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雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科61巻10号

2007年09月発行

雑誌目次

特集 性感染症の現状

最近の性感染症の動向

著者: 松本哲朗

ページ範囲:P.765 - P.771

要旨 性感染症は世界中で増加傾向を示している。特にHIV/AIDSは地球規模で増加を続けており,なかなか歯止めがかからない。わが国でも,増加の一途をたどっている。また,わが国における性器クラミジア感染症,淋菌感染症は2003年ごろから減少に転じているようである。しかし,減少の原因は不明であり,慎重な観察が必要である。最近,淋菌やクラミジア感染症の新しい診断キットが発売され,また,性器ヘルペスにおける再発抑制療法なども可能となり,性感染症の診断と治療に進歩がみられている。

多剤耐性淋菌感染症の治療

著者: 安田満

ページ範囲:P.773 - P.779

要旨 淋菌感染症は最近増加傾向に歯止めがかかっているが,依然として高い水準にある。現在ペニシリン系薬,テトラサイクリン系薬,ニューキノロン系薬に対してほとんどが耐性を示す。したがってほとんどの株が多剤耐性菌といえる。さらに経口セフェム系薬に対する耐性株が増加しつつある。現在のところガイドラインに示されているceftriaxone(CTRX),cefedizime(CDZM)あるいはspectinomycin(SPCM)の単回療法は多剤耐性淋菌に対しても有効である。しかしSPCMは咽頭への移行が悪く咽頭感染には使用できない。CDZMおよびCTRXはMIC(minimal inhibitory concentration)分布が耐性側にシフトしており,今後,耐性株が出現する可能性がある。注射剤に代わり経口剤の多剤併用療法が検討されているが,in vitroの検討であり今後のさらなる検討が待たれる。

クラミジア感染症の治療

著者: 田中正利

ページ範囲:P.781 - P.785

要旨 性感染症としてのクラミジア感染症の治療においてはマクロライド系(アジスロマイシン,クラリスロマイシン),テトラサイクリン系(ミノサイクリン,ドキシサイクリン),あるいはキノロン系(レボフロキサシン,トスフロキサシン,ガチフロキサシン)を治療薬として選択する。ペニシリン系,セフェム系,およびアミノグリコシド系などは治療薬とはならない。薬剤の投与期間は7日間が標準である。なお,アジスロマイシンは経口単回投与で有効性を示す。一般臨床ではクラミジアの薬剤耐性化は問題になっておらず,これら抗菌薬による治療は高い有効率を示す。また,セックスパートナーの治療も同時に行い,ピンポン感染を防ぐことも重要である。確実な服薬が行われていないための不完全治癒の可能性も少なくないので,治療後2~3週間目にクラミジアの検査を行い,治癒を確認することが望ましい。なお,血清抗体検査では治癒判定はできない。

クラミジアを混合感染した淋菌性尿道炎の現状と治療

著者: 小島宗門 ,   矢田康文 ,   早瀬喜正

ページ範囲:P.787 - P.790

要旨 淋菌性尿道炎の約20%はクラミジアを混合感染しており,その場合には淋菌のみならずクラミジアも確実に治療することが若年女性でのクラミジア感染の蔓延防止のためにも重要である。現在,淋菌とクラミジアを同時に治療できる単剤はなく,それぞれに対して,有効薬剤を用いる必要がある。クラミジアを混合感染した淋菌性尿道炎の治療で最も重要なのは,淋菌治療後の再診を促し,クラミジアの治療を確実に実行することにある。しかし,現実には淋菌治療後の再診率は60%程度の低率であり,多くのクラミジア感染例が放置される結果となっている。今後,再診率を向上させるために,社会的な啓発など,なお一層の工夫や努力が必要である。

女性性感染症の現状

著者: 野口靖之

ページ範囲:P.791 - P.795

要旨 わが国では10歳代の性感染症の罹患者が急増している。特に,性器クラミジア・トラコマチス感染症は,男女ともに若年者を中心に罹患率が著しく増加しており,年齢にかかわらず性交渉を持つ者なら誰もがかかりうる感染症へと変貌した。本疾患は罹患しても自覚症状が乏しく,長期間無治療のまま放置されることが多く,女性不妊の原因として大きな問題になっている。また,女性性器におけるヒト乳頭腫ウイルス(HPV)の持続感染は,子宮頸癌の原因になることが明らかになり,クラミジアとともに女性の生殖機能を脅かす性感染症として問題視されている。

手術手技 腹腔鏡下手術時代における開放手術・9

小開腹前立腺全摘除術

著者: 三股浩光 ,   藤井猛 ,   秦聡孝 ,   佐藤文憲

ページ範囲:P.797 - P.801

要旨:恥骨後式前立腺全摘除術は広く普及し,ほぼ確立された術式であるが,細かな手技は各施設や術者によって異なる.また,経験数によって手術時間や出血量,術後合併症の頻度に差があるのはいうまでもない。われわれは本邦でいち早く小開腹恥骨後式前立腺全摘除術を施行し,サントリーニ静脈叢や前立腺側方靱帯の処理,膀胱尿道吻合などを改良して良好な成績を得ているので紹介する。

ミニマム創前立腺摘除術

著者: 影山幸雄

ページ範囲:P.803 - P.812

要旨:ミニマム創前立腺全摘除を成功させるためには,個人差の大きい前立腺周辺の構造に合わせたきめの細かい対応が必要である。(1)前立腺周辺から尿道へと収束する血管群を早期に縫合止血する,(2)前立腺の裏面を早期に剝離・確保し,尖部の処理を確実に行う,(3)骨盤底筋膜群を温存し,括約筋機能を可能な限り温存する。以上の工夫により,短時間で終了し,輸血を必要とせず,術後のQOLを損なわない前立腺全摘除が可能と思われる。

ミニマム創前立腺摘除術

著者: 三木恒治 ,   沖原宏治

ページ範囲:P.813 - P.818

要旨:われわれは限局性前立腺癌に対し,ミニマム創による恥骨後式前立腺全摘除術を施行している。術式は従来の恥骨後式の手順と変わらず,PLES鉤は用いず,リングリトラクターを用いて6cmの切開創で骨盤腔を展開している。術中前立腺超音波モニタリングを併用し,術野の3次元的理解を深め,合併症・正確なsurgical margin同定への対策を講じている。本稿では,上記の課題点に対する手術中の工夫を中心に述べる。

セミナー 新しい手術器械の応用・4

自動吻合器,自動縫合器

著者: 古家琢也 ,   岡本亜希子 ,   橋本安弘 ,   神村典孝

ページ範囲:P.819 - P.822

要約:自動縫合器・自動吻合器は,その発達に伴い内視鏡外科のみならず,さまざまな用途に使用されるようになってきた。特に,操作腔の狭い骨盤腔では有用性が高いものと思われ,当科においても主に膀胱全摘除術に使用してきた。手術時間の短縮,出血量の減少が得られ,骨盤腔での手術に有用であると考えている。本稿では,当科における自動縫合器・吻合器の使用法および使用成績について述べる。

症例

尿管ステント留置下でBCG膀胱腔内注入療法が奏効した上部尿路上皮内癌

著者: 谷川剛 ,   野澤昌弘 ,   細木茂

ページ範囲:P.835 - P.838

 症例は72歳,男性。主訴は肉眼的血尿。2003年6月,DIP(点滴静注腎盂造影)・CTにて左腎盂腫瘍と診断し,2003年8月,後腹膜鏡下左腎尿管全摘除術を施行した。以降2回膀胱内再発をきたし,TURBT(経尿道的膀胱腫瘍切除術)と単回膀胱腔内注入療法(初回THP-ADR,2回目MMC)を施行した。2005年5月,尿細胞診が陽性化し,経尿道的膀胱多部位生検術により上皮内癌と診断した。また,同時に右腎盂尿細胞診も陽性であった。2005年6月よりBCG膀胱腔内注入療法を計6回施行した。投与回数の遵守と副作用減少の観点から,前半3回を膀胱腔内注入のみ,後半3回をDJカテーテル併用で上部尿路までBCGを到達させた。重篤な副作用なく経過し,治療後18か月を経過したが尿細胞診,膀胱鏡にて腫瘍の再発を認めていない。

閉経後にみられた陰唇癒着症

著者: 平山貴博 ,   田岡佳憲 ,   須藤利雄 ,   青輝昭

ページ範囲:P.839 - P.841

 症例は71歳,女性。主訴は苒延性排尿。患者は1経妊・1経産で50歳時に閉経したが,非性交期間は30年間に及んだ。視診にて陰唇癒着症の診断に至り,局所麻酔下に癒着剝離術を施行した。術後,排尿状態は著明な改善を認め,現在まで再発を認めていない。陰唇癒着症は稀ではあるもののQOLに多大な影響を与える疾患であり,高齢女性の排尿障害における鑑別診断の1つとして重要であると考えられた。

膀胱粘液線維肉腫の1例

著者: 福井真二 ,   細川幸成 ,   小野隆征 ,   大山信雄 ,   丸山博司 ,   百瀬均

ページ範囲:P.843 - P.846

 症例は62歳,女性。無症候性肉眼的血尿を主訴に受診した。膀胱鏡で右壁に直径5cm大の腫瘤を認めた。翌日,血尿による膀胱タンポナーデ状態となり,緊急入院した。尿細胞診は陰性であった。病理診断目的のTUR-BTで浸潤性の肉腫と診断し,根治的膀胱全摘除術+回腸導管造設術を施行した。病理組織診断は粘液線維肉腫であった。退院後CTなどで経過観察したが,術後5か月のCTで腹腔内に10cm大の局所再発を認めた。全身状態が悪化し,術後9か月で死亡した。

書評

「プロメテウス解剖学アトラス―解剖学総論/運動器系」―坂井建雄,松村讓兒 監訳 フリーアクセス

著者: 野村嶬

ページ範囲:P.834 - P.834

 プロメテウスは,人間を創り,人間に文字や火を与えたとされるギリシャ神話の英雄である。解剖学書にその名前を冠したドイツ語版原書の著者(Michael Schunke,Erik Schulte,Udo Schumacher,Markus Voll,Karl Wesker)の,この原書が人間の未来に貢献するとの願いと確信にまず衝撃を受けた。本書は,全3巻構成の原書第1巻の翻訳であり,わが国の著名な肉眼解剖学者である坂井建雄教授と松村譲兒教授が監訳された。

 掲載されている図が周到に作成されていて実に美しい。この美しさは実物の写真による図とも違い,また『ネッター解剖学アトラス』に代表される描画による図とも異なる明晰なものである。しかも,すべての図には適切な説明が付けられていて,図を読む重要なヒントを提供してくれる。さらに,これまでの解剖学アトラスでは見たこともない視点からの図,例えば,上肢帯と体幹の連結の上面図,頭蓋―脊柱連結の前上面図,皮膚や軟部組織を通して触診できる骨部位,上肢・下肢の立体・横断面解剖図などが多数掲載されていて,CTやMRIなどによる断面像に対応するとともに学習者の理解を大いに助けてくれる。

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編集後記 フリーアクセス

著者: 郡健二郎

ページ範囲:P.852 - P.852

 司馬遼太郎さんの中学時代の作文が,当時通った学校の図書館から見つかった(産經新聞7月29日)。自宅の物干し台から見た風景を作品にしたものだが,優れた観察力と豊かな表現力をもってすれば,何げない風景でもこんなに描けるのかと感心させられた。文才は天性のものだとつくづく思う。

 その司馬さんは,「文明」のことを「簡単なとりきめでだけで,万人が参加できて,しかも便利であるもの」と書いている(文芸春秋)。「文明」と「文化」の違いは,カップ麺とラーメン屋にたとえられることがある。お湯をかけて何分間か待てば,多くの人が同じ味,同じ便利さを味わえるカップ麺は「文明」であり,ラーメンの味は,地方により店により,調理法も味も異なることから「文化」になるのだろう。

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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