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雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科59巻12号

2005年11月発行

雑誌目次

特集 泌尿器切除標本の取り扱い方―私たちはこうしている

術中迅速組織診断のための切除標本の取り扱い方

著者: 西谷真明 ,   金山博臣

ページ範囲:P.893 - P.896

要旨 術中迅速組織診断は泌尿器科では多くの場合,腫瘍の良悪性の判定,切除断端への癌の浸潤,リンパ節転移の有無を手術中に速やかに判定し,それらにより手術方針を決定することを目的としてなされる。そのため,術中迅速組織診断の結果が患者に与える影響は直接的で大きく,より正確な診断が要求される。しかしながら,術中迅速診断と永久標本による最終的な組織診断が必ずしも一致しない場合がある。そこで,診断精度をより高くするために泌尿器科医がなすべきこととして,病理医との緊密な連携とともに,術中迅速組織診断の手技およびその特性を理解することが重要である。

電顕標本のための組織標本の取り扱い方

著者: 稲垣宏 ,   滝野寿 ,   戸澤啓一

ページ範囲:P.897 - P.902

要旨 病理学分野における電子顕微鏡(電顕)検査の果たす役割は大きい。電顕試料作製の過程で臨床医が関与するのは,初期段階である組織前固定までと考えられる。しかし,このステップは精度の高い電顕検査を行うために最も重要である。このことを念頭に,採取された組織の適切な部位を細切し,速やかに電顕用前固定液に浸漬させることを心がける必要がある。また,通常のホルマリン固定が行われパラフィン包埋された検体からも電顕検査は可能である。この方法は“もどし電顕”と呼ばれている。電顕用に処理された検体と比べ電顕像としては劣るものの,十分な情報が得られることも多く,病理診断に有用である。

組織の凍結保存―方法と保存可能期間

著者: 蘆田真吾 ,   執印太郎

ページ範囲:P.904 - P.905

要旨 泌尿器科領域における組織の特徴および切除組織の凍結保存方法について述べる。Laser microdissection法の開発,発展に伴い,目的とする組織部位のみを選択的に採取することが可能となり,さまざまな研究に利用されている。本稿では,Laser microdissection法を行う際に必要となるOCT包埋および包埋組織の保存方法について主に概説する。

腎癌切除標本の取り扱い方―腎腫瘍の新しい分類を踏まえて

著者: 遠藤希之 ,   金泰乙 ,   大島瑞保 ,   斎藤誠一

ページ範囲:P.907 - P.913

要旨 近年,分子生物学的解析の発達で腎腫瘍の分類が大幅に変化してきている。新分類に加えられたいくつかの腫瘍は従来のconventionalな腎癌と比較して生物学的態度が異なることも示されている。したがって精確な病理組織診断が術式選択や術後追加治療などの方針決定にきわめて重要な意義を持つことはいうまでもない。この際,一般的な組織診断も必要不可欠であるが,最終的な診断確定においては免疫組織化学的検索や電子顕微鏡による観察,さらにはchromosomal/genetic analysisがきわめて有用になる場合もある。そのため腎腫瘍の手術検体の取り扱いについては特殊検索をも視野に入れた方策が望まれる。

副腎腫瘍切除標本の取り扱い方

著者: 白木良一 ,   佐藤乃理子

ページ範囲:P.915 - P.918

要旨 副腎は横隔膜直下の後腹膜腔にあり,Gerota筋膜に包まれて左右の腎の上内側やや前面寄りに位置する内分泌臓器である。周囲の様々な臓器や血管に取り囲まれており,解剖学的に複雑な場所に位置している。近年,画像診断の進歩により症状の伴わない偶発腫瘍(incidentaloma)が増加してきた。このなかには副腎皮質癌や副腎への転移性腫瘍などの悪性腫瘍も少なからず含まれるので病理組織学的所見が重要である。摘出副腎は周囲細胞組織を取り除いたあと,重量,縦径×横径×厚さの測定を行い,副腎の短軸に沿って垂直にできるだけ多数の割を入れ切片を作製し,一般的な観察項目を記載する。

腎盂・尿管癌切除標本の取り扱い方

著者: 滝花義男 ,   土田孝之 ,   武田正之

ページ範囲:P.919 - P.922

要旨 腎盂・尿管癌の摘出標本の病理学的検査は腫瘍の組織分類,組織学的浸達度,リンパ節転移,さらにはリンパ管や脈管侵襲の有無など,予後やその後の治療に影響を与える要因が多い。したがって摘出標本の取り扱い方は非常に重要である。また研究用の組織の保存も腎盂・尿管癌の新しい診断法や治療の開発のためには重要である。本稿では当施設で行っている研究用の組織の保存や写真の撮影法も含めて腎盂・尿管癌の切除標本の取り扱い方を解説した。

膀胱癌切除標本の取り扱い方

著者: 杉村淳 ,   近田龍一郎 ,   藤岡知昭

ページ範囲:P.925 - P.928

要旨 膀胱癌切除標本から得られる正確な病理学的診断は,治療方針の決定あるいは予後を予測するうえで非常に重要となる。標本の取り扱いは,病理診断に加えて遺伝子検索・蛋白解析などの研究目的も踏まえ,標本摘出からホルマリン固定まで迅速かつ正確に行わなければならない。膀胱癌取り扱い規約に従った標本の切開,固定に加え,研究目的に適した検体採取・保存法など,私たちが行っている具体的な方法について述べる。

前立腺癌切除標本の取り扱い方

著者: 安本博晃 ,   松原昭郎 ,   碓井亞

ページ範囲:P.929 - P.934

要旨 前立腺全摘除術後に得られる組織学的診断がもたらす情報は個々の症例の予後予測や治療方針の決定に有用なだけでなく,情報を蓄積することで新たなノモグラムの作製に用いることが可能である。また,泌尿器科臨床医にとって自ら執刀した手術を振り返り,経験を次に生かすための貴重な資料となる。したがって,標本の取り扱いに関しては診療科内だけでなく施設内で共有されるルールに基づくものでなければならないし,国内外を問わず通用するものでなければならない。「前立腺癌取扱い規約」2)に基づいて,当施設での取り扱い方について手順を述べた。

精巣腫瘍切除標本の取り扱い方

著者: 三木恒治 ,   中村晃和 ,   水谷陽一

ページ範囲:P.935 - P.942

要旨 精巣腫瘍は,セミノーマ,非セミノーマ,混合型など多彩な組織像を呈するため,摘出標本では肉眼的観察を十分に行い,所見の異なる部位から多数の標本採取が必要である。また,組織型決定のために免疫染色が有効なことがあり,適宜追加するべきである。化学療法後の転移巣摘除標本(後腹膜リンパ節,肺など)においても,viable cellの有無がその後の治療,予後予測に重要であるので,viable cellを見逃さないためにできる限り連続平行切片を作成することが望ましい。本稿では,摘出標本の取り扱い方を,当科での経験を含めて概説し,研究用材料の取り扱いにも言及した。

TUR標本の取り扱い方

著者: 舛森直哉

ページ範囲:P.945 - P.949

要旨 経尿道的内視鏡手術では組織が多数の細切片として回収されるため細切片同士の位置関係を術後に把握することが困難である。経尿道的膀胱腫瘍切除術においては腫瘍の大きさと部位の記載を正確に行い,固有筋層を含むよう十分深く切除する。小さな腫瘍や上皮内癌では容易に粘膜上皮が脱落するので,コールド・パンチを使用するとともに検体を愛護的に扱う。腫瘍は可能であれば深達度が判定できる方向で包埋する。経尿道的前立腺切除術における病理学的検討の目的は前立腺癌の発見にある。効率や経済的な問題があるものの,癌の見逃しを避けるためには全切除片の検索が望ましい。癌を発見した場合,占拠面積を計測してT1aかT1bかの判定を行う。

生検標本の取り扱い方

著者: 後藤健 ,   古賀寛史

ページ範囲:P.951 - P.956

要旨 系統的前立腺生検はわが国においても標準的な術式として定着している。癌の診断率を向上させるため,最近では生検本数を増やす傾向にある。また,到達法においては経直腸的生検の普及率が経会陰的生検を大きく上回っているが,両生検法の長所短所を十分に理解したうえで,術者が選択することが望ましい。前立腺生検の標本を取り扱う際には,出来上がった前立腺針生検の病理組織標本ができるだけ直線的な形態を保ち十分なコア長を有することが肝要である。特に解剖学的にコア長が短くなりやすい前立腺尖部において,十分なコア長の標本を得ることが癌の診断率を向上させることに寄与する可能性があると考えられる。

書評

内視鏡外科における縫合・結紮法―トレーニングからアドバンスト・テクニックへ フリーアクセス

著者: 白石憲男

ページ範囲:P.923 - P.923

1990年,わが国に腹腔鏡下胆囊摘出術が導入されて以来,内視鏡下手術は急速に普及し,その適応が拡大されてきた。これは,体に優しい「低侵襲手術」が,国民の福祉に貢献すると期待されているからである。しかしながら,その手術手技は従来の開腹手術と異なり,モニター下の鉗子操作であるため,外科医のトレーニングが必要である。

 内視鏡下手術操作の中で最もトレーニングが必要な操作の一つに縫合や結紮操作が挙げられる。そのため,日本内視鏡外科学会の技術認定医制度においても縫合・結紮操作の提示が必須の要件とされている。内視鏡外科における縫合と結紮法のコツが理論的に示された本書は,そのような時代にマッチしたテキストブックと言える。

今日の疫学―第2版 フリーアクセス

著者: 坪野吉孝

ページ範囲:P.943 - P.943

本書は1996年に出版された同書の初版を,23名の執筆者を迎えて大幅に改訂したものである。427ページからなる本文の約半分を占める「総論」では,疫学の概要から,因果論,研究デザイン,測定とバイアス,研究の実施,データ解析,倫理にいたる事項が取り上げられている。残りの半分を占める「各論」では,スクリーニング,感染症,がん,循環器,環境,産業疫学,社会疫学,精神保健,健康政策,さらに臨床疫学や臨床判断学にいたる多彩な分野が解説されている。

 私自身は,とくに各論が面白かった。とりわけ,「循環器疾患の疫学」と「精神保健疫学」の部分は,世界と日本の研究状況が手際よく整理され,これまでの到達点と課題がみごとにまとめられている。「感染症の疫学」は,具体的なアウトブレイクの事例を用いた臨場感あふれる解説が興味深かった。「社会疫学」と「健康政策への応用」は,新しい分野として世界的に発展する姿がよく理解できた。

学会印象記

第22回日韓泌尿器科学会に参加して

著者: 吉川慎一

ページ範囲:P.964 - P.965

今回,2005年9月9日から9月10日にかけて韓国・全州にて開催された第22回Korea-Japan Urological Congressに参加する機会を得ました。通常この学会印象記は豊富な経験を持つ先生方が書かれていますが,私は国際学会への参加・発表経験も少なく海外留学の経験もありません。そのような立場からみた学会体験記を書かせていただこうと思います。

 会場となった都市は韓国・全州で2002年ワールドカップの会場となった町です。過去の百済の王都であり,朝鮮王朝500年の礎となった所でもあります。人口63万人の暮らす韓国固有の味と美の里として韓国では知られた所です。東京からは成田空港から2時間半,その後の移動手段はバスでした。仁川空港から学会のバスが9月9日10時と11時に用意されていましたが,成田からは間に合う便がなく空港近くのホテルで前泊し,翌朝バスに乗り込み会場に向かいました。バスは走れど走れど会場には着かず,揺られること4時間30分後,ようやく初日の会場であるCore-Rivieraホテルに到着しました。

病院めぐり

東京都老人医療センター泌尿器科

著者: 村山猛男

ページ範囲:P.967 - P.967

当センターは東京都の板橋区に位置し,JR池袋駅から東武東上線で三つ目の大山駅より徒歩で5分もかからない交通の便利な場所にある。いわゆる東京都の城北地域(北区,豊島区,練馬区)に属し,日本大学病院,帝京大学病院,都立豊島病院,大和病院などが近接している。それらの病院と病病連携を行っており,また医師会を含めた城北泌尿器疾患懇話会で定期的に症例検討などの勉強会を行ったり,市民公開講座で一般市民に対しての泌尿器科疾患の啓蒙に努めている。当センターの歴史は非常に古く,明治5年に福祉厚生施設として養育院が開設されると同時に医療業務が行われたのがはじまりで,昭和47年に養育院施設内病院から一般都民も利用できる老人医療専門の養育院附属病院となり,さらに昭和61年,養育院附属病院から老人医療センターと改名した経緯がある。

 当センターは福祉局の所管下にあり,同じ構内に東京都老人総合研究所,板橋ナーシングホーム,板橋老人ホームが併置されていて,病院として主に65歳以上の医療を行うほかに,ホームの入所者の健康管理や研究所と連携して高齢者疾患や加齢に関する基礎的研究を行っている。現在,当センターのベッド数は691床で,医師100名で診療に当たっている。

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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