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雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科59巻13号

2005年12月発行

雑誌目次

綜説

新しい前立腺癌のバイオマーカー

著者: 斎藤誠一 ,   頴川晋 ,   伊藤明宏 ,   荒井陽一

ページ範囲:P.977 - P.989

要旨:PSAは,現在前立腺癌の早期発見・早期診断に有用なマーカーであるが,特異性の問題や悪性度を反映しないことから新たなマーカーが必要とされている。加えて最近,スクリーニングとして最も大切な感度自体にも問題が提起されてきた。新しいマーカーは,マイクロアレイ,プロテオミクスの戦略を用いて,良性組織と発現に相違のあるものが報告されている。血清マーカーでは,現時点でPSAを超えるものは出現していないが,SELDI-TOF-MSによる血清蛋白プロファイリングやPSAの糖鎖変化は有望である。組織マーカーでは,AMACRが診断精度の向上に有用であり,前立腺全摘術後の予後予測にはPin-1,EZH2,PSCA,MUC1,AZGP1が有望である。最新のバイオマーカーのうち,EPCAおよびRM2抗原も今後の展開が期待される。

手術手技 尿路変向・膀胱拡大術 6

胃利用膀胱拡大術

著者: 村石修 ,   杉村享之 ,   杉本晃士

ページ範囲:P.991 - P.1002

要旨:Adamsらが複雑な尿路傷害をもつ小児での膀胱拡大術に胃を利用したと報告したあと,多施設で胃利用尿路形成術が追試されたが,この術式特有の術後合併症が明らかになるにつれ安易な適応を戒める報告も増えた。しかし,特殊な状況にある限られた症例では,この術式を用いる以外に患者が望む尿路形成術が不可能と思われる場合があることも確かであり,そのような例に適応されてこそ本術式の意義があると考える。

回腸利用膀胱拡大術

著者: 渡邊健志 ,   宮川征男

ページ範囲:P.1003 - P.1008

要旨:高圧蓄尿に起因する上部尿路障害や蓄尿障害を認める低容量・低コンプライアンス膀胱に対して行われる回腸利用膀胱拡大術の手技について述べた。術後,間欠的自己導尿が必須であることが多く,本人もしくは介助者による自己導尿の意志を確認することも大切である。

S状結腸利用膀胱拡大術

著者: 井川靖彦 ,   加藤晴朗 ,   西沢理

ページ範囲:P.1009 - P.1017

要旨:膀胱拡大術は,排尿筋過活動または低コンプライアンス膀胱に基づく蓄尿障害のうち,保存的療法に反応しない場合に適応となる。膀胱拡大術にS状結腸を利用する場合の利点,並びにわれわれが行っているS状結腸を利用したclam法による膀胱拡大術について,術前準備,手術手技の実際,術後管理のポイントについて解説した。

セミナー 泌尿器科領域における重症・難治性感染症とその対策 6

尿路カテーテル非留置複雑性尿路感染症

著者: 石原哲

ページ範囲:P.1019 - P.1023

要約:複雑性尿路感染症は尿路に基礎疾患を有するものであり,このうち頻度が高いものは尿路カテーテル留置状態であるが,これ以外の複雑性尿路感染症には様々な病態が含まれる。この病態の説明と対応方法を解説した。また,複雑性尿路感染症では,empiricな抗菌化学療法を行いにくく,治療に当たっては細菌学的知識を必要とする。この点についても述べた。

尿路カテーテル留置複雑性尿路感染症の対策

著者: 浪間孝重 ,   川崎芳英 ,   大沼徹太郎

ページ範囲:P.1025 - P.1030

要約:尿路カテーテル留置複雑性尿路感染症(CAUTI)の疫学,発生機序,診断基準,治療指針,感染制御について概説した。CAUTIは院内感染の40%を占め,発生には尿流途絶,上皮損傷,バイオフィルムが深く関与している。有症状の症候性尿路感染症では積極的な抗菌化学療法の適応であるが,無症候性細菌尿では尿路カテーテルの取り扱いを熟知したうえでの院内交差感染対策が重要である。

症例

人工尿道括約筋コントロールポンプを大腿内側皮弁内に再留置した1例

著者: 内藤浩 ,   金岡俊雄

ページ範囲:P.1038 - P.1041

症例は68歳,男性。前立腺癌に対する根治的前立腺全摘除術後に生じた尿失禁治療目的で人工尿道括約筋(AMS 800)埋込み術を施行したが,陰囊部感染のため全回路摘出を余儀なくされた。再埋込み術にあたり,高度に萎縮した陰囊にかえて,大腿内側に局所皮弁によるポケットを作成し,その中にコントロールポンプを留置した。術後1年を経過し,感染もなくポンプも容易に操作可能である。

炎症を契機に診断されたセミノーマ

著者: 吉峰俊輔 ,   渡辺聡 ,   田野口仁

ページ範囲:P.1042 - P.1044

49歳,男性。発熱,左陰囊腫大を主訴に受診。診察上,左精巣上体炎が疑われ,抗菌化学療法目的に入院した。入院後,抗生剤投与するも,炎症反応が遷延するため画像検査を行ったところ,左精巣腫瘍が疑われ,高位精巣摘出術を施行した。病理組織学的に,精巣上体には炎症所見は認められず,広範な壊死を伴ったセミノーマと診断された。術後,炎症反応はすみやかに消退し,腫瘍と発熱との関連性が示唆された。

画像診断

下大静脈および左腎静脈奇形の3例

著者: 松本信也 ,   武内巧 ,   北村唯一

ページ範囲:P.1045 - P.1047

【症例1】 後大動脈性左腎静脈の症例

 患 者 70歳,男性。

 家族歴・既往歴 特記すべきことなし。

 現病歴 前医よりPSA 15.4ng/mlで紹介された。前立腺生検にて前立腺癌と診断し,画像診断でStage B2であったため前立腺全摘除術を施行した。

 検査所見 一般血液像,血液生化学,尿検査に異常なし。PSA 16.9ng/ml。尿RBC 0~1/HPF。尿OB(-)。

 画像所見 術前のCTでは,左腎静脈が大動脈の背側を横切り下大静脈に流入する像がみられた(図1)。

【症例2】 環大動脈左腎静脈の症例

 患 者 23歳,男性。

 家族歴・既往歴 特記すべきことなし。

 現病歴 自転車に乗っていたところ左側から来たバイクに衝突され30m飛ばされ,当院に搬送された。検査の結果左腎損傷(Ⅲc型),脾損傷(Ⅰ型),左第11,12肋骨骨折と診断。左腎は上極を中心に損傷を認め,周囲の血腫は一部骨盤に至った。循環動態が安定していたため,直ちに選択的腎動脈塞栓術を施行した。腎動脈造影にて造影剤の血管外漏出の多発を認めたため,左腎上極,中央の比較的太い動脈に対してゼラチンスポンジと金属コイルにて塞栓し,保存的に治療した。

 検査所見 WBC 19100/mm3,Hb 11.7g/dl,Ht 35.0%,GOT 161,GPT 118,ALP 206,LDH 636,Cr 1.25,尿RBC多数/HPF。尿OB(3+)。尿PRO(3+)。

 画像所見 受傷直後のCTでは左腎静脈の所見は明らかではなかったが,塞栓術の際に左腎静脈が環大動脈左腎静脈であると確認した(図2,3)。その後,受傷3週間後のCTで大動脈の腹側および背側を横切る左腎静脈を確認した(図4)。

【症例3】 重複下大静脈の症例

 患 者 56歳,男性。

 家族歴・既往歴 特記すべきことなし。

 現病歴 前医より頻尿にて紹介された。PSA 6.6ng/mlで前立腺生検を施行したところ前立腺癌と診断。画像診断でStage B2であったため前立腺全摘除術を施行した。

 検査所見 一般血液像,血液生化学,尿検査に異常なし。尿RBC 0~1/HPF。尿OB(-)。

 画像所見 術前のCTでは,両側の総腸骨静脈はそれぞれ左右の下大静脈となり,大動脈の左右を走行して,左下大静脈は左腎静脈と合流したあと大動脈の腹側を横切り,右下大静脈に合流した像を認めた(図5)。

小さな工夫

痛みと出血を防ぐ酢酸ゴセレリンの注射方法

著者: 近藤礼子 ,   岡村武彦

ページ範囲:P.1049 - P.1049

LH-RHアゴニストは前立腺癌の治療薬として1991年国内で初めて1か月製剤が登場し,その後2002年に3か月製剤も発売された。3か月製剤の利点は,来院回数が減り,患者の精神的・身体的負担を軽減できるだけでなく,薬価が結果的に1か月製剤の約2/3ですむことから,経済的負担も軽減できる。

 本稿では3か月製剤のLH-RHアゴニストの一つである酢酸ゴセレリン(以下ゴセレリン)の投与方法について,当院での使用経験と工夫を踏まえて紹介する。

学会印象記

第70回日本泌尿器科学会東部総会に参加して

著者: 伊藤直樹

ページ範囲:P.1050 - P.1051

第70回日本泌尿器科学会東部総会は岩手医科大学 藤岡知昭教授を会長として2005年9月28日から9月30日まで岩手県花巻温泉郷にて開催されました。花巻温泉郷は,いわて花巻空港から車で約10分程度と,われわれ飛行機利用者にとっては大変アクセスのよい場所ですが,盛岡駅へもシャトルバスが運行され,参加者への利便が図られておりました。温泉が学会場ということでどのような雰囲気で行われるのか興味津々でしたが,廊下でつながる3つのホテルを会場とし,大会場,いくつかの中会場があり,普段の学会と同じように行われました。ポスター会場はいわゆる「松の間」などの和室が絨毯敷きの会場に様変わりし,各部屋は小さいですが,それぞれのポスターを前に運び,演者はその横でプレゼンし,聴衆は椅子に座り聞くことができるという趣向で,演者と聴衆が十分に討論を行うことができました。一般演題は計317題で,口演108題,ビデオ6題,ポスター203題でありました。ポスターはすべてmoderateでありました。参加者は例年どおり約1,000名とのことですが,大・中会場は収容能力十分で,ゆったりと聞くことができました。

 本学会のテーマは「イーハトーブ・オーダーメイド医療」でありました。「イーハトーブ」とは会長の藤岡教授が敬愛される宮沢賢治が提唱した「理想郷」を意味する造語で,理想の医療としてのオーダーメイド医療の確立を目指す藤岡会長の意気込みが感じられました。そのテーマに沿うような特別プログラムとして,東京大学医科学研究所ヒトゲノムセンター 中村祐輔教授による基調講演「オーダーメイド医療実現化に向けての取り組み」,国立がんセンター中央病院 藤元博行先生による「癌外科治療のイーハトーブ・オーダーメイド医療」,東北アジアシンポジウム「ゲノム研究とオーダーメイド医療」,シンポジウム「進行性膀胱癌の治療戦略:個別化治療に向けて」,同じくシンポジウム「限局性前立腺癌の治療戦略:QOLを考慮した治療の個別化」などが企画されました。本テーマに関して総論から各論について,さらにアジアの研究者まで枠を広げ幅広い討論が行われ,藤岡会長が本学会で目指した癌治療戦略の一つとしてのオーダーメイド治療に関する現状と将来性が十分に示されたと思われました。特に中村祐輔教授による基調講演ではオーダーメイド医療の背景から未来像までの全体を大変判りやすく講演していただき勉強になりました。

病院めぐり

岩手県立胆沢病院泌尿器科

著者: 下田次郎

ページ範囲:P.1053 - P.1053

岩手県立胆沢(いさわ)病院のある水沢市は,岩手県南部,県土中央を縦断する大動脈(北上川,東北新幹線,東北自動車道)沿線にある人口約6万人の地方都市です。かつて東北支配のため朝廷が派遣した征夷大将軍坂上田村麻呂と最後まで戦った蝦夷の頭領,阿弖流為(アテルイ)の本拠地であり,藤原三代が中尊寺など栄華を極めた平泉の北方に位置する歴史ロマンあふれる土地です。

 岩手県は全国最多の県立病院数27を有します。当院は昭和11年設立の購買利用組合胆沢病院を前身とし,厚生連などの経営を経て昭和25年に岩手県に移管,岩手県立胆沢病院として発足しました。病床数351床(一般病床331,結核病棟20),19診療科を有し,単独型臨床研修病院,日本医療機能評価機構,日本環境認定機構ISO14001の認定を受けています。当院の最大の特徴はPPC(progressive patient care)と呼ばれる病棟運用方式です。各科の定床を定めず重症度別に管理する方法で,在院日数を短縮し,病床利用率を高め,収支の面では27の県立病院中で,黒字1~2位を毎年争っています。

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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