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雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科61巻2号

2007年02月発行

雑誌目次

綜説

腎臓移植の成績は本当に向上したのか

著者: 高原史郎

ページ範囲:P.95 - P.101

免疫抑制療法の進歩によって腎臓移植の成績は向上し,10年生着率は80%以上,腎移植患者の社会復帰率は90%以上である。また適応も広がり,生体腎移植おけるABO血液型移植は15%以上,HLA適合度の悪い夫婦間移植も15%以上に達している。65歳以上の高齢者への腎移植も通常の移植として行われており,生体ドナー(提供者)は75歳程度まで可能である。移植後10年目までの生着率を向上させたもう1つの要因は血圧コントロール,食餌・運動療法,hyperfiltration治療,高脂血症治療,癌検診による早期診断・治療などの内科的な「非免疫学的因子」の克服である。しかし,移植後10年目以降の生着率は向上していない。HGFなどのサイトカイン投与や遺伝子治療,遺伝子情報によるテーラーメード免疫抑制療法,免疫寛容の導入と維持などの新しい概念による診断・治療が必要とされている。

手術手技 腹腔鏡下手術時代における開放手術・2

単純腎摘除術

著者: 斎藤恵介 ,   堀江重郎

ページ範囲:P.103 - P.114

要旨:わが国の泌尿器科において腹腔鏡下手術が広く行われるようになって約10年が経過した。現在では,腹腔鏡下,後腹膜鏡下腎摘除術は,良性疾患のみならず,悪性疾患に対しても標準的な手術手技となりつつある。こうしたなか,開創による腎摘除術の意義,適応,患者に対するインフォームド・コンセントは変遷してきている。本稿では,手術の適応,手技の選択,インフォームド・コンセントの実際,手術手技術,術前・術後の管理について述べる。

単純腎摘除術

著者: 高橋義人 ,   中根慶太 ,   横井繁明

ページ範囲:P.117 - P.124

要旨:単純腎摘除術の適応は,腎摘除術を必要とする良性腎疾患である。尿路結石症,上部尿路狭窄症などによる萎縮腎であることが多く,慢性腎盂腎炎の既往を有することも多い。その結果,腎周囲,腎門部の癒着は高度である。血管の処理,剝離面など悪性腫瘍の腎摘除術よりも複雑で,技術的難易度は高い。近接する後腹膜臓器の損傷を回避するためにも,腎周囲の剝離層は重要である。これに留意したわれわれの行っている方法を概説した。

単純腎摘除術

著者: 相馬文彦

ページ範囲:P.127 - P.137

要旨:良性腎疾患に対する単純腎摘除術は最近では行う機会の少ない手術で,なかでも開放手術は腹腔鏡下手術の普及に伴い減少している。しかし,膿腎症や気腫性腎盂腎炎などの高度炎症性腎疾患は現在でも開放手術のよい適応である。本稿では,開放単純腎摘除術の手順や主な術中合併症とその対処法などを解説した。ポイントは,十分な体位,胸膜損傷なしに後腹膜腔到達,腎周囲脂肪組織の剝離,腎動静脈の処理,創洗浄である。

セミナー 下部尿路症状(LUTS)診療の最前線・4

前立腺肥大症に関する最近の話題

著者: 小島祥敬 ,   窪田泰江 ,   佐々木昌一 ,   林祐太郎 ,   郡健二郎

ページ範囲:P.139 - P.145

要約:前立腺肥大症の概念は,下部尿路症状(lower urinary tract symptoms:LUTS),前立腺の腫大(benign prostatic enlargement:BPE),膀胱排出路の閉塞(bladder outlet obstruction:BOO)という3つの要素で構成される。日常診療においてよく遭遇する疾患であるが,その病態については意外なほどよくわかっていないのが現状である。病態を明らかにするうえでは,排尿にかかわる生理学的・薬理学的理解と細胞増殖にかかわる分子生物学的理解が必要となる。本稿では,前立腺平滑筋のトーヌス維持にかかわるα1受容体サブタイプに関する最近の知見と前立腺間質増殖に関与する因子についての最近の話題について中心に概説した。

原著

紫色採尿バッグ症候群14症例の検討

著者: 中嶋孝 ,   木内弘道 ,   熊巳一夫 ,   松本弘毅 ,   常義政

ページ範囲:P.155 - P.158

 紫色採尿バッグ症候群(purple urine bag syndrome)を認めた14症例について検討を行った。平均年齢は72.1歳で,男女別では女性が11例(78.6%)と多く認められた。便秘を有するものが13例(92.9%)あり,便通異常も原因の1つと考えられた。各種細菌が尿中インジカン存在下で着色現象が起こると考えられているなか,尿中インジカンは10例(71.4%)が陽性であった。陰性例においても着色現象が認められたことから,一部のPUBSには尿中インジカンが関与していない可能性も推測された。

症例

化膿性脊椎炎を併発した腎膿瘍

著者: 関田信之 ,   江越賢一

ページ範囲:P.161 - P.164

 症例は74歳,女性。発熱,右側腹部痛を主訴に来院し,腎盂腎炎の診断にて入院となった。保存的加療にて改善がみられない腎膿瘍と診断し,右腎摘除術を施行した。術後も発熱,疼痛が続き,腎摘後10日目に下肢の神経症状が出現した。脊椎疾患を疑いMRI検査を施行したところ,腰椎椎間板を中心に炎症所見を認め,化膿性脊椎炎と診断された。比較的稀な疾患であるが,尿路系疾患に併発することが多いとされており,泌尿器科医が十分に認識しておくべき疾患であると思われた。

経過観察中に増大を認めた後腎性腺腫

著者: 吉永敦史 ,   諸角誠人 ,   寺尾俊哉 ,   石井信行 ,   山田拓己

ページ範囲:P.165 - P.167

 症例は50歳,男性。他院での腹部超音波検査で内部低エコーを示す右腎腫瘤を指摘され,経過観察されていたが,増大傾向を認めたため当科を受診した。CTで右腎腫瘍は低吸収を示し,かつ造影効果なく,MRIではT1強調像では低信号,T2強調像で不均一像を示した。以上より腎細胞癌が強く疑われたため,右腎摘除術を施行した。右腎下極に6cm大,白色,充実性の腫瘍が認められ,病理学的検査の結果,後腎性腺腫であった。

学会印象記

「第28回国際泌尿器科学会(SIU)」印象記

著者: 佐藤勇司

ページ範囲:P.170 - P.171

 28回国際泌尿器科学会(SIU)は2006年11月12日から11月16日にかけて南アフリカ共和国の立法府ケープタウンで開催されました。佐賀大学からは魚住二郎教授,金子新,そして筆者,佐藤の3名が参加しました。

 ケープタウンへの道のりは,福岡より台北へ,台北から香港へ,香港からヨハネスブルクへ,ヨハネスブルクからケープタウンへと飛行機を乗り継ぎ,治安が悪いとの前情報のなか約18時間かけての長旅でした。初夏のケープタウンはかなり暑いものと予想していたのですが,日差しは強いものの快適な気候でした。この季節は風が非常に強く,場合によっては冬よりも寒い日があるとのことでした。実際に,2日目と3日目に天候が崩れ,夏なのですが,日本でいうと11月の気候のようでした。

病院めぐり

JA愛知厚生連 渥美病院泌尿器科

著者: 大木隆弘

ページ範囲:P.172 - P.172

 昭和10年に開院した渥美病院は,渥美半島唯一の病院です。昭和23年からは愛知厚生連の病院となり,平成12年に地元自治体,JAなど地域住民の絶大な協力を得て,316床の新病院が移転開設されました。渥美半島(田原市:人口6万6千人)は,愛知県の最南端に位置し,北は三河湾,西は伊勢湾,南は太平洋に面しています。当地は,電照菊やメロンで知られる全国屈指の農業・園芸地帯です。平成17年の田原市における農業生産額は779億円で,市町村別では全国1位を誇っています。また,三河湾の臨海地区にはLEXUSブランドなどの高級車を製造しているトヨタ自動車田原工場があり,トヨタ関連企業も多いため,田原市の製造品出荷額は年間2兆円を超えています。その法人市民税のおかげで,田原市は財政的に豊かな自治体となっています。患者さんは,農業・漁業従事者,トヨタ自動車の関係者が多いのが特徴です。伊良湖岬近辺に住んでいる人は豪快な性格で手を焼くこともありますが,根は素朴で親しみやすい方が多いと感じています。

 太平洋側は美しい砂浜が広がり,世界大会も開催されるサーフィンのメッカで,近畿,北陸などの遠方から来るサーファーも多くみられます。新研修医制度の影響で一時期当院の医師数も減少し,特に救急外来における当直業務などで皆が疲弊している時期がありました。しかし,幸いなことに,(サーフィンを目当てに?)入職する研修医が少しずつ増加してきたため,とても助かっています。

蒲郡市民病院泌尿器科

著者: 上條渉

ページ範囲:P.173 - P.173

 蒲郡市は愛知県の東南部に位置し,前面には波静かな三河湾,背後には緑豊かな山々と,風光明媚で温暖な人口8万人強の地です。三谷,蒲郡,形原,西浦の四つの温泉郷を抱え,名古屋駅からJRで約40分と近く,年間800万人を超える観光客が訪れる県内随一の観光都市です。

 本市の産業は,観光産業の基盤にもなっている農業,水産業から繊維,自動車関連,レンズ,医療用機器に至るまでバラエティーに富んでいます。なかでもハウスで栽培されるみかんは甘味が豊富で,「蒲郡みかん」のブランドとして東京,名古屋などの高級料亭で重宝される代物です。

交見室

メッシュ時代に注意すべきこと

著者: 加藤久美子

ページ範囲:P.175 - P.175

 女性腹圧性尿失禁に対するTVT(tension-free vaginal tape)手術,TOT(transobturator tape/経閉鎖孔式テープ)手術,性器脱に対するTVM(tension-free vaginal mesh)手術など,女性泌尿器科の分野では,ポリプロピレンメッシュを使ったさまざまな術式が生まれ,「メッシュ時代」というべき活況を呈している。ポリプロピレンメッシュは鼠径ヘルニア,腹壁ヘルニアの治療で定番となって久しいが,女性泌尿器科への応用においては腟壁びらん(メッシュの腟壁への露出)に注意を要する。同様の合併症はStamey手術,Vesicaスリング手術にも存在したが(日泌尿会誌95:17-24,2004),その症状は帯下,性器出血のようにわかりやすいものであった。ポリプロピレンメッシュは感染に強いだけに,本人は無症状で,定期受診やパートナーの性交痛で判明するのが特徴である。

 TVT手術後の腟壁びらんは,各種調査で0.5~0.7%と頻度は低い。筆者らは,195名中1名で経験した(臨泌60:243-245,2006)。9週前にTVT手術を施行した女性から,「性交時にパートナーが陰茎に痛みを訴える」と聞いたときは,友人の経験談でいつかはと覚悟してはいたものの,心臓の鼓動が速くなった。視診では見えにくいが,ざらっとした感触が内診指にあり,思わず大根おろし,民俗学で有名なヴァジナ・デンティータ(歯の生えた腟)を連想した。

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編集後記 フリーアクセス

著者: 郡健二郎

ページ範囲:P.180 - P.180

 小誌がお手元に届く頃は,受験シーズン真最中。誰もが歩んできた道とはいえ,受験生と保護者は大変なことだと思います。努力された人には幸あれと心より祈っています。

 医学部の入試には医師を養成するという性格上,面接があります。いつから始まったかは定かでありませんが,今ではほとんどの大学で採用されています。大学評価学位授与機構は入試面接をしていない大学には低い評価をするとの指導(脅し)もあり,入試面接を始めた大学もあると聞きます。もし本当だとすれば,大学の独自性が失われかねず,本末転倒なことです。

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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