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雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科60巻12号

2006年11月発行

雑誌目次

特集 ここが知りたい―癌薬物療法

腎細胞癌の薬物療法―分子標的薬について

著者: 濱口益光 ,   江藤正俊

ページ範囲:P.869 - P.874

 転移性腎細胞癌は,現在最も治療抵抗性な悪性腫瘍の一つである。しかしながら腎細胞癌を構築する分子レベルでの理解がより良い治療法への発展へとつながっていき,そしてそれは現在,臨床応用へと進んでいる。現在のところ,VEGFR(血管内皮増殖因子受容体)の経路が最も有望なターゲットであるが,それだけではなく他の受容体〔platelet-derived growth factor receptor(PDGFR),FMS-like tyrosine kinase 3(FLT3),KIT,Raf kinaseなど〕も阻害する2つの薬剤,BAY 43-9006とSU 11248は,進行性腎細胞癌に対して最近FDAの承認を得ている。現在進行中の臨床試験のさらなる経過観察は必要であるが,これら分子標的薬が今後の腎細胞癌の治療戦略の鍵を握っている。

膀胱癌―膀注療法と動注療法

著者: 宮永直人

ページ範囲:P.877 - P.881

 膀胱癌の化学療法には,表在癌に対する膀注療法と浸潤癌に対する全身化学療法がある。膀注療法では抗癌剤よりもBCGの効果が優れているが,再発の低リスク群や副作用を避ける目的では抗癌剤が使用される。全身化学療法ではMVAC療法が標準的治療として行われているが,局所効果を高めたり,全身の副作用を軽減する目的で動注療法が選択される場合がある。

膀胱癌―全身化学療法

著者: 中井川昇 ,   窪田吉信

ページ範囲:P.883 - P.888

 現在,近接効果の優れたM-VAC療法が膀胱癌に対する全身化学療法として確立しており,膀胱全摘症例の術前化学療法としての有用性も認められてきている。しかし,副作用,長期予後の点では決して満足のいく治療法ではない。そのような状況の下で,新たな化学療法としてgemcitabinやtaxan系抗癌剤を取り入れた新たなレジメンが注目されてきている。適応症例と抗癌剤の選択肢が広がってきたことにより,近い将来には進行性膀胱癌に対して一律の治療を選択するのではなく,症例に応じて抗癌剤の効果を予測し,適応の判断や薬剤の選択をしていくことが必要になると思われる。

未治療前立腺癌に対する薬物療法

著者: 佐藤文憲 ,   三股浩光

ページ範囲:P.891 - P.895

 未治療前立腺癌に対する根治療法は手術あるいは放射線療法であり,薬物療法は集学的治療の一環として,あるいは根治が望めない症例に適応される。術前内分泌療法は生存率の向上に寄与しないが,術後補助内分泌療法はリンパ節陽性例には有効である。内分泌療法併用放射線外照射を行う場合,リスクに応じた内分泌療法を計画すべきである。Maximum androgen blockade(MAB)療法はLH-RH agonist単独療法と比較して生存率をわずかながら改善する。間歇的内分泌療法の制癌効果についての結論は出ていない。今後ドセタキセルをはじめとした新規前立腺癌治療薬と根治療法の併用が治療成績を向上させる可能性がある。

再燃前立腺癌に対する薬物療法

著者: 三木恒治 ,   沖原宏治

ページ範囲:P.897 - P.904

 一次内分泌療法後の再燃前立腺癌症例に対する治療法を大別すると,1)二次内分泌療法,2)化学療法,3)分子標的治療ならびに遺伝子治療,4)ビスフォスフォネート製剤やハーブ療法を代表とする緩和的治療が挙げられる。1)から4)の治療法をどの時点で行えばよいかの確立されたレジメンはいまだないが,わが国においては患者の年齢,QOL,再燃癌の進行度に基づき,個々の状況に応じて選択しているのが実情と考えられる。本稿では,現実的により多数の施設で実施可能な経口内服療法を念頭におき,アンドロゲン交替療法,エストラムスチンやデキサメサゾンを用いた内服療法,タキソテールなどの抗癌剤を用いた化学療法を中心に解説した。

進行性精巣腫瘍に対する化学療法

著者: 野々村祝夫 ,   奥山明彦

ページ範囲:P.907 - P.913

 進行性精巣腫瘍の治療に関して,CDDPの開発が大きな転帰となったが,EinhornらによるPVB療法の報告以後,進行性精巣腫瘍の治療成績は飛躍的に向上した。その後,WilliamsらによるBEP療法の報告で,導入化学療法の基盤ができた。1997年に発表された国際的risk分類であるIGCCC(International Germ Cell Consensus Classification)分類の導入以後,risk別に治療成績が検討されるようになった。Good risk群に対しては,少しでも副作用を軽減するような臨床試験が行われ,Poor risk群に対しては,大量化学療法や,様々な新規抗癌剤を組み合わせた新しい治療レジメンによる治療が試みられつつあり今後の報告が期待される。

副作用対策

著者: 金山博臣 ,   福森知治

ページ範囲:P.915 - P.919

 抗がん剤は腫瘍選択性が高いとはいえ,正常細胞へも影響が及ぶため副作用は必発である。抗がん剤の効果と副作用は表裏一体であり,抗腫瘍効果を重視し投与量を増大させると副作用の程度も増大することになる。近年,患者のquality of lifeを重視する治療が重視されており,抗がん剤の副作用に対しても積極的な対策が求められている。抗がん剤の副作用で最も一般的で患者に苦痛をもたらすのは悪心,嘔吐であり,最も危険に至らしめるのは骨髄抑制である。幸い,抗セロトニン受容体阻害剤,G-CSFなど,これらの副作用に対して著効を示す薬剤が臨床的に利用されている。本稿では,泌尿器科腫瘍の治療で頻用される抗がん剤を中心にその副作用の特徴と対策について述べる。

オーダーメイド医療に向けて

著者: 藤岡知昭 ,   小原航 ,   高田亮

ページ範囲:P.921 - P.925

 ゲノム研究の進展により,多数の遺伝子情報を網羅的・体系的に解析することにより癌の個性を明らかにできることでき,遺伝子発現情報に基づく個人個人に適切な医療「オーダーメイド医療」を提供できるようになった。本稿では,筆者の「オーダーメイド医療」という言葉のこだわりについて述べ,イレッサ(R)感受性予測システムより学び発展させた浸潤性膀胱癌に対するM-VAC術前化学療法の感受性予測システムの開発,遺伝子多型解析によるイリノテカン副作用予測システムの研究について概説する。この試みは,遺伝子発現解析の臨床応用の実現へ向けた取り組みの一歩である。

学会印象記

第8回ACU(アジア泌尿器科会議)印象記

著者: 林祐太郎

ページ範囲:P.932 - P.935

 第8回アジア泌尿器科会議は,2006年8月22日から26日まで,インドネシア・バリ島で,インドネシア大学泌尿器科教授Umbas会長の下で開催されました(写真1)。学術集会は前立腺肥大症,泌尿器癌,尿路結石,尿路感染症,男性機能障害,小児泌尿器科,尿路再建手術,婦人泌尿器科,腎移植,不妊症など,泌尿器科領域のほぼ全てがシンポジウムや教育コース,メインセッションで取り上げられ,アジアはもとより,欧米,オセアニア諸国から各領域の第一人者,約150名がFaculty(指導教授)として招かれ,さらに1,000名ほどのアジアの泌尿器科医,看護師などの医療従事者が参加して,盛大に開催されました。

 国際色豊かな学術集会

 今回の学会における私の仕事は,8月24日のメインセッションでの“性分化異常症の遺伝子解析”の発表と,8月26日のポストコングレスセッションの,尿道下裂のワークショップでの発表と,膀胱拡大術のワークショップの司会でした。

病院めぐり

彦根市立病院泌尿器科

著者: 松田聖士

ページ範囲:P.940 - P.940

 <スタッフ>

 スタッフは,部長:松田聖士(S52卒,日本泌尿器科学会専門医・指導医,日本透析医学会認定医・指導医),血液浄化センター所長:長谷行洋(S59卒,日本泌尿器科学会専門医・指導医),専攻医:河合篤史(H15卒)の3名です。

<診療の基本方針>

 湖東地域における中核病院であり,腎・泌尿器疾患のすべてを対象にしています。特に,尿路性器の悪性腫瘍・炎症・奇形,尿路結石症,排尿障害(前立腺肥大症,神経因性膀胱),腎不全,男性不妊症などに重点を置いています。悪性腫瘍に対しては手術,化学療法,放射線照射を組み合わせた集学的治療を提供しています。また,比較的多くを占める高齢者の方にはQOL(quality of life)に富んだ治療法を目標に置いています。

大阪府済生会千里病院泌尿器科

著者: 妹尾博行

ページ範囲:P.941 - P.941

 当院は大阪の北部,千里ニュータウンにある阪急千里線「南千里駅」から徒歩3分に位置する地下2階・地上8階(5階には屋上庭園),延べ床面積21,325.47m2,18診療科,二次・三次救急対応(10:1),医師臨床研修指定,343床〔一般300床(うち開放10床),救命31床,ICU 12床〕の急性期病院です。

<済生会沿革>

 明治44年(1911),明治天皇の「施藥救療以テ濟生ノ道ヲ弘メムトス」という『濟生勅語』により発足しました。大正元年(1912)制定の撫子に露をあしらった紋章は初代総裁伏見宮貞愛親王の『撫子の歌』に由来します。現総裁に寛仁親王を戴き,東京本部のほか,40道府県(青森,秋田,岐阜,徳島,高知,沖縄以外)に支部,病院・介護老人保健施設・老人児童福祉施設・訪問看護ステーションなど359余施設,約4万人の職員を有しています。

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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