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雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科56巻6号

2002年05月発行

雑誌目次

綜説

精巣癌の長期経過観察と患者QOL

著者: 中村薫

ページ範囲:P.383 - P.391

 5年生存率が95%以上になり,長期生存が可能になった精巣癌患者をいつまで,そしてどのように経過観察していくかは,個々の施設あるいは主治医と患者の意向で大きく異なる。しかし治療後の長期間にわたる副作用合併症,対側精巣の造精機能の評価や妊孕性,さらに遅発再発や二次癌の問題は,若い患者たちにとって健康に関わるQOLとして重要な情報である。欧米での大規模な経過観察の結果のみから本邦での長期経過観察の方針を考按することには,罹患率の相違や医療制度の違いなどを配慮しなければならないが,患者のQOLを高く保つために長期にわたる副作用・合併症に関するこれらの情報に十分に留意することが望まれる。

手術手技 目でみる泌尿器科手術のポイント・17

陰茎部分切除術・陰茎全摘除術・鼠径リンパ節郭清術

著者: 川原元司 ,   中川昌之

ページ範囲:P.393 - P.404

 陰茎癌に対する陰茎部分切除術,全摘除術および鼠径リンパ節郭清術のポイントを述べた。切除線を想定して新しい外尿道口の位置を決定し,術後の排尿についても説明と同意を得る。全摘除術は陰茎根部で,部分切除術では病巣から2cm離して切除する。狭窄を避ける目的で,尿道断端は6時方向を縦切開して外翻させ,会陰部あるいは陰茎皮膚と縫合する。リンパ節郭清では皮下脂肪組織を取りすぎて皮弁の血流障害を招かないよう注意する。

陰茎切断術

著者: 牛山知己

ページ範囲:P.405 - P.412

 腫瘍部に滅菌コンドームをかぶせ中枢側を結紮し,感染および腫瘍細胞による汚染を防ぐ。陰茎部分切断術では,陰茎根部を阻血し,腫瘍中枢側から2cm以上離して陰茎を切断する。尿道は陰茎海綿体より1cm以上長く残す。尿道は飜転させるように縫合する。陰茎全切断術では,陰茎海綿体を恥骨結合下面の陰茎脚で切断する。尿道は陰茎根部で切断し,尿道球部まで剥離する。尿道は会陰部に出し飜転するようにして縫合する。

陰茎癌に対する陰茎切断術

著者: 松下靖 ,   藤岡知昭

ページ範囲:P.413 - P.419

 陰茎切断術は陰茎癌に対する標準的な術式である。手術のポイントは,狭窄のない新外尿道口の形成と陰茎海綿体切断時の出血の回避である。また,皮弁や筋皮弁を用いた皮膚再建法の併用により,進行性陰茎癌に対する拡大手術が可能となった。一方,手術による術後のQOLの低下は避けられず,陰茎再建の完成度の向上や陰茎温存の可能性についての試みなど今後の課題は多い。

セミナー 泌尿器科医に必要な新しい医療材料の知識・5

閉腹用新型鈍針付き縫合糸

著者: 中野賢二 ,   千々岩一男

ページ範囲:P.421 - P.423

 感染症患者の増加に伴い針刺し事故が医療従事者にとって大きな問題となってきている。新しい鈍針付き縫合糸は組織貫通性は従来の丸針と大差ないにもかかわらず手術手袋に対する貫通性を抑えたもので,針刺し事故の防止にきわめて有効であり,事故にかかる医療費コストの面からも早急に導入されることが推奨される。

症例

女性尿道腺癌の1例

著者: 古家琢也 ,   山内崇生 ,   工藤誠治 ,   川口俊明 ,   高橋信好 ,   鈴木唯司

ページ範囲:P.427 - P.429

 症例は44歳,女性。主訴は排尿困難であった。小児用膀胱鏡検査による検査では,内尿道口6時から尿道にかけて粘膜の不整像を認めた。生検の結果,中分化型線癌の診断を得たため尿道原発腺癌の診断にて膀胱尿道全摘除術,子宮腟前壁合併切除および回腸導管造設術を施行した。病理組織診断ではCEA陽性の尿道原発中分化型腺癌と診断された。術後補助療法は,ECF療法を行った。

高齢男性にみられた先天性骨盤内動静脈奇形

著者: 鈴木一実 ,   菅谷泰宏 ,   徳江章彦

ページ範囲:P.431 - P.433

 症例は79歳,男性。超音波検査および単純CTにて膀胱右背側に径3cm大の腫瘤性病変を認め,当科を紹介された。MRIおよび消化管精査を施行するも質的診断は難しく,後腹膜腫瘍の疑いで試験開腹術を施行した。膀胱右側にthrillを触知し,血管系の異常と考えられた。術後にカラードプラ超音波検査,MRアンギオグラフィ,3D-CTアンギオグラフィおよびダイナミックCTを施行し,骨盤内動静脈奇形の診断を得た。

陰唇癒着症の1例

著者: 小野隆征 ,   細川幸成 ,   鳥本一匡 ,   岸野辰樹 ,   上甲政徳 ,   百瀬均

ページ範囲:P.435 - P.437

 症例は68歳,女性。排尿困難を主訴に当科を受診した。外診にて陰唇は正中で癒着しておりpinhole様の小孔を1か所に認めるのみで,陰唇癒着症と診断した。腰椎麻酔下に陰唇剥離術を施行した。現在,術後17か月であるが癒着の再発はなく,良好な排尿状態が継続している。陰唇癒着症は,女性排尿障害の原因として留意すべき疾患の一つと考えられる。

腹腔鏡下前立腺全摘除術後に認められた総腓骨神経麻痺の1例

著者: 荻原雅彦 ,   横田崇 ,   鎌田竜彦 ,   鈴木一裕 ,   山口脩

ページ範囲:P.439 - P.441

 症例は69歳,男性。検診でPSA高値を指摘され当科を受診した。T1C前立腺癌の診断下,開脚仰臥位にて腹腔鏡下前立腺全摘除術が施行された。術翌々日歩行を開始したところ両下肢の下垂がみられ,精査で総腓骨神経麻痺と判明した。ビタミンB12内服,理学療法により症状は消失し,神経伝達速度でも改善が認められた。麻痺の発症機転として,長時間の下肢過伸展および外旋,気腹や頭低位による下肢の血流障害が考えられた。

馬蹄鉄腎に合併した腎盂腫瘍の1例

著者: 小杉道男 ,   中島史雄

ページ範囲:P.443 - P.445

 74歳の男性。肉眼的血尿を主訴に来院し,静脈性腎盂造影で馬蹄鉄腎を認めた。その後腰痛と両側の水腎が出現し,尿管カテーテル法による尿細胞診ではclass Vがみられた。CT,逆行性腎盂造影で馬蹄鉄腎に合併した右腎盂腫瘍と診断し,馬蹄鉄腎峡部離断術,右腎尿管摘除を施行した。

結節性精巣周囲炎の1例

著者: 多田真浩 ,   蓮見壽史 ,   松崎純一 ,   北見一夫

ページ範囲:P.446 - P.447

 患者は34歳,男性。右陰嚢内腫瘤を主訴として当科を受診した。手術にて,精巣固有鞘膜に固着する,白色で表面平滑な5〜15mmの結節性病変を切除した。病理組織学的所見では結節性精巣周囲炎であった。結節性精巣周囲炎は精巣鞘膜に発生する多発性結節性腫瘤で、その原因は不明である。本邦での報告は4例目と考えられる。

粘液産生性前立腺癌の1例

著者: 妹尾博行 ,   高田剛 ,   武本征人 ,   野々村祝夫 ,   平井利明

ページ範囲:P.449 - P.451

 症例は72歳,男性。無症候性肉眼的血尿を主訴に受診。直腸指診にて前立腺は弾性硬,圧痛なし。PSAは1.7ng/ml,PAPは0.9ng/mlと正常範囲内。CEAは6.9ng/mlと軽度上昇。CT,MRI,経直腸超音波検査にて前立腺背側に多房性嚢胞状腫瘤を認めた。嚢胞部の穿刺吸引細胞診および前立腺針生検を行った。嚢胞内容は血性粘液で,PSA染色陽性の粘液産生性腺癌であった。前立腺全摘除術施行。粘液産生性前立腺癌であった。

大きな尿道舟状窩結石の1例

著者: 貫井昭徳 ,   菅谷泰宏 ,   徳江章彦

ページ範囲:P.453 - P.455

 症例は57歳,男性。亀頭部の疼痛,腫脹と排尿困難を主訴に当科を受診した。骨盤部単純X線写真にて骨盤外に3.4×2.7cmの石灰化像を認めた。排尿時膀胱尿道造影および骨盤部CTにて尿道舟状窩に嵌頓した結石と診断された。腰椎麻酔下に空圧式結石破砕装置を用いた経尿道的尿道結石砕石術を施行し,残石なく治療することができた。

小さな工夫

簡易血尿判定スケール

著者: 徳光正行 ,   八竹直

ページ範囲:P.458 - P.458

 日常の泌尿器科の診療において,血尿を呈する症例は高頻度にみられる。外来においては,出血性膀胱炎,特発性腎出血,進行した尿路上皮腫瘍や前立腺癌などで経過を観察している通院症例,病棟においては,近年の経尿道的内視鏡手術の増加によりその手術操作前後に,経時的に血尿の程度を観察せねばならない症例など,医師や看護師のみならず,患者本人もその血尿の程度を評価する必要がある場合も少なくない。
 すべての症例に対して,出血量把握のためだけに,頻回に採血検査を行うことは不可能かつ問題である。採血検査をすることなく,簡便に血尿の程度を判定することはなかなか難しいが,家庭や外来,ベッドサイドの日常診療において,医師,看護師,患者それぞれが共通の認識をもって,血尿を客観的に評価可能な,何らかの簡易的な基準の設定はどうしても必要となってくる。

水腎症における腹臥位排泄性尿路造影

著者: 武中篤 ,   原田健一

ページ範囲:P.459 - P.459

 排泄性尿路造影(IVP)は,最も基本的な泌尿器科検査の一つで,本質的には分腎機能検査であるが,実際にはその手技の簡便性から尿路の形態学的な変化を検出する目的で行われることが多いと考えられる。
 一般に尿路通過障害が存在する場合,その部位より上部の尿路は拡張し,さらに造影剤の排泄遅延も伴うため,通常の撮影で通過障害部位を同定するには困難なことが多い。その対策として,造影剤の量を増量する,撮影時間を延長する,体位を立位にする,などの処置が一般に行われているが,今回我々は腹臥位IVPを施行し,容易に明瞭な画像を得ることができたので報告する。

病院めぐり

札幌鉄道病院泌尿器科

著者: 田端哲也

ページ範囲:P.460 - P.460

 当院開設の由来は,「公務傷病者の治療は勿論,旅客・鉄道員およびその家族の傷病に対する治療施設として札幌に病院建設せる」ことが,大正3年9月11日に院議(当時鉄道院)決定し,翌大正4年10月1日に当院設置の達示があり,大正4年11月6日より内科,外科の2科にて診療が開始されました。その後,患者数の増加が著しくなり,建物の増改築の必要に迫られ大正11年12月3日に現在の場所に移転し,診療科7科,29室164床の病院となりました。移転後も患者数が増加する一方で,増築につぐ増築と老朽化に伴い,昭和35年に診療科9科,一般病床182床,結核病床229床の合計411床の総合病院として生まれ変わりました。
 当時は,近代的で高度の医療機器を有し,素晴らしい病院として職員・家族の誇りでもあり,そして遠隔地からも多数の方々が通院バスを利用して来られ,当院も大賑わいでありました。

名古屋掖済会病院泌尿器科

著者: 西川英二

ページ範囲:P.461 - P.461

 名古屋市は人口218万人,16区で構成されています。その中で最大の21万人を擁する区が名古屋市南西部に位置する中川区です。名古屋掖済会病院はこの地にあります。当院は1948年に病床数30床で診療を開始しました。その後徐々に規模を拡大し,1978年には救命救急センターを開設,その後新館が完成して662床となり,地域中核病院として活動しています。また1996年には災害拠点病院の指定も受けました。
 当院は1879年に設立された"海員掖済会"(海員に対する福利厚生を目的としたもの)が開設したものです。海員掖済会は東京に本部を置き,全国に病院8か所を運営しています。現在では,その対象を海員に限らず広く地域社会としています。ちなみに,掖済の「掖」は助ける,よいほうへ導く,「済」は助ける,救うを意味しているそうです。現在,医師数135人(常勤100人,非常勤35人),ベッド数662床,診療科23科を擁しています。また,毎年平均15人の研修医を受け入れており,臨床医の育成にも努めています。年間外来患者延数は42万人(泌尿器科1.8万人),入院患者延数22万人(同6,800人),紹介率は27%(同27%)となっています。

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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