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雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科61巻8号

2007年07月発行

雑誌目次

特集 過活動膀胱のすべて

下部尿路機能の基礎

著者: 柿崎秀宏 ,   沼田篤 ,   倉達彦 ,   加藤祐司 ,   川上憲裕

ページ範囲:P.571 - P.577

要旨 過活動膀胱の病態を適切に把握するためには,下部尿路機能の基礎を十分に理解することが必須である。正常な蓄尿と排尿機能を維持するためには,膀胱・尿道の筋構築とそれを支配する神経機構が正常でなければならない。また,膀胱知覚の発現において,膀胱の尿路上皮細胞と粘膜下の知覚神経は相互に影響し合い,その機能的異常が尿意切迫感などの異常な膀胱知覚の出現に関与することが推測されている。ヒトの脳が下部尿路機能をどのように調節しているかについて,PETを用いた臨床研究により情報が収集されつつある。下部尿路機能障害の治療にあたっては,下部尿路の求心性,遠心性神経伝達の適切な理解が重要である。

過活動膀胱の病因と発生メカニズム

著者: 秋野裕信 ,   横山修

ページ範囲:P.579 - P.584

要旨 過活動膀胱の病因は神経因性と非神経因性に大別され,代表的疾患としては神経因性で脳血管障害,パーキンソン病,認知症,多系統萎縮症,脊髄損傷,多発性硬化症が,非神経因性では前立腺肥大症などの下部尿路通過障害,加齢,骨盤底の脆弱化,特発性が挙げられる。これらの疾患が過活動膀胱を発生するメカニズムは多岐にわたるが,橋排尿中枢への脳内抑制性投射系の障害や促進性投射系の亢進,膀胱C線維を求心路とする排尿反射回路の再構築,膀胱平滑筋の脱神経過敏や尿路上皮からの各種メディエーターの放出などが関与すると考えられている。また,近年注目されている蓄尿期の膀胱収縮と過活動膀胱の発生との関連についても言及した。

過活動膀胱の疫学とQOL

著者: 後藤百万

ページ範囲:P.585 - P.590

要旨 過活動膀胱の疫学調査は,欧州,米国,日本などで行われ,本邦では40歳以上の男女の12.4%,実数としては810万人が過活動膀胱に罹患していると報告されている。過活動膀胱の罹患率は年齢とともに増加し,50歳以上では男性にやや多く,また過活動膀胱の罹患率が高いにもかかわらず,医療機関受診率は22.7%と低いことも示された。過活動膀胱症状はQOLを障害することが示されており,今後過活動膀胱の診療においてはQOL評価が重要になると考えられる。近年,過活動膀胱における疾患特異的QOL質問票であるOAB-qが開発され,日本語版の作成と妥当性の検証も終了し,今後積極的な使用が期待される。

過活動膀胱の診断

著者: 本間之夫

ページ範囲:P.591 - P.595

要旨 過活動膀胱の診断は,頻尿,夜間頻尿,切迫性尿失禁などの症状の確認と他疾患の除外でなされる。症状の評価には,過活動膀胱症状スコア質問票(OABSS)を用いる。この質問票は日本人の症例を用いて作成されたもので,質問票としての特性に優れ,過活動膀胱の診療ガイドラインでも推奨されている。過活動膀胱の診断基準は,「質問3の尿意切迫感スコアが2点以上,かつ,合計スコアが3点以上」であり,合計スコアが5点以下を軽症,6~11点を中等症,12点以上を重症とする。一方,過活動膀胱に類似した症状を呈する疾患は多数あるので,除外診断には慎重でなくてはならない。なお,OABSSは鑑別診断には有効ではない。

過活動膀胱の治療―1)行動療法

著者: 荒木勇雄 ,   羽根田破 ,   三神裕紀 ,   小林英樹

ページ範囲:P.597 - P.600

要旨 過活動膀胱の行動療法としては,生活指導,膀胱訓練,理学療法,排泄介助がある。行動療法は,低侵襲で副作用がなく,さらに他治療との併用が可能であることから,初期治療の第1選択として行われるべき治療の1つである。行動療法の中心は,下部尿路の解剖や機能についての教育であり,患者が膀胱や骨盤底筋の役割について理解していることが必須である。排尿日誌は,患者が排尿状態を認知するために用いられるが,下部尿路機能の評価や治療計画や治療目標の設定のために極めて有用である。本邦では,行動療法の多くが保険適用になっておらず,治療機器などが未認可であるなど特異な状況にあり,行動療法の普及は遅れている。

過活動膀胱の治療―2)Neuromodulation

著者: 山西友典 ,   水野智弥 ,   中西公司 ,   吉田謙一郎

ページ範囲:P.603 - P.609

要旨 Neuromodulationには(干渉低周波療法を含む)電気刺激療法,磁気刺激療法,体内植え込み式(仙髄神経根電気刺激法)があるが,本邦では干渉低周波療法のみが保険適用となっている。過活動膀胱に対する電気刺激療法のメカニズムは,主に仙髄領域の求心路刺激による排尿反射の抑制によると考えられている。電気刺激療法の過活動膀胱に対する有効性は治癒30~50%,改善60~70%と報告され,dummy装置を使用した2重盲検試験によりその有効性も裏付けられた。また,持ち越し効果(carry over effect)や長期持続効果も報告されている。仙髄神経根電気刺激法は,難治性の過活動膀胱に有効であるが,侵襲的であり,本邦での保険適用はない。最近,非侵襲的な刺激法として,磁気刺激療法が注目されている。

過活動膀胱の治療―3)薬物療法

著者: 吉田正貴 ,   桝永浩一 ,   村上滋孝 ,   稲留彰人

ページ範囲:P.611 - P.617

要旨 過活動膀胱の薬物治療では,抗コリン薬が第1選択薬として用いられ,有効性と安全性が十分に確立されてはいるが,使用にあたっては抗ムスカリン作用に基づく全身の副作用(口内乾燥,便秘,霧視,排尿障害や残尿増加,認知機能への影響など)への注意が必要である。最近,膀胱選択性の高い新規抗コリン薬が発売され,選択肢が増えてきている。また,新規作用機序の薬剤の開発も行われており,そのような薬剤では抗ムスカリン作用に基づく副作用を回避できる可能性がある。前立腺肥大症に伴う過活動膀胱に対しては,α1ブロッカーが第1選択薬である。α1ブロッカーと抗コリン薬の併用で,さらなる症状の改善が期待されるものの,残尿増加や尿閉などには十分注意が必要である。

過活動膀胱診療のアルゴリズム

著者: 相川健 ,   山口脩

ページ範囲:P.619 - P.623

要旨 過活動膀胱は有病率が極めて高く,わが国の患者数は約810万人にも達すると推定されている。したがって,プライマリケアの対象として,治療には一般医家と泌尿器科専門医の連携が重要と考えられる。本論文では,日本排尿機能学会から出版された診療ガイドラインの中の一般医家向けに作成された診療アルゴリズムを解説した。また残尿測定を省略し,性別や年齢を考慮した,さらに実践的と考えられる診療アルゴリズムを示し,そのポイントを解説した。

手術手技 腹腔鏡下手術時代における開放手術・7

恥骨後式前立腺全摘除術

著者: 志賀淑之 ,   小松秀樹

ページ範囲:P.625 - P.630

要旨:虎の門病院では,限局性前立腺癌患者に対して,積極的には恥骨後式前立腺全摘除術を勧めていない。理由は小線源療法が保険的に認められたこと,外照射療法も線量を増やせば根治性が高まることなどの理由からである。したがって,手術を選択する際には,十分なインフォームド・コンセントをしている。下記に当科で行っている方法を解説した。特徴としては,尿道吻合は8針縫合とし,尿道カテーテルを利用した牽引法で吻合している。

恥骨後式前立腺摘除術

著者: 山田泰之

ページ範囲:P.631 - P.636

要旨:恥骨後式前立腺全摘術を筆者は逆行性に行っている。膀胱との切離を順行性に行ったこともあるが,逆行性のほうが明らかに剝離面がわかりやすく,出血も少ないと思う。前立腺手術に限らず,手術ではどこが出血しやすい場所かを知っていればメリハリのある安全で早い手術が可能になる。このために解剖の把握と経験を積むことが重要である。本稿では筆者が考え,実践していることを述べさせていただいた。

恥骨後式背静脈群結紮先行順行性前立腺全摘除術

著者: 蜂矢隆彦 ,   逸見一之 ,   濱野公成

ページ範囲:P.637 - P.643

要旨:前立腺全摘の習得過程である術者でも,指導者のもとで安全に実践することができる容易な術式として,恥骨後式背静脈群結紮先行順行性前立腺全摘除術を紹介する。本術式では,術後尿禁制と根治性に影響する前立腺尖部処理を背静脈群と側方血管茎の血流を遮断した最終段階に行う。本術式の主な利点は,骨盤が狭い症例や前立腺周囲の癒着が強い症例においても前立腺尖部処理が容易なことである。

セミナー 新しい手術器械の応用・2

ヘモロック,ラプラタイ,ベッセルシーリングシステム

著者: 小松智徳 ,   服部良平

ページ範囲:P.645 - P.649

要約:外科的手術においては血管などの結紮,止血が必要不可欠である。開創手術では縫合糸による結紮が基本であるが,腹腔鏡手術,小切開手術ではさまざまなクリップが利用される。さらに近年では電気メスの応用から組織を変性させ組織を炭化させることなくシールさせる,ベッセルシーリングシステムが普及しはじめている。今回はクリップの使用法,応用法に加え,このベッセルシーリングシステムの原理,使用方法などについて述べた。

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編集後記 フリーアクセス

著者: 郡健二郎

ページ範囲:P.664 - P.664

 本号の特集は,社会的にも関心が高い「過活動性膀胱」を取り上げました。超高齢化社会では,単に長生きするだけでなく,心身ともに健康で生きいきと生活することが大切で,QOLを損なう排尿障害への対策は重要になります。

 厚労省の統計によりますと,65歳以上の老人(?)は日本総人口の約20%,2,000万人とのことです。そのうち90%弱もの老人は身体が健康で,自分自身で身の回りのことができる人たちです。寝たきりや痴呆の老人は,絶対数としては約200万人と多く,社会的にも幾多の問題を抱えていますが,超高齢化社会では,健康な老人にもっと質の高い生活を送ってもらい,人生の経験を生かして活躍していただける制度が必要だと思います。

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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