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雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科55巻10号

2001年09月発行

雑誌目次

特集 最新の手術器械を使いこなす

特集によせて フリーアクセス

著者: 村井勝

ページ範囲:P.799 - P.799

 「泌尿器科学」は「外科学」の一部であり,そのsubspecialtyであることは論を俟たない。したがって,治療面で手術が重視される外科系の専門分野としての近代泌尿器科学の歴史は比較的浅いといえるが,その短い歴史のなかで着実に進歩・発展を遂げている。特に過去10年余りの泌尿器科学の進歩は目覚ましいものがあり,医学全体が目指しているminimally invasive treatmentの流れに沿って大きく変化している。
 他の手術を専門とする領域と同様に,この分野では新しい手術機器がたくさん出てきている。すなわち,電気メス,はさみなどの手術機器から,マイクロ波や超音波,さらにはレーザーエネルギーを用いた凝固切開装置,また吻合ないし縫合を目的とする器械など様々なものが出現している。これら多くの器械には,当然のことながら素晴らしい長所のほかに欠点がある。その機器を熟知し,その短所や欠点を十分に理解したうえで,注意しながらその長所を100%引き出すことによって,新しい機器の特色を生かすことができるようになる。それにより手術時間の短縮や出血量の減少,合併症の減少がはかられ,結果として患者にやさしいminimally invasive surgeryが達成できる。

モノポーラ式電気メスの使い方

著者: 並木一典 ,   伊藤貴章

ページ範囲:P.801 - P.805

 電気メス(電気手術器)は迅速・容易な切開,凝固が行える簡便な手術装置であるが,高周波電流を用いた高出力機器であり,危険な機器でもある。電気メスを安全,有効に使用するには,高周波電流の特性を理解し,対極板や高周波分流などによる熱傷,電磁障害の原因を認識し,予防しなければならない。さらにTVP(経尿道的前立腺蒸散術)のように高出力で電気メスを用いることもあり,内視鏡手術における高周波分流についても尿道狭窄の点から言及した。開腹手術のみならず内視鏡手術においても十分な理解が必要である。

モノポーラ式電気メスの使い方

著者: 飯泉達夫

ページ範囲:P.807 - P.811

 電気メスは高周波を利用した手術用機器であり,70年以上の歴史がある。その基本的な利用法であるモノポーラ式電気メスは最も一般的な手術器具の1つとして広く使用されている。しかし,あまりにも一般的になり過ぎて,その原理や機種の特徴を理解せずに使用しているために,電気メスの性能を十分に活用しきれていない場合が多いと推測される。効率のよい切開と確実な止血を得ながら安全に手術を行うためには,使用している電気メスの操作説明書を熟読し,その性能を十分に把握しておく必要がある。

バイポーラ式電気メスの使い方

著者: 盛谷直之 ,   平川真治

ページ範囲:P.813 - P.819

 泌尿器科手術において,バイポーラ式電気メスは腹腔鏡下手術の増加とともに,近年,より広範囲にわたって使用されてきている。さらに,新世代のバイポーラ・テクノロジーにより開発されたベッセルシーリングシステムの使用も可能になった。これは,血管壁を溶解させ永久的に血管を閉鎖する革新的な止血機器である。われわれの施設でも膀胱全摘除術のlateral vascular pedicleの切離,腸間膜の切離などに使用したが,安全・容易に施行できた。泌尿器科手術において,このような新しいバイポーラ式電気メスの使用は不慮の組織損傷の危険性を低減させることができると考えられる。

バイポーラ式電気メスの使い方

著者: 高橋康一

ページ範囲:P.821 - P.826

 バイポーラ式電気メスは,刃先に挟まれた間のみを乾燥・凝固し,他の部位への損傷が少なく,また低電圧で施行できる利点を持つ。泌尿器科領域では,開放手術については尿道,陰嚢,陰茎などのマイクロサージャリーや形成手術における出血部位の止血に有用である。また,腹腔鏡下や後腹膜腔鏡下の手術においても,止血以外に組織の把持や剥離に電極鉗子として広く用いられている。本器具を有効に用いるには,その原理を理解するとともにモノポーラ式電気メスとの相違点をよく把握することが大切である。そのうえで,不適切な使用により生じる重篤な組織損傷をできる限り回避するように努めなければならない。

バイポーラシザーズの使い方

著者: 武田正之 ,   土田孝之 ,   荒木勇雄 ,   座光寺秀典

ページ範囲:P.827 - P.832

 バイポーラ式鉗子は低出力であるが安全性が高い。体腔鏡下手術用のバイポーラ式凝固機構を備えた鉗子には,剥離鉗子,はさみ鉗子,把持鉗子,凝固切離鉗子,針型鉗子などがある。バイポーラ式電気メスを腹腔鏡下手術に応用するためのコツは,①電極(鉗子)が凝固組織に粘着するのを防ぐために把持力を弱めたり強めたりする,②大きな血管(5mmまで)を的確に止血・凝固するために鉗子で血管に圧力を加えて血流を抑え,組織の発熱が十分に起こるように泡の発生を確認して凝固効果を確実にする,③可能であれば対象組織の大きさ,血管の太さなどによってバイポーラ式電気メスの電極の大きさを使い分ける,などである。

バイポーラシザーズの使い方

著者: 岩村正嗣

ページ範囲:P.833 - P.836

 バイポーラシザーズ(パワースター®)は剪刀にバイポーラ機能を組み合わせ,切開と凝固操作が同時に施行できるという手術器具である。本器具の最大の利点は器械を持ち替えることなく凝固と切開が可能な点で,結紮操作が省略されるために術者は連続して手術を進めることができ,手術時間の短縮が可能となる。ただ剪刀として使用するには切れ味が劣ること,凝固しながら切開する際に切開のスピードにより凝固能が変化すること,スイッチが足踏み式で操作しにくいことなど,本器具の使用に慣れるには多少の習熟期間が必要と思われる。本稿ではバイポーラシザーズについて,その原理,基本的な使用法,泌尿器科領域の手術における利点について解説する。

超音波外科用吸引装置の使い方

著者: 牛山知己 ,   鈴木和雄

ページ範囲:P.839 - P.843

 超音波外科用吸引装置は,ハンドピースの先端が超音波振動することにより組織を破砕・乳化する。弾性の乏しい組織が破砕されやすく,弾性に富む血管や神経などは温存されるという特徴を有するので,血管・神経周囲の剥離,肝臓手術,脳神経外科手術で特に有用性が高い。高周波焼灼装置に接続可能な機種や腹腔鏡下手術用のハンドピースも開発され,使用可能になっている。操作は,組織にある程度の緊張をかけ,ハンドピースで"つつく"ようにしたり,"なぞる"ようにする。操作が同じ部位に集中したり,大血管や腫瘍に近づきすぎないように注意する。

超音波外科用吸引装置の使い方

著者: 原野正彦 ,   内藤誠二

ページ範囲:P.845 - P.850

 超音波外科用吸引装置は,振動するハンドピース先端を組織に当てることで,接した組織を破砕し吸引する。その際,細胞間結合が弱い組織(血管,神経,リンパ管,腱など)ではコラーゲンが豊富で破砕効率が悪くなるので,それらの組織は破砕されにくい。それらの特徴を踏まえ,本稿では,超音波外科用吸引装置を使う際の対象臓器・手術,また泌尿器科手術における実際の使い方について概説する。

マイクロ波手術器の使い方

著者: 坪井成美

ページ範囲:P.851 - P.856

 マイクロ波手術器(マイクロターゼ®)は誘電熱を止血,凝固,切開などの手術に利用するものである。泌尿器科領域では,腎部分切除術の絶対的適応症例はもとより,electivecaseに対しても本機器を用いて腎部分切除術を施行する施設が増加している。まずCTでの腫瘍最大径を基に使用する針電極の長さと,穿刺角度を決定する。腎被膜を直接穿刺して,全周に凝固が完了したら針電極の穿刺部をつなぐように先の鋭い鋏で鋭的に切開し,出血は吸収糸を用いて止血する。インジゴカルミンを静注して,尿漏れがないことを確認する。腎機能障害を最小限にでき,出血も少ない本術式は,今後さらに普及するものと確信している。

マイクロ波手術器の使い方

著者: 吉井将人 ,   平尾佳彦

ページ範囲:P.857 - P.863

 一般的には患側腎温存手術は阻血下に手術が行われ,温阻血に伴う腎障害の回避のために腎冷却などの複雑な手技が必要とされてきた。しかし田伏により開発されたマイクロ波手術器(マイクロターゼ®)は,病変部周囲の切除部位を針状電極で凝固することにより切除面からの出血を抑え,無阻血にて腫瘍を切除することを可能とした。単結節型の小さな腎細胞癌に対するマイクロ波手術器を用いた無阻血腎腫瘍完全核出術について,open surgeryとlaparoscopicsurgeryの2つのアプローチ法に分けて手術手技を中心に述べた。

超音波凝固切開装置の使い方—泌尿器科手術における超音波凝固切開装置の有用性

著者: 鈴木孝行 ,   荻原雅彦 ,   中村隆行

ページ範囲:P.865 - P.871

 超音波凝固切開装置は,臨床応用されて間もない手術装置であるが,現在多くの外科領域で使用されている。われわれはシアーズタイプを用いて,開放手術では前立腺全摘除術や膀胱全摘除術を,内視鏡下手術では大網切除や副腎摘除術を行い,特に内視鏡下手術での有用性を確認してきた。しかし,安全に本装置を使用するに当たっては,その特性を理解し,以下の点に注意することが必要と思われる。①切開のはじめはコアグラムが形成されるまで待つ。②切開の途中で出血しても慌てない。③振動子は視野のなかで使用する。④組織に余分な緊張をかけない。⑤壁の薄い血管に使用する際は周りの脂肪ごと凝固・切開する。

超音波凝固切開装置の使い方

著者: 川端岳

ページ範囲:P.873 - P.880

 超音波凝固切開装置は1991年,Joseph F.Amaralにより腹腔鏡下胆嚢摘出術で世界ではじめて用いられた。本邦への紹介は1992年であり,ちょうど腹腔鏡下手術が本邦で普及しはじめた時期に一致する。その後,様々なブレードが開発され,最近では開腹手術においても使用されることが増え,その有効性,安全性にはすでに高い評価が得られている。本機は超音波駆動メスとも呼ばれるように組織を切開するものであるが,高い凝固能力も併せ持つことが特徴であり,作動原理は高周波電気メスとは違うものである。副腎や腎に対する腹腔鏡下手術の際に,本機は手術時間短縮やクリッピングを少なくするために必須のものとしてわれわれも頻用しており,また開腹での腎や骨盤内手術の際にも結紮を少なくし,出血量を減少させる目的で使用している。本稿では,超音波凝固切開装置の構造と原理から実際の使用法や使用に当たっての留意点などを述べる。

アルゴンビームコアギュレーターの使い方

著者: 服部良平 ,   小野佳成 ,   大島伸一

ページ範囲:P.881 - P.885

 アルゴンビームコアギュレーター(argon beam coagulator:以下,ABC)は電気エネルギーの組織への到達はアルゴンガスに媒介されるため,空気を媒介とした場合(従来の放電凝固)と比べエネルギー密度が低くなると同時に,アルゴンガスを吹き付けることによる冷却効果が生じる。したがって,ABCのほうがスプレー凝固に比べると凝固領域が広く,浅いのが特徴である。ABCは2mm程度の動静脈からの持続性出血に対しては止血効果は十分ではなく,ほぼ止血された切除断端の止血状態の確実性を高めるように使用するものである。ABCは比較的短時間で凝固面が形成されることより,腎部分切除術の断端の凝固やリンパ嚢胞の治療に使用されている。最近では腹腔鏡下腎部分切除術や肝臓に入り込んだ右副腎腫瘍に対する腹腔鏡下副腎摘除術に使用されている。

アルゴンビームコアギュレーターの使い方

著者: 魚住二郎

ページ範囲:P.887 - P.891

 アルゴンビームコアギュレーター(argon beam coagulator:ABC)は,高周波の電気的なエネルギーをアルゴンガスの流れにのせて,目的とする部位に非接触型のスプレー凝固電流として作用させる装置である。①照射組織の表面に均一な凝固層が形成される,②凝固組織の炭化が少ない,③アルゴンガスの噴射によって血液を吹き飛ばし,標的組織を直接凝固するので止血の効率がよい,などの特徴を有する。ABCは,通常の電気凝固や縫合による止血操作が困難な肝臓,腎臓,脾臓などの実質臓器からの出血に対して最も真価を発揮する。泌尿器科領域では,腎部分切除術における切除面の止血に用いられることが多い。ABC使用に伴う合併症として,ガス塞栓や腸管損傷に注意を要する。

自動吻合器・自動縫合器の使い方—前立腺摘除術・膀胱摘除術における自動縫合器の利用

著者: 村石修

ページ範囲:P.893 - P.900

 開放手術の根治的前立腺摘除術や膀胱全摘除術の臓器摘除の過程で自動縫合器を使用すると手術時間が短縮でき,術中出血量を減らすことができる。使用する自動縫合器は内視鏡下手術用の自動縫合器であるが,開放手術での使用においても有用である。前立腺癌に対する前立腺摘除術は内視鏡下手術としても行われるようになりつつあるが,現在のところ開放手術のほうが手術時間は短くてすむと思われる。その開放手術で自動縫合器を利用すると,より短時間で安全に手術を終了できる。膀胱癌に対する膀胱全摘除術では代用膀胱造設の頻度が増しつつあり,手術全体の時間短縮のためには臓器摘除過程を短縮して行う必要があり,そのためにも自動縫合器の利用は有用である。

自動吻合器・自動縫合器の使い方—根治的膀胱全摘除術における自動縫合器使用の有用性

著者: 高橋信好 ,   工藤茂将 ,   大黒祥光 ,   菱本康之 ,   古家琢也 ,   鈴木唯司

ページ範囲:P.901 - P.904

 根治的膀胱全摘除術および腸管利用尿路変向術に対し自動縫合器ならびに自動吻合器を使用した。膀胱側方靱帯の止血・切離に自動縫合器を用いたが,短時間に止血操作が可能であった。さらに,逆行性摘除のほうが順向性摘除よりも短時間であり,フアイヤーする自動縫合器の本数も半分の使用ですませることが可能であった。自動縫合器使用による逆行性膀胱全摘除術は,より安全性を追求した手術手技の1つになり得ると考えられる。

手術手技 目でみる泌尿器科手術のポイント・9

—尿失禁の手術—尿道下吊り上げ術

著者: 井川靖彦

ページ範囲:P.909 - P.916

 尿失禁に対する手術療法は,膀胱蓄尿障害(過活動膀胱,低コンプライアンス膀胱)に対して行う膀胱拡大術と,尿道閉鎖機能不全に対して尿道抵抗を高める目的で行う尿失禁防止術の2つに大別できる。本稿では,これらのうち,特に,尿道括約筋自体の構造的または機能的障害である,いわゆる内因性括約筋不全(intrinsic sphincter deficiency:ISD)に対して筆者が行っている筋膜を利用した尿道下吊り上げ術(suburethral fascialsling procedure)の手術手技の実際について紹介する。なお,本法は,筆者が小川秋實教授から指導を受け,以降行っているものである。

—尿失禁の手術—恥骨固定式尿道スリング手術

著者: 嘉村康邦 ,   橋本樹 ,   山口脩

ページ範囲:P.917 - P.925

 近年さまざまな尿失禁防止術が乱立しているが,長期の良好な尿禁制効果と低侵襲性を併せ持つ,ゴールドスタンダードな方法論をいまだに模索中というのが現状であろう。本稿では我々の行っている牽引糸を恥骨に固定する,人工血管を用いた尿道スリング手術について概説する。術中の厳重な感染対策,膀胱頸部から中部尿道にかけての正確なスリング材のポジショニング,牽引糸の過剰張力の防止などが手術成功のポイントと考えられる。

—尿失禁の手術—TVT法

著者: 加藤久美子 ,   平田朝彦 ,   鈴木弘一 ,   佐井紹徳 ,   村瀬達良

ページ範囲:P.927 - P.933

 尿道スリング手術は女性腹圧性尿失禁に対し良好な長期成績が期待できるが,過挙上すると尿閉が遷延する危険があり,尿道の支持をいかにtension-freeで行うかが重要である。TVT法はプロリーン®メッシュのテープを両端のニードルで腟壁側から腹壁側に通し,中部尿道をU字型に支持するもので,術中ストレステストで咳による尿漏出がほぼ止まるのを指標にテープ位置を調節する。膀胱穿通を避けるニードルの進め方,調節に際しテープのたるみ,引きつれの双方を排除する方法,テープの過挙上を引き起こさないテープカバーの除去法など,細かなポイントを述べる。

セミナー 泌尿器科領域における形成外科的再建手術・3

デルトイド皮弁(deltoid flap)による陰茎形成術

著者: 井上義治 ,   原科孝雄 ,   高松亜子 ,   若松慶太 ,   三浦洋靖

ページ範囲:P.935 - P.939

 デルトイド皮弁の使用により困難な陰茎形成術の目的がほぼ達成可能である。いくつかの合併症がみられたが追加の手術を行うことで修正可能であった。従来の前腕皮弁による再建と比べ皮弁採取部が隠れること,皮弁の萎縮がごく軽度であることが大きな利点である。症例により皮弁が厚いこと,皮弁の挙上が難しいこと,手術時間が延長することが欠点である。この利点,欠点を考慮して最適の選択を行うことが望ましい。

原著

訪問診療を受けている患者の尿路管理の現状と問題点

著者: 山田大介 ,   村田匡 ,   陶山文三 ,   大原昌樹 ,   中津守人 ,   小比賀二郎 ,   片山陽子 ,   大江美樹

ページ範囲:P.941 - P.944

 訪問診療を受けている患者51名(男性30名,女性21名)の尿路管理の現状を検討した。65歳から89歳までの男性患者では自排尿が17名中12名と比較的排尿自立が良好であった。それに対して女性患者21名では,排尿が自立している患者は21名中5名と少なく,尿道カテーテルが留置されている患者が半数近くを占めていた。患者の基礎疾患では脳出血,脳梗塞を主体とする神経疾患が全体の70.6%と多数を占め,特に排尿が自立していない患者では84.8%と大多数の患者が神経疾患を基礎疾患としていた。尿道カテーテルの留置理由は女性では9名中5名が尿失禁対策であり,尿道カテーテル留置患者では15名中13名と大多数の家庭が,同居家族人数が1または2名の核家族であった。

レーザーによる精管凝固閉塞術の検討

著者: 肖新民 ,   趙启華 ,   金国輝 ,   王圣渃 ,   罗光明 ,   許亚宏

ページ範囲:P.945 - P.949

 我々は,兎精管20本とヒト摘出精管12本を対象に,レーザーファイバーを精管腔内に差し込み,Nd:YAGレーザーを用いて30〜50Wの出力で凝固閉塞を行った。この試験照射による有効凝固閉塞域値は,兎精管が40W/0.5〜1秒で,ヒト精管が50W/0.5秒ならびに45W/1秒であった。上記の結果を受け筆者らは,兎150匹の精管にNd:YAGレーザーを用いて凝固閉塞試験を行った。レーザーの出力40W群は,術後7〜14日目に脱落組織により精管が閉塞した。病理組織学的には術後30日目に炎症性細胞が過形成となり,3か月間は管腔が完全閉塞し,凝固部位には3mmの小結節を呈した。病理検査の結果,線維組織は増殖していたが,精管周囲の血管の病理的な傷害はなかった。また,バースコントロール希望男性15例に対して,経皮的に精管に刺入してレーザーによる凝固閉塞術を施行した。結果は14例で精液中に精子が認められず,1例でわずかな精子を認めた。レーザーによる精管凝固閉塞術は伝統的な結紮術より簡便かつ切開創も小さく,凝固部位も短く,再吻合も行いやすいと考えられた。

症例

膀胱虫垂瘻の1例

著者: 高島博 ,   三輪聰太郎 ,   布施春樹 ,   平野章治 ,   村上望

ページ範囲:P.951 - P.953

 症例は62歳,女性。繰り返す膀胱炎の精査のため当科に紹介された。膀胱鏡で右後壁に浮腫状で中心部に陥凹を伴う隆起性病変を認めたが,膀胱生検では悪性所見は認めなかった。隆起性病変に対し経尿道的切除術を施行した際に糞臭のする物質を認めた。膀胱造影では瘻孔は描出されなかった。その後下痢と糞尿を認めるようになり膀胱腸瘻の診断にて開腹手術を施行した。虫垂先端が膀胱頂部右側と癒着していたことから膀胱虫垂瘻と診断した。

クローン病による腸管膀胱瘻から偽腫瘍をきたした2例

著者: 浜本幸浩 ,   後藤高広 ,   河村毅 ,   谷口光宏 ,   竹内敏視 ,   酒井俊助

ページ範囲:P.955 - P.958

 今回我々は,クローン病の膀胱回腸瘻から膀胱に炎症性偽腫瘍をきたした2例を経験したので報告する。症例1:17歳,女性。回腸部分切除,膀胱部分切除を行った。症例2:31歳,女性。内科的治療にて経過観察中である。いずれも経過は良好である。

学会印象記

第96回米国泌尿器科学会(AUA)—新しい風を見る

著者: 町田豊平

ページ範囲:P.959 - P.959

 米国泌尿器科学会(AUA)の朝は早い。東の空がようやく明けはじめる5時45分には,学会の早朝教育コースがスタートする。5時には起床し,ホテルからのシャトルバスに乗らないと講演に間に合わない。会場入口でIDを登録テキストと提出用の講演評価表を受け取り会場内にはいると,すでに500名をこえる受講者が席を埋めている。これからが今日の学会の始まりだ。
 今年のAUAは陽春のカリフォルニア・アナハイムのコンベンションセンターで6月2日から7日まで,参加者16,000人(推定)を集めて開催された。日本人参加者は約250名と聞いたが,例年になく東洋系(中国,韓国)の参加者が目立った。私は1972年のAUA(ワシントン)に初参加して以来,毎年努めて出席するようにしている。何時の学会も,新しい学問的な刺激と参加者のひたむきな泌尿器科学への情熱が肌に伝わり,職業としての医学を私に促してくれるからである。

第96回米国泌尿器科学会(AUA)体験記

著者: 小野芳啓

ページ範囲:P.960 - P.961

 今回初めてAUAに前立腺の基礎的分野でポ スター参加いたしましたので,若輩ながら体験記を書かせていただきます。

病院めぐり

取手協同病院泌尿器科

著者: 竹内信一

ページ範囲:P.962 - P.962

 総合病院取手協同病院は茨城県厚生連が県内で経営する6病院のなかの1つで,人口約8万2,000人を擁する茨城県南の取手市に位置しています。その前身は昭和51年に旧取手協同病院と竜ヶ崎協同病院とが合併して開設され,昭和58年に総合病院としての体制を整えています。当院の病床数は410床(一般406床,感染病床4床)で,標榜科は19科,常勤医師数は65名,外来患者数の1日平均は約1,350名となっています。そして,地域に信頼されるよい医療を目指し,24時間開かれた病院として夜間,休日にも多くの患者さんを受け入れています。
 さて,当病院での泌尿器科の歴史はというと,昭和55年4月,現在の泌尿器科部長兼副院長である和久井 守が非常勤として週1回赴任してからの開設となります。その後,昭和58年1月から和久井が常勤となり,昭和59年5月からは2人常勤体制,現在は部長である和久井と竹内信一および沼尾昇の計3人で診療を行っています。通常の外来診療は月〜金曜日,土曜日(第1,3,5土曜日)の午前中に行い,特殊外来としてストーマ外来(水曜日),膀胱腫瘍外来(木曜日),神経因性膀胱およびコンチネンス外来(木曜日)をそれぞれ週1回,午後に行っています。

社会保険中央総合病院泌尿器科

著者: 原田昌幸

ページ範囲:P.963 - P.963

 社会保険中央総合病院はJR新大久保駅および大久保駅から徒歩7〜8分のところにあります。今までであれば新大久保駅の名を知る人も少なかったものと思いますが,ホームから転落した人を自らの命をも顧みず救おうとし,2人の若者が命を失ったこの駅での出来事はまだ記憶に新しいことでしょう。また,大久保駅周辺は知る人ぞ知る焼肉屋のメッカであり,雑誌やテレビ番組で紹介されることも多く,食べ盛りの若い看護婦たちの食欲を満たすのに重宝しています。この両駅を中心とした繁華街は歌舞伎町にも近く,日本とは思えないほど多くの外国人を見かけることができ,国際色豊かであります。
 当院の前身は昭和22年に東京社会保険協会山手病院として大久保の地に設立され,昭和32年に社会保険中央総合病院と改称,昭和62年に現在地(百人町)に移転し,今日に至っています。当院の診療科は23科,病床数は418床で,健康管理センター(人間ドック)を有しています。当院の特徴である大腸肛門病センターと内科のクローン病外来は特に有名であり,全国各地から患者さんが診察を受けにきています。

交見室

高齢者の術後せん妄

著者: 勝岡洋治

ページ範囲:P.965 - P.965

 術後回診の際,老人患者で故意に眠らされていたり,ベッドの手摺に紐でくくり付けられている場面に遭遇することがある。担当医にその理由を聞くと,夜中に点滴チューブや尿道カテーテルを自己抜去したり,粗暴な行動をとったので,已むなくそのような処置を選択したという。
 二十数年前になるが,いまでも鮮明に記憶している同じような出来事がある。患者さんは人間国宝の認定を受けておられた高名な陶芸家で,当時すでに80歳をこえていたが矍鑠としておられた。健康の秘訣は何ですかとの質問には,好奇心をもち続けることですと答えられた。そして,「昨日在庵」,「今日不在」,「明日他行」と座右の銘を揮毫された本を頂戴した。この元気一杯な老人が腰麻下にTURPを施行されたその晩から,不穏や興奮などの精神症状が出現し,術後の安静が保てないとの理由で抑制帯で身体を拘束させられていた。その当時私は高齢者にみられる術後の一過性で可逆性の精神障害,いわゆる術後せん妄の知識もなく,唯々当惑するばかりであったが,間もなく回復したので漸く安堵した。それ以降も時折,この高齢者に特有ともいえる術後せん妄を経験しているが依然関心は低かった。

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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75巻6号(2021年5月発行)

特集 躍動するオフィスウロロジー―その多様性に迫る!

75巻5号(2021年4月発行)

特集 前立腺癌のバイオロジーと最新の治療―いま起こりつつあるパラダイムシフト

75巻4号(2021年4月発行)

増刊号特集 泌尿器科当直医マニュアル

75巻3号(2021年3月発行)

特集 斜に構えて尿路結石を切る!―必ず遭遇するイレギュラーケースにどう対処するか?

75巻2号(2021年2月発行)

特集 複合免疫療法とは何か? 腎細胞癌の最新治療から学ぶ

75巻1号(2021年1月発行)

特集 朝まで待てない! 夜間頻尿完全マスター

74巻13号(2020年12月発行)

特集 コロナ時代の泌尿器科領域における感染制御

74巻12号(2020年11月発行)

特集 泌尿器科医のためのクリニカル・パール―いま伝えたい箴言・格言・アフォリズム〈下部尿路機能障害/小児・女性・アンドロロジー/結石・感染症/腎不全編〉

74巻11号(2020年10月発行)

特集 泌尿器科医のためのクリニカル・パール―いま伝えたい箴言・格言・アフォリズム〈腫瘍/処置・救急・当直編〉

74巻10号(2020年9月発行)

特集 令和最新版! 泌尿器がん薬物療法―手元に置きたい心強い一冊

74巻9号(2020年8月発行)

特集 泌尿器腫瘍の機能温存手術―知っておくべき適応と限界

74巻8号(2020年7月発行)

特集 これが最新版! 過活動膀胱のトリセツ〈特別付録Web動画〉

74巻7号(2020年6月発行)

特集 小児泌尿器科オープンサージャリー―見て学ぶプロフェッショナルの技〈特別付録Web動画〉

74巻6号(2020年5月発行)

特集 高齢患者の泌尿器疾患を診る―転ばぬ先の薬と手術

74巻5号(2020年4月発行)

特集 ここが変わった! 膀胱癌診療―新ガイドラインを読み解く

74巻4号(2020年4月発行)

増刊号特集 泌尿器科診療の最新スタンダード―平成の常識は令和の非常識

74巻3号(2020年3月発行)

特集 泌尿器科手術に潜むトラブル―エキスパートはこう切り抜ける!

74巻2号(2020年2月発行)

特集 いま話題の低活動膀胱―これを読めば丸わかり!

74巻1号(2020年1月発行)

特集 地域で診る・看取る緩和ケア―泌尿器科医として知っておくべきこと

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