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雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科57巻6号

2003年05月発行

雑誌目次

綜説

進行精巣腫瘍における手術療法

著者: 川喜田睦司

ページ範囲:P.371 - P.396

要旨 近年,進行精巣腫瘍の治療成績の向上は著しく,その大きな要因の1つはcisplatinの導入である。しかし化学療法単独では完全奏効は不可能であり,非セミノーマの残存腫瘍は外科的に切除する必要がある。残存腫瘍には線維化・壊死,成熟奇形腫,悪性腫瘍の組織がみられ,悪性腫瘍残存の予後は不良である。また奇形腫は徐々に増大したり,悪性化の危険性があり完全に切除することが重要である。残存腫瘍のサイズなどで術前に組織像を100%予測することはできないが,原発巣に奇形腫がなく,化学療法前のAFP,HCGが正常でLDHが高値,後腹膜腫瘍の縮小率が70%以上であれば線維化・壊死の可能性は90%以上である。このような症例で残存腫瘍が10mm未満のものは手術をせずに経過をみることも可能である。後腹膜以外の残存腫瘍と後腹膜腫瘍との組織像は半数近くで一致せず,残存腫瘍はすべて切除すべきである。また症例を選べば術前の腫瘍マーカーが陽性でも手術療法により比較的良好な成績が得られるので,安易に化学療法を繰り返さず患者のQOLを考慮した治療戦略を立てることが重要である。セミノーマの残存腫瘍はしばらく縮小の程度を観察したのち30mm以上であれば切除術を行うが,線維化が強く手術に難渋することが多い。

手術手技 泌尿器科 体腔鏡下手術 5

腹壁吊り上げ・ハンドアシスト法による鏡視補助下ドナー腎摘除術

著者: 鈴木和雄

ページ範囲:P.399 - P.408

要旨:腹壁吊り上げ・ハンドアシスト法による鏡視補助下ドナー腎摘除術(上腹部傍腹直筋切開法および下腹部正中切開法)の手術手技について述べる。本術式の利点は,炭酸ガス気腹を用いないこと,出血などに対して迅速に対応できること,直ちに開放手術に移行できること,腹膜外到達法であること(上腹部傍腹直筋切開法),である。重篤な合併症が生じた場合には,直ちに創を延長し開放手術に移行できることが本術式の最も重要な点である。

腹腔鏡補助下ドナー腎摘出術

著者: 渡辺竜助 ,   斎藤和英 ,   車田茂徳 ,   内藤雅晃 ,   擣木立 ,   高橋公太

ページ範囲:P.411 - P.419

要旨:ガスレス後腹膜到達法での生体腎移植における腹腔鏡補助下ドナー腎摘出術を取り上げる。6~7cmの傍腹直筋切開創を操作ウインドウおよび腎摘出創とし,トロカーを2本挿入する。開腹と鏡視下手術手技を融合させ,それぞれの利点を生かし,気腹による腎機能障害を回避し,ドナーのADLを損なうことのない低侵襲性手術を目標とした。いくつかの手技の改良を重ね,現在までに38例を経験し,一定の手技が確立されたので紹介する。

体腔鏡下ドナー腎摘出術

著者: 中沢速和 ,   田邉一成 ,   東間紘

ページ範囲:P.421 - P.428

要旨:腎提供者の負担を軽減するために,体腔鏡下にドナー腎摘出が行われている。本稿では後腹膜アプローチの方法とポイントを概説する。現在まで全例,問題なく腎提供が行われた。従来の開放手術に比べ術後の疼痛が少なく,入院期間の短縮,早期社会復帰に有効である。体腔鏡下ドナー腎摘出は,近い将来,標準的治療になると考えられるが,生体腎提供者の手術において最も優先すべきは安全性であることを常に念頭において行う。

セミナー 泌尿器科診療とリスクマネジメント 5

病院感染のリスクマネジメント

著者: 大久保憲

ページ範囲:P.429 - P.432

要約:病院感染には不可避な合併症としての感染症と,手洗いなどの基本的感染対策が励行されていない場合や消毒・滅菌不良などにより発生するものがある。後者は大部分がヒューマンエラーであり防止可能である。効果的に防止するためには病院感染の事例報告を正しく解析する必要があり,各医療施設では感染の発生防止を目指し,状況を把握して分析し,評価したものを実行していく組織的な取り組みをしていかなくてはならない。

原著

初回尿細胞診class Ⅲ患者の診断に関する検討

著者: 細川幸成 ,   岸野辰樹 ,   小野隆征 ,   大山信雄 ,   百瀬均 ,   小谷広子 ,   丸山博司

ページ範囲:P.435 - P.438

 尿細胞診class Ⅲという結果については,その解釈に苦慮することが多い。初回検査時に尿細胞診class Ⅲの結果が得られた53例についてretrospectiveに検討した。最終診断については53例中29例(54.7%)が尿路上皮悪性腫瘍であり,そのうち膀胱癌を合併しない腎盂・尿管腫瘍の診断であったものが11例(20.8%)と比較的高率であった。悪性腫瘍以外の診断であった17例をみると尿路結石が9例と比較的多く,刺激型移行上皮によるものの影響が多いと考えられた。初回検査時に尿細胞診class Ⅲで,膀胱鏡で腫瘍を発見できなかった場合,上部尿路の精査が重要であると思われた。

症例

膀胱子宮瘻の1例

著者: 栗林正人 ,   江川雅之 ,   高島博 ,   今尾哲也 ,   越田潔 ,   並木幹夫

ページ範囲:P.439 - P.441

 症例は28歳,女性。帝王切開術後の腟性尿失禁を主訴に来院した。逆行性膀胱造影にて膀胱から背側への造影剤の流出を認めた。膀胱子宮瘻の診断下で,単純子宮全摘術および瘻孔閉鎖術を施行し,術後の経過は良好であった。膀胱子宮瘻は主として帝王切開術後に発症し,外科的治療により良好な予後を期待できる疾患である。

陰囊内平滑筋腫の1例

著者: 野瀬清孝 ,   山下康洋 ,   石原明

ページ範囲:P.443 - P.445

 症例は62歳,男性。陰囊内に無痛性の硬結を自覚し,来院した。総鞘膜に小豆大の硬結を触知し,局所麻酔下に摘出した。摘出標本は直径6mmの平滑筋腫であった。陰囊内平滑筋腫は稀で,自験例は本邦44例目と思われた。

画像診断

結腸憩室炎によるS状結腸膀胱瘻

著者: 藤田和利 ,   菅尾英木

ページ範囲:P.447 - P.449

 患 者 65歳,男性。

 主 訴 頻尿,気尿。

 家族歴 特記すべきことなし。

 既往歴 64歳,結腸憩室炎。

 現病歴 1年前より頻尿があり,近医で膀胱炎として治療されていた。再発を繰り返し血尿も認められたため,近医泌尿器科で膀胱鏡を施行されたところ膀胱腫瘍が認められ,当科に紹介となった。なお,1年前より時々排尿時に尿とともに空気が出てくる感じがあったが,近医でも特に問題にされず,本人も気にしていなかった。

 現 症 身長164cm,体重56kg。体温35.9℃。筋性防御は認めず。

 検査成績 白血球12,900/mm3,CRP 1.78mg/dl,そのほか血算,生化学に異常を認めず。尿沈渣では赤血球10~20/HPF,白血球>100/HPF,尿細胞診は陰性であった。尿培養にてEscherichia coliを認めた。便潜血は陽性であった。

 臨床経過 膀胱鏡検査では右側壁に小豆大の有茎性乳頭状腫瘍を認め,膀胱頂部は外部から圧排されており,その中心部に浮腫状の隆起性病変を認めた(図1)。MRIでは膀胱頂部の粘膜は肥厚し,T1強調画像で膀胱周囲とS状結腸周囲の脂肪は断裂していた(図2)。T2強調画像で腫瘤の中心部に高信号領域を認め,膿瘍の存在が疑われた(図3)。MRIで膀胱腫瘍は粘膜に限局する表在性の腫瘍と考えられた。DIPおよび排尿時膀胱造影では異常を認めなかった。注腸造影および大腸ファイバーではS状結腸から下行結腸にかけて多数の憩室を認めた。S状結腸に狭窄を認めたが,瘻孔は確認できなかった。

 以上,臨床症状と膀胱鏡およびMRIより膀胱腫瘍を合併した結腸膀胱瘻と診断し,まず経尿道的膀胱腫瘍切除術を施行した。膀胱頂部の病変は結腸膀胱瘻開口部と考え生検も同時に施行した。病理組織の結果,右側壁腫瘍は移行上皮癌,G2,T1と診断され,頂部の腫瘤は炎症細胞の浸潤を伴う膀胱粘膜上皮の反応性増殖を示した。続いてS状結腸切除術および膀胱部分切除術を施行した。摘除標本ではS状結腸は膀胱と炎症性に癒着し,約5cmにわたり一塊となっており,ゾンデにて膀胱とS状結腸間の瘻孔を確認できた(図4)。病理学的検査では悪性所見を認めず,炎症性の肉芽組織が認められた。

小さな工夫

アウトドアチェアを応用した女子自己導尿法

著者: 森久 ,   伊藤淳

ページ範囲:P.453 - P.453

 女子自己導尿は簡単なようで難しい。難しいところは外尿道口にカテーテルの先を導くことである。その後のカテーテルの挿入は男子と違い,スムーズである。われわれは,女子外尿道口をいかに簡便に観察でき,また自己導尿できうるかを試行錯誤した。

 アウトドアレジャーなどで使用される合成樹脂製の椅子に,個々の患者に座ってもらい,最大に股を開いてもらう。その股の間の椅子の底部の部分を三角形に切り取る(図1)。簡単に切り取れる点がこの椅子の利点である。すなわち個々の患者の体形に合わせることができる。次に患者は足底部の高さを,無理が生じない程度に高く置いて座る。足は両側でも片足のみでもよい。この体形の利点は,外尿道口が通常に座るよりも前方移動し,しかも水平化することである。すなわち,外尿道口が観察しやすくなる。一方,椅子の底部の前方を切り取る利点は,股間の前方が空間化しているため視野を遮るものがなく,椅子の下からでも鏡を通して,上方からの患者の視線で簡単に外尿道口が観察されうることや,股間部の前方が上下に広くなり,遮るものがなくなるため導尿時の操作が容易になる(図2)ことである。

交見室

ベノキシールゼリー®販売中止について

著者: 西川英二

ページ範囲:P.454 - P.454

 泌尿器科では経尿道的操作の時,日常的に表面麻酔剤を用いています。われわれの施設では導尿カテーテルや尿道ブジー,膀胱尿道鏡などの挿入時には2%の粘滑・表面麻酔剤のキシロカインゼリー®(一般名:塩酸リドカイン;藤沢薬品工業株式会社製造,アストラゼネカ株式会社販売)をカテーテルや器具に塗布し,一方男性に対しての膀胱鏡検査やブジーの時に前処置として尿道粘膜麻酔目的にベノキシールゼリー®(一般名:塩酸オキシブプロカイン;参天製薬株式会社製造・発売)を用いてきました。

 そこで尿道粘膜麻酔についてですが,粘性表面麻酔剤のゼリーは,麻酔としての効果はもちろんのこと,その麻酔剤が粘膜全体にムラなく行きわたることも必要条件だと考えます。その意味では適度な粘性が重要なのです。つまり粘性が強すぎると尿道奥まで入りづらい,弱すぎると尿道にとどまらないということになるのです。ベノキシールゼリー®の粘性は,尿道に広く行きわたり,かつ尿道にとどまる,ちょうどよい粘性があったと思います。さらに注入容器も尿道口に押しつけやすい形状であり,使い捨てということからも便利でした。

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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