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特集 前立腺疾患のすべて Ⅳ 前立腺炎
前立腺炎をめぐるcontroversy
著者: 門田晃一1 公文裕巳1
所属機関: 1岡山大学大学院医歯学総合研究科泌尿器病態学
ページ範囲:P.267 - P.272
文献購入ページに移動従来,前立腺炎の病型は,急性細菌性,慢性細菌性,慢性非細菌性に加え前立腺局所に明らかな炎症所見を伴わない前立腺痛(prostatodynia)の4型に分類1)されてきた。一方,1998年に前立腺炎の診断方法の確立や病態解明を推進するためにNational Institutes of Health(NIH)が中心となり新しい病型分類が提唱され2),現在多くの臨床研究で活用されている。表1にNIH分類とその定義を示すが,現実的にはこれまでの分類と大きな差異はない。
Ⅰ型前立腺炎(急性細菌性前立腺炎)は細菌感染による急性炎症性疾患であり,臨床症状や局所所見より泌尿器科医であればその診断は比較的容易である。治療についても抗菌性化学療法の絶対的適応であり,抗菌薬に対する反応性も比較的良好である。すなわち,Ⅰ型前立腺炎に関しては,その病態や病因は明解で,診断および治療方法も概ね確立されており,議論の余地は少ない病型といえる。
一方,Ⅱ型およびⅢ型前立腺炎(慢性前立腺炎)は多彩な臨床症状を呈する疾患群であり,しばしばその治療に難渋する。特にⅢ型(chronic prostatitis/chronic pelvic pain syndrome)では病態や病因の解明も不十分であり,治療方法も確立されていない。したがって,さまざまな治療が試みられているものの,必ずしも病因に則した治療が選択されているとは言い難く,一定の効果が得られていないのが現状である。加えて慢性前立腺炎患者のQOLに与える影響は,心筋梗塞,不安定狭心症,活動性のクローン病とほぼ同程度と報告されており3),臨床的に課題の多い疾患といえる。
近年,こうした背景から,北米では前立腺炎に関する議論が活発化している。NIH分類もその一環であるが,その多くは慢性前立腺炎(特にⅢ型)の病因の解析や診断・治療方法の評価に関するものである。
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