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文献詳細

雑誌文献

臨床泌尿器科61巻4号

2007年04月発行

特集 ここが聞きたい―泌尿器科処置・手術とトラブル対処法

Ⅰ.泌尿器科処置 【カテーテル留置(尿道留置)】

18.長期間,膀胱カテーテルを留置している患者です。今回,尿が紫色になっています。どのように対処すればよいでしょうか。

著者: 山口聡1 小山内裕昭1

所属機関: 1北海道社会事業協会富良野病院泌尿器科,尿路結石治療センター

ページ範囲:P.63 - P.65

文献概要

蓄尿バッグやそれにつながる接続チューブが青~青紫~紫~赤紫~赤色に着色する現象は,紫色蓄尿バッグ症候群(purple urine bag syndrome)として知られている。何らかの排尿障害により,やむなく長期間にわたって尿道留置カテーテルを装着している患者や種々の尿路変向(腎瘻,膀胱瘻,尿管皮膚瘻など)を余儀なくされている患者において,ときおり認められる状態である。最も頻繁にはリハビリテーション施設や高齢者入所施設で,最近では在宅医療現場でしばしば認められ,これらに関与する医療者の多くが経験しているものと想像される。その訴えとしては,主に看護師や介護者から,「なぜ尿が紫色になるのか?」「何か悪い病態なのか?」「治療の必要はないのか?」「気持ちが悪いので何とかしてほしい」などという種類のものが多いようである。

 紫色蓄尿バッグ症候群は,Barlowら1)によって最初に報告され,その後,本邦においても報告が散見される。Deallerら2)は,その着色物質がインジゴ青やインジゴ赤であることから,トリプトファン代謝にかかわる生合成経路に注目し,その発生機序を推論している(図1)。すなわち,必須アミノ酸の1つであるトリプトファンは,腸管内において腸内細菌によりインドールに分解される。インドールは腸管から吸収されるが,体内では有害であるため,肝臓で硫酸抱合後,無害なインジカンに代謝され,最終的には尿中に排泄される。そこに尿路感染が合併していると,尿中の細菌によりインジカンは加水分解を経てインドキシルに変換される。インドキシルは2分子が縮合し,酸化されるとインジゴ青(一般的にはこれがインジゴと呼ばれている)となる。一方,インドキシルは酸化によりイサチンに変換され,その2分子が縮合してインジゴ赤(インジルビン)になる。これらの反応には,いずれも細菌の関与が必須である。このような経路で産生されたインジゴ青やインジゴ赤は,蓄尿バッグや接続チューブ類を構成するプラスティックポリマーに付着しやすいため,紫色蓄尿バッグ症候群が生じるものと考えられている。同じ検体であっても,集尿容器がガラス製のものでは,ほとんど着色しないことも特徴である3)

参考文献

1)Barlow GB, Dickson JAS:Purple urine bags. Lancet 1:220-221, 1978
2)Dealler SF, Hawkey PM, Millar MR:Enzymatic degradation of urinary indoxyl sulfate by Providencia stuartii and Klebsiella pneumoniae causes the purple urine bag syndrome. J Clin Microbiol 26:2152-2156, 1988
3)竹山吉博,坂本和也,森田 肇:紫色蓄尿バッグ症候群の臨床像と発生機序の検討.臨泌 53:233-237,1999
4)Mantani N, Ochiai H, Imanishi N, et al:A case-control study of purple urine bag syndrome in geriatric wards. J Infection and Chemotherapy 9:53-57, 2003
5)小林史岳,石川 晃,榎本 裕,他:女性ホルモン製剤の投与がPurple Urine Bag Syndromeの一因であることを示唆した前立腺がんの2例.泌尿器外科 17:1197-1199,2004
6)柳川容子,安藤高夫,島村忠勝:紫色蓄尿バッグ症候群に関与する新しい色素の検出.感染症学誌 77:10-17,2003
7)谷口成実:ここが聞きたい泌尿器科検査ベストプラクティス.尿路機能検査法,尿流動体検査法,尿流測定.臨泌 60:141-143,2006
8)今井宣子:紫色尿バッグ症候群.検査と技術 28:156-157,2000

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1332

印刷版ISSN:0385-2393

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