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雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科54巻4号

2000年03月発行

雑誌目次

増刊号特集 泌尿器科外来診療—私はこうしている

企画・編集にあたって

著者: 村井勝

ページ範囲:P.6 - P.7

 「泌尿器科学」は「外科学」の一部であり,そのsubspecialityであることは論を俟たない。したがって,その臨床は手術が中心となる。泌尿器科患者のほとんどは,まず外来を受診することから始まる。特に泌尿器科で扱う疾患の中には境界領域の疾患も多いことと,患者自身の医学的知識不足のために,内科をはじめとする他科を受診したのちに泌尿器科を受診することも少なくない。したがって,泌尿器科診療の基本は外来での診療にあるといえる。さらに最近は,アメリカで広く行われている「日帰り手術」に代表されるように,なるべく入院させずに外来で治療するということも目指されている。このような観点から,今後ますます外来診療が重要になってくるものと思われる。
 本増刊号では,わが国における泌尿器科臨床の第一線で活躍されている先生方に,日頃,外来診療をどのように行っておられるかを詳細に記述していただいた。

Ⅰ.主訴からみた診断指針

疼痛

著者: 横尾彰文 ,   廣瀬崇興

ページ範囲:P.9 - P.12

1 はじめに
 泌尿器科領域の疾患で疼痛を主訴とするものは多く,診断を進める上で注意を要する。個々の疾患については他項目に譲るとして,ここでは主に疼痛の機序や種類と部位別疾患などに視点をおいて解説したい。

腫瘤(腹部,鼠径部・陰嚢)

著者: 後藤俊弘

ページ範囲:P.13 - P.17

 腫瘤は患者自身が,あるいは乳幼児では両親がそれを触知することによって発見されることが多い。しかし,近年では超音波検査をはじめ,CTscan, MRIなどの画像診断法の進歩によって,体外から触知できない腫瘤が発見される機会も増加してきた。このような症例も含めると,腫瘤性病変として発見されるのは腫瘍,嚢胞,貯留嚢腫,炎症性腫瘤,動脈瘤などの病的なものと,正常臓器の腫大や位置異常などである。したがって,腫瘤性病変の診断に際しては,その由来(本態)を明らかにして,治療の要否や緊急性の有無を的確に判断することが大切である。
 ここでは,①腫瘤性病変の診断手順,②腫瘤の存在領域別にみた鑑別疾患,③泌尿器科領域の腫瘤性病変の鑑別ポイントを概説する。

排尿障害

著者: 西沢理 ,   井川靖彦 ,   石塚修 ,   関聡 ,   佐藤智哉

ページ範囲:P.19 - P.22

1 はじめに
 排尿障害に対する診断は,下部尿路機能を蓄尿時と排出時とに区分して膀胱と尿道の機能を評価することである。具体的には国際尿禁制学会の提案した下部尿路機能分類1)(図1)を利用する。診断を進めるに当たり,患者に対して細かい気配りをしながら,蓄尿障害と排出障害のいずれが主要なのかを明らかにし,さらに,膀胱と尿道のいずれの病変が重要であるのかを決定することが必要となる。

血尿

著者: 丸茂健 ,   村井勝

ページ範囲:P.23 - P.27

1 はじめに
 血尿は,尿コップに尿をとり,明らかに血液の混入と判断できる肉眼的血尿と,尿沈渣を検鏡して赤血球の排泄が認められる顕微鏡的血尿に分類される。また,疝痛発作,排尿時痛,発熱,浮腫,高血圧などの随伴症状を伴う症候性血尿と,これらの症状を欠き,血尿のみを認める無症候性血尿に分類される。血尿は尿路疾患の重要な症候の1つであるが,その原因は多岐にわたり,訴え,年齢,性別,既往歴,診察所見をもとに検査を行い,診断を下す必要がある。

膿尿

著者: 荒川創一

ページ範囲:P.29 - P.32

1 はじめに
 一般に膿尿は尿路感染症の存在を示す客観所見である。泌尿器科外来において来院の契機となる主訴は,大きく分けて,①尿の性状の異常,②排尿または蓄尿の異常,③疼痛,④陰嚢内容などの腫脹または腫大,に4類型化できる。この中で,尿性状の変化に患者自身が気付いて受診する場合の多くは血尿である(前項参照)。それに対して,混濁尿を主訴として来院することは比較的少なく,混濁尿の中でも膿尿については,尿路感染症の自覚症状があれば,そのほうが主訴となっていることが一般的である。しかし,尿路カテーテル留置例では,無症状の尿路感染であっても,蓄尿バッグの貯留尿や管内の尿が混濁していることに気付いて受診することは少なくない。
 本稿では,膿尿をみたときの診断について,概説してみたい。

Ⅱ.外来検査法のポイント

視診,触診,直腸診

著者: 保坂義雄

ページ範囲:P.33 - P.39

1 はじめに
 外来診療は初診と再来に大別される。さらに,急患への対応を別に考える必要がある。初診では問診表記入事項を参照にして,主訴,現病歴,既往歴,家族歴,生活歴,常用薬,特記事項の有無などを過不足なく聴取し,次いで,身体的所見を要領よく診察し記載する。問題点を整理し,緊急性を判断し,検査診断手順を考える。当座の治療方針を立てるが,必ずしも直ちに治療を開始する必要のないことも多い。初診当日に施行可能な検査を行い,可及的に次回の予定を決めておく。泌尿器科外来では尿検が必須であるが,沈渣を医師自身が鏡検することが望ましい。検査施行日に結果の出ない検査も多く,適宜勘案して診療スケジュールを想定し,カルテに記載しておく。次回は検査を予約することも,適宜再来でよいこともあるが,患者が次回どうしたらよいか迷わないようにしておくことが大切である。
 一般に,再来の際は始めに前回受診以来の状況を尋ね,新しい検査結果があれば結果の意味を検討し患者に説明する。治療が先行すると,症状や所見が改善し診断が不正確ないし困難になることがある。癌や難病患者の経過観察では,定期検査の予定を確認することも忘れないようにする。

尿検査,分泌物検査

著者: 武田肇 ,   西尾俊治 ,   横山雅好

ページ範囲:P.40 - P.44

尿検査
1 はじめに
 尿検査は泌尿器科外来診療における最初の検査であるとともに,最も重要な検査であり,適正に管理,施行された尿検査からは極めて多くの情報が得られ,needleless biopsyとたとえられるほどである。
 近年,検査室における尿検査が一般化しており,泌尿器科医自身が検鏡しない病院が多くなってきているが,常に臨床的見地から尿検査の精度管理を行うことは泌尿器科医の責務である。

腎機能検査

著者: 上田昭一 ,   西一彦

ページ範囲:P.45 - P.48

1 はじめに
 腎機能検査には多くの方法があるが,両腎の機能を合わせて全体として観察する総腎機能検査と,左右の腎機能を区別して観察する分腎機能検査とに分けられる。
 内科領域で扱われる腎疾患の多くは両側の腎が平等にびまん性に侵されるので,左右腎の障害度を区別する必要はほとんどない。また,全身疾患や手術などに際して,ホメオスターシス保持の観点から腎機能の定量的な把握が望まれる場合にも,両側腎全体の機能を総合的に観察することが必要である。これらの場合に施行されるのが総腎機能検査である。

尿路結石症における代謝系検査

著者: 戸澤啓一 ,   郡健二郎

ページ範囲:P.49 - P.51

1 はじめに
 尿路結石症の60〜80%は基礎疾患の明らかでない特発性結石症と呼ばれるもので,1〜2%は遺伝性疾患,残り20〜40%がその他の基礎疾患に関連して結石を発生してくる。結石症の診断に際しては,こうした基礎疾患の発見に努める。特に,種々の内分泌異常疾患,代謝異常疾患に伴って尿路結石が発生することは古くから注目されており,多くの研究がされてきた(図)。
 本稿では,代謝異常疾患に伴った尿路結石症診断を検査を中心に概説する。

内分泌学的検査

著者: 神田滋 ,   金武洋

ページ範囲:P.53 - P.56

1 はじめに
 泌尿器科外来を訪れる患者において,内分泌異常を念頭におく必要のある疾患はかなり多岐にわたる。本稿では,各症候に合わせて,どのような疾患を疑い,どのような検査を外来で行う必要があるかを述べる。

尿道膀胱鏡検査

著者: 坪井成美 ,   秋元成太

ページ範囲:P.57 - P.62

1 はじめに
 膀胱鏡検査は泌尿器科医のみが行う内視鏡検査であり,現在,外科系各科で行われるようになってきた内視鏡検査,手術の基礎となったものである。膀胱尿道鏡検査は,経尿道的切除術を始めとする内視鏡手術における内視鏡の扱い方の基礎となるものである。男性尿道の挿入時には,尿路の立体的解剖学的理解が必要であり,理解度によって被検者に与える疼痛に差が生じる。この局所解剖の理解が尿路全体の立体的解剖学を頭の中で組み立てる第一歩である。何を目的として検査を行うかによって,使用する内視鏡の種類,太さ,機能性,レンズ角なども異なってくる。事前に準備する物品も自ずから違い,検査中にあれがない,これがないという事態を避けるように心掛けなければならない。

ウロダイナミック検査

著者: 菅谷公男

ページ範囲:P.63 - P.68

1 はじめに
 排尿障害のある症例の診察では,問診,身体検査,尿検査や超音波検査から下部尿路疾患を診断し,膀胱や尿道の機能を推定して治療を開始する。しかし,訴えが不明瞭で下部尿路機能が推定できない場合や初回治療に反応しない場合,現在の下部尿路機能の程度を記録しておきたい場合にはウロダイナミック検査で蓄尿期と排出期のそれぞれの膀胱と尿道機能を評価する。
 ウロダイナミック検査には,尿流測定,残尿測定,膀胱内圧測定,外尿道括約筋筋電図,圧流量検査,尿道内圧測定などがあるが,必要に応じてこれらの検査を組み合わせて行う。

超音波検査—泌尿器疾患のスクリーニングを中心に

著者: 小島宗門

ページ範囲:P.69 - P.72

1 はじめに
 超音波検査は非侵襲性検査の代表的なものであり,今日の泌尿器科外来診療では必要不可欠なものとなっている。ここでは,個々の患者に応じた泌尿器科疾患のスクリーニングにおける超音波検査の実際とその有用性について解説する。

腹部単純撮影検査,静脈性尿路造影検査,逆行性腎孟造影検査

著者: 冨田善彦

ページ範囲:P.75 - P.81

1 はじめに
 これまで腹部単純撮影(いわゆるKUB)と排泄性尿路造影(intravenous urography:IVU)は,泌尿器科一般診療において中心的な検査であった。最近ではエコー,CT,MRIといった他の画像診断装置が普及し,ある程度の規模の総合病院になると依頼用紙を1枚書けば放射線診断医による読影によりレポートが返ってくるといった状況も生まれつつあり,KUB,IVUがルーチンのように行われることは少なくなってきているように思う。しかし,依然として,腹部単純撮影とIVUにより得られる情報には,他の両像診断法では得難いものがあり,泌尿器科医にとっては不可欠の検査といってよい。
 また,逆行性腎孟造影(尿路造影)(retrograde pyelography:RP)は,IVUと同様に上部尿路疾患の診断,特にIVUによる描出不良の際やヨードアレルギーの症例には頻回に行われた検査であるが,最近では細径尿管鏡の開発と普及により,その施行頻度は少なくなった。しかし,女性では無麻酔で,男性では仙骨麻酔のみでも施行でき,尿管鏡による検査よりも侵襲が少ないこと,通常,外来診療に用いられる膀胱尿道鏡と尿管カテーテルがあれば行えることもあり,依然として有用かつ必要な検査である。

排尿時膀胱尿道造影検査,逆行性尿道造影検査

著者: 冨田善彦

ページ範囲:P.82 - P.86

1 はじめに
 排尿時膀胱尿道造影検査は,下部尿路の機能的疾患の情報も得られるとされているが,膀胱尿管逆流の有無や後部尿道弁の診断の際に用いられるのが主であろう。また,逆行性尿道造影検査はかつて前立腺肥大症,前立腺癌などの前立腺疾患にも行われてきたが,最近では前立腺疾患の診断には経直腸超音波検査が汎用されつつあり,その意義は限られてきている。現在の一般的な適応としては,尿道外傷や尿道狭窄,特に狭窄が1箇所ではなく複数箇所存在する場合,または何らかの理由で内視鏡が使用できない場合であろう。いずれにしても,泌尿器科医が会得しなければならない手技である。
 本稿では,排尿時膀胱尿道造影検査,逆行性尿道造影検査について,実際の施行法を中心に述べたい。

CT検査

著者: 盛谷直之 ,   宮川征男

ページ範囲:P.87 - P.97

1 はじめに
 泌尿器科領域に対する外来検査として,CTはエコー,KUB,IVPに次いで不可欠な画像診断法となっている。特に,外来では疾患名の診断だけではなく,症候とか症状の原因精査を目的として利用することも多く,実際には血尿,疼痛,頻発する尿路感染症,不明熱などにCT検査を施行している。
 本稿では,CT検査の基本と,外来診療におけるCT検査の適応と,各疾患の診断のポイントについて,症例を呈示して概説する。

泌尿器科領域のMRI診断

著者: 谷本伸弘 ,   村井勝

ページ範囲:P.99 - P.109

1 はじめに
 MRIが泌尿器科領域の画像診断に応用されるようになってから10年余りが経過した。しかし,多くの泌尿器科医にとってはMRIは「むずかしい」と敬遠されがちで,見慣れてわかりやすいCTを依頼することが多いと思われる。しかし,MRIの特長であるX線CTよりも高い画像コントラストと,画豫を構成するパラメータの豊富さ,さらに断層面選択の任意性をうまく利用すれば,非常にユニークで重要な情報を得ることができる。ここでは,当院での高磁場MRI装置の使用経験を基に,泌尿器科領域の疾患に対するMRI検査の有用性について概説する。

核医学検査

著者: 川村壽一

ページ範囲:P.111 - P.116

1 はじめに
 ラジオアイソトープ(radioisotope:RI)を追跡子(tracer)として用いるRI検査法には,(1)試験管内で微量のホルモン,ペプチド,活性物質などをラジオイムノアッセイ(radioimmunoassay:RIA)により測定し,各種疾患診断に用いるin vitro検査と,(2)生体内目的臓器に集まりやすいRIを投与して,その体内や臓器内での働きや分布を体外より計測し,コンピュータ処理を加えて,臓器の機能と形態を画像として把握するin vivo検査がある1〜3)

Ⅲ.外来処置の実際

導尿(尿道カテーテル法)

著者: 秋野裕信 ,   鈴木裕志 ,   岡田謙一郎

ページ範囲:P.117 - P.120

1 はじめに
 導尿(尿道カテーテル法)は診療科を問わず日常臨床の場で頻回に行われている基本手技であるが,泌尿器科医には他科の医師や看護婦が挿入できなかった症例への対応や尿道カテーテルおよびその留置に関する専門的知識が求められている。本稿では,尿道カテーテル法の基本的事項やカテーテル挿入困難症例での対処法など,その実際について筆者の経験も踏まえて紹介する。

ブジー(bougie, sound)

著者: 鈴木裕志 ,   岡田謙一郎

ページ範囲:P.121 - P.125

1 はじめに
 Endourologyの手技が発達した現在,尿道ブジーの役割はやや減少してきているように思われる。筆者が研修医の頃は,硬性尿道膀胱鏡を盲目的に挿入するように教育され,そのため,微妙な抵抗感を頼りに挿入することに慣れている。しかし,最近は尿道膀胱鏡にしても,ビデオカメラと接続し直視下で挿入することが多く,若い泌尿器科医の中には盲目下の操作が苦手な人が増えてきているようだ。盲目的な操作を禁じている施設もあるほどである。しかし,できないよりはできたほうがよいのは当然で,必ずしもendourology的な処置ができない状況もあり得るため,泌尿器科基本処置として習熟しておく必要があるだろう。本稿では,実際の筆者の経験を元にその手技を紹介する。

膀胱洗浄および腎孟洗浄

著者: 久保田洋子

ページ範囲:P.127 - P.129

膀胱洗浄
1 はじめに
 外来処置としての膀胱洗浄は,カテーテルを長期間留置している場合のカテーテル閉塞解除,または結石発生因子や壊死組織など,異物の除去が目的とされる場合が多い。

経直腸的超音波断層ガイド下前立腺生検術

著者: 頴川晋

ページ範囲:P.131 - P.134

1 経直腸的超音波断層法
 経直腸的超音波断層法は,1971年,渡辺ら1)により初めて前立腺診断に応用されて以来,多くの検討や改良がなされ,今日では泌尿器科の日常診療に欠かすことのできない検査法の1つになった。前立腺内病変のechogenicityは正常部peripheral zone(PZ)のechogenicityとの対比により,通常,次の3種類に大別される。第1はよりechogenicでhyperechoicあるいはechodenseと称され,gray scaleの超音波画像の上では灰白色ないし白色調に描出されるもの,第2は正常部PZに比べてechogenicでなくhypoechoicあるいはechopenicと呼ばれ,典型的には暗黒色ないし黒色調に描出されるもの,第3は,超音波上,正常部PZと区別がっかずisoechoicと呼ばれるものの3種類である。さらに,これらのechogenicityの種々の程度の混合によりmixed patternと呼ばれる超音波象を呈する場合もある。
 前立腺癌のechogenicity,すなわち前立腺癌が経直腸的超音波上どのように描出されるかについては,その臨床応用以来,数多くの議論を呼んできた。現在では,前立腺癌のechogenicityには多様性があり,hypoechoicに描出されるものばかりではなく,isoechoicなものが多いとのコンセンサスが得られている。

膀胱穿刺および経皮的膀胱瘻造設術

著者: 香川征 ,   宮本忠幸

ページ範囲:P.135 - P.138

1 はじめに
 膀胱穿刺とは,一般に恥骨上膀胱穿刺のことで,患者が下部尿路の通過障害により尿閉状態にあり,何らかの障害で尿道カテーテルの留置が不可能な,あるいは刺激症状などでその維持が困難な場合に行う。この処置によって尿流の確保と尿路管理を容易にし,合併症の軽減を目的とする。一時的には膀胱穿刺,持続的には膀胱瘻とするのが一般的である。急性尿閉の場合,患者は膀胱緊満による著明な尿意,刺激痛,冷汗などを呈し,早期の排尿処置を希望する。前立腺疾患,尿道狭窄や外傷など緊急の場合が多い。

経皮的腎瘻造設術

著者: 棚橋善克

ページ範囲:P.139 - P.144

1 はじめに
 外来における経皮的腎瘻造設の役割は水腎の除去にある。日帰り手術ということで,麻酔も簡便なものがよく,挿入するカテーテルも細いものを使用することになる。

Ⅳ.外来小手術のテクニックとコツ

包茎手術

著者: 山口秋人 ,   明利浩行

ページ範囲:P.145 - P.148

1 はじめに
 包茎手術は,泌尿器科外来手術の中で精管切除術と並んで最も頻度の高い手術の1つである。従来種々の手術法がなされてきたのも,まだ最善の方法に至っていないためかもしれない1〜3)。包茎手術を望む患者は,ひとえに美しく仕上がったペニスを夢に抱いてくるので,術後の局所の浮腫や縫合糸に不満を訴えることは想像に難くない。
 もとより患者へ十分な説明を行い,インフォームドコンセントを得ることが必要なことはいうまでもない。しかし,その期待に応えるべく,できるだけ満足の得られるような手術を行うことが大切である。

精巣生検

著者: 大橋正和

ページ範囲:P.149 - P.152

1 はじめに
 本検査は,精巣組織の一部を生検し,造精機能を評価するために行われる。本稿では,開放精巣生検法を主に述べ,最近試みられている精巣の針生検・吸引細胞診を紹介する。また,本手技は,不妊治療として精巣内精子を採取する手技(testicular sperm extraction:以下,TESE)と同様であり,TESEにも言及する。

精管結紮術

著者: 日比初紀 ,   深津英捷

ページ範囲:P.153 - P.155

1 はじめに
 精管の連続性を断つ目的で行われる手術には,単に精管を結紮するだけの精管結紮術,結紮・切断する精管切断術,さらに結紮・切断した上に一部精管を切除する精管切除術があるが,これらを総称して精管結紮術と呼ぶことが多い。
 本手術は一般に局所麻酔下に,比較的安易に行われてきた。一方この約十年間,精管結紮術と前立腺癌の関連に関して多くの調査がなされてきた。今のところ関連性はないと結論づける意見が多いが,55歳以下ではさらなる調査が必要であるとの意見もあり1),若年者に施行する場合は十分な情報を提供する必要がある。

膀胱・尿道異物除去

著者: 赤尾利弥 ,   羽渕友則

ページ範囲:P.156 - P.158

1 はじめに
 膀胱・尿道異物の多くは,自慰目的で使用されたものが誤って経尿道的に尿道,膀胱に入ったものである。これまで,体温計,鉛筆,ロウソク,割り箸,ヘア・ピン,針,植物の茎,ビニール製品などが報告されている1)。医原性のものとしてカテーテル類の迷入も多い。その他,膀胱壁や尿道壁を穿通して異物となるものもあり,手術時に用いた絹糸やガーゼ,経口摂取した骨などの不消化物が小腸下部やS状結腸との瘻孔を通して膀胱異物となったことが報告されている1)

前立腺肥大症に対する経尿道的高温度療法

著者: 小倉啓司 ,   寺田直樹 ,   荒井陽一

ページ範囲:P.159 - P.162

1 はじめに
 前立腺肥大症に対する低侵襲治療法が数多く開発されるなか,1985年にマイクロ波による温熱療法が開発されたが,45℃までの加温であったため,非侵襲的ではあるものの治療効果に対する疑問が多数報告された。経尿道的に前立腺を45℃以上に加温することによる治療効果が高くなることから,1991年頃より,経尿道的前立腺高温度療法1)が開始され,現在までに広く普及するようになった。組織学的には,加温により前立腺内にapoptosisおよびmassive necrosisが起こる2)ことが報告されている。

Ⅴ.外来診療のポイント

包茎,亀頭包皮炎,嵌頓包茎

著者: 中本貴久 ,   碓井亞

ページ範囲:P.163 - P.166

1 はじめに
 紀元前2300年の初期エジプトのミイラが環状切開を受け,宗教上,文化上あるいは医学的な理由から全世界の男性の約1/6が環状切開を受けているにもかかわらず1),このような習慣のない本邦では,環状切開を含め,包茎をどう扱うかについて,泌尿器科医の間でもいまだに一定の見解はない。
 最近,小児の包茎が生理的な状態で,多くの症例が成長とともに自然に消失するとの事実が示され2),小児包茎では合併症を有する症例のみ積極的な外科的処置の適応となるというコンセンサスが得られつつあるのでこれを提示し,成人の包茎に対する取り扱いに関しては私見を紹介する。

精巣上体炎(副睾丸炎)およびその鑑別診断

著者: 浦上慎司 ,   井川幹夫

ページ範囲:P.167 - P.171

 精巣上体炎は急性症と慢性症とに大別される。急性精巣上体炎は急激に精巣上体の炎症性腫脹および疼痛を来した疾患である。慢性精巣上体炎は特異的な症状に乏しく,慢性に経過する局所の硬結および軽度の圧痛を訴える疾患である1)

陰嚢水瘤,精索水瘤,精液瘤,精索静脈瘤

著者: 池本庸 ,   大石幸彦

ページ範囲:P.173 - P.177

陰嚢水瘤,精索水瘤
1 成因
 陰嚢水瘤は陰嚢水腫,精巣水腫とも呼ばれ,精索水瘤は精索水腫とも呼ばれる。胎児期に精巣は腹腔内から陰嚢内へ下降するとき,腹膜の一部が一緒に引き降ろされる。出生後はこの部分の腹膜が腹膜鞘状突起として閉鎖して鼠径管内に残り,一方,精巣を包み込んでいた腹膜の一部は精巣固有鞘膜として精巣を被包する。したがって,腹膜鞘状突起は,当然,精巣固有鞘膜も腹膜と同一のものである。また,精巣固有鞘膜はしたがって2層構造であり,腹膜と同様にそれぞれ臓側板,壁側板と呼んでいる。
 また,腹膜に自律的分泌能があって常に適当量の腹水をたたえているように,精巣固有鞘膜内にも少量の陰嚢水瘤液が正常でも存在する。そして,靴状突起内および固有鞘膜内に液体が過剰に貯留して,腫瘤として気付かれた状態がそれぞれ精索水瘤,陰嚢水瘤である。

女性の尿道カルンクル,尿道脱

著者: 松島正浩

ページ範囲:P.179 - P.183

1 はじめに
 尿道カルンクル,尿道脱に関してデーターベース,オービットメドライン,医学中央雑誌で過去30年間のデーターを調査したが,登録されていたのは5作のみで,いずれも病院の統計または尿道ポリープの鑑別疾患としての記載のみである。よって,尿道カルンクル,尿道脱の基本的事項は周知のことであり,最近のトピックスは皆無である。

前立腺炎,前立腺痛

著者: 松本哲朗

ページ範囲:P.185 - P.189

1 はじめに
 前立腺炎は泌尿器科外来で最も多くみられる疾患の1つであるが,その病態には不明な点が多く,診断・治療において混乱がみられている。前立腺炎は種々の病態が混在していると思われ,最近では前立腺炎症候群として広く取り扱われている。臨床病型としては1978年以来,Drackの分類が用いられてきた。すなわち,急性細菌性前立腺炎,慢性細菌性前立腺炎,非細菌性前立腺炎,前立腺痛(プロスタトディニア)である。
 しかし,最近,米国NIHのガイドラインでは表1に示すような分類が用いられている。このガイドラインでは,慢性前立腺炎をchronic pelvic pain syndromeと同義語として用い,痛みを最も重要な症状として位置付けている。また,慢性前立腺炎をさらに炎症性と非炎症性に分けて,いわゆるプロスタトディニアという診断名は用いていない。さらに,前立腺肥大症や前立腺癌などに合併し,病理組織学的に診断された炎症をasymptomatic inflammatory prostatitisとして分類している1)

尿路感染症

著者: 那須保友

ページ範囲:P.191 - P.196

1 はじめに
 尿路感染症(urinary tract infection:UTI)とは,本来,腎,尿管,膀胱,尿道の感染症を意味するが,しばしば尿路の他に前立腺,精巣上体などの男性性器を含めた尿路性器感染症として論じられることがある。しかし本稿では,腎,尿管,膀胱における感染症に限定して述べる。その他の部位に関しては他の項を参照いただきたい。
 泌尿器科外来診療において尿路感染症の占める割合は多く,また,呼吸器感染症などとともに臨床的に頻度の高い感染症の1つである。近年,broad spectrumで優れた抗菌力を有する抗菌薬の開発,普及に伴い,尿路感染症(UTI)を含めた細菌感染症全般の傾向として,抗菌性化学療法に反応する病態群と抵抗する病態群の2極化が顕著になった1)。前者では,急性単純性腎盂腎炎などの有熱性感染症についても外来での治療が可能となっている。本稿では,近年の感染症の2極化を基本として,外来診療を念頭に置き,診断,化学療法の基本的な考え方,および個々の病態における抗菌薬の選択,使用のポイントについて概説する。多くの事項は,近年の尿路感染症に対する知見に基づいた岡山大学医学部泌尿器科での実践を基本に記載した2,3)

性分化異常

著者: 高田晋吾 ,   菅尾英木 ,   松宮清美 ,   奥山明彦

ページ範囲:P.197 - P.201

1 はじめに
 従来,ギリシャ,ローマの古代より中世まで性の決定は人間の関与するところではなく,「神」の決定による神聖なものであり,いずれでもない性(性分化異常)は「神」の意志に反するものと見なされた。文芸復興(ルネサンス)期以降,疾患と臓器のレベルで科学的に考察するようになり,特に近年の分子遺伝学および分子生物学の進歩により,その分子レベルでの仕組みが急速に解明されつつある。例えば,1990年にBertaら1)によってY染色体の短腕上に同定されたSry/SRYは長い間捜されていた精巣決定因子の1つであり,XX男性やXY女性にSry/SRYの異常があることが知られるようになった。臨床の場においてもこれらの知見を無視して診療することは難しくなってきており,性分化の機構を正しく理解しておくことは非常に重要であると考えられる。
 本稿では,臨床の場での診察,治療の進め方と最近の知見との関連を含め整理してみた。

外傷(腎,膀胱,尿道)

著者: 坂下茂夫

ページ範囲:P.203 - P.209

1 外傷診療の一般的事項
 尿路の外傷には鋭的外傷と鈍的外傷があり,鋭的外傷は銃創や刺傷などにより起こり,鈍的外傷は交通事故,作業事故やスポーツ事故などが主な原因である。日本においては鋭的な尿路外傷は例外的である。尿路は肋骨や骨盤など骨格に守られている臓器であり,尿路の鈍的外傷は比較的大きな外力が加わったときに起きる。このため,尿路単独の外傷ばかりではなく,尿路以外の多臓器外傷や骨折を伴うことが多い。
 外傷患者を初めて外来診療する場合には,患者の意識状態,呼吸や血圧を含め全身状態をまず観察することが重要である。必要であれば気道を確保し,呼吸や循環動態を維持し,中心静脈へのアクセスを確保するなど救命救急治療を優先する。開放性骨折や切傷などに伴う出血がある場合には,止血操作を行う必要がある。

男性不妊症

著者: 佐々木昌一 ,   郡健二郎

ページ範囲:P.211 - P.216

1 はじめに
 カップルが1年間正常な夫婦生活を営んだ場合,約90%に挙児を得ることができるといわれる。すなわち,1年を超えて子供ができない場合は,不妊症を疑って検査を進めることが必要である。
 不妊症カップルのうち,その原因が男性側のみにある場合が約1/4,男女両方に原因がある場合が約1/4であるといわれる1)。つまり,男性不妊として検査・治療を進めていても,約半数はパートナー側にも不妊原因があり得るので,産婦人科医と協力して女性側の因子を調べておかなくてはならない。また,最近の補助生殖技術の進歩に伴い,倫理的にも技術的にも複雑な治療を行うことも多く,治療方法の選択に当たっては,夫婦でよく話し合う必要があり,このため妻も診療に同席することが望ましい。

一般泌尿器科外来でのED診療

著者: 矢島通孝 ,   岩本晃明

ページ範囲:P.217 - P.224

1 はじめに
 従来筆者らの施設では,図1に示すような手順で勃起障害(erectile dysfunction:ED)の原因を検索し,その原因に応じた治療を行うように努めてきた1,2)。しかし,クエン酸シルデナフィル(バイアグラ®)をはじめとするED治療薬の開発により,あるいは医療経済的な面より,EDの診療体系が大きく変化する兆しがみえてきた。また,いわゆる性機能障害の専門医以外の泌尿器科医,あるいは実地医家を受診するED患者が,今後著しく増加することは明らかである.
 以上のような点を考慮しつつ,一般の泌尿器科外来におけるED診療のポイントについて述べる。

Ⅵ.診断・治療のための必須知識

急性腎不全—診断と治療

著者: 岡田倫之 ,   椿原美治 ,   高原史郎

ページ範囲:P.225 - P.229

1 はじめに
 急性腎不全とは,急速なGFRの低下(数時間〜数週間)および尿素窒素やクレアチニンなどの窒素代謝産物の蓄積によって特徴づけられる症候群である。通常,初期は無症状で臨床検査で急激なBUNや血清クレアチニンの上昇がみられる。1日の尿量が400ml以下の乏尿がみられることが多い(乏尿性急性腎不全)が,尿量が400ml以上保たれる非乏尿性急性腎不全のこともあり,臨床像は様々である。腎臓は無機能になっても回復する臓器であるにもかかわらず死亡率が高いのは,重篤な基礎疾患を有することと,感染症や消化管出血などの合併症のためである。
 病態の理解と治療に関し,従来から行われている腎前性,腎性,腎後性に分けて考えると理解しやすい(次項参照)。これに対して,狭義の急性腎不全とは腎性急性腎不全のうち腎虚血や腎毒性物質を契機とし,形態的には尿細管壊死がみられる急性尿細管壊死(acute tubular necrosis:ATN)をいう。腎機能の指標として臨床でよく用いられるBUNや血清クレアチニンは,腎機能低下を知るには感度の低い検査法である。腎機能低下以外の原因で上昇したり(表1),腎機能がかなり低下(GFR30〜50ml/分以下)しないと反映されないことに注意を要する。

慢性腎不全

著者: 星長清隆

ページ範囲:P.230 - P.234

1 はじめに
 慢性腎不全は,その発症原因が糖尿病などの全身疾患から,免疫学的起序が関与する糸球体腎炎,先天的尿路疾患である逆流性腎炎まで多岐にわたり,その進行も数日で末期腎不全に陥るものから数十年かかって腎機能が傷害されるものまで様々である。本稿では,慢性腎不全の原因疾患,透析導入までの病期と症状,治療法などについて述べる。

排尿障害を呈する下部尿路疾患

著者: 魚住二郎

ページ範囲:P.235 - P.239

1 はじめに
 外来診療で遭遇する排尿の異常(広い意味での排尿障害)に関する訴えの大半は,頻尿,排尿困難,排尿痛,尿失禁に集約される。外来診療という限られた時間の中で診断・治療を行うには,問診から疾患を想定し,必要最低限の検査で診断を下し,治療法を選択するという流れを効率よく進めなければならない。ここでは,頻尿あるいは排尿困難を呈する下部尿路の疾患について診断・治療のポイントを述べる。

神経因性膀胱

著者: 高木隆治

ページ範囲:P.241 - P.245

1 はじめに
 神経因性膀胱は決して稀な疾患ではない。それにもかかわらず,やや敬遠されがちの疾患のように思われる。その理由の1つは,神経因性膀胱の原疾患が神経内科,脳神経外科,整形外科など他科領域に関係するため,当該科との連携およびある程度の知識が必要なこと1),もう1つは,pressure flow studyなどの特殊な検査をしなければ診断・治療ができないとの誤解があるように思われる。本稿では,その点に留意して概説する。

尿路結石症—診断と治療法の選択

著者: 井口正典 ,   加藤良成

ページ範囲:P.246 - P.251

1 はじめに
 泌尿器科医にとって尿路結石症は日常臨床で最も多く遭遇する疾患の1つである。本邦における尿路結石症の95%以上は上部尿路結石症であるため1),本稿では上部尿路結石症の診断・治療について述べる。

STD(性感染症)

著者: 小島弘敬

ページ範囲:P.253 - P.261

1 STDの特性
 1999年施行の感染症新法による届出制のSTDは梅毒,エイズ,B型肝炎(HBV)で,動向調査対象は淋病,クラミジア(CT),ヘルペス(HSV),ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)による尖圭コンジロームである。STDは長短さまざまの潜伏期ののちに,淋菌性尿道炎(GU),淋菌性およびクラミジア性の結膜炎を例外として,多くの,症状の自覚されない感染を生じる(表1)。男子のGU症例の約半数が,無症状の女子の淋菌性咽頭炎を感染源とすることはその1例である。STDの中で梅毒の抑制が比較的よい理由は,抗体検出が徹底して行われたためである。淋菌には,抗体検出法が末開発である。
 淋病,CT,梅毒は治癒後にも容易に再感染する。パートナーが治療されないといわゆるピンポン感染が生じる。STDには母子感染,無症状の長期間後の癌を含む続発症がある。起因菌の正確な検出に基づくパートナーと感染源との治療の徹底により,淋病とCTとを激減させたスウェーデンでは,卵管性不妊の原因であるPID症例が激減している1)。女子に比して有症症例の比率が高い男子STDの受診機会が多い泌尿器科医のSTD抑制に占めるべき役割は大きい。

尿失禁の治療とケア—薬物療法,手術の適応

著者: 加藤久美子 ,   近藤厚生

ページ範囲:P.263 - P.267

1 はじめに
 尿失禁の治療はQOL(生活の質)の医学であり,治療法の選択に当たって最も優先することは,患者がどれほど生活に支障を感じ,どれくらいの対価を払っても治したいと思うかである。しかし,患者の適切な選択を可能にするためには,どのタイプの尿失禁で客観的な重症度はどうか,どの治療でどの程度の成功率と合併症が予測されるかを医療者が把握し,患者と十分な意見のすり合わせをすることが前提となる。
 本稿では,臨床の場で頻度の高い女性腹圧性尿失禁,切迫性尿失禁の2者に絞り,治療法の適応について筆者らのスタンスを述べたい。

清潔間欠導尿の適応と指導法

著者: 関聡 ,   井川靖彦 ,   西澤理 ,   百瀬悦子 ,   伊藤廣子

ページ範囲:P.269 - P.274

1 清潔間欠自己導尿とは
 膀胱には本来,蓄尿と排出という2つの機能がある。膀胱内の尿を排出できないと膀胱内圧が上昇し,膀胱が過伸展の状態となる。さらに放置すると水腎症,尿路感染症,腎機能の荒廃へとつながっていく。
 膀胱内の尿を体外へ排出する方法として経皮的膀胱瘻や尿道留置カテーテルなどの方法があるが,カテーテルを留置せずにこれを可能にするのが間欠(白己)導尿法である。導尿は,従来,無菌的操作によって行われるべきとされていたが,自己導尿を毎回無菌的に行うことは社会生活をする上で煩雑すぎて実際的ではない。そこで,1972年にLapidesらが提唱したのが清潔間欠自己導尿(clean intermittent self-catheterization)である1)

尿路ストーマケア

著者: 山田泰之 ,   河合憲康 ,   上田公介

ページ範囲:P.275 - P.277

1 はじめに
 尿路ストーマケアは,身体的ケアとともに精神的ケアが必要である。そのためには,その手術の必要性を十分に理解してもらうことが最優先であり,それに伴いストーマケアへの関心,必要性,自己管理(あるいは家族の協力)へのやる気が導かれてくる。そして,その実際をビデオで見せたり,同様な患者を紹介して情報交換を行ってもらうことで,さらに精神的ケアがなされていくと思われる。また,手術内容にもよるが,術後の仕事の問題,家庭生活,インポテンスなど家族の理解は非常に重要だと考える。
 ここでは,身体的ケアを中心にして手術前後のケア,手術手技,外来ストーマケアについて述べる。

泌尿器科的主訴をもった心身症の診かた・とらえかた

著者: 斉藤雅人

ページ範囲:P.278 - P.281

1 はじめに
 泌尿器科学は具体性が極めて高い学問である。つまり,現代の優秀な診断機器を駆使すれば,ほとんどの疾患は診断可能である。しかし,心身症となるとその診断は難しい。そして,少ないながら心身症と思われる病態は泌尿器科領域においても存在するのは事実である。まず,心身症とは何かであるが,日本心身医学会の定義(1991年)によれば,「身体症状のなかで,その発症や経過に心理的社会的因子が密接に関与し,器質的ないし機能的障害が認められる病態をいう。ただし,神経症やうつ病など,他の精神障害に伴う身体症状は除外する」とある1)
 泌尿器科領域において,心理的社会的因子が密接に関与し,器質的ないし機能的障害が認められる病態としては,何が挙げられるかというと,これも難しいところであるが,神経性頻尿および心因性勃起不全が代表的な疾患であり,その一部に,心身症の可能性のある病態として尿失禁,夜尿症,前立腺症などが挙げられている。勃起不全では,勃起機能が正常であれば比較的心因性の勃起不全であることの診断はつけやすく,また原因となる心理的社会的因子も見つけやすい。これは泌尿器科領域における心身症の代表的なものであろう。しかし本特集においては,この勃起不全について特にその分野の大家が2人も執筆され,心因性の勃起不全についても必ず言及されると思われるので,本稿では省略させていただく。

Ⅶ.専門外来の実際

男性不妊外来

著者: 石川博通

ページ範囲:P.283 - P.287

1 はじめに
 男性不妊の原因は,(1)造精機能障害,(2)精子輸送路の閉塞,(3)精路感染による精子機能障害,(4)射精障害に分けられる。外来ではこのことを念頭において診断を進め,精液所見を中心として症例を評価する。さらに,その成績を踏まえて人院または外来レベルで治療を行う。
 本稿では,当院で実際に行っている診療手順について概説する。

性機能外来

著者: 永尾光一 ,   三浦一陽 ,   石井延久 ,   永野妙子

ページ範囲:P.288 - P.292

1 性機能外来の位置づけ
1.病院内において
 リプロダクションセンターは,1981年に不妊症カップルを同時に診療することを目的に泌尿器科と産婦人科が協力してできた(図1,2)。当初はリプロダクションセンターで泌尿器科医と産婦人科医が一緒に仕事をしていたが,生殖医療技術が進歩し色々な機器を使用するためスペースが狭くなり,現在は複雑な操作は各研究室で行い,泌尿器科部門のみがリプロダクションセンターを使用している。しかし,産婦人科の不妊症診療班と密な連携をとって診療しており,定期的な研究会も開いている。場所は泌尿器科外来とは別のところにあり,腎センターなど特殊外来部門が近くにある。

尿失禁・排尿障害外来

著者: 本間之夫

ページ範囲:P.293 - P.297

1 はじめに
 排尿障害は,本来,泌尿器科診療の中で中心的な疾患であるはずだが,近年の各診療科内での専門化に伴い,徐々に独立した分野として扱われつつある。その一方で,泌尿器科医を称しながら排尿障害についての関心がなく,他科からの相談にも十分対応できない若い医師が増えているのも問題であろう。微力ながらこの数年間,週1回の尿失禁・排尿障害外来をやってきたので,その経験を述べ,参考に供することができれば幸いである。

尿路結石症外来

著者: 間宮良美

ページ範囲:P.298 - P.303

1 はじめに
 尿路結石症は,泌尿器科の日常診療において最も頻度の高い疾患の1つである。本邦では過去30年間増加傾向が続いており,1995年の生涯罹患率は,男子9.4%,女子4.1%と報告されている1)。近年の,尿路結石症,特に上部尿路結石に対する治療の進歩・発展は目覚ましい。PNLやTULなどの内視鏡的手術,引き続いて登場したESWLは,まさに画期的な低侵襲治療であり,本邦には600台以上が導入され,上部尿路結石に対する外科的治療法の第一選択として定着した。また,結石形成や再発予防に関しても研究が進められ,尿路結石症診断に関する分子生物学的,遺伝了学的研究も行われるようになってきている2)
 尿路結石症の外来診療においても,治療方法や基礎的・臨床的研究の進歩に合わせ,診断,治療,再発予防それぞれの面で充実した診療内容となるよう努力する必要がある。

前立腺肥大症外来

著者: 内田豊昭 ,   馬場志郎

ページ範囲:P.305 - P.310

1 はじめに
 社会の高齢化とともに,排尿困難症状を主訴として泌尿器科外来を受診する症例は多くなっている。しかし前立腺の腫大が認められても,排尿障害の原因が前立腺肥大症のみとは限らないことに留意すべきである。前立腺肥大症の診断には,間診,自覚症状,直腸内指診,超音波検査,尿流動態検査,腫瘍マーカー測定を行い,神経因性膀胱や加齢に伴う排尿筋機能の低下による排尿障害および前立腺癌の鑑別が重要である。さらに,治療方針を決定する上で重症度を十分に評価することが大切である。

神経因性膀胱外来

著者: 福井準之助

ページ範囲:P.311 - P.316

1 はじめに
 正常の蓄尿一排尿機構は自律神経と体性神経支配下に,膀胱,尿道,骨盤底筋などの臓器が互いに協調性を保ちながら活動しているため,個々の臓器の機能を単独に取り上げた検査で判断すると誤りを犯す可能性が高い。また,下部尿路や骨盤底筋を支配している神経の障害の診断・治療には,神経内科(脊髄疾患,脳血管障害など),脳神経外科(脳・脊髄腫瘍,脳血管障害など),内分泌内科(糖尿病など)などの臨床各科の連携のみならず,神経疾患との鑑別には心療内科や精神科などとの連携も求められる。さらに,薬物に起因した下部尿路機能障害や,術後の末梢性神経障害を範疇に入れると,ほとんどすべての臨床各科の協力が診断および治療を行う上で必要となる。一方,看護部門,ADL獲得のためのリハビリテーション部門,訪問看護ステーション,ケースワーカーの活動の場である社会—心理医療部(social service department)などのスタッフの協力を求めねばならないことも多い。
 神経因性膀胱の診断には,基礎疾患を見出すことや障害部位の判定が重要となる。例外はあるが,神経病巣の局在を基に臨床所見と尿流動態検査結果から基礎疾患を推測できることがあり,逆にこれらの所見や検査結果が疾患の局在を予見し得る。また,泌尿器科医以外の人達にも簡単に理解できる分類法を用いることが,疾患に関する検討をする上でも重要と考える。

膀胱腫瘍外来

著者: 星宣次

ページ範囲:P.317 - P.323

1 はじめに
 膀胱癌は大部分が表在性膀胱癌で,治療はTURが選択される。その60〜70%は腔内再発を認めるため,その早期発見が重要である。また,grade 3の表在性膀胱癌ではいつ膀胱全摘を行うかが問題である。年齢,PSを考慮して手術方法を選択しているが,治療選択に迷う例が大部分である1)
 本稿では,表在性膀胱癌例の外来治療,neobladder例の外来経過観察,浸潤性膀胱癌例の外来治療,および経過観察など実際の臨床の現場について述べる。

前立腺腫瘍外来

著者: 賀本敏行 ,   小川修

ページ範囲:P.324 - P.329

1 はじめに
 本邦での前立腺癌は欧米に比べてその発生頻度,死亡率はともに低いものの,近年その著しい増加が指摘されており,2015年には1995年の約3倍の罹患率になると試算されている1)。このような背景から,前立腺癌の集団検診や,人間ドックなどでのPSA(prostate specific antigen)採血が広く行われるようになり,また一方で,マスメディアにも取り上げられる機会が増えるにしたがって,人々の前立腺に対する関心や知識も高まっている。
 当科では,従来から,主に前立腺肥大症患者の診断,治療,手術後の経過観察などを行う「前立腺外来」を設けており,十分な成果を上げてきている。また,1994年からは本格的に前立腺生検外来をスタートさせ,主に触知不能癌(Tlc癌)の発見に実績を上げてきた2)(図1)。実のところ,現時点では「前立腺癌外来」の形の専門外来は設けておらず,前立腺生検外来がその役割の一端を担っている。

腎移植外来

著者: 高橋公太

ページ範囲:P.330 - P.334

1 はじめに
 腎移植患者をどのようにフォローアップしたらよいかは,難しい問題である。その理由は,移植医療がまだ新しい分野であり,特にわが国では患者数も,また,医師を含めてそれを専門に管理する医療従事者が極めて少なく,実際に手探りの状態で行っている施設が多いからである。本稿では,現在筆者らが行っている腎移植外来について述べる1〜3)

Ⅷ.Day Surgeryの現況と実際

陰嚢水腫(水瘤)の手術

著者: 室田卓之 ,   松田公志

ページ範囲:P.335 - P.338

1 はじめに
 陰嚢水腫(水瘤)は,小児型(交通性)と成人型(非交通性)とがある。
 小児型(交通性)の陰嚢水腫の成因は,鞘膜腔と腹腔との間の鞘状突起が開存するために,腹水が鞘膜腔に流入し水腫を形成する。また,鞘状突起の開存が大きい場合は,腹腔内容物(腸管あるいは大網)が下降し鼠径ヘルニアを形成する。

尿路結石症の手術(ESWLとTUL)

著者: 荒川孝

ページ範囲:P.339 - P.342

1 はじめに
 ESWLは15年前に国内に導入された。第1世代の結石破砕機(以下,破砕機)であるDornier社製のHM−3(以下,HM−3)はESWL施行の際に硬膜外麻酔,脊椎麻酔ないし全身麻酔などの強い麻酔が要求された。以後,改良を加えた第2世代,第3世代の破砕機が多数開発されたが,大きな相違点は柊痛を軽減したことである(表1)。坐薬,筋注,静注で疼痛管理ができ,無麻酔治療が可能になったことにより,麻酔科医の助力を借りずとも泌尿器科医が1人でday surgeryが可能となった。この坐薬,筋注,静注での疼痛管理は便宜上無麻酔として扱われている。果たして現況はどうであろうか。また,day surgeryの問題点はどこにあるのであろうか。
 本稿では,手技や治療のtime tableに関する事柄は省略し,ESWLを施行する各施設へのアンケートの結果を基に,day surgery自体を考察することとする。また,TULについてはあとにアンケートの結果を示すが,無理にday surgeryを選択すべきではないと判断した。

前立腺肥大症の手術(TUR-P)

著者: 西村泰司

ページ範囲:P.343 - P.346

1 はじめに
 もともと日帰り手術は手術をminimally invasivetherapy,つまり社会的,肉体的,精神的および経済的に低侵襲性とすることを目的として始められたと思われる。筆者も,全盲の息子を抱え,他に面倒をみる人がいない膀胱癌の高齢女性に遭遇したのが,日帰り手術を始めるきっかけであった1)
 しかるに,昨今,政府が医師の善意を逆手にとり,DRG導入と同様に,日帰り経尿道的前立腺切除術(transurethral resection of the prostate:TUR-P)だと1,000点の加算など,医療費削減を目的とした日帰り手術の捉え方に憤りを感じている。日帰りTUR-Pを行う際の医師の努力や余分な負担は1,000点で評価されるようなものではない。「1万円余分にやるからもっと日帰りTUR-Pをどんどんやれ」というのが政府の考えであるならとんでもないことである。筆者の知りうる範囲でも,全国で数名の開業医の方が日帰りTUR-Pを行っているが2〜4,6),ほとんどは先に述べた通り患者のためを思っての善意からの発想であることを念を押して述べておきたい。

シャント手術

著者: 徳本直彦 ,   東間紘

ページ範囲:P.347 - P.352

1 はじめに
 シャント(ブラッドアクセス)の作製とその維持は血液浄化療法に必要不可欠なものである。穿刺が容易で所定の血液量の得られるブラッドアクセスは,透析療法の継続に最低限必要である。1960年より橈骨動脈—橈側皮静脈をカニューレでつなぐ外シャントがQuintonとScribnerによって,1966年には内シャントがBrescia, CiminoとHurwichらによって行われるようになり,現在では広く内シャントが普及している。一方で,長期透析患者や高齢透析患者の増加によりブラッドアクセスの作製,修復が困難な症例も増加しており,このような症例に対してはグラフト移植も行われている。
 本稿では,標準的シャント(ブラッドアクセス)手術の手技ならびに注意点について概説する。

Day Surgeryの麻酔(日帰り麻酔)

著者: 井上哲夫

ページ範囲:P.353 - P.356

1 はじめに
 医療技術の向上,医療改革,さらに純粋に医学上の見地から,泌尿器科だけに限らず,現在外科系の各分野でday surgeryを推進しようとの動きがみられる。ここでは,麻酔科医の側からみたday surgeryの概念およびその麻酔管理のあり方について述べる。

Ⅸ.そのほか

外来における滅菌と消毒の実際

著者: 坂本直孝 ,   内藤誠二

ページ範囲:P.357 - P.360

1 はじめに
 滅菌とは,全ての微生物を殺すか除菌した状態にすることである。滅菌法は全ての微生物を殺してしまう操作で,おそらく微生物の生存が100万分の1(1×10−6)となる過程であり,火炎法,乾熱法,高圧蒸気法,濾過法,放射線照射法,高周波照射法およびガス法が挙げられる。
 消毒とは,人に対して病原性を有する微生物を殺すことであるが,定量的な基準があるわけではない。全てにおいて滅菌が施されることが望ましいが,その対象により消毒法を選択せざるを得ない場合がある(例えば人体や室内など)。消毒法には煮沸法,流通蒸気法,間欠法,紫外線照射法および薬液法が挙げられる。これらの詳細についてはアメリカ疾病防疫センター(Centers for Disease Control:CDC)のガイドラインなどを参照していただきたい(表1)。

泌尿器科医が行う麻酔(日帰り前立腺治療,内視鏡検査,内視鏡処置のための麻酔)—経会陰的前立腺ブロック

著者: 矢島通孝 ,   岩本晃明

ページ範囲:P.361 - P.364

1 はじめに
 近年,前立腺肥大症に対する低侵襲治療として,経尿道的前立腺高温度治療,経尿道的レーザー前立腺切除術,永久留置型尿道ステント,経尿道的前立腺電気蒸散術などが登場してきた。また,社会的あるいは医療経済的な面から,入院期間の短縮あるいは外来での日帰り手術が奨励されるようになってきた。実際,1998年4月より,経尿道的レーザー前立腺切除術を日帰りで行った場合は,保険点数1,000点が加算できることになった。最近の低侵襲治療法を使用すれば,前立腺肥大症に対する日帰り手術は十分可能である。しかし,病院内での他の部署との連携,特に,麻酔の問題で日帰り手術を断念している施設も多いかと思う。また,男性での膀胱鏡検査あるいは尿管ステント抜去の際などに,非常に強い疼痛を訴える患者をときどき経験する。
 最近,筆者らは前立腺肥大症に対する前立腺組織内レーザー凝固法(interstitial laser coagulation of the prostate:ILCP)を,麻酔法として経会陰的前立腺ブロック1〜4)を使用して,外来での日帰り手術として行っている。また,尿道ステント留置や尿管ステント抜去などの際にもこの麻酔法を使用し,患者に好評である。本稿では,この経会陰的前立腺ブロックについて概説する。

Ⅹ.メディカルエッセイ

泌尿器科外来診療—直腸診教育

著者: 金武洋

ページ範囲:P.28 - P.28

 近年の超音波検査,CT,MRIなどの画像診断技術の進歩は,これらの検査法がなかった時代に教育を受けた者にとっては驚くばかりである。今はさらに進んで,コンピュータソフトに血液生化学的データをインプットすれば,直ちに診断ができるところまできているという。われわれが学生時代に学んだ数倍もの知識を習得せねばならない現在の学生は,本当に大変だと同情している。
 記憶力に限界があるわれわれ凡人にとっては,コンピュータ解析による診断および治療法の提示はそれなりに魅力のある方法と思われる。しかしこの方法だけに頼っては,病を治すと同時に個人の魂(内面的な悩み)を癒すことができるか疑問である。外来紹介を受ける患者さんの多くは,画像診断が既に付いていることがほとんどであり,とかく患者さんの内面的な悩みを無視しがちである。このことは,自戒を込めて学生教育に携わっている立場で反省しなければならないことと思っている。

私とEvidence-based Medicine(EBM)

著者: 小川修

ページ範囲:P.52 - P.52

 最近,Evidence-based Medicine(EBM)という言葉をよく聞く。EBMとは"確証に基づいた,あるいは科学的根拠に基づく医療"と訳される。要するに科学的根拠を大切にして曖昧な医療を追放しようということであろう。臨床医は病気の診断や治療手順の決定を日常的に行っているが,ものごとを決定するには必ず根拠が必要であることをどこまで強く認識しているだろうか。
 EBMは臨床医学の言葉であるが,臨床の実践に科学的根拠が必要であることは何も最近になって認められたわけではない。しかし,私がEBMを本当の意味で意識したのは外国留学を終えて大学の臨床に復帰したときである。基礎研究では,「何が解明されていないか」,また「どのようにアプローチすれば問題を解明しやすいか」は比較的明瞭に整理可能であり,あとはアイデアや実行力の勝負である。

バイアグラ余(夜)話

著者: 福井準之助

ページ範囲:P.98 - P.98

 20世紀末に「男性の夢の薬?」が開発,発売され,勃起不全に悩む男性に大きな福音をもたらした。この薬の有効性が研究段階で公表されたとき,開発薬品メーカーの株価がウオール街で急騰し,新聞紙上を賑わせたことも記憶に新しい。男性の性機能,特に勃起機能は個人差があるとはいえ,加齢とともに減衰していく。勃起機能の回復を願う気持ちは年齢に関係なく,機能の減衰〜喪失した全男性に共通する切なる願いであり,その機能低下の悲哀は男性にしか理解できない。
 医師がバイアグラを処方するとき,薬物の副作用のみに眼が向きがちであり,バイアグラ服用による周辺への影響に対する指導が疎かになりやすい。筆者の経験した事例を挙げながら,話を進めたい。60歳後半のA氏は前立腺癌のため根治的前立腺摘除術を受けた後,術前に告知されたように勃起が消失した。しかし,術後1年半を経過したある日,「先生,時々早朝時に陰茎が硬くなっていることに気づくようになりました。でも,性交渉ができるほど固くはならないのですが……」と勃起機能の経時的な回復に大きな期待を込めていたが,それ以上の改善は得られなかった。そして,術後24か月経過したときに,バイアグラが発売された。本人の強い服用希望と,循環器検査を含めた諸検査で異常がなかったので処方したところ,2週間後に来院し,「バイアグラを服用後にかなり固く勃起したので,妻と性交渉を持つことができました。挿入に手間取り,妻も痛がったのですが,数年ぶりの性交渉で満足できました。

膀胱鏡検査—あなたが患者なら進んで受けますか?

著者: 那須保友

ページ範囲:P.110 - P.110

 私が入局した約20年前と比べて現在では,一般外来診療で施行する膀胱鏡検査の数は激減しています。Minimally invasivenessという概念は外来における検査システムにまで浸透し,invasiveな検査の代表である膀胱鏡の適応は変化したといっても過言ではありません。これは検査を受ける側からすると歓迎すべきことであるのは明白ですが,立場を変えて膀胱鏡検査をする側,特に手技を指導する側からしますと複雑な心境です。新米の泌尿器科医にとって,膀胱鏡検査は専門医として習得すべきテクニックの代表であるとともに他の内視鏡的処置の基本であり,先を争って先輩の教えを受けたものでした。外来での施行件数が減少した昨今,教育のチャンスが滅っているのが現実のようです。もちろん,私が「膀胱鏡検査」としてイメージしてお話ししているのは男性に対する硬性鏡のことです。
 最近の内視鏡の進歩に伴い軟性膀胱鏡も普及しており,習得すれば確かに強力な検査手段となります。こんな経験があります。膀胱腫瘍外来において,数年来膀胱癌再発の定期検査のため3か月おきに硬性鏡による内視鏡検査を受けていた男性に,軟性鏡を使用することは明言せず使用したところ,検査終子後患者が「もう終わったんかな?今日の先生は名医じゃ,今までで一番痛くなかった!!」「このくらいなら何回でもしてつかあーさい」。もちろん,腕が上がったのでも名医になったわけでもなく,ただ器械が良くなっただけなのですが……。

移植外来一案ずるより産むが易し

著者: 星長清隆

ページ範囲:P.126 - P.126

 私どもの施設では,ほとんど泌尿器科医のみで腎移植を行っている。多くが献腎移植であり,また,当施設では腎内科が透析室を担当し,シャントの手術も彼らが行っているため,泌尿器科の主治医が患者さんと初めて顔を合わせるのは移植の数時間前ということも稀ではない。この限られた時間内に,患者さんの病態を把握し,互いの信頼関係を築くことはかなり難しいと考えられている。しかし,愛知県では透析医が腎移植に協力的であるという歴史もあり,実際やってみると意外に問題もなく,各施設で献腎移植が盛んに行われているようである。もちろん例外もないではないが……。
 患者Aさんは58歳,男性。7年前から透析を受けているが自己管理が不良で,時々心不全を起こす透析医泣かせの患者さんであった。登録後初めてAさんにHLA適合度のよい献腎ドナーが現れ,当院で腎移植を受けるために喜んで来院された。しかし,タクシーを降りて病院玄関から外来まで歩いただけで息切れがするようで,このごろは50m歩くのがやっととのことであった。驚いて透析施設の主治医に電話で問い合わせたところ,シャントの状態も悪く,Aさんを透析で維持することが大変なので,何とか移植してやってほしいとのことであった。難しいとは思いながら,循環器内科にお願いし心エコーによる評価を行ってもらったが,やはりAさんには心不全があり全身麻酔は危険を伴うと判断されたため,患者さんには申し訳なかったがお引き取りいただいた。

米国における前立腺外来でのひとこま

著者: 斉藤雅人

ページ範囲:P.172 - P.172

 1991年10月から1992年9月までの1年間,米国テキサス州ヒューストンにあるMD Anderson Cancer Centerの泌尿器科前立腺外来において,前立腺癌の超音波診断に携わる機会があった。何をしていたかというと,前立腺外来において,受診した患者に経直腸的超音波断層法を行い,癌が疑われる場合には前立腺生検を行って診断をつけるのが主な役割であった。
 これは,よくいう留学ではなくて,仕事である。責任も大きいが,その代わりに身分は,faculty memberの一員として遇されていた。私には,1人の看護婦と2人のphysician's assistantがついてくれて,いろいろな面でサポートしてくれた。Physician's assistantというのは日本にはない職種であるが,要するに医師が医療行為をする場合にまわりの雑用をいろいろしてくれる文字どおりの助手である。ただし,医師の監督の下では,生検などの医療行為そのものもすることができる。

診療行為の第三段階

著者: 本間之夫

ページ範囲:P.184 - P.184

 今回の特集は外来診療なので,われわれが日頃行っているところの診療行為について愚考してみたい。
 およそ何らかの意識された目的を有する行動を起こす場合には,(1)何がしかの現状分析があって,(2)その対応策に関する利益と損失が計算されて,(3)その他の様々な要因も作用して行動内容が決断され,かくて(4)その実行がなされる。しかし,このようにプロットされた行動であっても,もちろん万事が思うとおりにいくわけではない。その理由として,第一段階の現状分析の精度は当てにならず(それでも,他の段階に比べればまだ高いほうだろうが),第二段階の予想は情報が不足で仮定ばかりとなり,それ故にかそれ故にでないか,第三段階の決断には実体の不明な要因が入り込み,必ずしも第二段階で推奨された内容にはならず(ときにはまったく正反対のことにすらなってしまう),そして第四段階の実行の際にも,予期せぬことが起こったり,何か魔が差したりして思わぬ失敗をしてしまう。

診療の場で先輩から教わったこと

著者: 丸茂健

ページ範囲:P.202 - P.202

 母校の大学病院のスタッフ,同窓の先輩に支えられながら常勤医1人で,現在の病院で泌尿器科をあずかって15年余りになる。私のような立場の泌尿器科医には共感していただけることと思うが,日常の問題をリアルタイムで相談し合う同僚がいないこと,泌尿器科学の進歩に取り残されないかなど,悩みと焦りがある。それでも,こうして診療を行うための基礎を駆け出しの私に身に付けて下さった諸先輩に,日頃より感謝をしている。
 むろん書物から学ぶことは大切なことであるが,本は叱ってはくれない。その場の強烈な印象とともに学んだことは,一種の条件反射となって身についているのだと思う。

若い女性の泌尿器科の先生方へ

著者: 久保田洋子

ページ範囲:P.210 - P.210

 この春,山形大学医学部泌尿器科開設以来,5人目の女性医局員が誕生しました。一方,6月には,他の1人が妊娠を契機に医局を去りました。結局,当科20数年間の女性入局者5人のうち,現在働いているのは,私と4月に入局したフレッシュマンの2人だけです。
 結婚までは,女性泌尿器科医と男性泌尿器科医間に差異を認めないのですが,女性は男性と比較し,結婚,妊娠,出産を契機に退職したり,科を替わったりするケースが多いように思います。この結果は,単にわれわれの医局のデータにのみ基づいていますので,信頼のおける結論を出すにはもっと大規模な調査が必要ですが……。

私の夜尿症治療法

著者: 菅谷公男

ページ範囲:P.240 - P.240

 夜尿症に関しては医師により治療法,治療開始時期がかなり異なる。夜尿症の原因はさまざま挙げられるが,潜在性二分脊椎による極軽度の神経因性膀胱が多いように感じる。しかし,夜尿症は小児期の疾患であって,成人の夜尿症は極めて珍しい。その理由は,相対的膀胱容量の増加,尿量の日内変動の確立や尿濃縮力の発達,それに遅延していた神経系の発達が思春期までに追いつくためかも知れない。このように,夜尿症はほっておいても治る。しかし,本人と家族にとってはほっておけないから受診することになる。
 受診のきっかけは"お泊まり"で,友人宅への宿泊や修学旅行の場合である。小学生や中学生にもなってまだ"オネショ"しているのは病気かも知れないと親が連れてくることも多い。本人にとってオネショは恥ずかしことであるが,毎日のことなので普段家庭ではあまり恥ずかしくないようだ。しかし,お泊まりを前にして恥ずかしさが頭をよぎり,親は子が辱しめを受けないようにと連れてくる。

医学教育と外来診療と

著者: 冨田善彦

ページ範囲:P.252 - P.252

 先だって当大学の医学部主催の1泊2日の医学教育ワークショップに参加いたしました。昨今の医学教育に関する変動ぶりには驚きの連続でしたが,その中で平成13年の医師国家試験にも取り入れる方向で検討されている客観的臨床能力試験(objective structured clinical examination:OSCE)の実習がありました。OSCEは,1975年にHardenらによってBritish Medical Journalに初めて紹介され,画期的医学教育法として現在約30か国で医学教育に採用されており,カナダのケベック州では家庭医の專門医試験に取り入れられているものです。大まかにいえば患者さんへの問診,理学的所見の採取,模型などを使った治療手技(創の縫合など)といった各々の能力を検討するブースが設けられており,この各ブースをローテートする方式で試験するというものです。
 小生の参加したワークショップでは,OSCEの中で標準模擬患者(standardized patients:SP)からの病歴の採取という設定がありました。このSPとは,ある条件を設定するとそれに沿った患者を演じる人のことで,例えば,40歳女性,専業主婦で腹痛ありといった設定において,医師がどのような質問をしたらどのように答えるかを全て標準化して,再現性を持って答えられるスペシャリストです。

ムンテラとインフォームドコンセント

著者: 頴川晋

ページ範囲:P.268 - P.268

 私たちは「ムンテラ」という言葉をよく使う。「Mundtherapie(Mund,口+Therapie,治療)」は独語のようにも思えるので,ベルリンに住む友人に問い合わせてみた。すると彼の地では「Gespraechstherapie」という言葉を用いるのだそうで,「ムンテラ」は完全な造語とのことである。言い得て妙,面白い言葉である。もっとも最近では,「インフォームドコンセント」という用語に押され気味で,分が悪い。しかし,私たちは本当に両者の違いを理解しているのだろうか。
 今を去ること10年前,私は米国南部の片田舎に住んでいた。米国滞在2年目ともなれば多少は心にゆとりができる。余暇を利用して小旅行することになった。この町の巨大な空港駐車場に車を止め,戻ってみると車がない。さては場所を間違えたかと思い,探し回るが見つからない。まさかと思って確認したところ,出庫記録がある。結局,北に伸びる高速道路の路肩に乗り捨てられていたのだが,中身は完全になくなっていた。ラジオ,カセットデッキはもとより,7人がけの座席すべてがなかった。当時の私の愛車は,清水の舞台から飛び降りたつもりで購入した名車シボレーアストロバンLT,れっきとした大出力正統派,ワンボックスのアメ車である。日本に持ち帰ろうと毎日のように磨きまくっていたので気落ちした。

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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バックナンバー

76巻13号(2022年12月発行)

特集 これだけは知っておきたい! 泌尿器科診療でも活きる腎臓内科の必須知識

76巻12号(2022年11月発行)

特集 ブレずに安心! 尿もれのミカタ

76巻11号(2022年10月発行)

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76巻10号(2022年9月発行)

特集 男性不妊診療のニューフロンティア―保険適用で変わる近未来像

76巻9号(2022年8月発行)

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76巻8号(2022年7月発行)

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76巻7号(2022年6月発行)

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76巻6号(2022年5月発行)

特集 ここまで来た! 腎盂・尿管癌診療―エキスパートが語る臨床の最前線

76巻5号(2022年4月発行)

特集 実践! エビデンスに基づいた「神経因性膀胱」の治療法

76巻4号(2022年4月発行)

増刊号特集 専門性と多様性を両立させる! 泌尿器科外来ベストNAVI

76巻3号(2022年3月発行)

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76巻2号(2022年2月発行)

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75巻13号(2021年12月発行)

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75巻12号(2021年11月発行)

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75巻11号(2021年10月発行)

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75巻10号(2021年9月発行)

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75巻9号(2021年8月発行)

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75巻7号(2021年6月発行)

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