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雑誌目次

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臨床泌尿器科61巻4号

2007年04月発行

雑誌目次

特集 ここが聞きたい―泌尿器科処置・手術とトラブル対処法

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ページ範囲:P.5 - P.5

企画・編集にあたって フリーアクセス

著者: 村井勝

ページ範囲:P.17 - P.17

W.オスラー博士は“Medicine is an art based on science”と唱えました。さらに彼は,医療におけるhumanityの重要性も指摘しています。その精神については多くの方々が「われわれ臨床医は十分な技量(art)を駆使し,科学(science)に基づいた医学・医療を人間性あふれる心を持って行うべきである」と説いています。

 “Science”という面については,近年,質の高い医療を目指すためにevidence based medicine(EBM)が提唱されています。また,限られた医療資源を有効に用いて高いレベルの医療を実践するために各疾患のガイドラインが作成されてきました。実際の臨床では1例1例が異なり画一的でないことは論を俟ちませんが,多数例の報告,特に無作為対照比較試験など高い根拠に基づく医療はますます重要となります。

Ⅰ.泌尿器科処置

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ページ範囲:P.19 - P.19

【膀胱穿刺(膀胱瘻造設)】

1.骨盤骨折に伴う尿道損傷で,膀胱瘻を造設する必要がある患者です。現在,尿があまり溜まっていません。どうしたら安全に造設できるでしょうか。

著者: 石田俊哉

ページ範囲:P.20 - P.21

骨盤骨折に尿道損傷を合併することは多々みられるケースである。尿道損傷の診断は外尿道口からの出血,会陰部の血腫,尿閉,尿道カテーテル挿入困難などにより推測される。尿道造影や軟性膀胱鏡の観察により確定診断がつく。以前は,尿道損傷に対して取り敢えず膀胱瘻を造設し,後日,尿道損傷への処置を行うという考え方もあったが,今はできるだけ初期治療として尿道カテーテルの留置を試みることが重要とされている。透視下にスタイレットを用いて尿道カテーテルを留置する,あるいは軟性膀胱鏡下にガイドワイヤーを通して,それを用いて先穴尿道カテーテルを留置するなどの試みが必要である。尿道損傷があっても尿道カテーテルさえ留置できれば問題はないのだが,設問の症例の場合は留置不可能で,膀胱瘻が必要となっていると判断される。

2.尿閉で尿道カテーテルが挿入困難であったために,膀胱瘻用のカテーテルを挿入した患者です。腸管損傷を避けるために恥骨の直上から穿針しましたが,尿の流出が得られません。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 石田俊哉

ページ範囲:P.22 - P.23

膀胱瘻を挿入したが尿の流出が得られない。これは,通常,膀胱瘻カテーテルが膀胱内に入っていないということであろう。膀胱内に入っているにもかかわらず尿の流出がみられない可能性としては,カテーテルが屈曲している場合,あるいはカテーテルが血栓などで閉塞している場合などが考えられる。膀胱内にカテーテルが入っていない場合は当然尿の流出がないわけで,浅すぎて膀胱前腔にとどまっている場合と前立腺を穿刺した可能性と,さらに膀胱を貫いてデノビエ腔や直腸まで深く刺してしまった場合が考えられる。エコーガイド下に慎重に穿刺すれば避けられることであるが,膀胱穿刺は比較的容易な手技であるためブラインドで行われることも多く,油断すると合併症を起こしてしまうこともある。最も心配なのは直腸穿刺で,この場合はさまざまな合併症を引き起こす可能性がある。

 設問のケースでは,腸管損傷を避けるために恥骨直上から穿刺したとのことであるが,恐らく穿刺部位が恥骨寄り過ぎたのではないかと思われる。これが穿刺失敗の一番ありがちな理由で,腸管損傷を恐れるがあまりに膀胱よりも骨盤底方向へ穿刺してしまっていると考えられる。恥骨直上からやや骨盤底方向へ穿刺すると,膀胱前腔を通過して前立腺を穿刺してしまう。穿刺針が膀胱や前立腺部尿道を一時貫いたりすると,穿刺の際に尿の逆流があったりして,さらに膀胱内と勘違いしやすくなる。尿閉で膀胱が緊満している場合は,恥骨上2横指より垂直方向からやや頭側方向が正しい膀胱の位置になる1)

3.尿閉で受診した患者です。導尿ができず局所麻酔下に経皮的膀胱瘻造設を行いましたが,1時間後より激しい腹痛を訴えるようになりました。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 石田俊哉

ページ範囲:P.24 - P.25

経皮的膀胱瘻造設の合併症には,出血,腸管損傷,尿路感染,結石形成などがある1)。このなかで早期に起こる合併症としては出血と腸管損傷が挙げられる。穿刺の際に膀胱表面あるいは粘膜下の血管を損傷して出血をきたすことがあり,通常は軽いことが多いのであるが,出血傾向のある患者では膀胱タンポナーデをきたすほどの出血を認めたりする。この場合は腹痛,尿意,そして当然ながら血尿を認める。腸管損傷は不注意な穿刺によるもので,最も避けたい合併症である。エコーで注意深く観察して穿刺を行えば通常は考えられない合併症であるが,下腹部の手術の既往があったり膀胱の膨らみが足りない状況での穿刺は腸管損傷のリスクを高める。膀胱瘻カテーテルがわずかに腹膜を損傷したくらいではなかなか症状は出現しないが,腸管を損傷した場合は比較的早期に腹痛,嘔吐,発熱などの症状を呈する。

【陰囊水腫穿刺】

4.エコーにて隔壁を伴っているのが確認できた陰囊水腫の患者です。陰囊水腫はいくつもの小部屋に分かれているようです。1か所穿刺してもあまり排液できません。何か所も穿刺してよいでしょうか。

著者: 大森聡 ,   近田龍一郎 ,   藤岡知昭

ページ範囲:P.26 - P.27

陰囊水腫は,腹膜鞘状突起の正常ないし部分閉鎖により形成される精巣鞘膜内の内容液の分泌・吸収の不均衡により発生すると考えられている。無痛性の弾性・軟の腫瘤として触知され,透光性を有し,超音波では内部均一な低エコーの腫瘤として描出される(図1)。

 水腫の増大による不快感・牽引痛などの症状を認めたり,着衣などの日常生活に支障をきたす場合に治療の適応となり,根治療法は手術療法になる。

5.内服薬の確認を怠り,抗凝固薬を内服していることを知らずに陰囊水腫穿刺を行った患者です。穿刺液に血液が混じってしまいました。圧迫止血のみで帰宅させてよいでしょうか。

著者: 大森聡 ,   近田龍一郎 ,   藤岡知昭

ページ範囲:P.28 - P.30

抗凝固薬・抗血小板薬を服用している患者では,服用を継続したままで手術や出血が懸念される検査を行う場合,出血性合併症の危険は有意に高まることが知られている。一方で安易に内服を中止することは,その間に虚血性心疾患や脳梗塞を発症するリスクを高める面もある。そのため,手術や検査に伴う抗凝固薬・抗血小板薬の調整については,投薬の原因となっている原疾患の状況や検討される手術や検査の必要性・侵襲の程度など,個々の病態に応じた検討が必要になる。

6.陰囊水腫穿刺を18ゲージ針で行った患者です。施行中,出血は認めませんでしたが,翌日,再受診したところ陰囊内血腫となっていました。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 野口満

ページ範囲:P.32 - P.34

陰囊水腫穿刺後の急速な陰囊内血腫出現の場合には,ほとんどが穿刺側の陰囊腫大と疼痛を認める。高度の場合は鼠径部までにその血腫は及ぶこともある。陰囊皮膚は暗赤色に変色していることもあり,ほとんどが前日に穿刺の既往があることと視診から陰囊内血腫の診断は容易につく。

 原因は,穿刺針による陰囊皮膚・皮下の血管損傷あるいは陰囊内容物(精巣,精巣上体,精索)の損傷が考えられる。稀に患者に出血傾向や凝固系異常があり,穿刺後,徐々に陰囊内血腫が形成されることもあり,患者の血液疾患が原因のこともある。しかしながら,血腫増大の原因の多くは,(1)もともと陰囊自体が穿刺後の圧迫止血を行いにくいこと,(2)陰囊皮膚が伸展性に富むこと,(3)精巣を包む鞘膜腔内への出血であれば,貯留していた漿液と合わさることによりさらに出血量が増加すること,などが考えられる。

7.陰囊水腫に対して穿刺排液処置を長期間繰り返してきた患者です。今回,穿刺排液中に血が混じり始め,血液の色が徐々に強くなってきました。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 野口満

ページ範囲:P.36 - P.37

小児を除き,陰囊水腫の患者では穿刺排液処置を行うことがある。患者にもよるが,穿刺排液を行って数か月もするとまた同様な水腫の状態となり,再度穿刺を繰り返すことが多い。根治手術を行うか,穿刺排液後に塩酸ミノサイクリンなどの薬液注入による固定術など再発予防を行わない限り,水腫の穿刺は続くこととなる。

 このような経過中に,穿刺した排液が血性になることがある。原因は以下のような機序が考えられる。すなわち,(1)穿刺を繰り返すことにより反応性に精巣固有鞘膜の肥厚が生じ,そこに慢性炎症を伴うと穿刺後に肥厚した精巣固有鞘膜より出血が起こる,(2)穿刺により陰囊皮膚に付着している細菌が陰囊内に入り感染を起こしたため,(3)設問(6)で述べた陰囊内血腫が沈静化したのち,精巣固有鞘膜の線維化や肉芽形成を起こし,この部位から出血したため,(4)穿刺とは関係なく,精巣腫瘍や結核などが新たに発生したことに伴うもの,などが考えられる。

【膀胱洗浄】

8.膀胱カテーテルを留置している在宅ターミナルの患者です。週2~3回,定期的に膀胱洗浄を行っていましたが,感染の原因になるから洗浄してはいけないと指摘されました。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 石塚修 ,   西沢理

ページ範囲:P.38 - P.39

在宅ターミナルの患者で尿道カテーテルで尿路管理を行っている状態である。長期に尿道カテーテルを留置することは,尿路感染,尿路結石症,尿道狭窄や損傷,膀胱機能の廃絶などの見地からは好ましくないのであるが1),終末期の身体負担の軽減目的で尿道カテーテル留置状態となっている状況と考えられる。

 閉鎖式持続導尿法で尿道カテーテルが留置してあるか,開放式で留置してあるか,詳細は不明である。仮に,閉鎖式と仮定すると,原則として膀胱洗浄を行う必要はなく,従来の開放式に比べると感染防御の面で優れている。しかしながら,2週間以上の長期になれば,感染が起こることは避けられない2)。また,感染に伴い尿のアルカリ化,沈殿物の増加(リン酸マグネシウムアンモニウムなど)がみられるようになり3),カテーテルが閉塞しやすくなる。閉塞しやすくなる状況もしくは閉塞の予防のために,週2~3回の定期的膀胱洗浄を行っていたが,感染の原因になるから洗浄してはいけないと指摘された状況である。

9.膀胱タンポナーデ時の膀胱洗浄の際,凝血塊が硬くなり除去しにくい患者です。金属カテーテルや内視鏡の使用など,どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 石塚修 ,   西沢理

ページ範囲:P.40 - P.41

原因は不明だが,膀胱タンポナーデを生じ,凝結塊が膀胱内で硬くなり除去しにくい状況である。このような状況下で,金属カテーテルや内視鏡の使用など,どのように対処すべきか対処法に難渋している状況である。

【腎盂洗浄】

10.腎盂にカテーテルが挿入されている患者です。カテーテル交換時にかなり混濁がみられます。膀胱洗浄のように洗浄液にイソジンを混ぜてもよいでしょうか。

著者: 石塚修 ,   西沢理

ページ範囲:P.42 - P.43

何らかの尿管閉塞機転により,腎盂にカテーテルが挿入されている状態である。通常2~4週ごとにカテーテルは交換されることが多いが,交換時にかなりの尿混濁が認められている。腎盂の洗浄を行っているが,洗浄液にイソジンを入れるかどうか迷っている状況である。

【腎盂内注入】

11.表在性尿管腫瘍に対し6Frの腎瘻を挿入しBCG腎盂内注入を行った単腎の患者です。腎瘻が細く,自然滴下に難渋しています。シリンジで注入してもよいでしょうか。

著者: 大和隆 ,   米山高弘 ,   岡本亜希子 ,   大山力

ページ範囲:P.44 - P.45

1985年にHerrら1)が単腎の腎盂上皮内癌に対してBCG療法を行って以来,上部尿路の上皮内癌や表在性腫瘍に対するBCG療法の有効性が近年注目されている。しかし,上部尿路の上皮内癌に対する診断基準,BCG投与量,投与方法,治療効果の判定,フォローアップ方法や再発時の対処法など多くの点で統一された見解がないのが現状である。小規模な治療成績の報告が多く,長期成績に関する報告が少ないことから,今後の臨床研究の展開が期待されるところである。

 上部尿路へのBCG投与方法には,腎瘻2),尿管カテーテル3),DJ尿管ステント4)の3つに大別される。

【カテーテル留置(尿道留置)】

12.尿道カテーテルを留置しようとしている患者です。思うようにいかず,なかなかカテーテルが入りません。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 大和隆 ,   今井篤 ,   石村大史 ,   大山力

ページ範囲:P.46 - P.48

尿道カテーテルの挿入は,各診療科の日常診療で頻回に行われている基本手技の1つである。通常,正しい手順で行えば容易に尿道カテーテルを挿入することは可能であるが,盲目的な操作であるため,挿入困難な場合に無理をすると出血や偽尿道など医原性の合併症を生じやすい。手技的に問題がないか,尿道に器質的疾患がないかなどに注意を払い,的確な判断と柔軟な対応が必要とされる。

13.他施設で尿道カテーテル留置がうまくいかず,尿道出血が認められたあとに搬送されてきた患者です。まず行うべきことは何でしょうか。

著者: 大和隆 ,   萩沢茂 ,   岩渕郁哉 ,   古家琢也

ページ範囲:P.50 - P.51

尿道カテーテルの挿入が困難であると判断するまでに,その医師は何度か同じ操作を繰り返してしまうものである。ある程度経験を積んだ泌尿器科医であれば,どのような原因で尿道カテーテルが入りづらいのか推測し,ほかの挿入方法を試みると思うが,泌尿器科以外の臨床医が同様の状況に直面した場合は,さらに同じ操作を繰り返してしまうのではないだろうか。

 同じ場所をカテーテルの先端で突くことになるため,結果として尿道粘膜の損傷による出血,ときには偽尿道を形成してしまうこともある。こうなると,泌尿器科医でも容易には尿道カテーテルを挿入することができなくなる。このような場合,尿道損傷が起きた場所,損傷の程度,患者の状態のほか,既往歴なども確認する必要がある。

14.尿道カテーテルを留置している患者です。カテーテルの脇から尿が漏れています。カテーテルのサイズを太くすることは有効でしょうか。

著者: 滋野和志

ページ範囲:P.52 - P.53

留置中の尿道カテーテル周囲から尿が漏れることは,ときに経験する状況である。この設問はカテーテルのサイズを太くすることにより,カテーテルと尿道の間にある隙間をなくして尿の漏れを防ぎ,またカテーテルの内腔が大きくなることによりドレナージがよくなり,カテーテル周囲からの尿漏れが減少することを期待しているものと思われる。

 尿道カテーテルの周囲から尿が漏れるときには,カテーテルの閉塞などによりドレナージが不良な場合と,ドレナージには問題がない場合がある。カテーテルが閉塞していないのに周囲より尿が漏れる場合には,膀胱の無抑制収縮やテネスムスなどの排尿筋過活動が考えられる。日常,問題となるのはこのような場合が多く,本設問もこのような状況下で発せられたものと想定される。排尿筋過活動はカテーテル留置そのものによる刺激が原因となり得るが,尿路感染や膀胱結石などの合併も考慮する必要がある。

15.尿道カテーテルを留置した患者です。カテーテルを留置後に短期間で閉塞を起こしてしまいました。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 滋野和志

ページ範囲:P.55 - P.57

尿道カテーテル留置には,術後などに短期間留置する場合と排尿障害の改善が見込めないときなどに長期の留置が必要な場合がある。短期間留置の場合,閉塞の原因は血尿に伴う血塊など明らかな場合が多く,洗浄や交換が可能であれば対処は比較的容易である。問題となるのは長期間の留置が必要な例において,頻回に短期間で閉塞する場合である。カテーテルを長期間留置している場合の閉塞は,剝離・脱落した尿路粘膜上皮,結晶,結石などによりカテーテル先端開口部や内腔が閉塞することによるものである。重要な原因として尿路感染症が挙げられるが,長期カテーテル留置中の尿路感染症は避けることが不可能である1)。さらに,カテーテル留置例では付着した細菌が菌体外多糖を産生することで強固に定着し増殖を続け,多糖体を中心とするポリマーで包まれた細菌バイオフィルムを形成する。形成されたバイオフィルムは付着,定着の役割だけでなく,抗菌薬に抵抗性で,宿主の貪食作用から逃れ,非常に難治性である2)。このバイオフィルム感染症がカテーテルの閉塞や結石形成の大きな原因である3)

 カテーテルの閉塞に対する対処法は,直接的にはカテーテルの洗浄,交換であるが,閉塞の原因となる壊死組織や結晶成分などを排出されやすくし,カテーテルへの付着を予防することが重要である。

16.尿道カテーテルを長期間留置している患者です。バルーン先端の石灰化により抜けなくなってしまったようです。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 滋野和志

ページ範囲:P.58 - P.59

通常の留置カテーテル管理下ではカテーテルが抜去できないほどの石灰化は稀であるが,長期間カテーテルを交換せずに放置された場合などにはあり得ると思われる。留置カテーテルに付着する結石の本体は感染結石であり,細菌バイオフィルムが関係している1)。結石の主要成分はリン酸マグネシウムアンモニウムやリン酸カルシウム(hydroxyapatite)であり,シュウ酸カルシウムやムコ蛋白,ムコ多糖類を含む場合もある。ProteusUreaplasmaなどの尿素分解酵素産生微生物は,ウレアーゼにより尿素からアンモニアを生成して尿をアルカリ化し,リン酸カルシウムとリン酸マグネシウムアンモニウム結晶を析出しやすくする(表1)2)

17.長期間,尿道カテーテルを留置している脊髄損傷の男性患者です。振子部尿道に長い尿道皮膚瘻が発生してしまいました。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 山口聡 ,   小山内裕昭

ページ範囲:P.60 - P.62

長期間,尿道カテーテルを留置されている患者では,その尿路合併症として,振子部尿道~球部尿道に尿道皮膚瘻を形成することがときどき認められる。尿道皮膚瘻が発生する機序として,(1)尿道留置カテーテル周囲の慢性的な炎症の持続,(2)カテーテル抜去や挿入に伴う尿道粘膜への機械的な損傷,などが主なものと考えられる。実際には,これらが長い間,繰り返されることにより,損傷距離の長い,難治性の尿道皮膚瘻が形成されていくと思われる。

 このような状況のほとんどは,種々の脊髄疾患や脳血管障害などの慢性疾患を管理するリハビリテーション施設や老人保健施設において認められ,肉眼的に明らかな尿道皮膚瘻が確認されてから,泌尿器科に相談に訪れることが多い。なかには相当こじれてしまった例も稀ではなく,泌尿器科医師にとってその取り扱いに迷うことも少なくない。そのような患者は,通常,長期臥床を余儀なくされており,それまでに専門医の診察を受けていないことで,情報不足に陥っている。また,最も現実的な問題としては,病院への搬送が困難であることや受け入れ先病院の体制不備など,医療行為以外のネガティブな背景の存在も否定できない。

18.長期間,膀胱カテーテルを留置している患者です。今回,尿が紫色になっています。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 山口聡 ,   小山内裕昭

ページ範囲:P.63 - P.65

蓄尿バッグやそれにつながる接続チューブが青~青紫~紫~赤紫~赤色に着色する現象は,紫色蓄尿バッグ症候群(purple urine bag syndrome)として知られている。何らかの排尿障害により,やむなく長期間にわたって尿道留置カテーテルを装着している患者や種々の尿路変向(腎瘻,膀胱瘻,尿管皮膚瘻など)を余儀なくされている患者において,ときおり認められる状態である。最も頻繁にはリハビリテーション施設や高齢者入所施設で,最近では在宅医療現場でしばしば認められ,これらに関与する医療者の多くが経験しているものと想像される。その訴えとしては,主に看護師や介護者から,「なぜ尿が紫色になるのか?」「何か悪い病態なのか?」「治療の必要はないのか?」「気持ちが悪いので何とかしてほしい」などという種類のものが多いようである。

 紫色蓄尿バッグ症候群は,Barlowら1)によって最初に報告され,その後,本邦においても報告が散見される。Deallerら2)は,その着色物質がインジゴ青やインジゴ赤であることから,トリプトファン代謝にかかわる生合成経路に注目し,その発生機序を推論している(図1)。すなわち,必須アミノ酸の1つであるトリプトファンは,腸管内において腸内細菌によりインドールに分解される。インドールは腸管から吸収されるが,体内では有害であるため,肝臓で硫酸抱合後,無害なインジカンに代謝され,最終的には尿中に排泄される。そこに尿路感染が合併していると,尿中の細菌によりインジカンは加水分解を経てインドキシルに変換される。インドキシルは2分子が縮合し,酸化されるとインジゴ青(一般的にはこれがインジゴと呼ばれている)となる。一方,インドキシルは酸化によりイサチンに変換され,その2分子が縮合してインジゴ赤(インジルビン)になる。これらの反応には,いずれも細菌の関与が必須である。このような経路で産生されたインジゴ青やインジゴ赤は,蓄尿バッグや接続チューブ類を構成するプラスティックポリマーに付着しやすいため,紫色蓄尿バッグ症候群が生じるものと考えられている。同じ検体であっても,集尿容器がガラス製のものでは,ほとんど着色しないことも特徴である3)

【導尿】

19.球部尿道から膜様部尿道へのカテーテルの挿入が困難な患者です。カテーテルの種類,手技のコツなど,どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 山口聡 ,   小山内裕昭

ページ範囲:P.66 - P.68

尿道留置カテーテルを挿入する際,球部尿道や膜様部尿道(括約筋部尿道)で抵抗を感じることが多い。球部尿道をスムーズにカテーテルを通過させるためには,(1)陰茎に十分なテンションを掛けることにより尿道の弛みを軽減させ,(2)振子部尿道から球部尿道,球部尿道から膜様部尿道の角度をなるべく鈍角化させるようなイメージでカテーテルを挿入することなどが肝要と思われる。また膜様部尿道では,患者をリラックスさせるような声掛け,例えば「ゆっくり深呼吸してください」「おなかの力を抜いてみましょう」などで,尿道括約筋の緊張状態を解きほぐすことにより,比較的容易にカテーテルを通過させることが可能である。

 尿道カテーテル挿入時に,最も留意しなければならない点は,尿道狭窄の存在と医原性の尿道損傷である。高度の尿道狭窄が存在していれば,カテーテルの挿入自体が不可能であるし,軽度の尿道狭窄の場合は,いろいろな工夫でカテーテルの挿入を試みなければならない。しかしその際は,当然のことながら,尿道狭窄をきたしている部位での尿道損傷のリスクがかなり高くなる。一方,尿道狭窄がなくても,乱暴な尿道カテーテルの挿入により容易に球部尿道には損傷が生じる。

20.前立腺の腫大により前立腺部尿道の屈曲が強く,通過が困難な患者です。カテーテルの種類および手技のコツなどを含め,どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 中島耕一 ,   三浦一陽 ,   石井延久

ページ範囲:P.70 - P.73

尿道バルーンカテーテルの留置あるいは交換がスムーズにできないということで,他科の医師より依頼を受ける場面にしばし遭遇する。こういう場面には,いくつかのパターンがあると思われる。すなわち,(1)真性包茎で包皮輪が狭く包皮の翻転ができない。または包皮輪がピンホール様のためカテーテルそのものが通過させられない,(2)重篤な心不全のため包皮の浮腫が著明で包皮の翻転ができない。包皮輪からカテーテルを挿入しても亀頭と包皮の間でループして戻ってきてしまう,(3)振子部尿道で粘膜が弁状形成をしてカテーテルの挿入ができない,(4)球部尿道の狭窄によりカテーテルの挿入が困難である,(5)球部から膜様部尿道への解剖学的理由からカテーテル挿入が困難である,(6)前立腺部尿道の解剖学的理由からカテーテル挿入が困難である(図1),などである。

 それぞれの場面において泌尿器科医の腕の見せどころであるが,本稿においては前立腺部尿道でのカテーテル留置困難に対する対応を述べることにする。

【尿道拡張】

21.尿道拡張術を施行中の患者です。どこまで拡張し,どこで中止したらよいのか,そのタイミングに悩んでいます。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 中島耕一 ,   三浦一陽 ,   石井延久

ページ範囲:P.74 - P.76

尿道狭窄の成因は先天性,後天性に大別され,後天性尿道狭窄は内視鏡操作による医原性と炎症によるもの,さらに外傷性に分類される。近年は淋疾後の炎症性尿道狭窄に遭遇する機会は減少し,外傷や内視鏡操作後の医原性の尿道狭窄が大半を占めるようになってきている。現在は,内尿道切開や内視鏡的尿道形成術1)で,前部尿道のみならず後部尿道の狭窄に対する治療も可能である。

 しかし,再発率の高さが指摘されている。Pansadoroら2)は,1回の内尿道切開後の再発率は68%で,切開術の追加は成功率の上昇に寄与しないと報告している。尿道狭窄術後の尿道ブジーは瘢痕形成と再狭窄を予防する目的で行われる。

【カテーテル留置(腎瘻造設)】

22.経皮的に腎瘻を造設しようとしている患者です。誤って腎動脈を穿刺してしまいました。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 中島耕一 ,   三浦一陽 ,   石井延久

ページ範囲:P.77 - P.79

腎穿刺の施行においては腎の解剖,とりわけ腎の血管解剖を熟知している必要がある。腎動脈は区域動脈に分枝し,腎乳頭部付近で葉間動脈を分枝する。葉間動脈は皮質と髄質間で弓状動脈となり,これから皮質に向かって小葉間動脈となる(図1)。したがって,腎杯を目指して穿刺をする必要がある。腎乳頭部の間を穿刺して直接腎盂に穿刺すると,腎の主要な動脈あるいはこれに伴走する静脈の損傷を引き起こすことになる。

 諸家1,2)による腎瘻造設時の合併症と発生頻度の報告がある。このなかで腎動脈誤穿刺関連と考えられる合併症は,輸血を要する出血,緊急動脈塞栓術,腎摘出術の可能性である。それぞれの頻度は以下のように報告されている。すなわち,輸血を要する出血:5%以下,緊急動脈塞栓術:0.5%以下,腎摘出術の可能性:0.19%である。頻度は高くないと思われるが,常に対応をシミュレーションしておくことは大切なことと思われる。

23.腎瘻を定期的に交換している患者です。バルーンカテーテルのカフを3ml入れていますが,7~10日くらいでカフの水が抜けてしまい頻回に腎瘻が自然抜去されてしまいます。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 近藤幸尋 ,   西村泰司

ページ範囲:P.80 - P.80

シリコンカテーテルおよびラテックスカテーテルのバルーンのカフは,時間経過とともに漏れたり,蒸発したりする。設問の症例では,カフ3mlが7~10日ぐらいで抜けるとのことであるが,策を講じないやり方としては1週間ごとにカフの点検をすることとなるが,それでは答えにならない。

【尿道ブジー】

24.尿道狭窄が強く金属ブジーが挿入困難な患者です。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 近藤幸尋 ,   西村泰司

ページ範囲:P.81 - P.81

尿道ブジーを扱う際には,通常,尿道カテーテル留置を試み挿入困難であったときに使用する場合と,以前より尿道狭窄があり尿線が細くなったことより再診した場合などがある。

25.ピンホール状に尿道狭窄を起こしてしまった患者です。尿道ブジーを行おうとしましたが,上手くブジーが狭窄部を貫通しません。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 近藤幸尋 ,   西村泰司

ページ範囲:P.82 - P.82

設問にあるピンホール状の尿道狭窄が,どんな状態で,どこに起こったかにより対応が変わってくる。

【尿管ステント留置術】

26.尿管ステントを留置している患者です。ステントを抜去しようとしましたが,抜くことができません。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 長田恵弘 ,   内田豊明 ,   小路直 ,   寺地敏郎

ページ範囲:P.85 - P.86

尿管ステント法は炎症,尿路結石,先天性疾患,悪性腫瘍などによる尿路通過障害に対して従来の腎瘻や尿管皮膚瘻などの尿路変向術に代わるものとして頻用され,最近ではendourology, ESWLの発展と普及につれて尿管にステントを留置する機会が増加している。ステントを尿管内に長期間留置することによって生じる問題点として,尿路感染症,血尿,膀胱刺激症状,膀胱尿管逆流症がみられたり,ステントに結晶物質が付着し結石が形成されステントが抜去不能に陥ることがある1,2)

【嵌頓包茎整復】

27.嵌頓包茎の小児患者です。無麻酔で整復すべきか,麻酔をして整復すべきか適応に悩んでいます。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 長田恵弘 ,   内田豊昭 ,   本郷祥子 ,   寺地敏郎

ページ範囲:P.87 - P.89

嵌頓包茎とは包皮輪が亀頭サイズより小さいため翻転した包皮が元に戻らなくなった状態をいう。

 包皮の翻転を無理に行った結果,包皮輪より遠位側の包皮が亀頭を絞扼し循環障害を惹起し,視診上,亀頭部および包皮は腫脹し浮腫状の包皮内板が冠状溝部をドーナツ状に取り巻いているようにみえる。通常,排尿障害は認めないが,陰茎痛を伴い来院する。

28.恥ずかしがって来院が遅れた思春期の嵌頓包茎の患者です。時間が経っていると整復しづらくなりますが,どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 長田恵弘 ,   新田正広 ,   内田豊昭 ,   寺地敏郎

ページ範囲:P.90 - P.92

嵌頓包茎とは包茎の状態で無理に包皮を冠状溝より近位まで翻転させたため,狭い包皮輪により亀頭と包皮先端が絞扼され亀頭,包皮がともに腫脹し元に戻らなくなった状態をいう。

 出生時,陰茎は包茎により完全に覆われている。亀頭と包皮の癒着もほぼ全症例に認められ,包皮翻転が困難であることが一般的である。いわゆる真性包茎の状態である。乳児期から幼児期にかけて,亀頭表面と包皮内板の間に表皮の落屑が生じることにより次第に両者の癒着が剝がれる。3~4歳頃までに亀頭表面の大部分の癒着が消失する。しかしながら,小児期の包皮先端狭小部の口径には個人差があり,これが伸展性がある場合は用手的に亀頭を露出することができるが,硬く狭い狭小輪となっている場合は用手的に亀頭の露出は困難である。いずれの場合も,学童期までは自然な状態で亀頭はその全体が包皮に覆われている。露出した亀頭を男性の生殖活動に必要な身体機能的特徴とすれば,包茎は生殖活動が不要な小児期における亀頭保護の意義を持つことになる。第二次性徴の時期に入り亀頭や陰茎の急速な増大が起こると包皮の狭小輪は受動的に開大し,亀頭先端が次第に露出されるようになる。思春期以降は最終的に非勃起時においても亀頭が露出した状態が通常となる。

29.嵌頓包茎の患者です。発症後数日が経ち浮腫が強く,整復してもすぐに元に戻ってしまいます。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 浪間孝重 ,   星清継 ,   池田義弘 ,   大沼徹太郎

ページ範囲:P.93 - P.95

嵌頓包茎は,包皮輪による陰茎の絞扼(絞扼リング)により包皮および亀頭が血行性あるいはリンパ行性の循環障害をきたした病態をいう。症状としては,絞扼リング末梢の包皮の高度の浮腫,亀頭のうっ血と強い疼痛(絞扼痛)を認める1)。嵌頓包茎の病因は,性行為や自慰行為のあとや経尿道的なカテーテル操作や内視鏡操作を行ったあとに,包皮を生理的状態に戻さなかった場合に起こることが多い。通常は,真性包茎例で発症しやすいが,仮性包茎例であっても高齢者などでは尿道カテーテル留置後に包皮を元に戻さないために発症することがある。留置したカテーテルによって亀頭と尿道海綿体の内径が増大し,結果的に包皮輪に対して陰茎径が増大するために絞扼が起きやすくなる。

 嵌頓包茎の診断は,一度経験していれば視診により容易に行える。強い疼痛を伴うことが多いが,特に思春期の症例では羞恥心のため発症直後に医療機関を受診できないことがあり,設問のように数日を経過することも稀ではない。そうした場合,亀頭のうっ血は増大し,絞扼リング末梢の包皮は慢性炎症をきたし,びらんや瘢痕化を伴うリンパ浮腫に至ることもある。

30.嵌頓包茎の患者です。今回は夜間救急外来で約30分かけて整復しました。局所麻酔下で,包皮環状切開を行ったほうがよかったでしょうか。正しい判断であったかどうか悩んでいます。今後は,どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 浪間孝重 ,   星清継 ,   池田義弘 ,   大沼徹太郎

ページ範囲:P.97 - P.99

嵌頓包茎の病態は,包皮輪が陰茎を絞扼するいわゆる絞扼リングによる包皮および亀頭の循環障害であるが,絞扼の強さや持続時間によりその重症度はさまざまである。Kumarら1)は,嵌頓包茎の重症度をGradeⅠからGrade Ⅲの3段階に分類している。すなわち,GradeⅠは軽症で絞扼リング周囲の浮腫のみで,亀頭のうっ血を認めない状態,GradeⅡはGradeⅠに亀頭のうっ血を伴った中等症の状態,Grade Ⅲは重症で包皮のびらんや非圧痕化傾向を伴うリンパ浮腫および絞扼リングによる陰茎自体の損傷を伴う状態,としている。また,嵌頓包茎47例の集計から,その頻度はGradeⅠは13%,GradeⅡは82%,Grade Ⅲは5%で,ほとんどがGradeⅡ以下であったとし,これらGradeⅡ以下では,観血的処置は必要がなかったとしている1)

【前立腺液圧出】

31.前立腺分泌液検査を施行中の患者です。慢性細菌性前立腺炎,慢性非細菌性前立腺炎,プロスタトディニアの鑑別に悩んでいます。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 浪間孝重 ,   星清継 ,   池田義弘 ,   大沼徹太郎

ページ範囲:P.100 - P.103

前立腺炎は急性と慢性に大別される。なかでも設問のような慢性前立腺炎は,泌尿器科外来診療でよく遭遇する疾患の1つでありながら,その正確な病因は解明されておらず,明らかなエビデンスを持つ標準的な治療法も未だに確立されてはいない。また,慢性前立腺炎患者のQOL(quality of life)は前立腺肥大症患者より明らかに高度に障害されているとされ1),どこの泌尿器科外来でも,難治性となり,診療に苦慮する慢性前立腺炎の患者を数名は抱えているのが現状と思われる。

 米国ではその有病率は10~14%とされているが,本邦での疫学調査によれば対象人口の5%程度とされ,年齢による偏りはみられなかったと報告されており,すべての年齢層の成人男性が抱える問題といえる2)

Ⅱ.泌尿器科手術

フリーアクセス

ページ範囲:P.105 - P.105

A.体外衝撃波砕石術(ESWL) 【体外衝撃波砕石術(ESWL)】

32.体外衝撃波砕石術(ESWL)を施行中の患者です。術中に疼痛が顕著になりました。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 荒川孝 ,   江村正博 ,   松下一仁 ,   服部一紀

ページ範囲:P.107 - P.108

現在新たに購入できる体外衝撃波砕石術(ESWL)用結石破砕機は,業者側の説明では原則として無麻酔で使用できるとされる。焦点領域が小さくなったこと,接触するウォータークッションが大きくなり人体に接触する面積が大きくなったことが疼痛軽減効果を高めている。しかしながら,無麻酔でも可能というだけであり,実際にESWL施行時に患者が疼痛を訴えることはよく遭遇する事象である。疼痛の感じ方は患者それぞれで異なり,相当な圧力値でさえもまったく疼痛を訴えないこともあるし,逆に最低圧レベルでいきなり疼痛を訴える患者も存在する。痛みのために圧力レベルを下げてESWLを施行し,その結果,良好な破砕効果が得られなければ本末転倒となる。事前に坐薬や鎮痛薬の注射で疼痛管理をするか,患者が疼痛を訴えてから同薬剤を用いるかが問題となる。

33.体外衝撃波砕石術(ESWL)を施行した腎結石の患者です。術後被膜下血腫を認めました。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 荒川孝 ,   藤崎明 ,   木村将貴 ,   服部一紀

ページ範囲:P.109 - P.112

体外衝撃波砕石術(ESWL)術後の腎被膜下血腫の頻度は,平井ら1)がまとめた結果では0.078%~0.6%とされているが,Blangyら2)は放射線科医としての検索では12.5%にも上ると報告しており,実際には相当な割合で発症している可能性も否定はできない。筆者らもこれまでに3例のESWL術後腎被膜下血腫を経験しているが,自身でのESWL経験数からすると,実際には隠れた腎被膜下血腫症例があったのかもしれない。これら3例はESWL術後に際立った疼痛の訴えもなく,そのうち2例は術中超音波で監視していた症例であるが,残念ながら術中に血腫の発症には気づかなかった。たまたま3例ともに腎内のX線陰性結石であったため,術後F/U中にCTを実施した際に気づいたものである。2例は初回ESWLで,1例は2回目のESWLにて腎被膜下血腫が発症しているが,運よく3例とも結石破砕自体はその責任ESWLにより終了していた。

 もしまだ破砕しきれていない結石が腎内にあった場合にどうするかであるが,筆者らにはその経験はないが,自身の考えでは再度のESWLは慎重にならざるをえない。筆者らの症例では,腎被膜下血腫が自然吸収されたあとの患側腎は萎縮腎となった(図1)。機能自体が相当低下するため,もしも再度出血を起こした場合には機能は廃絶する可能性が高くなる。しかし,Serraら3)は10,953症例に対し21,699回のESWLを施行し,うち31例に腎出血を起こし(0.28%),残石があった7例に対し再度ESWLを施行したが問題はなかったと報告している。このような報告はあるが,せいぜい血腫が自然吸収されたあとの,時間が経過した段階で判断される事柄であろう。

34.術後しばらくして発熱,背部痛を認め,KUBを施行したところ,stone streetを認めました。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 荒川孝 ,   藤崎明 ,   木村将貴 ,   服部一紀

ページ範囲:P.113 - P.115

尿路結石に対する体外衝撃波砕石術(ESWL)後に高頻度にみられる合併症の1つが,尿管内の破砕片の堆積形成(stone street:以下,SS)である。多くの泌尿器科医は20mm以上の比較的大きな結石に対してESWLを施行することで発症しやすくなることを経験的に知っている。また,それ以下の大きさの結石でも起こすことがある。それら20mm以下の小結石でSSを形成する因子としては,破砕片が粗い,尿管自体の問題(屈曲の存在,軽度狭窄:明らかな狭窄の存在はESWLの禁忌である)などが挙げられよう。

 SSは自然排石して自然解消する可能性もあるが,疼痛や発熱を伴う場合は,何らかの処置が必要となる。すでに発熱を伴っている症例では腎盂腎炎を発症しているわけであるから,経過を見過ぎると敗血症に進展することが懸念される。症状が軽度であっても,SSによる尿管閉塞は晩期において腎機能障害を引き起こす可能性がある。3~5cmのSSを確認したら,無症状であっても2週間以内にはKUBを撮り,SSの情況変化を確認すべきである。6cm以上であれば症状の有無にかからず,何らかの処置を考慮したほうが賢明であろう。

B.尿路内視鏡手術 【経尿道的内尿道切開術】

35.経尿道的内尿道切開術を開始した患者です。狭窄が高度で,狭窄部の奥がどうなっているかわかりません。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 岡村菊夫

ページ範囲:P.116 - P.119

経尿道的内尿道切開術に関する論文はさほど多くないが,世界的な傾向として,経尿道的内尿道切開術は,尿道狭窄に対する簡便な初回治療法として試みられることが多いようである。しかし,術後再狭窄の頻度は尿道形成術よりもはるかに高い。手術成功率はせいぜい60%に過ぎず,経尿道的内尿道切開術が尿道狭窄の標準術式というわけではない1,2)。手術成功の基準はあまり明確でなく,継続的に尿道ブジーを行っていても(目的は再狭窄の確認であるかもしれないが,尿道拡張術併用とも考えられる),再切開手術が行われていても,治療失敗とせずに複数回施行後の開存も成功として報告されていることもある。再狭窄は最も多い合併症なので,臨床の現場においては,再狭窄防止のため術後一定期間の定期的なブジーや間欠自己導尿の併用も考慮されるべきかもしれない。しかし,あまりに頻回にブジーを行わなければならないとすると,低侵襲とはいいがたい。

 経尿道的内尿道切開術の成績を左右する要因として,(1)狭窄の位置(振子部尿道,球部尿道,膜様部尿道),(2)狭窄の原因(外傷性,炎症性,医原性),(3)狭窄の距離(<2cm,2~4cm,4cm<),(4)狭窄箇所の数,などが挙げられる。術前の逆行性尿道膀胱造影や尿道鏡,場合によっては順行性膀胱造影,膀胱瘻からの内視鏡検査などによって,狭窄部の評価を念入りに行っておくことが重要である。

36.尿道狭窄に対して経尿道的内尿道切開術を施行しましたが,術後再発してしまいました。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 岡村菊夫

ページ範囲:P.120 - P.121

経尿道的内尿道切開術後の再発に対して,再度切開術を施行するかどうかはよくよく吟味しなければならない。尿道狭窄に対する経尿道的内尿道切開術の成功率はせいぜい60%に過ぎないからである1~3)。最近の論文から,経尿道的内尿道切開術の適応について検討した。

 Rourkeら4)は,2cm程度の球部尿道狭窄に対する単回の経尿道的内尿道切開術の成功率は27%(18~49%)と見積もっている(表1)。一方で,観血手術での成功率は96%(93~100%)としており,大きな差があるとしている。振子部・球部尿道の2cm程度の狭窄の観血下切除・縫合はさして難しい手技ではないと考えられるので1),そのような狭窄に対して,内視鏡下切開が初回治療として必ずしも絶対に選択すべき治療法というわけではない。再手術でも同様である。米国の医療状況を鑑みた彼らのcost-benefit analysisによると,2cm程度の球部尿道の狭窄に対しては最初から観血的尿道形成術を行うべきであるが,例えば1cm未満で海綿体線維化が軽度な狭窄など成功率が40%以上あると考えられる症例では,経尿道的内尿道切開術が望ましいとしている。一方,Wrightら5)は,1~2cmの狭窄に対してはまず切開を行い,失敗例に対して尿道形成術を行うのが最もcost effectiveな治療方針であるとしている。本邦と米国では医療環境は大きく異なる。本邦において,これまで医療経済を視野に入れた経尿道的内尿道切開術の有用性が検討されたことはなかった。高齢者が増加し医療の効率化が望まれている現況を考えると,今後,本邦でもこうした検討も進めていかねばならない。

【経尿道的前立腺切除術(TURP)】

37.経尿道的前立腺切除術(TURP)を開始した患者です。開始直後に出血が激しくなり,視野が確保できなくなりました。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 松岡啓

ページ範囲:P.122 - P.123

経尿道的前立腺切除術(TURP)では腺腫の確実な切除と出血のコントロールが重要である。しかし,あまりに出血を気にしすぎて,腺腫からのそう強くない出血を止血しても同じ場所を切除してまた出血させることになる。腺腫からの出血はその程度により切除効率を十分に考慮して,出血に構わず数回切除したのちに止血することも大事である。設問の症例の場合は,開始直後であることより膀胱頸部からの出血が疑われる。また,視野の確保が困難になるような出血であり,視野が十分に取れずに切除を続けると合併症を引き起こすことになるので,確実な止血が必要である。

 膀胱頸部を切除する際には動脈性出血が多い。特に4時から5時,7時から8時にかけては前立腺動脈が関与している。また,尿道枝1)は膀胱頸部7時から11時と,1時から5時にかけて分布しているので,確実な処理が望まれる。

38.経尿道的前立腺切除術(TURP)を施行中の患者です。切除片が大きすぎて,洗っても排出できません。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 松岡啓

ページ範囲:P.124 - P.125

経尿道的前立腺切除術(TURP)では切除片は膀胱内に貯留することになるので,切除が終了したら切除鏡を通して排出させる必要がある。排出可能な切除片の大きさは,切除鏡の内径よりも小さい切片であることが必要である。切除用ループは切除鏡内を往復するので,切除される組織も自ずと切除鏡内を通過する大きさとなるはずである。しかしながら,大きな前立腺においては切除片を大きくして切除効率を上げようとするので,ときには切片が長すぎたり,径が大きすぎて切除鏡を通らず排出できない場合もある。

39.経尿道的前立腺切除術(TURP)を施行中の患者です。術中にTUR syndromeが起こりました。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 松岡啓

ページ範囲:P.126 - P.127

TUR syndromeはTUR反応1,2)とも呼ばれ,経尿道的前立腺切除術(TURP)施行の際に起こる独特の中毒症状である。TURPでは灌流液としてウロマチックTMを使用するが,低浸透圧で電解質を含んでいないので,この灌流液が体内に吸収されるとoverhydrationと低ナトリウム血症となる。一般に前立腺の静脈叢や骨盤の静脈では圧が約10mmHgであるとされている3)。したがって,いったん静脈叢が開くと前立腺部にかかる10mmHgより高い圧の灌流液はどんどん吸収されていく。

 TUR syndromeの発生は手術時間に比例するので,開始後1時間から1時間半を経過すると注意が必要である。しかしながら,開始後早期に静脈洞を開いた症例は出現しやすいので,これにも注意が必要である。

40.経尿道的前立腺切除術(TURP)を行った患者です。術後,出血が激しく止血用尿道カテーテルのバルーンを100mlまで膨らまして牽引止血しましたが,出血が治まりません。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 持田蔵

ページ範囲:P.128 - P.129

経尿道的前立腺切除術(TURP)後,血尿の増悪をみることはときに経験する。術後出血の合併症としての発生頻度は2%ほどとされている1,2)。術直後のベッド移動,術後の血圧上昇,体位変換,便意,尿道カテーテル不快,疼痛などさまざまな原因によって起こってくる。

41.経尿道的前立腺切除術(TURP)を行った患者です。術後,膀胱頸部硬化症を起こしてしまったようです。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 持田蔵

ページ範囲:P.130 - P.130

経尿道的前立腺切除術(TURP)の膀胱頸部硬化症は1%前後の頻度で起こると報告されている1,2)。術後数か月から認められるものが多い。

 膀胱頸部6時付近は間質が多く,その外側に輪状筋が強固に存在する。小さな前立腺肥大症では,それほど深くない切除で容易に膀胱輪状線維に到達する。

42.経尿道的前立腺切除術(TURP)を行った患者です。術中出血は少量でしたが,バルーン抜去1週間後にコアグラタンポナーデとなり緊急入院しました。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 持田蔵

ページ範囲:P.131 - P.132

経尿道的前立腺切除術(TURP)後,数日経ってから出血をみることがある。多くの場合は出血とともに大量の血塊を伴う(図1)。前立腺切除面よりの出血である。

 多くは術後1か月以内に起こることが多い。この間の前立腺切除面は創傷治癒過程にあり,血餅や痂皮が付着している状態である(図2)。血圧の上昇を伴う運動や,長時間の坐位などで血餅や痂皮が取れ出血が起きる。また,尿流の改善とともに血餅や痂皮の脱落が起きることもある。合併症としての発生頻度は2%ほどとされている1,2)

【経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)】

43.経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)を施行中の患者です。経尿道切除時にある程度注水しないと前壁の膀胱腫瘍がうまく見えず,逆に注水すると切除ループが届きません。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 庭川要

ページ範囲:P.133 - P.135

前壁にある膀胱腫瘍を経尿道的切除(TUR)すべく切除筒を挿入して,膀胱内の観察を始めたところ,膀胱虚脱時は膀胱の皺襞のため腫瘍が見えず,十分に観察できる程度に膨らますと切除ループが届きにくく感じて戸惑うことは,経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)を覚え始めの時期によく遭遇する問題である。しかし,遭遇する時期が手術を覚え始めの頃であったとしても,その解決の奥は深い。

 筆者は,勤務施設の性質上,卒後4~6年の泌尿器科レジデントと一緒に仕事をしている。いわば中堅ともいえる彼らがTURBTの術中に困惑することは意外に多く,筆者が口や手を出すことも少なくない。また,筆者自身が未だに困ることもある問題である。

44.経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)を施行中の患者です。手術中に膀胱穿孔を起こしてしまいました。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 庭川要

ページ範囲:P.136 - P.138

経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)中の膀胱穿孔は,十分な準備や手術の熟練によって頻度を減じることは可能でも,決してなくならない手術中のトラブルといえる。したがって,泌尿器科医として,対応方法をキチンと把握することが必須である。実際に穿孔が生じた場合は,(1)なるべく早く,適切に手術を終了する,(2)膀胱穿孔に応じた術後管理をする,につきる。本稿は以下に述べる理由により,(1)について詳述する。(2)については,(a)膀胱穿孔によるバイタルサイン変化への対応,(b)穿孔膀胱の管理,(c)播種についての対応,に分けられる。

45.経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)を施行中の患者です。膀胱憩室にできた腫瘍がうまく切除できません。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 住吉義光

ページ範囲:P.140 - P.141

膀胱憩室内腫瘍の発現頻度は膀胱腫瘍の0.8~10%と報告されている1)。膀胱憩室は粘膜と漿膜より構成されており,筋層は存在しない。このような解剖学的特性より,TURBTを行う際には合併症として穿孔を起こしやすいことを念頭に置くべきである。憩室内腫瘍が膀胱ファイバー検査などで確認されたら,まずCT scanやMRI検査で腫瘍の進行度を診断する必要がある。すなわち,腫瘍が憩室壁を越えて浸潤しているかどうかを確認しなければならない。壁外への浸潤が疑われれば危険を伴うTURBTは施行せず,cold cup biopsyによる病理組織学的診断を行う。Cold cup biopsyは,なるべく腫瘍の基部を採取する。ただし,cold cup biopsyといえども穿孔の危険性があり注意する。採取部位は電気凝固し,手術を終了とする。病理組織学的検査で膀胱癌との診断がつけば,TURBTを行わず,開腹手術を施行するのが標準的である。

 膀胱ファイバー検査で,憩室内に発赤,すなわち上皮内癌が疑われるような場合もcold cup biopsyを行い,電気凝固を行う。その際,roller ballを使用し憩室内の粘膜すべてを凝固するようにする。これは,憩室を除去するのと,上皮内癌の場合にはその後のBCG膀胱内注入療法の治療効果を向上させるためである。

46.バイアスピリン,パナルジンの内服を一時中止し,経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)を行った患者です。術中出血は少量でしたが,バルーン抜去1週間後にコアグラタンポナーデとなり緊急入院しました。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 住吉義光

ページ範囲:P.142 - P.143

1.全身状態が不良の場合

 救急患者受け入れ時にすべき内容をまず行う。すなわち,バイタルサインのチェック,血液検査(CBC,出血・凝固検査,腎機能は必須,採血時にクロス用血液の確保),血管(ルート)確保である。痛みが強ければ鎮痛薬の投与を行う。可能ならば,超音波検査かCT scanを施行し,膀胱および骨盤部では膀胱破裂などがないことを確認し,腎部位では水腎症の有無もチェックする。抗凝固薬を服用している原疾患が心血管系であれば,心電図などの検査も必要である。これらの処置と同時に,バイアスピリン,パナルジンを現在服用しているかどうかを質問し,服用していれば直ちに許可を出すまで中止とする。さらに,最終の食事や水分摂取時間も確認する。検査所見で貧血が強いような場合には輸血用の血液を準備し,心疾患患者では循環器科医師にコンサルトする。

47.再発を繰り返す表在性膀胱癌の患者です。9回目の経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)施行中に膀胱穿孔を起こし,内視鏡が腹腔内に入ってしまいました。まだ膀胱内に腫瘍は残っています。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 住吉義光

ページ範囲:P.144 - P.145

TURBT時の膀胱穿孔には,予定された手術手技として脂肪織まで切除するために穿孔を起こすcontrolled perforationと過度の切除のために誤って起こすuncontrolled perforationがある。一般的に膀胱穿孔といえば後者を指し,この症例も後者である。TURBT時の膀胱穿孔の頻度は5%未満とされている。Colladoら1)は,2,821例中36例(1.3%)に膀胱穿孔を認め,そのうちこの症例のように腹腔内が6例(17%)で,全症例に対する割合では0.2%であった。また,Kondasら2)のように,浸潤性膀胱癌に対するTURBT時の腹腔内膀胱穿孔の頻度は3%との報告もある。

【経皮的腎盂形成術】

48.経皮的腎盂形成術を施行中の患者です。腎瘻を造設の際に横隔膜を損傷してしまったようで,気胸を起こしてしまいました。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 齊藤亮一 ,   寺井章人

ページ範囲:P.146 - P.148

経皮的アプローチによる腎の外科的治療(percutaneous renal surgery:以下,PRS)は,泌尿器科診療において不可欠であり,近年の治療機器の進歩に伴いその重要性を増している。今日,PRSの適応は腎瘻造設,腎囊胞穿刺吸引,上部尿路結石,腎盂尿管移行部(UPJ)狭窄症(stenosis)など多岐にわたる1)(表1)。

 PRSを行うに当たっては,全身状態(いわゆる術前一般検査),ほかの治療手段の有無,画像評価,合併症の可能性を再確認する。

【経尿道的尿管砕石術(TUL)】

49.経尿道的尿管砕石術(TUL)を施行中の患者です。尿管の狭窄により尿管鏡の挿入が困難となってしまいました。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 井上幸治 ,   寺井章人

ページ範囲:P.149 - P.152

尿路結石診療ガイドライン1)での,経尿道的尿管砕石術(TUL)の第一選択は,10mm以上のU3結石である。U2結石と10mm以下のU3結石とは体外衝撃波砕石術(ESWL)またはTULが第一選択とされている。それ以外にもESWL不成功例や長期嵌頓結石もTULの適応になる。軟性尿管鏡とレーザー砕石機が普及してきた現在,腎結石にもTULの適応が拡大されている2)。TULの成否は,いかに安全確実に結石まで尿管鏡を到達させるかにかかっている。

 本稿では,尿管狭窄など尿管鏡の挿入困難時の対処の実際について,われわれが行っている方法について解説する。

50.経尿道的尿管砕石術(TUL)を施行中の患者です。U2からU3領域に数珠状に5cmにわたって結石が並んでいます。ガイドワイヤーは腎盂まで上がりましたが,尿管鏡は下端の結石から上方にはまったく上がりません。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 青山輝義 ,   寺井章人

ページ範囲:P.154 - P.155

比較的大きな腎尿管結石を体外衝撃波結石破砕術(ESWL)で破砕したあとに2~10%の症例にstone streetを形成するといわれ1),サンゴ状結石をESWLで破砕したあとは41%に発生する2)とされている。尿管狭窄が存在する場合も発生しやすい。Stone streetの60%程度は自然排石が期待できるため3),当初は経過観察することが多いが,単腎,両側尿管結石,感染や自覚症状が強い場合は早急に治療を行う必要がある。

【経皮的腎(尿管)砕石術(PNL)】

51.腎結石の患者です。経皮的腎(尿管)砕石術(PNL)を行うためにオクルージョンカテーテルを尿管に留置し,腎杯穿刺するための水腎をつくろうとしていますが腎盂があまり拡張しません。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 棚橋善克

ページ範囲:P.156 - P.163

(1)オクルージョンバルーンの位置が悪く,注入した液(生食)が尿管に流れてしまっている場合:カテーテルを腎盂尿管移行部まで引き下げて,腎盂内に液が充満するようにする。

 (2)珊瑚状結石などで腎杯がそれ以上広がらない場合:直接腎杯に穿刺する方法で対処できる。

C.腹腔鏡下手術 【腹腔鏡下副腎摘除術】

52.腹腔鏡下右副腎摘除術中の患者です。超音波凝固切開装置を使っている際にactive bladeを横隔膜に向けてしまい,横隔膜損傷をしたため肺が見えています。肺には損傷がありません。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 鶴信雄 ,   鈴木和雄 ,   伊原博行

ページ範囲:P.164 - P.165

超音波凝固切開装置は,プローブ先端のアクティブブレードに超音波振動を伝達させ,機械的振動の摩擦熱で周辺組織を出血しないように凝固させながら組織・血管などの切開を行う1)。ハーモニックスカルペル®(ジョンソン・エンド・ジョンソン),ソノサージ®(オリンパス),オートソニックス®(タイコヘルスケア)などがあるが,原理はどれも同じである。超音波凝固切開装置には,先端が高速で振動するアクティブブレード部分と固定されたパッドからなり,組織を把持しながら超音波振動を与え,凝固しながら切開も行うlaparoscopic coagulating shears(LCS)と,アクティブブレードのみからなり,ブレードを組織に押しつけたり引っ掛けたりすることで切開するフック型ブレードがあるが,設問の文脈からLCSを使っているものと判断される。

 超音波凝固切開装置の利点は,把持鉗子や剝離鉗子のように使いながら,切開と凝固を同時に行えることである。しかしながら,アクティブブレード先端ではキャビテーションによる衝撃波が生じるため,接触すると容易に組織損傷を引き起こす。これを防止するために,アクティブブレードは常に視野のなかに置き,先端に損傷してはならない組織がないことを確認する必要がある2)。設問の症例では,右副腎上極もしくは外側の剝離中に上記のキャビテーション効果によって,予期せぬ横隔膜損傷をきたしたものの,胸腔深部には届いておらず,肺損傷は避けられたのであろう。

【腹腔鏡下腎摘除術】

53.径2cmの腎腫瘍に対して腹腔鏡下腎部分切除術を施行した患者です。術後3日目よりドレーンからの排液が急に増加しました。どうも尿瘻が発生したようです。ダブルJカテーテルを挿入しましたが排液の減少が少なく,ドレーンからの排液が止まりません。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 鶴信雄 ,   鈴木和雄 ,   伊原博行

ページ範囲:P.166 - P.167

近年,偶発腫瘍として発見される腎細胞癌の割合が増えてきており,その多くは径4cm以下の小腫瘍であり,腎温存手術の適応が考慮される1)。従来から行われている開放手術のほか,最近では腹腔鏡下腎部分切除術を行う施設も増えてきている。腎部分切除のポイントは,根治性を損なわず,腎障害を最小にし,出血をコントロールしながら,再出血や尿瘻などの術後合併症を回避することである。術前診断では腫瘍が腎外に突出し,腎盂との距離が十分にあり,腫瘍径が3~4cm以下の腎腫瘍であることがよい適応になる。切除範囲の決定には術中エコー診断が有用である。また,マイクロ波凝固装置の利用による無阻血腎部分切除2)や腎盂内冷却水灌流による腎阻血時の腎冷却など3),腎障害を最小にするために各施設により種々の工夫が行われている。

 部分切除後に腎杯が開放している場合は,必ず針糸で縫合しなければならない。腎杯の開放を見落として縫合しなかったり,縫合が十分でなかったりした場合は,術後に尿瘻をきたす。設問の症例では部分切除の方法については述べられていないが,上記いずれかの原因によって尿瘻が生じた結果,ドレーンから尿が持続的に出ているものと思われる。

54.腹腔鏡下左腎摘除術を施行中の患者です。下行結腸からS状結腸を剝離・脱転したと思うのですが,なかなか腎茎を同定できません。腎茎らしい血管があれば処理してしまってよいのでしょうか。また,何が考えられるでしょうか。

著者: 鶴信雄 ,   鈴木和雄 ,   伊原博行

ページ範囲:P.168 - P.168

経腹到達法による腹腔鏡下左腎摘除術の場合,下行結腸外側のToldtの白線に沿って腹膜を切開する1)。注意深く癒合筋膜と腎筋膜の間の剝離面を同定したあとは,その剝離面に沿って前腸骨棘の高さから頭側は脾臓外縁まで十分に腹膜を切開しておく必要がある。癒合筋膜(もしくは腹膜)と腎筋膜の間は,鈍的剝離できれいに分かれるため,そのまま腎内側に向かうと,薄い腎筋膜越しに腎静脈(もしくは流入する性腺静脈)が透見できるはずである。腎動脈はその裏側にある。

【腹腔鏡下腎摘除術(後腹膜到達法)】

55.後腹膜到達法による腹腔鏡下腎摘除術を施行中の患者です。腎動脈はクリッピングのあと切断しましたが,腎静脈は術前の予想に反して分枝が複雑でGIAが掛けられません。分枝はそれぞれ比較的太いものです。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 寺地敏郎

ページ範囲:P.169 - P.171

腎静脈の分枝が複雑ということなので,まず左腎摘除術と考えられる。左腎静脈に流入する静脈の主なものには腰静脈,性腺静脈,副腎中心静脈があり,ときに中心静脈よりも末梢側に流入する後副腎静脈が少し太くなっていることもある。腎静脈の分枝が複雑というのは,腎静脈が比較的中枢側で分かれた末梢側に先に述べた静脈のいずれか,あるいはすべてが流入している形を表していると思われる。また,性腺静脈そのものが複数存在する場合も,その腎静脈への流入の部位や形態が,腎静脈分枝の様子を複雑に見せることもある。さらに,末梢側で分かれている腎静脈の股の間を腎動脈が通過して腹側に回っている場合は,腎動脈のクリッピングそのものが難しいこともある。

 右腎で考えられるのは下大静脈に流入する部位で複数の分枝が合流している,あるいは腎静脈そのものが複数あり,それぞれ下大静脈に流入しているという形態くらいで,ともにGIAあるいはクリップで処理可能である。静脈が複数ある場合は,腎下極に向かう2本目あるいは3本目の腎動脈も存在することが多く,むしろこれらの動脈がしばしば下大静脈の前を横切ることに注意を払う必要がある。

【後腹膜鏡下腎尿管全摘除術】

56.後腹膜鏡下腎尿管全摘除術を施行中の患者です。腎動脈を同定し,結紮・切断するまでの一連の手術方法について悩んでいます。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 宮嶋哲

ページ範囲:P.172 - P.173

後腹膜鏡下腎尿管全摘除術を施行中で腎茎の処理について悩んでいる。腎動脈をどのように同定し,結紮・切断するべきか,一連の流れについての質問であり,後腹膜アプローチでの解剖学的な知識の整理が必要と思われる。

57.後腹膜鏡下腎尿管全摘除術を施行中の患者です。すでに腎茎の処理も終了し腎周囲は剝離され,腎は遊離した状態です。尿管下部の剝離も進み,腸骨動脈より下方まで剝離が終了しました。尿管下端から膀胱へかけての処理をどうすべきか迷っています。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 宮嶋哲

ページ範囲:P.174 - P.175

後腹膜鏡下腎尿管全摘除術を施行中で腎は遊離され,尿管下部の剝離も腸骨より下方まで進んでいる。腎尿管を体腔外へ摘出するとともに,膀胱部分切除術のステップが残されている。基本的には,開創術と同様に体位変換後に,下腹部に斜切開を加えて手術を続行することになるが,尿管の剝離距離が長ければ,このステップも展開が容易になる。現在,尿管下端の処理については議論の余地があり,多施設での検討が必要な状況である。

【腹腔鏡下腎盂形成術】

58.腹腔鏡下腎盂形成術を施行中の患者です。腎盂形成法の決定に悩んでいます。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 宮嶋哲

ページ範囲:P.177 - P.180

開腹手術による腎盂形成術の臨床成績はきわめて良好ではあるが,上腹部の開創を伴うために侵襲性が大きいことが欠点である。このような欠点を改善する目的で,尿管鏡や腎盂鏡による内視鏡下腎盂切開術(endopyelotomy)が導入されたが,交差血管の有無により一定の成績が保てない欠点がある。腹腔鏡下腎盂形成術は,上記の両者の欠点を改善する新しい術式として多くの施設で導入されつつある。

 開腹手術と同様に狭窄部を切除して腎盂を再吻合するAnderson-Hynes法1,2)のほかに,狭窄部を縦切開してから尿管軸に対して水平方向に縫合するFenger法3)も行われている。このほかに,交差する腎動脈分枝血流を温存するために腎外腎盂前面に移動変位させて固定するHellstroem手術4)がある。小児症例を除き,従来の開腹による腎盂形成術の適応となる症例はすべて腹腔鏡下腎盂形成術の適応である。その適応については,現在,日本EE学会泌尿器腹腔鏡手術ガイドライン委員会でガイドラインを作成中である。

【腹腔鏡下前立腺全摘除術】

59.腹腔鏡下前立腺全摘除術を施行中の患者です。前立腺尖部の処理に当たり,恥骨前立腺靱帯からDVCにかけての処理方法について悩んでいます。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 車英俊 ,   佐々木裕 ,   三木健太 ,   頴川晋

ページ範囲:P.181 - P.183

腹腔鏡下根治的前立腺摘除術における尖部の処理のポイントは3つである。すなわち,(1)尿禁制温存の工夫,(2)DVCからの出血のコントロール,(3)確実な切除断端の確保,である。尖部の処理はいまだ改良を加えているところであるが,本稿ではわれわれが最近行っている方法について解説する。

60.腹腔鏡下前立腺全摘除術を行う際の神経温存について悩んでいます。どう対処すればよいか,そのコツを教えて下さい。

著者: 車英俊 ,   佐々木裕 ,   三木健太 ,   頴川晋

ページ範囲:P.185 - P.187

腹腔鏡下根治的前立腺摘除術は,一般に低・中リスク前立腺癌に適用され,また術後のQOL(quality of life)維持を希望する患者が多い。そのため,神経温存手術の適応となる症例も多い。本稿では,われわれが最近行っている神経温存の方法を解剖に基づいて解説する。

D.開腹手術 ■上皮小体の手術 【上皮小体摘除術】

61.上皮小体の手術を施行中の患者です。術中に反回神経を切断してしまったことが判明しました。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 小出卓生

ページ範囲:P.188 - P.189

上皮小体の手術時に留意すべき点は,(1)上皮小体の位置異常や過剰腺に伴う手術の不成功および原発性も含め過形成を単一腺腫と判断し不完全な治療結果に終わること,(2)上皮小体の近傍を走行する反回神経損傷による嗄声に代表される反回神経麻痺,の2点である。(2)の反回神経損傷は,十分な注意を払っていると稀な手術合併症であり,筆者の経験でもほとんどないが,反回神経切断時の対処法を述べる。

■副腎の手術 【副腎摘除術】

62.副腎摘除術を施行した褐色細胞腫の患者です。術後安定していた血圧が急激に下降してしまいました。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 小出卓生

ページ範囲:P.190 - P.191

褐色細胞腫の手術後に,安定していた循環動態が急激に血圧下降を示すことは通常経験しない。原因としては,(1)術前の循環血漿量の補正が不十分なものが術後少し遅れて血圧下降として現れるか,(2)心原性ショックのようなものが原因となり血圧下降を惹起するか,などであろう。ほかには,経験しないが(3)後出血なども考えておくべき事柄である。

 術前の循環血漿量の補正は最近ではα1ブロッカーの漸増投与などにより,術前に時間をかけて補正を行うことで,術中はともかく術後の安定期の血圧は守られる。この際,循環血漿量のみならず,貧血や低タンパクの是正も行われていることが重要である。

63.右副腎褐色細胞腫の手術中,短肝静脈がじゃまになり,剝離が不可能な状態になりました。短肝静脈を切断してでも剝離を進めるべきでしょうか。

著者: 小出卓生

ページ範囲:P.192 - P.193

短肝静脈の切断を余儀なくされる右副腎褐色細胞腫は,サイズの比較的大きな副腎褐色細胞腫の場合であろう。このような副腎腫瘍に対して,経腹的アプローチで腫瘍摘除術を進めた場合に遭遇する避けがたい術中操作の問題である。

■腎の手術 【根治的腎摘除術】

64.経腹的に左腎摘除術を施行しようと考えている患者です。イレウスになるケースを経験しています。それを予防するための術中の注意点について悩んでいます。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 戸澤啓一

ページ範囲:P.194 - P.196

経腹的腎摘除術の術後イレウスの合併頻度は報告により差はあるものの,おおむね1.5~2.5%程度とされている。

 イレウスは,大きく腸管の器質的な変化によって生じる機械的イレウスと,腸管を支配している血管・神経の障害により腸管の運動障害をきたして生じる機能的イレウスの二者に大別される。経腹的腎摘除術の術後に認められるイレウスの大半は,機械的イレウスの1つである単純性イレウスと,機能的イレウスの1つである麻痺性イレウスである(表1)。

65.根治的腎摘除術を施行中の患者です。腫瘍が大きく,腎門部の展開が十分でない状態で,腎への流入血管が残存しているにもかかわらず腎静脈を結紮してしまいました。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 戸澤啓一

ページ範囲:P.197 - P.199

1.手術手技の実際(血管処理)

 経腹膜的か後腹膜的かにより腎血管への到達および剝離の操作は異なる。

66.根治的腎摘除術を施行中の患者です。血管系の処理をしているときに出血が生じ,どこかの血管を損傷しました。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 土谷順彦

ページ範囲:P.200 - P.203

出血への対応方法は手術の成否を左右する基本的手技の1つである。根治的腎摘除術時において出血をうまくコントロールすることは,出血量の減少や手術時間の短縮に寄与するばかりでなく,良好な視野のもとに正確な剝離層を同定しうることにより,結果的に制癌効果を高めることになるからである。本稿では,出血時の一般的な対処方法と根治的腎摘除術時における留意点について概説する。

67.右腎癌に対し腎摘除術を施行した患者です。術後,ドレーンから1,000ml/日のリンパ液の排出が10日以上続いています。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 土谷順彦

ページ範囲:P.205 - P.208

腎細胞癌に対して根治的腎摘除術を行った場合,通常は数日以内にドレーンの抜去が可能である。しかし,腎摘除術に加えて広汎なリンパ節郭清術を行った場合など,リンパ液の漏出が遷延化することがある。経腹的に手術を行った場合は腹水がドレナージされるため,後腹膜的に行った場合と比較して排液量は多いが,その場合でもドレーンを抜去しても腹膜から吸収されるため,問題が生じることは少ない。しかし,設問ではドレーンから10日間にわたって1,000ml/日と多量の排液が認められているため,ドレーンを抜去できず対処法に苦慮している。

68.経腰的腎摘除術を施行した患者です。術直後よりドレーンから血性の排液が1時間に150ml程度流出しています。全身状態は問題なく,血圧もやや低い程度です。止血のための再手術の判断は何を目安にするのでしょうか。

著者: 土谷順彦

ページ範囲:P.209 - P.212

経腰的腎摘除術を行ったのち,通常,後腹膜腔にドレーンを留置して手術を終える。十分に止血を行っても,術直後にはドレーンから血性の排液が多少なりともみられるが,設問では150ml/時の血性排液がみられている。患者の血圧がやや低い以外は全身状態が良好であるため,保存療法を続けているが,現時点で何をすべきか,このままの出血が続いた場合,何をもって再手術による止血を判断するかが問題である。

【腎尿管全摘除術】

69.尿管腫瘍のために高度な水腎症を呈している患者です。腎尿管全摘除術を行いましたが,長期間の水腎のためか腎は周囲組織と強固に癒着しており通常の剝離は困難です。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 白木良一

ページ範囲:P.213 - P.215

水尿管を有する尿管腫瘍例に対する腎尿管全摘除術に際し,長期間の水腎のためか腎は周囲組織と強固に癒着している。通常の剝離が困難なケースは尿管腫瘍だけでなく,良性疾患でも結石の嵌頓,子宮内膜症や後腹膜線維症による長期の尿管通過障害などでも,同様に尿管の外科的剝離に難渋する場合がある(図1)。

【腎部分切除術】

70.腎部分切除術を施行した患者です。術後の画像診断により創部内に尿が貯留していることがわかりました。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 白木良一

ページ範囲:P.216 - P.218

手術以外に有効な治療法のない腎癌には,腎摘除術が最も有効かつ根治的な治療法であり,標準治療として位置づけられてきた。しかし,近年の画像診断の進歩に伴いその生物学的特性が明らかとなるにつれ,main tumorが小さい段階ではdaughter tumorを合併する多発性腎細胞癌症例の頻度は低く,また偶然発見される無症候性の小さな腎細胞癌の多くはslow growingにて予後が良好で,生物学的悪性度は低いことが知られるようになってきた。これらのことより,小さな無症候性腎癌に対しては対側が健常な症例(elective case)にも患側腎温存部分切除術が施行され,その結果は根治的腎摘除術とほぼ同等な成績であると報告されている1)

 開腹による腎部分切除術後の合併症として,尿漏(ユリノーマ)形成は1.4~17.4%2~4)に認められると諸家により報告されている。部分切除部に留置したドレーンより術後継続的な尿の漏出が認められることもあるが,本例のように数日後に画像診断で発見されるケースもあり,局所腫瘍再発の除外も含め,術後の定期的な画像診断が必要である。尿漏の形成は,開腹手術よりも低侵襲治療である腹腔鏡下腎部分切除術3),ラジオ波凝固術5,6),cryosurgery7)の術後により多く認められる傾向にある。

71.腎部分切除術を施行した患者です。術後8日目,突然,尿閉をきたすような血尿がみられました。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 白木良一

ページ範囲:P.220 - P.221

腎部分切除術の合併症として,偽性動脈瘤(pseudoaneurysms)形成による血尿がときに認められる。凝血塊による尿閉をきたすほどの出血であれば,部分切除部に形成された偽性動脈瘤から尿路への出血をまず考えるべきである。偽性動脈瘤による出血の発症時期は,術後5日目から3か月までと比較的差があると報告されている1)。発生率は開腹手術で0.43~2.0%1~3),腹腔鏡下手術で1.2~3.7%程度4~6)と報告されている。偽性動脈瘤の発生原因としては以下の2つが提唱されている。1つは部分切除で切断,傷害された血管の凝血が時間とともに溶出し,局所で血管壁が膨瘤し動脈瘤を形成し尿路へのドレナージが突発的に起こったというものであり,ほかの原因として,止血に際し実質を貫通した縫合糸が原因で一部傷害された血管壁より偽性動脈瘤を形成し出血したと考えられるものである。

 また,腹腔鏡下手術で発症率がやや高い傾向があり,切除部に露出した動脈をピンポイントで結紮処理できない点や,術中の気腹圧によりコントロールされていた血管の微小出血が術後徐々に増大した可能性などが示唆される。開腹手術による腎部分切除術にかかわる合併症を検討したPasticierら2)の報告では,合併症発症率に有意に相関する因子として,imperative case,経験症例数,腫瘍サイズが挙げられている。

【腎盂形成術】

72.腎盂形成術を施行中の患者です。拡張した腎盂周囲に動静脈が走行しているのを知らずに切離してしまい,腎の色が変色してきました。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 浅野友彦

ページ範囲:P.222 - P.224

解剖学的な検討によると,腎下極は下区動脈により支配されているが,この血管は腎盂の腹側を走行し,腎下極で前後2本に分枝する。5%では,大動脈から直接分枝した下極動脈が存在する。血管が腎盂尿管移行部(pyeloureteral junction:PUJ)付近と交差する頻度は65~71.3%と,手術中に遭遇するよりも実際にはかなり高いと報告されている1)。これらの交差血管のうち,45.2%は正常な腎動脈の分枝である下区動脈であり,この分枝はPUJの腹側を走行し,腎臓全体の7.4~38%の血流を支配している。

 また,いわゆるaberrant vesselはPUJの背側を走行し,比較的細いものが多いとされている。このような血管が一次的にPUJの通過障害の原因となっていることもあるが,尿管の部分的な平滑筋の低形成,協調不全,線維化などの内因性の通過障害により腎盂の拡張が起こり,結果としてそこに存在していた血管に覆いかぶさるような位置関係になってしまっている場合が多い。交差血管が通過障害の一次的な原因ではなくても,結果的に癒着,線維化が起こり二次的に通過障害を増悪している可能性もある。したがって,このような症例に対する手術方法としては,dismembered法により内因性の狭窄部を切除し,血管を腎盂の後方にtranspositionする方法が一般的である。

【腎移植術】

73.生体腎移植術を施行中,ドナー腎摘出術時に誤って尿管を途中で切断してしまいました。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 浅野友彦

ページ範囲:P.225 - P.227

腎移植の際の尿路再建術としては,尿管-尿管吻合ではなく,尿管-膀胱吻合が一般的に行われている。手術手技上の問題,血流障害,拒絶反応などの原因によって起こる腎移植後の尿路系の合併症の頻度は1~30%と報告されており,それほど稀なものとはいえない。このような合併症が起こったときに,対処法として移植尿管(腎盂)と自己尿管の吻合が行われることが多いが,そのような場合に備えてなるべく自己尿管を温存しておくために,初回の腎移植の際に尿路の再建法として尿管(腎盂)-尿管吻合が選択されることは少ない。

 ドナー腎摘出術の際に,誤って尿管を途中で切断してしまい,膀胱に吻合することが困難であるときには,一次的に移植尿管(腎盂)-自己尿管吻合術が行われる。吻合法としては,移植腎の尿管(腎盂)と自己尿管との端々吻合が行われることが多い。以前は,免疫抑制状態で閉塞腎を体内に残すことによる感染のリスクを回避するために,尿管を結紮した場合には固有腎の摘除が行われていた。しかしながら最近では,閉塞した自己腎を摘除しない場合でも閉塞腎に感染を起こすことは稀であり,逆に自己腎摘除術による合併症のほうが問題とされるようになり,特殊な場合を除いて自己腎摘除が行われることは少なくなってきている1,2)

■尿管の手術 【尿管尿管吻合術】

74.産婦人科の手術時に尿管を切断された患者です。手術中に連絡があり,オペ室に呼ばれました。尿管を剝離し,尿管尿管吻合しようとしましたが,尿管が届きません。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 飯塚啓二

ページ範囲:P.228 - P.230

産婦人科の手術時に起こった尿管損傷で,なおかつ尿管の一部を一緒に切除してしまった症例である。産婦人科手術において尿路の損傷は比較的多いとされているが,最近の手術技術の向上により少なくなってきた印象がある。しかし,膀胱や尿管に直接接しているため,損傷を起こすリスクは常にあるようである。そして,尿路系の損傷の大部分は,産婦人科手術に起因するといわれている。

【尿管腟瘻に対する手術】

75.尿管腟瘻の手術を施行中の患者です。腸管が癒着していて尿管を損傷してしまったようです。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 飯塚啓二

ページ範囲:P.231 - P.232

設問の症例は,尿管腟瘻の手術中に尿管を損傷してしまったとのことである。もともと尿管腟瘻は産婦人科手術のときに起こることが多く,術後しばらくして腟からの滲出液が多いことより判明したものと思われる。

■膀胱の手術 【膀胱部分切除術】

76.cT2単発性膀胱癌に対して膀胱部分切除術を行った82歳,男性の患者です。術後,病理診断にて腫瘍周囲に随伴性上皮内癌が検出されました。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 志賀淑之

ページ範囲:P.233 - P.233

膀胱癌と診断された82歳の男性患者である。年齢からして,余命の排尿QOL(quality of life)と癌の根治性,手術療法に伴う合併症リスクも考慮した術式選択が議論されるケースである。病理で随伴性上皮内癌が検出され,追加治療を今すぐ行うのか,今後の治療も含めた対処方法の質問と考えられる。

 この問題を考えるうえで,単発性浸潤性膀胱癌の治療の際は,随伴性上皮内癌がないかどうか,経尿道的切除時のランダム生検結果が非常に大事になってくる。

【根治的膀胱全摘除術】

77.根治的膀胱全摘除術を施行中の膀胱癌の患者です。腸管を戻し,腹膜を閉じようとしましたが腹膜が足りません。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 志賀淑之

ページ範囲:P.234 - P.235

膀胱頂部から後壁にかけての広範な進行癌の場合は,マージンを取るために腹膜を広く合併切除する。当然,腹膜は足らなくなる。そのまま閉腹して問題ないか心配しておられるようだ。

78.根治的膀胱全摘除術を施行中の膀胱癌の患者です。デノビア筋膜との癒着が強く,直腸前壁を損傷してしまいました。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 藤元博行

ページ範囲:P.236 - P.237

根治的膀胱全摘除術あるいは根治的前立腺全摘除術において直腸損傷は1%以下1~2)と稀ではあるが,起こりうる手術中のトラブルである。根治的膀胱全摘除術において直腸前壁を損傷するのは,特に男性においては腹膜翻転部が深く,直腸と膀胱の剝離において直視下に十分な視野が取れないことに起因していると思われる。設問の症例のように,デノビア筋膜との強い癒着がある場合や直腸と膀胱後面の剝離が不十分であり,側方の神経血管束を含むいわゆるlateral wingの処理の際に直腸筋層を鉗子で誤って挟んでしまうことなどが原因としてある。また,そもそもデノビア筋膜との間が強く癒着する原因としては,経尿道的前立腺摘除術(TURP)や放射線治療の既往3)がある場合が挙げられる。

79.画像上,T2bN0M0の診断で根治的膀胱全摘除術を施行中の患者です。予想に反して,恥骨と強固に癒着しており浸潤が疑われます。リンパ節の腫脹はありません。恥骨の合併切除を考慮すべきか,このまま閉腹するべきか悩んでいます。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 藤元博行

ページ範囲:P.238 - P.239

浸潤性膀胱癌の術前診断はunder-stageされていることが多々ある1)。これは,画像診断で深達度が把握しにくいことと,膀胱癌はときに大きな腫瘍胞巣を形成せずに周囲に浸潤することがあり,臨床では開腹後,かなりの浸潤癌であることが判明したり,周囲の脂肪織内にがん細胞が進展していることを経験することになる。また設問の症例のごとく,膀胱前壁の腫瘍では内視鏡で十分に確認しにくいこと,前壁と前立腺は角度をなしていることなどより,CTなどの画像診断では病巣が接線方向にスキャンされ,術前に十分に評価されていないことがある。周囲の癒着を認める原因としては,このようながん細胞の膀胱前腔への進展のほかに,経尿道的前立腺摘除術(TURP)時の炎症や穿孔による灌流液の漏出,あるいは前壁の経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)による変化などもありうる。

 設問の症例のような状態を認めた場合には,その原因が単なる炎症なのか,がん細胞の進展によるものなのかを判定することが肝要であり,癒着した組織の術中迅速診を行うべきである。もし癒着した組織内にがん細胞が確認される場合はT4膀胱癌となり,5年生存率は20%以下と2,3),その予後はきわめて不良であり,手術療法による根治は一般的に困難である。膀胱全摘除術を強行することも可能ではあるが,このような症例に対して切除せずに閉腹した場合に比較して,無理に手術を続行したほうが腹膜播種や骨転移などをより早期にきたす印象を持っている。膀胱全摘除術は侵襲の大きな手術であり,現在の膀胱癌に対する抗がん剤治療の効果を考慮すると3,4),不完全切除になった状況に対して術後補助療法を行うことで改善できる可能性は少ない。したがって,われわれは切除不能と判断されるT4膀胱癌に対しては特殊な条件以外では膀胱の摘出は断念し,膀胱癌の進展によるQOL(quality of life)の低下を考慮して尿路変向のみ行うようにしている。

■尿路変向術 【皮膚造瘻術】

80.皮膚造瘻術を施行中の患者です。尿管皮膚瘻をつくるために尿管を剝離しましたが,左側の尿管が届きません。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 平塚義治

ページ範囲:P.240 - P.241

一般に尿管の長さは30cm前後1)である。両側尿管皮膚瘻術を施行する場合,シングルストーマにするため対側尿管を後腹膜トンネルを通し,左右どちらかに持ってくる必要があるが(一般には,将来,人工肛門を造る可能性を考えて左尿管を右側に持ってくることが多い),癌の浸潤,以前の手術による癒着などで下部尿管剝離が困難な場合や肥満で,対側尿管がストーマに届く十分な長さの尿管を確保できないことがある。

81.片腎に尿管皮膚瘻を置いた患者です。一時的にチューブレスに成功しましたが,外来通院中に,徐々に腎盂の拡張が認められました。血清クレアチニンは変化ありませんが,どの時点でカテーテルを留置したらよいか悩んでいます。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 平塚義治

ページ範囲:P.242 - P.243

尿管皮膚瘻術のチューブレス化に成功しても,経過観察していると水腎症が出現することがある。われわれの6か月以上経過観察できた74例の検討(平均観察期間45.3か月,範囲6~239か月,中央値33か月)では,チェーブレス成功後7例にストーマ狭窄・閉塞が起こり,狭窄発生の時期は術後22日から15か月以内であった。治療法は1例を除きストーマのメスによる切開で改善した1)。したがって,基本的には一度チューブレスに成功すれば水腎症が起こっても治療が可能で,カテーテルを入れないでよいと考えてよい。

【回腸導管造設術】

82.外科にてS状結腸癌の手術中,膀胱への直接浸潤があるため骨盤内全摘となった患者です。回腸導管造設のため,尿管回腸吻合を行おうとしたところ,両側ともに重複腎盂尿管でした。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 高橋敦 ,   清水崇 ,   市原浩司 ,   高木良雄

ページ範囲:P.245 - P.249

回腸導管における尿管回腸の吻合法として,多くの吻合法が報告されている1)。分類としては,端側吻合か側側吻合か,あるいは逆流防止機構を有するかどうか(refluxingかnonrefluxingか)が挙げられるが,よく用いられている方法は次の二つと思われる。すなわち,左右尿管を1本ずつ端側吻合する古典的なBricker吻合1,2)と,左右尿管を1本に縫合し導管口側に側側吻合するWallace吻合1,3)である。いずれも,逆流防止機構を有しない吻合である。

83.回腸導管造設術を行った患者です。術後に尿管新吻合部の狭窄が起こってしまいました。どのように対処すればよいでしょうか。また,尿管導管吻合部の狭窄をきたしにくい縫合法の工夫にはどんなものがありますか。

著者: 高橋敦 ,   清水崇 ,   市原浩司 ,   高木良雄

ページ範囲:P.250 - P.253

尿管回腸吻合の合併症として,持続する尿漏(urine leakage),吻合部狭窄,それに伴う腎盂腎炎などが挙げられる1)。このなかで,比較的頻度が高く,臨床上問題になるのが吻合部狭窄である。吻合部狭窄の頻度は3~10%程度と報告されている1~3)。吻合部狭窄の原因としては,そのほとんどが尿管末端の血流障害による虚血性変化によるものとされている。頻度は低いものの,癌再発あるいは結石が吻合部狭窄の原因になることがある。ほとんどは術後2年以内に発生するとされ,定期検査で認められるまで無症状のことが多い3)

84.回腸導管造設術を行った患者です。手術を終えた当日の夕方,尿管ステントを自己抜去してしまいました。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 山田泰之

ページ範囲:P.254 - P.255

回腸導管造設術では,回腸導管と尿管を6~8針吻合する。そして,尿管ステントカテーテルなどを留置することが多い。しかし,患者の術後せん妄により自己抜去することがごく稀にある。特に術直後に抜けてしまったときは緊急に対処が必要になることがある。ただし,抜けたとしても吻合部からの漏れがなければ吻合部狭窄の心配はあるものの,緊急処置を要さない場合も多い。最近は術後の尿管カテーテルを留置しないことも多い。

85.回腸導管造設術後,尿管導管吻合不全で再吻合術を施行した患者です。その後,再度吻合不全を起こしました。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 山田泰之

ページ範囲:P.256 - P.257

回腸導管造設術では尿管カテーテルを留置することが多い。ただし,位置が不適切であったり,途中で折れ曲がっていたり,固定の糸でカテーテル内腔が閉塞するくらい締められすぎたなどの理由でカテーテルが効いてないと,尿管導管吻合部の漏れが起こることがある。もちろん,吻合手技の問題や尿管断端の血流障害があっても漏れの原因になる。そして,これらによって尿管導管吻合部の吻合不全を起こす場合がある。

 吻合不全を起こした場合,尿量を減らすとか,カテーテルの位置調整でその部分をドライに保てるような処置ができれば保存的に治癒を期待してもよいが,それが無理であれば再手術するしかない。ただし,その際には癒着や尿管組織の脆弱化,さらに尿管の可動性も悪くなっていれば容易ではない。そして,尿管断端の血流が悪い場合は再手術しても再び吻合不全を起こしやすい。こうなった場合,もう同様の手術は考えるべきでなく,ほかの手段を考えなければならない。

【尿管S状結腸吻合術】

86.尿管S状結腸吻合術を施行した患者です。術後,高クロール性アシドーシスを起こしてしまいました。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 岡田弘 ,   武藤智 ,   堀江重郎

ページ範囲:P.258 - P.259

膀胱全摘出術後に,尿禁制が保たれた尿路再建(変向)法として,禁制メカニズムのある尿道括約筋ないしは肛門括約筋を利用する方法がさまざまに工夫されてきた。前者に属するものが,腸管を利用しパウチを形成し,これに尿管を吻合する自然排尿型新膀胱造設術であり,後者に属するものが尿管S状結腸吻合術である。最初の報告は1852年にSimonが膀胱外反症の患者に尿管と直腸間に瘻孔形成したものであり,この後,膀胱が利用できない患者での尿路再建(変向)法として多くの報告がなされている1)

 新膀胱では尿と便が混ざり合うことはないが,尿管S状結腸吻合では尿と便が混ざり合った状態が常に生じていることになる。この特殊な状態から,以下のようなリスクが報告されている。

【自己導尿型代用膀胱造設術(CUR)】

87.自排尿型膀胱を作製した患者です。周囲のドレーンから尿が出てきて,縫合不全が考えられます。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 岡田弘 ,   武藤智 ,   堀江重郎

ページ範囲:P.260 - P.261

膀胱全摘除術を受けた患者の術後QOL(quality of life)の向上を目指して,本邦でも1980年代後半から本来の尿道を通して排尿可能になる自排尿型新膀胱造設が行われている。この自排尿型新膀胱(neobladder)に用いられる腸管の種類には,回腸(ileal neobladder),回腸と上行結腸(ileocolonic neobladder),右半結腸(colonic neobladder),S状結腸(sigmoid neobladder)があり,それぞれに排尿効率,尿禁制率,新膀胱尿管逆流率などに特徴がある。それぞれの術式で共通しているのは,脱管腔化した腸管で尿を溜めるパウチ(新膀胱)を作製し,これに尿管を吻合し,さらにパウチと尿道断端を吻合する点である1~4)。いずれも以下の3か所が潜在的に,術後縫合不全から尿路外への尿の漏出をきたす可能性がある。すなわち,(1)パウチ(新膀胱)の縫合部,(2)尿管新膀胱吻合部,(3)尿道新膀胱吻合部,である。

 本稿では,現在最も多く作製されている回腸利用自排尿型新膀胱であるStuder法による新膀胱2)を例に取り,縫合不全による尿路外への尿の漏出に対する処置を概説する。

88.小腸にて新膀胱を形成した患者です。尿道と吻合しようとしましたが緊張が強く接着できません。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 上領頼啓 ,   占部裕巳

ページ範囲:P.262 - P.270

膀胱全摘後の尿路変向術には種々の方法があるが,近年,自然排尿型尿路変向術がほかの術式に比べて術後のQOL(quality of life)が高いことから各施設で盛んに行われるようになった。自然排尿型尿路変向術は腸管を用いて低圧で高容量のパウチを作製し,尿道の切断端に吻合する方法で,用いる腸管あるいはパウチの作製方法により多くの術式が報告されている。それぞれに長所と短所があり,唯一絶対なものはなく,慣れた方法を用いるのがよい。

 回腸でパウチを作製する利点は,(1)大腸より手術侵襲が小さい,(2)回腸導管による尿路変向術に慣れている,(3)回腸は血流が豊富で縫合不全が少ない,(4)大腸壁に比べて回腸壁は薄いため内圧が低く尿失禁が少ない,(5)尿道と吻合する部位が自由に選べる,などである(表1)。回腸を用いた術式は簡単とはいっても,本手術を成功に導くためには高度の技術が要求される。手技の巧拙で術後のQOLは大いに異る。合併症がなく良好に経過した症例とそうでない症例とではその落差が大きい。本手術に伴う合併症については軽重の差はあれ,多くのものが報告されているが,そのなかでもパウチ・尿道吻合部狭窄は重要な合併症の1つである。藤澤1)の報告では5.5%,当科の症例では1.8%であった。狭窄の原因として吻合部の血流障害やパウチ・尿道縫合不全がある。縫合不全により尿漏を生じ,やがて自然治癒となっても吻合部の狭窄や変形を生じて排尿困難を引き起こし,術後のQOLに影響を与えることになる。作製したパウチが骨盤底に十分に下降せず尿道との吻合部に強い緊張が掛かることがパウチ・尿道縫合不全の大きな原因である。

【下部尿路再建術】

89.下部尿路再建術(代用膀胱手術)を行った患者です。術後,排尿障害が起きました。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 上領頼啓 ,   占部裕巳

ページ範囲:P.271 - P.275

下部尿路再建の方法として代用膀胱は,腹部に尿排出のためのストーマがなく,自然排尿が可能であるため術後のQOL(quality of life)が優れていることから,多くの施設で行われている。本手術のQOLの評価に大きく影響するのは術後の排尿状態の良否である。排尿障害が持続すれば逆に大きくQOLを損ない,患者は本手術を受けたことに対して果てしない後悔と大きな不満とを抱き,医師との信頼関係も失われてくる。つまり,排尿障害の軽重がその後の患者の生活環境を大きく左右し,排尿障害がなく良好に経過する症例と排尿障害の合併症に悩む症例との生活上の落差は大きい。

 代用膀胱造設後に生じる排尿障害は尿失禁と排尿困難であるが,術後これら排尿障害の合併症を避けるためには,(1)排尿障害の生じない理想的な代用膀胱を作製すること,(2)術前に患者およびその家族に代用膀胱による排尿の特徴について十分に説明しておくこと,(3)手術の適応を誤らないこと,(4)本手術に習熟しておくこと,などである1)

■尿失禁の手術 【尿失禁の手術】

90.TVT手術を行った患者です。手術翌日,CTにて骨盤内に大きな血腫を認めました。ヘモグロビン濃度が3低下しましたが,現在は新たな出血はないようです。ただし,膀胱が偏位してしまい,排尿障害が出現してきました。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 加藤久美子 ,   鈴木弘一 ,   村瀬達良 ,   鈴木省治

ページ範囲:P.276 - P.278

TVT(tension-free vaginal tape)手術は,インテグラル理論に基づいて,前腟壁の小切開から恥骨上縁の左右の小切開に向けて,恥骨後式(retropubic)ルートでニードル付きのポリプロピレンメッシュのテープを通し,中部尿道をU字型に支持する術式である1,2)。日帰り手術も行われるほどの低侵襲性,安定した長期成績の両者を備え,現在日本で行われる腹圧性尿失禁の手術の大半は,TVT手術かその変法のTOT(transobturator tape:経閉鎖孔式テープ)手術3~5)となっている。

 TVT手術の施行数は世界で70万例を超え,重篤な合併症は少ないが,血管損傷1例,腸管損傷6例の死亡例が報告されている(Johnson & Johnson)。恥骨後式にニードルをレチウス腔に通す盲目的(blind)操作が最大の難所といえよう。TVT手術による骨盤内血腫の頻度はフィンランド全国調査では1.9%6)で,本邦では3例の症例報告があるが7~9),未報告のもの,無症候の軽症例を含めればもっとあると思われる。大半は保存的に対処できるが,開腹,塞栓術を必要とした症例も一部報告されている6,8,9)

91.TVT手術を行った患者です。腹圧性尿失禁は改善しましたが,強い排尿困難と切迫性尿失禁が出現してきました。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 加藤久美子 ,   鈴木弘一 ,   村瀬達良 ,   鈴木省治

ページ範囲:P.281 - P.283

TVT(tension-free vaginal tape)手術の原報告では,術中の咳ストレステストでテープ位置を調節することが,中部尿道の支持をtension-freeで実現する基本アイディアになっている1)。しかしながら,フィンランド全国調査2)では,完全尿閉が1,455名中34名(2.3%),軽度の排尿困難は111名(7.6%)に起きている。テープによる閉塞は,術後新たに尿意切迫感,切迫性尿失禁が生じたり(de novo urgency),術前あった切迫症状が悪化する要因にもなる。Klutkeら3)は600名中17名(2.8%)で,術後1週以上続く尿閉や閉塞症状のためテープ切断を行い,Rardinら4)は1,175名中23名(1.9%)で,保存的療法に反応せず持続する尿閉,排尿困難,高度の尿意切迫感,切迫性尿失禁のためにテープ切断を行っている。

 本稿では,テープが閉塞的になったときの対応と防止策について述べる。

■前立腺の手術 【前立腺被膜下摘除術】

92.恥骨後式で前立腺被膜下摘除術を行った患者です。核出後の膀胱頸部側は取りっぱなしのままで,出血が続いています。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 亭島淳 ,   松原昭郎

ページ範囲:P.285 - P.287

前立腺肥大症に対する基本術式としては経尿道的前立腺切除術(transurethral prostatectomy:以下,TURP)が標準術式として普及しており,前立腺肥大症による閉塞症状を有し,手術適応となる前立腺肥大症症例の大半はTURPが施行されている。現在では前立腺肥大症に対する手術療法全体のうち,前立腺被膜下摘除術の頻度は約6%程度と低い1)。しかし,前立腺肥大症による腺腫のサイズが大きい症例ではTURPでは時間がかかるうえに,出血のコントロールが困難な場合もあるため,比較すると必ずしも低侵襲とはいえず,前立腺被膜下摘除術の適応となっている。また,経尿道的に摘出困難な膀胱結石や膀胱内異物の処理が必要な場合にも前立腺被膜下摘除術が選択される。

 前立腺被膜下摘除術には,前立腺被膜前面を切開して腺腫を摘出する恥骨後式前立腺被膜下摘除術,膀胱壁を切開して膀胱内から膀胱三角部に環状切開を加えて腺腫を核出する恥骨上式前立腺被膜下摘除術,会陰部から前立腺後面に到達し被膜を切開して腺腫を核出する会陰式前立腺被膜下摘除術がある。恥骨後式前立腺被膜下摘除術では,下腹部を切開してレチウス腔に到達,前立腺前面を展開し,浅中心静脈を処理し脂肪組織を除去して前立腺被膜を露出する。被膜に約5針ずつ2列の止血結紮を行ったのち,その間に横切開を加え,外科的被膜と腺腫との間を剝離して腺腫を核出する。会陰式のアプローチは直腸損傷の危険性があるため,現在,前立腺肥大症に適用されることは少ない2)

93.前立腺肥大症に対し前立腺被膜下摘除術を行った患者です。腺腫と外科的被膜との間の癒着が激しく腺腫の摘出に難渋しました。摘出後,前立腺窩をみると外科的被膜は腹側(サントリーニ静脈叢部)に穴が開いており,大量に出血していました。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 亭島淳 ,   松原昭郎

ページ範囲:P.288 - P.290

現在では明らかな膀胱刺激症状や下部尿路閉塞症状をきたし,他覚的にも排尿障害を認める前立腺肥大症症例に対して外科的治療を行う場合,その多くにおいて経尿道的前立腺全摘除術(transurethral prostatectomy:以下,TURP)が第一選択となる1)。しかし,経尿道的な切除に長時間を要する可能性が高い大きな腺腫や,膀胱結石などを伴う症例では前立腺被膜下摘除術が選択される。

 前立腺被膜下摘除術では,恥骨上式到達法もしくは恥骨後式到達法がよく用いられる2)。恥骨上式到達法は膀胱結石や膀胱憩室などを有する症例や,膀胱内へ突出する著明な中葉肥大を有する症例に適しているが,腺腫核出後の前立腺床を観察しづらい,膀胱壁を切開するため術後の膀胱刺激症状が強いなどの短所がある。恥骨後式到達法では,前立腺床が直視しやすいため止血操作が容易に行える,術後の膀胱刺激症状が比較的軽度であるなどの利点がある一方,膀胱内病変の処理を要する場合にはやや不向きである2)。いずれの術式においても腺腫を外科的被膜から鈍的に剝離し,尖部で尿道から切断して腺腫を摘除する。

【前立腺全摘除術】

94.前立腺全摘除術を施行中の患者です。恥骨の内面が突出していて前立腺尖部の視野が不良です。手術操作にもじゃまになります。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 斎藤誠一

ページ範囲:P.291 - P.294

前立腺尖部の処理は,前立腺全摘除術の最も重要なポイントであり1,2),恥骨結合の突出により同部が視認しにくいことや,尖部の操作性に影響が及ぶ可能性を極力排除する必要がある。しかしながら,恥骨結合の突出は術前の画像では容易に評価できず,しばしば術中に判明する3)。以前は,前立腺尖部の処理のため恥骨切除が行われたことがあるが,現在では恥骨切除が必要とされることはなく,代わりに電気メスで恥骨結合の突出を切除する,あるいは蒸散させる方法が取られるようになっている3,4)。当施設でも電気メスで切除する方法を選択しているが,そのほかに尖部をより見やすくする工夫や考え方について述べる。

95.前立腺全摘除術を施行中の患者です。精囊が癒着していてなかなか剝離できません。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 斎藤誠一

ページ範囲:P.296 - P.299

精囊が癒着しているのは,癌の浸潤がかなり広範囲に生じているか,血管によって固定されて剝離が難しい状況と考えられるが,前者は術前の臨床診断で見分けることができると考えられるので,後者のことを指していると考えられる。精囊の血管は,切離したあとはポケット状のなかに引き込まれる。細いながら傷つければかなりの出血をきたし,これに対して止血のためにポケット内で電気凝固を頻用すれば,神経血管束や骨盤神経叢の損傷にもつながるため,確実にクリップで止血しつつ精囊を剝離する操作が求められる。

 処理法の要点は,精囊の血管を直視できるようにすることであり,前立腺と膀胱頸部との離断前に精囊周囲を剝離し血管を処理する方法,それらの離断後に精囊を処理する2通りの方法がある1,2)。これらの方法は,術者の慣れや状況(前立腺を起こしにくいときは後者を選択するなど)に応じて使い分ければよいと考えられる。

96.前立腺全摘除術を施行した患者です。術後,カテーテルを抜去しようとして造影しながら固定水を抜きましたが,抜去できません。膀胱内でカテーテルは前後に移動するので,カテーテルに縫合糸が掛かっていることはないようです。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 高橋義人 ,   多田晃司

ページ範囲:P.300 - P.301

根治的前立腺全摘除術後,経過良好でいよいよカテーテルを抜こうというときに抜けなくなってしまった。前立腺癌の手術療法としての処置の最終段階で,予想外の事象が発生した。担当医としては,「良好な経過で,これさえ終えればあとは退院」と考えていただけに,その状況に遭遇したときはかなり動揺するであろう。筆者も一度だけ同様の状況に遭遇し,全身が“ヒヤーッ”としたことをよく覚えている。そして,声に出さないように,患者に不安を与えないように,その日はカテーテルを抜去せずに,「さて,どうしたものか」と思い悩んだことがあった。

97.恥骨後式前立腺摘除術後10日目の患者です。尿道カテーテルを抜去しようとしましたが,抵抗があり抜けません。膀胱尿道吻合糸がカテーテルに絡まっていることが考えられます。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 高橋義人 ,   谷口光宏

ページ範囲:P.302 - P.304

前立腺全摘除術後の術後早期の管理は,カテーテル抜去で終る。排尿状態の経過観察,癌としての経過観察は長期にわたるが,入院治療としての区切りである。カテーテルが抜けないとその先に進めない。患者からすれば,前立腺全摘除術という手術自体の評価を下げる状況である。

98.前立腺全摘除術後,ドレーンから尿が1日500ml以上出ている患者です。術後7日経っても減少しません。どうも膀胱尿道吻合部の縫合不全を起こしたようです。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 高橋義人 ,   中根慶太

ページ範囲:P.305 - P.307

この事象は,前立腺全摘除術の中尿道膀胱吻合操作に起因している。このような事象を回避,予防するための方策は,より完成度の高い前立腺全摘除術を構築することである。

■陰茎の手術 【包茎手術】

99.包茎手術を施行中の患者です。包皮を切りすぎてしまったようで,縫合をはじめると,勃起していない状態でぎりぎりの距離でした。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 高橋知宏

ページ範囲:P.308 - P.310

包茎手術はパイプカット(精管結紮術)と並んで,研修の初めに習得すべき泌尿器科医の基本手術である。しかし,研修医になって以降,TURや開腹手術などの大きな手術に目標が移り,包茎手術の研鑽は研修医レベルで止まってしまうのも事実である。たかが包茎手術,されど包茎手術である。どんな手術でも,1つ1つの症例を大切にしていれば,包茎手術の際に包皮を切り過ぎることはあり得ない。

 包皮の切り過ぎは,次の場合に起こり得る。すなわち,(1)術前に包皮切開予定線をデザインせずに勘を頼りに切除する場合,(2)背面切開が最適な包茎に対して環状切除手術に固執する場合,である。

100.環状切開を施行した包茎の患者です。術後に狭窄をきたしました。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 高橋知宏

ページ範囲:P.311 - P.314

包茎手術後の瘢痕狭窄の原因として,次のことが考えられる。すなわち,(1)包皮内板と外板の周囲長の差を無視して縫合したため,(2)術後,縫合部が哆開し瘢痕化したため,(3)術中,創内をイソジン液などで不必要な消毒をし,組織にダメージを与えたため,である。

【陰茎全摘除術】

101.陰茎全摘除術を施行中の患者です。術中,出血のコントロールが困難になり,オリエンテーションがつきにくくなりました。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 中川昌之

ページ範囲:P.315 - P.317

病理組織結果から陰茎癌が確定し手術適応と判断されると,陰茎部分切除術あるいは陰茎全摘除術を行い,必要に応じて鼠径リンパ節郭清術を行うこととなる。前者では陰茎根部を駆血することで術中の出血量は減らせるが,後者では駆血帯が使用できないため術中に陰茎海綿体の剝離が不十分のまま陰茎海綿体脚部付近を切断すると出血部が引き込まれてわかりにくくなり,止血操作が困難となる。設問の状況はこのような場合と考えられる。

■尿道の手術 【尿道外傷に対する尿道形成術】

102.高所で作業中に足を滑らせて会陰部を強打した患者です。尿道より出血は続くものの,尿が出ず受診しました。尿道カテーテルは入らず尿道完全断裂と判断し,応急処置として局所麻酔下に膀胱瘻を造設しました。今後の治療方針について悩んでいます。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 山本泰久

ページ範囲:P.318 - P.319

尿道損傷は,大きく球部-膜様部にかけての前部尿道損傷と,膜様部-前立腺部にかけての後部尿道損傷に分類される。設問の症例のように会陰部を強打した場合は,最も厄介である後部尿道の完全断裂が生ずることがある。後部尿道損傷は狭窄,尿失禁,性機能障害などの合併症に苦慮することが多い。また,適切な治療を行わないと手術を繰り返したりするなど泥沼にはまり,患者のQOL(quality of life)を大きく損なうことになる。

 まず正確な診断が必要である。自信がなければ膀胱瘻を留置したのち,経験豊富な泌尿器科医に紹介するべきである。

■陰囊内臓器の手術 【高位精巣摘除術】

103.高位精巣摘除術を施行中の患者です。精索を切断したあとに結紮糸が緩んでしまい出血を認めます。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 山本泰久

ページ範囲:P.320 - P.322

高位精巣摘除術は精巣の悪性腫瘍に対して行われるため,その腫瘍細胞の播種を防ぐ目的で精索をペアンなどで二重に把持しているはずである。したがって,結紮糸が緩み出血する可能性は,(1)安易に操作をしてしまい,十分に力を加えて糸を結べなかったか,(2)精索全体に糸が掛かっていなかったか,のどちらかである。

 高位で精索を切断するために,切断すると精索は“スッ”と内鼠径輪のなかに吸い込まれることがある。このように後腹膜腔に入ってしまった精索断端を引き出すのは困難であることが多い。したがって,注意深く手術を進めることがきわめて重要である。

【精巣上体摘除術】

104.精巣上体摘除術を施行中の患者です。局所麻酔で手術を行いましたが,術中に高度の疼痛を訴えはじめました。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 山本泰久

ページ範囲:P.323 - P.324

精巣上体摘除術は現在あまり行われることはないが,必須の手術手技である。この手術に限らず,陰囊内容を局所麻酔下で手術する際に問題となるのが疼痛である。皮膚切開,剝離のときは問題ないが,精巣を把持,脱転すると突然痛みを訴えることがある。この痛みは精索,下腹部から腰部にかけて放散する独特の痛みで,しばしば吐き気を伴う。一度生ずるとコントロール困難となることもあるため注意が必要である。

E.小児の手術 【腹腔鏡下手術】

105.腹腔鏡下手術を施行中の小児患者です。術中,高炭酸ガス血症がみられました。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 山口孝則

ページ範囲:P.325 - P.327

小児泌尿器科領域において「腹腔鏡」は比較的古くに導入され,非触知精巣の局在診断を中心に広まってきた1)。その後,診断的手法のみならず,腹腔内精巣摘出術2),腹腔内一期的精巣固定術3),さらに停留精巣に限らず腎摘出術4)や腎盂形成術5)にまで手術的技法が応用されるに至っている。

 小児に対する腹腔鏡下の手術手技では,成人に比較していくつかの注意点が必要であり,その対応とともに表1に列挙した。そのなかでも最も重要なのが,小児では予備能の低い呼吸循環器系への影響であり,ここでは術中の高炭酸ガス血症に対する対処法を中心に論述する。

【精巣固定術】

106.停留精巣の手術を施行中の患者です。下ろしづらい精巣です。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 佐藤裕之 ,   浅沼宏 ,   實重学 ,   宍戸清一郎

ページ範囲:P.328 - P.332

標準的な鼠径部切開法による精巣固定術を施行する際に,ときに陰囊底部へと下降させることが困難な症例を経験する。また,緊張が残った状態で無理に陰囊内に固定しても術後に再挙上や萎縮の原因となってしまう。特に,精巣血管の長さに余裕のない腹腔内精巣などでは定型的に精巣動静脈および精管を剝離したあとでは,精管動脈の血流が阻害されたり精巣動脈と精管動脈間に存在する側副血行路が失われている状態となるため,Fowler-Stephens法などの対処が困難となる。このため,術前および術中の精巣・精索を確保した段階で,各症例に応じて精巣を緊張なく陰囊内に固定するための的確な対処方法が求められることになる。

 本稿では,術前からの評価のポイント,精巣の下降が不良な症例における対処方法などについて述べる。

107.停留精巣の手術を施行中の患者です。腹膜の鞘状突起を処理している際に鞘状突起が裂けてしまいました。修復を試みましたがどんどん奥のほうへ裂けていってしまいました。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 佐藤裕之 ,   浅沼宏 ,   實重学 ,   宍戸清一郎

ページ範囲:P.334 - P.335

停留精巣の標準術式である鼠径部切開法では,腹膜鞘状突起を処理することにより,精管および精巣動静脈を腹膜の後面から剝離可能となる。この操作は,精巣を陰囊内に下降させるために必要な精管および精巣血管の長さを確保できるようになる最も重要な操作であるが,腹膜鞘状突起の処理を行う際には,鞘状突起から精管および精巣血管をていねいに剝離しながら,損傷しないように処理を行う必要がある。しかし,腹膜鞘状突起は年齢が低いほど開存していることが多く,また薄い状況が予想される。この処理をいかに損傷せずに行うかが重要であるが,損傷した際の処理も必須の技術である。本稿では,この処理方法について述べていく。

108.停留精巣の手術を施行中の患者です。精管が切れてしまいました。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 松本富美 ,   松井太 ,   相野谷慶子 ,   島田憲次

ページ範囲:P.336 - P.338

停留精巣は先天性の泌尿器科疾患のなかでも代表的なものであり,小児を専門とする施設以外でも接する機会は少なくない。精巣固定術は,本来,泌尿器科医として習得すべき基本手技の1つであるが,実際これを正しく施行できる泌尿器科医は手術を行っている医師の数ほど多くないものと予想される。精巣固定術をきちんと行うには,停留精巣の病態と解剖を熟知することが重要である。なかでも鼠径管の構造は特異的で,経験が少ないうちは手術書を読んで頭で手順を整理していても予定通り事を運ぶことは困難であり,それを体得するには正確な指導と豊富なトレーニングを必要とする。小児病院以外では症例数に恵まれないばかりか,指導する立場の医師も十分な経験を有するとはいいがたく,昨今の不幸な事故が発生する一因であると思われる。

 精巣固定術の際の臓器・組織損傷で最も頻度が高く,のちに問題となるのは精管損傷と精索血管の障害である。特に精管損傷は精路の閉塞を招き,妊孕性に直接影響を与える。ここでは術中の精管損傷について述べる。

109.停留精巣の手術を施行中の患者です。通常どおり精管,脈管系に分けて精巣を延長しましたが,陰囊内に届きません。どうすれば届くようにできるでしょうか。

著者: 松本富美 ,   松井太 ,   相野谷慶子 ,   島田憲次

ページ範囲:P.339 - P.341

触知可能な停留精巣に対する精巣固定術は,通常大きく分けて(1)精巣,精巣導帯の同定および剝離,(2)腹膜鞘状突起の剝離,ヘルニア囊の処理,(3)精巣の陰囊内への固定,の3ステップを経て行われる。外鼠径輪より遠位部に下降している精巣であれば,(2)のステップを適切に行えば精索の十分な伸展が得られ,緊張なく陰囊内に固定し得る。しかしながら,鼠径管内や鼠径管と腹腔内を行ったり来たりしているいわゆるpeeping testisなどでは,腹膜鞘状突起を精索と分け,精管と精索血管をそれぞれ可及的頭側まで剝離しても精索の伸びが不十分で,精巣が陰囊内に届かないことがある。腹膜鞘状突起の処理を行う前であれば,Fowler-Stephens法の適応も選択肢の1つであるが,腹膜鞘状突起を精索から剝がし,精管と精索血管の間の剝離をある程度進めたあとでは,側副血行路の障害が予想され,術式の変更は不可能である。

 さて,このような状況に遭遇した場合,精巣を陰囊内に届くようにするにはどのような工夫が必要であろうか。本稿では,日頃経験することが多いstandard orchiopexyにおけるtension free固定術のポイントについて述べる。

【尿道下裂形成術】

110.尿道下裂形成術を施行した患者です。術後,陰茎皮下の出血と浮腫のため陰茎全体が大きく腫れ上がってしまいました。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 山口孝則

ページ範囲:P.342 - P.344

尿道下裂形成術は小児泌尿器科領域でも最も難しい手術の1つである特異性から,一般市中病院で手術されることは少なく,専門とする小児病院や大学病院に患者が集まる傾向にある。また,その手術も二期的手術から一期的手術が主流になり,新しい吸収縫合糸の進歩やmicrosurgery的な医療技術の導入など,いわゆるhypospadiologyの進歩により手術成績はずいぶん向上してきた。その背景には,術後管理に関しても専門とする各施設で工夫がなされており,設問にあるような術後の陰茎皮下出血と浮腫による大きなトラブルはほとんどなくなったといってよい。

 筆者が二十数年前に二期的に尿道下裂形成術から施行した当初1)は,術後,簡単なガーゼで陰茎を巻くのみで対応していたが,手術翌日に陰茎皮下の広範な出血と浮腫で陰茎が腫れ上がり,患児や家族に相当の苦痛を与えた苦い経験を覚えている。それ以降,尿道下裂形成術の手術成績に術後管理がきわめて大切であることを思い知らされ,尿道下裂の手術を担う者にとっては,第一に術後の陰茎浮腫を防ぐ工夫の必要性に迫られることになった。すなわち,尿道下裂形成術後に陰茎皮下出血や浮腫で陰茎が極度に腫れ上がること自体,手術の失敗につながるものであり,このトラブルにどう対応するのかではなく,どう予防するかが問題であることを強調したい。

【尿管膀胱新吻合術】

111.膀胱尿管逆流症のため尿管膀胱新吻合術を行った患者です。術後,高度の尿管閉塞がみられます。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 山口孝則

ページ範囲:P.345 - P.347

膀胱尿管逆流症(vesicoureteral reflux:VUR)を含めた尿管膀胱移行部狭窄に対する尿管膀胱新吻合術は,泌尿器科領域において日常よく行われる手術法である。通常,尿管の拡張のほとんどない症例に対するこうした逆流防止術は確立された術式があり,ほぼ合併症もなく安全に行われる。

 一方で尿管瘤,尿管異所開口などの尿管下端部異常や巨大尿管など,術前より尿管の拡張の高度な症例に対する尿管膀胱新吻合術は,手術術式の選択や適応,さらに手術そのものに問題があると吻合部の通過障害が生じ,術前よりも水腎水尿管症の悪化をきたす。

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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