:P.306 - P.307

1 はじめに
 腎梗塞は,急激に腰痛,側腹部痛をきたす疾患として,泌尿器科の重要な疾患である。梗塞範囲が広いと発熱や悪心,嘔吐を伴うこともある。剖検例での頻度は1.4%という報告があり,決して稀な疾患ではない。両側性のものも10〜20%あり,腎不全をきたすこともある。腎梗塞は,腎動脈またはその分枝が血栓などのために閉塞して,その支配領域が循環不全により壊死に至る。心房細動などの心疾患に合併するものが70%と最も多い。なかでも心房細動がその大部分を占める。そのほかには,動脈硬化,手術,外傷,動脈造影検査などに合併することがある。5日以内に血栓溶解療法を行えば腎機能を温存できるので,早期の診断が重要である1,2)

腎動静脈瘻

著者: 山口秋人

ページ範囲:P.308 - P.310

1 はじめに
 腎動静脈瘻は腎動脈の分枝と腎静脈の分枝の間に交通枝ができる疾患である。瘻の脆弱性により破綻が起きて,突然重大な肉眼的血尿をきたすことがある。腎動静脈瘻には先天性と後天性があり,本邦の報告では欧米と反対に先天性が多い。先天性のものでは腎動静脈奇形に由来するものが多く,後天性のものでは腎生検後,腎手術後など医原性のものが多く,腫瘍に合併するもの,外傷後のものが続く。
 また,血管造影像よりcirsoid typeとaneurys-mal typeに分類される。Cirsoid typeでは,動脈が複数流入して細い動脈が多数蛇行するnidusを形成して複数の静脈へ流出する(図1)。Aneurys-mal typeでは,動脈瘤から瘻を通じて静脈へ流出する。重大な肉眼的血尿をきたす動静脈瘻は,経カテーテル的動脈塞栓術の適応となる。塞栓物質は,cirsoid typeではエタノールが,aneurysmal typeでは金属コイルが用いられる1,2)

9.前立腺・精嚢疾患

前立腺肥大症

著者: 布施秀樹 ,   渡部明彦

ページ範囲:P.311 - P.315

1 はじめに
 前立腺肥大症は加齢に伴う疾患であり,組織学的には高齢者のほぼ全例に認められ(図1),そのうち約25%が排尿障害の改善のために治療が必要となる1)
 本症の病因として上皮—間質の相互作用,ジヒドロテストステロンの関与,エストロゲン優位な内分泌環境などが挙げられているが,そのうち,近年注目されているのは,上皮細胞と間質との相互作用によるとするもので,アンドロゲンおよび各種増殖因子が重要な役割をしており,細胞レベルでのこれらの調節機構の異常により本症が発症すると説明されている。

前立腺癌

著者: 岡田謙一郎 ,   鈴木祐志 ,   大山伸幸 ,   三輪吉司

ページ範囲:P.317 - P.323

1 はじめに
 前立腺癌は急速な高齢社会の到来と,ライフスタイル,おそらく食生活の洋式化にともない近年わが国でも著しく増加している1,2)。この急速な増え方からして,21世紀に入って間もなく,男性の主要な癌死因の1つになることが予測されている3)
 前立腺癌の診断には,前立腺特異抗原(PSA),直腸診(DRE),経直腸式超音波断層像(TRUS)が必須とされ,生検によって確定診断を得るのが通常である。実際,1990年代になってからのPSA測定の普及とTRUSガイド下での系統的生検および標的生検法の進歩はめざましく,近年の症例の増加は,これらによって比較的早期に掘り起こされる機会が増えたことにも由来する4)

血精液症

著者: 古屋聖児 ,   斉藤信人

ページ範囲:P.324 - P.326

1 はじめに
 精液に血液が混入する血精液症は,決して稀な疾患ではない。その大部分は自然に治癒するが,明らかな原因は多くの場合不明である1)。出血の部位に関しても,精嚢線,前立腺,尿道などが指摘されているが,現在まで明確には確定されてはいない。また,原因疾患に関しても,前立腺炎や精嚢腺炎が広く指摘されているが,それを証明した報告は現在までない。そのため,一般的な治療方針としては"watchful waiting"しかなく,患者が抱く「性病や癌に罹患したのではないか」という恐れ,「将来不妊症になるのではないか」という不安を払拭する明確な検査や治療のガイドラインがないのが現状である。
 われわれは,TRUS検査と精嚢腺穿刺により,血精液症の出血部位を鑑別できることを観察した。精液の色調や射精後血尿の合併の有無も,出血部位の鑑別に有用であった。この出血部位の鑑別に基づいて,将来,治療のガイドラインを確立し,提案しようと考えている。

10.後腹膜腔疾患

後腹膜腫瘍

著者: 細木茂 ,   黒田昌男

ページ範囲:P.327 - P.330

1 はじめに
 後腹膜腔は,副腎,腎,尿管,膀胱,血管,リンパ管,神経などの多くの器官を含み,この領域の腫瘍は発生母体同様に多彩な組織型を示す。悪性腫瘍が全体の70〜80%を占める。しかし,後腹膜悪性腫瘍は,癌全体からみれば0.1〜0.2%を占める稀な疾患である。大部分は40歳から60歳にかけて発生し,性差は認められない。しかし,横紋筋肉腫や神経芽細胞腫は小児期に生じやすく,神経原性腫瘍や奇形腫は30歳以前に生じやすい。von Hippel-Lindau症候群や結節性硬化症や神経線維腫症の患者には,神経原性腫瘍が生じやすい。頻度の高い悪性腫瘍は脂肪肉腫で,ついで平滑筋肉腫や悪性線維性組織球腫である。良性腫瘍では脂肪腫や神経線維腫や神経鞘腫がある。
 後腹膜腔原発の腫瘍は,表に示すように,発生母地から中胚葉性,神経原性,胎児性および異所性に分類される。

後腹膜線維化症

著者: 窪田泰江 ,   窪田裕樹 ,   郡健二郎

ページ範囲:P.332 - P.335

1 はじめに
 本症は40〜60歳の男性に多く,後腹膜腔の疎性結合組織の線維化により,尿管や血管の圧迫狭少化を起こす(図1)。病変はL3〜S2の高さの正中部に発生し,両側性のことが多い。初期症状は易疲労感,体重減少,微熱で,次いで腹痛,腰痛が起こり,進行例では無尿,両側水腎などの症状から発見されることが多い。原因は,特発性と続発性に分類される。前者は原因不明のときに,後者は薬剤,悪性腫瘍,感染,出血,尿溢流,大動脈瘤,放射線照射などによる後腹膜腔への反応性変化で発症する。病変腫瘤性または線維性としてみられ,線維性は境界が不明瞭である。組織学的には膠原線維と線維芽細胞の増生があり,炎症性細胞の浸潤が著しい。検査所見は,BUNと血清クレアチニンの上昇,赤沈亢進,貧血,CRP上昇,自己抗体陽性,A/G比低下がみられる。
 診断は,上記の症状と検査所見の他,画像診断から容易であるが,確定診断するにはCTガイド下または開腹下の生検が必要である。治療は,腎保存を目的として,尿管カテーテル留置または経皮的腎瘻を造設する。続発性では原因疾患の治療を行う。ステロイドの奏効率は高く,使用期限は症状と検査所見を指標とするが,尿管剥離術や尿管端々吻合術の外科的治療に至ることもある。

11.副腎疾患

副腎(正常像)

著者: 牛山知己 ,   藤田公生

ページ範囲:P.336 - P.337

1 はじめに
 副腎は腎周囲脂肪織内に存在する小さな臓器であるため,画像診断に際し,解剖学的位置関係をよく理解しておく必要がある。
 右副腎は,右腎上極の内側前方に位置し,内側から内側前方を下大静脈,後方から内側を横隔膜脚,外側を肝右葉で取り囲まれている。左副腎は,左腎上極の内側前方に位置し,内側から内側前方に大動脈,前上方に小網嚢あるいは胃,前方から外側に膵,後方から内側に横隔膜脚が存在する。副腎の高さは腎の位置にも影響されるが,一般に左副腎のほうが低い位置にある。

クッシング症候群

著者: 牛山知己 ,   藤田公生

ページ範囲:P.338 - P.341

1 はじめに
 クッシング症候群は,副腎皮質グルココルチコイドの過剰分泌により種々の症状を呈する症候群で,病因によりACTH過剰分泌によるACTH依存性と,ACTH非依存性とに大別される。ACTHの過剰分泌によるものとしては,下垂体腫瘍によるクッシング病,異所性ACTH産生腫瘍があり,ACTH非依存性には,副腎皮質腺腫または癌,原発性大結節性副腎皮質過形成(ACTH-indepen-dent macronodular adrenal hyperplasia:AIMAH),原発性小結節性副腎皮質異形成(primary pig-mented nodular adrenocortical disease:PPNAD)がある1)。コルチゾール分泌に関してはクッシング症候群と同様のデータを示すが,特徴的な身体所見を欠く場合にはプレクッシングないしサブクリニカルクッシング症候群といわれている。
 クッシング症候群の主要な症候は,中心性肥満,満月様顔貌,buffalo hump,皮膚線条,皮下溢血,多毛,座瘡,高血圧,糖尿,筋力低下,骨粗鬆症,月経異常,精神異常などである。

アルドステロン症

著者: 三上修 ,   松田公志

ページ範囲:P.343 - P.347

1 はじめに
 原発性アルドステロン症(primary aldostero-nism)は,副腎皮質球状層細胞の腫瘍性病変によりアルドステロンが過剰分泌をきたすことにより発症する。本来は副腎皮質腺腫によるものを原発性アルドステロン症というが,同様の病態を示す症候群(原発性アルドステロン症候群)も(広義の)原発性アルドステロン症と呼ばれる。
 病因としては,(1)副腎皮質腺腫,(2)原発性副腎過形成,(3)特発性アルドステロン症,(4)副腎癌,などに分類される。副腎皮質腺腫が3/4を占め,原発性副腎過形成と特発性アルドステロン症が1/4である。高血圧患者の約0.5%に認められ,30〜50歳に多く,男女比は1:2で女性に多い。特発性アルドステロン症は臨床的に原発性アルドステロン症と鑑別ができないが,肉眼的に腫瘍を認めないものをいう。表に単独施設から報告された副腎腫瘍105例の一覧を示す。原発性アルドステロン症は症候性副腎腫瘍の59.5%,偶発副腎腫瘍の6.5%を占める。

褐色細胞腫

著者: 佐藤元昭 ,   高橋伸也 ,   鈴木唯司

ページ範囲:P.348 - P.351

1 はじめに
 副腎髄質より発生する褐色細胞腫は,その過剰に産生されるカテコラミンの作用により多彩な臨床症状を呈する。臨床的には高血圧の発現が最も重要であり,代謝亢進も重なり,三徴ともいうべき頭痛,発汗過多,動悸は70〜90%の症例にみられる。高血圧は発作型と持続型がみられ,血圧正常型も5〜15%に認められ,偶発腫瘍として発見されることも多い。本症は30〜40歳代と比較的若年層に多く認められ,副腎外発生,両側発生,悪性がそれぞれ10%前後認められる。本症に甲状腺髄様癌,副甲状腺腫を合併した多発性内分泌腺腫症(MEN)2A型や,さらに粘膜神経腫などを合併したMEN 2B型が稀に認められるほか,レックリングハウゼン,フォンヒッペルリンドウ病などの合併が認められている。また,家族性発生も散見される。
 特に若年者で症状が激しく,降圧剤に反応し難い高血圧患者では,常に本症を念頭に置いた診察が必要で,本症が疑われれば血中カテコラミン濃度あるいは尿中カテコラミン代謝産物を測定することで診断は比較的容易である。特に臨床症状が乏しく,血中あるいは尿中カテコラミン値が異常高値を示さない偶発腫瘍においては,メトクロプラミドなどによる誘発試験が有用である。

12.神経因性膀胱

神経因性膀胱

著者: 朴英哲

ページ範囲:P.353 - P.357

1 はじめに
 厳密には脳,脊髄,末梢神経病変に起因する排尿障害を意味するが,その基礎疾患は必ずしも容易に同定できるものではない。臨床の場では,膀胱排尿筋自体の収縮・伸展異常や心因性の排尿障害,原因不明の場合も含めて神経因性膀胱と総称される。ここでは,(1)脳血管障害やパーキンソン病をはじめとする頭蓋内病変,(2)脊損や二分脊椎などの脊髄病変,(3)直腸癌・子宮癌根治術後などにみられる末梢神経障害を代表例として挙げながら解説するが,このほかにも糖尿病や間質性膀胱炎,膀胱頸部硬化症など,神経障害だけに起因するとはいえない症例も日常の外来では多く受診する。このような疾患も含めて神経因性膀胱の仲間として取り扱うべきであると筆者は認識している。
 この疾患における尿路管理のエンドポイントは,(1)腎機能障害やVURをはじめとする上部尿路合併症の克服と予防,(2)頻尿や尿失禁,残尿や尿閉といった下部尿路症状の改善による患者のQOLの向上の2点に集約される。特にQOLに関しては,患者の求める理想状態と泌尿器科医が提供できる状態の間に食い違いがあると,長期的尿路管理が進めにくくなることがあるので,初期の段階から十分な検査を行って上部尿路合併症のリスクとQOLの改善目標を明らかにしておく必要がある。神経因性膀胱の尿路管理には,患者自身のみならず,患者家族,職場,学校などの患者環境を構成する人々の病態への理解が必須かつ最重要項目である。

13.尿失禁

尿失禁

著者: 井川靖彦 ,   石塚修 ,   西沢理

ページ範囲:P.359 - P.364

1 はじめに
 尿失禁とは「客観的に証明できる不随意な尿漏出で,このために社会的もしくは衛生的に支障を来すもの」と国際尿禁制学会は定義している1)。尿失禁は,一般的に表現型上,(1)腹圧性,(2)溢流性,(3)反射性,(4)切迫性,(5)全(真)性,の尿失禁に分類される。
 これら尿失禁の表現型は,問診上,比較的容易に区別できることが多いが,(1)尿失禁の原因・病態が不明な場合,(2)尿失禁に対する手術適応およびその術式を決定する場合には,画像診断に加えて尿流動態検査が必要となる。とりわけ,X線透視下に尿流動態検査を行うvideo-uro-dynamic study(video-UDS)は,蓄尿期および排尿期の下部尿路の形態を尿流動態と同時に評価できるため有用性が高い。

Ⅳ.Interventional Radiology

腎血管性高血圧症の治療

著者: 成松芳明

ページ範囲:P.365 - P.369

1 はじめに
 腎血管性高血圧症の治療には,降圧剤による内科療法,血行再建術による外科療法があるが,現在ではバルーンカテーテルによる経皮経管的腎動脈形成術(percutaneous transluminal angio-plasty:PTA)が治療法の中心を占めるようになっている1〜5)。Interventional radiologyとしては萎縮腎に対する機能廃絶術が施行される場合もあるが,これは腎摘除術に相当する治療法である。本稿ではPTAを中心にその概略を述べる。

ステント留置

著者: 安本亮二 ,   田中智章

ページ範囲:P.370 - P.372

1 目的
 ステントには,尿管に留置する場合と尿道に留置する場合がある。このうち,尿管ステントは結石,腫瘍,尿管狭窄などによる水腎症の改善をはかることを目的として,尿道ステントは尿道を拡張し排尿をスムーズに行わせるために施行する。このため,あらかじめ各種画像診断法にてその狭窄部位やその長さなどを調べておく必要がある。

動脈内注入療法—膀胱癌に対する一時的血流遮断下抗癌剤動注療法(BOAI)

著者: 佐藤守男 ,   光實淳 ,   河合信行 ,   谷畑博彦 ,   武内泰造 ,   増田光則 ,   山田勝之 ,   中井資貴 ,   南口博紀 ,   大川順正

ページ範囲:P.373 - P.378

1 はじめに
 膀胱癌に対するカテーテル治療としては,動脈塞栓術,化学塞栓療法,抗癌剤動注療法などが挙げられる。膀胱癌に動脈塞栓術が用いられるのは腫瘍からの出血のコントロールのためであり1,2),抗腫瘍効果を目的とすることは稀である。塞栓物質としてはゼラチンスポンジ細片が用いられることが多く,これによる阻血が動脈血流を極めて低下させるが,完全に阻血に至らず虚血壊死に陥らないためである。塞栓物質としてlipiodol,micro—capsule3〜5)などを用いた極端な阻血は,腫瘍のみならず膀胱組織にも障害を与えることになる6)
 膀胱癌は化学療法がかなり有効である。筆者らは,バルーンカテーテルを用いた一時的血流遮断下抗癌剤動注療法(balloon occluded arterial infu—sion:以下,BOAI)を膀胱癌症例に対して行い7),良好な治療効果を得てきた8〜11)。本法の概略は,Swan-Ganz typeのdouble lumen balloon catheter(図1,2)を両側内腸骨動脈に挿入し,先端のballoonを膨張させることにより一時的に血流を遮断したうえで,このcatheterを通じてその末梢側に抗癌剤を注入するものである。本法では,薬剤は血流に希釈されることが少なく高濃度のまま腫瘍部に到達し,しかも長時間滞留し作用する。また,血流改変効果も得ることができる。

生検

著者: 小島宗門 ,   沖原宏治 ,   浮村理

ページ範囲:P.380 - P.384

1 はじめに
 超音波検査やCTなどの画像診断法の向上に伴い,生検手技にも大きな変化が生じ,従来からの盲目的生検に替わり,現在では超音波やCTガイド下での生検がその主体となっている。体内の小病変に対しても生検が可能という点ではCTガイド下生検が優れているが,放射線被曝や手技の煩雑性などの問題点も多い。一方,超音波ガイド下生検はその手技も容易で,ベッドサイドでも行えるなど利点が多く,CTガイド下生検よりも臨床的にはより有用である。

Ⅴ.新しい画像診断

3次元CT

著者: 林宏光 ,   川俣博志 ,   高木亮 ,   市川太郎 ,   隈崎達夫

ページ範囲:P.385 - P.390

1 はじめに
 1972年にHounsfieldらによりX線CTが発表され,これまで得られなかった高い濃度分解能で非侵襲的に人体の横断像を得ることが可能となった。X線CTは被験者に対して同心円的にX線を照射し,その透過X線の強度を計測して断面各点の線吸収係数を求めることから断層像を得ているが,撮影中にその位置を変えないことが任意の位置の断層像を得るための大原則とされてきた。
 これに対し,高速らせんCTとはこの大原則を積極的に打ち破り,X線管を同一方向に連続回転させながら検査寝台を体軸方向に定速移動させることで,被験者をらせん状にスキャンして,その投影データを収集する新しい撮影法が可能なCT装置である。

パワードプラ

著者: 西川徹 ,   久直史

ページ範囲:P.391 - P.395

1 原理と検査の留意点
 超音波ドプラ表示には,(1)サンプルボリューム1点のみを観測するパルスドプラ法,(2)連続的に超音波を発射する連続波ドプラ法,(3)ドプラ信号をカラー表示するカラードプラ法,の3つがある。
 パルスドプラ法は,直交検波によって取り出されたドプラ信号をfast Fourier transform(FFT)分析にかけ,サンプルボリューム内の赤血球の流速分布を表示している。これに対しカラードプラ法は,FFT分析を用いず,直交検波器の出力信号の"振幅値"やその2乗値である"パワー値","ドプラ偏位周波数"の値から"流速の平均値"を算出している。前者のパワー値をカラー表示する場合をパワー表示(power Doppler imaging:PDI),後者の平均流速値をカラー表示する場合を流速表示と区別して呼んでいる。

MRアンギオグラフィー

著者: 津田恭 ,   嗚海善文 ,   村上卓道 ,   高橋哲 ,   金東石 ,   中村仁信

ページ範囲:P.396 - P.401

1 MRアンギオグラフィーの概念と分類
 MRアンギオグラフィーは血管を画像化する方法(vascular imaging)の一手法である。従来の血管造影と異なりカテーテルを用いる必要がなく,その侵襲性の低さから,注目されてきた。MRIでは,血流などの流体からの信号と静止部位からの信号は異なることを利用し,無侵襲で血管を画像化できる。また,造影剤を経静脈性に投与することによって,より良好なコントラストで血管像を得ることも可能である。このようなMRIを用いた血管系の形態の画像化手法の総称が,MRアンギオグラフィー(MR angiography)である。

MR urography

著者: 廣橋伸治 ,   廣橋里奈 ,   尾野亘 ,   大倉享 ,   上田耕司 ,   高正隆 ,   武輪恵 ,   北野悟 ,   大石元 ,   打田日出夫

ページ範囲:P.403 - P.408

1 はじめに
 尿路を非侵襲的に画像化することは,経静脈性造影剤を用いた排泄性尿路造影に始まり,現在では高速撮像法の発達によりCT urographyが可能となり,さらにMRI用経静脈性造影剤を用いたMR urographyも加わった。一方では,MRIのT2強調像が著しく高速化されたことにより,いわゆるhydrographyが可能となり,胆管膵管系に応用されたものはMR cholangiopancreatography,脊髄に応用されたものはMR myelographyと呼称されており,この技術を尿路に応用したものもMR urographyと呼称されている。
 2種類のMR urographyが存在する中で,本稿では,混乱を避けるために経静脈性造影剤を用いたMR urographyを造影MRU,hydrographyの技術を応用した経静脈性造影剤を用いないMR urographyを非造影MRUと定義し,両者の撮像方法と臨床応用について,われわれの経験を基に,若干の文献的考察を加えて述べる。

直腸内コイルを用いた前立腺のMRI

著者: 今井裕 ,   平松京一 ,   中島淳 ,   村井勝

ページ範囲:P.409 - P.414

1 はじめに
 前立腺癌は本邦でも生活の欧米化や世界第一位の高齢化社会を反映して,その罹患率および死亡率は今後急速に増加すると推測される。前立腺癌の治療方針は各施設で多少異なり完全には統一されてはいないが,いずれにしても治療法は腫瘍の病期診断,病理組織所見,および患者の年齢や全身状態に基づいて決定される。特に癌の病期診断においては前立腺内にとどまる腫瘍と被膜を超えて周囲組織へ浸潤する腫瘍を鑑別することが重要である。前立腺癌の診断には指診や前立腺特異抗原(PSA)のほかに,最近ではMRIや超音波検査といった画像診断の進歩もめざましく,多くの施設で盛んに行われるようになった。
 本稿では,直腸内コイルを用いたMRIによる前立腺疾患の診断について概説する。

Ⅵ.メディカルエッセイ

患者の話をよく聞き,もっと触ってみろ!

著者: 内藤克輔

ページ範囲:P.22 - P.22

 当教室の回診前には重症患者や新しく入院してきた患者のブリーフィングを行っている。3〜4年前の回診前のことである。ある研修医が転移性膀胱癌患者を受け持っており,CTを指しながら,「膀胱癌はS状結腸を巻き込み(周囲まで浸潤していることを意味しているらしい),イレウス状態です」と説明した。なるほど膀胱癌は膀胱外まで浸潤しているが,同時に供覧されたKUBをみると腸管内ガス像は多くなく,イレウスとは思えない。患者を診ればイレウスかそうでないかはわかると思って,他の教室員に対して恥をかかせないようにと研修医の意見を取り入れたように見せかけ,「外科医と早急に相談してください」といい,ブリーフィングを終わった。
 いざ回診が始まり,その患者の前に立ったとき,患者は朝食を終えて比較的元気にベッド上に座っているではないか。当研修医に「イレウスなのにどうして食事が出ており,胃管が留置されてないのか?グル音は聴いた?お腹を診察した?」と尋ねると,「グル音は聴いておりません。お腹も診察しておりません。しかし,CTのレポートに"膀胱癌はS状結腸を巻き込みイレウスの状態でしょう"と書いてあります」と"シャーシャー"として答えるではないか。開いた口が塞がらないとはこのことである。画像診断のレポートだけを読み,患者を全然診察,特に触診をしない研修医が増えていることは薄々わかっていたのであるが……。部屋を出た途端"カミナリ"が落ちたことはいうまでもない。

画像診断と原発性上皮小体機能亢進症

著者: 小出卓生

ページ範囲:P.48 - P.48

 原発性上皮小体機能亢進症の診断は,ご存じの通り血清カルシウムの上昇やPTHの上昇と随伴諸症状に基づくものである。泌尿器科領域では,再発性尿路結石症や多発性尿路結石症の原因精査の過程で血清カルシウムの上昇などに気づくと,もしかして上皮小体機能亢進症ではないかと血が騒ぐ。上皮小体機能亢進症の非侵襲的術前画像診断法としては,頸部超音波断層法,CT,シンチグラフィーとせいぜいMRIを行い,腫大した上皮小体の部位診断を試みる。しかし,上皮小体は「小体」と呼ばれるにふさわしく,正常上皮小体はきわめて小さく,ときに機能亢進を惹起する腺腫の大きさといっても知れた大きさに過ぎないこともままならずある。生化学的,臨床的には立派な上皮小体機能亢進症患者においても,画像診断による術前部位診断が腫大上皮小体を描出できないことは少なくない。いや,描出されるのは半数くらいかも知れない。
 ここで,手術的治療を逡巡し経過観察に持ち込みたくなる泌尿器科医の気持ちは大いに理解できるが,手術を避けては上皮小体機能亢進症の是正をはかる方法は今のところない。腫大上皮小体の部位情報なしに行う頸部手術はstressfulでもあり,上皮小体手術の真骨頂でもある。かつて超音波もCTもなかった時代に上皮小体手術を開拓した恩師の手術から盗みとったノウハウを駆使して,腫大上皮小体の検索を行うときの期待感と不安感が上皮小体手術の醍醐味かもしれない。

思い込みの恐さ

著者: 大島伸一

ページ範囲:P.72 - P.72

 1980年の泌尿器科紀要の26巻に「体外腎手術による腎内動静脈瘻の治療」というタイトルで報告してあるから,1970年代の終わり頃のことである。
 腎臓の生検後に血尿を主訴として受診された16歳の男性の患者さんのことである。腎生検後に血尿が出現し,1か月様子をみたが止まる様子はない。初診時かなりの血尿で放置しておくと貧血が進行するのではないかと思われた。理学的所見では,左腎臓部位に一致して背中側から血管雑音が聴取できる。腎臓の生検後に発症しているから,腎内血管の何らかの損傷だろうと予測した。腎動脈造影を行ったところ,左の腎臓の区域動脈上前肢から弓状動脈に移行するあたりに3個の動脈瘤を伴った動静脈瘻を発見した。超選択的腎動脈造影の技術はまだなく,選択的腎動脈造影で動静脈瘻は明らかに撮し出された。

救急棟での腹痛患者への泌尿器科的対応

著者: 村上信乃

ページ範囲:P.134 - P.134

 当院は救急外来にも重点をおいており,約160名の全科の医師全員が病院近接地に居住しているので,1次から3次までの救急患者(毎月約3,500名)すべてへの対応が可能である。救急棟には常時2〜4人の当直医(3〜6年次の全科の若手医師が交代で当直し,その人数は曜日,時間帯によって異なる)が待機しており,受診した患者はまずその救急当直医が診察して選別し,1次救急の患者は自分たちで処置するが,2次以上の専門的治療を要する疾患では自宅で待機している専門医を呼ぶシステムとなっている(どの科でもまず若手の医師がかけつけ,手に余れば上級医を呼ぶようである)。
 泌尿器科も毎月90名前後の救急患者の診療にあたっているが,その中で最も多い疾患は腹痛を主訴とする尿路結石である。救急当直医やファーストコールの専門医として呼ばれた若手泌尿器科医にとって,腹痛の鑑別は難しく,しばしば急性虫垂炎などの緊急手術の適応となる疾患を緊急の治療を必要としない(鎮痛剤使用以外に)尿路結石として扱い,危うく手遅れになりそうなヒヤッとした経験を私は何度かした。

画像診断

著者: 黒田昌男

ページ範囲:P.168 - P.168

 今から20年余り前,筆者が研修医であった時期には,泌尿器科領域の画像診断には排泄性尿路造影,逆行性腎盂造影,尿道膀胱造影,血管造影などしかありませんでした。超音波検査もその黎明期にあり,カラードップラーなどはなく,診断能力はあまり高いものではありませんでした。排泄性尿路造影などで腎細胞癌が疑われると,必ず選択的腎動脈造影が行われていました。精巣腫瘍の後腹膜リンパ節転移は,リンパ管造影と排泄性尿路造影の尿管の走行とから診断をしていました。今から考えるとかなりあやふやな診断であったといわざるをえません。CTが開発され,その画像から得られる情報がすばらしいものであることが理解されるようになると瞬く間に日本中に普及して,画像診断の能力は泌尿器科領域を含めて飛躍的に進歩しました。筆者も受け持ち患者のCTの画像を見て,侵襲の少ない検査で,しかも再現性および客観性のあるすばらしい検査であると驚嘆しました。
 この再現性,客観性というのは,医学を自然科学の一分野とするのなら,きわめて重要なことであると思われます。なぜなら,再現性,客観性があるものが自然科学であり,それらが欠けたものは人文科学,芸術,伝統工芸になってしまうからです。医学が進歩するためには「自然科学」であることが重要で,「芸術」では学問としての進歩は望むべくもありません。これは画像診断のみにいえることではなく,他の検査法や手術手技にも当てはまります。

雑感

著者: 香川征

ページ範囲:P.190 - P.190

 私が医療保険について初めて考えさせられたのは,透析療法に出会った時でした。大学卒業後2年目の昭和45年に,私は愛媛県立中央病院で初めて透析療法を経験しました。その当時,四国で透析療法が可能な施設は徳島大学医学部泌尿器科と愛媛県立中央病院以外にはありませんでした。もちろん透析療法は始まったばかりで,当然のことながら今から思えば不十分なことばかりでした。その当時,国民健康保険の家族は5割の自己負担があり,経済的理由で透析を断念せざるを得なかった患者さんが少なからずいました。また透析治療が長引けば,やむをえずみかん畑や水田を売り払いながら透析を続けた人もみてきました。当時医師になりたての私にはそれがとても重苦しくのしかかっていました。
 しかし,今やわが国の透析医療は世界でもトップクラスにあり,まさしく隔世の感があります。そして保険制度の改革により経済的理由で透析ができない人もいなくなり,その当時高齢を理由に透析しなかった人々も現在では透析が行われています。しかし,今では透析医療は医療財政を圧迫しているとしてその削減策が考えられ,一部は実行に移されています。現在,厚生省は根本的医療改革に心血を注いでいますが,どんな案が出ても首を傾げるようなものばかりです。

尿管結石とESWL

著者: 高本均

ページ範囲:P.254 - P.254

 尿管結石は泌尿器科外来で最も多い疾患の1つであり,その診断は臨床症状とKUB上の石灰化陰影と腎部USでの腎盂腎杯の拡張により容易である。しかし,X線陰性結石や仙腸関節部と重なった中部尿管結石は,その診断にDIP,CT,さらにはRPなどの画像診断を要することがある。その際,DIPやCTはよく行われるが,RPはやや侵襲的な検査であり,技術と時間を要するため,忙しい外来では必要と思われても省略される場合がある。
 最近,血尿と蛋白尿で紹介された72歳の男性で,KUBで左仙腸関節部に結石を疑う6×6mmの石灰化陰影を認めた症例を経験した。しかし,USで左水腎はなかった。膀胱鏡検査で膀胱内に出血巣はなく,5分経過しても尿管口からの尿流出はなかった。DIPで両側腎盂腎杯の造影がやや淡いが,左水腎はなかった。左上部尿管は造影されているが中部尿管は造影されず,石灰化陰影との関係が判然としなかった。ところが,CTでは仙腸関節上縁から約3cm下方で左尿管に一致して直径3mm大の石灰化陰影があり,尿管結石の可能性ありと診断された。そこでESWLが予定された。しかし,ESWLで尿管結石を治療する場合,尿管結石であると確定診断することが絶対条件である。そこで念のためにRPをすることとし,結石が確認されればそのまま経尿道的尿管結石砕石術(TUL)を行う予定で入院となった。

副腎画像診断のpitfall

著者: 松田公志

ページ範囲:P.270 - P.270

 腹腔鏡下副腎摘除術を行うようになって,副腎腫瘍の紹介症例が多くなった。多くは原発性アルドステロン症やクッシング症候群であり,内分泌診断とともに画像診断も確定して紹介されるので,手術予定を組んで手術をするばかりである。また,他病院から依頼を受けて,麻酔のかかった状態で初めて画像と向き合うこともないわけではない。CT,MRIの進歩で診断に問題のあることはほとんどなくなったが,やはり多数例を経験すると冷汗をかくような経験もする。
 他院で褐色細胞腫の左副腎腫瘍摘除術を依頼された症例である。左副腎部に2×2.5cmの明らかな腫瘤があり,放射線科医も太鼓判を押している。内分泌学的にも褐色細胞腫である。型通りの経腹膜前方到達法で左副腎静脈を切断し,副腎周囲の剥離を行うが,表面から腫瘍は見えない。「上極の腫瘍で,脂肪に埋もれて存在するのであろう」とあまり深く考えずに剥離を進め,わずかに上極の剥離を残すのみとなった時点で腫瘤のないことに気づいた。再度CTを上下のスライスにわたってよく見ると,腫瘤の2スライス上で脾臓とつながりかけている(図)。あわてて腹腔鏡で脾臓を観察すると一部切痕があり,分葉したようになっている。

「一度でいいから家族旅行がしたい」

著者: 井川靖彦

ページ範囲:P.276 - P.276

 U. T. さん(32歳,女性)が尿失禁を主訴に私の外来を訪れたのは1994年8月のことであった。1992年5月に両下肢麻痺で発症し,上部胸椎,縦隔,肝,胃に及ぶ悪性リンパ腫(臨床病期Ⅳ)の診断にて化学療法を受けたものの部分緩解までしか得られず,初診時現在も経口でVP16を内服中であるという。第5胸髄以下の完全麻痺で,尿路については1993年5月まで尿道留置カテーテルで管理されていたが,以降は叩打排尿で"オムツ’で対応していた。両下肢の痙性が強いため,尿道からの自己導尿は不能であった。IVP上,膀胱結石を認めたためにまず砕石術を行い,その上で膀胱収縮抑制薬を投与したが,反射性尿失禁は改善しなかった。1995年6月,CT上,傍大動脈および骨盤内リンパ節の多発性腫脹を指摘され,悪性リンパ腫は進行状態にあり,あともっても2〜3年と内科の主治医から本人にも宣告されていた。8歳になる娘さんがいて,「一度でいいから尿失禁のことを気にしないで娘と夫と3人で家族旅行がしたい」と切望していた。夫も本人が望むなら手術的治療でもよいから尿失禁を治してあげてほしいとのことであった。VideoUDS上は排尿筋外尿道括約筋協調不全を伴う排尿筋過反射で,膀胱尿管逆流は認めなかった。内科の主治医とも相談し,結局は手術に踏み切ることになった。
 1995年7月28日,S状結腸利用膀胱拡大術および虫垂を利用した禁制臍ストーマ造設術を同時に施行した。

尿道造影と前立腺肥大症の話

著者: 名出頼男

ページ範囲:P.342 - P.342

 尿道造影は,私たちが入局した頃は主として前立腺肥大症患者が対象で,逆行性に造影剤を注入する方法に限られて行われていた。今日でもこれが主体で行われるが,ほとんど前部尿道狭窄を見るぐらいの役にしか立たない。当時は先輩に逆行性造影の写真を見せられて,内尿道口が狭く見え,造影剤が膀胱内にジェット流様に吹き上げるのを見て膀胱頸部が狭くなっていることの証左として教えられていた。しかし,この現象はほとんどが反射的に内尿道口を収縮させた結果起こっているもので,その証拠に排尿時に撮影してみると,内尿道口が開大して見える例が多く,また逆行性操作で同じように見える症例でも症例ごとに開き方が大きく異なっていることから,決して器質的な病態によって起こっているものではないことがよくわかる。こうしてみると,逆行性尿道造影のみで診断をしていたことは,何のことはなく単に手抜き作業による誤診に過ぎなかったのだということになる。
 また内視鏡的には,膀胱頸部硬化症(この名称あるいは病態は,かつて本邦では土屋文雄先生が東京逓信病院の現役でおられた頃によく口にされていたが,アメリカ医学ではいまだこのままのものとして認知されてはおらず,英国で膀胱頸部線維化症として文献に記載がある程度であった。

超音波診断あれこれ

著者: 岡田謙一郎

ページ範囲:P.358 - P.358

 大都市では経験されないことだが,10月に入ると当院では外来患者数が増え忙しくなる。稲の収穫をメインとした農作業も一段落し,雪が降り始める前に病院で懸案の身体の手入れも済ませておこう,という背景による。月末のそんな夕べ,カンファレンスの最中に近郊のある病院から,「68歳の男性,膀胱癌による尿閉で尿毒症状態の患者がいるが当院では処置できない。これから救急車でそちらに向かうので引き受けてほしい」との依頼電話があった。膀胱腫瘍で尿閉とはいささか腑に落ちないなと思いつつも,電話を受けた病棟医長の話では,「超音波で膀胱の頸部に大きな腫瘍塊があり,壁全体にも累々と腫瘍性病変がみられる」との由。BUNは100mg以上,血清クレアチニン値も9mg/dlを超えており,高齢ということもあって即刻入院していただくことにした。
 下腹部は膨隆し,一見して尿閉状態と察せられる。患者は昔風のドイツ語でいうとleidendではあるが,進行した癌患者にみられるkachektischな印象はない。「あっ,これは」,数年前の経験が思い浮かんだ。超音波のプローベを当てると,なるほど尿の充満した膀胱腔内中央に突出する球状のmassをみる。これが何であるか,泌尿器科医ならすぐに見当がつく。プローベを足方に向けると,まぎれもなく腫大した前立腺であった。腎は当然ながら明らかな水腎症,すぐにカテーテルを留置した。状態が安定するのを待って手術し,患者さんは事なきをえた。

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

76巻13号(2022年12月発行)

特集 これだけは知っておきたい! 泌尿器科診療でも活きる腎臓内科の必須知識

76巻12号(2022年11月発行)

特集 ブレずに安心! 尿もれのミカタ

76巻11号(2022年10月発行)

特集 限局性前立腺癌診療バイブル―このへんでキッチリと前立腺癌診療の“あたりまえ”を整理しよう!

76巻10号(2022年9月発行)

特集 男性不妊診療のニューフロンティア―保険適用で変わる近未来像

76巻9号(2022年8月発行)

特集 前立腺肥大症(BPH)の手術療法―臨床現場の本心

76巻8号(2022年7月発行)

特集 泌尿器腫瘍における放射線治療―変革期を迎えた令和のトレンド

76巻7号(2022年6月発行)

特集 トラブルゼロを目指した泌尿器縫合術―今さら聞けない! 開放手術のテクニック

76巻6号(2022年5月発行)

特集 ここまで来た! 腎盂・尿管癌診療―エキスパートが語る臨床の最前線

76巻5号(2022年4月発行)

特集 実践! エビデンスに基づいた「神経因性膀胱」の治療法

76巻4号(2022年4月発行)

増刊号特集 専門性と多様性を両立させる! 泌尿器科外来ベストNAVI

76巻3号(2022年3月発行)

特集 Female Urologyの蘊奥―積み重ねられた知恵と技術の活かし方

76巻2号(2022年2月発行)

特集 尿路性器感染症の治療薬はこう使う!―避けては通れないAMRアクションプラン

76巻1号(2022年1月発行)

特集 尿道狭窄に対する尿道形成術の極意―〈特別付録Web動画〉

75巻13号(2021年12月発行)

特集 困った時に使える! 泌尿器科診療に寄り添う漢方

75巻12号(2021年11月発行)

特集 THEロボット支援手術―ロボット支援腎部分切除術(RAPN)/ロボット支援膀胱全摘除術(RARC)/新たな術式の徹底理解〈特別付録Web動画〉

75巻11号(2021年10月発行)

特集 THEロボット支援手術―現状と展望/ロボット支援前立腺全摘除術(RARP)の徹底理解〈特別付録Web動画〉

75巻10号(2021年9月発行)

特集 今こそ知りたい! ロボット時代の腹腔鏡手術トレーニング―腹腔鏡技術認定を目指す泌尿器科医のために〈特別付録Web動画〉

75巻9号(2021年8月発行)

特集 ED診療のフロントライン―この一冊で丸わかり!

75巻8号(2021年7月発行)

特集 油断大敵! 透析医療―泌尿器科医が知っておくべき危機管理からトラブル対処法まで

75巻7号(2021年6月発行)

特集 前立腺肥大症(BPH)薬物治療のニューノーマル―“とりあえず”ではなくベストな処方を目指して

75巻6号(2021年5月発行)

特集 躍動するオフィスウロロジー―その多様性に迫る!

75巻5号(2021年4月発行)

特集 前立腺癌のバイオロジーと最新の治療―いま起こりつつあるパラダイムシフト

75巻4号(2021年4月発行)

増刊号特集 泌尿器科当直医マニュアル

75巻3号(2021年3月発行)

特集 斜に構えて尿路結石を切る!―必ず遭遇するイレギュラーケースにどう対処するか?

75巻2号(2021年2月発行)

特集 複合免疫療法とは何か? 腎細胞癌の最新治療から学ぶ

75巻1号(2021年1月発行)

特集 朝まで待てない! 夜間頻尿完全マスター

74巻13号(2020年12月発行)

特集 コロナ時代の泌尿器科領域における感染制御

74巻12号(2020年11月発行)

特集 泌尿器科医のためのクリニカル・パール―いま伝えたい箴言・格言・アフォリズム〈下部尿路機能障害/小児・女性・アンドロロジー/結石・感染症/腎不全編〉

74巻11号(2020年10月発行)

特集 泌尿器科医のためのクリニカル・パール―いま伝えたい箴言・格言・アフォリズム〈腫瘍/処置・救急・当直編〉

74巻10号(2020年9月発行)

特集 令和最新版! 泌尿器がん薬物療法―手元に置きたい心強い一冊

74巻9号(2020年8月発行)

特集 泌尿器腫瘍の機能温存手術―知っておくべき適応と限界

74巻8号(2020年7月発行)

特集 これが最新版! 過活動膀胱のトリセツ〈特別付録Web動画〉

74巻7号(2020年6月発行)

特集 小児泌尿器科オープンサージャリー―見て学ぶプロフェッショナルの技〈特別付録Web動画〉

74巻6号(2020年5月発行)

特集 高齢患者の泌尿器疾患を診る―転ばぬ先の薬と手術

74巻5号(2020年4月発行)

特集 ここが変わった! 膀胱癌診療―新ガイドラインを読み解く

74巻4号(2020年4月発行)

増刊号特集 泌尿器科診療の最新スタンダード―平成の常識は令和の非常識

74巻3号(2020年3月発行)

特集 泌尿器科手術に潜むトラブル―エキスパートはこう切り抜ける!

74巻2号(2020年2月発行)

特集 いま話題の低活動膀胱―これを読めば丸わかり!

74巻1号(2020年1月発行)

特集 地域で診る・看取る緩和ケア―泌尿器科医として知っておくべきこと

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら