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雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科55巻4号

2001年03月発行

雑誌目次

増刊号特集 泌尿器科手術における合併症管理のすべて

企面・編集にあたって フリーアクセス

著者: 秋元成太

ページ範囲:P.9 - P.9

 従来,泌尿生殖器を対象とした手術は,侵襲の大きなものが少なく,したがって術前検査はそれほど重要視されなかった。しかし現在では,腸管を利用した尿路変向術や腹腔鏡下手術,経尿道的手術など手術方法も多様化し,かつ侵襲の大きな手術も増え,人体への侵襲の形もさまざまなものが存在する時代となった。
 泌尿器科手術は,他科領域に比べ高齢者を対象とすることが多く,術前合併症はもとより,術中・術後合併症も多岐にわたっている。例えば,合併症として循環器系,呼吸器系,消化器系のものはすぐに頭に浮かんでくるが,最近では術後精神障害により,泌尿器科医はもとよりコメディカルの人たちをも悩ますことが稀ではなくなってきている。

Ⅰ.術前ハイリスク症例の管理

神経系疾患—脳血管障害を中心に

著者: 池田幸穂 ,   松本清

ページ範囲:P.11 - P.13

1 はじめに
 脳血管障害は,悪性新生物についで死因の重要な位置を占めている。日本では,高齢化社会になり脳血管障害を併存する泌尿器科患者の手術機会はますます増加していると考えられる。
 脳血管障害は,大別して高血圧性脳出血,くも膜下出血,血管奇形,モヤモヤ病などの出血性疾患と,脳梗塞,一過性脳虚血発作,高血圧性脳症などの閉塞性疾患に分類される。脳血管奇形を除き,多くは加齢によって生じるものであるが,背景に高血圧,糖尿病,高脂血症,心疾患,腎機能障害などの基礎疾患やリスクファクターを併存していることが多い(表1)。さらに,麻痺,嚥下障害,痴呆の合併など脳血管障害患者に特徴的な病態の存在がある。

循環器系疾患—虚血性心疾患を中心に

著者: 石川進 ,   森下靖雄

ページ範囲:P.14 - P.16

1 はじめに
 近年,手術方法と周術期管理の進歩に伴い,ハイリスク症例においても積極的に手術が行われつつあるが,虚血性心疾患を中心とする循環器疾患の合併は直接生命を左右する。本稿では,循環器疾患患者の術前評価,治療計画および術中・術後管理を中心に,大まかなガイドライン(安全域)について述べる。

呼吸器系疾患

著者: 中島淳

ページ範囲:P.17 - P.19

1 はじめに
 術後呼吸器合併症はひとたび発生すると重症化しやすく,致死率は高い。近年,老齢者に対する手術の増加に伴い術前呼吸器疾患を持っ患者は増加している。Major surgeryを施行する際,術前呼吸器評価は重要である。特に気管支喘息,肺気腫,慢性気管支炎はありふれた疾患だが,周術期には注意を要する。

消化管系疾患—胃・腸切除後患者を中心に

著者: 中島祥介 ,   長尾美津男 ,   金廣裕道

ページ範囲:P.20 - P.22

1 はじめに
 近年では,胃・腸切除を必要とする消化管系疾患に対しても内視鏡下手術が導入され,低侵襲化がはかられている。しかしながら,一方では開腹による広範な消化器切除や周囲組織の合併切除が必要とされる悪性疾患も依然として多い現状にある。これら術後患者は,消化管独特の術後合併症や術後機能異常を有する場合があること,また術後に強力な補助療法を受けている可能性があることから,泌尿器科手術の術前ハイリスク症例として取り扱う必要がある。

肝・胆道系疾患—肝炎を中心に

著者: 藤井秀樹

ページ範囲:P.23 - P.26

1 はじめに
 手術の適応基準を決定するに当たって,急性期の肝炎は臨床病期の確定が重要で,発病から極期までの期間では明らかにその適応からは除外される。一方,本邦では肝炎のほとんどすべてが肝炎ウイルスの持続感染によるものであり,手術を施行するに当たっては慢性肝炎ならびにその終焉像である肝硬変の重症度と進展度を的確に評価することが重要であり,その評価に基づいて手術の適応を決定すると同時に,術前・術後の管理を行う必要がある。
 本稿では,肝炎をはじめとする障害肝の重症度と進展度の評価法とその病態の特殊性を考慮した術前・術後の管理の実際につきその要点を述べる。

代謝・内分泌系疾患—糖尿病

著者: 岩佐正人 ,   岩佐幹恵 ,   小越章平

ページ範囲:P.27 - P.30

1 はじめに
 近年,外科的手術患者の糖尿病合併の割合は増加傾向にあり,このような患者に対しては原疾患はもちろんのこと,術前のリスク判定,術中・術後の血糖値の管理や栄養療法をはじめ,種々の合併症の予防のためにも慎重かつ多面的な患者管理が要求される。

尿路系疾患—腎不全を中心に

著者: 冨田善彦 ,   斉藤和英 ,   高橋公太

ページ範囲:P.31 - P.33

1 はじめに
 腎機能障害を有する患者は,その程度により健常人と同じ日常生活が営める場合から血液浄化療法を受けている患者まで幅があり,周術期の管理も,一般の患者と同様に術前管理が可能な場合から特別な対応を必要とする場合がある。本稿では,腎障害の程度の判定と周術期の対応,慢性透析患者の周術期の対応,急性腎不全患者の周術期の対応の順で述べたい。

血液疾患—止血機能障害

著者: 山下裕一 ,   白日高歩

ページ範囲:P.34 - P.36

1 はじめに
 観血的治療を行う患者に対しては,術中・術後の出血という危険を考慮して術前の検査と十分な準備を行う必要がある。止血機能障害を有する患者は,血小板,凝固因子,線溶系因子または血管系に何らかの原因で異常を認める。十分な準備を怠ると,出血傾向として術中・術後に重大な問題を起こしてくる。したがって,顕性または不顕性の出血傾向を有する患者を術前に見落としなくスクリーニングし,術前にその状態を改善させ,術中・術後に相応の対処ができるように準備し,手術に臨まなければならない。

Ⅱ.術式別にみた術中・術後合併症の管理 A.尿路内視鏡手術 1.経尿道的尿路内視鏡手術

内尿道切開術

著者: 森義則

ページ範囲:P.39 - P.42

1 はじめに
 尿道狭窄の治療法としては,尿道内より切開する方法(内尿道切開:urethrotomia interna)と外から切開を加える方法(外尿道切開:urethrotomia externa)があり,内尿道切開については以前はMaisonneuve切開刀などにより盲目的に切開する方法が行われていたが,大出血を起こしたりすることがあり,ドイツのSachse(1974)1)により内視鏡的な内尿道切開が開発されてからはすっかりこれに取って換わられた。
 内視鏡的な内尿道切開は,尿道鏡下に,直視下に狭窄部を正確かつ必要十分なだけ切開できるので合併症は少なく,手術成績は良好である。切開には普通のメスを小さくしたものが使われ,電気メスやレーザーメスによる切開は瘢痕性狭窄を再発する率が高いのでほとんど行われない。幼小児用の器具もあり,成人のみならず小児の尿道狭窄に対する治療法として有効である。

経尿道的前立腺切除術(TUR-P)

著者: 長久保一朗 ,   森川高光 ,   堀場優樹

ページ範囲:P.43 - P.47

1 はじめに
 経尿道的前立腺切除術(TUR-P)は温熱療法,レーザー療法などの新しい治療法が出現しても,前立腺肥大症の治療法では最重要の位置にあり,各地で頻用されている。つい30年前には,TUR-Pの技術の習得には数百例の経験が必要といわれていた。しかし,内視鏡の改良,ビデオテレビの登場により,TUR-Pの技術の習得は急なるものがある。このため,従来いわれている合併症1,2)にも微妙な変化をきたし,重篤な合併症の発生も減少しつつある。
 本稿では,当院が開院して以来9年9か月の間に経験した1,681例のTUR-Pのなかで,検討した1,135例の症例につき,手術中および手術後の合併症について述べる。

経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-Bt)

著者: 三品睦輝 ,   羽渕友則

ページ範囲:P.48 - P.52

1 はじめに
 TUR-Btの合併症としては,穿孔,出血が重要である。腹腔内への穿孔では腹膜炎を起こす可能性があり,後腹膜腔への穿孔は発見が遅れるとTUR反応を起こし低血圧,徐脈,ショックとなる1)。またTUR-Pと異なり,TUR-Btでの穿孔は腫瘍の尿路外への播種の危険性があり2,3),極力避けなければならない。TUR-Btにおける出血で輸血が必要になることは稀であるが,出血による視野不良は腫瘍の正確な切除の妨げとなり穿孔の原因となる。
 TUR-Btは腫瘍の完全切除と的確な病理診断のための組織採取という2つの目的がある。表在性膀胱癌に対しては双方の目的を遂行すべきである。しかし,再発を繰り返す高分化型の表在性乳頭状腫瘍であれば,いたずらに広範かっ深い切除を行う必要はなく,頻回の切除による萎縮膀胱を予防するために必要最小限の切除にとどめたほうがよい4,5)。一方,浸潤性膀胱癌が強く疑われる場合は,なるべく少ない切片で膀胱全摘除術の適応判断ができる組織採取を目指すのが妥当である。

2.経皮的腎孟形成術

経皮的腎孟形成術

著者: 持田蔵 ,   内藤誠二

ページ範囲:P.53 - P.57

1 はじめに
 腎孟形成術は,かねてより創意工夫されさまざまな手術法が施行されてきた。近年,endourologyの発達,普及に伴い経皮的腎孟形成術としてendopyelotomy(内視鏡下腎孟切開術)が行われる機会が増加してきている。
 Endopyelotomyは,1943年にDavis1)が発表した"intubated ureterotomy"を基に,1983年にWickhamら2)によって初めて報告された。以後,急速に普及し,手術法もさまざまなものが登場し,手術成功率は開放手術と同程度にまで向上してきた。手術方法・千術手技ならびに術後成績の向上は認められるものの,依然として手術にまつわる合併症も多岐にわたり報告されるようになってきた。

3.経皮的腎(尿管)砕石術(PNL)

経皮的腎(尿管)砕石術(PNL)

著者: 佐藤大祐 ,   澤村良勝 ,   松島正浩

ページ範囲:P.58 - P.62

1 はじめに
 経皮的腎(尿管)砕石術(percutaneous nephroureterolithotomy:PNL)は,体外衝撃波結石破砕術(extracorporeal shock wave lithotripsy:ESWL)が普及するまでは多くの施設で行われてきたが,現在ではESWLとの併用療法の1つとして位置づけられることが多い。ESWLだけで,すべての結石が治療できるわけではなく,PNLや経尿道的尿管砕石術(transurethral ureterolithotomy:TUL)などの技術を持っていなければ十分な治療はできず,現時点ではまだ,PNLに負うところも大きいと思われる。
 PNLは,開腹手術に比較すると侵襲性の面では格段に小さいが,やはり観血的手術の要素が色濃く,合併症を中心に注意点,問題点を分析してみた。

B.腹腔鏡下手術

腹腔鏡下副腎摘除術

著者: 中川健 ,   村井勝

ページ範囲:P.63 - P.66

1 はじめに
 内視鏡下副腎摘除術は,腹腔鏡下副腎摘除術に後腹膜腔鏡下副腎摘除術を加え,低侵襲手術として副腎腫瘍に対する標準術式となりつつある1)。しかし,外筒管留置や気腹操作,限られたスペースでの手術操作など,内視鏡手術特有の合併症が存在する。表1に慶應義塾大学泌尿器科における内視鏡下副腎摘除術の合併症を示すが,血管損傷などでは,開腹手術に移行せざるをえない場合もある。さらにいえば,腹腔鏡操作に慣れない術者や新規術式導入時に合併症が集中する傾向にあり,予防,対策も含めた内視鏡下副腎摘除術の合併症に対する知識不足が原因の1つといえよう。
 本稿では,内視鏡下副腎摘除術のなかでも,より一般的な腹腔鏡下副腎摘除術を中心に,その合併症と予防,対策について述べていきたい。

腹腔鏡下腎摘除術

著者: 山田伸 ,   小野佳成

ページ範囲:P.67 - P.71

1 はじめに
 腹腔鏡下腎摘除術は1990年にアメリカのClaymanらにより始められ1),実質臓器を腹腔鏡下操作で摘除した点で世界にインパクトを与えた。本邦においても1991年より筆者らにより始められ2),現在数多くの施設で施行されている。腹腔鏡下手術は腹壁に作成されたポートより挿入した内視鏡の下で,同様に挿入された鉗子を用いて行う手術であり,その手術法の特殊性ゆえに,また腎臓が実質臓器であるがゆえに,これまでにさまざまな合併症が報告されている3〜6)
 本稿では,起こりうる術中・術後の合併症について述べる。

後腹膜腔鏡下副腎摘除術

著者: 荒川孝 ,   馬場志郎

ページ範囲:P.72 - P.75

1 はじめに
 後腹膜腔は,壁側腹膜の後方で横隔膜,大腰筋や腹壁筋層で囲まれた部位であり,副腎,尿路の周囲に脂肪組織が充満している。腹腔と異なり,そのままでは送気により内視鏡の視野が確保されることはない。したがって,後腹膜腔に内視鏡を挿入して観察するためには人工的に操作腔を剥離により作製する必要がある。また,腹膜腔と比較して内面が被膜化されていないことや,横隔膜脚部を介して胸腔とも連絡しているために炭酸ガスの体内吸収が起こりやすいといえる。後腹膜腔鏡下手術にはポートが必要であるが,人工的に作製された狭い後腹膜腔への刺入には,合併症を回避するためにそれなりの注意が必要である。一般的には,後腹膜鏡下副腎摘除術では気腹にみられるような肩への放散痛もなく腹腔内臓器の損傷を起こしにくいが,稀ではあるが合併症が発症した場合にはより重篤なことがあることに注意すべきである。
 本稿では,後腹膜腔鏡下副腎摘除術での合併症とその管理について述べる。

後腹膜腔鏡下腎摘除術

著者: 影山慎二 ,   鈴木和雄 ,   牛山知己 ,   藤田公生

ページ範囲:P.76 - P.79

1 はじめに
 後腹膜腔鏡下腎摘除術は,1992年にGaurにより豊富な脂肪織に富む後腹膜をまずバルーンで拡張させる処置を工夫したことで良好な視野が得られたとして,初めて報告されている1)。後腹膜腔鏡下手術は腹腔鏡下手術に比べ,後腹膜腔自体が狭いため視野に劣り,しかも脂肪組織が豊富であるため,二酸化炭素の吸収量も増加し,術中・術後に呼吸管理がより複雑になるという欠点がある。しかし本来は,後腹膜臓器である腎などの病変を腹腔内に播種させない,尿を腹腔に広げないなどの点では,腹腔鏡下手術より生理的ですぐれた術式とも考えられる。
 本稿では,後腹膜腔鏡下腎摘除術に際して起こりうる合併症とその対策について,浜松医科大学泌尿器科で作成した診療マニュアルをもとに紹介する。

C.体外衝撃波砕石術

体外衝撃波砕石術—腎結石

著者: 秦野直 ,   小川由英

ページ範囲:P.80 - P.85

1 はじめに
 ESWLは非侵襲的な手術法とされ,重篤な合併症が生ずる可能性は比較的低く,安全である。また,合併症の発生頻度は尿管鏡と異なり,医師の腕による差がないともいわれている。しかし頻度が低いがゆえに,思わぬ合併症に遭遇したとき,合併症を見落としたり対処を誤る可能性がある。ESWLを施行する医師は,起こりうるすべての合併症を念頭に入れて治療に当たるべきである。
 本稿では,起こりうる合併症を挙げ,その注意点,処置法を述べる。

体外衝撃波砕石術—尿管結石

著者: 荒川孝 ,   久保星一 ,   馬場志郎

ページ範囲:P.86 - P.91

1 はじめに
 一般的に,「ESWL(体外衝撃波結石破砕術)は尿路結石症に対する外科的治療の第一選択肢であり,合併症の割合はきわめて低く,minimally invasiveな治療法」として理解されている。この文言に慣れ,実際のESWLにおいても重篤な合併症を経験することなく症例を重ねてくると,臨床的な有効性ばかりが前面に出てしまい,lithotripter導入当初に各泌尿器科医が持っていた緊張感が薄れ,合併症への配慮がなされなくなりがちである。しかし,何事も起こらず結石が破砕され,そして排石される症例ばかりではなく,油断しているときにこそ思いがけない重篤な合併症が起こることもある。腎結石でのESWLによる合併症は,術中・術後早期での不整脈,腎被膜下血腫,肺損傷,肝損傷,術後晩期での高血圧,腎機能低下などが思い浮かぶであろう。
 本稿では,尿管結石に対するESWLに限定した合併症について述べることが課題であるが,総論的にESWLの合併症を述べた文献はあっても,尿管結石に対するESWLでの合併症として,これを分けて特別に記載する報告はこれまでにない。ごく稀な合併症としていくつかの1例報告があるにすぎないが,その内容にはきわめて重篤なものもあるので,起こりうる臨床的な合併症を列挙するとともに,それら重篤例を紹介しつつ,筆者自身を含めたESWLを日常施行する泌尿器科医諸兄に改めて注意を促したい。

D.開腹的手術 1.上皮小体の手術

上皮小体摘除術

著者: 山口聡 ,   八竹直

ページ範囲:P.92 - P.96

1 はじめに
 再発性尿路結石症の原因を追求した結果,原発性上皮小体機能亢進症の存在が明らかになったり,透析患者を長期間管理する上で,続発性上皮小体機能亢進症による腎性骨異栄養症が問題となるなど,泌尿器科領域において上皮小体疾患の関与は徐々に増加している。また,CT,超音波断層法,シンチグラフィーなどの画像診断の進歩により,上皮小体機能亢進症の局在診断がかなり正確に行われるようになり,その外科的治療にも泌尿器科医が積極的にかかわるべき状況となりつつある。
 しかし一方では,上皮小体が存在する頸部領域は,通常,一般の泌尿器科医にはなじみの薄い部位であるため,術中の合併症には十分に留意する必要がある。また,術後の管理についてもいくつかの特殊性を有しているため,本稿ではその要点について解説したい。なお,本手術の詳細な方法については,成書1,2)を参考にしていただきたい。

2.副腎の手術

副腎摘除術

著者: 鈴木唯司

ページ範囲:P.97 - P.99

1 はじめに
 副腎摘除術の適応は,主に腺腫による原発性アルドステロン症やクッシング症候群および副腎皮質癌,さらに褐色細胞腫などの機能亢進症で,片側副腎摘出術が行われるが,特に原発性アルドステロン症では腫瘍のみの摘出術も選択されている。稀に両則副腎(亜)全摘除術が行われることもある。手術には開放手術,内視鏡手術が選択される。手術自体による術中・術後の合併症には副腎手術独白のものは少ない。術中・術後に問題になるのは副腎ホルモン分泌異常による血圧,血液電解質,循環血液量などの変化による合併症で,その予防対策や管理が特に重要である。

3.腎の手術

根治的腎摘除術

著者: 上田公介

ページ範囲:P.100 - P.103

1 はじめに
 根治的腎摘除術の合併症について,今までの経験を元に記載する。主なものは,血管損傷と脾臓損傷,腸管損傷などである。術中と術後に分けてそれぞれ解説する。

腎尿管全摘除術

著者: 布施秀樹 ,   奥村昌央

ページ範囲:P.104 - P.107

1 はじめに
 腎尿管全摘除術は腎孟および尿管腫瘍に対する標準的な手術法であり,Gerota筋膜内の脂肪組織とともに腎,尿管を剥離し,尿管膀胱接合部の膀胱壁をcuff状に切除する術式である。尿管腫瘍が膀胱に浸潤している場合には,膀胱部分切除術が必要となる。腎,尿管への到達法としては経腹的と後腹膜的の2つの到達法があるが,根治性を高める場合には経腹的到達法で行い,リンパ節郭清を行う1)。その郭清範囲については,必ずしも統一した見解はないが,表1に腎孟および上部尿管腫瘍,中部尿管腫瘍,下部尿管腫瘍における郭清部位を示した。高齢者やハイリスクの症例は後腹膜的に行う。本手術は必ずしも侵襲の小さい術式ではなく,それゆえ術中,さらには術後にさまざまな合併症が発生しうる。
 本稿では,これら合併症についてそれを防止するための対策およびその処置法について述べる。

腎部分切除術

著者: 大園誠一郎

ページ範囲:P.108 - P.111

1 はじめに
 腎部分切除術は,従来,先天性腎奇形,腎結石,腎外傷などに適応があったが,最近の趨勢として,ほとんどが腎腫瘍を対象として行われている。しかし,腎細胞癌に対する腎部分切除術は,その根治性に関しての是非が問われており,未だコンセンサスは得られていない。現時点において諸家の報告をみる限り,腫瘍径が小さい単発腫瘍の症例に対しては,根治的腎摘除術と遜色のない成績である。最近,患者のQOLを重視したless invasive surgeryが推奨されており,今後このコンセプトに基づいたnephron sparing surgeryがますます増加することが予想される。
 本稿では,腎部分切除術の合併症について解説する。本合併症は,発生部位に準じて血管系,腎実質系,尿路系およびその他の一般全身系に分類されるが(図1),これらを発生時期別に術中・術後(急性期および晩期)に分けて概説し,さらに合併症を少なくするわれわれの新しい術式についても述べる。

腎孟形成術

著者: 堀江重郎

ページ範囲:P.112 - P.115

1 はじめに
 腎孟形成術は,腎孟尿管移行部狭窄症に対する標準的な術式であり,開放手術とともに最近では腹腔鏡下でも行われるようになってきた。開放手術では,余剰腎孟を切除し,狭窄部位で離断した腎孟と尿管を形成再吻合するAnderson-Hynes法が主に用いられている。良性疾患に対する機能的な手術であるので,一手術の有効性と相俟って低侵襲,また合併症を少なくすることを心掛けたい。
 本稿では,Anderson-Hynes法を中心に,術中・術後の合併症について論じてみる。

腎移植術

著者: 徳本直彦 ,   田邉一成 ,   東間紘

ページ範囲:P.116 - P.124

1 はじめに
 すべての外科手術にはその手術が何を目的として行われるのか,そしてそのためにはどのような注意が必要かという一貫した原理や理念が存在する。腎移植術においても,生体腎ドナーの腎摘出術およびレシピエントの腎移植術には術前・術後を含めきわめて大切なポイントがある。腎移植術における目的は,ドナーから摘出された腎臓がレシピエントへ移植されたのちも正常な腎機能を発揮することである。そのためには手術侵襲などによる腎への影響を小さくするとともに,術前・術後の輸液などを十分に行い腎機能の保護に努めることが大切である。さらに,移植後ドナー腎側の要因による合併症を起こさないように細心の注意を払うことも必要である。
 生体腎移植術の特異性は,ドナーがまったくの健康で,命の贈り物である腎臓の提供を希望するボランティアであるうえ,この手術により何ら自らの利益を得るものではなく,むしろ負の医療を受けるということである。したがって,その安全性は絶対といっていいほど保証されなくてはならない。よって,ドナーの安全性と腎機能の保護といった2つの大原則を貫くためには,特に手術に習熟することや,腎生理学的知識に基づいた術前からの細かい全身管理が要求される。

4.尿管の手術

尿管尿管吻合術

著者: 塚本哲郎 ,   福井巌

ページ範囲:P.125 - P.127

1 はじめに
 尿管結石に対する開放手術が極端に減少した現在,尿管尿管吻合術を行う機会も著しく減少したといえる。尿管尿管吻合術が適応となる基礎疾患としては,上もしくは中部尿管腫瘍(単発で高分化なもの,単腎に発生したもの,あるいは両側に発生したもの),下大静脈後尿管,尿管狭窄などがある。そのほか尿管損傷があるが,外傷性のものより医原性のものが多い(表1)。なかでも婦人科領域の手術が最も多いとされており,少し占い統計であるが,婦人科手術全体の0.2〜2.5%,悪性疾患における拡大手術に限ると10〜30%の頻度と報告されている1)
 手術方法であるが,尿管へのアプローチにはいくつかの方法があり,上部尿管では主として腰部斜切開が,中部尿管では傍腹直筋切開やGibson切開,下部尿管では下腹正中切開がそれぞれ用いられることが多い(図1)。尿管尿管吻合の方法であるが,まず吻合すべき健全な尿管断端を露出し,ねじれのないよう向きを確認する。尿管を切断する場合は,その前に切断部位の上下に吊り糸を掛け,吻合の際にねじれをきたさないための目印とする。そして,それぞれの断端に180度離して5〜6mmの縦切開を加え,4-0または5-0のアトラウマ針付きの吸収糸を用い,約2mm間隔でwatertightに結節縫合する(図2)。拡張した尿管を吻合する場合は断端を斜めに切り落とすのみとし,縦切開を加える必要はない。吻合が終了する前に尿管ステントを留置し,閉創前に適切な位置にドレーンを置く。

尿管腟瘻に対する手術

著者: 若林賢彦 ,   岡田裕作

ページ範囲:P.128 - P.131

1 はじめに
 尿管腟瘻の多くは婦人科手術後にみられる。患者は,医療サイドに対して強い不満と尿漏れに対するストレスを抱えており,治療する泌尿器科医もプレッシャーのかかる疾患である。治療の前には瘻孔の状態などをよく把握し,成功率の高い治療法を選択すべきである。
 尿管腟瘻の治療のポイントは,瘻孔を閉鎖することではなく,尿管と膀胱もしくは腎と膀胱との間の尿路を再建することである。

5.膀胱の手術

膀胱部分切除術

著者: 真崎善二郎 ,   魚住二郎 ,   高木紀人

ページ範囲:P.132 - P.135

1 はじめに
 膀胱部分切除は,基本的には比較的合併症の少ない術式とみなすことができる。ただし,切除範囲が広範囲になったり,尿管膀胱新吻合が必要になったりする場合,また大腸癌の膀胱浸潤の際や放射線照射後の手術の場合は,合併症の頻度は高くなると考えるべきである。合併症は発生しないように万全の策を講じるのが手術の基本的原則であるが,膀胱部分切除においても然りである。

根治的膀胱全摘除術

著者: 小松秀樹 ,   前澤浩明

ページ範囲:P.136 - P.141

1 はじめに
 数年前に膀胱全摘除術の成績を調べていて,過去の膀胱全摘除術の手術死亡率の高さに驚いたことがある。Richie1)によれば,1950年代から1960年代,合衆国では膀胱全摘除術の手術死亡率は実に25〜60%もの高さであったという。1960年頃には論文発表でみる限り,膀胱全摘除術の手術死亡率は15〜20%まで低下していた2)はずであるが,現実には60%もの患者が周術期に死亡するような施設があったらしい。
 1980年以後の比較的大きな施設からの発表では,膀胱癌の手術死亡率は2〜4%,合併症は20〜50%に落ち着いている3)。静脈栄養がこの手術死亡率の低下に大きく寄与したと推測している。ただし,これは世界的に有名な施設の成績である。コンピュータの検索によれば,東欧や南欧の一部では今なお手術死亡率は10%を超えている。

根治的膀胱全摘除術

著者: 庭川要

ページ範囲:P.142 - P.145

1 はじめに
 根治的膀胱全摘は,浸潤性膀胱癌に対する根治療法として重要な治療手段であり,癌専門の泌尿器科医師のみならず広く泌尿器科医として修得すべき手技である。本稿では,膀胱全摘の手術にまつわる合併症とその対策を術中に重きをおいて述べたい。なぜならば,手術の質を高めることは,最善の術後合併症の予防と考えるからである。

6.尿路変向術

皮膚造瘻術

著者: 有吉朝美 ,   平塚義治

ページ範囲:P.146 - P.149

1 はじめに
 尿管皮膚瘻術には幾つかのストーマ形成法,および両尿管に対するシングルストーマ作成法がある。しかし,すべてに共通することは,尿管の切断,剥離そして"活きている"ストーマをつくることである。本稿では,各術式に共通する合併症1,2)を述べるが,ストーマについてはわれわれの反転乳頭(ニップル)法3,4)について解説する(図1)。

回腸導管造設術

著者: 原林透 ,   野々村克也

ページ範囲:P.150 - P.154

1 はじめに
 Kock法をはじめとする種々の腸管利用導尿型,自然排尿型尿路変向術が広く行われるようになってから十数年が経過した。しかし,Bricker式回腸導管術は手術成績が安定している点で現在も尿路変向術の標準的術式といえる。
 本稿では,この術式で起こりうる合併症と予防・対策について述べる。

尿管S状結腸吻合術

著者: 荒川創一

ページ範囲:P.155 - P.160

1 はじめに
 従来の尿管S状結腸吻合術は,すでに過去の手術となった感が否めない。しかし,近年S状結腸の脱管腔化をはかりリサーバーとしての機能を強化したいわゆるMainz II術式1)が一部の施設で施行され,その有用性を述べる原著も散見される。元来,尿管S状結腸吻合術の歴史は古く,19世紀半ばにおいてすでにその第1例目の報告2)がみられる。本手術は禁制型尿路変向術の嚆矢であり,腸腸吻合を要しない単純な術式であることから,一時期盛んに行われた。その術後QOLについてはいろいろな報告がある。本手術の問題点は術後のアシドーシス,腸粘膜の腫瘍発生などであるが,本稿ではそれらに加え,術中の合併症についても言及したい。また,上述したMainz II術式も紹介したい。

Continent urinary reservoir(CUR)

著者: 清田浩 ,   木村高弘 ,   大石幸彦

ページ範囲:P.161 - P.167

1 はじめに
 膀胱腫瘍に対する膀胱全摘術後の尿路変向術は,従来,回腸導管に代表される集尿袋装着を必要とする術式が選択されてきた。しかし,1982年にKockらが回腸を用いて体内尿貯留槽(reservoir)を作成し,自己導尿で排尿を行う禁制尿路変向術(continent urinary diversion)を発表して以来,多くの術式が開発された。現在では,reservoirと尿道を吻合することにより自己導尿を必要としない自然排尿型尿路変向術が患者の術後QOLを著しく向上することから,Haumann法,Studer法などが主流になりつつある,,ただし,尿道摘出例ではこれらの術式は適応外であるため,われわれは選ばれた症例に対しS状結腸—直腸reservoirに尿管を吻合し,尿は肛門から便とともに排泄されるsigma-rectum pouch(Mainz pouch II法)を施行している。これらの術式を図1,図2,図3に示す。
 本稿では,Flohrら1)のHautman法306例の検討,Studerら2)のStuder法100例の検討,Fischら3)のMainz pouch II法73例の検討,そしてわれわれ4)のMainz pouch II法15例の検討をもとに,これら禁制尿路変向術の合併症について述べる(表1)。ただし,これらの術式の歴史はまだ浅く,その長期成績に関しては今後の検討を待たなければならない。

下部尿路再建術

著者: 上領頼啓

ページ範囲:P.168 - P.177

1 はじめに
 代用膀胱の術後合併症の発生を予防するには,手術適応について術前のしっかりした評価が重要である。術前の評価を曖昧にすると術後合併症に悩まされることになる。手術適応としては,表1に示すように(1)と(2)に挙げた患者自身が手術術式の特徴(長所と短所)を十分に理解し,自己導尿を含めた術後の排尿自己管理を精神的,肉体的に実行できることが最も重要である。(1)〜(6)の条件を克服できないような症例は他の尿路変向術を選択し,本手術を施行すべきではない。
 合併症の発生を低下せしめるもう1つの方法は理想に近い代用膀胱を作製することである。すなわち(1)内圧が低圧で,(2)形状が球形に近く,(3)骨盤の中央に位置し,(4)適度な容量を持つパウチを形成することである。その上で表2に列記した(1)〜(6)の項目を満たす代用膀胱となれば術後は高いQOLが得られる。代用膀胱の術後に生じる主な合併症を成因別に整理して表3に示した。

7.尿失禁の手術

尿失禁手術

著者: 橋本樹 ,   山口脩

ページ範囲:P.178 - P.182

1 はじめに
 女性の腹圧性尿失禁に対する手術法には,Burch法に代表される経腹的方法と,Stamey法や尿道スリング法などの経腟的方法がある。一般にわが国では経腟的手術が広く行われていることから,本稿では経腟手術において問題となる合併症について述べる。術式に特有の合併症についてもそれぞれ解説する。

8.前立腺の手術

前立腺(被膜下)摘除術

著者: 金丸洋史

ページ範囲:P.183 - P.185

1 はじめに
 現在,前立腺肥大症に対する外科的治療法の標準術式は,経尿道的前立腺切除術(TUR-P)である。さらに,温熱,レーザー,超音波などを利用した各種低侵襲性治療も積極的に行われており,開放手術によって前立腺被膜下摘除術を施行する機会は以前より減少している。しかし,大きな腺腫を有する症例に対しては,開放手術も依然有力な選択肢の1つであり,その手技および術中・術後管理法は泌尿器科医が習得すべき重要な項目であることはいうまでもない.
 被膜下摘除術には,恥骨上式,恥骨後式,会陰式があるが,そのうち恥骨上式と恥骨後式の2つが広く普及している術式である。両者とも注意すべき合併症に関してはほぼ共通と考えられるので,本稿では恥骨後式被膜下摘除術について述べる。

前立腺全摘除術

著者: 藤戸章 ,   三木恒治

ページ範囲:P.186 - P.189

1 はじめに
 前立腺全摘除術は,1990年以前は手術適応となる早期癌症例の発見が少なかったこと,また術中出血,尿失禁など術中・術後の合併症の対策が十分でなかったため,本邦ではそれほど普及した術式ではなかった。しかし,Walshらによる術式の改善1)およびPSAの導入,検診の普及によって早期癌の発見頻度が増加したことなどにより,急速に手術例数は増加している。この手術の問題点として,大きくは術中出血のコントロールおよび術後の尿失禁,勃起不全に集約されるといっても過言ではないだろう2)
 手術適応としては,臨床病期A2〜B,またCに関してはneo-adjuvant療法によりdown stagingをはかった上で手術されるのが一般的である。Neo-adjuvant療法については,stage Bにおいても施行する施設もある。神経温存に関しては,患者の希望により施行されるべきであるが,腫瘍の残存の危険性などを考慮し慎重な適応が望まれる。

9.陰茎の手術

陰茎切断術

著者: 金山博臣

ページ範囲:P.190 - P.195

1 はじめに
 陰茎切断術(penile amputation)あるいは陰茎切除術(penectomy)は,通常,陰茎癌の治療として行われる手術であり,陰茎を温存し立位排尿が可能な陰茎部分切断術(partial penile amputation)/陰茎部分切除術(partial penectomy)と,陰茎を完全に切断する陰茎全切断術(total penile amputation)/陰茎全摘除術(total penectomy)がある。陰茎切断術はそのほか陰茎壊死など他の疾患に対して行われることもあるが,ここでは陰茎癌に対する陰茎部分切断術および全切断術を想定して,術中・術後合併症の予防と処置について述べる。なお,泌尿器科用語集では陰茎切断術(penile amputation)と陰茎切除術(penectomy)の両者が記載されている。便宜上ここでは陰茎切断術に統一して用いることとするが,陰茎癌に対する手術として用いる場合は陰茎切除術(penectomy)のほうが適当と思われる。
 陰茎癌は,前立腺癌,膀胱癌,腎細胞癌など他の泌尿器癌に比し頻度が低いため,一般泌尿器科医にとって遭遇する機会が少ない。したがって,手術もあまり経験できないため,教科書1)や文献2)を参考にしながら手術を行うこともしばしばである。当然ながら合併症の経験も少なくなる。陰茎切断術の合併症対策として参考になれば幸いである。

10.尿道の手術

尿道外傷に対する尿道形成術

著者: 南里正晴 ,   武井実根雄

ページ範囲:P.196 - P.200

1 はじめに
 尿道外傷における尿道形成術は,手術の方法(内視鏡手術か開放手術か),手術の時期(受傷早期か待機手術か)について,現在もまだ一定の見解は得られていない。内視鏡手術技術の進歩に伴い,ほとんどの尿道外傷(およびその後の尿道狭窄)が内視鏡的に治療されるようになり,開放手術が適応となる機会は減っている。しかし,内視鏡手術が不成功に終わった場合や受傷後の尿道狭窄が広範囲に及んだ場合など,複雑な狭窄などに対しては開放手術が選択されることがある。いずれにせよ,形成手術ゆえにいかに術後合併症を少なくするかが手術の成功を意味する。
 開放手術による尿道形成手術は(尿道狭窄に対する尿道形成手術とも関連し)多種多様である。外傷の場所,程度,受傷からの期間などにより適切な術式を選び手術を行うことが合併症を少なくするためには重要と思われる。当然,各術式によって合併症の種類や頻度,予防方法は異なるが,誌面の都合上,その1つ1つについて言及することはできないため,われわれが考えている代表的な術式について,あるいは尿道形成術の原則的なことについての合併症およびその対策について述べる。

11.陰嚢内臓器の手術

高位精巣摘除術

著者: 松岡啓

ページ範囲:P.201 - P.203

1 はじめに
 高位精巣摘除術は,精巣腫瘍に対する外科的治療の第一ステップである。鼠径部を切開し,内鼠径輪の位置で早期に精索血管を処理したあとに精巣腫瘍を摘除する。本法は,体表に近い部位での手術であるので比較的簡単で,合併症はほとんど経験しない。しかしながら,本術式は初心者が行う場合も多いし,実際にはやっかいな合併症も報告されているので注意が必要である。
 本稿では,高位精巣摘除術の起こりうる合併症について考察する。

精巣上体摘除術

著者: 日比初紀 ,   深津英捷

ページ範囲:P.204 - P.206

1 はじめに
 精巣上体摘除術は再発性精巣上体炎および精管結紮術後などの持続する精巣痛などに対して行われる。しかし,非特異的精巣上体炎や結核性精巣上体炎は近年の化学療法の発達によりほとんどの場合は治癒可能であり,本術式を行う機会はきわめて少ない。一方,精管結紮術後の精巣痛は1/3以上の頻度で起こるといわれており,精巣上体摘除術が勧められている1)
 両側に施行する場合は当然のことながら手術により不妊症となるため,術前に十分な情報を伝えることが重要である。なお,精巣上体に腫瘍ができることは稀で,しかも悪性腫瘍はきわめて稀であり,手術は精巣腫瘍と同じく高位除精術が行われる。

E.小児の手術

腹腔鏡下手術

著者: 松田公志 ,   渡辺仁人

ページ範囲:P.207 - P.210

1 はじめに
 小児に対する腹腔鏡下手術は,触知不能精巣に対する局在診断のほか多くの術式が報告されている(表1)1)。2〜3mm径の手術道具の開発・普及により,小児においても侵襲の小さい手術として,泌尿器腹腔鏡下手術の定着が予想されている。成人に比べて小児における腹腔鏡下手術はさまざまな特徴を有しており(表2)2),成人とは異なった合併症予防対策が必要である。
 本稿では,腹腔鏡下手術に特有な合併症(表3)3)のうち,特に小児で問題となる合併症を中心に述べる。

精巣固定術

著者: 高島三洋 ,   並木幹夫

ページ範囲:P.211 - P.215

1 はじめに
 停留精巣は小児泌尿器科領域において頻繁にみられる疾患であり,その手術である精巣固定術も症例数が多く,代表的な手術の1つである。本稿では,停留精巣に対してその治療目的,治療方針とわれわれが行っているDeNetto法に準じた精巣固定術の方法にしたがって,術中・術後に起こりうる合併症とその予防,処置に関して述べる。

尿道下裂形成術

著者: 島田憲次 ,   松本富美 ,   原田泰規 ,   内藤泰行

ページ範囲:P.216 - P.221

1 はじめに
 尿道下裂形成術の術式はこれまで300種類,あるいはそれ以上の方法が発表されており,現在もなお100種類程度が実際に使用されている。このように多数の術式が現在も臨床応用されているという事実は,とりも直さず各術者が日々工夫を重ね,独自の新しい方法を考案し,その合併症がより少なくなるよう模索していることにほかならない。20年前には二期手術が標準の術式であり,形成尿道の先端も冠状溝部につくられ,それで可とされていた。しかしその後の手術技術上の進歩は目覚ましく,マイクロサージャリー手技の応用による亀頭部尿道形成と,陰茎屈曲の病態の解明により,今日では一期的形成術が標準術式となっており,機能的かつ形態的に「正常」な陰茎を形成することが目的となっている。
 本稿では,尿道下裂形成術の合併症を便宜上,(1)術中と患児が退院するまでの手術直後,そして(2)退院後の2つの時期に分け述べてみる。

尿管膀胱新吻合術

著者: 吉野薫 ,   谷風三郎

ページ範囲:P.222 - P.225

1 はじめに
 尿管膀胱新吻合術の適応には,膀胱尿管逆流症(VUR),尿管膀胱移行部狭窄や尿管瘤などの尿管下端部の通過障害,異所開口尿管などが挙げられる。術後腎機能障害を起こさないために,通過障害なくかつ逆流のない吻合が要求される。小児の尿管膀胱新吻合術の多くはVUR症例であり,本稿では逆流防止術を中心に述べる。
 尿管膀胱新吻合術は粘膜下トンネル法が確実で信頼性があり,大きく次の3つに分類される。(1)Suprahiatal repair:尿管裂孔を移動させ長い粘膜下トンネルを作成できる。①Politano-Leadbetter法,②Paquin法,③Extravesical detrusorrhaphy(Lich-Greoir法に代表される)。(2)Infrahiatal repair:尿管口を移動させ,尿管裂孔の移動による尿管の狭窄や屈曲の危険性がない。①Glenn-Anderson法,②Cohen法,③Gil-Vernet法。

Ⅲ.術中合併症とその対処

急性循環不全

著者: 坂本篤裕

ページ範囲:P.227 - P.231

1 はじめに
 急性循環不全とは,何らかの原因で重要臓器への有効血流量が減少し,機能の維持ができなくなったことによる異常状態、を総称した症候群であり,その極がショックとなる。原因としては出血,感染症,心臓ポンプ機能障害,過敏反応が主体である。原因が除去されないと遷延性ショックや不可逆性ショックへ進行し,死の転帰をとりうる。迅速な診断と初期蘇生的治療を確実に行い,原因を取り除くと同時に,臓器不全を予防することが重要である。
 術中は種々の要因により急性循環不全が起こりうるが,救急医療や慢性疾患の急性増悪と異なり,その原因がある程度予測可能であり,また集中的な監視と治療により予防,早期発見および有効な初期治療が十分可能である。

他領域手術時の尿路損傷

著者: 大野芳正 ,   橘政昭

ページ範囲:P.232 - P.234

1 はじめに
 腹部・骨盤内手術の合併症としての尿路損傷は,0.5〜1.0%の頻度とされている1)。ときにこれら損傷は,敗血症や腎機能低下をきたし生命を脅かす原因となることがある。また,術後に尿管腟瘻・膀胱腟瘻形成のため尿失禁を生じた場合には,患者は生活の質の著しい低下を余儀なくされる。われわれ泌尿器科医は,術中・術後に尿路損傷のため予期せぬコンサルテーションを受け,その対応を迫られることがある。本稿では,そのような状況においていかに適切に対処すべきかについて述べる。

実質臓器損傷

著者: 荒井陽一 ,   吉村耕治

ページ範囲:P.235 - P.239

1 はじめに
 泌尿器科の行う手術に伴う実質臓器の損傷としては,肝臓,脾臓,膵臓,子宮,卵巣への損傷が考えられるが,何らかの処置が必要となる合併症は腹腔を経由して行う手術に多くみられ,頻度的には脾臓と肝臓への損傷が高い。本稿では,誌面の都合上,脾臓,肝臓,膵臓の三臓器における損傷に関して略説する。

腸管損傷

著者: 西岡伯 ,   秋山隆弘

ページ範囲:P.240 - P.244

1 はじめに
 腹膜外臓器である尿路生殖器を取り扱う泌尿器科手術において,隣接臓器である腸管を損傷してしまうことがある。一般的な泌尿器科手術のなかで腸管損傷をきたす危険性のある術式1〜3)を表1に示し,この詳細は後述する。術中合併症としての腸管損傷は比較的稀ではあるが,万が一損傷してしまうと適切な処置と術後管理が行われなければ,腹膜炎やイレウスなどの重篤な合併症を引き起こし,致命的となることさえある。したがって,この術中合併症に対する術前からの予防はもとより,術中に細心の注意を怠らないことや,損傷時の適切な処置の習熟は,泌尿器科医にとって必須の事柄である。
 本稿では,この腸管損傷の対策として,術前のチェックポイントから術中の注意事項とその処置に至るまでを筆者らの経験をもとに解説したい。

血管損傷

著者: 内藤克輔

ページ範囲:P.245 - P.249

1 はじめに
 手術をスムーズに進め,出血を最小限にとどめるには,術者は手術対象臓器の機能と発生,隣接臓器を含めた局所解剖に熟知する必要がある。特に血管の分布を術前に知ることは重要である。また,手術前には必ず手術書に目を通し,術後には術前に予測できなかった所見などを簡単に書きとどめる習慣をつけることにより,血管損傷などの合併症を減少させ,その対処もスムーズになる。

Ⅳ.術後合併症とその管理 1.神経系

術後精神障害

著者: 保坂隆

ページ範囲:P.251 - P.253

1 はじめに
 「術後精神障害」とは,文字通り手術のあとに不安,抑うつ,幻覚,妄想などさまざまな精神症状を呈した場合の総称である。このうち,幻覚や妄想を呈する場合は,これらは精神病症状であるために「術後精神病」と呼ばれることもある。一般に術前からの精神症状が悪化したものはここに含まないので,例えば,精神分裂病患者の精神症状が術後に悪化したとしても,特別に術後精神障害とか術後精神病とは呼ばないことになっている。
 さて,術後に生ずる精神障害としての不安や抑うつは反応的なもので,抗不安薬の服川や家族や医療者と話すことで軽快することが多いが,対応が困難で臨床的に問題となるのはやはり「せん妄」(delirium)である(術後に生じたという意味で「術後せん妄」ということもある)。

2.循環器系

術後ショック

著者: 廣瀬宗孝 ,   細川豊史

ページ範囲:P.254 - P.256

1 はじめに
 ショックは,(1)血圧低下,(2)乏尿や意識レベルの変化,心筋虚血などの臓器機能低下,(3)四肢末梢の冷感,チアノーゼなどの末梢循環不全により診断される全身の循環動態異常である1)。適切な治療を欠くと,細胞の壊死やアポトーシスから重要臓器不全をきたすことから,迅速な処置が求められる。

うっ血性心不全

著者: 本田幹彦 ,   堀川良史

ページ範囲:P.257 - P.259

1 はじめに
 近年,泌尿器外科の技術的向上に伴い,その手術適応も,より高齢者で重症例や合併症を有する症例へと拡大され,術後にうっ血性心不全を呈することも少なくない。本合併症はときに致死的となるため早期の適切な診断と治療がきわめて重要である。
 そこで本稿では,うっ血性心不全の管理に必要な事項を概説する。

虚血性心疾患

著者: 五十嵐辰男

ページ範囲:P.260 - P.262

1 はじめに
 術後の虚血性心疾患は程度によっては致命的となることもあり,重篤な術後合併症の1つに数えられる。したがって,治療の時期,手段の選択,周術期の適切な心機能や全身状態の管理によりまず心虚血発作の回避を心がけることが重要であり,万一,心筋虚血発作をきたした場合でも適切な診断,処置を行うことで救命をはかることが治療のゴールといえる。泌尿器科領域では高齢者を治療する機会が多いが,加齢は虚血性心疾患発症の危険因子であるので,心機能の評価,管理方法を習熟することは泌尿器科医にとって重要な事項と考えられる。
 本稿では,心筋虚血発作の回避に重点をおき,心機能の評価,術中・術後管理について記す。

不整脈

著者: 岩村正嗣

ページ範囲:P.263 - P.266

1 はじめに
 周術期に発生する不整脈は15〜85%もの患者に認められると報告されている1)。なかでも上室性,心室性期外収縮,そして心室性頻拍などの不整脈は,多くの健康人においてもすべての年齢層で認められる。"健康人"にみられるこれらの不整脈に臨床的に重要なものは少なく,致命的になることは稀である。一方,生命に影響を及ぼすような危険な不整脈はおそらく全体の1%以下で,その多くは心疾患を有した患者に発生する2)
 泌尿器科を含めた外科領域において認める不整脈としては,(1)患者が術前より素因を有した不整脈,すなわち年齢,基礎疾患,合併疾患,薬剤,全身状態などに関連して生じる不整脈,(2)術中の麻酔操作,麻酔薬,あるいは手術操作に関連して生じる不整脈(3)術後合併症としての不整脈,の3つに分けられる3)。不整脈の発生機序を理解し,これを治療するうえで心臓の刺激伝導メカニズムと心電図に習熟しておくことはきわめて亜要であることはいうまでもないが,その解説は誌面の関係上成書に譲る。

高血圧

著者: 牛山知己

ページ範囲:P.267 - P.269

1 はじめに
 泌尿器科疾患の手術では,高齢者,腎機能障害者,副腎疾患など高血圧症を合併している患者を扱う頻度が高く,また腎,副腎などの手術では,術中・術後に高血圧を発症しやすい。術後の血圧管理は,循環器系や脳血管系などの術後合併症の発症を予防するためにも重要である。

3.呼吸器系

気胸

著者: 安士正裕 ,   村石修

ページ範囲:P.270 - P.272

1 はじめに
 腎臓や副腎を対象とする泌尿器科手術においては,その解剖学的位置関係から,左右での腎周囲臓器および大血管系の損傷のほか,胸膜損傷および横隔膜損傷を十分に考慮する必要がある。
 大まかな局所解剖として,腎臓は横隔膜の直下にあり,腎臓の上1/3の後面には横隔膜の筋線維が肥厚した弓状靱帯が存在すること,腎後面から外側にかけての肋骨胸膜の下縁は第12肋骨起始部下縁から始まり,11肋骨中央付近の高さで交叉することを常に意識して,腎,副腎の手術を行うべきと考えられる(図1)1)。つまり,第11肋骨はもちろんのこと,12肋骨の内側またはこれより上位に操作が及ぶ手術の際には,胸膜穿孔の危険性がある。

皮下気腫

著者: 平野敦之 ,   新家俊明

ページ範囲:P.274 - P.275

1 はじめに
 術後の合併症としての皮下気腫(subcutaneous emphysema)は,開胸,開腹時に空気が皮下組織内などに侵入することにより認められる病態である。ほとんどの場合は軽症で,治療を必要とするものは少ないが,稀にガス産生菌などの感染に伴い発症することもあり,早急な対応が求められる場合もある。

肺水腫

著者: 町田昌巳 ,   小林大志朗 ,   深堀能立

ページ範囲:P.276 - P.278

1 はじめに
 肺水腫は肺血管外の水分が増加し間質,さらに肺胞内に貯留し,ガス交換が障害された状態である1)。治療の遅れは致命的となりうる。術後合併症としては,大量の輸液,輸血が必要となる手術,腎不全,心不全,虚血性心疾患患者の場合に特に注意が必要である。
 泌尿器科手術の場合,術中の尿量が明らかでないことや,凝血防止のために多めの輸液を行うこともあり,肺水腫の誘因となることがある。

肺炎

著者: 高橋義人

ページ範囲:P.279 - P.282

1 はじめに
 泌尿器科において手術の対象となる患者は,他科に比べて高齢者が多い。高齢者は術前に明らかでない潜在的な呼吸障害が認められることがよくあり,潜在的な易感染患者でもある。また,泌尿器科手術の特徴として側臥位での手術が多く,術中の体位による無気肺は臨床においてよく経験することである。高齢者,無気肺は肺炎の危険因子であり,増悪因子でもある。泌尿器科医は,術後の呼吸管理,肺炎の予防,治療に精通しておくことが重要である。

無気肺

著者: 日下信行 ,   那須保友

ページ範囲:P.284 - P.285

1 はじめに
 術後合併症としての無気肺は,呼吸器合併症の60〜90%を占める最も頻度の高い疾患である1)。特に腹部手術においては,不顕性のものを含めるとおよそ15〜20%に術後の無気肺を認めるという報告もある2)。原因としては,全身麻酔,外科手術の影響,患者個々の持つ危険因子が挙げられる。
 本稿では,無気肺の原因,病態を含めた詳細について説明するが,実際の臨床の場においてわれわれ泌尿器科医は予防と早期発見に努めるべきである。術前から患者の状態を把握すること,つまり問診,触診,聴診といった基本的な診療を心掛け,発症の予防,管理に努めることが大切である。

胸水貯留

著者: 坂下茂夫

ページ範囲:P.286 - P.288

1 はじめに
 胸腔内には生理的に少量の漿液性胸水が貯留して,壁側および臓側の両胸膜面での吸収と分泌のバランスが維持されている。術後合併症としての胸水貯留とは,様々な病因により胸膜表面からの滲出腋や漏出液の分泌が吸収を上回ることによりバランスが崩れ,臨床的に問題となる量の胸水が貯留した場合である。したがって,胸水貯留の診断や治療に際しては,貯留に至ったダイナミックな因果関係について考え,合理的な対処をすべきである。

肺塞栓症

著者: 松田祐一 ,   山中望

ページ範囲:P.289 - P.292

1 はじめに
 肺塞栓症とは,血栓,脂肪,腫瘍,空気,羊水,細菌,異物など種々の塞栓子が肺循環に流入し,肺動脈を閉塞することにより急性右心不全を呈する疾患で,なかでも静脈内や心腔内に形成された血栓が遊離し,急激に肺血管を閉塞する肺血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism:以下,PTE)が最も頻度が高く,通常,肺塞栓症といえばPTEを指す1)。PTEは,従来,本邦では稀な疾患であったが,近年では決して稀ではない。突然死も多く死亡率が高い一方,診断率が低く見逃しが多い。特に術後合併症のPTEは広汎型や劇症型が多く,死亡率も29%と高い2)。しかし,発症時は重篤でも急性期を乗り切れば予後は比較的良好なので,早期の確定診断と治療開始が必要不可欠である。
 本稿では,術後合併症のPTEとその管理について述べる。

4.消化管系

吃逆

著者: 有馬公伸

ページ範囲:P.293 - P.295

1 はじめに
 吃逆(しゃっくり)とは,横隔膜および肋間筋などの呼吸筋が吸気運動の途中で突然痙攣し,横隔膜が収縮および下降し,強い吸気運動が瞬間的に起こり,それに伴って声門が急激に閉鎖することにより,独特な音を発生する現象である。その生理的意義は不明であるが,胎児でも超音波検査で認められることや,他の哺乳動物でも観察されることより,咳や欠伸などと同様に原始的な反射の1つと考えられている。
 各種の疾患に伴っても発生するが,ほとんどが一過性であり,放置していても自然治癒するが,場合によっては軽い処置を必要とすることがある。ときに48時間以上にわたって持続する難治性のものや,再発性のものがあり,吃逆により経口摂取が妨げられたり,睡眠障害や呼吸抑制などにより臨床上問題になることがある。また,持続性の吃逆がイレウス,横隔膜下膿瘍などの重大な術後合併症の一徴候であることがあるので,そのことを念頭に入れておく必要がある。

術後イレウス

著者: 飯泉達夫

ページ範囲:P.296 - P.298

1 はじめに
 何らかの原因で腸管内容の肛門側への輸送が障害されることによって生じる病態をイレウスまたは腸閉塞と呼んでいる1)。泌尿器科手術の術後にイレウスとなる頻度はそれほど高いものではないが,術後イレウスは迅速な治療を必要とし,手術そのものの結果をも左右しかねない重要な術後合併症の1つである。

ストレス性胃潰瘍,出血性胃炎

著者: 池内隆夫 ,   真田裕

ページ範囲:P.299 - P.301

1 はじめに
 手術に伴う胃粘膜傷害の多くは生体防御機能の低下している患者に発生する。この病変の主体は胃粘膜全域に散在する浅い多発性粘膜ビランであり,熱傷によるCurling潰瘍や脳の疾患・外傷でみられるCushing潰瘍のような胃・十二指腸の深い潰瘍とは異なる場合が多い。したがって,後者が穿孔の頻度が高いのに対し,主な臨床症状は消化管出血である1)
 術後胃粘膜傷害はいかなる手術でも発生しうる合併症であるが,基礎疾患に肝機能障害や腎機能障害を持つ症例,胃・上二指腸潰瘍の既往歴を有する症例,副腎皮質ステロイド薬や非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)服用例に多くみられる。また,術後の感染症や大量輸血および多臓器不全も重大な発生危険因子として対応する必要がある。この病態生理に関しては未だにすべてが解明されているわけではないが,効果的な予防策の開発によって以前は30%に達していた出血の頻度は,最近では5%以下に減少している。

排便障害

著者: 宮川美榮子

ページ範囲:P.302 - P.304

1 はじめに
 回腸末端,回盲部を切除すると慢性の下痢になるといわれている。しかし,腸管利用の尿路変向術が一般的な今日の泌尿器科手術で,排便障害に困った経験があるだろうか。文献的にも排便障害の報告はほとんどみあたらなかった。しかし最近の報告1)では,回腸導管や回腸による膀胱拡大術を行った症例(153例)で,術前に正常の人でも42%に排便障害が出現し,右半側の大腸切除をすると50%以上,回盲弁を含めた切除ではすべて下痢になるという報告もある。しかも3か月以内にIE常排便機能に戻るのは35%,3年以上の経過でもとに戻らぬものも30%あるという2)。一方,症状は6か月以内に出現し,1年以内に多くは消失するという報告もあり1),使用腸管の長さ,術後経過観察期間の長短と症状との関係は明らかではない。
 Studerら3)は同腸膀胱80例を6年間観察し,この間は問題なかったが,さらに長期間の経過観察により障害の有無をみる必要性を述べている。排便障害の症状も便秘と下痢(軟便,水様便)のみならず,排便回数の増加,便失禁,夜行性下痢,ガス漏れ,切迫排便,爆発性の下痢など様々な状態を含めての調査が必要であり,腸切による吸収障害と尿吸収に伴う代謝性障害の両面からの観察が要求される。

5.肝・胆道系

術後肝障害

著者: 矢内原仁 ,   中島淳

ページ範囲:P.305 - P.307

1 はじめに
 術後の軽微な肝機能障害は日常診療で比較的よく認められるが,ときに重篤な肝機能障害を発症し,肝不全に至る症例にも遭遇する。肝不全に至ってはいまだその救命は困難であり,本稿においては術後の肝機能障害を正確に評価し,重症例に適切な治療を選択する指針について述べることとする。

6.代謝・内分泌系

糖尿病性昏睡

著者: 三浦順之助 ,   内潟安子 ,   岩本安彦

ページ範囲:P.308 - P.311

1 はじめに
 糖尿病性昏睡は,糖尿病患者における急性合併症の1つである。通常は糖尿病性ケトアシドーシス(diabetic ketoacidosis:DKA)によるものを示すが,しばしばケトン産生を起こさない高浸透圧性非ケトン性昏睡(hyperosmolar nonketotic coma:HONK)もある。広義には治療に伴う低血糖症も糖尿病性昏睡の範疇に入る。また,乳酸アシドーシスがDKAおよびHONKに合併する場合が稀にある。
 糖尿病が今や国民病といわれるまで患者数が増加したため,糖尿病患者が外科的手術を受ける機会もまた非常に多くなったといえよう。糖尿病患者は,生体内のインスリンの絶対的あるいは相対的不足に基づく糖代謝異常ならびに脂質,蛋白の代謝異常をかかえている。その上,全身の血管障害とそれに基づく主要臓器の機能障害を合併する場合が多い。さらに,易感染性や創傷治癒の遅延も起こってくるので,手術対象としてはhigh risk groupに属する。また,外科的侵襲が糖尿病状態の悪化を招くことも広く知られている。

7.尿路系

急性腎不全

著者: 影山幸雄 ,   木原和徳

ページ範囲:P.312 - P.314

1 はじめに
 急性腎不全は,「急速に進行する腎機能低下と高窒素血症を主徴とし,主に可逆性の経過をたどる症候群」と定義される。外科手術は依然として急性腎不全の主要な原因の1つであり,軽度のものを含めれば25%の症例で手術後早期に血清クレアチニンの上昇がみられるとされている1)。手術後の急性腎不全の多くは原因が除去され,また適切な管理が行われれば時間の経過とともに回復するが,対応を誤れば全身状態の悪化から致命的ともなりうる。

排尿障害

著者: 西沢理 ,   水野秀紀 ,   柏原剛 ,   佐藤智哉

ページ範囲:P.315 - P.317

1 はじめに
 排尿障害を術後合併症として起こす手術は,子宮癌および直腸癌に対する根治的手術などの骨盤腔内手術が多い。骨盤腔内手術により膀胱および尿道に対する支配神経に損傷が起こり排尿障害が生じるが,患者側からみると術前には予想していない状態であり,術後合併症としての排尿障害に対する対策は重要である。
 本稿では,子宮癌および直腸癌手術後の末梢神経損傷により生じる排尿障害を取り上げて,原因,病態,必要な検査,処置の順序で述べる。

尿路感染症

著者: 松本哲朗

ページ範囲:P.318 - P.320

1 はじめに
 すべての手術的操作において,操作後は一過性に感染防御機構の機能低下があり,感染症を惹起しやすく,尿路感染症も起こりやすい状態となる。術後に生じる尿路感染症のほとんどは尿路に何らかの障害があるため,複雑性尿路感染症である。尿路感染症発生は,尿路局所に手術が及んだ場合に多い。特に,尿路局所の手術においては長期間のカテーテルやステント留置が行われるため,カテーテルに基づく尿路感染症の発生がみられる。尿路に直接関連のない手術においても,感染抵抗性の減弱とともに尿道に留置カテーテルが設置されることが多く,これに基づく尿路感染症がみられる。閉鎖式導尿を用いてもカテーテル留置後,3週間以降にはほぼ100%の症例に尿路感染症が起こる。また,前捌腺炎や精巣上体炎などの性器感染症もしばしばみられる。

8.そのほか

創感染症

著者: 大西哲郎

ページ範囲:P.321 - P.323

1 はじめに
 1999年4月に発表された米国Centers for Disease Control and Prevention(CDC)1)のガイドラインでは,手術部位感染(surgical site infection:SSI)という新しいcriteriaが盛り込まれている。このガイドラインの根底は,個人の記憶や習慣に頼った医療ではなく,科学的根拠(evidence based medicine:EBM)に基づいた医療を行うことにある。このガイドラインに準じて"創感染症"を概説したい。

術後MRSA感染症

著者: 小川良雄

ページ範囲:P.324 - P.327

1 はじめに
 メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は日本では1980年代から第2,第3世代セフェムが頻用されるようになり検出された。MRSA感染症は治療に苦慮することが多く,周術期において致命的になりうることもあるため十分な注意が必要である。
 本稿では主として病棟での予防,保菌者の除菌,さらに発症後の治療について解説する。

真菌感染症

著者: 宮崎淳 ,   河合弘二

ページ範囲:P.328 - P.330

1 はじめに
 真菌症は,多くの場合,重篤な免疫不全や重度の基礎疾患を有する患者にみられ,通常その診断や治療は容易でなく,その予後も概して不良と考えられる。外科領域においては,高カロリー輸液のために中心静脈カテーテルを長期に留置する症例や,広域スペクトラム抗菌薬の長期投与,骨髄障害を伴う抗癌剤の使用,高齢者の癌患者に対して行う侵襲の大きい外科手術の施行などによるcompromised hostが増加し,それに伴って深在性真菌症,特に周術期における真菌感染症が重要な問題となっている1)。また,上部消化管術後,急性膵炎術後,肝移植,熱傷の際には真菌感染症が高頻度に認められる2)
 血液や腎臓へのfungal translocationから全身性真菌症に発展すると,その予後はきわめて不良となるため,早期に的確な診断を行って治療を迅速に開始する必要がある。

術後敗血症

著者: 久保田洋子

ページ範囲:P.331 - P.333

1 はじめに
 1991年にAmerican College of Chest Physicians/Society of Critical Care Medicine Consensus Conferenceにおいて,敗血症は次のように定義された。「感染に対する全身性反応,細菌感染を示唆する臨床所見を有し,(1)体温>38℃ないし<36℃,(2)頻脈(>90/分),(3)過呼吸(>20/分)ないしPaCO2<32 mmHg,(4)白血球数>12,000/μl,<4,000/μlないし桿状核好中球>10%のうち,2つ以上の全身症状を呈する病態を指す」。また,Glauserら1)は上記の所見に血清乳酸値の上昇,乏尿を加え,これらの症状に低血圧を伴う病態を敗血症性ショックと定義した。敗血症性ショックは,古くはグラム陰性菌の感染によって起こると考えられたが,グラム陽性菌や真菌によっても発症することがわかっている。
 抗生剤の進歩にもかかわらず現在もなお敗血症は生命を脅かす病態である。ショックを伴わない敗血症の死亡率は13%,敗血症のあとショック状態に陥った者の死亡率は43%に及ぶとされる。

エンドトキシンショック

著者: 小池博之

ページ範囲:P.334 - P.336

1 はじめに
 泌尿器科手術における術後感染症の1つとして,エンドトキシンショックは必ずしも数の多いものではない。しかし,その症状,経過は重篤であり,対処法を誤ったり,時期を逸したりすると多臓器不全に陥り,特に高齢者では死に直結することが多いため注意が必要である。
 重症感染症において血液中の病原菌の有無や感染症の症状による菌血症や敗血症といった用語の統一には混乱があり,最近では重症感染症や感染症以外の重篤な病態に対しても全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome:SIRS)として捉える概念が提唱されている1)。そしてこのSIRSのなかで,感染を原因として起こるものが敗血症(sepsis)であると理解されており,原因菌の証明はあまり厳しく規制されていない。しかし,ここではエンドトキシンショックとは血液中にエンドトキシンが陽性(エンドトキシン血症)であり,このエンドトキシンが原因となっている敗血症性ショックを意味しているものとして話を進める。

DIC

著者: 坂本善郎

ページ範囲:P.337 - P.340

1 はじめに
 DIC(disseminated intravascular coagulation:播種性血管内凝固)は,血管内で凝固系が異常活性化されることにより,微小血管内に多数の血栓形成が生じるため,血小板と凝固因子の消費・減少による出血傾向と微小血栓による多臓器の循環・機能不全(MOF)の病態をきたす症候群である。泌尿器科手術の術後合併症としてはDICは必ずしも多い病態ではなく,むしろ比較的よくみられるのは,尿路感染症に起因する敗血症,ショックを契機とする場合や前立腺癌を代表とする悪性疾患が増悪した場合やその治療中に発症する場合である1)
 一般に外科疾患における術後DICの要因は,(1)基礎疾患である悪性腫瘍に起因するもの,(2)術中・術後に生じた大量出血に起因するもの,(3)重症感染症に起因するもの,などが考えられる。これらについて病因・病態を解説し,泌尿器科手術の術後合併症としてのDICに言及する。

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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